軽巡棲鬼と対峙する陽炎・海風・春風の3人は敵鬼クラスの再生能力に手をこまねく事に。
増援に駆け付ける敵艦達を同時に相手しないといけない事もあり、気が抜けない中で、春風が潜水艦に足を掴まれ機動力を封じられてしまう。
その後、接近戦に持ち込んだ軽巡棲鬼との戦いで、偵察機を質量兵器に使う戦法を使われた事で、危機を迎える事に。
海風が身体を張って1度目の危機は脱するものの、仕留め損なってしまう。
2度目の危機にあわやという所で、陽炎が敢えて得意であるはずの魚雷の発射管を囮に使った近接格闘戦を仕掛ける。
最終的に腕に装着したバルジの艦首によるラムアタックを駆使した事で撃沈に成功し、事なきを得た。
一方で峯雲の活躍も有り、流氷へと乗り込んだ薄雲・峯雲・早霜・不知火・竹・藤波。
敵大将である陸上型深海棲艦の姫クラスが、幼い見た目の北方棲姫であると藤波が見定めた事で、早霜に動揺が走る事に。
その隙を護衛要塞に攻められ、庇った竹が右腕を食い千切られるという大惨事を招いてしまう。
海戦は、薄雲と峯雲のお陰で勝利をもたらすものの、竹は傷口を押さえながら怯えてしまう事に。
何事かと思い早霜が見たら、竹の傷口が深海棲艦のように自己再生をしていた。
その姿を見て、早霜は、自分の生徒達を奪った深海棲艦と同じ存在なのか?………と思わず口走ってしまう。
絶望する竹と、後悔する早霜。
瓦解した第九十九駆逐隊の明日は一体………?
時間は海戦から数刻が経過し、夜が明け朝日が昇り始めていた。
戦いの中で傷ついた春風、海風、竹は、あの後すぐに入渠をされ、高速修復材(バケツ)でその傷を癒している。
近くに新たな深海棲艦が出てこないか、念のため清霜と夕暮が広範囲を偵察してくれていたが、特に心配は無いらしい。
強いて問題点を上げるとすれば、今回の海戦で艦娘補給用物資販売店………コンビニの周りに、穢れが充満してしまった事だろうか。
これに関しては、今日の夕刻にやってくる予定の後始末屋「はくちょう」に清掃して貰うしかなかった。
「………ンで、赤疲労付いてるのに、誰も眠れていないのか?」
「眠れるわけ無いですよ。只でさえ厄介な事になっているのに………情報量が多すぎます。」
外付けされている高速クルーザーの展望デッキの縁に座り、江風が頬に手を当て呆れたように呟く中、不知火が深刻そうな顔で答える。
海戦の最中、竹が深海棲艦化で身に着けた自己修復能力を見せてしまった事で、早霜が拒絶の目で視認してしまった。
この事は双方に重度の精神的なダメージを与える結果になり、竹が絶望、早霜が後悔をしてしまったのだ。
こうなっては、流石にお互いの秘密を語らなければならない。
夏雲が、竹に代わって彼女が深海棲艦化とドロップ艦という歪んだ輪廻転生を経験している事を説明。
更に、不知火が自身と早霜の生徒と先生という関係を告げたうえで、早霜自身が生徒達を奪った深海棲艦を憎んでいる事を告げた。
ここで薄雲も、自分が竹と同じ存在で、更に深海千島棲姫としての力も持っていると白状する事になる。
それぞれの説明を聞いて、一気に情報量がパンクしそうになっているのが、今の九十九駆の現状だ。
三日月や藤波、更に海防艦達も含め、あまりにも厄介すぎる状況を前に、呑気に就寝が出来る者など1人もいなかった。
「戻って来たよ。」
「………どうでした?」
「未だに竹さんは錯乱してるかな。店長達が何とか見てくれているけれど………ショックはかなり大きいみたい。」
「ですよね………すみません。」
工廠の様子を見てくれた峯雲に対し、不知火が頭を下げる。
そちらには、竹を中心に夏雲と薄雲、陽炎に朝日が心配をしてみてくれていた。
一方こちらの展望デッキにいるのは、端の方で頭を抱えて座っている早霜を中心に、海風、春風、雷、三日月、藤波、海防艦娘6人、そして不知火、江風、峯雲である。
清霜と夕暮は、引き続き周囲に偵察を行って、コンビニが襲われないようにしてくれていた。
「……………。」
早霜に、峯雲達の会話が聞こえているのかは分からない。
只、彼女はずっと自分の中で葛藤しているようであった。
不知火はその重い空気を前にして誰も動けないのを確認すると、敢えて自分から進み出る。
「早霜………いえ、先生。生徒としてハッキリ言います。貴女が頭を抱えていても、いつまでも何も変わらないですよ。」
「分かっているわ………。」
