大楯の雷   作:擬態人形P

45 / 54
第45話 ~対潜の切り札~

雷が後始末屋「はくちょう」の船の中で目を覚ますと、やはり体がまだ不調であった。

そんな彼女が、北上に連れられて工廠で見たのは、改装を終えた佐渡達海防艦娘の姿。

見違えるような姿になった彼女達に戸惑う雷であったが、佐渡達には慢心はもう無かった。

 

艦娘補給用物資販売店………「コンビニ」周辺に異常が無い事を確認した事で、九十九駆は戦友となった薄雲達に別れを告げて、退店をして出航をする。

昼食の出来に悩む比叡やサポートをする青葉の姿に苦笑する側面もあったが、「はくちょう」内で、比較的落ち着いた午後の時間を過ごす事に。

ここで、藤波の索敵能力を活かして、海域が正常になったかを確認して貰う事になる。

 

秘書艦の磯波と共に出撃をした藤波が見たのは、水深から競り上がって来た、改ル級達の怨念から生まれた戦艦棲姫3隻。

更に、遅れてフラッグシップ級カ級が3隻急襲してきた事で、藤波は増援を求める。

だが、驚くべきことにここで初霜と共に抜錨してきたのは、改装をしたばかりの佐渡達6人であった。

 

 

時間は、少しだけ巻き戻る。

いち早く戦艦棲姫の存在を察知した藤波のマイクによる指示で、艦娘達は皆工廠に集まっていた。

敷波を始めとした「はくちょう」の艦娘達もそうだが、比叡に率いられる形で九十九駆が、青葉に率いられる形で海防艦娘達が、それぞれ最短距離で到着している。

艤装が直っていない雷以外は、全員が自前の艤装を装備する事になった。

 

「出撃メンバーは、比叡さんと青葉さん、野分に嵐、しおいにはっちゃん!アタシも後から続くからさ!」

 

艦娘提督である敷波の指示で、素早く艦隊編成が割り振られる。

妖精さんによって装備を整えたうえで、出撃の準備を整えた艦娘達は、開かれた工廠の扉から、一斉に出撃をしていく。

気になったのは、野分と嵐の装備。

何に使うのか、前者はレイピアを、後者は槍を携えており、比叡や青葉に追従していった。

一方で敷波も、物騒そうなバトルアックスを頭上で振り回して確認しながら、色々と考え込んでいる。

 

「ねえ、敷波。私達は出なくていいの?」

 

聞いたのは、葛城と共に工廠にやって来た瑞鶴。

航空支援をすれば、かなり優位に立つ事が出来るが、敷波はそれを指示しない。

これに関しては、九十九駆なども疑問に思っていたが、彼女はバトルアックスを基部の横にマウントしながら告げる。

 

「敵が3体だけとは思えないんだよね。空母がいるのならば、瑞鶴さん達にも頼って貰うけど、最悪の場合、出ない方がいいパターンもあるからさ。」

「もしかして………潜水艦?」

 

葛城がそう言ったのは、工廠で初霜がソナーや爆雷などの対潜装備を整えているからだ。

確かに遠方から攻撃機で援護を行う空母にしてみたら、奇襲を仕掛ける潜水艦の存在は厄介だ。

軽空母ならばまだ何とか出来るが、彼女達は正規空母。

水中の敵に対しては、基本的に無力となる。

 

「後は、この後の後始末の事も考えると、残った艦娘は準備もして貰いたいんだよね。」

 

艦娘提督である敷波自身が出撃を考えているのも、そうした理由からであるらしい。

とにかく効率良く敵を倒し、効率よく亡骸の後始末に入る。

今後のスケジュールを管理している彼女ならではの、先を見据えた考え方でもあった。

そうしている内に、藤波から通信が入る。

 

「フラッグシップ級潜水艦カ級も3隻いる!対潜装備も整えて!!」

 

敷波の予測を当てたかのような潜水艦達の出現に、彼女は少しだけ考え込む。

だからこそ、九十九駆の旗艦である海風が前に進み出た。

 

「私達ならば、対潜装備も出来るわ。手伝わせて!」

「うーん、それも有り難いけど………ここは対潜の切り札に頼ろうかな?」

「え?それって………。」

 

ニヤリと笑みを浮かべる敷波の視線を追って、海風達は目を見開く。

そこに居たのは佐渡達6人。

確かに海防艦故に、今回は対潜装備を最初から整えていた。

一から変更を行う必要がある九十九駆よりは早く出撃できるだろう。

しかし、練度の問題がある。

相手はカ級とはいえ、フラッグシップ級が3隻いるのだ。

 

