大楯の雷   作:擬態人形P

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第24話 ~風雲急を告げる~

海戦の傍ら、懸命の救助活動を続ける海風達。

そんな彼女達の邪魔をさせない為に岸波&岩波、長波、雷は上手く立ち回り海戦を繰り広げるが、思った以上に撃沈に時間をかけてしまう。

 

欧州装甲空母棲姫を追った赤城、早霜、不知火はそれぞれの特徴を活かしながら応戦。

しかし、悪辣な被害を出した敵装甲空母の挑発に乗ってしまった不知火が、危機を迎えてしまう。

走馬灯が走った瞬間、彼女を体当たりで突き飛ばした早霜が代わりに重傷を負ってしまう事に。

人間時代の「先生」を傷つけられた事で、不知火は激高し無我夢中になる。

赤城が頭を使った事もあって、欧州装甲空母棲姫の攻撃手段を封じた所に、長波と雷の援護が間に合う。

長波の活躍により敵大将を沈める事には成功するが、不知火を落ち着かせるのに、少々手間取ってしまった。

 

だが、その頃………幌筵行きの貨物船を大湊まで誘導する役目を担っていた佐渡達が命令違反を起こし、護衛をすり替わって出発してしまう事に。

この先、何が起こってしまうのか………。

 

 

沈んだ遊覧船での救助作業は、難航していた。

深海棲艦の非道の行為によって、親子の絆を引き裂かれた者達がパニックを起こしていたからだ。

特に、両親を目の前で奪われた子供は、血の海で手足をバタつかせて暴れまわっており、やり切れない感情を爆発させているのは、目に見えて分かった。

 

「うわああああああああん!!」

「落ち着いて下さい。辛いとは思いますけれど、今は生き残る事だけを考えて………。」

 

春風は多少強引ではあったが、子供を胸に抱く。

それでも暴れようとして子供は何度も彼女を叩いたが、やがて、あやされた事により彼女の胸に顔をうずめて声を殺して涙を流し始めた。

春風はその頭を撫でつつ、いい子いい子と、優しく声を掛けていく。

そして、そのまま疲れ切って眠りに入った所で、大発動艇に優しく横たえる。

 

「どうか、今だけは良い夢を………。」

「春風さん、そっちはどうだ?」

「敵艦の残虐な行為に、心を壊された者達ばかりです………。わたくし達は、命を救えても………。竹さん、そちらは?」

「こっちは別の意味でヤバイ。乗客の怒りの矛先が、海風さん達に向き始めた。」

 

竹の視線を追って春風が見てみれば、大発動艇に乗った大人の乗客が、海風や夕張にやり切れない怒りをぶつけ始めていた。

何故、我が子を守ってくれなかったのか?

何故、我が子を救ってくれなかったのか?

何故、もっと早く来てくれなかったのか?

八つ当たりと言えば、それまでだろう。

だが実際、的を射た事実でもある為に海風達は否定も出来ず、ヒートアップする乗客達をどうしたものかと悩ませていた。

こういう時は大抵、船の乗組員が彼等を抑える役目を担うものだが、そのほとんどは真っ先に殺されていた為、どうしようもない。

 

「困りましたね………。何か良い言葉があれば………っ!?」

 

頭を悩ませた所で、春風達が固まる。

次々に叫んでいた乗客達も、同様だ。

欧州装甲空母棲姫を追っていた、雷達が戻って来たからだ。

彼等の視線は、長波に支えられる形でぐったりとしている早霜に向いていた。

………というのも、彼女は海戦によって右肩が抉れており、大量の血で制服を濡らしていたのだ。

明らかに激戦であった事を物語っている艦娘の姿を見た途端に、状況を悟り多少は頭が冷えたのか、乗客達は黙り込んでしまう。

一方で雷は、手に弦の切れた鋼の弓………沈めた欧州装甲空母棲姫の武器を手に持っていた。

 