「分かっていないじゃないですか。竹は今も苦しんでいるんですよ?貴女が………。」
「じゃあ、どういう顔をして会えばいいの!?」
不知火の言葉に、思わず早霜は叫んで彼女の肩を掴んでしまう。
竹を拒絶してしまった自分が、今更どんな顔をすればいいのか。
その答えを、早霜は求めていた。
「先生は………自分の立場が分かっているはずです。竹は貴女を………!」
「そうよ!私を庇って傷ついた!それなのに、彼女を否定した!でも………!私は………!」
早霜は思わず不知火を揺さぶってしまうが、それだけ取り乱している証拠だ。
彼女が艦娘になった根幹には、生徒達の仇を討つという深海棲艦への強い復讐心がある。
その黒い感情は、そう簡単に取り払える物では無い。
だからこそ、竹が深海棲艦になった存在だと認識した瞬間、僅かな間とはいえ憎悪の感情を向けてしまった。
今彼女に会ったら、間違いなく同じ感情を向けてしまうのは目に見えている。
「生徒達を奪った奴らへの復讐心を消すなんて………無理なのよ!」
「でも………。」
不知火は早霜に対し、明確な答えを出せない。
彼女もまた、早霜よりも感情を制御は出来ているとはいえ、復讐者であるのだから。
共感してしまっている故に、諭す事は不可能であった。
「復讐心を持つことは………間違っていない………!そう言ったわよね、雷!?」
錯乱する自身の姿を、周りから非難の目で見られていると勝手に感じてしまったのかもしれない。
救いを求めるように、早霜は雷を見る。
彼女は、海戦による就寝からの無理な中途覚醒で疲労が抜けきれず、未だに意識がもうろうとしている。
だから、早霜の言葉にハッキリと答えられる状態では無かった。
それが、否定の感情に見えたのか、焦って早霜は突っかかろうとしてしまう。
「教えて!まだ、私は間違っていないわよね!?生徒達を奪った敵を許さないと思う事は、正しいわよね!?」
つかつかと彼女に歩み寄り、不知火のように肩を掴みかかろうとした事で、その手がいきなり払われる。
何と佐渡が前に出て彼女を見据えていた。
周りには、他の5人の海防艦達も集まり、雷を守る様に固まっている。
「止めてくれ、早霜さん。雷さんは、まだ本調子じゃないんだ。………今の早霜さんの相手をさせるのは酷だ。」
この言葉も、早霜そのものへの非難だと感じてしまったのだろう。
彼女は、思わず我慢が出来ずに佐渡に叫ぶ。
「貴女に、何が分かるのよ!愛する生徒達を奪われた、私の気持ちが!!」
「ゴメン………確かに、あたし達には早霜さんの痛みは分からない。だから………あたしの言葉が気に障ったのならば、謝るよ。」
「!?」
佐渡が冷静に頭を下げたのを見て………その当時の生徒達のような外見の子供が、自身の八つ当たりに対して頭を下げたのを見て、少しだが沸騰しかけていた早霜の頭が冷える。
自分は一体、こんな小さな海防艦相手に何をやっているのだと。
「わ、私………。」
「その代わり………あたしの話、ちょっと聞いてくれないか?」
「貴女の………話?」
正直、今の不安定な早霜を相手にするのは佐渡には怖かった。
でも、ここで自分が引いたら、その八つ当たりは雷に及ぶ。
それだけは食い止めたかったので、佐渡は勇気を振り絞り自身の意志を示す。
雷を守る為ならば………自分の中にしまい込んでいる「忌まわしい記憶」を引き出しても良かった。
「あたしが覚えている頃にはさ………何ていうか、父ちゃんからも母ちゃんからも愛されていなくてさ………覚えている事といえば、殴られたり蹴られたりしている事だったかな。」
「さ、佐渡………?」
驚く早霜をよそに、佐渡は平戸を見た。
彼女が力強く頷いてくれた事に心から感謝をしながら、佐渡は衝撃的な言葉を語る。
「これでも、あたしはまだマシな方だ。平戸は………「色々あって」、子供を産めない体にされちまった。」
「な………っ!?」
流石に平然と仲間の辛い過去を語った事で、早霜だけでなく、その場にいたほとんどの者達が固まる。
佐渡は、別の意味で動揺する早霜の目を見て深呼吸をすると、過去を振り返るように言う。
「だからかな………勝手に九十九駆から特訓をさせられた時も、強要されていると思って、愛なんて無いと勝手に解釈して………浅はかな暴走をしてしまった。」
とにかく出世をする為に。
嫌な大湊を脱出する為に。
馬鹿な事をやって、雷に一生ものの傷跡を残した。
