大楯の雷   作:擬態人形P

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第32話 ~深海の力~

曙が単冠湾泊地から連れて来た仲間は、ヴェールヌイ、村雨、ヘイウッド………そして、雷が沈めてしまった者とは別人の同型艦である大潮であった。

思わず涙を流して動揺する雷であったが、最終的には割り切り、自分の罪はこの大潮と出会っても消えないと決意を新たにする。

 

その後、貨物船の護送を曙達に譲った事で疲れが出た雷達は、艦娘補給用物資販売店………コンビニで休ませてもらう。

工廠で海防艦娘達と眠る雷を見た海風と春風は、藤波や三日月と語らい、雷の過激すぎる自己犠牲精神について話し合う。

例え皆が許してあげても、雷自身が自分の愚行を許そうとはしない。

自分達の力の無さを呪いながらも、海風は思ってしまう。

このまま雷が退役できれば、もう苦しむ事は無いと。

無理な願いだと分かりつつも、そう祈られてしまう雷の明日は………。

 

 

同時刻。

早霜と不知火、夏雲と竹は、高速クルーザーの運転席で眠る事を許可されていた。

夏雲と竹は、先にやりたい事があるという話だったので、今は早霜と不知火だけがそこで毛布にくるまっている。

 

『……………。』

 

正直、雷がいなかった為、2人で眠るのは本当に久々であった。

故に、2人は何を語ればいいか分からなくなってしまう。

無論、何も語らず休むという選択肢もある。

だが………不知火はどうしても聞いておかなければならなかった事があった。

 

「早霜………。」

「何?」

「いえ………。」

 

結局はコミュ力不足により、言いたい事が言えない。

しかし、不知火の脳裏に前に雷に泣かせてもらった時の事が思い出される。

 

(少しずつでいいから、早霜と再び仲良くなれるといいわね。)

(………できるでしょうか?)

(貴女達が踏み出せば、少しずつは出来るわよ。私には、少なくともまだ手遅れじゃないと感じたわ。)

(………ありがとうございます。私もまだまだですね………本当に。)

 

(そうだ、踏み出すんだ………。でないと………何も変わらない!)

 

不知火は深呼吸をするとガバッと起き上がり、早霜の両腕を掴む。

いきなりの彼女の行動に早霜は目を白黒させるが、構わず思いっきり頭を下げた。

 

「先生………!先日は助けて下さり………ありがとうございます!」

 

勢い余って、人間時代の関係を象徴する「先生」呼びをしてしまったが、不知火はジッと目を伏せ、頭を垂れて震える。

陸奥湾での欧州装甲空母棲姫との海戦で、不知火は早霜に庇われた。

その結果、早霜は右肩を抉られる重傷を負ってしまったが、「今度は「生徒」を救えた」事実に満足をしていたのだ。

不知火が自分の仲間である生徒達を守れなかった教師である早霜に対し、昔、散々当たっていたのに………である。

 

「でも、もう一度聞きたいんです………!何故、私なんかを庇ったのですか!?私は、貴女にすべての責任を転嫁した!やっぱり私は………!」

「最悪じゃないわよ。」

「え………?」

 

突如告げられた言葉に、不知火はきょとんとし、顔を上げる。

早霜は穏やかに微笑みながら、彼女を見ていた。

何故、自分の言葉を先読みできたのか?

その答えを示すように、彼女は立ち上がって不知火の頭を軽く撫でながら告げる。

 

「正直………嬉しかったわ。こんな私の事を………まだ、仲良くしたいって思ってくれているなんて。」

「あの………それって………ま、まさか!?」

 

不知火は気付いてしまう。

早霜の述べている言葉は、全て不知火が雷と2人だけで話したはずの内容なのだ。

だが、それを知っているという事はつまり………。

 

「あ、あの時………起きていたんですか!?」

「アレだけ私が泣き叫んでも、貴女は身じろぎ一つしなかったもの。雷じゃなくても狸寝入りをしていたって分かるわよ。」

「で、では………!?」

「貴女が何を思っているのか気になったから、狸寝入りをやり返したの。雷は気付いていたと思うけれど、見逃してくれたわ。」

 

ハメられた………と不知火は思った。

あの時の会話は、ある意味雷の策略によって、お互い、全て本音が筒抜けになってしまっていたのだ。

だとしたら、自分が早霜に八つ当たりをしていたのを後悔していた事や、そんな自分を変える為に改二艦を目指した事など、全部早霜の耳に入っている。

恥ずかしさの余り、思わず赤面して俯いてしまう不知火であったが、早霜はクスリと笑うとしゃがみこみ、その顔を覗く。

 

「正直ね………「先生」、嬉しかったわ。思う存分呪詛の言葉を投げかけられる覚悟をしていたから………。」

「………言えるわけがないじゃないですか。先生は先生なんです。私が………尊敬している。」

 

ここまで丸わかりであるのならば仕方がないと、不知火は顔を上げると早霜を見る。

その瞳には、力強さがあった。

 

