大楯の雷   作:擬態人形P

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第26話 ~「守りたい」から~

第九十九駆逐隊は、大発が使える三日月と索敵能力に優れた藤波を艦隊に加え、疲労に耐えながら、暴走した佐渡達を追いかける事に。

途中、深海棲艦達に出くわしてしまうものの、海風達が対処する事で、雷、夏雲、三日月、藤波が先行する事に。

 

一方、佐渡達は単冠湾泊地と幌筵泊地の中間地点で、改フラッグシップ級ル級3隻と出くわしてしまう。

貨物船が逃げていく中、オモチャにされていた彼女達は、遊ばれて成す術無く傷ついて行く。

重傷を負う者、錯乱する者、戦意を喪失する者………地獄のような構図の前に、佐渡達の運命は………。

 

 

「雷ちん!前方、貨物船発見!こっちに向かってくるよ!」

「ホント、藤波!?」

 

海風達に海戦を任せて北東に進んでいた雷、夏雲、三日月、藤波は、南西に逃げて来た貨物船を見つける。

藤波が探照灯を照らし、貨物船に素早く合流するように求めると、あっという間に距離が縮まった。

 

「おい!どうなっている!?何であんな艦娘が護衛なんだよ!?」

「ゴメン、佐渡達は何処!?ポイントを教えて!」

「話を聞け!何であんな役立たず共が………!」

「その役立たず共は何処にいるの!?」

「聞いてるのか!?いい加減に………!」

 

仕方ないとはいえ、文句と愚痴を言い続ける貨物船の船長の言葉を聞いて、雷は苛立った。

そして、遂に藤波の電探越しに、文字通り雷を落とした。

 

「いいからさっさと答えなさいっ!!謝って欲しければ後で好きなだけ土下座してあげるわよっ!!艦娘を見捨てた罪状で牢獄に入れられたく無ければ、さっさと答えろぉっ!!」

「ひ、ひぃっ!?」

 

普段の雷の冷静さからは信じられないような叫びを受けて、船長は怯む。

本人にとっては踏んだり蹴ったりの状況なので同情の余地は十分にあるが、時間が無い為、雷は素早く遭遇地点のポイントを聞き出す。

 

「そこに佐渡達がいるのね!?」

「あ、ああ………間違いない。」

「夏雲!三日月!藤波!船の護衛お願い!私はひとっ走り行って、海風達が来るまでの時間を稼いでくる!」

 

雷はそう言って飛び出そうとするが、その肩を思わず夏雲が押さえる。

彼女は思わず雷を見据えると叫んだ。

 

「1人で行くつもりですか!?幾ら雷さんでも無謀すぎます!?現場がどんな状況なのかも分からないんですよ!?」

「だったら、猶更早く行かないと手遅れになるでしょう!?死んでからじゃ、後悔しても全てが遅いのよ!?」

「そ、それは………。」

 

夏雲は何も言えなくなる。

雷は過去に自分の慢心で初期艦の仲間に庇われ、彼女を轟沈させてしまった。

そして雷には伝えていなかったが、夏雲もまた相談に乗って来た艦娘を救えず、轟沈させてしまっている。

故に、夏雲は雷の言葉に共感できた。

この場面でしてはいけないのに、共感してしまったのだ。

 

「私は………。」

「怪我人の治療、任せるわね!」

「雷さん!?」

 

夏雲がハッとした時には、雷は既に主機を全開にして海面を駆ける勢いで航行し始めていた。

こうなると、夏雲は動けない。

大発動艇を扱える三日月も、索敵能力に優れる藤波も同様だ。

仕方なく夏雲は、船の状況の確認に入る。

今はこれが最善だと、自分に言い聞かせて。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「うわぁ!?」

 

その頃、佐渡は改フラッグシップ級ル級3隻の砲撃を必死に回避していた。

回避と言っても、海面に飛び込むように砲撃を躱すだけで、お世辞にも上手い躱し方とは言えない。

そもそも、その気になれば、改ル級達は砲撃をすぐに確実に当てる事が出来るだろう。

だが、わざと外しているのは、佐渡というオモチャで遊んでいるからだ。

 

