大楯の雷   作:擬態人形P

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第40話 ~憧れの駆逐艦~

一段落が付いて丸一日寝込んだ雷は、まだ精神的にも肉体的にも不安定な状態だった。

夏雲や北上の診断で徐々に調整が必要だという事になり、雷は平戸や能美の管理の元、しっかりと艦娘補給用物資販売店………「コンビニ」の工廠で、体の慣らし運転をする事に。

彼女が工廠から出てくる頃には、後始末屋「はくちょう」による清掃作業が終わっており、野分によるピアノでの鎮魂の演奏が行われる事になった。

 

艦娘達が祈りを捧げる中で、早霜は薄雲に、北方棲姫や軽巡棲鬼も元々は艦娘だったのか?………と聞く。

薄雲の目だと違うけれど、嘗て大本営の学者の一派が、深海棲艦化をした際の怨念が、新たな同型艦の深海棲艦を生み出す可能性がある事を説明していたと話す。

だとしたら、その怨念から生み出された怨霊のような深海棲艦は、悲しい生き物なのかもしれない………と、感じた早霜は、不知火と共にせめて死後の世界では安らげるように祈る。

竹や薄雲のようなドロップ艦との出会いは、復讐心に縛られていた彼女達の考えに、確かに変化をもたらしていた。

 

その後、「はくちょう」の中で就寝をする事が決まり、壊れた艤装はどうやって運ぶかを考えていた所、敷波がある大発動艇を扱える艦娘を呼ぶことに。

彼女は北上の弟子で、第一級工作艦技術者免許の所得を目指している初霜であった。

 

 

「北上さんの………弟子………?」

 

初霜の自己紹介を受けて、一番驚いたのは当然ながら、第一級工作艦技術者免許を持つ夏雲。

その彼女の姿を捉えた初霜の目が、輝いた。

 

「貴女が、北上さんの言っていた夏雲さん!?」

「うわ!?」

 

初霜はいきなりガバッとその両手を取って来て、ブンブンと上下に振る。

ビックリする夏雲を他所に、彼女は嬉しそうな顔だ。

 

「ずっと会いたかったです!駆逐艦で工作艦の免許を所得出来た存在と聞いて、憧れていたんですよ!!」

「え?え?あ、はい………?」

 

思わず困惑する夏雲。

いきなり自分自身を憧れの存在と言ってのける艦娘が、非常に珍しいと思ったのだろう。

だが、冷静に考えれば工作艦の免許を所得しようと思っている初霜にしてみれば、その先達者である夏雲に憧れの感情を抱くのは、当然とも言える。

それでも夏雲が混乱しているのは、駆逐艦で工作艦の免許を所得しようとする艦娘が稀であるからだ。

身も蓋もない言い方をしてしまえば、「物好き」であるとも言える。

 

「は、初霜さんも工作艦の免許を………?」

「はい!是非、私にも色々と教えて下さい!色んな工作艦としての知識を吸収したいんです!」

 

興奮すらしてのける初霜の言葉に、夏雲は困ったように北上と朝日を見る。

北上はやれやれといった顔をしており、朝日は上品に口に手を当てて微笑みを浮かべていた。

どうやら、初霜は彼女達からもしっかりと技術などを習っているらしい。

この初霜にどんな経緯があったのかは分からないが、ここまで工作艦として学ぶ事に熱心であると、逆に感心してしまう。

 

「あの………夏雲さん。工作艦の資格って、どうやって取るんですか?」

 

ここでおずおずとであったが聞いて来たのは、平戸。

夏雲は初霜に手をつながれたままであったが、皆が興味を持っているのを見て説明を始める。

 

「基本的には、知識の他に実技が必要になる資格です………。修理や治療の技術が必要ですからね。その為、あらゆる面で猛勉強が必要になりますけれど………。」

 

彼女が言うには、様々な大都市で艦娘の為の資格用の試験会場があるらしい。

ここら辺は、一般的な人間の資格試験と大差が無いとも言える。

その難関の試験を合格する事で、晴れて第一級工作艦技術者免許を獲得する事が出来るのだ。

尚、その上位互換の免許として、「特級工作艦技術者免許」というのがあるが、それこそ専門の工作艦である明石や朝日しか手に入れる事が出来ない、最高難度の試験があるらしい。

