大楯の雷   作:擬態人形P

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第35話 ~ラムアタック~

敵艦の攻撃が艦娘補給用物資販売店………「コンビニ」を襲う中、艤装の破損や練度の関係でドックに隠れていた雷と海防艦娘達。

海防艦娘達は、死と隣り合わせの実情を前に、石垣を始め皆が錯乱しかけるが、そこで意識がもうろうとしている雷が子守歌を歌う。

嘗て、荒れていた頃の自分の子分であり、大潮を自分のミスで沈めてしまった後に慰めてくれたという、優しかった艦娘が歌ってくれた歌。

その歌で落ち着いた石垣は、雷が母親みたいであると思わず言う。

 

だが、雷自身は子供を産めないし、母の資格は無いと言う。

それを聞いた平戸は泣きながら、自身も子供を産めない事を告白し、雷ほどの慈母の面影を持った艦娘が、こんな辛い目に合うのはおかしいと叫ぶ。

雷は感謝しつつも、仲間達が勝利を運んでくれる事を信じようと、峯雲から渡されたカメラを全員で見ようと提案。

佐渡達は、まだ守られる立場から脱却できない自分達を変えて、強くなって「母」を守ろうと心の中で固く誓う。

 

一方、海戦を潜り抜けていった薄雲や陽炎達は、一騎当千と言える姿であり、思わず竹などは羨望の眼差しを向けてしまう。

そんな中、迫って来た移動小島代わりの流氷と軽巡棲鬼。

海戦はいよいよクライマックスに向かう。

 

 

軽巡棲鬼は怒りに満ちた顔のまま、こちらに速力を上げて迫ると、下半身の口のような艤装から、4門の砲撃を一度に繰り出す。

狙いは陽炎。

一応腕には、艦本新設計 増設バルジを付けているとはいえ、砲撃を受けないに越した事は無い。

素早く左に動いて回避行動を取ると、海風と春風に指示を出す。

 

「夾叉弾!撃てーーーっ!!」

 

一斉に左右に放たれる砲撃の雨を前に、軽巡棲鬼は僅かだが動きが鈍ってしまう。

その隙に、突入メンバーの薄雲、峯雲、早霜、不知火、竹、藤波が速力を上げてすり抜けていく。

 

「逃ガスカ!」

「アンタの相手は、こっちよ!」

 

最後尾の藤波に砲撃を当てようとした敵鬼クラスに対し、陽炎が8門の雷撃を一斉に放つ。

たちまち軽巡棲鬼から炎が上がるが、再生能力を持っているのか、すぐさま火傷が回復してしまう。

 

「効カナイ!」

「でしょうね!………ヘッドショットに切り替えるわよ!」

「ならば、わたくしは援護に回ります!」

 

単装砲とはいえ、艤装の基部に2門砲門が付いている春風は、とにかく夾叉弾を乱射する事で、敵の動きを阻害しようとする。

その隙に海風がヘッドショットを狙おうと砲撃を放つが、とにかく動きが速い。

縦横無尽に駆け巡り、更に上半身を水上スキーで走るように身をよじらせる為、時間差砲撃を駆使しても、中々思う所に当たらないのだ。

 

「いっそ春風に、鋼の日傘で殴って貰う!?」

「止めた方がいいわよ!アイツの鋼の爪、相当尖ってるから!」

 

陽炎の言う通り、軽巡棲鬼は両手に小手のような鋼の爪を装着している。

幾ら近接戦闘に長けた春風でも、対峙したら苦戦するのは目に見えていた。

 

「その割には、相手が積極的に攻めてきてないけれど………。」

「状況が見えているの………よ!」

 

陽炎がそう言うと、背後から迫っていた戦艦タ級に雷撃を全て放つ。

敵は悲鳴を上げて轟沈するが、海風も春風も冷や汗をかく。

この戦場にいる敵は軽巡棲鬼だけじゃない。

艦娘を仕留めようと、虎視眈々と狙っている深海棲艦達がいるのだ。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