「先生………私が貴女を追って艦娘になったのは、みんなの復讐をするだけでなく、貴女を守りたいと思ったからでもあるんです。」

「まるで………艦の「早霜」と「不知火」のような関係ね。あの時は助けに来た艦の不知火が敵の返り討ちにあって轟沈したけれど………。」

「そうですね。だから、「不知火」は私に力をくれているんだと思っています。」

 

艦時代の記憶は、艦娘自身とシンクロをする事で、より強い力を発揮すると聞く。

不知火は、助けられなかった早霜を助けたいと思った事で、その力が短期間でぐんぐん伸びたのかもしれないと感じていた。

無論、まだ感情的になりやすい部分もあるので、海戦では危険要素と言えるが………。

 

「共に大湊に転籍をしたのも、復讐の為だけではありません。先生が心配だからだと思ったからです。」

「本当に………逞しくなったのね。あんなに可愛い子供だったのに。」

「どれだけ恨みを言っても、先生が責任を持って育ててくれたからです。だから………だから………!」

「ゴメンなさい。」

 

不知火が述べようとした事を、今度は人間時代の癖で見破った早霜が、手で口を押さえる。

その先に言おうとした言葉は、「復讐なんか止めて静かに暮らしましょう」………である。

 

「私は………深海棲艦を恨む事を止められないわ。貴女以外の生徒達の命の灯を奪った………。」

「みんな………望みませんよ、そんな先生の姿。海風や雷達なら分かってくれるはずなのに………。」

「そうね。九十九駆の仲間のみんななら分かってくれる。でも………この憎悪の感情はかき消せないわ。」

 

早霜の瞳に暗い影が落ちる。

確かに不知火を含め、慕った先生が復讐をしようとする姿は誰も望まないだろう。

だが………何処かでケジメを付けなければ、早霜自体が前を向けない気がした。

しかし………。

 

「それに………私はそんな先生の姿が、危険にも思えるのです。」

「どういう事………?」

「何か………上手く言えないのですが………何処かで何か大切なものを失いそうな気がして………。」

「不知火………貴女………。」

 

不知火は不安になる。

雷の策謀がきっかけで、こうして2人で話す事が出来るのに、何か良からぬ事が起こりそうな気がしてしまっていた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

更に同時刻。

竹は夏雲を伴い、コンビニの裏手の桟橋に薄雲と陽炎を呼び寄せていた。

見張りは他のコンビニ店員の面々に任せている為、薄雲達は艤装を装備している物の、基本的には電探くらいしか持っていない。

 

「何か、私に聞きたい事があるみたいですね。」

「ああ………。いや、薄雲さんならもう、分かっているかもしれないけど………その、「同胞」として話を聞いておきたくて………。」

 

竹は周りに人がいない事を確認すると、包み隠さず話す。

自身が1度轟沈をして、穢れに呑まれて深海棲艦化し、ドロップ艦として戻って来たという歪んだ輪廻転生を経験した艦娘だという事を。

 

「峯雲さんは、薄雲さんがこのコンビニで受け入れられている存在だって言っているけれど………本当なのか?」

 

割と失礼な質問であったが、正直に竹は聞く。

薄雲はコンビニ店長スマイルで竹の話に相槌を打っていたが、やがてにこやかに目を閉じ考えると、隣の陽炎を見た。

壁にもたれかかり腕を組んでいた陽炎は、仕方なさそうに頷き、構わないと言った態度を見せる。

その反応を見て、薄雲はスマイルを崩さずに………しかし、胸に手を当てて話し始める。

 

「知っての通り、私………薄雲は深海棲艦化をすると、「深海千島棲姫」という姫クラスの深海棲艦になる事があります。竹さんが察知した通り、私もまた歪んだ輪廻転生を経験した艦娘になります。」

「俺は突撃娘で無茶して沈んだけど………薄雲さんの場合は何だったんだ?」

「単純な理由です。当時の艦隊で囮に使われました。」

『!?』

 

いきなり飛び出した非情な事実を受け、竹でなく夏雲も固まる。

薄雲は少しだけ残念そうな顔をすると、順を追って話していく。

 

「深海千島棲姫はこの北の海を好む傾向にあるみたいで、深海棲艦化した私は北上をしました。勿論、艦娘どころか人間憎しという感情は持っていましたよ。」

「じゃ、じゃあ………。」

「はい。出会った人間は誰かれ構わず、全員ぶっ殺しました。そして、「貴女と同じく」記憶も持っています。」

 

貴女と同じく………と言われた所で、竹はビクリと震える。

正直、吐き気すら感じてしまった。

薄雲………深海千島棲姫は、深海棲艦としての役目を立派に果たしていたのだ。

それはつまり、人間の敵として振る舞い、残虐の限りを尽くしたという事。

薄雲の独白は続く。

 

「私の暴走は留まる事を知らず、この北のコンビニにまで及びました。そして、当時ここの店長だった陽炎さんに魚雷で焼かれた事で、ようやく止まる事が出来たんです。」

「そう………なのか?」

「薄雲の言っている事は、間違いないわね。当時は彼女、今の態度が信じられない位に極度の人間不信だったのよ?」

 

