大楯の雷   作:擬態人形P

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第46話 ~怨念から蘇った姫~

改ル級が沈んだ海上で、怨念から生まれた戦艦棲姫3隻と対峙する事になった後始末「はくちょう」の艦娘達。

フラッグシップ級カ級3隻が増援で現れた事で、対潜装備を持つ者達を送る事になったが、艦娘提督である敷波が選んだのは第九十九駆逐隊ではなく、練度が低いはずの海防艦娘達であった。

自分達に船の運命を任せていいか疑問に思う佐渡達であったが、敷波は対潜の切り札だからという事で、エースの初霜と共に送り出す選択肢を取る。

 

雷達に必ず戻ると約束した佐渡達は、初霜の補助とアドバイスを頼りに、カ級達と対峙。

能美に渡された切り札の兵装や、石垣の意地もあった事で、完全勝利とはいかなかったが敵潜水艦は全滅させる事が出来た。

後は、戦艦棲姫になるが………。

 

 

フラッグシップ級カ級との海戦には勝利したものの、足を掴まれた石垣が咄嗟に自分の主砲で吹き飛ばした事で、彼女の右膝から下は無くなっており、血がぼたぼたと流れていた。

佐渡は八丈と共に彼女を支えながら、初霜に頼み込む。

 

「初霜さん!頼む!「はくちょう」のドックを使わせてくれ!」

「大丈夫よ、ちゃんと入れるから。でも、海戦の場所によっては、近くにドックが無い事もあるわ。そういう時はどうするべき?」

 

あくまで初霜は冷静に、佐渡達を試している感じであった。

佐渡は考えを巡らせながら、仲間を見渡す。

そこで反応したのは、平戸であった。

 

「………応急処置を施します。佐渡さん、八丈さん、しばらく石垣さんを支えて下さい。能美さんと福江さんは、周辺の警戒をお願いします。」

 

やるべき事を悟った平戸が、海戦開始時に初霜に言われた通り、深呼吸をしながら冷静に指示を出していく。

基本的な止血のやり方は、大湊で夏雲から教わっていた。

あの時は演習などでメリケンサックを振るっている程に荒れていたから、その大切さを完全に理解していなかったが、今なら分かる。

人を救う事もまた、戦いなのだと。

 

「簡易の応急キットは、所持していますから………。」

「今回の傷ならば、それで対処可能ね。もしも広範囲から出血していると思ったら、自分の服を破く方法などもあるわ。臨機応変にね。」

「はい………!」

 

初霜は警戒を手伝ってくれるが、止血に関しては言葉でのサポートのみだ。

逆に言えば今の平戸ならば、それだけで大丈夫だと信頼してくれているのだろう。

実際、平戸は手を震わせながらであったが、淡々と集中して石垣の止血を行っていく。

 

「平戸………夏雲さん………みたい………。」

「まだ、その領域には全然至っていません………。とりあえず、これで………!」

「うん………ありがとう………。」

 

最終的には、上手く止血を行えた事で石垣に感謝をされる。

これで、しばらくは怪我が悪化する事は無いだろう。

ホッとした平戸を福江が支えながら、石垣に問いた。

 

「石垣、どうする?改めて、すぐにドック入りするか?」

「その前に………戦艦棲姫が………気になる………。初霜さん………。」

「大丈夫よ、潜水艦を片付けた事は伝えたから。これで、前線は安心して戦えるわ。」

 

初霜の目は、もう前線で力を振るう「はくちょう」の仲間達を見据えていた。

流石にあの重砲撃の中を、海防艦達や対潜装備の初霜が援護に行く事は出来ない。

しかし、戦艦棲姫3隻に対しては、比叡&野分と、青葉&嵐と、敷波&磯波&藤波が、それぞれしっかりとマークしていた。

ここで石垣に確認を取ったうえで、能美と八丈が初霜に問う。

 

「初霜さん。海戦の内容、私達も見ていいですか?」

「どんな戦い方があるか、ハチ達も気になるので。」

「いいわよ。じゃあ、お勉強しましょう。」

 

初霜は、勉強熱心な海防艦達に笑みを見せてくれた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「憎イ!憎イ!憎イ!!」

「凄まじい怨念だなぁ………。野分、付いてこれてる?」

「大丈夫です!只、今から後ろで海防艦のみんなが見学らしいですよ!」

「じゃあ………情けない所、見せられないね!!」

 

戦艦棲姫の1隻と対峙している比叡と野分は、佐渡達が自分達を見て勉強を始めたという事で、より一層集中力を高めた。

実はそれまでは、後方の海戦を邪魔させないために、敵の砲撃を上手く回避する事に従事して、万が一の為に、流れ弾が飛んでいく事が無いように気を配っていてくれたのだ。

しかし、その海防艦達が一人前に敵を片付けられたのならば、もう後ろを気にする必要はない。

 

「ここからは、背中で魅せる時!気合!入れて!撃ちます!!」

 

