大楯の雷   作:擬態人形P

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第39話 ~祈る心~

艦娘補給用物資販売店………「コンビニ」に後始末屋の「はくちょう」が到着し、穢れを取る為の作業が始まった。

野分や嵐などが精力的に作業を行う中で、艦娘提督の敷波と秘書艦の磯波は薄雲や陽炎に挨拶をする事に。

元々、薄雲の正体を知っている敷波達は、今回の第九十九駆逐隊の騒動などにも寛容であり、竹の正体を知っても特に嫌悪感を示してはいない。

一方で絆を深めた九十九駆は、やっと落ち着けた事もあって、海防艦娘達と合わせて仲良く泥のように眠っていた。

 

また藤波は、三日月と共に、夕暮や清霜に相談を持ち掛けていた。

この大湊に来たのは、諸事情故に雷ですら知らない、深海棲艦化とドロップの経験をした艦娘の事が心配になった為。

どうやらその艦娘は、今は大間鎮守府にいるらしく、藤波は気になっている模様。

何やら色々な事情を抱えていそうであったが、夕暮達は自分の目で確かめた方がいいとアドバイスを送り、藤波の背中を押した。

 

 

「う………ん………。」

 

コンビニの工廠の奥で、雷はゆっくりと目を覚ます。

その身体は、非常に重い。

一度ドックで瀕死の中で夢から帰って来た時は、徐々に体を慣らしていけば大丈夫だったはずなのに、その後に寝たり起きたりを繰り返していると調子が良くならない。

 

(精神や体が………まだ不安定なのかしら………。)

 

頭を押さえながら、冷静に自分の状態を分析しようとする雷。

未だに思考は定まっていないし、体の状態も良くならない。

そんな雷に、白湯が差しだされた。

 

「雷さん………大丈夫ですか?」

 

おぼろげながら視線を向ければ、特徴的な眼鏡から平戸である事が分かった。

雷は感謝の言葉を述べつつ、白湯を口に含み落ち着こうとする。

そうしている内に、ドックの中に艦娘達が入ってくる。

平戸以外の海防艦娘達を筆頭に、九十九駆の仲間達だった。

三日月や藤波もいる。

 

「みんな………私、どれだけ眠っていたの………?」

 

雷は立ち上がろうとし………力が入らずに、また座り込んでしまう。

咄嗟に平戸や能美が両脇から支えてくれたから大事には至らなかったが、かなり危なっかしかった。

 

「あの後ずっとみんなで眠ってしまって………次の日の朝になったわ。」

「ほぼ………丸一日、眠っていたって事………。」

 

覗き込むように答えてくれた海風が、心配そうに告げる。

彼女の説明によれば、あの後夕方に後始末屋の「はくちょう」がやって来て清掃作業を始めたらしい。

しかし、九十九駆や海防艦達13名は疲労が溜まっていた為に、ずっと眠り続けてしまったのだ。

その結果、翌日の朝方近くまで時間が経過してしまっていた。

 

「それでみんな疲労が取れたのだけれど………雷だけ中々目を覚まさなかったの。」

「相当………疲れていたのかしら?」

「というより、「疲れている」………ね。現在進行形。大湊に帰るまで、まだ休息を優先しないといけないわ。………そんな姿を見せたら、鈴谷さん達が悲しむもの。」

「そう………ね………。」

 

海風に最後に言葉を付け加えられた事で、雷は流石に無茶を封じられる。

予め言い聞かせておくことで、雷の無茶を封じる必要がある事を彼女は理解していた。

無論、本当にどうしようもない時は、また制止を振り切ってしまう危険性はあったが………。

 

「私の体は………大丈夫?」

「勝手だけど、夏雲に………それに、「はくちょう」の北上さんにも診て貰ったわ。傷以外は今の所は問題無いって。でも、体が回復したら、精密検査が必要よ。」

「色々と………前途多難ね………。」

「むしろ、これで済んでよかったと思った方がいいわ。最悪、別の意味で、後始末屋の「お世話」になっていたんだから。」

 