 

「初霜さんは………試験を目指して勉強しているんですね。」

「はい!私は試験に向けて、必死に勉強中です!北上さんが色々と教えてくれるお陰で、自分の能力を役立てられそうです!」

「確かに、大発運用能力があるだけでも………非常に有用ですからね。」

 

初霜という艦娘は改二艦になる事で、かなり器用な兵装を装備する事が出来る。

その力を工作艦という資格に応用できれば、色々と救助に繋げられた。

例えば、「大型電探」を装備すれば、より索敵範囲を広げていち早く要救助者を見つける事が可能になる。

大発動艇を使えば、発見した救助者を、自力で運ぶことが出来るようになった。

とにかく初霜改二は、そうした兵装の応用が利くのがポイントであったのだ。

 

「初霜さんが工作艦の資格を持てば、工作艦界隈に革命を起こせるかもしれませんね………。」

「本当ですか!?ありがとうございます!夏雲さんにお墨付きを貰えるなんて、幸せです!」

「うわ!?うわわ!?」

 

憧れの存在に褒められてテンションが上がり切った初霜は、遂に夏雲の体ごと上下に振り回してしまう。

流石に止めた方がいいと思った敷波が、助け船を出す事になった。

 

「あー、初霜。悪いけど、破損した艤装を全部運びだしてよ。「はくちょう」で一応確認しないといけないしさ。」

「そうでした!じゃあ、早速運びますね!」

 

初霜はまだ夏雲に会えて褒められた事が嬉しいのか、スキップをしながら工廠へと入っていき、朝日が示した艤装を1つ1つ自身の大発へと運んでいく。

後始末屋の作業は体力がかなり鍛えられるらしく、何度も艤装を運びながら往復しても全然スタミナが尽きる気配が無かった。

 

「………ちなみにアレで、うちの海戦の時のエース。」

「そ、そうなんですね………。攻撃面も素晴らしいとは………でも、北上さんに弟子がいるとは思いませんでした。」

「まあ………見ての通り、私は傷だらけだからね。後継者は育てておきたかったんだよ。」

 

両腕を広げて傷を見せつつ、少しだけ寂しそうに言う北上。

貴重な雷巡という事で様々な海戦で戦い、ボロボロの体になっている為、今は工作艦の業務を中心として歩んでいる彼女であるが、それでもいつか限界が来ると思っているのだろう。

その前に、初霜に工作艦の資格を取って貰い、「はくちょう」で活躍して欲しいと考えているらしい。

 

「北上さん………。」

「少し辛気臭い話になったかな。」

 

夏雲が心配の声を上げる。

北上の進退に関わる話を聞いた事で、微妙な空気になってしまった。

その為、思わず竹が手を叩き話題を変えた。

 

「そうだ!雷さんの精密検査は、どうだったんだ?」

「傷跡以外は、特に異常は無いみたい。でも、しばらくは医務室で固定らしいけれど………。」

「あー………そっちでも言われたんだな。まあ、本当に今は無理しない方がいいさ。」

 

気遣われた事で、雷は渋々と納得をする。

艤装が無い状態では、何をしたって無謀でしか無いのだから。

ならば、大湊に戻るまでに体を治す事を先決に考えた方が良かった。

 

「準備出来ました!敷波さんや磯波さん、雷さん達は大発に乗って下さい!」

 

そうしている内に初霜が破損した艤装を2つの大発に積み終えたので、海防艦6人と雷と敷波と磯波、そして北上は、残り1つの大発に乗って、「はくちょう」の工廠へと向かって行く事になる。

 

「私達も追いかけましょう。」

 

海風達は桟橋から艤装を装備して自力で航行し、初霜に付いて行った。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

一方その頃、日が沈む大湊警備府の医務室に向かう人影があった。

沖波とアトランタである。

2人はノックをすると、夕張が顔を出す。

 

