大湊警備府が面する、陸奥湾への深海棲艦の侵入。
その大将である欧州装甲空母棲姫の特徴を雷から聞いた事で、海風は策を考える事になる。
アトランタ達に防衛を、佐渡達に貨物船の誘導を頼み、抜錨する雷達。
だが、現場は悲惨な状況になっていた。
わざと親子の仲を引き裂いて楽しむ悪趣味な深海棲艦達を前に、雷の底冷えするような声が響き渡る。
その声のお陰でヒートアップする事を抑えられた海風達は、作戦通り敵艦達を撃沈していく。
残りは欧州装甲空母棲姫とフラッグシップ級タ級の2隻だけになったが………。
早霜達や雷達が奮戦する中、現場では必死の救助作業が続いていた。
大発動艇を5隻ずつ扱える海風と夕張を中心に、海に落ちた乗客や乗組員を竹や春風が引き上げていく。
中には、このまま死んだ子供と共に逝かせてくれと懇願する者もいた。
だが、子供が悲しむから生き残ってくれと言いつつ、半ば強引に船に乗せていく。
怪我人がいたら、夏雲の出番。
ドラム缶に積んできた医療用具を活用しつつ、丁寧に応急処置を施していく。
工作艦の資格を所得している彼女の技能が、存分に発揮される事になった。
しかし、その間も海戦は続いている。
欧州装甲空母棲姫が放っていた攻撃機は乗客達も狙っていた為、長波、朝霜、沖波の3人が必死に迎撃を行い、少しずつ数を減らす。
暴れまわるタ級は、岸波&岩波が攻め続け、雷が乗客達への流れ弾を大楯で防いでいる状態だ。
「さっさとくたばれ!!」
岩波が荒い言葉と共に急所である顔面を狙うが、タ級は首を捻る事で対処。
反撃の砲火を一斉に放つが、それと共に、何とか自分も戦域からの離脱を図ろうとする。
「なんだなんだぁ!?アレだけ人間様で遊んでおいて、ヤバくなったら、とんずらか!?気に入らねぇなっ!!」
とにかく高速戦艦である事を活かして回避を優先させようとする為、流石に岸波&岩波でも、簡単には致命傷を与えられない。
しかも、どうやらこの深海棲艦は、「再生能力」持ちであるらしく、傷が徐々にだが癒されてしまう。
再生能力というのは、艦娘の間では誰が名付けたか「ゲージ付き」と呼称される現象であり、深海棲艦ならではのスキルとも言えた。
こうなると急所を狙うか、再生能力を削りきるかしないと、相手は倒れない。
当然、狙うは前者であった。
「岸波、岩波。コイツがその力を持っているのならば、欧州装甲空母棲姫もゲージ付きよ。」
「確かに雷の言う通りね………早く、早ちゃん達の援護に行きたい所だけど………!」
「残念だったな!テメエとのお遊びは終わりだ!!」
岩波の勝利宣言に何事かと思ったタ級であったが、その頭が後ろから撃たれる。
見れば、いつの間にか後ろに回り込んでいた長波が、その後頭部を貫いていたのだ。
欧州装甲空母棲姫の攻撃機が減った事で、朝霜と沖波の2人だけに対空迎撃を任せられるようになった為、援護に回ってくれたらしい。
「少し………時間をかけたわね。」
遊覧船の周りの敵を迎撃した事で、岸波が目視できる範囲に早霜達や敵大将がいなくなっている事に気づく。
長波が雷と共に集まると、岸波達の状態を確かめる。
「おう、長波!俺様達はまだまだ元気だぜ!」
「それは分かるが、一旦交代だ。あんまり体に負荷を掛けると後が大変だからな。あたしと雷で援護に行く。朝霜や沖波と一緒に、残りの敵攻撃機を片付けたら、救助を手伝ってくれ。」
「しゃーねぇなあ………。胸糞悪い奴らにまだまだ暴れ足りねぇが、後は任せるぜ。」
粗暴だが、状況判断は出来るらしく、三十一駆補佐の長波の指示には大人しく従う岩波。
