大楯の雷   作:擬態人形P

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第43話 ~覚悟の改装~

後始末屋「はくちょう」の寝室を借りた佐渡は、夢を見ていた。

青い海の上で、自分自身と対峙する夢。

その目の前にいる存在が、艤装に宿る海防艦「佐渡」と知った佐渡は、雷を………母を守る為に強くなれる力を貸して欲しいと願う。

「佐渡」は自分の手を握らせる事で、佐渡に光となって包み込んだ。

 

早朝に目が覚めた佐渡は、八丈を始めとした海防艦6人が全員同じ夢を見た事を知る。

話し合った結果、医務室にいる北上に確認を取った方がいいと判断し、丁度目を覚ましていた春風に保護者の役目を頼んで部屋へと向かう事に。

 

医務室では春風と、密かに工作艦の免許の所得を目指したいと意志を固めた平戸に説明係を任せた佐渡達は、北上から初霜と共に工廠に向かえばいいと助言を受ける。

その意味を確かめる為、彼女達は「はくちょう」の工廠へと向かうが………。

 

 

工廠に辿り着いた佐渡達は、初霜に待っていて欲しいと頼まれる。

彼女は奥の方に足を運び、屈みこんで妖精さん達に色々と話したうえでお願いすると、何かを運んできて欲しいと最後に告げる。

すると、彼女達が運んできたのは、6つの艤装の基部………海防艦6人の艤装の基部であった。

 

「も、もしかして、もう直ったのか!?」

 

驚く佐渡に対し、初霜は少し頷くと、妖精さん達の頭を撫でる。

どうやら、彼女達が夜通し働いて直してくれたらしい。

 

「能美さんや石垣さんを含め、艤装の基部そのものの損傷は少なかったの。缶やタービンを専用の物に取り換えたから、ちゃんと稼働が出来るわ。」

「はえ~、すっごいなぁ………。ありがとな、妖精さん!」

 

初霜の言葉に、感心する佐渡。

そのお礼の言葉によって、妖精さん達が一斉にサムズアップをした。

只、ここで春風が小声で一言。

 

「あの………雷さんの艤装の方は………?」

「そっちは破損が酷いので修繕には時間が掛かるわね。………大丈夫、北上さんと話し合って、大湊に着くまでに直るように時間調整しておくから。」

「気をまわしていただき、ありがとうございます………。」

 

春風が危惧したのは、この後「はくちょう」が、艦娘補給用物資販売店………「コンビニ」を発ち、大湊に戻るまでの間に海戦が発生してしまった場合だ。

もしも艤装が直っていたら、全てを守る為に行動する雷は強硬出撃してしまう危険性があった。

本人の体はまだまだ本調子では無い為、春風にしてみれば、それだけは避けたい想いであったのだ。

ここら辺は、夏雲がしっかりと話し合ってくれているのもあり、北上と初霜も配慮してくれていた。

 

「話を戻すわね。それで、佐渡さん達の夢の内容を鑑みて、修繕をした妖精さん達に身振り手振りで確かめてみているんだけれど………。」

 

初霜は1人の妖精さんを指に乗せ、近くの機械のモニターを叩いた。

佐渡や春風達7人がその図面を覗き込むと、そこには制服を着た海防艦6人と、彼女達の艤装の見取り図が並んでおり、色々な数値が出ている。

そのモニターを叩く事で、全員の各数値が上昇していった。

 

「………これ、どういう事だ?」

「佐渡さん達は、「改装」という言葉は知っているわよね?」

「そりゃ………えっと、早霜さんの授業で習った通りならば、練度上昇に合わせて、艤装を強化する事だろ?」

 

艦娘の力の発揮具合を示すバロメーターは、「練度」と言われている。

基礎的な訓練や体力作り、演習などの繰り返しで上昇させる事が可能で、練度が高まればより艤装の真価を発揮できると言えた。

とはいえ、練度=技術というわけではないので、そこから応用を利かせるには、より実戦的な特訓が必要になる。

例えば、雷の大楯を駆使した敵の砲弾を弾く技能は、明らかに練度の上昇だけでは説明が付かない。

これは、彼女が独自で鍛えぬいて身に着けた技術と言えた。

 

とにかく、ある一定の練度まで到達した場合、艤装は「改装」と呼ばれる強化をする事が出来るようになる。

少なくとも艦娘は、全員が「第一改装」と呼ばれる最初の改装を施す事が出来るようになる為、根本的に戦力を強化する手段として、余程の事が無ければ受け入れるのだ。

 

「その第一改装を………あたし達6人全員が出来るようになったって事か?」

「端的に言えばそうなるわ。妖精さんが頷いているから、間違いないわね。」

 

初霜の指し示す通り、いつの間にか肩に乗っていた固有妖精さんが皆で頷いてくれている。

ならば、ちゃんと改装が可能であるのだろう。

だが、それはそれで八丈に疑問が生じてしまった。

 