「あ、あのさ………弱気な事言って悪いけど………あたし達に任せてしまっていいのか?」

「繰り返すけど、海防艦は対潜の切り札でしょ?戦艦棲姫の砲撃範囲に入らなければ大丈夫だよ。それに、初霜も出撃させるからさ。」

 

及び腰というよりは、自信の無さから情けない発言をしてしまう佐渡に対し、手を振りながら敷波は初霜にある物を持って来て貰うようにお願いする。

そして、能美を見ると徐に告げた。

 

「確か能美は、朝潮型の装備が出来るんだっけ?」

「出来るというか………やってみただけですけど………。」

「じゃあ、これ貸してあげる。すぐ付けて。」

 

初霜から渡された装備を見て、思わず能美の目が見開かれた。

それは、今回の海戦に………というか、今の能美にピッタリと言える装備。

 

「こ、これ………!?」

「扱えるでしょ?早く。」

「本当に………私達で………いいの………?」

 

これは石垣。

能美もそうだが、石垣も改ル級戦で重傷を負った身だ。

その恐怖心から完全に抜け出せていない身分であるにも関わらず、あっさりと「はくちょう」の運命を任せてしまう敷波達が信じられなかった。

だからこそ、初霜が2人の肩を抱き告げる。

 

「いつかは、その恐怖心は克服しなければならない事よ。大丈夫。今の「守りたい」想いと力を持っている貴女達ならば、前のようにはならないわ。」

 

初霜はそう言うと、海風達を見る。

こうなってしまっても、彼女達の不安は大きかった。

しかし、ここで改装時の海防艦達の意気込みを聞いた春風が、やんわりと言う。

 

「送り出してあげませんか?彼女達だって………挽回のチャンスは欲しいはずです。」

「もしもの事があったら………?」

 

メンタル面が芳しくなく、しかも親代わりに接してきたからこそ、雷が思わず心配する気持ちを吐露してしまう。

しかし、それに対しても、春風は笑みを浮かべて答える。

 

「それを恐れていたら、いつまでたっても「親離れ」出来ませんよ。」

「親離れ………。」

 

偶然にも、昨晩北上に言われた事を告げられ雷は閉口する。

だが、佐渡達は逆に、春風の言葉で気合が入った。

自分達の改装時の事情を知っているとはいえ、こうして信じてくれる存在がいるのだから。

故に、佐渡は不安そうな顔をする雷の前に出ると、頭を下げて言う。

 

「雷さん………汚名返上………と言ったら変だけど、あたし達の戦いを、見ていてくれないか?絶対慢心しないって誓うからさ。」

「佐渡………。」

 

雷は、佐渡の瞳を見る。

その瞳に、嘘偽りはなかった。

だとしたら、ここで我儘を言うべきでは無いのだろう。

そう感じた雷は、手を伸ばし佐渡の頭を押さえる。

 

「分かったわ。みんな、沈んだら承知しないから。」

 

雷に頭をポンと押さえられた事で、佐渡は勝気な笑みを浮かべて、初霜に続いて抜錨していく。

何故か、その背中を見て、雷は胸がチクりとするのを感じた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「どういう事なの!?九十九駆は!?」

「ああ、雷の護衛に回って貰ってるよ。大丈夫、初霜が監督してくれてるからさ。引き続き、索敵宜しく!」

「よ、宜しくって………!?ええ………!?」

 

事情を知らない藤波が困惑する中、索敵重視の装備である彼女の護衛をする形になっていた磯波は、爆雷を適当に撒き散らし、カ級達を初霜達の方に追いやる。

隊列は、初霜・佐渡・八丈・石垣・能美・福江・平戸だ。

海防艦達6人は緊張した面持ちであったが、初霜が優しく的確に答えてくれた。

 

「まず、平戸さん。貴女は工作艦の資格を目指しているのよね。」

「は、はい………!」

「だったら常に心は落ち着かせて、視界は広く確保しておくこと。要救助者を発見する事にも役立つし、何が起こっても対応しやすいわ。まずは、敵艦の動きをしっかり見極める事から始めた方がいいわね。」

「見極める事………魚雷!」

 

平戸がハッとした時、3方向から囲って来たカ級達が、それぞれ魚雷を4本ずつ放つ。

すぐさま反応した彼女が、その狙いを把握する。

 

