列車の屋根の上で、空母棲鬼の攻撃機を迎撃する事になった雷達。
途中、海風が敵機の爆風で傷つくというハプニングが起きる物の、岸波達第三十一駆逐隊の加勢などにより、事なきを得る。
しかし、大湊駅に着いた雷達を待っていたのは、海防艦である佐渡の悪戯と悪態であった。
傷ついた艦娘を馬鹿にする佐渡に対し説教をする雷であったが、彼女はこの町の市民は守る価値も無いと言う。
どういう事かと思った一同であったが、そこに大湊警備府の秘書艦である熊野が現れ、佐渡の首根っこを掴みながら、バスに乗るように促す。
大湊警備府へと向かう雷達を待っているのは………。
「これで………良しと。」
「ありがとう、夏雲。貴女、何でもできるのね。」
「い、いえ………そんなわけでは………。」
大湊警備府に向かうバスの中では、夏雲が海風の負った足の火傷の応急処置を施していた。
救急セットが配備されていたので、それを使いたい………とお願いした為、熊野が許可を出してくれたのだ。
こんな事が出来るのも「第一級工作艦技術者免許」を取る過程で、艤装の整備だけでなく、艦娘の体の傷を治療する事も求められているから。
とにかくそんな夏雲のお陰で、海風の火傷はだいぶマシにはなった。
………まだ、竹によるお姫様抱っこは必要だが。
「へっ、そんなナヨナヨした事が出来たって、自慢に何か………痛ぇ!?」
「自分が出来ない癖に、他人をこき下ろすのは感心しませんわね。」
助手席でふんぞり返っていた佐渡は、運転をしている熊野に、片手で頭を叩かれ思わずうずくまる。
扱いを見る限り、どうやらこれが平常運転であるらしい。
その様子を見て、雷は思わず首を傾げる。
(佐渡って艦娘は、あそこまで捻くれていたかしら?)
30年も艦娘をしている雷は、当然ながら他の同型艦である「佐渡」という艦娘にも出会った事がある。
だが、いずれの艦娘も俺様口調でありながらも、海防艦である事や守る事に誇りを持つ者達ばかりであった記憶があるのだ。
しかし、この佐渡に限って言えば、誇りも何も存在していない。
先程の怒りの言葉を額面通りに捉えるのならば、早く出世して、この大湊からさっさと出ていきたいという想いしかないように感じた。
「ねえ、佐渡。」
「何だよ、お前もまた文句あるのかよ!」
「私には、雷って艦名があるわ。貴女、大湊の町は嫌いなの?」
雷の質問に、周りが静かになる。
熊野も溜息を付くが、否定しようとはしない。
佐渡は、雷の方を向かずにボソリと言った。
「大嫌いだよ。こんな忌々しい町なんか………。」
そうしている内に、バスは大湊警備府へとたどり着く。
検問をした後に中に入ろうとすると、人々が警備員に楯突いているのが分かった。
「もしかして、空母棲鬼の件で色々とあったから………。」
「それもそうですけれど、最近はずっとこんな感じですの。………詳しい事は庁舎で話しますわ。………と思ったら、あの子達、またサボって。」
呆れた熊野の声に皆が前を向くと、そこには佐渡と同じくらいの背丈の海防艦娘が5人、何と波止場でカードゲームに勤しんでいた。
どうやら今は夜間訓練の時間であるらしく、堂々とサボっているらしい。
「何………アレ?」
珍しく不知火が呆れたような発言をしたが、熊野は頭を抱えて首を振るばかり。
やがて、バスが止まると、佐渡が、混ぜろ!………と言いながら真っ先に降りていく。
その姿に海防艦達が集まると、その中のロリポップを加えた黄褐色のビッグテールの艦娘が聞く。
「あ、佐渡!どうだった、新しい駆逐艦達?」
「どうもこうも最悪だぜ。戦力になりはしねぇよ。」
「えー………只でさえ、最悪なのに。これ以上面倒が増えるの?」
バスを降りて来た雷達に向かって、佐渡と会話をした海防艦はべーっと舌を出す。
雷は30年の経験から、目の前の海防艦娘を特定する。
「貴女はもしかして、「八丈(はちじょう)」?」
「何よ、あたしを気安く呼ばないで!」
敵意を向けるような視線を送った八丈であるが、熊野が腰に手を当て叱る。
「真面目に訓練も出来ない艦娘が、何を仰るの?ちゃんと自己紹介くらいしなさい!」
逆らったら秘書艦権限で罰を与える………と言わんばかりの熊野の目を見て、6人は顔を合わせてしぶしぶと喋り出した。
まずは、黒い髪の少女。
「私は………「石垣(いしがき)」、それだけよ。」
それだけを言うと下がっていく。
次に出て来たのは、割と背の高い緑髪の少女。
「「能美(のうみ)」よ、必要な時以外は近づかないで。」
