大楯の雷   作:擬態人形P

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第34話 ~慈母の面影~

流氷に乗って来た陸上施設型の敵と、軽巡棲鬼を中心とした敵艦の群れの襲撃を受けた事で、応戦準備に入る艦娘補給用物資販売店………「コンビニ」の店員達。

藤波の索敵能力によって、綿密な作戦が立てられた薄雲や陽炎は抜錨しようとする。

彼女達は赤疲労が抜けない第九十九駆逐隊達は今回の海戦を控えて貰おうとするが、雷を守りたいという強い意志が海風達にはあった。

その想いを汲んで、役割分担を決めた事で出撃していく艦娘達。

 

朝日・清霜・夕暮の3人は妖精さん達と共に、驚異的な対空迎撃能力を発揮して夜空に派手な花を咲かせる。

更に江風は、後方支援役の夏雲や防衛役の三日月を守りながら、縦横無尽に海戦を繰り広げていく。

その練度の高さは、深海棲艦化をしてドロップ艦として戻って来た薄雲に鍛えられたから。

ならば、同じ境遇の竹は、このコンビニにいた方が幸せなのでは?………と一瞬だが、夏雲は思ってしまう。

 

 

海戦が始まった頃、雷と海防艦6人は江風に言われて通り、工廠のドックの奥の片隅に固まって座っていた。

一番の安全地帯ではあるのだが、近くで朝日達が派手に対空迎撃の爆音を響かせていたり、敵攻撃機の破片が落下してきたりしている為、ドック内部も振動が走る。

建物そのものが揺れ、高速修復材(バケツ)入りのプールも波打っている状態だ。

 

「これが戦い………。私達、その真っ只中にいるんだ。」

 

音を立てる建物を見上げながら、思わず能美が呟く。

大湊では、岸波達第三十一駆逐隊を始めとした艦娘達の奮闘もあって、流石に直接街まで攻撃される事は無かった。

だが………敵の攻撃機はこのコンビニ間近まで迫っており、一歩間違えれば被弾をしてしまう。

艤装を付けられない今、否が応でも海防艦娘達は、死が身近にある事を実感してしまっていた。

 

「一歩間違えたら、あたし達………ぺちゃんこだな。」

「福江、余計な事言わないで。」

「分かってるよ。でもさ………だからこそ痛感するんだ。岸波さん達、あんな傷負ってでも、あたし達の事、ずっと守って来てくれたんだなって………。」

「………そうだね。私みたいに腕が吹き飛んだ事も多々あって痛かったはずなのに、文句の1つも言わずに………ずっと………。」

 

言いながら能美は、左腕を押さえて俯いてしまう。

今でこそ雷が先にドック入りを譲ってくれたお陰で見事に回復をしているが、あの焼けるような痛みは二度と忘れられそうに無かった。

同じように全身火傷を味わった石垣は、震えを引き起こしている。

息を荒く吐いており、明らかに過呼吸だっていうのが分かる。

 

「はあ………はあ………。」

「大丈夫、ガッキー?もうちょっと、近くに集まろ。」

「で、でも………でも………!」

 

八丈に心配される石垣だが、正常な判断が出来なくなっている。

孤児院の時と合わせて、人生で2度も火だるまにされた彼女にしてみれば、また襲い来るかもしれない恐怖との戦いは、怖くて仕方なかった。

少しずつおかしくなる仲間達の様子を見て、1人少しだけ離れた所に座っている平戸は、ギュッと膝に手を置き、苦しそうにしている。

佐渡は………周りで苦しむ艦娘達を見て、何か鼓舞しようと思いながらも………やはり震えが先に来てしまい、何も出来ない自分を恨めしく思った。

 

「………弱いよな、あたし達。」

「そうですね………。今なら、曙さんが強くなれと言っていた意味が分かります。アレ、発破をかけてくれたんですね………。」

 

単冠湾泊地から貨物船の護衛を引き継ぎに来てくれた曙は、佐渡達を見て「強くなりなさい」と言ってくれた。

そうする事でしか、自分と周りの評価を変えられないと。

今の佐渡達は弱く、完全な足手まといでしかない。

守られる側の立場から、脱却する事が出来ないからこそ、こうして震えているしかないのだ。

 

「あたし、強くなりたいよ………。せめて、せめて………1人の艦娘を守れる位には!」

 

思わず声を荒げてしまった佐渡が誰を指しているのかは、皆、分かった。

まだ起こされてから意識が完全に覚醒していないのか、虚ろな瞳のまま峯雲の渡してくれたカメラで戦場を見ている雷。

皆、良い思い出の無い大湊の住民を守りたいとは、まだ思えない。

だが………捨て身で自分達を助けてくれた雷を守りたいとは、誰もが思った。

故に九十九駆と違い、例え艤装が万全でも、出撃する事が出来ない自分達の練度の低さが恨めしいとすら感じているのだが。

 

