久々に早霜と2人きりで休む事が出来た不知火は、彼女に思い切って欧州装甲空母棲姫の時のお礼を言う。
その中で、実は雷の策謀によって早霜に狸寝入りをやり返されていた事を知った彼女は、赤面しながらも、開き直って正直な言葉をぶつける。
先生である早霜を守りたいから艦娘になった。
だからこそ、早霜には復讐なんか止めて、静かに過ごして欲しい。
しかし、早霜は復讐心を消す事が出来ないと述べ、不知火はその感情に危機感を覚える事に。
一方、竹と夏雲は、薄雲と陽炎に深海棲艦化による歪んだ輪廻の話を聞いていた。
薄雲は囮に使われて沈んだ事と、人間を憎んで散々殺戮を繰り広げた事により、極度の人間不信に陥っており、ある日陽炎を完膚なきまでに叩きのめしてしまう。
だが、陽炎はいつかやり返すという名目で薄雲を店長という重要職に就けて、この艦娘補給用物資販売店………コンビニに居場所を与え、恐怖に怯える彼女に光を見出してくれた。
だからこそ、自分の家と家族を守る為に力を使ってもいいと述べる薄雲に対し、竹は第九十九駆逐隊への不安を感じてしまう。
深海棲艦を憎んでいる早霜等は、自分の正体を知ったらどうなってしまうのか。
新たな悩みが出て来たところで、東から深海棲艦がコンビニに襲撃を来ることに。
九十九駆が全員工廠に集まると、そこではコンビニの店員達が艤装を装着し、海戦の準備を整えていた。
すかさず海風が、仲間達と共に、同じく艤装を装着しながら問う。
「深海棲艦の襲撃!?」
「よくあるんだよねぇ。何せこの店、これでも艦娘の重要拠点だから。」
やたら慣れっこの様子である清霜に、双眼望遠鏡(メガネ)を渡された事で、海風は外に飛び出し東の海を見て、ギョっとする。
その方角からは、一つ目の鬼火のような攻撃機が多数遠方から浮き上がって飛来して来ていた。
更に、様々な深海棲艦達が群れになって迫って来ている状態だ。
「な、何でこんなに………!?」
「ちょっと貸して!」
ここで遅れて艤装を付け終わった藤波が双眼望遠鏡(メガネ)を奪うと、その目による索敵能力の高さを発揮する。
最初こそ、海風と同じく攻撃機や敵艦の量に圧倒されそうになったが、よくよく見たら、その群れの後ろに不敵に笑う深海棲艦の姿を発見した。
「アレ………「軽巡棲鬼」!?」
「あ………判別出来るんですね!後方に居座る艦隊の特徴を教えて下さい!」
いつの間にか準備を整えて近づいていた薄雲にマイクを渡された事で、藤波は皆に聞こえるように説明していく。
軽巡棲鬼はお団子頭を持った、下半身が砲塔になっている深海棲艦だ。
「軽巡」というだけあり、水雷戦隊などを率いる力に長けていると言われている。
だが、攻撃機を扱う力は全く持っていない為、これでは状況がおかしい。
実際、藤波の説明はそれでは終わらなかった。
「えっとね!敵攻撃機は、圧倒的に艦爆機が多いよ!それに、軽巡棲鬼の後ろに、巨大な「流氷」が付いて来ている!」
「流氷………って事は、軽巡棲鬼辺りが、氷に乗った「陸上型深海棲艦」を引っ張ってきてるって事?」
「多分!氷の前に単横陣で、輸送艦のフラッグシップ級ワ級が並んでる!あいつ等が引っ張ってるんだ!………只、遠すぎてその上にいる陸上型深海棲艦の正体までは分からないけど。」
藤波の説明を受けて、成程………と陽炎は納得する。
陸上型深海棲艦というのは、小島を占拠して陸地を支配する深海棲艦の鬼クラスや姫クラスの事である。
どういう理屈か敵艦は浮島のようなアジトに乗って来て、護衛の深海棲艦と共に、より大きなアジトを求める。
それこそ、場合によっては町や泊地等の施設を占拠する事だって十分にあり得るのだ。
「コンビニ強盗じゃなくて、コンビニそのものを乗っ取りに来るお客さんは久しぶりですね。」
「でもまあ、藤波の索敵能力のお陰で対策はしやすくなったわ。峯雲、B装備に切り替えて!」
「はいはーい!」
薄雲と陽炎の会話を受けて、右手にアームガード型の主砲、左手の同じ形の魚雷発射管を付けていた峯雲が、一度その装備を外す。
そして、素早く妖精さんからB装備………高速建造材(バーナー)を受け取ると、左腰に燃料タンクを付け、左手に発射装置を括り付けて持つ。
更に、朝日の力を借りて右手にだけ主砲のアームガードを付けた。
「火炎放射機………!?その装備………!?」
「実は私も、石垣ちゃんみたいな事をやっているんだ。折角だし、これからの海戦の様子、カメラで見てみる?」