すかさず対空迎撃を始めたので、長波は雷に問う。
「雷、大楯はまだ無事か?随分弾いてたけど………。」
「大丈夫よ。こういう技術は、30年みっちり鍛えてるから。………行きましょ。」
2人は、欧州装甲空母棲姫が逃げて行った方角を追いかける事になる。
現場の救助活動は、まだまだ続いていた。
――――――――――――――――――――
一方、欧州装甲空母棲姫を追いかけていた早霜達であるが、敵は逃げながらも鋼の弓から矢を放ち、攻撃機を多数作り出していた。
そして、ある程度距離を取ると、その攻撃機達を一斉に早霜に向ける。
「コレナラ………逃レラレマイ!」
「誘いこんだつもり………!?」
艦戦、艦攻、艦爆………全ての手段を用いる敵攻撃機に対し、早霜は慣れないドラムマガジン式の主砲で乱射をしつつ迎撃を行っていく。
追従してきた赤城が、攻撃機を発艦してくれているので、ある程度はそちらを狙ってくれているのが救いだ。
だが、命中率が良くない事もあり、対処に苦労してしまう。
そこに、不知火が8門の魚雷を敵装甲空母に撃ち込んだ。
「効カナイ………!」
「再生能力持ちですか………!」
足元から火傷を負ったはずなのに、すぐさま回復をする欧州装甲空母棲姫。
現状では効果的な打開策が無いと思った不知火が叫ぶ。
「早霜、対空迎撃を任せます!時間を稼げば雷達が援護に来てくれるはず!」
「………分かった!」
勝負を焦って、自分達だけで決着をつけない方がいい。
そう考えた不知火の言葉に、早霜は素直に従う事になる。
彼女は空を見上げると、飛び交う攻撃機に狙いを定めて、主砲を乱射し始めた。
代わりに不知火が敵大将と対峙をする。
「覚悟して貰うわよ………!」
魚雷の次発装填装置をフル活用しながら、彼女は雷撃戦を中心に挑む。
そもそも遊覧船の近くでは、海に落ちた乗客達が、まばらに散っていた為、雷撃は逃げる相手にしか使えなかった。
でも、この離れた空間ならば、気にせずに存分に使用が出来る。
「落ちろ!」
動きながら8門の魚雷を次々と連続で撃っていく不知火。
だが、再生能力を備えた敵艦は、魚雷の燃え上がる業火を受けてもピクリともしない。
むしろ、空に向けて攻撃機を次々と発艦させる余裕があるほどだ。
「効カナイ。効カナイ。効カナイワ。」
「そんな、余裕のある顔をして………!」
あの兜の中の表情が分からないだけに、挑発するような声を受けて不知火は苛立つ。
アレだけの被害を出した敵姫クラスを、許して置けるわけが無い。
それなのに、悠々とあしらわれているような感覚だ。
だからこそ、次第に雷の声で抑えられていた怒りの感情が、再びくすぶり始める。
必要なのは時間稼ぎであるはずなのに、徐々に思考が攻撃的に染まっていく。
「手遅レノ艦娘ナンテ、恐レル必要モ無イワ。」
「手遅れだと………!貴様っ!!」
そこに痛い事実を突きつけられた事で、不知火が更に魚雷の業火を与えていく。
炎に包まれる相手を見て、何度もダメージを与えていけば、その内倒れるだろうと不知火は感じた事もあって、攻撃を諦めない。
だが、敵の挑発に乗った事で、周りへの注意力が散漫になった。
そこに、落とし穴があるとは知らずに。
「沈め………!沈めっ!!」
「不知火!?左っ!」
早霜の警告で、不知火は咄嗟に左に目を向け驚愕する。
海面すれすれの低空を、鋼鉄の攻撃機が高速で飛行してきたのだ。
その無機質な顔は口を開き、鋭い歯を見せていた。
あんなのに食いつかれたら、どうなるか分かった物では無い。
「くっ………!?」