「でも………振り返れば、嬉しかった。三日月さんや藤波さんも含めて、九十九駆のみんなが、あたし達を心配して追いかけて来てくれた事。雷さんは、あたし達を捨て身で守ってくれたし、夏雲さんは、あたし達を泣きながら叱ってくれた。勿論、早霜さん達だって………。」
雷も、夏雲も、海風も、春風も、不知火も、三日月も、藤波も、早霜も、竹も………みんなこんな遠方の地まで、駆け付けてくれた。
大湊の為に………何より、佐渡達を助ける為に………。
「こんな事を言ったら、怒ると思う。でも、あたしからしてみたら、早霜さんも竹さんも、そして薄雲さんも同じなんだ。」
「同じ………?」
「こんなどうしようもない海防艦達を助けてくれた、人生の恩人。ありがとうって言っても、感謝しきれない………優しい人達。」
人間といっても、千差万別だ。
佐渡達の親のように、身勝手で嫌な思い出しか残さない最低の者達もいれば、雷達のように、自分の身を挺してでも救いに来てくれる者達もいる。
「あたしが無知だからこんな事を言えるんだろうけど………人間とか元深海棲艦とか言う前に、人はそんな優しさで区別できるんじゃないのかな。」
「優しさ………。」
「雷さんは多分、早霜さんを肯定してくれるよ。でも………残虐な深海棲艦と優しい元深海棲艦を一緒にしてしまうのは、違うって言うとあたしは思う。」
「佐渡………。」
早霜が佐渡の言いたかった事を、飲み込み始める。
佐渡は更に深呼吸をすると、真剣な顔で早霜を改めて見据えた。
「今、竹さんは苦しんでいる。そして、その竹さんを救えるのは、不知火さんの言う通り貴女だけなんだ。」
「………無理よ。私は………。」
「じゃあ、卑怯な事を前提で言わせて貰うよ。あたしが早霜さんの奪われた「生徒」だったら、「先生」に対して怒っている。場合によっては、泣いているかもしれない。」
「っ!?」
早霜の目が見開かれるのが分かった。
でも、佐渡は目を逸らさない。
絶対にそれだけはするまいと、しっかりと雷の前に立って見据える。
「だって自分達の命を奪った深海棲艦じゃないのに、「先生」は竹さんを身勝手な感情で「イジメて」いる。謝れるのは、イジメている当人である「先生」だけじゃないか!」
「あ………あ………!?」
早霜が佐渡の説教を………奪われた生徒と同じ姿をした海防艦からの説教を受けてふらつく。
それでも、佐渡は言葉を止めない。
やっている事は文字通り卑怯だと自覚しながらも、「亡き生徒」に代わって言葉を紡いでいく。
「「先生」!お願いだから、あたし達を失望させないでくれ!苦しんでいる竹さんを………救ってあげてくれ!!」
「や、止めて………!?」
「「先生」!目を覚ましてくれ!!今ならまだ間に合うんだ!!「先生」なら、まだ!!」
「止めてーーーっ!?」
半狂乱になった早霜が、手を振り上げる。
佐渡は、思いっきり殴り飛ばされると分かった。
だが、それでよかった。
雷は、傷つかなくて済む。
ちょっとだけでも………守る事が出来るのだから。
「……………。」
気付けば、佐渡はキュッと目を瞑っていた。
だが、痛みは走らない。
そっと目を開くと、すぐ傍で震えた状態の早霜がいた。
手は、振り下ろされるギリギリの所でとどまっている。
ポタポタと目から雫を流しながら早霜は、佐渡に振り下ろそうとした手を………そっと下ろして、頭を優しく撫で始めた。
その温かな感触を確かめ………昔を懐かしむようにすると、呟く。
「ねえ………先生、まだ間に合うかな?」
「行ってあげてよ。みんな………きっと応援してくれているから。あたしなんかの保証だけど………。」
「うん………ありがとう。本当に………ありがとう。」
早霜は膝を付いて、そっと佐渡を抱きしめると立ち上がり、工廠へと走り出す。
仲間達が次々とその背中を追っていく中で、気の抜けた佐渡は後ろに倒れそうになり………雷に支えられる。
「ありがとう………佐渡。早霜の目を、覚ましてあげて………。」
「ほんのちょっとだけは………恩返し、出来たかな………。」
「雷さんに」………とは言えなかったが、佐渡は少しだけ彼女の温もりに甘える。
佐渡の勇気ある行動は、確かに九十九駆に1つの転機を与える事になった。
佐渡達の、ちょっとした九十九駆への恩返しとも言える今回の内容。
その根幹にあるのは、やはり雷を「守りたい」という感情ですね。
早霜は果たして、まだ間に合うか…?