大楯の雷   作:擬態人形P

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第42話 ~想いのシンクロ~

後始末屋の「はくちょう」の工廠に来た第九十九駆逐隊は、話の流れでサポートを行って貰う固有妖精さんの話をする事に。

どんな時も一緒に居てくれる、艦娘に1人付いている妖精さんではあるが、雷は自身の妖精さんと「初期艦」である大潮の妖精さんの2人を連れていた。

ここで、何かしら問題が起こっているのでは?………と春風が心配した事で、雷は初めて大潮の夢を見ている事について説明する。

その話を聞くうちに、九十九駆の面々は何かしらの違和感を抱くが、ここで別の艦娘達が登場する事に。

 

それは、「はくちょう」の主戦力である潜水艦娘の伊401と伊8。

更に、空母である瑞鶴と葛城である。

後始末を終えた彼女達は、しばらくお邪魔する事になる九十九駆の面々に、快く挨拶をしてくれた。

 

そしてその夜、皆が寝静まった後で、医務室で雷は北上に問う。

自分が傷を残す選択と、能美や石垣に傷を残す選択のどちらが正しかったのかと。

北上は、どちらにしても海防艦達は傷ついたとバッサリと述べ、雷を閉口させてしまう。

只、その上で彼女達の「親離れ」は意外と早いかもしれないと、意味深な事を述べる。

雷は、何故かその言葉が心に染み渡る事になった。

 

 

「………ん?何処だ………ここ?」

 

気付けば佐渡は、海の上に立っていた。

四方八方何処を見渡しても、青い海が広がる空間。

壊れていたはずの艤装を背負いながら、棒立ちになっている。

 

「あたし………確か、「はくちょう」で部屋を借りて眠ってたよな?じゃあこれ………夢なのか?」

 

日が沈んで夜であるにも関わらず、空は青く広がっている。

だが、肝心の太陽が見当たらない所を考えると、やはり夢の中だと考えた方が良かった。

寝る前に雷から大潮の夢にまつわる話を聞いた事も有り、少し迷う所は会ったものの、そう考えると何処かしっくりとは来る。

 

「だったら………何であたしはここに来たんだ?あたしを呼んだのは………誰だ?」

 

佐渡は、当たりを見渡す。

すると、彼女の声に応えるように、遠くから誰かが歩んできた。

少しずつ影が濃くなっていき………その姿を認識した途端、佐渡は驚愕する。

 

「あ………あたし!?」

「そうだよ、「佐渡」様だ。」

 

ゆっくりと艤装を付けて歩んでくるのは、海防艦娘である「佐渡」。

自分と瓜二つである「佐渡」の姿に、佐渡は思わず引いてしまう。

 

「か、鏡じゃないよな!?それとも、ドッペルゲンガーってやつか!?」

「落ち着けよ。お前がそんなんじゃ、「佐渡」様が報われない。」

 

「佐渡」は佐渡の近くまでやって来ると、嘆息しながら彼女を見る。

一方で佐渡は、「佐渡」をマジマジと見つめながら、自分の姿に動揺していた。

 

「お前………何者なんだ?」

「別に大した存在じゃない。お前が認識した通りの………海防艦「佐渡」だ。」

「海防艦「佐渡」………まさか………。」

 

佐渡は、徐に自分の背負っている艤装を触ってみる。

確か大湊で、早霜が座学で教えてくれていた。

艤装には、過去に沈んだ「艦」の力が込められており、それが「娘」に宿る事で「艦娘」になると。

佐渡には、「佐渡」の力が宿っており、それによって海防艦娘である佐渡の力が発揮できるのだと。

 

「………文句、言いに来たのか?艤装を壊した事に。それとも、今まで訓練とかをサボっていた事に。」

「自分で分かっているなら、今更何も言わないさ。むしろ、今だからこそ、お前に聞きたかった事がある。」

「聞きたかった事………?」

「改ル級に襲われて、雷さんが助けに来てくれて危機に陥った時………「違和感」を感じなかったか?」

 

言われて、佐渡は改めて思い出す。

雷が改ル級の追い打ちを受けて轟沈しそうになっている中、佐渡達は艤装の基部の破損などによって動かなくなった自分の体を、必死に動かそうとした。

最初こそ鉛のように重かった体ではあるが、不思議な事に徐々に動き出したのだ。

まるで、何かがカチリとハマり、シンクロしたように。

 

「そうだ………あたし、雷さんを「守りたい」と思って………。そしたら、急に動けるようになったんだ。もしかして………お前が力を貸してくれたのか?」

「海防艦は、「守りたい」という想いを背負った艦だ。文字通り、海を防衛する艦だからな。お前が、初めて何かを「守りたい」と思ったからこそ、あたしと想いがシンクロした。」

