大楯の雷   作:擬態人形P

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第27話 ~瀕死の中での願い~

貨物船と合流した雷は佐渡達のいるポイントを聞き出すと、夏雲達に護衛を任せ、1人全速力で向かってしまう。

その佐渡は轟沈の危機を迎えており、間一髪のところで雷に救われる事になった。

しかし、多勢に無勢なのは変わらず、雷は追い込まれてしまう。

 

何故、そこまで命を張れるのか?

そんな佐渡の言葉に、自分は子供を産めないという秘密を白状した雷は、佐渡達には立派になって幸せを掴んでほしいと素直な気持ちを露わにする。

だが、無情にも佐渡達を庇って敵艦の砲撃を受けた雷は瀕死になり、更に追い打ちを喰らう羽目に。

 

佐渡達は初めて雷を「守りたい」と思った事で、不思議な事に未知なる力が芽生え、時間稼ぎの為に身を挺して囮になろうとする。

ところが、瀕死の雷は敵艦にしがみついてでも砲撃を阻止しようとして、逆に佐渡達を絶対に「守りたい」という意思を見せつけた。

その痛々しい姿を見た佐渡は、天に向けて彼女を助けて欲しいと吠える。

すると………北西という有り得ない方角から、鉄球が飛来し、3隻いる改ル級の内の1隻を沈めた。

その正体は一体………?

 

 

「なん………だ?」

 

「ナンダ?ナンダ?」

 

いきなり起こった現象に、佐渡を始め艦娘も、改ル級達も固まる。

何がやって来たのかと、左側………北西の方角を見てみたら、そこには1人の艦娘が飛来させた鎖付きの鉄球を回収していた。

 

「うーん………単冠湾泊地の霞さんからの要請を受けて、全力で駆け付けたけど、相当被害が酷いですね。これは、本店の商品を全品半額セールにしなければ、割に合わないかも。」

「?????」

 

良く分からない事を呟く少女は、銀灰色の髪色を赤いリボンで括っている者であった。

制服のデザインを見てみれば、一般的な駆逐艦の吹雪型艦娘である。

 

「あ、あの………助けて下さって有り難いのですが………どうやってレーダーを潜り抜けて………。」

 

異様な空気の中、ようやく少しだけ落ち着いた平戸が思わず疑問を話す。

改ル級は、高性能のレーダーを備えている。

それなのに、この艦娘は佐渡や雷に気を取られていたとはいえ、完全な不意打ちで1隻沈めてしまった。

ならば、どうやってレーダーを潜り抜けて来たのか?

 

「ああ、それはですね………。」

 

少女は佐渡達を見て、屈託のない笑顔を浮かべて指を立てる。

明らかに余裕の表情で無視をされている事で苛立ったのか、2隻の改ル級は砲口を一斉に彼女に向ける。

 

「あ、危な………!?」

「本店自慢の「新型高温高圧缶」と「改良型艦本式タービン」のガン積みで、一気にレーダー外から駆け抜けてきました!」

 

ダンッ!!………と海面を踏みしめる音がした。

その瞬間、少女の体がバネのように踏みしめられて、文字通り最速機動で敵艦に突撃する。

あまりの速さに消えたと錯覚してしまった敵艦の間を潜り抜け、少女は颯爽と、海面に転がっていた雷を回収し、波しぶきを立ててターンをしながら佐渡達の所へと運んでいく。

 

「い、雷さんっ!!」

「下手に動かさないでくださいね。今、専門の資格を持った方が向かって来ていますから。」

 

少女はそう佐渡達をたしなめると、落ち着かせるように再び微笑む。

改ル級達は、いきなり現れた少女を一番危険な存在だと認識したのか、慌てて佐渡達と一緒に仕留めようと両腕の盾から砲撃を放とうとする。

しかし、その前に少女は手に持っていた鎖付き鉄球を頭上で振り回すと、右から薙ぎ払うように投擲する。

流石にさっきの1隻のように喰らうわけにはいかない為、敵艦達は砲撃を中断させて盾で防御をした。

 

「貴女………何者なの?」

「私ですか?私の名前は「薄雲(うすぐも)」。ここから北西に位置する、只の「艦娘補給用物資販売店」………通称「コンビニ」の店長です!」

「え………?」

 

八丈の疑問に親切に答えた少女………薄雲はまた敵艦に対し、時計周りに回り込むように動き出す。

本人曰く、缶とタービンで最大限まで速力を最大まで強化しているらしく、その駆逐艦を超える機動力に、改ル級は振り回されてしまう。

しかし、逆に言えば薄雲は最速で援護に来た為に、装備枠いっぱいに缶やタービンを詰め込んでいるらしかった。

その為、膝に魚雷発射管を付けておらず、弾すら詰め込んでいないのか砲撃は全く行っていない。

………というか、よくよく見たら、鎖に繋がれているのは吹雪型の主砲であるらしく、即席の鈍器として扱っているらしい。

 

