大楯の雷   作:擬態人形P

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第4話 ~血みどろのエース達~

大湊警備府へと向かった雷達は、佐渡以外でも問題児である海防艦娘である八丈、石垣、能美、福江、平戸の5人に出会う。

いずれも一同に嫌悪感しか示さない態度であり、訓練もサボるような面々であった為に、秘書艦の熊野は渋い顔。

 

一方で庁舎の中では、艦娘提督である鈴谷に出会う。

彼女は夫である前提督を市民の凶刃で失った後、提督業を引き継いで必死にやっていた。

その手腕はお世辞にも上手とは言えなかったが、熊野曰く、夫が亡くなった事を嘆く暇すら無かったとのこと。

複雑な気持ちになる雷達は「第九十九駆逐隊」に配属され出撃を目指すが、庁舎の前に並んでいたのは軽巡や空母に支えられて帰投してきた血みどろの駆逐艦娘達であった。

 

 

この場にやって来ていたのは6人。

 

赤い弓道着が特徴な、空母である「赤城(あかぎ)」。

ピンクのツインテールが自慢の、防空巡洋艦である「アトランタ」。

少し緑がかった銀髪を持つ、軽巡である「夕張(ゆうばり)」。

 

6人のうち彼女達3人は、少し傷を負っているがそれほど酷いわけでは無い。

 

だが、赤城に背負われている、眼鏡の艦娘の沖波。

アトランタに抱きかかえられている、銀髪の艦娘の朝霜。

そして、夕張にお姫様抱っこをされている、黒とピンクのウェーブの長髪の長波。

 

この3人は、顔や四肢、破れた服から見える肌に酷い火傷を負っており、出血も酷かった。

 

「おいおい!?なんて重傷なんだよ!?大丈夫か!?」

「あー………気にしなくて大丈夫だ。血は、「古傷」が開いた物がほとんどだから。」

「は………?」

「竹さん、この人達の傷………ほとんど「年季が入っています」………。」

 

抱っこをされながらも、片手をひらひらさせた長波の言葉に反応したのは、竹の横にいた夏雲。

彼女は、鈴谷の方を見ると思わず叫んだ。

 

「何で、こんな酷くなるまで放っておいたんですか!?艦娘だからって、扱いが杜撰過ぎませんか!?」

「な、夏雲さん!?何怒ってるんだ!?」

 

明らかに怒気を含んだ夏雲の言葉に、竹が気圧される。

訳の分からない春風が、夏雲に問う。

 

「入渠して高速修復材(バケツ)を使えば、傷は治るのでは無いのですか?」

「治りません!ここまでボロボロになったら、手遅れです!………ああ、だから第三十一駆駆逐隊だけじゃ限界が………。」

 

1人頭を抱える夏雲に、雷達は更に訳が分からなくってしまう。

夏雲は嘆息をすると、説明を始めた。

 

「彼女達は………恐らく、もう高速修復材(バケツ)が効きません。」

「どういう事………?」

 

思わず不知火が眉を顰めるが、夏雲は厳しい顔だ。

 

「艦娘が傷を癒せる範囲には、限りがあります。それが高速修復材(バケツ)であっても。」

 

彼女が言うには、傷の大きさ次第では、負傷から入渠までの間に時間が経ってしまったら、傷跡が残ってしまう事があるらしい。

それが軽度の物ならば、まだ良い。

だが、ダメージが蓄積されていく事で、艦娘としての体そのものがボロボロになり治癒が効きにくくなるらしい。

 

「鈴谷さんの話が確かならば、彼女達は練度が高かった故に、恐らく負傷をしても傷を癒す暇が無い位に、強硬出撃を繰り返していたんですよ………。だから傷が治りにくくなって、連続で出撃出来なくなったんです。」

「ま、マジなの………か?」

 

片手で頭すら抱える夏雲を見た竹が、思わず鈴谷を見る。

彼女は悲しそうな顔をしながら、長波達に対して深々と頭を下げた。

 

「全部、夏雲の言う通り。………ゴメンね、私や前提督が無茶ぶり要求しちゃってさ。」

「気にするなって。艦娘としては栄誉の傷よ。それに望んだのは、私達だからね。」

「そうそう、傷だらけの方が如何にもエースって感じだろ?」

「眼鏡は………無事ですから………だから、頭を上げて下さい。」

 

長波だけでなく朝霜や沖波も鈴谷を気遣う。

だが、ここまでの傷を負っていると、初めて見た者としては痛々しい印象しか感じないのが実情だ。

そこで、それまで黙っていた早霜が遠慮がちに聞いてきた。

 

「あの………岸波姉さん………と言えばいいかしら。旗艦である彼女は?」

「あ、そうそう!不味いんだって!彼女、単艦で足止めしてるのよ!」

「ええ!?」

 