「うう………イヤだ………死にたくない………!」

 

何度目か海面に飛んだ佐渡は恐怖に肩を震わせながら、それでも生きたい欲求から体を動かそうとする。

しかし………。

 

「あ………れ………?」

 

急に体が重くなった事で、彼女は絶望を抱く。

福江と同じく、度重なる砲撃による衝撃波で艤装の基部が作動しなくなったのだ。

こうなっては、佐渡もまた、只の的である。

 

「あ………ああ………。」

 

佐渡は前を見た。

呆れたような改ル級達は、面倒そうに佐渡を狙う。

その砲口は、今度こそ直撃コース。

飽きたオモチャを捨てる感覚で、盾型の砲門を構えた。

 

(終わった………。)

 

文字通り、これが最期だと佐渡は悟った。

呆気ない終わり方だ。

思えば愛情らしい愛情を十分に感じた事は無かった。

孤児院の院長先生は大事にしてくれたが、お礼をする前に深海棲艦の爆撃で、大半の子供達と共に死んでしまっている。

 

(そこに………行くのかな?)

 

恐怖が遂にマヒしたのか、改ル級の砲口が輝く中で、何となく感じた。

ここで、佐渡という艦娘の道は閉ざされるのだと。

しかし………。

 

「間に………合ったぁーーーっ!!」

『っ!?』

 

キーンと電探越しに聞こえる声と共に、夾叉弾が改ル級達に降り注ぎ動きを封じる。

何事かと思った佐渡の体が、掻っ攫われた。

 

「い、一体何が………!?」

 

抱えられる形になった佐渡が見上げてみれば、そこには癖のある茶髪のボブヘアーの艦娘の姿。

彼女は必死の顔で改ル級達を見据えていた。

それは、暁型3番艦の艦娘………雷。

 

「な、何でお前が………!?」

「八丈!平戸!貴女達は動けるわね!今すぐ重傷を負った面々を連れて戦域から離脱して!」

「だ、だから何で雷がここに………!?ハチ達、あんなことしたのに………!?」

「いいからっ!死にたく無かったら命令通り動きなさいっ!!」

 

ピシャリと無理やり命令する雷の言霊の力に、ビクリを振るえた八丈や平戸は言われた通りに動き出す。

しかし、動ける艦娘2人に対し、動けない艦娘は佐渡を除いても3人。

後者には体格のいい能美もいる以上、どう考えても引っ張っていくには苦労をしてしまう。

 

「雷さん、この状況じゃ………。」

「諦めないで!!この最低な奴等は私が押さえとくから、早く!!」

「わ、分かりました………!」

 

あくまで厳しく鼓舞する雷に従う形で、平戸が福江と石垣を、八丈が能美を支えて離脱を図ろうとする。

雷は佐渡を抱えた状態で、とにかく主砲や魚雷を発射しながら敵艦達の相手をしていく。

だが、遊びの中で乱入してきた者の実力を測り間違える程、相手は甘くはないらしく、雷に向けて代わる代わる全力で砲撃を繰り返す。

こうなると、戦艦の弱点である砲撃の間の隙も埋められるうえに、雷の反撃を封じる事が出来る。

それでも彼女は何とか打開策を見出そうと動き回るが、佐渡という重荷を抱えたうえで、後方への流れ弾にも気を付けないといけないのだから、神経を使ってしまう。

しかし、明らかに不利な中でも増援までの時間を稼ごうと、魚雷を投棄までして必死に戦う雷の姿を見て、思わず佐渡が愚痴を吐いた。

 

「本当にどうしてお前が………あたし達の為に命を張るんだよ!?自分の命が惜しくは無いのかよ!?」

「貴女達には謝らないといけない人達が、沢山いるのよ!意地でも大湊に連れ帰る!!」

「答えになってねえよ!?お前が命を賭ける理由は………!」

「………子供、産めないのよ。」

 