「おいおいおい!?無茶苦茶だろ!?」

「すみません、あんまり器用じゃないもので。」

 

思わずツッコミを入れてしまう佐渡の言葉にも丁寧に答えながら、薄雲は正面からだけでなく、横や縦の動きも交えて主砲という名の鉄球を投擲する。

しかし、相手は流石に改ル級。

薄雲が雷や佐渡達を守る為に動き回っていると見るや、1隻がターゲットを変更。

卑怯にも、無防備な彼女達に向けて砲撃を放とうとする。

 

「おっと………!」

 

薄雲は自分に砲撃を放とうとした1隻の砲弾を躱しつつ飛び出すと、ワンテンポ遅れて佐渡達に向けて放たれた砲撃の前に立ち、鎖付きの鉄球を回転させて砲撃を弾こうとする。

一見すればかなり無茶な行為であったが、鎖もかなり補強されているのか、改ル級の砲撃も見事に弾いてしまう。

だが、それでも耐え切れなかった為に鎖が千切れ、主砲が明後日の方向に飛んで行ってしまった。

 

「ま、不味………いぃっ!?」

「ご心配なく!」

 

佐渡がまた、驚愕の声を上げてしまう。

薄雲は素早く鎖を捨てると、次弾装填前に一直線にこちらに砲撃を放った改ル級に突撃。

敵艦は思わず盾で突進を防ごうとするが、薄雲はその盾を右手で掴むと、そこを軸に跳躍して逆立ちをし、更に腕の力で飛び上がって前方宙返りで背後に回り込む。

そして振り返りざまに、何と懐から二振りのコンバットナイフを取り出すと、それを深海棲艦の首筋に思いっきり突き付けた。

 

「ガァッ!?」

「これで、後1人ですね………あれ?」

 

急所にナイフを刺された改ル級は、置き土産と言わんばかりに首を強引に振って、刺さった暗器を薄雲から奪って沈んでいってしまう。

これで、彼女の隠し武器が奪われてしまった。

 

「やられましたね………ナイフが使えないとなると………。」

「シズメ!シズメ!」

「これしかないですね。」

「ゴォッ!?」

 

半狂乱になりながら薄雲を狙う最後の1隻に対し、彼女は足の主機による蹴りを敢えて主砲付きの左盾に蹴り込み、砲撃を阻害する。

しかし、改ル級も動きが鈍った所を逃そうとせず、残った右盾を振り回す。

当たれば一撃必殺とも言える鈍器。

 

「でも、直撃しなければ隙だらけですね。」

「グホッ!?」

 

ところが薄雲は冷静に盾の動きを見極め、動きに合わせて足の主機を出っ張った砲門に引っ掛けて、足場にして飛び上がる。

その勢いを利用して、今度は敵の顎を思いっきり蹴り飛ばした。

 

「ア………ア………ア?」

 

クラクラと眩暈を起こした改ル級が正気に戻った時には、左手で首を掴まれ、左目の眼球に右手に持った拳銃………更なる暗器として持っていたリボルバーを突きつけられていた。

 

「バカナ!?バカナ!?」

「生まれ変わったら、当店のご利用をお待ちしています!」

 

そのまま薄雲は満面の笑みで、リボルバーを眼球に向けて6発放ち、直接脳を破壊して撃沈する。

初見殺しの機動力と数々の暗器を駆使していたとはいえ、驚異的な海戦能力を発揮し凶悪な深海棲艦を無傷で撃沈させた救世主の登場に、佐渡達は只々茫然とするしかない。

正直、目の前にいる薄雲は艦娘なのか?………という疑問すら抱いてしまう程。

そんな中、何とか福江が言葉を発する事が出来た。

 

「ほ、本当に何者なんだ………?ナイフに拳銃って、まるで強盗みたいじゃないか………?」

「よく言われるんですよね。私は、店長の方なのに………あ、グッドタイミングですよ。」

 

流石にこれ以上の暗器は無いのか、拳銃の弾を詰め替えて大事に懐にしまい込んだ薄雲は北西の方向を見る。

今度は何が起こるのかと佐渡達が振り向いてみれば、小型のボートがやってくる。

近づいてくるその姿は、一見すれば観光用の高速クルーザーに酷似していた。

 

「当店自慢のクルーザーです!妖精さんによる艤装技術が組み込まれており、速力は艦娘の高速クラスまで達します。後部には展望用の屋外デッキも備えていまして………。」

「い、今はそんな事どうだっていいんだよ!早く雷さんをっ!!」

「もう、最後まで聞いて下さい!屋外デッキには、プール代わりに艦娘の為のドックを備えているんですよ。移動式の入渠施設なんです!」

「ほ、本当か!?」

 

薄雲の説明を聞いた佐渡の顔が、明るくなった。

これならば、今すぐ雷を入渠させる事が出来る。

すると操縦者であろうか、クルーザーの運転席から狐色のセミロングのツインテールの艦娘が、マイクで声を発してきた。

 

