大楯の雷   作:擬態人形P

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第41話 ~「はくちょう」の艦娘達~

後始末屋「はくちょう」の船で、北上の弟子として工作艦として、免許の所得を目指している初霜。

彼女は、先達者である第九十九駆逐隊の夏雲に、強い憧れを抱いていた。

その勢いに困惑しながらも、改二艦で器用な兵装を使いこなせる初霜が工作艦の力を所得すれば革命を起こせるのではないかと、夏雲は感じてしまう。

彼女によって、壊れた艤装が運ばれていき、大発動艇に乗って九十九駆を始めとした大湊の面々は、艦娘補給用物資販売店………「コンビニ」から移動をする事になる。

 

一方その頃、大湊警備府では度重なる心労によって艦娘提督である鈴谷や秘書艦の熊野は寝込んでしまっていた。

そんな中、横須賀鎮守府の秘書艦の大淀からのテレビ電話を、医務室を管理していた夕張が対応。

海防艦達の処遇は何とか誤魔化せたという事でひとまずホッとするが、鈴谷達の状態が良くないという事で、大淀も心配を抱えてしまう事になった。

 

横須賀鎮守府で、その大淀から全てを聞いた新藤提督は、北方の寒気の中でも活躍できる、一騎当千の力を持つ艦娘が必要と考える。

そんな中、彼が指名したのは、貴重な「初期艦」である艦娘。

連れてこられた艦娘は納得していない感じであったが、命令ならば仕方ないと言って大湊へと向かう事になった。

 

その艦娘の名は………暁型4番艦の電。

雷の妹艦であった。

 

 

艦娘補給用物資販売店………コンビニから、後始末屋「はくちょう」の工廠内へと移動した、九十九駆を始めとした面々。

扉が開け放たれた中では、艤装の基部を装備した嵐と野分が待機をしており、大発動艇から降りる面々を慎重に床へと移動させてくれた。

特に雷はまだ足元が危なっかしいので、有無を言わさず野分がお姫様抱っこをしてしまう事に。

その後は艤装を積んだ大発を、初霜も含めた3人で入口から工廠内に設置されているレールに乗せる形で移動させる。

その一連の行動はスムーズで、無駄が無かった。

 

「私が医務室を担当している事が多いから、工廠は初霜に任せてる事が多いんだよね。」

「そうなんですか………。じゃあ、管理や修理も………?」

「初霜にやらせてる。メンテナンスに関しては、まだ資格を持ってないけど、任せていいと思うよ。」

 

北上がお墨付きを付けるのだから、余程の実力なのだろう。

艤装を大発から下ろした初霜は、しゃがみ込むと工廠の奥に手招きをする。

すると、奥から様々な妖精さん達が出て来た。

 

「妖精さん、私が戻って来るまでの間、艤装7つの管理と修理をお願いね。………夏雲さん達も、彼女達に艤装を預けてくれませんか?」

 

初霜に言われた事で、言われた夏雲を始め、九十九駆の面々が艤装を外して彼女達に渡す。

妖精さん達は人海戦術を駆使して協力して持ち上げ、奥へと運んで行った。

やがて、1人の妖精さん………初霜によく似た妖精さんが戻って来て手振り身振りで作業がどうなりそうかを伝える。

 

「それは、初霜の「固有妖精さん」?」

「ええ。みんな1人ずつ近くでサポートしてくれているでしょ?」

 

海風の質問に、笑顔で答える初霜。

彼女の差し出した腕をよじ登っていき、肩に到達した妖精さんは、海風を始めとした面々に敬礼をした。

固有妖精さんとは、サポート妖精さんとも呼ばれる存在で、艦娘になった際に必ず1人付いてくれる一番身近な存在だ。

特徴としては、その艦娘と同じ格好をしており、どんな時も一緒に居てくれる事である。

何処から来たのかは分からないが、艦娘の誕生から気付けば艤装と共に存在しており、艦娘の死か退役で消滅するかのように何処かに消える、精霊のような存在。

それ故に、彼女達に付いて下手に詮索する事は禁物とされていた。

 

「不思議だよな、固有妖精さんって。俺がドロップ艦として戻って来た時も、いつの間にか傍にいてくれた。」

「そうなの?だとしたら、姿が見えていなかっただけで、深海棲艦化した時も一緒に居てくれたのかもしれないわね。」

「有り得る。ここまで来ると、精霊というよりは守護霊だよな。」

 

竹と早霜がそんな会話をする中で、雷が神妙な顔をする。

不知火が、どこか悪くなったのか?………と思い心配するが、雷は首を振ると制服の中から妖精さんを呼び寄せた。

しかし、その妖精さんは1人ではなく、2人。

雷の姿をした者と、特徴的な煙突帽子を被った………大潮の姿をした者。

 

