大楯の雷   作:擬態人形P

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第25話 ~絶望の艦種~

欧州装甲空母棲姫を撃沈出来た雷達であったが、沈められた遊覧船の人的被害が酷く、乗客の中には、心を壊される者や艦娘に八つ当たりをする者など様々。

しかし、重傷を負った早霜が戻って来た事と雷が深々と謝罪した事で、少しは冷静さを取り戻す事に。

先に生き残りの者や入渠が必要な早霜を大湊に帰した後、残った雷達は亡骸を、出来る限り回収する事になった。

 

ところが、朝方に戻って来た彼女達が知ったのは、海防艦娘達が暴走し、貨物船の護衛をすり替わって幌筵泊地に向かってしまったという事実。

後ろ髪を引かれる想いの八丈が残した手紙で、彼女達の過去を知った雷達は、責任を感じた艦娘提督の鈴谷による土下座もあって、追いかける事を決意。

 

偶然にも、横須賀からの増援が来てくれた事で、三日月や藤波にも力を貸してくれるように頼んだ雷。

まだ、完全に運に見放されていないのならば、チャンスは残っていると準備を始める。

 

 

「………状況は分かったわ。とにかく私は、大発を3隻引っ張っていけばいいのね。」

「無茶言ってゴメン。でも、緊急事態だから………。」

「気にしないで。只、みんな疲労が蓄積しているのが痛いわね。」

 

工廠では、第九十九駆逐隊の7人だけでなく、三日月と藤波も兵装を整えていた。

三日月は、大発を3隻装備していざという時に救助に回れるような状態。

一方で藤波は、探照灯や電探といった装備で、とにかく索敵に特化している状態。

どちらも攻撃より、艦隊の補助に回っている。

代わりに海風は攻撃に特化しており、主砲や魚雷の調子を確かめていた。

だが、一晩掛けて姫クラスの海戦や亡骸の収集を行っていた九十九駆は勿論の事、寝ずに横須賀から大湊まで駆けつけて来てくれた三日月や藤波も疲労が溜まっていた。

入渠をしていた早霜はともかく、全員が万全の状態ではない為、海戦になったら苦労をするのは目に見えている。

 

「ま………その為の藤波だからね。もち、仮に敵を発見したら伝えていくよ。」

「お願い。藤波も迷惑掛けるわね。」

「そこは、いつもの流れでハレンチって呼んでよ。冗談言う余裕無いと、足元すくわれるよ?」

「ありがと………。」

 

ヒラヒラと手を振りながら笑みを見せる藤波に、素直に感謝する雷。

流石に駆逐艦娘の9人編成は無茶だったので、三日月と藤波は、雷が臨時旗艦になり、3人で艦隊を組むことになった。

 

「早霜も、状況は分かった?」

「ええ。迷惑ばかり掛けるのは、子供の特権かしら………?」

 

また、完全回復をしてきた早霜は、海風の説明を受けて現状を理解する。

少しだけ昔を懐かしみながらも、その目は絶対に捕まえてやるという顔だ。

ここら辺、この中では雷と不知火だけが理解している事だが、「元教師」として思う所があるのだろう。

 

「理解したのならば、出撃するわ!時間が惜しい物!雷もいいわね!」

「ええ………!鈴谷さん、熊野さん!何としても連れ戻してきますから、安心してください!」

 

旗艦である海風と雷の目は、見送りに向かっている鈴谷と熊野に向いていた。

艦娘提督と秘書艦ではあるが、体調不良を悪化させてしまい、精神状態が悪くなっている。

夕張が診てくれてはいるが、この後は休まないといけないだろう。

 

「お願い………船とあの子達と、大変だと思うけど………。」

「わたくし達も、出来る事はします………。だから、どうか………。」

「みんなで帰って来た時の為に、元気な姿を見せて下さい。………じゃあ、抜錨!」

 

雷の号令で、まずは索敵に優れる藤波を入れた面々が出発する。

次に、その後から海風達九十九駆の6人が追っていく。

長い単縦陣の陣形になりながらも、まずは陸奥湾の出口に向かって9人は進んで行った。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「快調!快調!………何だよ、佐渡様達でも簡単にこなせる任務じゃないか。これで出世が出来るのならば、楽なものだよな!」

 

時間は経って、その日の夕暮れ時。

佐渡達は貨物船の護衛をしながら、とにかく北東へと突き進んでいた。

海防艦の速力は遅めだが、貨物船もそこまで速くはない為、丁度いい位。

今の所は「奇跡的に」何の障害も無く、佐渡達は突き進んでいた。

 

「なあ平戸、幌筵まで、後はどれだけだ?」

「今は丁度、単冠湾泊地と幌筵泊地の中間地点を北東に進んでいますから………、もう少しですね。」

 