陽炎が言うには、当時の薄雲は人間時代に囮にされた事と、深海棲艦としての拭えぬ罪の記憶から、鎖から切り離された狂犬のような感じであったらしい。

誰彼構わずに喧嘩を吹っ掛け、手に負えない艦娘とは思えないような少女。

そんな人物が一つ屋根の下で暮らしていたのだから、苦労も絶えなかっただろう。

ところが、ある時、転機とも言える時が訪れる。

 

「何が………起こったんだ?」

「私が深海の力を扱えるのは、知っていますね?千島によってもたらされた薄雲の力は、戦場を縦横無尽に駆けられるだけ脚力や瞬発力、速力の強化。そして、主砲をモーニングスターのように自在に扱う能力です。」

「えっと………。」

「ある日、陽炎さんの説教にカチンと来た私は………艤装を勝手に取り出し、同じく艤装を装備していたとはいえ、彼女を完膚なきまでに叩きのめしてしまいました。」

 

竹や夏雲は、思わず顔が青ざめるのを感じた。

深海棲艦化で強化された力で艦娘をボコボコにすれば、どれだけ理不尽な被害を被ってしまうか分かったものじゃない。

実際、皆に止められる頃には、陽炎は瀕死になっており、すぐさま入渠したという。

その後は、当然ながら彼女とは真面に会話を出来ず、薄雲はドロップ艦というだけあって、本土に連れ戻される計画が立てられる事になった。

 

「……………。」

「あの時はまだ、嫌だったんです。私を囮に使った本土に戻る事が。それに、陽炎さんを半殺しにして以降、人間に対する恐怖心が再発して、夜な夜なひっそりと泣きました。」

「それは………えっと………。」

「勿論、全て自業自得です。誰も助けてくれはしないと思い、後悔ばかり抱いていましたね。………でもある日、陽炎さんは、とんでもない暴挙に出ました。」

 

その暴挙の内容をずっと会話をしていなかった陽炎に告げられた時、薄雲は信じられない顔をした。

何故なら陽炎は………自身を副店長に降格させると、薄雲を最も重要な役職である店長に勝手に据えてしまったからだ。

こうなると、幾ら本土に帰還させる計画が立っていたとはいえ、薄雲は下手に、このコンビニから動かせなくなる。

 

「何で私なんかを?………って思ったら、陽炎さんったら、そっぽを向いて、勝ち逃げされたくないから、まだ居て貰わないといけないって言い出して………。」

 

竹や夏雲は唖然とした。

無論、陽炎は改二艦で強力な雷撃能力を誇る艦ではある。

しかし、深海の力を持つ薄雲に勝つなんて、そう易々と出来る事ではない。

だとしたら、陽炎が無茶苦茶な采配をしてでも薄雲を手放さなそうとしなかった理由は1つだ。

本土に戻る事を怖がる彼女を守り、その心を救いたいと思ったから。

 

「その………他のみんなは納得したのか………?」

「後からみんな、こっそりと教えてくれました。陽炎さんが頭を下げてまでして、引き留めさせてくれって言ったって。」

「だから、私はアンタにやり返す日を待っているの。それまで、ここに縛り付けてでも居て貰わないと困るわ。」

 

明らかに照れ隠しなのは、誰が見ても分かる。

そんな陽炎を気にせず、薄雲は語る。

実際の行動を持って陽炎に守って貰った事で、彼女達は信頼してもいいのではないかと思えるようになったと。

これを機に、薄雲は見違えるように変わっていく。

自分の呪われているとすら思える力を、自身の「仲間」と「家」を守る為に使おうと決めた。

誰もその異端の力を責めようとしなかったし、陽炎に至っては相変わらずの撃強だと言ってのける程。

その接し方が、嬉しくて何よりも有り難かった。

 

「だから………このコンビニは私の家で、ここの仲間達は私の家族です。ここでなら永遠に果ててもいい………痛!?」

「縁起でもない事言うんじゃないわよ。………ま、とにかくこれで、竹の疑問には回答出来たかしら?」

「ああ………本当に、聞いているだけで良かったって思えた。俺はまだ………不安だから………。」

 

竹は自分の正体を知られる事に、恐怖の感情を抱いていた。

具体的に思い当たる節もある。

以前、大湊で敷波達が鎮魂の演奏会を響かせた時の早霜の態度だ。

彼女は、深海棲艦を呪っているようであった。

だとしたら………。

 

「俺は………このまま、いつまで九十九駆にいられるのかな?深海竹棲姫としての力を失っているとはいえ、実は、まだ深海棲艦化した事で得た「隠している力」はあるんだ………。それがバレたら………。」

「竹さん………貴女は………。」

 

夏雲が気遣った時であった。

急に放送が鳴り響く。

 

「こちら清霜!東の方から「お客さん」だよ!」

 

それは、深海棲艦の襲撃の合図であった。




第14話で不知火が語っていた事は、どうやら早霜にバレていた模様。
こういう所では、雷は30年戦士として策士とも言えます。

一方、第27話で薄雲が陽炎に激強と言われた事で喜んでいたのは、こうした過去が関係していたのでしょうね。
竹はそんな薄雲が羨ましく、深海棲艦に復讐心を抱く早霜に不安を感じているらしいですが…。

ここで、更に海戦勃発です。
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