大楯の雷   作:擬態人形P

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第44話 ~退店と出航~

春風や初霜に連れられた海防艦達が、後始末屋「はくちょう」の工廠で見たのは、妖精さん達によって直された艤装の基部であった。

そこで、雷を守りたいという想いによって、第一改装が可能になった事を知った佐渡達は、早速改装を施そうとする。

 

しかし初霜は、改装は退役を遠のかせる道であるし、最悪大湊に長年縛られる事になるとも話す。

確かに自分達に良い思い出の無い町に居続ける事は怖い事だけど、母の面影を教えてくれた雷達を守る為に、改装をして欲しいと佐渡達は覚悟を決める。

こうして、海防艦娘達は、全員が第一改装を行う事になった。

 

 

その日、雷が目を覚ました時は、既に朝の8時を過ぎていた。

総員起こしの掛かる時間に目を覚ませなかったのは、まだ体調が整っていないからだろう。

医務室で仕事をしていた北上から白湯を貰った雷は、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 

「すみません………、ずっとこんな感じですね………。」

「気にしなくていいよ。立てるようになったら、ゆっくり工廠に行こうか。」

「工廠………?艤装が直ったんですか?」

 

案の定、艤装の事を最初に聞いてきたので、北上はやんわりと首を振る。

雷の艤装を直そうと思えば、妖精さんならば1日あれば直せるだろう。

でも、雷の体が回復しきっていない為、そこはドクターストップで密かに修理を遅らせていた。

 

「艤装はまだだけど、ちょっと頑張っている子達の姿が見られるよ。」

「頑張っている子………?」

 

雷が首を傾げる中、北上が部屋に用意していた2本の松葉杖を渡してくれる。

それに体を預ける形でゆっくりと歩きながら、雷は彼女と共に工廠に向かった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「これって………。」

 

北上に連れられて来た雷は驚く。

工廠では佐渡達の海防艦娘が、艤装の状態を確認していた。

その顔は全員、凛としており、何処か昨日までとは違っている感じもする。

雷は、その現象に心当たりがあった。

 

「もしかして………改装をしたんですか?」

「何か、出来るようになっていたからね。メリットとデメリットをしっかり伝えたうえで、本人達に決めさせたよ。」

「そうなんですか………。」

 

端折った説明であったが、30年艦娘をやっている雷は何となく理解できた。

恐らく彼女達は、大湊で戦う選択肢を選んだのだと。

その強くなりたいという根本的な理由が雷自身にある事や、母親と慕っている事などは、春風や初霜から内緒にして欲しいと言われていた為、北上は多くを語らない。

でも、新たな力を得た彼女達は満足しており、ストレッチなどをして感覚を確かめていた。

勿論、慢心しているような素振りはまるでない。

やがて、佐渡が雷の存在に気付いたのか、5人を呼び寄せ敬礼をする。

 

『おはようございます、雷さん!』

「お、おはよう………何か人が変わったみたい………。」

 

その生き生きとした顔を見た雷は、衝撃すら感じていた。

何か浦島太郎のように置いてきぼりを喰らったような感覚でもある。

そんな中で、初霜と話していた海風もやって来る。

 

「一晩様子見をしたけれど、コンビニ周りで異常は無かったみたい。「はくちょう」は、そろそろ「退店」をして出航するらしいわ。」

「そうなのね。………気のせいか、密度の濃い時間を過ごした気がするわ。」

 

艦娘補給用物資販売店………「コンビニ」で過ごした雷達は、薄雲を始め、陽炎、朝日、江風、夕暮、峯雲、清霜に感謝してもしきれないほど世話になった。

一時的であるとはいえ、彼女達と別れるのは、名残惜しい気持ちにさせられる。

それは九十九駆や海防艦娘達、全員の認識であった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

起きたばかりの時は松葉杖を使わないと足元がおぼつかない雷の事情を考え、デッキの上で別れの挨拶をする事になった九十九駆達。

それぞれマイクを使って感謝の言葉を述べると、イヤホンから薄雲達の声が聞こえて来た。

 

「九十九駆の躍進を願っています!今度来た時は、是非有意義な買い物を!」

「救急搬送は大変だから、なるべくなら自力で来てよね。待ってるわよ。」

「とはいえ、工廠もドックもしっかり完備していますから、いつでも使用してくださいね。」

「もう、暴走とかするンじゃねぇぞ!これを機に強くなれよ!」

「今度来た時は、もっとゆっくりと話す事が出来るといいですわね。」

「みんな!何か悩みがあったら、また頼ってねー!」

「新しい店員を見つけたら、その時は私達に紹介してね!それじゃあ………!」

 

最後に告げた清霜の言葉で、全員が並んで頭を下げる。

 