「皆さん………見ての通り、仇は取りました。でも………貴方達の大切な人達を守れなくて、本当にゴメンなさい。」

『……………。』

 

深々と頭を下げて誠意を見せる雷に、その幼げな見た目も相まって乗客達はもう何も言えなくなる。

空いている大発動艇に長波が早霜を横たえると、夏雲がやって来て、応急処置を始めた。

だが、根本的に肩が抉れており、腱が切れて骨すら見えてしまっている状態だ。

すぐさま、入渠しなければならない状態であった。

 

「夏雲、どうですか?早霜は………。」

「大丈夫ですよ、不知火さん………。ですが、先に戻った方が良さそうですね………。」

 

心配そうにする不知火を落ち着かせながら、夏雲は冷静に海風や岸波に意見具申をする。

乗客の救助が全て終わったら、彼等を夕張の操る5隻の大発に集め、怪我をした早霜と共に先に大湊に向かって貰うべきだと。

この際、護衛に抜擢されたのは、早霜達を診る必要のある夏雲と、赤城、岸波、沖波、朝霜。

海風、雷、春風、不知火、竹、長波は、浮かんでいる内に亡骸を、出来る限り回収しようと考えていた。

 

「じゃあ、海風ちゃん!そっちはお願いね!早霜ちゃん達は、しっかりと運ぶから!」

「お願いします、夕張さん。大湊で合流しましょう!」

 

夕張達を見送った海風達は、次の作業………海に浮かんでいる亡骸の回収に移る。

基本は、戦場の後片付けを行う後始末屋がやる取り組みだ。

深海棲艦を含め、散っていった者達が安らかに眠れるように祈りながら作業を行う。

今回は大発に積める量などの都合から、敵艦の亡骸までは回収できなかったが、そちらの方が、都合が良かった。

流石に、悪逆の限りを尽くした深海棲艦達の冥福を祈れるほど、今の海風達………特に不知火は、心が落ち着いては居なかったから。

 

「それにしても………心が痛いわね。敷波達は、こんな事を毎回行っているのかしら?」

「基本は深海棲艦だろうけどな。………どちらにしろ、頭が下がる。」

 

見るも無残になった亡骸を回収しながら、雷と長波が会話をする。

人の形を成さなくなった命あった存在を丁寧に大発に乗せる作業は、想像以上に神経を使う。

それでも少しでもやっておかなければ、やがて海の底に沈んでしまう。

北方の海は寒い為、潜水艦娘達も起用しにくい。

後々に掛ける負担が大きい事を考えると、海上にあるうちになるべく拾い集め、可能ならば生き残った者達の身元に帰してあげたかった。

 

「地道にやりましょう。辛いけれど、頑張って。」

 

海風の指示で、雷達はひたすら亡骸を集めていく。

その作業は、朝方近くまで続いた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

やがて、心身共に疲弊した状態で大湊に戻って来た海風達。

特に海風は大発動艇を大量に操っていた為に、精神的疲労が大きかった。

 

「帰ったら、早めに休ませて貰いましょ。海風も無理は禁物だし………ん?」

 

雷は、ここで違和感に気づく。

大湊が、何やら慌ただしい気がしたからだ。

波止場には一同を待っていたのか、艤装を付けたままのアトランタが待っていた。

だが、その顔は険しく、彼女達に早く陸に上がるように手招きする。

 

「アトランタさん、何かあったのですか?何か………。」

「あの海防艦達が暴走した!貨物船の護衛をすり替わって、幌筵に出発したのよ!」

「………はい?」

 

最初意味が分からず、クエスチョンマークを頭に浮かべる雷達であったが、アトランタが懐から紙を取り出し見せる。

それは、走り書きで書かれた手紙であった。

 

「八丈の部屋から見つけた。あいつ………こんなものを残してたの!」

「ちょ、ちょっと読ませて下さい!」

 