「狙いは、初霜!石垣!福江!」

「体が小さいのは、得する部分もあるわ。魚雷と魚雷の間に入り込んでしまえば当たらないもの。落ち着いて回避してみせて。」

「わ………分かりました!」

「回避してみせる!」

 

一旦ブレーキを掛け、落ち着いて魚雷と魚雷の間に体を入れ込む事で、石垣と福江はそれぞれ厄介な魚雷を回避してみせる。

ここら辺は、艤装が改装により前よりもしっかりと働いた事と、平戸が事前に狙いを把握してくれた事、更には初霜のアドバイスにより冷静に行動が取れた。

魚雷が通過する際は流石に恐怖心が刺激されたが、確かに当たらなければどうという事は無い。

 

「怖く………ない………?」

「でしょ?でも、油断は禁物よ!」

「はい………!」

 

石垣は、自信を持って頷く。

一方で初霜は、自分に向かった魚雷を全て両手の主砲で破壊した挙句、2人が回避した魚雷の内、「はくちょう」に当たりそうなものをしっかりと振り向き連射する事で起爆させていった。

 

「じゃあ、行くわよ!」

 

彼女は、そのまま自身に迫るカ級の一体に的を絞ると、腰の計6門の魚雷を次々と撃ち出す。

だが、潜水艦は水深に逃げられる為、基本的に魚雷による攻撃は当たらない。

正直、カ級にしてみれば、思わず笑いたくなるような初霜の雷撃に、笑みを浮かべていた。

 

「………ッ!?」

 

しかし、次の瞬間に思わず目を見開く事になる。

自分の頭上を通過した6本の魚雷の後に飛んできた3本の魚雷が、水深深くに潜り、自分へと一直線に向かって来ているのだ。

その恐るべき雷撃に驚きを隠せなかったカ級は慌てて逃げようとしたが、時すでに遅く、後ろから追いかけるように飛んできた魚雷が炸裂し、絶叫しながら爆砕する事になった。

 

「あ、当たった………。これ、凄い!」

 

そのカ級を始末する魚雷を放ったのは、能美。

彼女の左手首には、変わった形の魚雷発射管が付いていた。

兵装の名前は、「対潜短魚雷(試作初期型)」。

水深にいる潜水艦を叩くために作られた変わった魚雷であり、若干のホーミング性能もある上に海防艦でも扱える代物だ。

元々不完全とはいえ、魚雷発射管を扱っていた能美にとっては扱いやすい代物である。

無論、いきなり扱う以上は反動で発射体勢が崩れる問題があったので、ここは福江に支えて貰う形でカバーをしていた。

 

「後、2隻!」

「気を付けてね、能美さん。残りの潜水艦は、貴女を恐怖と見るわ!福江さん、平戸さん、バックアップを!」

「分かった!」

「任せて下さい!」

 

初霜の言う通り、思わぬ一撃で数を減らされたカ級達は、能美を集中狙いしてくる。

しかし、平戸が事前に察知して知らせ、福江が能美を引っ張る形で上手く回避コースに入る事で、彼女の雷撃を邪魔させない。

何より、2隻のうち1隻の魚雷は事前に初霜が両手の主砲で片付けてくれるし、能美達が回避した後の魚雷も、「はくちょう」に向かうコースならば、それもしっかりと仕留めてくれる。

この為、海戦にまだ慣れきっていない3人でも、まだ対応出来た。

 

「追い込むよ!」

 

こうなると、能美の対潜短魚雷は切り札とも言える武装になる。

初霜が通常の魚雷もデコイとして一緒に放ってくれる為、敵潜水艦は全てを回避しないといけなくなり、避けるのに必死になる。

それによって、動きやすくなるのは佐渡達だ。

 

「八丈!撒き散らすぞ!」

「了解!いけーーーっ!!」

 

能美と初霜の雷撃で誘い込まれた所で、佐渡達が海防艦ならではの爆雷を、一度に複数撒き散らす。

だが、水中に大量に落ちていく爆雷は水圧で信管が反応して爆発を起こす為、タイムラグを起こしてしまう。

通常のカ級ならば仕留められただろうが、フラッグシップ級カ級は、その動きを見極めて更に回避をしてしまった。

ところが、ここで反転して魚雷を放とうとした所で………頭上に更に爆雷が降って来た。

 

「や………やった………!?初霜さんの………言う通り………!」

 

水深から断末魔の声が聞こえて来た事で撃破を悟ったのは、トドメを刺した石垣。

初霜のアドバイスを受けて、佐渡と八丈とは、更に時間差で爆雷を落としていたのだ。

逃げる位置や雷撃を放とうとするポイントを把握できたのは、初霜がこれまでのカ級の動きから、魚雷の再装填までの時間を把握したからである。

それも合わせて、佐渡達の動きを上手くコントロールしていたのだ。

この海戦の上手さに、佐渡は思わず感激する。

 

「凄いよ、初霜さん!本当にエースだ!」

「貴女達も、これ位すぐに………っ!?」

 

だが、ここで初霜の表情が険しくなる。

最後に残ったカ級が自棄になったのか、急浮上してきたのだ。

狙いは石垣。

 

ガシッ!