夕張の発言に対し、一審早霜は聞き間違えでは?………と感じてしまった。

そう思うのも無理はない。

岸波は第三十一駆逐隊の中では、まだ改二艦としての姿が存在していない。

ある意味、一番轟沈の危険がありそうな彼女が、単艦で残るのは不味いのでは?………と思ったのだ。

しかも、その後の赤城の発言が、更に不安を加速させる。

 

「実は、足止めをしていた空母棲鬼が「空母棲姫」に進化してしまったの。私達は艦載機や弾薬が足りなくなってしまって………。」

「あのバカ、「岩波」に頼るからって言って、仲間達の撤退と近隣住民の安全の両方を確保しようと躍起になったのよ!」

 

アトランタの「岩波に頼る」という言葉の意味は分からなかったが、とにかく不味い状況なのは確かだった。

深海棲艦は個体によっては、ダメージによって進化する物が存在する。

空母棲鬼が空母棲姫になるのはその1つであり、鬼クラスから姫クラスになる事で、余計に攻撃が激しくなるのだ。

もしも岸波が、長波達と同じように治らない傷を負っているのならば、更に不味い事になり兼ねない。

 

「本当にいきなりだけど、第九十九駆逐隊、出撃お願い出来る?ぶっちゃけこういう時の為に、貴女達の招集を上の「大本営」にお願いしたようなものだしさ!」

 

流石に鈴谷も不味いと思ったのだろう。

真剣な顔で熊野と共に、雷達を工廠に手招きする。

無論、艦娘として断る理由はない。

7人は顔を見合わせると、頷き合って鈴谷に付いて行った。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

工廠では妖精さん達によって、艤装の準備が整っていた。

砲撃用の弾薬は補われていたし、魚雷や爆雷などの装備もしっかりと装填されている。

 

「ありがとね!私がいない間、役目果たしてくれて!」

 

普段は夕張が工廠の主を担当しているらしく、彼女は妖精さん達を労わる。

赤城は長波達3人を鈴谷や熊野と共に4つあるドックへと順に運んでおり、入渠の手配をしている。

雷達が順に艤装を装着している間、海風はアトランタに、岸波が空母棲姫と交戦している場所や、撤退時の状況を確認していた。

 

「弾薬や燃料は大丈夫ですか!?」

「撤退時に沖波が夕張の力を借りて、分け与えていたよ。」

「戦っている最中に出来るものなのですね。」

「多分………、夕張さんも「第一級工作艦技術者免許」を持っているんだと思います………。」

 

そう答えたのは、同じ資格を所得している夏雲であった。

彼女は艤装の背中に、遠征で運送を行う為の「ドラム缶」を1つ背負っていた。

雷は思わず問いかける。

 

「そのドラム缶………邪魔じゃないの?」

「修理や治療用の備品が入ってるんです………。私の力を発揮するには、止むを得なくて………。」

「そっか。貴女オリジナルの兵装なのね。」

 

夏雲はいつでも両手を自由にできるように、アームガードとして右手首に付ける主砲や左手首に付ける魚雷発射管は、首から紐で交差して掛ける形になっていた。

これならば海戦中でも即座に外して列車で見せたような素早い支援が可能になるが、その分攻撃面で疎かになってしまう。

咄嗟に攻撃機を落とす事が出来た事を考えると、夏雲の技量はそれなりにはあるみたいだが、海戦中では十全には活かせないだろう。

 

「そういえば、春風の艤装にも何か特殊な兵装が付いてるわよね。それ、何?」

 

雷が聞いたのは、春風の大型の艤装の左側にマウントされている日傘のような物。

彼女はにこやかな顔で取り出すと、雷に渡す。

 

「うわ!?」

 

その重さはズシリと来ており、鋼鉄で出来ているのを察知できた。

春風は得意そうに言う。

 

「わたくしの日傘は特注品です。主砲を撃つ際に目測を計るのに役立ちますし、神風型は魚雷発射管が後ろに付いているので、振り向いて撃つ際のバランサーとしても使えます。」

「成程、後は開けば即席の盾に………。」

「それもそうですが、振りかぶれば「即席の棍棒」になります!」

 

一番とびっきりの笑顔で答える春風を見て、雷は日傘を返しつつ、そっと同郷の海風を見る。

海風は少し目を泳がせると、説明を始めた。

 

「えっと………春風は、日傘による接近戦が好みなの。何でも、神風型は主砲の火力が無いからって、考えたのが接近戦らしくて………。」

「お陰で深海棲艦に対しても、意表を突く事が出来て役立ちますね!」

 

正直、雷は唖然とした。

彼女も列車で見せたように左右の大型の盾をインファイトで振るう事はあるが、あくまでそれは近接戦闘に持ち込まれた際の咄嗟の手段だ。

背中には同様に大型の錨も持ち合わせている物の、こちらも基本的にはバランサーである。

砲撃や雷撃が主体となる艦娘である以上、進んで格闘戦に持ち込もうとは思わない。

しかし、ここで更にとんでもない声が。

 