「どうしたの?」

「食堂のおじさんやおばさんからの、差し入れです。鈴谷さんと熊野さんに、甘い物を持ってきました。」

 

そう沖波が差しだしたのは、食べやすい大きさに焼き上げられたクッキーである。

夕張は、ありがとうと言いつつ扉を開けて中に招き入れる。

中では制服姿ではあったが、鈴谷と熊野がベッドに横になっていた。

 

「2人共、体調は大丈夫なの………?」

 

アトランタがなるべく静かに聞いてみるが、夕張は少々困った顔である。

彼女の話によれば、貨物船と海防艦娘達の無事を確認できた事で、2人共安堵が出来るはずであった。

しかし、雷が一生ものの傷を負ってしまった事で、ショックを受けて倒れてしまったのだ。

特に鈴谷にしてみれば、自分が救出を願い出た事で負ってしまった傷なので、後悔の感情も大きい。

それまでに、欧州装甲空母棲姫が率いる深海棲艦の非道な行為によって、心身共にダメージを負った遊覧船の人々の対応をしていた事も影響していた。

 

「単冠湾泊地の霞ちゃんの話だと、海防艦達も雷ちゃんの姿を見て、猛省しているみたいだけど………。」

「してなかったら、あたしが全員ぶん殴ってるわ。とにかく、こんな姿をみんなに見せるわけにもいかないし、今は眠らせた方がいいわね………。」

 

アトランタが肩を竦めた所で、部屋の端に置いてあったパソコンが音を立てる。

鈴谷や熊野は僅かに身じろぎをしたが、睡魔の方が強かったのか、反応をする事が出来ない。

夕張が素早くパソコンの前に立つと、ボリュームを落として起動をさせる。

すると画面に、黒の長髪のアンダーリムの眼鏡の艦娘が映った。

 

「あ、「大淀(おおよど)」さん。」

「お久しぶりです、夕張さん。………今、鈴谷提督との通信は可能でしょうか?」

 

横須賀鎮守府の秘書艦である大淀が、テレビ電話で話しかけてきたのだ。

夕張はベッドの方を見て、首を振る。

状況を悟り、あまり芳しく無い事を悟った大淀は嘆息をする。

大本営の次に艦娘を管理する立場にある横須賀鎮守府にも、様々な情報が伝わっている。

 

欧州装甲空母棲姫の襲撃。

遊覧船と乗客達の被害。

海防艦娘達の暴走。

横須賀出身の雷の瀕死の重傷と残った傷跡。

 

これだけの情報が一気に伝わった故に、横須賀の新藤提督が心配をして連絡をしてきたのだ。

大淀を通しているのは、鈴谷達が見せられないような姿である事を想定して、同性の者に確認して貰った方がいいと思ったからである。

その予感は見事に的中しているから、気遣いは有り難かった。

 

「鈴谷提督達が起きたら、伝えておいて下さい。まず、大本営による海防艦娘達の処遇ですが………。」

「やっぱり………処罰があるの?」

 

夕張がより声を潜めて聞く。

沖波やアトランタも思わず唾を飲みこんだ。

しかし、大淀は軽くため息を付くと告げる。

 

「結論から言えば、不問になります。本来ならば重大な処罰が下されます場面ですが、九十九駆の活躍で貨物船に被害が無かった事。それに、大湊の戦力の一翼と認識されている事が、大きな要因です。」

「どうもありがとう。色々と気を使ってくれたのよね………。」

 

これだけのやらかしを不問にしたという事は、恐らく新藤提督が上手く大本営に説明をしてくれたのだろう。

海防艦娘達の過去や貴重な戦力である事、何より出世への意欲をより艦娘として貢献したいという勇み足であったのだと誤魔化してくれた事が要因であった。

 

「勿論、完全に不問とするわけにはいかないので、そちらで何かしらの処罰は行って貰いますけれどね。」

「とにかく、反省文を沢山書いて貰うわ。後は、2度とこんな事が無いように、本当に訓練をしっかりして一人前になって貰う。」

 