雷は佐渡を見ず、前を見据えた状態で呟く。

その言葉を聞いた途端、後方の平戸の目が見開かれたが、雷はそこまで確認している余裕が無い。

 

「女の子として産まれたのなら、好きな男の人を見つけて結婚して子供を作って………幸せな家庭を築きたいじゃない。でもね………私は人間時代にその権利を失った。」

「お前………。」

「私が、横須賀で荒れていた一番の理由はそれよ!けれど………だからこそ、まだ幸せな未来を掴める貴女達は、将来に向けて幸せな夢を持っていてほしい!」

 

第九十九駆逐隊だと、カルテを持っている夏雲だけが知っていた、雷の身体的秘密。

それを彼女は、佐渡達に白状をした。

今まで鍛えていたのは大湊の為でもあったが、勿論、佐渡達に女性としての幸せな未来を生きて欲しいからだ。

こんな陰険な深海棲艦に屈しないだけの、力を身につけて貰う為の。

 

「私は母親にはなれないけれどね………!母親の真似事なら出来るかなって、貴女達に偉そうな事をしていたの!それもまた、「1人でも多くの人を救う」事に繋がると信じているから!」

 

雷の根幹を支える、沈めてしまった初期艦である大潮の言葉。

その願いを叶える為ならば、彼女は喜んで自分の身を捧げる覚悟があった。

無茶苦茶でも、それが雷の生き様であるから。

 

「おかしすぎるよ………バカだよ、お前………!」

「そうかもね!………っと、危ない!?」

 

敵艦達は雷の意図を察したのか、敢えて彼女を狙わなかった。

能美を抱えて離脱を図ろうとする八丈の方へと砲口を向けたのだ。

こうなると、雷は彼女達を庇うしかない。

だが、一発でその盾は大きくひしゃげてしまう。

 

「お、おい!?弾けないのか!?」

「内側の取っ手を直接持って手首を使わないと、無理なのよ………!」

 

つまり、佐渡を抱えているせいで、盾の角度の微調整が出来ないという事だ。

砲撃はどんどん繰り返され、雷の大楯があっという間に破壊されていく。

 

「放せよ!?このままじゃ………!?」

「大丈夫よ、貴女達は絶対に守るから。だから………生きて!」

「え………?」

 

後一撃で大楯が完全に壊れる………そう思った瞬間、佐渡は力いっぱい空中に放り投げられる。

空中で弧を描きながら、彼女は見た。

自分を見上げて苦笑する雷が………改ル級の砲撃で、業火に包まれる瞬間を。

 

 

「……………。」

 

海面に着水した佐渡は、ゆっくりと体を起こして見た。

盾が破壊された雷は、仰向けに倒れている。

その左胸から頬にかけては血が流れており、遠目から見ても重傷であるのが分かった。

 

「雷………?」

 

佐渡は、初めて彼女の事を名前で呼んだ。

だが、反応はない。

ゆっくりと3隻の改ル級がその雷に近づいて来た。

そして、あろうことか、その内の1隻が、傷口の酷い左胸を思いっきり踏みつけた。

 

「ゲボッ!」

 

嫌な叫びと共に、雷の口から血反吐が吐き出される。

改ル級は下衆な笑みを浮かべると、何度も踏みつけていく。

そのたびに、壊れたオモチャのように、雷は血反吐を吐いていく。

 

「シズメ!シズメ!」

 

「や、止めろ………止めろよ………!?」

 

佐渡はその残酷な光景を前に、思わず震える。

何故、雷はこうなってしまったのか。

考えるまでも無い。

自分達が、無謀な暴走をしてしまったからだ。

その暴走に、雷を巻き込んでしまった。

本来ならば人を救う高潔な精神を持った艦娘が、自分達のせいで、こんな惨めな姿を晒している。

 

「止めてくれ………止めてくれよぉ………!」

 

佐渡は動けない。

艤装が言う事を利かないからだ。

それでも、海面に叩きつけた腕の上に頭を置きながら、必死に考えを巡らせる。

雷がいるという事は、近くに九十九駆の面々もいるはずだ。

時間稼ぎをすれば、雷を救いにやって来てくれるかもしれない。

だとしたら、今、自分がするべき事は何か?