 

「え………!?」

 

石垣は驚く。

自分の右足を冷たい敵潜水艦の手が掴んでいた。

そして、そのまま力の限り水深に引きずりこもうとする。

 

「ガッキーッ!?」

「あ………ああ………!?」

 

八丈が主砲を構えるが、迂闊に撃てない。

カ級を撃ったら、確実に石垣を巻き込んでしまうからだ。

誰もどうする事が出来ない。

だからこそ、死を間近に石垣の脳裏に恐怖が浮かぶ。

孤児院と改ル級戦で、2度も火だるまになった恐怖が。

それは、ヤケクソながらニヤつくカ級の姿を見た途端、加速する。

 

「私………私………!」

 

歯をガチガチと鳴らす石垣の脳裏に、走馬灯が走る。

色々な記憶が。

人間時代の嫌な記憶。

大湊での問題児だった記憶。

しかし………その中に、雷の姿が浮かんだ。

 

「雷………さん………っ!」

 

自分達が不甲斐ないお陰で、一生ものの傷が付いた雷。

それでも、自分達に笑顔を向けてくれた雷。

薄雲達が海戦をしている際に、錯乱しそうになった時に母親のように、あやしてくれた雷。

そんな彼女が、泣く顔は見たく無かった。

 

「絶対………嫌………だ………っ!」

 

走馬灯が走ったお陰で、死の恐怖よりも生きる為の渇望………雷を悲しませたくない想いが上回った。

次の瞬間、石垣は自分の主砲を下に向ける。

狙いは、掴まれている自分の右足。

 

「おい、石垣!?何を!?」

「ここで………死ねないっ!もう………あんなのは………嫌だっ!」

 

次の瞬間、カ級の目が見開かれる。

石垣は自分の右足が吹き飛ぶのも構わず、単装砲を乱射した。

大量の血が飛ぶが、それにより敵潜水艦も掴んでいた手が吹き飛び、魚雷を含めた攻撃手段が封じられる。

バランスを崩した所で慌てて逃げようとしたが、更に石垣が叫んだ。

 

「能美………!撃ってっ!あいつを………ぶっとばしてっ!」

「っ!………分かった!!」

 

能美が福江に支えられながら、トドメの対潜短魚雷を放つ。

その3本の魚雷は、逃げる最後のカ級を完全に捉えていた。

やがて、水深で爆発が起こり、3隻目の絶叫が響き渡る。

だが、佐渡達は勝利に酔いしれている場合では無かった。

片足を吹っ飛ばしてしまい、力を失って倒れた石垣を、佐渡と八丈が何とか2人掛かりで支える。

 

「大丈夫か!?無茶しやがって!」

「でも………生き残れた………。雷さんが………力をくれた………。」

 

石垣は少し青ざめていたが、命に別状は無さそうであった。

やがて、近づいて来た初霜に、笑みを見せつつ言う。

 

「初霜さん………私が迷っていたら………貴女が私の足………吹き飛ばしていましたよね………?」

「ええ。それが、あの時の最善だったもの。」

 

即答で答える初霜に、石垣は苦笑した。

そして、空を見上げつつ呟く。

 

「やっぱり………分かっていたけれど………まだまだ………特訓が足りない………な………。」

 

 

この足の焼けるような痛みは、今回の勉強料だろう。

まだまだ修行不足である事を感じ取りながら、石垣は、もっと強くなろうと決めた。




佐渡達による事実上の初陣は、完全勝利とはいきませんでしたが、無事に終えられる事に。
初霜の指導も有り、今回の海戦は有意義な物になったと思われます。

能美が魚雷を取り扱う海防艦という事で、やはり使ってみたかったのは「対潜短魚雷(試作初期型)」。
対潜の切り札である海防艦にとって、同じく対潜の切り札である兵装を使いこなせる可能性を秘めているのは大きいですね。

石垣も色々と学べましたし、6人共確かな1歩を踏み出せたと思います。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。