「その妖精さんは、まさか………!?」

「大潮が轟沈する時に、私に託してくれたの………。もしかしたら、彼女なりに私に思う所があったのかもしれないわね………。」

 

「1人でも多くの人々を救って欲しい」という言葉と共に、初期艦の大潮は、雷に自身の妖精さんを渡した。

それによって、雷は固有妖精さんを2人連れているのだ。

しかし、ここで春風が問う。

 

「あまりこんな事は言いたくは無いのですが………固有妖精さんが2人いる事で、何か弊害があるのでは無いのですか?本来は、相棒では無い妖精さんが一緒にいるのでしょう?」

「30年の間、問題が無いから大丈夫よ。精々、夢で大潮に会える事くらいかしら。」

「夢………?」

「あ、そういえば言ってなかったわね。」

 

ここで雷は、たまに夢の中で大潮と出会う事を皆に語る。

花畑のような場所で、沈んだ当時の姿の大潮と対面する事があるのだと。

彼女と出会う度に、雷は過去の過ちを再認識して自分を律しているのだと。

 

「ね、ねえ………雷。そこで、大潮の様子に何か違和感とか無かった?」

「違和感………?」

 

恐る恐る聞いてきた海風に、雷は首を傾げる。

何か自身は不味い事を言っているのか?………と思ったのだろう。

彼女は指を口に当てて考え込むと、少し寂しそうな顔をして告げた。

 

「そういえば、一度も心の底から笑ってくれたことが無いわね。それも当然よね。自分を殺した存在を前にして、笑えるわけが無いもの。」

「こ、殺したって………。」

「でも、大潮は優しい艦娘よ。私の事は許せないはずなのに、自分の感情を押し殺して、鼓舞してくれる事もあるもの。ドックで目を覚ませたのも、大潮が、佐渡達が泣いているって、教えてくれたからなのよ?」

「そ、そうなのか………。」

 

佐渡が、何とも微妙な答えを返す。

雷の説明が説明故に、明確な確証は得られない。

だからこそ、全員黙り込んでしまう。

しかし、その心には全員一瞬思いこんでしまう事があった。

雷の中に出てくる初期艦の大潮は、もしかしたら彼女の事をとっくに………。

 

『はっくしょんっ!!』

 

そこで大きなくしゃみが響き渡り、全員の思考が中断される。

声を頼りに工廠の奥を見てみれば、2人の水着を着た潜水艦娘が寒そうにしながら現れた。

片方は日に焼けた褐色の肌が特徴で、身長が潜水艦娘の中では高め。

もう片方は金髪碧眼の眼鏡っ娘で、胸部装甲が自慢。

 

「くしゅん!………うう、北方の海は寒いし、「晴嵐」さんも自由に飛ばせないよ………。」

「へくちっ!………耐水性の本が凍りそうなのは嫌だなぁ………。とにかく温まらないと………。」

 

どうやらコンビニの清掃をした際に、氷点下の海の中で作業をしていたらしい。

仕事が終わるなり、温めた薬剤による洗浄を終えて来たのだが、それだけでは完全に冷気を取り払うことが出来なかったらしい。

嵐がすかさず工廠の端から厚手のタオルを2つ持って来て、初霜が工廠の暖房を強めるように妖精さんに指示を出す。

タオルを受け取った2人の潜水艦達は、嵐達に感謝をしつつ九十九駆に注目した。

 

「あ………こっちにやって来たんだ。私は潜水空母の「伊401(い401)」。しおいって呼んでね!」

「アハト………いえ、潜水艦娘の「伊8(い8)」だよ。はっちゃんって呼んでくれると嬉しいな。」

 

挨拶をするしおいとはっちゃんに、海風を始めとした面々が次々と挨拶をする。

どうやら、彼女達が「はくちょう」の潜水艦勢の戦力であるらしい。

 

「2人は、海上からじゃ見にくい水深の様子を探ってくれているんだ。」

 

敷波が説明するには、後始末の際は水中に沈んだ亡骸を拾い集める役目を担っている。

これがかなり重要で、見逃しがあると沈んだ深海棲艦から穢れが漏れる為、折角綺麗にした海がまた汚れる危険性があるのだ。

 

「後始末といっても、色々と役割があるのね………。」

「他にも、デッキで特殊な薬剤を散布している人達が居たのを、覚えている?彼女達が綺麗にした海を、完全に正常化する役目を担っているの。」

 

磯波が手を差した方向を見ると、今度は洗浄用の部屋から、空母が2人出てくる。

片方は黒髪ツインテールの、弓道着を付けた艦娘。

もう片方は、黒髪のロングヘアーをポニーテールにした艦娘。

2人は、九十九駆を見ると手を振りながら挨拶をしてくる。

 

「へぇ、貴女達が九十九駆ね。私は「瑞鶴(ずいかく)」。宜しくね!………で、こっちが………。」

「瑞鶴さんの一番弟子!一番弟子の「葛城(かつらぎ)」よ!瑞鶴さんの魅力を語る事なら、任せ………グホッ!?」

 