「薄雲、敵はもう片付けたの?相変わらず、あんた激強よねぇ………。」

「えへぇ。そう言ってくれる、「陽炎(かげろう)」さんの言葉が嬉しいです。………要救助者は3名。うち1人は瀕死です。」

「了解。外付けしてある昇降用の大発を下ろすわ。「朝日(あさひ)」さんと「夕暮(ゆうぐれ)」と「清霜(きよしも)」と妖精さん達に指示を出してちょうだい。」

 

言葉と共に、クルーザーが減速して波をなるべく立てないように薄雲達の所まで来て停泊をすると、紐で括りつけられた大発動艇が下りてくる。

その上には、艤装を装備した艦娘が3人。

茶色のボブの髪を持った、明治風の古風な衣装が特徴の工作艦………朝日。

腰を超える長さの髪が、先でロールを巻いている派手な印象の駆逐艦………夕暮。

膝まである銀色ないし灰色の髪を上下に分けた独特な髪を持つ駆逐艦………清霜。

朝日は医療用の用具と艤装の修理道具を備えており、夕暮と清霜は妖精さんと協力をしながら、大発動艇を操作していた。

 

「うわぁ………派手にやられてるなぁ………薄雲ちゃんが助けに行ったとはいえ、よく轟沈しなかったね。」

「清霜ちゃん、驚いている場合じゃなくてよ。雷ちゃんは艤装の状態もかなり危ないし、一刻も早く入渠されないと。」

「朝日さんの言う通りですわ。清霜さんは、足の方を持って下さい。私は頭を………あら?何か呟いていましてよ?」

 

即刻大発に移し替えようとした夕暮の言葉で、雷の口が動いているのが分かる。

彼女は、血反吐を何度か吐きながらも、虚ろな目で呟き始めた。

 

「ぞ………う………えん………?」

「そうだ、雷さん!敵は薄雲さんが全部沈めてくれたから!後は入渠する事だけを………。」

「おね………がい………が………ある………の………。」

 

視点が定まってはいなかったが、手を無理やり上げようとしたので、薄雲がその手を持ってそこにいる事を伝える。

すると、雷は信じられない事を告げる。

 

「わた………し………あと………にして………。」

「はあ!?何………むぐ!?」

 

佐渡が思わず大声を上げてしまったので、清霜が口を塞ぐ。

薄雲は冷静に雷の言いたい事を悟り、問いていく。

 

「それはつまり………、石垣さんと能美さんの入渠を優先させろ………と?」

 

雷は僅かだが頷く。

確かに石垣は全身に火傷を負っているし、能美も左腕が無くなっている大怪我だ。

だが、優先順位を考えれば、今の雷を真っ先に癒すべきなのは誰が見ても明白である。

 

「雷さん………私達は自業自得だから………。」

「後で………大丈夫………だから………。」

 

実際、能美も石垣も辛そうではあったが、雷を先に入渠させて欲しいという強い意志を示す。

しかし、雷は首を横に振ると、更に無理に喋り出した。

 

「きず………あと………。のこった………ら………いや………じゃない………。」

「雷さん。自分の言っている言葉の意味、分かっていますか?」

 

薄雲が、敢えて確認のために問いかける。

能美や石垣の入渠を優先させるのならば、その分、雷は朝日によって応急処置を施されても本格的な治療は遅れてしまう。

つまり、それは………。

 

「かくご………のうえ………よ………。このこ………たち………つらいめ………に………あった………から………。まもらな………かった………ら………うら………む………から………。」

「………これは、無理やり入渠させようとしたら、何をしだすか分かりませんね。」

 

薄雲が深々とため息を付くと、唖然としている佐渡達を見る。

 

「急いで大発に乗って下さい。石垣さんと能美さんは、入渠準備をお願いします。雷さんは、こちらで応急処置を行いますので。」

 

雷による瀕死の中での願いもあり、その決定に逆らえる者は誰もいなかった。

とにかく急いで入渠を済ませようと、海防艦娘達は大急ぎで大発に乗り込む。

人数オーバーであったのと、クルーザーの護衛をしないといけないのとあって、薄雲と清霜は敢えて外で左右を囲むように航行する。

 

「じゃ、行くわよ。しっかりと捕まってて!」

 

陽炎の言葉で、クルーザーは北西の方角に向けて急いでUターンをする。

屋外デッキの上で、夕暮は佐渡達に伝える。

別の艦娘が、海風達や貨物船を誘導しているという情報を。

 

 

しかし、佐渡達の耳にはそこまでの事は入らなかった。

只、朝日によって応急処置を施される雷の姿を見ている事しか出来なかったのだ。




増援でやって来てくれたのは、薄雲。
しかし、改二艦で無いにも関わらず、単騎で改ル級3隻を殲滅する謎の存在。

そもそも「コンビニ」って何?………って思う方も多いと思います。
次回に説明が入りますので、お待ちください。
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