咄嗟に後ろにのけぞるように回避をした事で何とか突進を躱すが、手持ちの高角砲が半分持って行かれてしまう。
更にバランスを崩した所で………彼女は見た。
欧州装甲空母棲姫が、空に向けてでは無く水平に………直接不知火に向けて、弓矢を構えた所を。
「終ワリヨ。」
放たれた矢は鋭い歯を持った攻撃機へと変わり………不知火の眼前から襲ってきた。
一瞬、全てがスローモーションに見える。
(ああ………これが………。)
走馬灯。
自分は呆気なく死ぬのだと、不知火は感じた。
その攻撃機はゆっくりと近づいてきて………しかし、突如その不知火の体が、右から左へと体当たりで弾き飛ばされる。
何が起こったのかと疑問に思った不知火の目には、必死の形相の早霜の姿。
だが………その顔が安堵に変わると、彼女の呟きが鮮明に聞こえた。
「今度は………間に合った。」
次の瞬間、早霜の右肩が敵攻撃機によって抉れて、大量の血が噴き出す。
そして………そのまま寄り添うように、2人は海面に倒れ込んだ。
「………先生?」
唖然とした不知火は、右肩を押さえて横たわる早霜を、茫然と見ていた。
うめき声を上げるその姿を見て、不知火の頭の中が一瞬真っ白になる。
「あ………ああ………。」
「不知火さん!まだ攻撃は終わって無いわ!!」
赤城の警告が聞こえる。
早霜の肩を喰らった攻撃機は、そのままUターンをして戻って来ていた。
「き………さま………。」
何かがプッツンと切れた気がした。
不知火は早霜の持っていたドラムマガジン式の主砲を掴むと、そのまま迫る攻撃機に向ける。
「貴様ァァァァァッ!!よくも!よくも、先生をーーーッ!!」
爆発する感情に任せ、不知火は早霜を抱えながら憎き攻撃機に向けて、主砲を乱射する。
初めて掴む夕雲型の主砲であり、姿勢も座りながらであったが、乱射出来た事が幸いし、攻撃機は木っ端みじんに砕けた。
だが、その間にも敵装甲空母は、更に弓矢を不知火達に向ける。
「させない!」
ここで頭を使ったのは、隙を見て接近してきた赤城だった。
あの鋼の弓が無ければ艦載機の発艦が出来ないと悟るや否や、素早く自らの矢を放つ。
だが、その矢は攻撃機に変化しない。
そのままの矢の姿で真っすぐに飛来すると、敵の弓の弦を切ってしまう。
「ナッ!?」
思わぬ方法で攻撃手段を封じられた事で、不味いと思った欧州装甲空母棲姫は逃げようとするが、そこに主砲がマシンガンのように撃ち込まれる。
しかし、撃ったのは不知火では無い。
「こちら長波!援護に入る!!」
長波と雷が、ここで追いついて来たのだ。
慌てた敵大将に、雷が敢えて左右に撃ち込んで更に動揺させる夾叉弾を炸裂させると、長波が一気に接近し、その兜を被った顔面に主砲を一気に撃ち込んでいく。
「アァッ!?」
兜が割れ、中から長髪の女の顔が出て来たが、長波はそこで終わらせなかった。
首元に砲口を突きつけると、返り血を気にする事無く、更に追い打ちをかける。
「これで、トドメを刺す!」
「ソンナ………!?ソンナ………ッ!?」
流石に攻める手段も守る手段も無く、急所に何発も砲弾を受けてしまえば、欧州装甲空母棲姫とはいえ耐えられるわけもない。
やがて、大量の血を噴き出しながら倒れ沈んでいく。
「………雷、そっちは!?」
「早霜は生きてるわ。只………。」
雷は少し困った顔をする。
早霜はぐったりとしていたが、不知火が離さないでいた。
彼女は揺すりながら、涙目で訴える。
「先生!先生っ!!しっかりしてください!先生っ!!」
「心配しなくても………大丈夫よ………。」
