大楯の雷   作:擬態人形P

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第31話 ~似て非なる者~

自分の非力さに悔恨を覚えて泣きわめいていた夏雲は、艦娘補給用物資販売店………コンビニの店員である峯雲に落ち着かせてもらっていた。

彼女の温かな対応に、ポツリポツリとだが心の闇を話しだす夏雲は、思いっきりネガティブな側面を吐き出す。

 

そんな中、竹がやってくると、峯雲がいるにも関わらず自身の過去………過去に深海棲艦化し、ドロップ艦として夏雲に助けられた事を話し出す。

極秘中の極秘事項を平然と話す竹に夏雲は動揺。

だが、竹はどんな理由があっても、自分は前の軍港鎮守府で庇ってくれた夏雲に感謝していると言い、頭を下げる。

その不器用ながらも真っすぐな彼女の姿勢に、夏雲は理解者の存在を思い出し、何とか前を向ける事に。

 

そんな中峯雲に、改ル級達を圧倒した薄雲もまた、ドロップ艦なのか知りたいのだろうと言われ竹は驚く。

どうもドロップ艦は、深海棲艦化の力を残したドロップ艦を特定する事が出来るらしく、薄雲は竹に特定可能だったらしい。

真実を伝えても、コンビニの仲間達に受け入れられている薄雲を羨む竹であったが、峯雲は第九十九駆逐隊も、いつかそんな関係になれると太鼓判を押す。

 

一方で体を慣らした雷は、貨物船の護衛任務に就かないといけないと言い出し、艤装が破損していることもあって皆にストップをかけられる。

とはいえ任務を放棄するわけにもいかない為に、色々な手段を考える九十九駆であったが、そこに単冠湾泊地から、任務の引継ぎにやって来た曙が現れた。

 

 

曙に連れられて工廠に入って来た仲間は3名。

1人は雷の暁型の艤装を白くした物を装備した、腰まである銀髪の艦娘。

1人は峯雲と同じ芦黄色の長いツインテールに、鎖が印象的な艤装の艦娘。

1人はロングの銀髪に眼鏡を掛けた、如何にも外国籍のような艦娘。

 

「「ヴェールヌイ」だ、宜しく。………雷がいるし、「響(ひびき)」と言った方が分かりやすいかな。」

「はいはーい!「村雨(むらさめ)」さんだよ!コンビニに寄るのは久しぶりね!」

「こんばんは。私は「ヘイウッド」。艦としての生まれは大湊にいるアトランタと同じよ。」

 

3人の艦娘が入ってくると、次々と頭を下げる。

九十九駆を始め、海防艦娘達も同じように挨拶をするのだが、ここで工廠の外から困った顔で藤波と三日月が覗き込んでくる。

 

「どうしたの、2人共?」

「ええっとね………曙さん達は5人で来てくれて、実はもう1人護衛がいるんだけど………。」

「あくまで「別人」。「別人」よ、雷。………大丈夫?」

「大丈夫って………何が?」

 

2人が言わんとしている事を理解できない雷は、首を傾げる。

しかし、曙が嘆息すると2人に言った。

 

「どういう事情があるかは知らないけど、挨拶させないわけにはいかないでしょ?ほら、入って来て。」

「分かりました。………どうも。」

 

曙に促されるように、最後の1人が入ってくる。

その艦娘は若干小柄。

薄群青色の髪をツーサイドアップで纏めているのが特徴。

藤波と三日月から話を聞いたのか、若干申し訳なさそうな顔をして入って来るその艦娘に………雷は心当たりがあった。

 

「う………そ………。」

 

思わずバランスを崩し倒れそうになったので、近くにいた海風が咄嗟に支えた。

特徴であった煙突帽子を被っていないし、小柄とはいえ体格も良くなっているので、実際は細部に違いがある。

だが、それでもその艦娘は、「夢の中で出会う初期艦」に酷似していた。

 

「あ………ああ………。」

 

あくまで別人だ。

その初期艦は雷を庇って沈んだのだから。

だが………その容姿は瓜二つであったのだ。

彼女が尤も敬愛するあの艦娘に………。

 

「大潮………。」

 

自然と雷の目から涙が流れた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

『……………。』

 

単冠湾泊地の大潮と面と向かって出会い、雷が落ち着くまでにしばらく時間を要した。

その間、大潮は少々バツが悪そうにしていたが、貨物船との交渉をヴェールヌイ達に任せて曙と共に工廠にいてくれた。

この対応を見たら、海風達でも佐渡達でも分かる。

雷が以前語っていた、自分が原因で沈めてしまった初期艦の正体が何者であるのか。

 

「ゴメンなさい………貴女には何も関係無いのに、動揺しちゃって………。」

「いえ………何やら重苦しい事情があるのは、雰囲気で感じ取れましたし、それに………初期艦であった私の同型艦に関する噂は………耳には入れていましたから。」

 