流氷に近づいた薄雲達は、フラッグシップ級輸送艦ワ級5隻の一斉砲撃にさらされる。

しかし、よくよく見れば、流氷とは鎖でつながれており、あくまで運送役を担っているのが分かった。

 

「どうやって、あんな加工をしたのでしょうね?是非、当店でも活かせる技術があるのならば、採用したい所ですが………峯雲さん!」

「任せて!」

 

峯雲が速力を上げて飛び出すと、ワ級の砲撃を抜けながら逆に右アームガードから砲撃を放って腹を狙っていく。

ワ級は輸送艦というだけあって、その肥えた腹には油を沢山溜め込んでいる。

その為、傷口からは重油のような物が噴き出し始めた。

 

「それじゃあ………燃やしまーす!」

 

そして、当然ながら油を噴き出しているのならば、高速建造材(バーナー)による火炎放射器は致命的な存在になる。

見る見るうちに腹に穴を開けられたワ級は自身の出す油に炎が引火して火だるまになり、奇声を上げながら呆気なく轟沈していく。

1隻が餌食になった事で、残りの4隻は鎖を外して逃げようとするが、速力の速い駆逐艦から逃げられるわけもなく、皆、峯雲の餌食になってしまった。

 

「ついでに、搭乗口も確保しますね!」

 

峯雲は更に火炎放射機で流氷を溶かし、海面から乗り上げられるようにする。

それを見た薄雲達は、一斉に氷に乗り上げ、走り出す。

 

「滑らないでくださいね!さてさて藤波さん、敵の「社長さん」はどんな方でしょうか?」

「ちょっと待ってね。あ………発艦を止めて、何か向こうから走って来たよ!多分砲撃も出来るんだ!えーっと………アレ?」

 

距離が詰まるにつれ、藤波の目にはその影が徐々に分かる。

陸上型深海棲艦として、コンビニに攻め入って来た者の正体は………。

 

「コイツ………「北方棲姫」だ!?」

『え!?』

 

その言葉を聞いて、九十九駆の艦娘達は………特に早霜は固まった。

北方棲姫とは、白い髪にフードのような白い服を着た、海防艦並に幼い姫クラスだ。

「ほっぽちゃん」とも呼ばれるその存在は、愛らしさに満ちている。

だが、艦爆を中心とした大量の艦載機を扱う力を持ち、砲戦能力まで備え、「護衛要塞」と呼ばれる5機の赤黒い騎士のような丸い自立兵装すら持ち合わせているその力は凶悪だ。

 

「何で………そんな幼い姫クラスが………!?」

「よく来るんですよね。ここ、文字通り「北方」ですから。」

 

薄雲がそう言うと、主砲を前方に投擲する。

彼女にも目測で北方棲姫が視認できるようになったため、一直線に破壊しようと、一撃必殺のモーニングスターを放ったのだ。

だが、すかさず護衛要塞が1機庇いに入る。

これにより、要塞がバラバラになる代わりに、更に北方棲姫の距離が詰まり、誰でもハッキリと視認できる位置に来てしまった。

 

「カエレ!カエレ!!」

「本当に………本当に子供!?」

「早霜!?」

 

ここで問題点があったとすれば、早霜が見る程に動揺してしまった事だ。

不知火が思わず驚くが、同時に気付いてしまう。

「元教師」である早霜にとって、「子供」は天敵であるのだと。

 

「動け!早霜さんっ!?」

「っ!?」

 

竹の叫び声が掛かった事で、早霜はハッとする。

僅かながら動揺した隙に、護衛要塞の1機が突撃しており、その鋭利な歯を持つ口を開いていたからだ。

 

「くそっ!!」

「竹っ!?」

 

竹が咄嗟に右から早霜を突き飛ばし、庇いに入る。

だが、その結果、護衛要塞は竹の右腕に噛みつき、そのまま食い千切った。

 

「ぐ………あああああああああああっ!?」

「竹!?しっかりして、竹!?」

 

早霜が慌てて竹を支える。

不知火がカバーに入り、竹の腕を喰らった護衛要塞を砲撃で砕く。

思わぬイレギュラーにより、九十九駆に被害が出る事になってしまった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「しつこいわね!」

「確かに………そうですね!」

 

その頃、軽巡棲鬼との海戦は白熱していた。

海風が後ろから襲って来たエリート級輸送艦ワ級に雷撃を喰らわせれば、春風は軽巡ツ級に神風型特有である不意打ちの魚雷の背面撃ちを繰り出し撃沈する。

敵鬼クラスの動きを気にしながらも、他の敵深海棲艦を放っては置けない気の抜けない海戦。

とにかく、動きを止めたらいけない。

だが………。

 

ガシッ!