厳しめだと思ったが、海風は雷にしっかりと「轟沈」という危険性があったという事実を投げかける。

これで雷の意識改革に繋がるとは思えないが、言うのと言わないのとでは意味合いが違ってくるだろう。

旗艦としての役目は、果たしていると言えた。

 

「とにかく、まずはもう一度ここで、少しずつ体を慣らす事。夕方頃には作業が終わって、野分がピアノで鎮魂の演奏会をするみたいだから、そこでみんなで祈りましょう。」

「うん………何か気を遣わせちゃっているわね………ゴメンなさい。」

 

雷は頭を下げるが、これに対しては、皆何とも言えなくなる。

本来ならば、謝る位なら、最初から無茶をするな………と言いたい所だろう。

しかし、彼女が体を張った事で、今回轟沈の艦娘が1人もいないのも事実なのだから、どうしても判断が難しかった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

その後、雷は海風に言われた通り、おかゆを食べて栄養を補いつつ、平戸や能美に支えられながら徐々に体を慣らし始める。

ドックや工廠内をゆっくりと歩いて行く事は最初に目覚めた時と同じであったが、思考や体が不安定な分、今度は念入りに取り組んだ。

両脇を支えられて安定してきたら、能美に両手を掴まれながら同じように歩いて行く。

どうやら海防艦の2人は、夏雲や北上から雷を絶対に無理させるなと厳命されているらしかった。

 

「雷さん、1回休みましょう。私、夏雲さん達に厳しく言われているんで、拒否権はありませんよ。」

「の、能美………そこまでペース配分しなくても別に………それに自分の体は自分が………。」

「ダメですよ、雷さん。休むと言ったら休むんです。」

「平戸まで………。」

 

かなり強引に指示をする2人の勢いに、雷はタジタジになる。

しかし、彼女達にしてみたら、それだけ絶対的に信頼が強い存在に雷はなったとも言えた。

だからこそ、雷を壊すような真似だけは絶対にさせないという、強い意志が見えて取れる。

 

そういうわけで、雷は無理のないペースでリハビリを行い、夕方頃にはひとまず歩けるようになっていた。

ここで夏雲に1回診て貰い、特に異常が無いのを確認したうえで、工廠の外に出る許可を貰う。

但し、その際も平戸に前を歩いて貰い、夏雲と能美に両脇を抱えて貰うという厳戒態勢であった。

 

「こ、ここまでやる必要があるの………?」

「それだけの傷だって事です………。嫌とは言わせませんよ………?」

 

夏雲にまで言われた事で、雷は困惑してしまう。

それだけ酷い状態だったのだから………と付け加えられると、何も言い返せなかった。

 

雷が桟橋に出た時、清掃活動はほぼ終了を迎えていた。

丁度空母達によって穢れを中和する為の特殊な薬剤が散布されており、洋上では大発を運用できる艦娘が、最後にある2隻の深海棲艦の亡骸………北方棲姫と軽巡棲鬼の亡骸を運んでいた。

皆、防護服を着ているから、どの艦種であるのかは分からなかったが、背丈だけで考えれば大発を操る艦娘は駆逐艦クラスのように思えた。

 

「あの2隻の艦娘が、敵の大将だったのね………。」

「そのようだね。………やっほ、雷。随分男前になったじゃん。」

 

声に反応して見てみれば、近づいてきていたのは「はくちょう」の艦娘提督である敷波であった。

雷が会うのは2度目であったが、向こうは彼女の負ってしまった傷跡に関して、そこまで気にしてはいない様子。

本当は内心驚いているかもしれないが、これは敷波なりの気遣いなのかもしれないと、雷は思った。

 

「敷波、あの2隻の深海棲艦はどうするの?」

「火葬して供養するよ。作業してる艦娘は、防護服や体の穢れを落とす為に「はくちょう」の中で消毒作業を行うね。只、その前に………鎮魂の演奏をしたくてさ。」

 