笑顔の瑞鶴によって、顔面に裏拳を叩き込まれた事で、葛城が倒れ込む。

そのいきなりの漫才じみたやり取りに、唖然とする九十九駆の面々であったが、瑞鶴は何もなかったように手をひらひらとさせると、敷波に伝える。

 

「敷波、とりあえず作業は全部終わったわ。後は、今晩妖精さんに異常が無いか見て貰うだけ!」

「じゃあ、みんなで夕食を食べたら、風呂に入って休んでもらってよ。アタシ達は、お客さん達の寝室を紹介するからさ。」

「分かったわ。………じゃ、行くわよ、葛城。」

「は、はーい………。ああ、瑞鶴さんが沢山浮かんでいる~?」

 

頭にお星さまを浮かべた葛城の首根っこを引きずりながら、瑞鶴は歩いて行く。

特に「はくちょう」組の艦娘達が驚いていない所を見ると、アレがデフォルトであるらしい。

 

「しおいとはっちゃんも、ゆっくりと体を温めてよ。大湊に戻るまで、油断は出来ないからさ。」

「分かった!………じゃ、皆さん、また会おうね!」

「何かあったら、はっちゃん達が守らないといけないからね。休める内に休もう。」

 

潜水艦勢の2人も、そう言うと引き上げていく。

北上に憧れる初霜といい、個性的な面々ばかりが集う「はくちょう」の艦娘達の力に驚きながらも、九十九駆の面々は、各自部屋に案内されていく事になる。

その日の夜は、全員が早めに休む事になった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

夜も更けた頃、「はくちょう」の医務室では、雷が静かにベッドで寝転んでいた。

他の面々に比べて、前日によく眠っていた分、中々寝付く事が出来なかったのだ。

 

「眠れない?」

 

そう話しかけて来るのは、カーテン越しの隣の机で作業をしている北上。

彼女の姿は見えないが、気遣ってくれているのが雷には分かった。

 

「北上さん………聞いてもいいですか?」

「何?」

「私の体に傷が付くのと、能美や石垣に酷い傷が残るのと、どっちが良かったと思います?」

「その話ね。夏雲から聞いたよ?海防艦娘達を、随分泣かせたらしいじゃん。」

 

ズキリ………と雷は心が痛むのを感じる。

あの時は夏雲が上手く対処してくれたおかげで何とか負のスパイラルに陥る事は封じられたが、海防艦達は雷の一生ものの傷を見て、ショックを受けてしまっていた。

雷にとっては、望まない展開。

しかし、能美や石垣が傷を負う事で心に傷を残すのも、決して望まれない展開だったのだ。

北上は作業をしながらも、雷の言葉に応えてくれる。

 

「私なりに答えを言わせてもらうのなら、どう転んでも海防艦娘は、痛みを経験する事になったんだよ。心と体。選ばれた選択が、たまたま前者であっただけ。」

「それ………残酷過ぎませんか?」

「暴走した時点で、自業自得なんだよ。そもそも、30年も艦娘をやっていれば、世の中そんなうまくいかないのは、分かっているはずじゃん?心と体の両方が壊れなかっただけまだマシかな。」

「……………。」

 

バッサリと言ってのける北上の言葉に、雷は閉口してしまう。

確かに、言っている事は正しい。

海防艦娘達は、実際に暴走してしまったのだから。

それでも、雷は彼女達を完全に救いたかった。

「1人でも多くの人々を救って欲しい」という、大潮の願いがあるのだから。

 

「まあ………今は、雷は自分の事だけを考えた方がいいだろうね。体を完全に回復させないと、海防艦達だけでなく、九十九駆にも迷惑を掛けるんだから。」

「そう………ですね。」

「それに………。」

「それに………?」

 

カーテン越しに、北上がペンをクルクルと回しているのが、雷が分かった。

表情は分からなかったが、こちらを向いた彼女は優しい言葉を告げる。

 

「年頃の子供っていうのは、成長が早いからね。知らない内に勝手に心身共に強くなって、「親離れ」出来ているかもしれないよ?」

「あの子達が………?でも、そもそも私は母親でもないし………。」

「さあ、どうだろうね?只、手を繋いでほしい時に繋いであげて、そうでない時は黙って背中を押してあげる事も、母親としての役目。………覚えておいた方がいいよ?」

 

北上の言葉の意味を、雷はまだ理解できない。

只、何故か心には染み渡る言葉であった。




後始末屋である「はくちょう」の中の艦娘達の一部を紹介する回です。
今回は、潜水艦勢と空母勢が登場。
個性的な面々ですが、今後、他にもまだ登場する予定です。

その中で、何故か重みがある北上の言葉。
彼女には体の傷以外にも、秘密があるのかもしれませんね。
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