 

「な………!?」

 

春風は驚く。

いきなり左足を何者かに掴まれたのだ。

よく見たら、潜水艦カ級がいつの間にか水深から迫っており、春風を拘束していた。

 

「動け………な………!?」

「春風!気合で蹴り上げて!!」

「………このおおおおおおおおおおっ!!」

 

淑女らしさの無い叫びだと思ったが、陽炎の言われた通りに渾身の力を振り絞り、左足を蹴り上げて、カ級を海面から振り飛ばす。

回転しながら飛ぶカ級に対し、陽炎が高角砲のトリガーを引き、空中で爆散させた。

 

「前、来るわ!」

「くっ………!?」

 

しかし、この隙を逃すほど軽巡棲鬼は甘くなく、夾叉弾を放ちながら一気に距離を詰め、春風に鋼の爪を振りかざす。

咄嗟に春風はマウントしていた鋼の傘で防御耐性を取るが、次々に振りかざされる斬撃の応酬に、攻撃に移れない。

至近距離であった為、左側にいる陽炎も右側にいる海風も援護が出来ない中で、軽巡棲鬼が笑みを浮かべた。

 

「春風っ!敵偵察機発艦体勢よ!」

「ええっ!?」

 

下半身の巨大な口の中が光った事で、陽炎は敵が羽虫を模した偵察機を繰り出すのを悟る。

幾ら偵察機とはいえ、至近距離で放たれれば凶悪な質量兵器だ。

春風は咄嗟に日傘を下に向けて発艦された偵察機を防御する。

だが、傘が根元から折れ、細かい破片が体中に刺さり、至る所から血が出た。

 

「うぐっ………!?」

「終ワリ!」

 

後ろに吹き飛んで倒れ、尻餅をついた春風に対し、勝利を確信した軽巡棲鬼が再び偵察機を発艦しようとする。

もう防ぐ手段は存在しない為、彼女はどうしようもない。

 

「させるかあああああああああっ!!」

 

だが、ここで海風が間に突っ込んできた。

何と右足を軸に、左足で回し蹴りを放ち、発艦された偵察機に自分の左の主機をぶつける。

当然ながら、左膝から下が吹き飛ぶが、海風は倒れながらも掴んでいた両手の主砲を離さず、隙だらけの頭部に向けてヘッドショットを狙う。

 

「チィッ!?」

 

軽巡棲鬼は飛びずさりながらも、左腕を一時的に犠牲する事で攻撃を防ぐ。

これでは、再生能力ですぐに復活してしまうだろう。

更に、軽巡棲鬼は3機まで偵察機を一気に放てる。

トドメを刺されてしまうのは、明白であった。

 

「ぐっ………これじゃあ………!?」

「いえ!よくやったわ!海風!!」

 

陽炎が叫ぶと、海風とは反対側から一気に加速する。

軽巡棲鬼は思わずそちらを向き、咄嗟に最後の偵察機をぶつけようと放つが、何と陽炎は自分の魚雷発射管をアームからもぎ取り、投げつけて爆破させ相殺した。

一時的に爆炎が目隠しになった事で、敵艦は砲撃も飛ばせない。

可燃物となる残りの魚雷発射管も次発装填装置も全て捨てた陽炎は、その炎の中を掻い潜って飛び出し、一気に迫る。

驚いた軽巡棲鬼は、残った右腕の鋼の爪を振りかざす。

だが、陽炎は左腕のバルジの艦首部分で弾き飛ばした。

そして、口付けをしそうな位置まで近づくと、頭をぶつけ、凄みのある笑みを浮かべて告げる。

 