「おかしくない………?ハチ達、何で今になって改装が出来るんだろう?」

「そりゃ、雷さん達が鍛えてくれたから………って、そうか。だったら、可能になった時点で、即座に改装させてくれてるよな………。」

 

実際に、欧州装甲空母棲姫といった不確定要素の襲撃が有り得たのだ。

あの時は理解出来ていなかったが、海防艦の事を大切に想ってくれている雷ならば、改装可能になった時点で、推奨してくれているはずだ。

ここで顎に手を当てて答えたのは、考え込んでいた春風であった。

 

「もしかしたら………、雷さんを「守りたい」と思ったからでは無いでしょうか?」

『あ!』

 

その言葉で、6人は夢の中での内容を思い出す。

対面したそれぞれの「艦」は、雷を「守りたい」と思った事で、想いがシンクロして一時的だが力を発揮させたと言っていた。

そして、強くなりたいと願った事で、その力を使いこなしてみせろとも。

もしかしたら、その意味が第一改装の解放条件なのかもしれなかった。

 

「じゃあ何だ?今まではあたし達に対して、艤装がそっぽを向いてたって事か?いや、この場合………。」

「私達の方が………艤装に………そっぽ向いてたと思う………。だから………練度が足りても………改装条件を満たせなかった………。」

「そう思うのが、妥当だよなぁ………。」

 

石垣の適切なツッコみを受けて、佐渡は肩を落とす。

今更考えても遅いが、もっと早く自覚出来ていれば、雷に傷を残さずに済んだかもしれないと思うと、後悔の念は抱いてしまう。

若干どんよりした所で、春風がやんわりと救いの手を伸べた。

 

「もう繰り返さない事も、雷さんを守る上で大事な事ですよ?強くなれるのならば、これからの為に強くなるのも手だと思います。」

「そうだね。ありがとう、春風さん。………初霜さん、早速その改装を。」

「ちょっと待って、能美さん。改装は必ずしもメリットをもたらすわけでは無いわ。」

 

前に一歩踏み出した能美を、初霜が制す。

どういう事かと首を傾げる海防艦娘達に、彼女は説明を始める。

 

改装をする事で、艦娘は確実に強化が出来る。

それは言うなれば、鎮守府や警備府の戦力増強にも繋がる話だ。

しかし、言い換えれば強化された艦娘は、管轄する者からしたら手放したくない存在になる。

 

「意外かもしれないけれど、海防艦は駆逐艦に比べて絶対数が少ないわ。だから、改装をして戦える海防艦だけでも、貴重な存在になるの。」

 

その結果が、安易に退役が出来ないという事だ。

海防艦の未熟な姿のままで、何年も………下手したらそれこそ雷のように30年も戦い続ける事になるかもしれない。

 

「じゃあ………何だ?雷さんの想いを、裏切る事になるかもしれないって事なのか………。」

 

佐渡は思い出す。

改ル級との海戦で雷は、女として生まれたのならば、好きな男の人を見つけて、結婚をして、子供を産んで、幸せになって欲しいと願っていた。

だが、改装をする事で、その願いからは遠のくのではないか………と言われてしまうと、流石に下手に改装をしたいと言えなくなる。

 

「もう1つ懸念材料があるわ。貴女達、大湊が嫌いなんでしょう?戦艦クラスが下手に活躍できない北方では、海防艦の役割は重要よ?下手したら、数十年は大湊に閉じ込められるかもしれない。」

 

只でさえ、今回暴走をしてしまった身分なのだ。

初霜の言う通り、艦娘を続けている内は、ずっと大湊に幽閉される可能性はあった。

そこまで言われると、抵抗感も出てきてしまう。

 

「すぐに焦って改装をする必要も無いわ。まずは、よく考えて………。」

「いえ………改装準備をしてくれませんか?」

 

一斉にその言葉の発言者を見て、春風すら驚かされる。

それは、大湊に一番良い思い出を持っていない平戸であった。

すかさず同部屋の福江が気遣う。

 

「平戸、無理は禁物だぞ。………今ここにいるのが春風さんだけだから言うけれど、まだ人間時代の夢、見るんだろ?」

「それは否定できませんね。実際、あの「汚れた」町を守りたいとはまだ思えません。でも………それで、全てを「汚れている」と判断するのは、いけない事だと感じるんです。」

 

切っ掛けは、早霜が錯乱していた際に、佐渡が告げた言葉だ。

人間にだって、許せない存在と優しい存在がいる。

理由も分からないまま、全員を悪と決め付ける程、愚かなことは無いと。

 

「一生あの町に縛られるかもしれないと言われたら、怖い想いはあります。でも………だからといって、私はここに駆け付けてくれた皆さんや、鈴谷さん、熊野さん、赤城さん、アトランタさん、夕張さん、三十一駆の方々などを、一緒くたにしたくはないんです。」

 

だからこそ、平戸は誰かの幸せのために、工作艦の免許を取る道を選ぼうとしている。

その道を叶える為に、どれだけの時間が掛かるかは分からないが、少なくともまずは自分を鍛える為の手段として、改装を施すのはアリだと思っていた。

 