 

「佐渡」は語る。

雷を初めて「守りたい」と思った海防艦達の信念は、艤装に秘められた力を一時であったが解き放ったのだと。

それによって、嘗てない力が発揮される事になったのだと。

 

「嘗てない力………。」

「そのうえで聞きたい。大湊を守りたいって想いは、まだ抱けないか?」

「……………。」

 

熟考したうえで、佐渡は首を横に振る。

残念ながら、自分達を暴力で虐げた両親がいる町は好きにはなれない。

育ててくれた院長先生や孤児院の仲間を守ってくれなかった大湊警備府の存在も、まだ完全には割り切れていなかった。

だが………。

 

「でも、あたしは………いや、あたし達は雷さん達を守りたい。命懸けで助けに来てくれたあの人達を………面と向かっては言えないけれど、「母ちゃん」達を………守れる力が欲しい。」

 

だからこそ、大湊に戻ろうと決めた。

鈴谷や熊野、岸波達三十一駆逐隊など、迷惑を掛けた人達に謝ろうと決めた。

そして………今度こそ特訓をして、強くなろうと決めた。

雷達を、自分達の母を守れる位に。

 

「もしもお前が………「佐渡」が、艤装の力の源ならば………頼む!あたしに力を貸してくれ!あたし達はもう、「母ちゃん」を傷つけたくないんだ!!」

 

佐渡はそう言うと、「佐渡」に対して頭を下げる。

「佐渡」はしばらく目を伏せ、腕を組み考えた。

そして………徐に右手を差し出す。

 

「掴めよ。」

「え………?」

「それだけの覚悟があるなら………大丈夫だろ。使いこなしてみせろ、「佐渡」の力を。」

 

そう言うと、「佐渡」はニヤリと勝気な笑みを浮かべる。

佐渡は恐る恐るであったが、その手を握りしめた。

 

「ありがとう………!」

「強くなるんだぞ、海防艦娘の佐渡として!」

「ああ!」

 

手を掴んだ瞬間、「佐渡」は光に代わり佐渡を包み込む。

そして、海の広がった空間が光に包まれるのを感じた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「……………。」

 

気が付けば、佐渡は薄暗い中で目を覚ましていた。

時計を見たら、時間は5時頃。

上半身をベッドから起こし、自分の右手を見る。

 

「あの夢って………あ………。」

 

佐渡はここで、自分の右肩に固有妖精さんが立っている事を認識する。

彼女は腕を組み、何処か真剣な顔で佐渡の顔を見ていた。

 

「お前が、あの夢を見せてくれたのか………?」

 

佐渡は妖精さんの力だと思い、固有妖精さんを見る。

だが、彼女は首を振ると佐渡を指差す。

つまり、そのジェスチャーを真に受けるのならば、佐渡自身が自力でこの夢を見たという事になる。

 

「どういう事だろ?あの海の上での出来事は一体………?」

「もしかして………佐渡もあの夢を見たの?」

「八丈………?」

 

二段ベッドの上で寝ていたはずの同部屋の八丈が、逆さまに顔を覗かせて来る。

もしやと思い2人は寝間着を脱ぎ、制服に着替えながら、夢で見た事を話し合う。

八丈もまた、あの海のような空間で海防艦「八丈」と出会い、佐渡と同じことを問われたらしい。

 

「あたし達がそうならば、ガッキー達も同じなのかも………。」

「確かめてみるか。」

 

あの改ル級との戦いで、雷を「守りたい」と思ったのは、海防艦娘6人全員に通じる想いだ。

案の定、部屋の外に出た所で、両隣の部屋から石垣と能美、福江と平戸が出て来た。

佐渡を中心にして話し合った結果、やはり共通の夢を見たという。

 

「ここまで来ると、偶然………なわけ無いよな。妖精さんはあたし達が自力で見たって言っているけど………。」

「そうだ、夏雲さんなら何か知っているかも。」

 

能美が手をポンと叩く。

確かに、工作艦の技術を持つ夏雲ならば、妖精さんの事はある程度は分かるかもしれない。

しかし、ここで福江が首を振る。

 

「色々あったし、まだ眠っていると思う。それなら、北上さんに聞いた方がいいんじゃないかな?雷さんの面倒を見る為に、早く起きてそうだし。」

 

時間が5時過ぎである事もあり、九十九駆の面々は下手に起こさない方がいいというのが福江の考え。

だが、今度はそれに対して石垣が顔をしかめる。

 

「勝手に医務室に行くのは………良くないと思う………。私達………色々とやらかしているし………。」

 