「お、何か春風さんとは気が合いそうだな。実は俺も、格闘戦は得意でよ!」

「まあ………だから、腹筋を鍛えているのですね!」

「そうそう!敵の顔面をぶん殴ってやった時は、気持ちいいのなんの!」

 

今度は、雷は同郷の夏雲を見る。

彼女はコクリと頷くと、説明をする。

 

「竹さんは、両手の空いたステゴロスタイルで怪力なので………。敵艦に近づいて殴る蹴るを得意としています………。」

「竹って艦種は、雷撃が得意だった気がするんだけど………。」

「得意です………。でも、雷撃を当てる隙を生み出すためには、格闘戦が必要だって………。」

 

一応、理に叶った内容ではあるが、接近戦を仕掛けるには当然ながらリスクも大きい。

列車の上での対応を見る限りでは、春風も竹も砲撃戦はそこそこできる感じだから、そちらを鍛えた方がいいのでは?………と雷は思った。

海風や夏雲も、同じことを思っているのだろう。

渋い顔で、互いに考え込んでしまっている。

ところが、トドメに雷自身が無自覚で恐ろしい事を言ってしまう。

 

「仕方ないわねぇ………いざという時は、2人共私が守ってあげるわ。」

『え?』

 

左右の大楯の状態を確かめる雷は、何処か自信満々だ。

そういえば、列車でもかなりの無茶を見せていたことを、海風と夏雲は今更ながらに思い出してしまう。

駆逐艦が盾役になるというのも、考え物であったが………。

 

「じ、冗談………ですよね?」

「何言ってるの?こんな時に冗談は言わないわよ。これでも砲弾を弾くのは得意だから。」

「……………。」

 

何処まで本気か分からない雷の言葉に、夏雲は震え、海風は絶句。

思わず2人は、早霜と不知火に助けを呼ぼうとするが、2人は素知らぬ顔。

………というより、列車の時のように、必要以上は喋らない主義であるらしい。

 

「ね、ねえ………アンタ達、大丈夫なの?本当に………。」

「け、結成時はこんなもの………だと思います。」

 

海風は青ざめながらも、何とか怪訝な顔をするアトランタに答える。

そうしている内に、不知火が複雑な艤装の兵装を整えた事によって、出撃準備が完了する。

 

「本当は自慢の専用カタパルトがあるんだけど、今は使用キャンセルね!走って飛び出していって!本当は私達の誰かが案内できればいいんだけど………。」

 

夕張は両手を合わせ謝る。

元々彼女は軽巡の中でも重装備なので、速力があまり早くない。

アトランタは対空砲火に優れるが、夜戦が苦手だ。

赤城は夜戦に特化した姿に「コンバート」をしているが、そもそも艦載機の補充が間に合っていなかった。

提督である鈴谷や秘書艦である熊野は論外。

だからこそ、速力に長けた駆逐艦達が、こうして集められる事になったとも言える。

 

「気にしないでください。………みんな、準備はいいわね!旗艦、海風………第九十九駆逐隊、出ます!」

 

海風が先頭になって、飛び出していく。

続いて雷が、春風が、竹が、早霜が、夏雲が、しんがりで補佐の不知火が抜錨していった。

 

これが、第九十九駆逐隊にとっての最初の海戦に向けての抜錨になる。

雷達にとっての、最初のステップと言えた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

大湊警備府の宿舎の2階では、海防艦達の部屋が割り当てられていた。

駆逐艦以下は、大体2人1組で使用するのがルールである。

それぞれ、佐渡と八丈、石垣と能美、福江と平戸がペアだ。

 

「……………。」

 

その内の1つの部屋で、佐渡は窓に肘を付き顎に手を当てながら、こっそりと外を眺めていた。

憮然とした表情ではあったが、その目は抜錨していく7人の艦娘………第九十九駆逐隊に向いている。

 

「………ねえ、佐渡。寝ないの?」

「寝るよ。………何で、あんな奴等なんかが。」

 

既にベッドに籠っている八丈に問いかけられ、佐渡は吐き捨てるように呟くと窓を閉める。

偶然、目に入ったとはいえ、その瞳は7人の中の雷を捉えていた。




明らかになって来た、大湊のエースを勤めていた第三十一駆逐隊の実態。
この小説独自の設定として、同じ薬を短期間に飲み続けると耐性が出来てしまうように、高速修復材(バケツ)も必要以上に使いすぎると効能が薄れてしまいます。
第三十一駆逐隊はそうした積み重ねがあって、入渠時間を短縮出来ないうえに古傷が残っていますね。
その為、激しい海戦を連続で行うと、傷が開いて入渠が必要になるという悪循環が発生してしまっています。
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