目の前の改二艦である大潮は、初期艦である大潮が沈んだ後から艦娘になった者の1人だ。

それだけ同じ姿をした「同型艦」と呼ばれる艦娘の存在は増えて来ているのだが、運が良いのか悪いのか、雷は別の大潮に出会った事が無かった。

横須賀鎮守府に長年一緒に過ごしていた藤波や三日月は、雷のそんな側面を知っていた為に、大潮との出会いを警戒してくれたと言える。

 

「あの………大潮に出来る事があるのならば、何か聞きますよ?」

「顔………触ってみてもいい?」

 

初期艦大潮の壮絶な最期を知っているだけあって、目の前の大潮は、関係者である雷に協力をしてくれる。

それに感謝をしながら、雷はそっと海風に支えられながら前に出ると、その頬を撫でた。

こんな寒い中でも、若干体温が高く柔らかい頬っぺたの感触。

生きていた頃の初期艦大潮と変わらない感覚に、雷の涙の雫は更に落ちる。

だが、ある程度撫でると、その感覚を振り払うように首を振って手をゆっくりとどけた。

 

「もう………いいのですか?」

「うん………私の罪は………一生消したらいけないもの。」

「……………。」

 

寂しそうに微笑む雷を見て、大潮は黙り込む。

一通り会話の流れを見ていた曙が、パンパンと手を叩くと海風に告げる。

 

「じゃ………満足した所で引継ぎ作業ね。契約書の受け取りと、ここに新しい承諾のサイン。」

「ええ………。」

 

勝手に持ち出されたサイン入りの書類は、既に佐渡から返却されていたので、それを渡す。

そのうえで、海風が旗艦として代表して新しい書類にサインを書いていく。

これで、曙達がここから護衛を引き継ぐ事が成立した。

 

「ありがと。………そうそう、アンタ達とヤンチャな海防艦達の帰りなんだけど、今、「はくちょう」が様々な場所で戦場の後始末をしながら北上してくれているわ。」

「敷波達の船が………?」

「明日の夕方にはこのコンビニに着く予定。大湊まで送っていってくれるみたいだから乗せて貰うといいわよ。」

 

曙はそう言うと、最後に後ろに並んでいた海防艦娘達の所に歩いて行く。

佐渡達は今回の命令違反で迷惑を掛けた事を叱られるのだと思い俯くが、両腕を組んで堂々と立った曙は、真剣な顔で彼女達を見るとハッキリと告げた。

 

「アンタ達、強くなりなさい!」

『え………?』

「自分の評価も相手の評価も変えられる、唯一の手段よ。覚えておくといいわ。」

 

それだけを言うと、ニヤリと笑って去っていく。

後ろ姿を追いながら、大潮が嘆息する。

 

「曙も、昔は荒っぽさアゲアゲでしたからね。」

「余計な事は言わなくていいのよ!………じゃ、また会いましょ。」

 

こうして曙達は、貨物船を連れて幌筵泊地に出発する事になる。

船を見送った雷達は、ここでドッと疲れが出た。

無理もないだろう。

先日の夜に欧州装甲空母棲姫の討伐任務に赴いてから、ほぼ休まずに動き回っていたのだから………。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

流石に丸1日以上動き回っていれば、「赤疲労」と呼ばれる集中力が切れる状態になっていてもおかしくない。

こうなると、海戦でも悪影響が見るからに出てしまう為、薄雲にお願いして休める場所を確保して貰う。

まず工廠を借りた事で、元々体力の無かった海防艦娘達は、緊張が解けた事もあり泥のように眠りに付く。

暖房を利かせた中で6人纏まって毛布にくるまって眠る事になったのだが、今の彼女達は雷がいないと非常に不安になってしまった為、傍に彼女も付いた。

雷は雷で、入渠明けの病み上がりであった事もあり、割とすぐに眠ってしまう。

それだけ、まだ肉体も精神状態も回復しきっていない状態であるとも言えた。

彼女達7人から少し離れた場所では、海風と春風が、藤波や三日月と共に、その様子を観察している。

 

「あの雷ちんが他人を気にする余裕も無く、ぐっすり先に眠っちゃうなんてね………。」

「文字通り死地をさまよっていたもの。むしろ眠らせてあげた方がいいわ。」

 

横に寝そべった状態で床に肘を付き、頬に手を当てながら眺める横須賀の2人。

その言葉を聞いて、春風が思わず聞いてしまう。

 

「横須賀時代の雷さんは、ずっと他者を気に掛けていたのですか?」

「そうだよ。大潮ちんを自分のミスで沈めちゃった後は………ね。まあ、私達が偉そうに言う資格はないんだけど。」

 