「説得力がありません!!………何で私を………貴女を侮辱した私なんかを………っ!?」
思わず不知火が切り込んだ事で、早霜はボーっとした顔で、夜空を見上げる。
早霜は、昔、深海棲艦の爆撃から生徒達を守れなかった。
それ故に、唯一の生き残りであった不知火に、八つ当たりに近い形で責められたのだ。
何で、みんなを守ってくれなかったのかと。
「私は………貴女の友達も………貴女のボーイフレンドも………みんな守れなかった………。だから………せめて、貴女だけは………。」
「そんな必要無いじゃないですか!?私なんか………!………うぐっ!?」
不知火が思わず声を上げる。
赤城が無理やり彼女を掴み、早霜から引き剥がしたのだ。
同時に長波が、早霜の左腕を背中に回してゆっくりと体を持ち上げる。
雷が、その意図を冷静に伝えた。
「不知火。気持ちは分かるけど、今は早霜をあんまり揺すっちゃダメ。急いで夏雲達の所まで戻って、応急処置をして貰わないと。」
「で、でも………。」
「他にもやる事は多いわ。救助の手助けをしないといけないし、早霜ばかりに構ってはいられない。後………あまり「先生」って連呼しない方がいいわよ。」
「あ………。」
雷に忠告された事で、不知火は思わず口を押さえる。
赤城や長波に、自分と早霜の関係を知られてしまったからだ。
2人はバツが悪い顔であったが、とりあえず不知火達を安心させるように言う。
「あー、気にするな。ここでの事は内密って事で、黙っておくからさ。赤城も、えっと………。」
「大丈夫よ。貴女達の関係は、口外しないから。人間時代の秘密はちゃんと守るのが、暗黙のルールだもの………ね。」
「す、すみません………。」
今更恥ずかしくなった不知火は、赤面をする。
そんな「元生徒」の姿を見ていた早霜は、荒い息を吐いていたが何処か嬉しそうであった。
こうして、彼女達は沈んだ遊覧船の元に戻る事になる。
海戦は終わり、この後にやるべき事は決まっているのだから。
――――――――――――――――――――
「大湊に寄れない事情は分かるが………こんな小さい海防艦が、護衛なのか………?」
「うふふ………大丈夫ですよ、私は艦の記憶で旗艦経験もありますから。」
その頃、貨物船と合流していた佐渡達は、平戸に交渉役を任せて船長と会話をしていた。
当初は疑いを持っていた乗組員達であったが、佐渡達が代替えでやって来たという事実と、サインが書かれた指示書を持っていた事で、最終的には納得してしまう。
深海棲艦の侵攻で大湊に近づけないと言われた事も、少なからず影響していた。
「よーし!それじゃ、幌筵に向けて出発しようぜ!」
『おーっ!!』
決まったのならば、すぐにでも出発するべきだと、佐渡が音頭を取り、皆で外海へと進み始める。
そんな中、1人浮かれない人物がいた。
「……………本当にゴメンなさい、雷。」
隊列のしんがりを勤める事になった八丈は、後ろ髪を引かれるように大湊の方を振り返ると、こっそりと頭を下げ謝罪した。
欧州装甲空母棲姫のイラストでは、鋼の航空機が飛翔しており、如何にも硬そうに感じました。
それ故に、今回の攻撃機の特性を考えましたね。
とにかく硬く壊れにくく、そのギザギザの歯は相手を喰らうだけの威力があるのだと。
今回初登場の再生能力の件もあり、結果的に特殊な海戦になりました。
ちなみに赤城の弓の弦を切る戦法は、アニメ1期で彼女が結果的にやられた手段に。
意匠返しとしては、面白いかなと。
さて、海防艦娘達が暴走を始めますが………。