「か………カメラ………?」
峯雲は胸のネクタイに何かしらのボタンを付けると、携帯スマホに似た装置を、工廠の隅で雷と共に固まっていた海防艦達に渡す。
すると、そこには峯雲の胸ボタンからの視点がバッチリと映っていた。
「す、凄い………。こんな最新鋭機器も、もしかして商品なのか?」
「そうだよ、福江ちゃん。ここはコンビニだから、品揃えが豊富なの。」
にこやかに微笑む峯雲は、彼女達に周りを見渡すように言う。
よくよく見てみれば、薄雲は助けに来てくれた時の、缶とタービンをガン積みにし、主砲をモーニングスターにした装備をセットしている。
陽炎は何やら両腕に特殊な艦首のような装甲を纏っており、異様な雰囲気を感じさせる。
清霜と夕暮は、妖精さんに頼んで特殊な機銃や野砲が積まれた大発動艇を発艦させており、朝日は同じく妖精さんと共に何やら変わったロケットランチャーを複数外の桟橋に並べていた。
比較的オーソドックスな装備をしているのは、江風くらいであろうか。
「い、一体何を行うの!?」
「心配すンな、八丈。ちょっと7人で深海退治に出向くだけだからよ。雷と一緒に、ドックの中にいな。あそこが一番安全だし。」
江風の言う通り、艤装が壊れている状態の7人は安全地帯に隠れて貰うしかない。
雷もそこは自覚しているのか、今回ばかりは無茶を言う気はなかった。
………というより、いきなり襲撃によって起こされた中で、まだ意識がしっかりしていないとも言える。
やはり、これまでの海戦と怪我によって、疲労が溜まり過ぎているのだ。
「九十九駆と一緒に、雷を守っててやンな。」
「ちょっと待って、江風!?私達は戦力外!?」
「ン?だって、姉貴達、赤疲労取れて無いだろ?」
「で、でも………数が足りて無いでしょ!?」
次の瞬間、外で爆音が響き渡る。
先に抜錨していた清霜、夕暮、朝日の3人が、敵攻撃機の迎撃行動を始めたのだ。
時間が無いと思った江風は、困ったように峯雲と共に辺りを見る。
集まって来ていた九十九駆の面々は、海風を始め、春風も、早霜も、不知火も、竹も、夏雲も疲れは取れていなかったが、やる気に満ちている。
藤波や三日月も同様だ。
皆の心にあるのは、何としても雷を守りたいという想いであった。
折角死地から戻って来た彼女を、こんな所で失うわけにはいかない。
だからこそ、戦える面々で前に出て守る気であったのだ。
「どーする、店長?副店長?」
「自己責任でいいのならば、出撃して貰いましょう。但し、無理は禁物です。ちなみに、この中で一番疲労が溜まって無いのは………?」
「私だと思う。一回入渠してるから。」
欧州装甲空母棲姫戦の後で、1回入渠をしている早霜が手を上げて答える。
それを見た陽炎が、手招きして言う。
「じゃあ、早霜筆頭に何人か薄雲に付いて行って。敵陣に殴り込みに行くから。但し、彼女の言う通り、なるべく余計な海戦は控える事。」
「分かりました、では不知火が。」
「俺も行く。近接格闘戦には自信があるんだ。」
「危険だけど、藤波も行かないとね。」
不知火と竹、藤波が続けて挙手した事で、役割分担が決まる。
夏雲はいつもの通り治療用具や修理用具の入ったドラム缶を背負い、江風と三日月に守られながら後方支援。
海風と春風は、陽炎と共に軽巡棲鬼を相手にする事に。
突入メンバーは、薄雲、峯雲、早霜、不知火、竹、藤波になった。
「じゃあ、抜錨します!少しばかり敵陣をかき回しますので、後から来て下さい!」
薄雲の掛け声と共に、艦娘達は飛び出していく事になる。
思わぬ形で、コンビニ防衛戦が始まる事になった。
――――――――――――――――――――
「なーんか、こういう一斉砲撃って、いかにも戦艦って感じがしていいよね!ちょっと………火力は足りないけど。」
「改二丁」と呼ばれるコンバートにより、強行輸送駆逐艦となっている清霜は、妖精さん達と共に、特殊な大発動艇を3隻従えていた。
それが、機銃と野砲を備えた「武装大発」。
本来ならば、「PT小鬼」と呼ばれる小さな深海棲艦に対抗する為の兵装であるのだが、今回彼女は夕暮と共に、対空砲として扱う選択肢を取っていた。
「清霜さん、我儘はいけませんわ。でも………一気に敵攻撃機を落としていく過程は、スカっとするものを感じますわね。」
たしなめる夕暮も、何だかんだ言いながら頬を紅潮させつつ、妖精さん達と共に対空迎撃を行っていく。