駆逐艦である野分は勿論の事、高速戦艦である比叡も機動力には優れている。

野分がサブアームの高角砲から動きを惑わせる為の夾叉弾を撃つのに合わせて、比叡は戦艦ならではの破壊力を伴う砲撃を放つ。

極寒の北方での海戦では艤装が凍り付く事もあったが、今はまだ昼の時間帯。

ギリギリではあるが、砲門が氷結せずに済んでいた。

 

「凍らなければ、実力は互角!………って訳でもないよね、やっぱり。」

 

幾重もの砲撃を巨大な生体艤装に喰らわせた比叡は、思わず顔をしかめる。

敵の艤装が唸り声を上げると、その傷はどんどん癒えていく。

高位の深海棲艦特有の、再生能力を発揮しているのだ。

こうなると持久戦になりやすいが、あまり時間を掛けると、それこそ穢れを撒き散らして、後始末の浄化作業に影響を与えてしまう。

 

「だったら!これ!使います!」

 

比叡はここで、「改二丙」ならではの、戦艦としては優れた雷撃能力を発揮する。

次々に繰り出される魚雷は、戦艦棲姫の艤装の下半身に当たり、その動きを鈍らせて前屈みにさせる。

 

「耐エロ!耐エ………ッ!?」

 

その左手に乗っている鬼女は、海面に飛び降りながら思わず生体艤装に叫ぶが、ここで目を見開く。

野分が腰に携えていたレイピアを抜き放ち、一直線に突進してきたのだ。

戦艦棲姫の鬼女は、野分のやろうとする事を悟り逃げようとしたが、それよりも早く野分のレイピアが振りかざされる。

 

「ゴメンなさい、成仏して!」

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」

 

額にレイピアを思いっきり刺された事で、生体艤装と共につんざくような悲鳴を上げる鬼女。

戦艦棲姫の本体は鬼女である為、その急所を貫かれてしまったら、生体艤装を含めて再生能力は役に立たない。

余計な肉片も撒き散らさない為、正に後に行う後始末の事も考慮した一撃必殺と言える対処法であった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「逃ゲロ!逃ゲロ!!」

「まあ、普通はそうするよねぇ。」

 

一方で青葉&嵐と対峙している戦艦棲姫の鬼女は、掌の上では無く肩まで登っていた。

嵐がマウントしている槍も、恐らくは自身にトドメを刺す為の物であると踏んだ事で、届かない範囲まで逃げたのだ。

その分、砲撃を嵐に集中させて、彼女の接近を防ごうとする。

 

「青葉さん、どうするんすか?相手、ビビッてますよ?」

「まあ、手筈通りにやるだけだよ。その為に、青葉達の前に、比叡さんにトドメ刺して貰ったんだし。だから、もうちょっとだけ我慢してよ。」

 

青葉はニッコリと笑みを見せると、左肩に乗った固有妖精さんに指示を出し、右肩に背負っているロケットランチャー型の艤装の中で、何かを弄って貰う。

そして、左腰の2門の副砲で牽制しつつ、徐に右肩の4門の砲門を向ける。

 

「青葉は比叡さん程、火力は無いからねぇ。これ、頼らせてもらうよ!」

 

そう言いながら、青葉は放物線を描くように砲撃を放つ。

砲弾は今まで放った物とは違い赤い色をしていた。

何なのかと思った鬼女の目の前で砲弾は爆散し、細かい散弾が大量に撒き散らされる。

 

「グォォォォォオオオオオオオオオオオオッ!?」

 

散弾は斜め上からシャワーのように降り注ぎ、戦艦棲姫の生体艤装や鬼女を次々と傷つけていく。

それにより、生体艤装は前に倒れ鬼女は水面に転がり落ちた。

 

「シ、シマ………ッ!?」

「悪いな、眠ってくれよ。」

 

再生能力で傷を回復させた鬼女が起き上がった時には、接近していた嵐の槍の一突きにより、喉を貫かれていた。

これにより、2隻目の戦艦棲姫の生態艤装も、何も出来ないまま沈んでいく。

 

「いやぁ、これ効きますねぇ。」

 

青葉が固有妖精さんに感謝しながら、自分の艤装をチェックする。

放った赤い弾頭は、「三式弾改二」。

榴散弾の一種で、大量の子弾で敵編隊を攻撃する兵装だ。

青葉は予めこの兵装を切り札として持ち出しており、巨体を誇る戦艦棲姫の生態艤装に真面に浴びせかけて怯ませる事を画策していた。

比叡&野分がトドメを刺すまで待っていたのは、鬼女が直撃コースになる肩まで逃げる事を想定したからである。

こうして、戦艦艤装は後1隻となった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「ウスグモーーーッ!!」

「だから、アタシは薄雲じゃなくて、敷波なんだけどね。」

 