「アンタ………「ラムアタック」って知ってる?」

「ッ!?」

「沈めええええええええええええええええええっ!!」

 

陽炎が右腕を思いっきり振りかざすと、その喉元に力いっぱい、カタールのように装着したバルジの艦首部分を突き刺し、めり込ませる。

ラムアタックと名付けられたその一撃は、敵鬼クラスにとっては、完全に予想外の攻撃であった。

喉を潰され呼吸が出来なくなり、悲鳴を上げる間もなく苦しむ軽巡棲鬼であったが、陽炎は容赦しない。

そのまま宙に持ち上げると、左手で高角砲のトリガーを握り、顔面に乱射した。

深海棲艦の黒い返り血を沢山浴びる格好にはなったが、やがて軽巡棲鬼はだらんと腕を下げて力尽き、放り捨てられて撃沈する。

 

『……………。』

 

自分達が偉そうに言える立場ではないが、あまりの滅茶苦茶な戦いぶりに唖然とする海風と春風。

陽炎は、軽く海面に頭を付けて顔に着いた血を取り払うと、周りを見渡したうえで、2人を気遣う。

 

「アンタ達、大丈夫?」

「う、うん………。」

「は、はい………。」

「魚雷捨てちゃったから残りの掃討戦は苦労すると思ったけど………何かみんな戦意喪失してるわね。薄雲達が敵の大将を仕留めたのかしら?」

 

陽炎の言葉にハッとした海風達は、思わず辺りを確認してみる。

すると、確かに深海棲艦達は、皆逃げている状態だ。

コンビニに向かって飛んでいた敵の攻撃機もまばらになっている。

 

「とりあえず、命に別条が無いのならば、今は大人しくしているべきね。」

「か、陽炎………その力、何処で身に着けたの?」

「ああ、この戦法?」

 

陽炎は、少しだけ苦笑すると、バルジに付いた血も取り払いながら言う。

 

「薄雲に勝つ為よ。」

 

海風達は理由を知らなかったが、そこには確かに密かな陽炎の努力の証があった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

海戦がどうなったか、早霜にはあまり記憶が無い。

只、自分達に近づく護衛要塞は峯雲が火炎放射器で牽制してくれていた。

そして、その要塞も、薄雲が北方棲姫の頭を鉄球で砕いてトドメを刺した事で動かなくなっていた。

しかし、早霜にしてみれば、それどころでは無かった。

自分を庇って竹が重傷を負ったのだ。

 

「竹、傷を見せて!」

「止めてくれ………止めてくれよぉ………!」

 

想定以上に錯乱する竹を見て、早霜は何とか傷口に、夏雲から習った応急処置を施そうと必死になる。

だが………手をどけてその傷口を見た途端、目が見開かれた。

 

「え………。」

 

その傷が、勝手に「修復」され始めていた。

骨が見える程の重傷を負ったにも拘らず、全てが癒され始めている。

まるでそれは………自己再生能力を持った深海棲艦のように。

 

「竹………まさか、貴女………!?」

 

早霜は戦慄した。

彼女は………自分の愛する生徒達の命を奪った者の仲間である………。

 

「貴女………深海棲艦だったの!?」

 

言ってしまった時には、遅かった。

その時、自分がどんな表情をしていたのかは分からない。

だが、絶対に好意的な顔をしていなかったのは確かだろう。

その表情を見てしまったのだろう。

いつも強気であるはずの竹が、怯えたような顔で早霜を見て震えていた。

 

「見ないでくれ………そんな目で………俺を、見ないでくれーーーっ!!」

 

絶望した竹の絶叫が、海域全体に響き渡る。

第九十九駆逐隊の中で、亀裂が入った瞬間であった。




たまには技名のようなサブタイトルもいいかな…と思って、採用してみたのが今回の「ラムアタック」。
バルジを付けたならば、1回はカッコよくやってみたいですよね。

只、最後はそれどころでは無くなって…。
どうなる、次回?
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