夕張が勝手に決めていい事では無いが、今の鈴谷や熊野が、真面な判断能力を持っているとは思えなかったので、宣言はしておく。

大淀は、少しだけ心苦しい顔をしながら告げる。

 

「提督では無いですが、本当に軍隊1つ分を送ってあげたいです。」

「そんな、構わないわよ。龍鳳さんも今は赤城さんと一緒に戦力として索敵を行ってくれているし………まあ、一騎当千の戦力が来てくれたら嬉しいけどね。」

「考えておきます。」

 

苦笑していた夕張がどういう事?………って顔をするが、大淀は頭を下げて、失礼します………と言って電源を切る。

夕張だけでなく、後ろで沖波とアトランタも顔を見合わせていた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「そうか………やはり、鈴谷君達は厳しい状態になっているか。」

「はい。余程酷いと思います。」

 

横須賀鎮守府の執務室では、新藤提督がテレビ電話を終えた大淀から話を聞いていた。

大湊の実態を考えると、現状やはり海防艦達が一人前になるまで戦力が足りないのは目に見えている。

送り出した龍鳳、藤波、三日月の3人は早速貢献してくれているみたいだが、それだけでは物足りないと思えた。

 

「大間鎮守府の状態も考えると………北方にそれこそ、一騎当千の力をもたらす存在が必要になるのじゃろう。」

「でも、戦艦クラスになればなる程、砲身が凍り付いて使い物になりませんし、空母クラスは、寒冷地装備&甲板要員を装備する必要がある為、活躍が制限されてしまいます。」

「ならば、小型艦………駆逐艦の出番じゃと思わないかね?」

「まさか………。」

 

大淀が眉を潜める。

新藤提督は立ち上がると、彼女に告げる。

 

「「大楯」が大湊に必要な存在であるのならば………、「対になる者」も必要な存在になるじゃろう。」

「頼るのですか………?「初期艦」に………彼女に?」

「雷君の事も考えれば、やはり彼女は必要な存在なのかもしれん。」

「……………。」

 

しばらく2人の間に沈黙が流れたが、やがて、大淀は執務室を出ていく。

そして、しばらくすると宿舎からある艦娘を連れて来た。

茶色い長髪をアップヘアーで、金色の瞳をしている幼めの見た目の少女。

彼女は、敬礼をすると静かに聞いた。

 

「………司令官さん、何か用なのですか?」

「単刀直入に言おう。大湊警備府に行ってくれないかのう?」

「嫌なのです。」

 

即答で答える艦娘に対し、新藤提督は深くため息を付く。

目の前の艦娘はその対応に対し、少し暗い顔をしたが改めて言う。

 

「………私が出向いたら、雷ちゃんが暗くなるのです。」

「その雷が、轟沈しかけたらしい………。海防艦娘達を庇ってな。傷跡も残ってしまったらしく………あっちでは大騒ぎじゃよ。」

「……………。」

 

艦娘は動じなかったが、眉を潜めてはいた。

雷を昔から知る艦娘である為、気にする部分はあるらしい。

 

「………「姉妹艦」として、守ってやってくれんか?その力は、守る為の力では無いが、活用する事は可能じゃろう?」

「司令官さんが言うならば、仕方ないのです………。」

 

あまり納得してはいなかったが、改めて敬礼をすると、艦娘は宣言する。

 

「暁型4番艦「電(いなづま)」。司令官さんの命により、大湊警備府に転籍をするのです。」

 

雷の妹艦である電が、横須賀からの4人目の戦力として大湊へと向かう事が決まった。




夏雲に憧れる、初霜の登場。
いつ静のアニメで彼女が海難救助の本を読んでいた事を思い出し、北上の弟子である工作艦見習いとして選びました。
一途である彼女にしてみたら、実際に資格を持つ20年戦士である夏雲には尊敬の目を向けるでしょうね。

そして、大湊で鈴谷達がダウンしている事を受け、横須賀では新藤提督と大淀が話し合う事に。
彼等が選択した、雷の姉妹艦である電。
色々と、謎がありそうな艦娘みたいですが…?
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