2人が桟橋近くで一斉迎撃を行う事で、大量に迫って来た敵攻撃機はどんどん撃ち落とされていった。
更に、桟橋に用意されていた3機のロケットランチャーが次々と発射されていく。
それは、工作艦でありながら、古来の戦艦でもある朝日の指示で撃ち放たれる、「12cm30連装噴進砲改二」だ。
基部が回転する仕組みとなっているそれは、妖精さん達の労力も有り縦横無尽に発射され、夜の空に爆炎を広げていく。
「ふふっ………こうして戦艦らしい事をしていると、清霜ちゃんじゃないですけれど、夢を抱いてしまいますわね。懐かしい戦艦時代の夢を………。」
「じゃあじゃあ、朝日さん。ちょっと「号令」やってみます?」
「あら………いいのですか、清霜ちゃん?夕暮ちゃんも………。」
「構いませんわ。妖精さん達も、受け入れてくれていますし。」
清霜や夕暮の言葉を聞いた事で、朝日は少しばかし目を輝かせて笑みを見せ………息を吐く。
そして、思いっきり吸い込むと、気高く力いっぱい叫んだ。
「目標!深海棲艦攻撃機!砲戦………よく狙って………ってーーーっ!!」
「よーし、やったらー!!」
「覚悟して貰いますわよ!!」
3人の艦娘の防空能力により、夜空に綺麗な大輪の花火が広がっていく。
その姿は、差し詰め「戦艦」に相応しい派手な戦いぶりとも言えた。
――――――――――――――――――――
「な、何か………攻められているのに、皆さん、余裕ありませんか………?」
「そうね。コンビニ店員って、みんな実力者みたいだし………むしろ、敵が来てイキイキしてない?」
「ま、それだけいつも、「お客様」に人気なンだよ!ここで働くと、飽きないぜ!」
朝日達のノリの良さに驚いていた夏雲と三日月に対し、ニカニカと笑いながら、江風が海戦を行っていく。
オーソドックスな主砲と魚雷といった装備が基本である彼女だが、それだけでもかなり強く、群がって来る深海棲艦を次々と迎撃している。
エリート級軽巡ト級の砲撃を軽く躱しつつ逆に主砲を接射で叩き込むと、振り向きざまにエリート級軽巡ヘ級に魚雷を放ち、燃やしていく。
その立ち振る舞いには全く隙が無い。
そもそも、工作艦の為の用具をドラム缶で背負う夏雲と、海戦能力が落ちている彼女を盾で護衛する三日月は、この海戦では、ほとんどメインで戦えない。
上手い事2人に敵艦が向かうのを防ぎながら、江風は敵艦達を完封していた。
「本当に………上手い立ち回りね。」
「店長が先に抜錨して、最速機動で面倒そうな奴等を削ってくれてるから負担が減ってるンだ。」
江風が言う通り、こちらに攻め入ってくるほとんどの敵は、薄雲が主砲をモーニングスターとして振り回しながら、次々に鈍器として叩き込んで撃沈していっている。
事前に佐渡達から薄雲の驚異的な海戦能力の話は聞いていたが、いざ目の当たりにすると、信じられない物を夏雲や三日月は感じた。
(アレが………深海棲艦としての力………。)
事前に、その力の源を聞いていた夏雲は何とも言えない顔になる。
元々彼女にとっては忌むべき力であったが、陽炎達の尽力も有り、このコンビニという家を守る為の力に変わっていた。
そして、恐らくそんな彼女と共に鍛えているからこそ、江風は練度だけでなく、精神力も技量も上がっているのだろうと推測できる。
「おっと………ちょっと目つぶしするぜ!」
フラッグシップ級重巡リ級が3隻立ちはだかって来た事で、江風は敢えて正面から迫り、砲撃や雷撃をジグザグに躱しつつ、懐から「照明弾」を直接敵艦の眼前に投げ飛ばす。
本来、夜空を照らして戦いやすくするための兵装だが、それを近くで発光させられれば、当然ながらリ級達は怯む。
片目だけ瞑って視界を確保できるようにしていた江風は、素早く背面に回り込むと、後頭部を順に撃っていき、3発の砲撃で強力な敵艦を一気に撃沈する。
(竹さんは………ここにいた方が幸せになれるのかもしれない………。)
薄雲に鍛えられた江風の高練度の技を見ながら、一瞬だがそんな事を夏雲は思い描いてしまい………慌てて首を振って取り除いた。
艦娘補給用物資販売店…コンビニは、艦娘用の装備や用具などを売っているだけあって、防衛戦になると様々な兵装を使い放題です。
中には、明らかに贅沢品とも言える装備もあるので、書く側としては楽しいですね。
ちなみに、峯雲のB装備ってのは、「バーナー(BURNER)」の略のつもり。
何に使うかは、今後のお楽しみです。