「まあ………そんなカッコいい事を言っていますけれど、足はガクガクなんですけれどね。」

 

平戸は自嘲して自分の足を指し示す。

その足は確かに震えており、前に踏み出すのを恐れている。

だが、福江がその背中に手を回し、落ち着かせた。

 

「福江さん?」

「あたしも前は、何で海防艦なんだ?………って、ずっと思ってた。弱くて力が無くて、すぐに死んでしまうような艦娘だからな。でも………その心は他の艦娘に負けない位に立派だって、「福江」に教えて貰った。」

 

「福江」は、大湊を守れなかった事を悔やんでいる艦だ。

だからこそ、福江にその辛さを語ってくれた。

「海を防衛する艦」として、守れるようになりたいという想いを、背負って欲しいと。

 

「だから、あたしも改装に賛成する。「福江」の無念もあたしの無念も全て含めて………終わりにしたいんだ。」

 

そして、平戸と共に前に一歩踏み出す。

只、2人揃ってバランスを崩しそうになったので、体格の良い能美が更に支えた。

 

「基礎訓練の充実が課題になるけれど………自分の体を鍛えられたら、私は改めて駆逐艦の兵装を使ってみたいな。」

「何だ、能美?まだ、火力不足に悩んでたのか?」

「当然。改ル級との戦いでは、何も出来なくて悔しかったんだから。本当に………雷さんが無残にやられるのを、見ている事しか出来なかったから………。」

 

少なくとも、魚雷をもう少し上手に扱う事が出来れば、何か切っ掛けが見いだせたかもしれないと思うと、能美にも無念の感情が残る。

大湊の町は嫌な思い出が多いけれど、だからといって、嫌な思い出を作り続ける事とは別問題だ。

 

「だから、私も改装を受ける。………石垣は?」

「私………もう、震えてばかりなのは………嫌………。」

 

人生で2度も火だるまになった事で、石垣はコンビニ攻防戦では怯えている事しか出来なかった。

そんな思いをする位なら、自分を鍛えて強くなりたかった。

 

「雷さんは………お母さんみたいにあやしてくれた………。だったら………私は親孝行したい………。それに………高速建造材(バーナー)も………捨てたものじゃないし………。」

 

その防衛戦では、コンビニ店員である峯雲が戦い方のヒントをくれた。

臨機応変に武装を使う事で、メリットは確実にある。

大事なのは、如何にデメリットを防ぎつつ、勝機を見出すか。

 

「春風さん………本人には黙っていてくれよな。みんな、やっぱり「母ちゃん」が好きなんだ。」

「まあ、佐渡さん………。」

「母ちゃんの温かさを雷さんが教えてくれたから………あたし達は変われるかもしれない。だから………チャンスが欲しいんだ。」

 

大湊に戻った後の処分は分からないが、恐らく次は確実に無いだろう。

雷の命だって、次は無事で済むか分からない。

だからというわけでも無いが、自分達の母くらいは、自分達で守れるようになりたいって思っている。

 

「そもそも、井の中の蛙大海を知らず………だったんだ。その気になれば、大湊のいい所も、これから沢山探せるかもしれないからな。………だから、改装するよ。」

 

佐渡はそう言うと、最後に発言をしていない八丈を探し………苦笑する。

彼女は既に、無言で初霜に自身の固有妖精さんを渡し、艤装の強化を行って欲しいと示していた。

 

「八丈………覚悟完了か?」

「最初に雷さんに親の面影を見出したのは、ハチだよ。そのハチが、ここに来て雷さんを守る為の改装に不信感を持ったら、意味がないよ。」

「カッコいい事言うけれど、基礎訓練以外に強くなる為の当てはあるのか?」

「あるよ。」

 

振り返った八丈の顔は、凛としていた。

それを見て、佐渡達だけでなく春風もまさか………と思ってしまう。

八丈がやりたい事は、もしかしなくても………。

 

「お前なぁ………。」

「ハチはハチのやり方で、雷さんを守る。雷さんがずっと大湊にいるならば、ずっと一緒に居てもいい。」

「じゃあ………決まりだな。初霜さん、頼む!」

 

佐渡を始め、6人の海防艦達は頭を下げる。

勿論、初霜にしてみれば断る必要はなかった。

 

「じゃあ、みんなが起きる前に終わらせちゃうわね!」

 

 

こうして海防艦達は、自らの意志で第一改装を行う事になった。

未来への1歩を踏み出す為の、覚悟の改装を。




海防艦を待っていたのは、「改」への改装の条件を満たしたという妖精さん達からの報告。
「守りたい」という想いを持った事で、確実に強くなれる道を示されました。

無論、初霜が示した通りデメリットもある改装ですが、彼女達に迷いは無く雷を守る為の道を選ぶ事に。
そして、平戸を始め、徐々にそれぞれの強くなる為の道を見定めているみたいです。
果たして、どんな道を彼女達は選ぶのでしょうね?
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