敷波が、「はくちょう」のデッキ部分を指差す。

すると、一足早く防護服を脱いで消毒を終えていた嵐が、ピアノを運んでいた。

その後ろから、野分が楽譜を持って現れ、マイクで敷波と連絡を取る。

 

「敷波さん、準備出来ました。演奏………始めますね。」

「宜しくね。それじゃあ………祈りを、捧げようか。」

 

敷波はそう言うと、一歩前に進み出て目を瞑り、静かに手を合わせる。

それに倣って、周りにいる艦娘達が次々と同じように祈り始めた。

雷もまた、そっと手を合わせると、夏雲や能美、平戸もそれに続く。

皆が手を合わせた事で、野分がピアノに座って演奏を始めた。

しっとりとした鎮魂の響きが、コンビニの周りに響き渡る。

せめて安らかに眠れるように雷は祈ったが………ここで、ふと気づく。

深海棲艦への恨みから、祈る事が出来ない早霜と不知火はどうしているのだろうか?

 

「夏雲………そういえば、早霜達は………?」

「あちらにいます………。」

 

夏雲の示した方角をみると、2人は竹や薄雲と共にいた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「……………。」

「………祈れませんか?」

 

早霜や不知火は手を合わせていたが、少し考えていた。

そこで隣に並んだ薄雲が、聞いてくる。

しかし、ここで早霜は彼女を見ずに質問をする。

 

「薄雲………気に障ったらゴメンなさい。あの深海棲艦が………元々艦娘であった可能性はあるのかしら?」

「私の目には、あの2隻は「同胞」には映らないです。元深海棲艦としての判別能力だから、これは確かですよ。」

 

薄雲の言葉に、早霜や不知火はビックリする。

彼女は小声ではあったが、説明を始める。

深海棲艦化とドロップ艦という歪んだ輪廻転生をした艦娘は、その経歴を持つ深海棲艦を見極める目も持っているらしい。

 

「だから、ドロップ艦になる可能性がある深海棲艦ならば、見極めが出来ます。その反応が無かった時点で、安心していいですね。只………。」

 

「只………?」

「少し前にやって来た大本営の研究者の話だと、深海棲艦化した際に艦娘は「怨念」を残す可能性があると聞きました。」

 

薄雲は、あくまで学者が考察した可能性の話です………と付け加えたうえで、ひそひそと話し出す。

穢れに呑まれる事で、艦娘は深海棲艦化をする。

その際に生じた負の感情が、怨念として海の中に溜まり続け、新たなる同型艦の深海棲艦を生み出しているのだと。

これにひっそりではあったが、驚きの声を上げたのは竹であった。

 

「そんな話が出ていたのか………?俺は、知らなかった………。」

「あくまで学者の一派による推測ですからね。全体には知れ渡っていません。でも、この仮説を当てはめれば、納得できる部分もあります。」

 

深海千島棲姫や深海竹棲姫は、今でも至る所で湧き続けている。

それは、轟沈した薄雲や竹の数を鑑みても遥かに多い。

この数の違いを説明するには、今の仮説を当てはめるのが一番しっくりくるように思えたのだ。

 

「じゃあ、この2隻の深海棲艦は………。」

「怨念から発生した可能性は十分にあり得ますね。北方棲姫は海防艦から。軽巡棲鬼は「阿賀野(あがの)」さんや「那珂(なか)」さんから。」

「……………。」

 

早霜は閉口する。

もしも、この深海棲艦が艦娘の悲しみや苦しみから生まれたというのならば、あまりにも悲し過ぎると思えた。

それこそ、人を殺す事しか考えられない怨霊。

人の形をしながら、人の思考を持てない悲しい生き物である。

 

「深海棲艦にも、色々いるのね………。私は………無知だったわ。」

「先生………。」

 

特に北方棲姫に関しては、海防艦娘の負の感情が元になっている可能性が高いのならば、救いが無さ過ぎた。

自分の教え子と同じような見た目の海防艦娘が、沈んで深海棲艦化した事による弊害。

 