最後の1隻となった戦艦棲姫の鬼女は、2隻目と同じく肩に逃げていた。

しかし、こちらが対峙しているのは、駆逐艦3人。

青葉のような三式弾改二で意表を突いた攻撃は、狙えない面々だ。

敷波がバトルアックスをマウントしているから、これでトドメを刺して来る事は分かっていたので、彼女を集中して狙ってくる。

しかし、敷波は力任せの攻撃を涼しい顔で回避しているし、その隙を狙って磯波が高射装置を散弾代わりに乱射して、鬼女を狙おうとしていた。

あまりに2人の連携が良かったので、索敵の為に駆り出された藤波は、適当に主砲と魚雷を撃っているだけで済む。

 

「何ていうか…………落ち着いているね。」

「職業柄、私達も戦う事はあるからね。コンビニの薄雲姉さん達ほど、戦いには特化していないけど、連携で負けるつもりは無いよ!」

 

磯波が言うには、後始末屋の本業は海戦の後始末だが、時にはこうして戦う必要も出てくる。

その為、鍛えられる時は、しっかりと鍛えて己の力を高めているらしい。

実際、これだけの巨大な戦艦棲姫を前にして、全く怯まないのは美点だと思えた。

 

「成程ねぇ………っと、そろそろだ!」

「本当に便利だね、その索敵能力。後で、スカウトしたいよ。」

 

何かを察知した藤波からの言葉で、感心した敷波が両手の主砲を仕舞い、バトルアックスを手に取る。

生体艤装の上に陣取っている鬼女は思わず警戒した。

しかし次の瞬間、衝撃と共に生体艤装が悲鳴を上げて大きく揺れる。

 

「何ダ!?何ダ!?」

「単純な話。駆逐艦の雷撃よりも、強力な雷撃が飛んできただけだよ。」

 

敷波達が待っていたのは、潜水艦娘達の援護。

抜錨していた伊401………しおいが、左腰に抱えた8連装もの魚雷を一度に海中から戦艦棲姫の生態艤装に向けて放ったのだ。

その強烈な威力を受けて、鬼女は肩からずり落ちそうになってしまう。

 

「ヤバイ!?ヤバイ!?」

「ゴメンね、悪いけどこれで終わりじゃないんだ。」

 

磯波の謝罪の言葉と共に、更なる衝撃。

今度は別角度から伊8………はっちゃんが、雷撃を放っていく。

彼女の兵装はかなり特殊で、耐水性の本のページから魚雷を放つスタイル。

これにより生体艤装は完全にバランスを崩し、最後の鬼女も海面に転がり落ちてしまった。

 

「マ、待テ!?待………ッ!?」

「ちゃんと亡骸は弔うからさ。化けて出るのは、これで勘弁してね。」

 

敷波がトドメに鬼女の頭をバトルアックスでカチ割った事で、海戦が終わる。

怨念から生まれた深海棲艦は葬られることになり、海は再び静けさを取り戻した。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「凄いな………アレが、考えられた海戦なんだな。」

 

その一連の流れを見ていた佐渡が、思わず感心する。

あまりにもスムーズな「はくちょう」の艦娘達の海戦スタイルを見た事で、海防艦娘達は言葉を失っていた。

怪我をしている石垣すら、その痛みを忘れて見入ってしまう位だ。

 

「私達は後始末も含めて、戦いを1つの流れだと感じているわ。海戦も戦いだけれど、海を綺麗にする事も、それはそれで1つの戦い。敷波は、そこも含めて考えているの。」

「艦娘提督って、大変なんですね。分かっているつもりで、分かっていませんでした………。」

 

八丈が思わず、初霜に対して頭を下げる。

鈴谷もそうだったが、自分達の援護をしようとしてくれた単冠湾泊地の霞やコンビニ店長の薄雲も、それぞれの手段で手回しをしてくれた。

彼女達のような上を培う者達の存在は、間違いなく艦娘達の司令塔である。

 

「しっかりと謝らないとね………私達。」

「ああ………。」

 

能美の言葉に、佐渡は頷く。

大湊に戻ったら最初に鈴谷や熊野に謝ろうと、より想いを強くする事が出来た。

 

「今回、少しだけだけれど、海戦に出られて良かったよ。敷波さんや初霜さんが、こうして色々と教えてくれたお陰で、学べた事もあるし。」

「大湊に戻ったら、ちょっとずつ実戦も行いつつ、更に学んでいけばいいわ。貴女達は成長途上の海防艦。まだまだ、これからずっと伸びるもの。」

 

初霜は、純真な目を持つ海防艦娘達を横目で見ながら、目を薄めながら微笑んだ。




戦艦棲姫に対し、基本は一撃必殺を狙う「はくちょう」の艦娘達。
その理由は、後で行う後始末を手間取らせない為。

初霜達から、その特殊な戦い方を教えて貰った事で、佐渡達はまた1つ学びを得ました。
そして、大湊の鈴谷達の立場の大変さなども、一層理解出来たのは大きいでしょうね。
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