思わず雷達は、そこに書かれた内容を凝視する。

そこには、こんな文書が記されていた。

 

「雷達へ。

 約束を破って、幌筵に出発してゴメンなさい。

 雷ならばもう悟っていると思うけど、あたし達は両親に恵まれませんでした。

 とにかく酷い目にあって、捨てられて………平戸は人に言えない位です。

 更に拾ってくれた孤児院も、深海棲艦に襲われて院長先生の命が奪われました。

 その時の火傷で私達は死ぬ運命でしたが、運よく艦娘適性があったんです。

 仕方なくあたし達6人だけは生き残る事が出来たんですが、他の子達は………。

 だから、大湊にいい思い出は無いですし、守りたい気持ちも起きません。

 みんな早くこの町を抜け出して、横須賀に出世したいんです。

 暴走してしまった事は、帰ったらあたしが代表して何度でも謝ります。

 だから………本当に、ゴメンなさい。

                                   八丈」

 

「う………そ………。」

 

雷は、思わず血の気が引くのを感じた。

無論、他の九十九駆の者達も。

手紙には八丈によって、暴走の理由と彼女達の過去が赤裸々につづられていた。

雷から直接過去を聞いていた彼女は、他の皆が暴走を企てる中、1人罪悪感に悩まされ、こんな謝罪の文を残したのだ。

だが………。

 

「帰ってこれると………思ってるの!?」

 

両拳を握りしめた雷は、絞り出すように叫んでしまう。

外海は、どんな深海棲艦が出るか分からない。

もしも凶悪な深海棲艦に出くわしてしまったら、彼女達は一巻の終わりだ。

いや、艦娘だけでなく、護衛して貰っている貨物船の乗組員だってそれは同じであろう。

とにかく、やらかしのレベルがとんでもない事に、あの6人は気付いていない。

 

「す、鈴谷さん達はどうしてますか!?」

「手紙を見た途端、ショックでリバースしちゃったよ………。でも、それどころじゃないって、執務室で各所に連絡を取っている。熊野も泣きそうな顔で………今は夏雲達が診てくれてるけど………。」

 

唇を噛むアトランタの姿に、雷達はクラクラとしてしまう。

流石に病み上がりの鈴谷や熊野にしてみれば、衝撃的過ぎる命令違反。

心配になった雷達は、亡骸の積まれた大発を括り付けて、艤装を付けたまま、すぐさま執務室に向かおうとするが、丁度そのタイミングで庁舎から鈴谷達が出てくるのが分かった。

熊野や夏雲に支えられているその顔は、遠目から見ても真っ青である。

 

「あ、あの………。」

「大間鎮守府と、単冠湾(ひとかっぷわん)泊地に確認を取ったよ。………状況だけで言えば、最悪。」

 

感情を押し殺しているのか、鈴谷は俯きながらも真顔であった。

彼女が説明をするには、暴走に気付いた時には、陸奥湾の出口の大間鎮守府の警戒網は、もうとっくに過ぎてしまったらしい。

向こうの臨時提督によれば、サイン入りの護衛任務の書類を見せられたから通すしかなかったとのこと。

ならば、その先、北東にある単冠湾泊地の艦娘達に貨物船を止めて貰うようにお願いできないかと考えたのだが、あちらは運悪く近間で発生した深海棲艦と海戦中であるらしい。

そうなると、目的地の幌筵泊地までは完全に遮るものが無くなってしまう。

一応、単冠湾泊地と幌筵泊地の間には、1つ艦娘の為の「補給施設」があるのだが、そこまで無事で済むかも分からない。

 

「じゃあ………。」

「追いかけるしかない………。追いかけないと、早く………。」

「ちょ、鈴谷!?」

 

艤装も付けて無いのに、ふらふらと海に向かって行こうとする鈴谷を、慌てて熊野が止めるが、彼女は力なくペタンと膝を付いてしまう。

雷も思わず立て膝を付いて鈴谷を心配する。

彼女は涙を浮かべながら雷を見ると、何と頭を波止場に擦り付け土下座した。

 