『またのご来店をお待ちしています!!』

 

最後までコンビニ店員らしさを披露した、7人の頼もしい戦友となった艦娘達に苦笑しつつも、九十九駆や海防艦達は大きく手を振る。

やがて、敷波が指示を出した事で、操舵役の妖精さん達が桟橋からタラップを回収し、ゆっくりと回頭していく。

薄雲達は最後まで、和やかに手を振ってくれていた。

 

こうして、後始末屋「はくちょう」は、雷達が戦って来た各戦場が正常に戻っている事を確認しつつ、大湊に戻る事になる。

その旅路はゆっくりとではあるが、着実な物になると思われた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「うーん………何で、自信作であるカレーの味が毎回変わるんだろう?」

「それは、レシピ通りに作らないからだよ?ほら、九十九駆のみんなが不安そうな顔をしてるから。」

 

出航から少し時間が経ち、「はくちょう」の昼食の食堂では、巫女服を意識した和装の黒髪の艦娘が、黒ずんだカレーを見て、顔をしかめていた。

その隣では、必死に襟と袖が青いセーラー服のピンク髪の艦娘が、色々と調味料を入れて何とかそのカレーの味を元に戻している。

2人のやり取りを見ていた九十九駆や海防艦娘達は、雷がまだ回復しきっていない事もあって、ピンク髪の艦娘の言う通り、思わず不安になってしまっていた。

 

「ひ、「比叡(ひえい)」さん、「青葉(あおば)」さん………大丈夫なんですか?」

「大丈夫!気合入れてるから!料理も応えてくれるはず!」

「だから比叡さん。独自路線を歩む前に、まずはしっかりと手順を覚えようね。」

 

旗艦であるからか、恐る恐るではあるが代表して問う海風に対し、力拳を握りしめて答える高速戦艦の比叡に、にこやかにやんわりと制す重巡の青葉。

2人はこの「はくちょう」の料理当番を勤めており、海戦では火力故に主力級だ。

尤も、料理に関しては、青葉の技術における部分が大きいが………。

只、ここで佐渡が意外な事を呟く。

 

「比叡さんは、料理を上達したくて必死に努力しているんすか?」

「ん?………勿論!これでも昔はカレーが紫に染まってたから、上手くなった方!」

「偉そうに言える話じゃないけれどねぇ………。でも、修正できる範囲になったのは、上達だよね。」

 

紫のカレーに関しては、想像するのが怖いので1回置いておくとして、それでも料理下手なのだと諦めずに、しっかりと努力を続けるのは凄い事だろう。

佐渡達海防艦娘は、その比叡の努力している姿に感銘を受けた。

 

「どうしようもない位ダメダメでも、努力を積めば変われるんすかね?例えば、海戦能力とかも………。」

「少なくとも、諦めたら変われないからね。6人共、もがきたいから、改装したんでしょ?」

 

比叡の言葉に、頷く海防艦娘達。

代表して佐渡が、ハッキリと告げた。

 

「せめて、ここにいる九十九駆のみんなとかは、守られるだけじゃなくて、逆に守れるようになりたいっす。」

 

本当は「雷さんを」と言いたいのだが、それを言うのは何となくはばかられたので、少しだけ言葉を変える。

実際に、助けに来てくれた九十九駆を助けたいという想いは持っていたから嘘ではない。

それに、雷以外は、佐渡達の内なる想いを何となくではあるが察する事が出来た。

 

「改装を経て、本当に心が強くなったのね………。みんながいて良かったわね、佐渡。」

「う、うん………。」

 

だからこそ、1人分かっていない雷の口ぶりには思わず、鈍い!………と皆が思ってしまったが。

 

そんなわけで昼食を取り終わった九十九駆は、この後どうするかを考える。

当然ながら雷は休息を取らないといけないが、他の面々はのんびりしているわけにもいかない。

 

「青葉さん、この船って、トレーニングルームはあるんすか?」

「あるよ?鍛えたいなら、青葉が手伝ってあげる。」

「本当っすか!?宜しくお願いします!」

 

食器の後片付けを比叡に任せた青葉が、海防艦達のトレーニングを手伝ってくれるという。

ならば、それに甘えるべきだろうと佐渡達が頭を下げた時であった。

それまで執務室で艦娘提督の敷波と話をしていたであろう、秘書艦の磯波が現れる。

 

「ちょっといいかな?藤波ちゃんいる?」

「あ、磯波さん。私に何か用?」

「うん、もうすぐ改ル級がいた海域に到達するんだけど、ちょっと手伝ってほしくて。」

 