福江の質問に、平戸が丁寧に答えていく。

北上するにつれ極寒の環境になって来たから、霜は何度も払っている物の、吐く息は白くなっていくのが嫌らしかった。

だが、それさえ注意すれば、特に問題は無いと佐渡は思ってしまう。

 

「でも、寒いよなぁ………。」

「魚雷ならあるよ?」

「高速建造材(バーナー)も、持ってる………。」

「止めろよ!?怖い冗談は!?」

 

能美と石垣の発言に、思わず青ざめる佐渡。

彼女達は、今回の護衛をするに当たり、雷達に禁じられていた装備を持って来ていた。

能美は、朝潮型の主砲と魚雷発射管。

石垣は、高速建造材(バーナー)。

平戸は、メリケンサック。

福江は、睦月型の盾。

理由としては、付けていた方が強そうだからである。

 

そんな和やかに会話をする5人であったが、1人会話に混じれない者がいた。

最後尾で、何度も後ろを振り返りながら青ざめた顔をしている八丈である。

 

「どうしたの、八丈?顔色が優れないよ?」

「……………。」

「もしかして、まだ悩んでるの?」

 

能美に気遣われた八丈だが、心ここにあらずの状態。

むしろ、自分の行っている「裏切り行為」に罪悪感を抱いている。

 

「やっぱり………こんなの良く無いよ。」

「でも………冒険しないと………、大湊からは出られないよ………?」

「きっと、雷達は心配している。あたし………あたし達は………。」

「だからって………今更引き返す事なんて出来ないし………。」

 

遂に罪に意識から頭をブンブン振り始める八丈に、石垣が心配をし始めるが、確かに今更どうしようもない。

佐渡は仕方ないから、しんがりを福江辺りと交代させようとするが………。

 

「ん?何か………いる?」

 

その福江が目を凝らした事で、佐渡達は敵艦が出て来たのか?………と思い身構える。

しかし、よくよく見てみれば、その艦種は………2つの大楯に砲門を備えた戦艦ル級が3隻であった。

 

「何だ、アイツみたいな見た目の戦艦だな。でも、低速艦なんだろ?だったら、数の多い佐渡様達の方が有利じゃんか。」

「そうですね。常に動き回って機動力で圧倒すれば、敵艦を沈める事は………。」

 

だが、ここで平戸の言葉が止まる。

敵艦3隻はニタリと笑みを浮かべると、その全身から黄色のオーラを発したのだ。

しかも、その目が蒼い炎に包まれ輝き始める。

 

「う………そ………!?」

「お、おい平戸!?何だありゃ!?」

「座学で習ったじゃないですか!?「改フラッグシップ級」!エリート級やフラッグシップ級を超える、最上位の艦種ですよ!?」

「何!?」

 

平戸の説明に、佐渡達は固まる。

ル級の中では一番強い、「改ル級」。

それが3隻も出現して、目の前に立ちはだかっている。

 

「ど、どうするんだ!?これ!?」

「お、落ち着け福江!改だろうが貝だろうが、動きが鈍いのは事実だから………!」

 

しかし、次の瞬間であった。

改ル級3隻が、一斉に砲撃を放ってきたのだ。

その強烈な砲撃は、衝撃波となって、佐渡達の横をすり抜け、至る所に巨大な水柱を上げていく。

 

「あ………ああ………。」

 

海防艦娘6人は固まる。

大湊には、猛烈な寒さの関係で戦艦は居ない。

当然ながら、彼女達はこのような破壊力のある砲撃を見た事は無かった。

 

「か、貨物船は!?」

「逃げていく!?」

「嘘だろぉ!?」

 

流石に貨物船も、力関係で佐渡達が敵わないと察したのか、さっさとUターンをして戦域からの離脱を図ろうとしていた。

だが、改ル級達は追おうとしない。

理由は簡単だった。

敵艦達は、貨物船よりも楽しめそうな「オモチャ」を見つけたのだから………。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

その頃、雷達は単冠湾泊地を過ぎた所であった。

ここで、藤波の電探に通信が届く。

 

「もしもし?アンタ達が鈴谷さんの言ってた、大湊から船を追いかけている艦娘達?」

 

やたら気の強そうな少女の声に、藤波に許可を貰い雷が返答をする。

 

「ええ、私は雷。貴女は?」

「私は「霞(かすみ)」。単冠湾泊地の艦娘提督をやっているわ。」

「艦娘提督って………北方では流行なの?」

「気候の都合上、普通の人間には勤められないのよ。………と、それどころじゃないわ。この先に進んでいた貨物船から、連絡が届いたわ。深海棲艦に遭遇したって。」

 

霞の言葉に、一同の空気が固まる。

どうやら貨物船からの連絡では、護衛の艦娘達がどう考えても太刀打ちが出来ないと察したので、真っ先に逃げて来たとのこと。

雷達は、そのポイントを教えて貰うと、霞に感謝して進もうとする。

だが………。

 