「………大湊に帰ろう。帰って、みんなに謝って………今度こそ強くなって………!」

「でも………でも、このままじゃ………。」

「しっかりしろ、石垣!こんな所で終わっちゃダメだ!あたし達は、ここで死んだらダメなんだよ!」

「でもぉ………うわ!?」

 

錯乱から抜け出せない石垣であったが、突如後ろから抱きしめられる。

それまで戦況をカメラで見ていた雷が、石垣を後ろから包み込んだのだ。

今までの佐渡達の会話が耳に入っていたのかは分からないが、まるで泣く子をなだめるようにあやすと、突如歌を歌い出した。

 

それは、優しい子守歌。

雷は決してプロの美声と言えるわけでは無かったが、ドック中に響き渡る柔和な音色は、恐怖を抱く海防艦娘達を一時的に落ち着かせるには十分であった。

 

「この歌………温かい………。雷さん………誰から………?」

「昔………荒れている時代に私は、大鯨であった龍鳳さんや藤波、三日月………それに大潮とかとケンカをしていたの。よく取っ組み合いをして困らせていて………ね。」

 

子供を産めないのをいい事に、ふてぶてしく振る舞っていた雷は、周りの面々を子分にしようとしていた。

そんな中、ケンカが嫌いだからという理由で、素直に雷の子分になっていた艦娘が居たという。

 

「優しい子だったわ。………いえ、今でも優しい子だけど、大潮を始め数々の仲間の轟沈を経験していく過程でその優しさが「変質」してしまった………。」

「そんな………艦娘が………。」

「この歌はね………私が大潮を沈めて間もない頃に、何度も何度も苦悩している時に………彼女が歌ってくれた優しい子守歌………。私なんかを気にしてくれる………本当に、筋金入りの優しい子だったのよ………。」

 

意識がもうろうとしていて夢見心地である事もあり、過去を懐かしむように呟く雷。

そんな彼女に娘のように抱きしめられている石垣は、歌の力も有り、思わず目から雫が落ちるのを感じた。

 

「雷さん………お母さん………みたい………。」

「嬉しい言葉………ね。でも………やっぱり、お母さんじゃないわ………。私は、母になる資格なんて無いもの………。貴女達にだって、母親ぶっていただけだし………。」

「やっぱり………やっぱり、おかしいですよ!」

 

別の叫び声が聞こえた事で、思わず場の空気が固まる。

少し離れた所に座っていた平戸が、大粒の涙を流しながら訴えたのだ。

 

「こんな雷さんが子供を産めないなんて………!「あんな辛い思い」を、30年間も引きずらないといけないなんて………理不尽すぎます!」

「平戸………貴女………?」

 

雷は、平戸が自分の下腹部を押さえながら叫んでいるのを見て、目を見開く。

少しだけだが意識が覚醒したのか、石垣を右腕で抱えたままであったが平戸の元に向かう。

 

「まさか、平戸………貴女も………。」

「そうです………。あの大湊で………「汚れた」町で………私も………。」

 

絞り出すように自身の過去を吐き出す平戸の言葉を受け、雷は左腕で彼女を抱きしめる。

落ち着かせるように………労わるように………。

 

「辛かったのね………ずっと………気付かずにゴメンね………。」

「私はいいんです…………。でも、雷さんがこんな目に合うなんて………ひどすぎますよぉ………!」

 

あくまで雷を心配する平戸。

子供を産めなくなって、自分達の為に一生ものの傷跡が付いて、どんどん辛い目に合っていく雷の境遇がやるせなかったのだ。

だから、彼女はこう言った。

 

「貴女は………母親になっていい人ですよ!こんな私達にすら、母親として接してくれているんですから………!もしも神様がいるなら………私は迷わずぶん殴ります!」

「ありがとう………私の為に泣いてくれて………。辛い事があった中で艦娘になったのに………みんな………いい子ね。」

 

雷は、眼鏡を落として涙でくしゃくしゃになった平戸をその胸に抱くと、そっと石垣に回していた手を外し、懐から改めて、しまっていた携帯カメラを取り出す。

そして佐渡達も呼び寄せて、自分の元で外の海戦の様子を確認させる。

 

「信じましょう………。みんなが無事に守ってくれることを………。大丈夫、深海棲艦がここまで攻めてきたら、私が守ってあげるから………。」

『……………。』

 

優しい雷の言葉を受けて、皆が彼女にしがみ付くようにしながら、映っている画面を見る。

最前線にいる峯雲から映る視点は、臨場感が溢れており、否が応でも戦場の厳しさを教えてくれた。

 