こちらも塩対応。
更に出て来たのは、佐渡と似た格好の青髪の少女。
「福江(ふかえ)」だ。何であたしが海防艦なんかに………。」
海防艦である事に納得が言っていない様子。
最後に出て来たのは、こちらも似たような恰好の、白髪の度のキツイ眼鏡の少女。
「平戸(ひらと)です。うふふ………私達に関わると痛い目を見ますよ?」
割と丁寧口調で微笑みながら会話をしたが、目は笑っていなかった。
彼女達はペコリと挨拶をすると、再びカードゲームに従事していく。
熊野はもう、諦めたように溜息を付いていた。
「本当にゴメンなさいね………うちの不良海防艦達が迷惑を掛けてしまいまして。」
「いえ、別に………。」
「ドックに案内しますわ。「高速修復材(バケツ)」も用意しますので、海風を早く。」
そして、工廠のドックへと歩んでいく。
雷は歩こうとして、ふと気づく。
早霜がずっと海防艦達を見ているのを。
更に、その後姿を不知火が離れて眺めているのを。
「早霜、不知火………置いていくわよ?」
「ええ………。」
「今行きます。」
踵を返し雷に付いてくる2人であったが、何処かその様子に違和感を覚えた。
――――――――――――――――――――
艦娘は特殊な薬剤の入った風呂に入る事で、傷を癒す事が出来る。
これを入渠と言い、高速修復材(バケツ)と呼ばれる特殊な劇薬を使う事で、一瞬にして治す事も可能なのだ。
どの程度その効用があるかというと、最悪、頭と心臓が残っていれば完治が出来る程である。
その為、高速修復材(バケツ)を使った海風は、数分でドックから出てくる事が可能だ。
雷達の艤装は、その間に工廠の妖精さん達に預けられる事になり、整備される事になった。
特に整備の必要が無いかもしれないが、実は寒冷地用の対策として、特殊なクリームを塗りこんでいる。
「すぐに、出撃をしないといけないのでしょうか?」
「その面も含めて庁舎で話しますわ。付いて来てください。」
あらかじめ予備があったのか、新品の制服に着替えて来た海風を始め、雷達を熊野が導く。
夜中に出撃をするという事は、足止めに入っている第三十一駆逐隊と入れ替わりになるのかもしれない。
そう感じた雷達は、庁舎の執務室へとたどり着く。
「提督、入りますわよ。」
ノックをしたうえで、熊野が扉を開けると………彼女と同じ位の女性が、足を書類の束の乗った机に乗せて、だるそうに提督の椅子にもたれかかっていた。
ライトグリーンの長髪が綺麗な女性で熊野と似たような制服を着ている所から見ると、同じ艦種だろう。
雷は30年の経験から、彼女の艦名も分かった。
「もしかして………「鈴谷(すずや)」さん!?」
「お、チーッス!鈴谷の事知ってるって事は、結構なベテランじゃん!」
「いえ………ってまさか、鈴谷さんが提督やってるんですか!?」
雷の驚きの声に、仲間達もビックリする。
即ち鈴谷は、艦娘が提督の職をこなすという「艦娘提督」であるのだ。
「ま………ちょっち色々あってね。今の大湊警備府の提督は私………鈴谷が担当してるの。」
「そう………だったんですか………。」
最近は前線に立って働くはずの艦娘に教育を施し、提督の地位に据える事があった。
その最大の理由としては、艦娘は艤装を付ける事で生存能力が劇的に上がる事が関係している。
何せ人間の提督では、深海棲艦に襲われてしまっては非常に脆い。
爆撃などを受けてしまったら、跡形もないのだ。
だからこそ、艦娘提督という存在が成り立つ。
しかし………。
「あの………大湊警備府も………深海棲艦の襲撃を受けたんですか?」
雷はおずおずと、鈴谷に尋ねる。
艦娘提督が起用されるのは、主に襲撃を受けやすい泊地や最前線の軍港都市である事が多い。
それなのに陸奥湾に面しているとはいえ、内陸の大湊で航巡の鈴谷をわざわざ提督に据えないといけないのは、かなり戦況が追い詰められているのでは?………と雷は思ってしまったのだ。
その意図を悟ったのか鈴谷は、あはは!………と笑いながら、机を飛び越え雷達の前に歩み寄ってくると、少し困った顔で左手の薬指を見せた。
ハッキリと見えたのは、輝かしい銀色の指輪。
「これ、鈴谷のカッコカリの証。「市民に殺された」前提督との契りかな。」
「え………!?」
この衝撃的な発言には、雷だけでなく他の6人すらショックを受ける。
彼女は、寂しそうな顔をしながら説明を始める。