「す、鈴谷さん!?」

「お願いだよ………!あの子達と船を救ってよ!みんな沈んだら………沈んじゃったら、もう………!!」

 

完全に艦娘提督としてのプライドを捨てている鈴谷の姿が痛々しすぎて、雷は顔を上げてくれと必死にお願いする。

只でさえ目上の航巡が駆逐艦に頭を下げているだけでも異例なのに、今の鈴谷の体調を考えてしまえば、どれだけ追い詰められているかが手に取るように分かるからだ。

 

「………行こう、私達が!」

 

そんな鈴谷を放っておけなかったからか、海風が叫ぶ。

元々は、九十九駆に与えられるはずの依頼だったのだ。

だからこそ、自分達が追いかけるべきであると。

 

「みんな、協力をして!今から補給をして全速力で追いかければ、まだ間に合うわ!」

「そうですね………わたくしもお手伝いをします!」

「俺もだ!早くアイツらの首根っこを掴まないと!」

「不知火も手伝わせて下さい。」

「私も賛成だけど………海風、大発操れるの?」

「え?そ、それは………。」

 

春風、竹、不知火と、順に九十九駆の仲間達が呼応するが、雷が大事な事を海風に聞く。

追いついた時に、貨物船の状態がどうなっているか分からない以上、大発動艇は新たに引っ張っていかなければならない。

しかし、一晩中5隻も大発を運搬した海風の精神的な消耗は大きいだろう。

 

「海風だけじゃないわ。もしもの事を考えたら、夏雲も一緒に行かないと。」

「そこは………夕張さんと確認を取っているから鈴谷さん達の治療は大丈夫です。早霜さんも高速修復材(バケツ)で治療を施しているので、間もなく出てきます………。」

 

夏雲曰く、夕張は九十九駆の補給と早霜の入渠の結果待ちで工廠に入っているらしい。

岸波達は服を着替えて、宿舎の食堂で、沈んだ遊覧船の生き残りの乗客達に食事を与えながら心のケアに努めている模様。

 

「あたしもそこに混じった方が良さそうだな。………でも、大発の問題はどうやって解決する?」

 

長波の言葉に、皆が頭を悩ませる。

すると………。

 

「あの………何かあったの?何で鈴谷が土下座を………?」

 

声に振り向いてみれば、そこには3人の新たな艦娘が。

敢えて「高速対潜護衛空母」である「改二」状態で、急いで横須賀鎮守府から増援として駆け付けて来た龍鳳と、それを護衛する形でやって来た藤波と三日月がいた。

 

「龍鳳さん………?藤波………?三日月………?」

「雷ったら………ビックリした?あの後、すぐに横須賀を出発して、私達、夜通し全速力で来たの。」

「何か海戦が発生したって途中で連絡も来たからねぇ。でも、被害………酷かったんだね。」

「私達、生き残っている方々のケアをした方がいいかしら?すぐに指示を………。わぁ!?」

 

その内の三日月は、咄嗟に雷に両手を握られて困惑する。

彼女は、深々と三日月と藤波に頭を下げると叫んだ。

 

「お願い、三日月!藤波も!大湊の為に、今すぐ力を貸して!!」

 

大発を操れる三日月と、索敵能力に優れる藤波。

頼れる駆逐艦娘2人の登場に、雷はまだ運は味方しているかもしれないと天に感謝した。




ここで龍鳳・藤波・三日月の3人が、横須賀からの助っ人として大湊に合流です。
大混乱に陥る中で来てくれたのは、雷にとってはラッキーだと思ったでしょう。

大発動艇を操れる三日月。
索敵能力に優れる藤波。

直接戦闘能力よりも、場合によってはこういう力が頼りになる事も有りますよね。
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