藤波を呼ぶという事は、恐らく優れた索敵能力を頼りにするという事だ。

後始末を行った後は、通常は1日ぐらい変動が無いかを様子見をしなければならない。

穢れや亡骸を回収したとしても、実は残った怨念とかが、新しい深海棲艦を生み出す可能性がある。

只、今回はコンビニに急行する為に、その作業をすっ飛ばしてしまった。

だからこそ、移動鎮守府である「はくちょう」を近づける前に、新たに出現した敵はいないか、事前に確認しておきたかったのだ。

 

「でも、余所者の藤波にあっさり頼んじゃうんだね。」

「余計なプライドは、犬に食べさせてあげた方がいいからね。………協力してくれる?」

「もち!任せて。」

 

藤波はそう言うと、磯波と共に工廠へと向かって行った。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

工廠では、既に敷波が待っていた。

管理者である初霜から艤装を受け取った藤波は、マイクを持って磯波と共に、目標ポイントから少し離れた場所から海に抜錨する。

一応、何かがあった時の為に、2人共、基本的な海戦が出来る体勢は整えていた。

 

「ここが、雷ちんが悲惨な目にあった場所か………。時間が経てば、こうも景色が変わるんだね。」

 

近づいてみた目標ポイントの海は、一見すれば綺麗に見えた。

藤波は、その海を双眼望遠鏡(メガネ)でくまなく確認していく。

 

「どう?私の目には、穏やかな海にしか映らないけれど………。」

「そうだね。この状態ならば安全………いや………!?」

 

これならば、大丈夫だろうと思った時であった。

藤波は、双眼望遠鏡(メガネ)を水につけ水中を見る。

水深から何かが浮かび上がって来るのを、海水の僅かな振動で察知をしたのだ。

 

「アレは………!?」

 

水中から巨大な黒ずんだ物体が3つ浮かび上がって来る。

それは、明らかに深海棲艦としては規模が大きく、やがて海面を揺らしていく。

顔を出す前に藤波はその正体を悟り、マイクで叫んだ。

 

「「戦艦棲姫」が3隻だ!総員!海戦準備!!」

 

やがて海面が上昇し、巨大な砲門を付けた、怪物のような艤装を従えた鬼女が姿を現す。

その数は3体。

事前に、ここで雷達に襲い掛かり、薄雲に粉砕された改ル級の数と同じ。

 

「まさか………!?」

 

藤波は予測する。

もしかしたら、あの姫クラスは沈められた改ル級達の怨念が膨張して姿を変えた姿なのではないかと。

その憶測が間違っていないかのように、戦艦棲姫達は、口々に叫び出した。

 

「ウスグモーーーッ!!」

「殺ス!殺ス!殺スッ!!」

「敵!敵!敵!沈メーーーッ!!」

 

明らかに自分達を沈めた薄雲への憎悪を叫ぶ戦艦棲姫。

驚く藤波に対し、磯波は冷静に呟く。

 

「たまにあるんだよね。亡骸を回収しても、残った怨念で蘇っちゃうパターン。」

「そうなんだ………。厄介な姫クラスが3隻も………いや、まだ!?」

 

海中から魚雷が3本飛んできた事で、藤波が咄嗟に回避をしようとする。

しかし、その前に磯波が素早く前に躍り出て、左腕に付いている高射装置を海面に乱射し、魚雷を撃ち落としていく。

派手な波しぶきが立つ中、藤波は目ざとく海中で黄色い光を放つ3隻の潜水艦を把握した。

 

「フラッグシップ級潜水艦カ級も3隻いる!対潜装備も整えて!!」

 

しかし、後ろを確認してみると、既に工廠からは敵戦艦3隻を迎撃する為に、比叡や青葉が飛び出した後であった。

こうなると、元々の艦種もあり、この2人に対潜を任せるわけにはいかない。

野分や嵐も出撃していたが、恐らく対潜装備は持ってはいない。

だが、「はくちょう」にはまだ駆逐艦の九十九駆などがいる。

今ならばまだ装備変更が間に合うだろうと、藤波が思った瞬間であった。

 

「藤波!ちょっと、面白い事思いついたから、試してみるね!驚かないでよ!」

「驚かないでって………え………?何で………!?」

 

敷波の通信に、いきなり何事かと思った藤波は、はくちょうの工廠を見て、思わず目を見開いてしまう。

何故ならば、エースである初霜に率いられる形で出撃をしたのは………佐渡達6人の海防艦娘であったからだ。




長かったコンビニ生活も、これで一旦は一区切り。
「退店」した事で、「はくちょう」は出航をする事になりました。

そして、今度は「はくちょう」のメイン火力達の紹介。
また、こんな所でも頼りになる藤波の索敵能力です。

さて…改装したとはいえ、海防艦娘達は事実上の「初陣」になりますが、この敷波の決断の意味とは…?
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