「佐渡の言葉を繰り返すけれど………、深海棲艦という言葉だけで、全てを決めつけてしまってはいけないのかもしれない。」

「そうですね………。私達が憎むべき深海棲艦と、安らかに眠って欲しい深海棲艦は、別物なのでしょう。」

「私はだからこそ、彼女達にも輪廻があると思いたいんです。生まれ変わって………その時は人として自分の意志で未来を選べるようにと。深海棲艦を「人」と数えるのも、この心からですね。」

「そうだな………。俺も………そんな未来があるのならば、心の底から望みたいよ。」

 

竹は薄雲の言葉に同調すると、静かに祈り出す。

この負の感情から生み出された深海棲艦達が、死後の世界で安らげるように。

そして、正しい輪廻転生を果し、無事にまた生まれる事が出来るように。

 

「私達も………祈るわ。彼女達の未来を。」

「はい………運命を決めつけられるのは、悲しい事ですから。」

 

早霜や不知火も、同じように祈りを捧げる。

彼女達のようなドロップ艦に出会った事で、2人は少しではあるが、考えを変えられそうであった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

鎮魂の演奏会が終わり、ここから一晩は、清掃をした海域が正常になったかを確認する為に「はくちょう」はコンビニの前に待機する事になる。

敷波と薄雲が色々と話した結果、今日の就寝場所は、「はくちょう」の船内を借りる事になった。

理由としては、流石に雷の事を考えると、いつまでもコンビニの工廠のドックを借りているのは良くないだろうと考えているのが大きい。

只、予め雷の精密検査だけは済ませておきたいという事で、夏雲と北上同伴で、工廠で朝日によって色々と調べ始めている。

残りのメンバーは、海風を筆頭に、就寝する為の部屋割を決めている。

 

「基本は、大湊と同じでいいわよね。三日月と藤波は一緒に寝て貰うとして………。」

「それだけど北上さんが、雷は医務室で寝て貰いたいってさ。」

 

敷波の言葉に、全員が納得をする。

今の雷は1人にするのも良くないし、かといっていつも通り早霜や不知火といても無理をするのが目に見えているからだ。

だから、雷本人はいなかったが、皆が従う事になった。

そんなわけで、自分達の艤装を「はくちょう」の中に運ぶ事になる。

ここでふと、佐渡が聞く。

 

「あ………あたし達の艤装、壊れているんだった。雷さんのもそうだし、どうやって運ぼうか………。」

「私が大発に積んで運ぼうか?」

 

そう答えるのは三日月。

しかし、ここで、敷波が待ったを掛ける。

 

「ちょっとストップ。ここは、「はくちょう」の工廠をよく知っている人に任せた方がいいよ。呼んで来るから少し待ってて。」

 

敷波がマイクで伝達をすると、「はくちょう」の工廠から運搬用の大発動艇を3隻従えて艦娘が抜錨してくる。

恐らく先程、深海棲艦の亡骸を乗せて運んでいた駆逐艦娘であるだろう。

若干身長は低めに思えたが、長い黒髪を先で縛り、特徴的な青と白の鉢巻きを巻いている娘だ。

 

「あの艦娘は………。」

 

そこに、丁度精密検査を終えた雷が、夏雲や北上達と共に工廠から出てくる。

大発を従えた艦娘は、器用に3隻コンビニの桟橋に横付けさせると、自身も登って来てコンビニの前に立ち、敬礼のポーズを取った。

 

「初めまして!北上さんの弟子で、第一級工作艦技術者免許の所得を目指している「初霜(はつしも)」よ!宜しくね!」

 

初霜は、にこやかに笑みを浮かべて雷達に挨拶をした。




第27話で、薄雲が改ル級と対峙している際の言葉に、違和感を覚えた方もいると思います。
「1隻」ではなく「1人」と数えたり、「生まれ変わったら」と言ったり。
その理由が、今回言った通り、「彼女達」も生まれ変わる事が出来ると信じたいからですね。

佐渡の言った言葉は、思った以上に早霜達に影響を与えてくれている模様。
早霜達も過去故に、逆に祈れるようになったのかもしれません。

最後に、久々に新艦娘が登場です。
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