(あたし達は………こんな状態の雷さんでも、まだ守る事が出来ない。)

 

佐渡は思う。

実際に今も、雷はボロボロの状態なのに、何かあったら佐渡達を守ると言ってのけている。

それだけ、自分達は頼りにならないという証拠だ。

 

(それは仕方ない事なんだ。あたし達は………本当に弱くて仕方ないんだから。)

 

だからこそ曙が発破を掛けてくれたように、強くならないといけない。

ここで生き残って、大湊で今の数倍は修行を積んで、自分達の身は自分達で守れるようにならないといけないのだ。

 

(そして、絶対に今度は守ってみせるんだ………「母ちゃん」を………雷さんを、今度こそ!)

 

佐渡は………いや、佐渡だけでなく、全ての海防艦娘達が改めて決意をする。

面と向かって呼ぶ事はまだできないが、自分達を愛してくれる、慈母の面影すら持った雷を、今度こそ守り抜いて見せると。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「薄雲さんがある程度は片付けてくれてるとはいえ………数が多いな!」

「後ろは江風がある程度何とかしてくれるから、心配しなくていいわ。赤疲労の付いている九十九駆は、被弾しない事を優先的に考えて!」

 

エリート級チ級の放つ雷撃に、竹が雷撃を当てて相殺をすると、陽炎が水柱の壁を気にする事なく高角砲のトリガーを引いて連射をして、撃沈する。

その際、チ級は最後の抵抗で砲撃を放ったが、陽炎は腕にカタールのように付けている艦首のような装甲で弾き飛ばす。

その様子を見た春風が、思わず質問をする。

 

「陽炎さんのそれは………バルジなのですか?」

「そうよ、本店自慢のバルジ。便利でしょ?」

 

艦娘の装甲を強化する「増設バルジ」を、更に洗練された設計に見直した「艦本新設計 増設バルジ」。

より装甲を強化できるだけでなく、回避性能の低下も抑えられるコンビニ自慢の一品であるらしい。

そういった事もあって、陽炎はほとんど機動力を損なわないで、このバルジを使いこなしていた。

流石に雷のように大型艦の砲撃を弾く真似は無茶ではあるが、小型艦の砲撃には対処が可能であるらしい。

一方、峯雲の持っている高速建造材(バーナー)は、石垣が持っていた工廠用の物よりも、より海戦向けに再設計されていた。

その激しく繰り出される炎は正に火炎放射器という名に相応しく、近寄る敵を怯ませる事に成功している。

また、炎は視界を封じる役目も果たしており、思わず顔面を手で覆った隙に、早霜や不知火がトドメを刺す余裕が生まれる程だ。

 

「コンビニ店員って、色んな兵装を扱えるのね。」

「まあ、私は陽炎型では不器用な方だけどね。でも………その分オンリーワンを磨く事が出来るのは、結構楽しいわよ!」

 

海風に少しだけ勝気な笑顔を見せながら、陽炎は再び高角砲を、エリート級ハ級に喰らわせていく。

最初は多いと思っていた敵艦であったが、薄雲達と協力して挑んだ事で、あっという間に数が減って来ていた。

空を見上げても、発艦する攻撃機がコンビニまで到達している様子は無い。

 

「すげえな………コンビニ店員になると、こんな事も出来るんだな………。」

 

思わず尊敬の言葉を発してしまう竹であるが、その声音に少しの羨望がある事を本人は自覚していない。

やがて、最速機動を発揮しつつ単艦で動き回り、至る所で暴れまわっていた薄雲が合流してきた。

 

「皆さん、そろそろ重役の方がお見えですよ?」

「ホントだ。逃げないだけ、度胸が据わっているわね」

 

薄雲と陽炎の会話のする方向を見てみると、そこにはお団子頭の鬼クラスが巨大な流氷と共に迫っていた。

 

「軽巡棲鬼………!近くで見ると………迫力あるわね。」

「ここからが………正念場ですね。手筈通り………戦うまでです!」

 

早霜と不知火が気を引き締める中、皆がそれに呼応し臨戦態勢を取る。

 

 

皆にあるのは、慈母として振る舞っている雷を守りたいという想い。

彼女達もまた、仲間の為にその武器を振るおうとした。




雷の母親らしい性格が発揮される一幕。
海防艦達にしてみたら、命がけで守ってくれる彼女は、子供を産めなくても「母親」に思えるのでしょうね。

だからこそ、大湊に戻ってみんなに謝って強くなろうと決意する佐渡達。
その想いが、ここから何か変化をもたらすのかもしれません。

雷に子守歌を教えた優しい艦娘とは、誰でしょうね…?
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