総員起こしが掛かる前に、独断で動き回るのは良くないという石垣の言葉に、5人も納得。

大湊では、6人で勝手に行動した結果、暴走に繋がっているのだから、自重した方が良かった。

では、仕方ないが部屋に戻るべきだろう………と思った所で、少し遠くの部屋から、1人の艦娘が出てくるのを見た。

 

「あら?何かあったのですか………?」

「もしかして………春風さん?」

 

特徴的な髪型をしていながらも佐渡達が一瞬分からなかったのは、彼女がいつもの袴姿の制服でなく、寝間着姿であったから。

どうも春風は、起床が早めであるらしく手洗い場で顔を洗おうとしていたらしい。

佐渡から海防艦達が見た夢の話を聞いた彼女は、少し考え込む。

というのも、春風自身はそんな夢を見た事が無かったからだ。

 

「確かに、北上さんに聞いてみた方がいいかもしれませんね。………少しばかし、時間を下さい。」

 

九十九駆にも関係がありそうな夢の内容であった事もあり、春風は洗面所に足早に行って顔を洗ってくると、自室に戻り着替えを行う。

同部屋の海風はまだ眠っているらしく、彼女に書き置きを残して自分の行方を分かるようにしておくと、海防艦達の元に戻って来てくれた。

 

「付き合ってくれるのか………?」

「多分、今はまだ雷さんが就寝しているはずです。その前に確かめた方が良さそうですからね。」

 

春風はそう言うと海防艦達に笑みを見せ、共に医務室へと静かに歩んでいった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

医務室に着いた7人は、誰が入るか相談をする事になる。

雷が寝ている可能性が高い以上、流石に全員で突入するわけにはいかないからだ。

ここは、保護者役の春風と、もう1人説明係になった。

 

「誰も立候補しないならば、あたしが説明するけれど………。」

「私が行ってもいいですか?北上さんとは、話をしてみたくて………。」

 

意外にも、立候補をしたのは平戸。

佐渡は拒否する理由も無かった為、素直に2人に任せる事にする。

そして、部屋の外で待機をしていたが、ここで能美が夢とは別の妙な違和感に気付く。

 

「そういえば、平戸………心なしか、夏雲さんや北上さんに………というより、工作艦の力を持っている人に興味をもっているよね。」

 

共に目覚めたばかりの雷の面倒を見ていた能美だからこそ、平戸が工作艦の資格を持つ夏雲の指示を良く聞いていた事に気付いていた。

その推論を裏付けるように、同部屋の福江が答える。

 

「平戸は、第一級工作艦技術者免許に興味を持ち始めているんだ。」

「それ………凄い………難しいんじゃ………なかったっけ………?」

「ああ。でも、大湊に戻ったら取りたいって寝る前に言ってた。どれだけ時間が掛かっても、免許を獲得したいって。」

 

平戸は、雷との決闘では、メリケンサックを使って格闘戦を仕掛けようとする程に荒れていた。

しかし、海防艦としての速力とリーチを考えると、零距離で殴り掛かるのは実戦では不可能に近い。

それならば、その器用さを別の方向に持って行った方がいいと思い始めたのだ。

 

「自分は子供を産めないから………せめて、産める人達を自分なりの手段で守れるようになりたいって思ったんだってさ。失礼だけど、あの平戸が!?………って思ったよ。」

「本当に失礼ですね………。私がそういう考えを持ったらいけないんですか?」

「あ………お帰り。」

 

丁度会話が終わったのか、頬を膨らませながら平戸が扉から出てくる。

その後ろからは、苦笑している春風と何やら考え込んでいる北上、そして部屋にいたのか同じく考え込んでいる初霜がいた。

 

「北上さん、初霜さん、おはようっす。………何か検討つきました?」

「そうだねぇ………一応確認するけど、全員、「艦」に力を貸して欲しいと願ったんだよね?」

 

北上の質問に、6人の海防艦達は顔を見合わせ一斉に頷く。

それを聞いた彼女は、初霜と何かを話し合うと春風を含めた7人に告げた。

 

「初霜と共に、工廠に行ってみてよ。」

「工廠………すか?えっと………そこに一体、何があるんすか?」

「行ってみてのお楽しみかな?………多分、私の勘が正しかったら、そこで何か分かるからさ。」

 

意味深な北上の言葉を受け、思わずまた顔を見合わせてしまう海防艦娘達。

少々その言葉の内容が気になりつつも、彼女達は工廠へ向かう事になった。




第26話で、佐渡達が瀕死の雷を「守りたい」と思った時に動けるようになった理由。
それは、艤装に眠る「艦」の意志が力を貸してくれたからでした。

その艦に力を貸して欲しいと願った佐渡達。
彼女達の想いに、艦が応えてくれるとするのならば…工廠で待ち受けているのは…。
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