藤波が少し陰りのある表情で呟く。

雷とは、荒れていた頃には取っ組み合いのケンカを行い、後悔した後には慕っていた初期艦を沈めた事に対し、怒りの目を向けていた2人なのだ。

その後悔があったからこそ、今回龍鳳と共に、大湊への増援を買って出たという理由がある。

だからこそ、藤波はこうも言った。

 

「………文句あるなら、好きに言っていいよ。過去の事実は覆せないし。」

「い、いえ………わたくし達も駆逐隊結成初期の頃は、同じように殴り合いをしましたので………。」

「そうね。雷を怒りに任せてボコボコにしたわ………。」

「そうなの?………じゃあ、最終的に自分を犠牲にする姿勢はやっぱり変わらないのね。」

 

三日月が半分呆れて、半分やるせないような感情を示した。

改心した雷は、横須賀にいた頃から自己犠牲精神を発揮していたらしい。

大湊で同部屋である早霜や不知火は、ある程度は雷の過去を知ってはいたが、海風や春風にとっては初めての内容だ。

しかし、今回の件で明確に体に傷がついた事で、2人も雷のその過剰ともいえる精神が危険だという事が分かってきている。

故に、海風はボソリと告げる。

 

「このままだと………雷は自分の生き様を貫いて、壊れるかもしれないわね。」

 

長い艦娘歴から直感で悟った夏雲や、彼女から話を聞いていた竹でなくても、皆が分かり始める事実。

雷は無意識であったかもしれないが、単冠湾泊地の大潮と相対した時にも、自身の罪に縛られている気配があった。

 

「文句の代わりに、我儘前提で言うわ。彼女を許してあげる事は出来ないの?もう十分、罪は償ったじゃない。」

「ゴメンなさい、無理よ。横須賀の司令官でも、彼女を救ってあげられなかったもの。そもそも、私達みんなが許しても、雷自身が許さない。」

「この生き様は、大潮ちんに対する贖罪だと思ってないからね。時間が経てば経つほど、その身を削る事が自分のやるべき使命だと感じてしまっている。」

 

三日月や藤波は悲しい顔をしながらも、ハッキリと言う。

雷の生き方は、一見すればとても綺麗なものに見えるだろう。

献身的になる事で、1人でも多くの人々を救おうとする。

それは、とても素晴らしい事だ。

だが、当然ながらやり過ぎる事で、雷自身が危険に晒される。

心の奥底では許されてはいけないと思っている為に、ブレーキを掛けられない。

このままでは、いつか本当に死を迎えてしまうだろう。

実際今回は、奇跡が起きなければ死んでいた。

 

「………九十九駆の旗艦として、少しは成長出来たかと思ったけど、全然ダメね。まだまだ、課題が多いもの。」

「わたくしも………。可能ならば雷さんを支えてあげたいですけれど、出来ない事が多くて仕方ありません。」

 

海風も春風も、雷の悲しい生き様を痛感し、落ち込んでしまう。

その肩を叩きつつ、藤波や三日月は何とか励まそうとする。

 

「力の無い自分を痛感する気持ちは分かるよ。私達も、ここまで追い込んだ事………後悔してもしきれないし、出来る事ならば雷ちんを救ってあげたい。」

「でも………繰り返すけれど、雷自身が自分で自分を許してあげようとしない限り、彼女が死神の鎌から逃れる事は出来ないわ。」

 

結局のところは、全ては雷次第。

周りが出来る事と言えば、彼女が人生のレールをはみ出さないように、支えていく事くらいなのだ。

雷が自分を犠牲にしてでも他者を救うのならば、その雷を全員で守っていくべきである。

旗艦である海風は勿論、彼女を支える艦娘達が何かしら出来る事を見つけていくしかないのである。

海風や春風はもう一度、海防艦に囲まれた状態で眠りに付く小さな艦娘を見る。

艦娘として思ってはいけない事だが、感じてしまった事を素直に海風は呟いた。

 

「このまま………艤装が直らず、雷が退役できればいいのに………。」

 

滅茶苦茶な願いではあったが、雷の心と体を守るうえでは一番の選択肢とも思えた。

無論、雷は大湊に戻ったら、即座に自分の艤装を取り戻す事を望むだろう。

重々承知でも………彼女が戦いから離れる道を、願わずにはいられなかった。




顔見せ程度ですが、単冠湾泊地の艦娘達が一部登場です。
この世界には、「同型艦」と呼ばれる同じ姿をした同じ艦種の艦娘達がいます。
例えば、雷だったら、雷の姿をした艦娘が複数いますね。
今回出会った大潮は、初期艦の大潮とは別人であるとはいえ、雷を動揺させる要因になりました。

そんな雷の生き様は、九十九駆で危険視され始めますが…さて、果たして彼女はどうなるのか…。
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