何でもまず、陸奥湾の入り口を防衛する、大間市の「大間港軍港都市」の提督が深海棲艦の爆撃を受けて戦死したのが始まりであるらしい。
代理の提督が地理や戦況に馴染むまでの間、防衛線はボロボロ。
その間に、深海棲艦は陸奥湾に侵入し様々な場所を襲撃していった。
「その間の戦況を必死に立て直してくれてたのが、精鋭である岸波達の第三十一駆逐隊なの。」
駆逐艦は回避に長けている為、高練度だと傷つきにくく入渠時間も短い。
だからこそ、時には強硬出撃をしながらも敵艦の迎撃に対応してくれたのだ。
しかし、「ある問題」が発生して、対応がしきれなくなってしまった。
「ある………問題ですか?」
「後で分かるかな。とにかく、そういうわけで被害が最近増えちゃって。」
前大湊提督は苦悩をしながらも、必死に乗り切ろうとした。
だが、そんな苦労など、市民が知るよしも無い。
被害が出た事で家族を奪われた、とある市民の凶刃によって、前提督は命を奪われてしまったのだ。
「そんな………。」
「ま………提督業あるあるだよね。だから、仕方なく鈴谷が嫁艦として奮闘してあげているわけ。」
「その割には、前提督の苦労も鈴谷の苦労も分かっていない海防艦娘達がいるみたいですけれどね………。」
鈴谷が胸を張って左手をドンと当てる仕草を見て、熊野が殊更に溜息を付く。
十中八九、訓練をサボっている佐渡達の事だろう。
「あの子達は………?」
「うーん?そろそろ寝て、明日の昼までぐっすりなんじゃないの?楽して出世したいのが、モットーみたいだし。」
当たり前のように言う鈴谷を見る限り、放任主義というか、もう対処を諦めてしまっているかのようだった。
ここで、雷の後ろにいた海風が質問をする。
「あの………私達は、この後出撃でしょうか?」
「あ、そうそう!ゴメン!転籍していきなりだけど、岸波達の後を受けて援護に回って欲しいんだけどいいかな!?」
鈴谷が思い出したように、手をポンと当てる。
7人は顔を見合わせて、不安そうになる。
提督はこういう時、しっかりと命令をしなければならない。
問いかけてしまう辺り、鈴谷はまだ艦娘提督としての経験値が足りないようにも思えた。
思わずため息を付きそうになったが、ここは不知火が敬礼をしながら答える事に。
「分かりました。………して、旗艦は?」
「そっちで決めていいよ。」
「………では、列車での対応時と同じく、海風旗艦で不知火が補佐で………艦隊名は?」
「え?………うーん、そうだね………「第九十九駆逐隊」ってどうかな?「緊急」で来たし、「九十九」!うん、当て字としていいね!」
「はあ………。」
思った以上に大丈夫か?………と思った一同であったが、とにかく出撃というからには準備をしないといけない。
そう思った所で、執務室の電話のベルが鳴る。
鈴谷が慌てて取りに行くと、大声が聞こえた。
「ちょっと!?折角、嫌いな夜戦終えて来たのに、迎えの1人も立って無いってどうなってるの!?あの海防艦娘達は!?」
「あー、ゴメン。みんな寝ちゃったかな。今行くから待ってて。」
かなり苛立った声の主に謝りながら、鈴谷は雷達を導きながら庁舎を出ようとする。
恐らく岸波達が戻って来たのだろうと感じた一同は鈴谷に対し、不安を隠しきれずに追いかけていく。
「何度も繰り返してしまいますけれど………本当にゴメンなさいね。鈴谷はアレでも必死だし………悲しむ暇も無かったから。」
だが、後ろから追いかける熊野にそっと言われた事で、雷達はハッとした。
鈴谷は、愛する者を失っているのだ。
気持ちを整理しきれない中で、艦娘提督になる道を選んだ事を考えれば、その苦労は計り知れない。
だからこそ熊野は、空気を読まない佐渡達にも苛立っているのだろうが………。
その心をくみ取ったのか、春風が笑みを見せる。
「しばらくはわたくし達が、鈴谷さんを支えれば宜しいのですね。」
「お願いしますわ。第三十一駆逐隊だけでは、もう限界ですの。何故なら………。」
庁舎の外に出た所で、雷達は息を飲む事になる。
そこには空母や軽巡などに支えられる形で、血みどろの駆逐艦娘達が居たからだ。
当て字ではありますが、これで「第九十九駆逐隊」結成です!
そして、佐渡を始め、八丈・石垣・能美・福江・平戸が、メインの海防艦達になります。
いずれも、本来ならば守る事に誇りを持つ艦娘達ばかりなのに、彼女達は皆、何処かおかしいですね。
何があったのかについては、その内明かす予定です。
気になった方は、申し訳ありませんが、しばらくお待ちください。