やりたい事は何か?

 

(そうだよ………そうだ………身から出た錆なんだ………あたし達が死ぬのは問題ない。でも………!雷が死ぬのだけは、絶対に許せない!!)

 

佐渡は重い体に力を入れる。

艤装を無理やり稼働させ、立ち上がろうと。

この時、彼女は初めて雷を「守りたい」と思った。

生まれて初めて、人を「守りたい」と決意した。

すると………少しずつだが、体に力が入って来る。

不思議な事に、立ち上がる事が出来た。

まるで、何かが「シンクロ」したかのように。

 

「やい!そこの残虐深海棲艦共!!」

 

佐渡は大粒の涙を流しながらであったが、叫んだ。

その様子を見た改ル級達は、わざとらしく首を傾げながら佐渡を見る。

彼女は構わず吠えた。

 

「オモチャが欲しいなら、佐渡様を狙えばいいだろ!?それとも何だ!?手負いの海防艦が怖いのか!?」

 

虚勢に過ぎない言葉だ。

それでも、佐渡は叫び続ける。

そこに涙で顔をくしゃくしゃにしながらであったが、八丈と平戸も合流してきた。

彼女達だけでない………不思議なことに、艤装の基部が稼働しなくなったはずの福江も、大火傷を負っている石垣も、片腕が吹き飛んでいる能美も全員だ。

何故だか、今まで動かなかった体が動いた。

そんな6人に共通する思いは、何としても雷を「守りたい」という想い。

 

「かかって来いよ!佐渡様達が怖い、三下共め!!」

 

遂に改ル級達は、ニタニタとしながら雷を踏みつけるのを止めて佐渡達に砲口を向ける。

撃たれれば、ハチの巣になって佐渡達は轟沈するだろう。

だが、それで良かった。

その代わりに、少しでも雷が生き残る確率が増えるのだから。

 

「よーく狙えよ………!絶対に………っ!?」

 

しかし次の瞬間、佐渡達6人は驚愕する事になる。

佐渡達を狙っていた改ル級の内の1隻の動きが止まったのだ。

その足元には………散々踏みつけられ、命を搾り取られていた雷が、しがみ付いていた。

瞳に光は宿っていなかったが、そのしがみ付く手は力強い。

 

「ハナセ!ハナセ!」

 

残り2隻の敵艦が雷の頭を踏みつけるが、全くビクともしない。

雷はボロボロになりながらも、こう呟いていた。

 

「まも………る………。ぜったい………に………まも………る………。」

 

「雷………さん………そんな………!?」

 

そもそもの覚悟が違った。

もはや本能で佐渡達を守る事しか考えていない彼女の姿に、海防艦娘達は圧倒される。

だが、雷の生命力が失われていくのは目に見えて分かる。

このままでは、轟沈よりも酷い目に合うのも………。

 

「お願いだ………っ!」

 

佐渡はもう両拳を握りしめ、思いっきり天に向けて咆哮する。

薄い曇り空で僅かに月が見えているような天候であったが、彼女の言葉は良く響いた。

 

「艦娘でも深海棲艦でもいいから………頼むから雷さんを、守ってくれーーーっ!!」

 

そんな叫び声をあげても叶うはずの無い願い。

ここは単冠湾泊地と幌筵泊地の、丁度中間地点なのだから。

ところが………。

 

ドゴォッ!!

 

「え………?」

 

突如佐渡達から見て、左から………「北西の方角から」鉄球が飛来し、雷が掴んでいた改ル級の顔面を、ひしゃげさせて吹き飛ばす。

そのまま頭部を破壊され撃沈していく深海棲艦の姿に、その場の空気が固まった。




何故、海戦の中で………有り得ない方角から鉄球が?
次回、お待ちください。
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