「っ!?………敵深海棲艦の群れ発見!大変だ、雷ちん!こっちに向けて、フラッグシップ級ヌ級が攻撃機を飛ばしてるよ!」

「こんな時に!?」

 

藤波が真っ先に敵を視認した事で、艦隊に動揺が伝わる。

彼女の話だと、軽巡や軽空母が主体の敵艦隊であるらしいが、疲労が溜まっている上に、余計な時間を取られるのが痛かった。

 

「とにかく早く片付けて………!」

「雷、三日月、藤波!それに夏雲も先に行って!」

「海風!?」

 

ここで、海風が状況を判断して指示を出す。

今ここで全員留まってしまうのは、護衛の付いていない船や取り残されている海防艦娘達の状況を鑑みるとおすすめ出来ないと。

 

「どうする、夏雲!?」

「優先事項は………船の乗組員の安全確保になります………。まずは、救助能力の高い私達で、貨物船に接触しましょう………。」

「分かったわ、任せるわね!早霜、不知火、春風、竹もお願い!」

 

口で答える代わりに、それぞれサムズアップをした事で、雷も同じように返して戦域から離脱していく。

幾つか攻撃機が追って来そうになったが、接敵する前に大回りをして速力を更に上げた事と、海風達5人が積極的に向かって行った事で、逃げ切る事が出来た。

 

(早く………早く助けに行かないと!)

 

雷は、心の中で焦燥感が貯まるのを感じた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「ほ、砲撃開始!早くしないと!?」

「無茶言うな!そんな簡単に………ひぃっ!?」

 

その頃、佐渡は何とかしようと指示を送る。

だが、福江に砲撃が集中する。

恐怖で動けない彼女は、盾を思わずかざそうとするが、衝撃波で吹き飛ばされ、あっという間に海面を転がった挙句、盾が根元から吹き飛ぶ。

更に………。

 

「ぎ、艤装が稼働しない!?」

「マジかよ!?」

 

砲撃が直撃しなくても、その余波によって艤装の基部が正常に稼働しなくなってしまったのだ。

福江が真っ青になる中、何とか石垣が体を動かして福江の前に立つと、高速建造材(バーナー)を構えて、思いっきり火炎放射を放つ。

 

「海防艦だからって………これなら………!」

 

だが、そんな石垣を嘲笑うかのように、改ル級は1発だけ砲撃を飛ばし、何と燃料タンクを破壊してしまう。

飛び散った油は、石垣に大量に付着し、引火を起こして火だるまにしてしまう。

 

「うああああああああああああ!?」

「石垣さん!?」

 

慌てて石垣の傍まで来た平戸が海水をバシャバシャとかける事で鎮火させるが、石垣は酷い火傷を負ってしまい動けなくなる。

その姿を見た佐渡が恐怖の余り、滅茶苦茶な命令を下す。

 

「ひ、平戸!近接格闘戦だ!」

「馬鹿を言わないでください!?あんなのに近づいたら、死にますよ!?」

「じゃあ、どうしろって言うんだよ!?」

 

恐怖心から仲間割れを起こす6人の姿を楽しむようにしながら、改ル級達は次の獲物を探す。

その目が能美に向いた事で、反射的に彼女は左腕の魚雷発射管を敵艦に向ける。

 

「喰ら………え………?」

 

だが、その腕が突如吹き飛ぶ。

改ル級が今度は、能美の魚雷発射管を爆破したのだ。

 

「あ………ああああああああああああ!?」

 

一瞬間をおいて激痛が伝わって来て、能美は肩を押さえてうずくまる。

全ての悲劇を見ていた八丈が、頭を押さえて絶望の表情に染まる。

 

「………バチが当たったんだ。」

「おい、八丈!?」

「あたし達………身勝手な事したから、だからバチが当たったんだぁーーーっ!?」

「しっかりしろ!戦意喪失してどうするんだ!?」

 

佐渡が何とか立て直そうとするが、どうしようもない。

ほとんどが行動不能だし、残っている平戸は錯乱し、八丈は愕然としている。

 

「マジで………この状況を解決するには、どうすりゃいいんだよっ!?」

 

ニタニタと笑う改ル級の視線は、今度は佐渡に向く。

絶望的な艦種の壁の前に、佐渡は血の気が引くのを感じた。




佐渡達が出会ってしまったのは、よりにもよって「改フラッグシップ級」が複数。
貨物船を沈めるよりも楽しいと思われてしまったのは、身から出た錆ですが、結果的に乗組員を守る事に繋がっているのが何とも………。

一方で、雷達も運悪く発生した海戦によって、状況が悪化しています。

次回、こんな中でどうなってしまうのか………。
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