フラッグシップ級潜水艦カ級3隻を倒した初霜と海防艦達。
石垣の怪我を、平戸が夏雲から習った応急処置を施した事で、とりあえずの悪化を防ぐ。
そして、前線で戦う後始末屋「はくちょう」の艦娘達の戦いぶりを見てみたいとお願いした為、その海戦を見学する事に。
怨念から蘇った戦艦棲姫3隻に対しては、比叡&野分、青葉&嵐、そして藤波の力を借りた敷波&磯波&伊401&伊8がそれぞれ対処をしていた。
彼女達は、その後の後始末も考慮した戦い方を披露し、なるべく海を汚さないスタイルで敵の鬼女達をピンポイントで撃破していく。
その考えられた戦い方が、艦娘提督による敷波によるものだと初霜から教わった佐渡達。
大湊に戻ったら、司令塔として苦労をしている鈴谷達に真っ先に謝ろうと決意を新たにした。
海戦が終わった事で、艦娘達は次々と「はくちょう」の工廠に帰投していく。
それとは入れ替わりで特殊な防護服を着た艦娘達が、次々と海を綺麗にする為に出撃していった。
普通は海戦に参加した面々は、後始末に参加せずに休む事になるが、今回真っ先に行わなければならないのは沈んだ戦艦棲姫の生態艤装の引き上げ。
作業に大型艦や潜水艦の力が必要になった為、比叡や青葉、伊401や伊8はすぐに洗浄を行い、防護服に着替えて再び抜錨する事になる。
その中には大発動艇を扱える初霜も含まれているので、彼女もすぐに洗浄の仕事に入る事になったが、その前に九十九駆に海防艦達を引き渡す必要があった。
「大丈夫?石垣。右足やられてるけど………。」
「うん………、大丈夫………。少し高い………勉強料………だったかな………。」
雷が松葉杖を突きながらであったが、右膝から下を失っている石垣に近づく。
石垣は相変わらず佐渡と八丈に支えながらであったが、その顔は何処か充実しているようであった。
「学ぶこと………いっぱいあったな………。大湊に戻ったら………やらないといけない事も、改めて分かったし………。」
「そう………。だったら、良かったのね。」
怪我をしている石垣を心配しつつも、新人として、しっかりと次に活かそうとしている石垣の言葉に、雷も少しではあるが笑みを見せる。
敷波に推薦される形であったとはいえ、今回の出撃には意味があったのだろう。
第九十九駆逐隊の面々も、石垣の強い想いが伝わった。
ここで、敷波と話をしていた藤波が戻って来る。
「ドックの許可が出たみたい。後は、藤波が背負っていくよ。私もその後で洗浄しないといけないみたいだし。」
「お願い………します。………あ、ちょっと待って。」
藤波に背負われた石垣は、少しだけ待って貰うと雷を改めて見る。
そして、笑顔で彼女に告げた。
「雷さん………ありがとう!」
「え?私、何もしてないけれど………?」
「ううん………いいの。伝えたかった………だけ。」
石垣は改めて藤波にお願いする事で、ドックに向かって行く。
雷達は、彼女が発した言葉の意味が分からない。
だが、石垣にしてみれば、死の恐怖を感じた際に、克服できたのは間違いなく雷を悲しませたくないという想いであったのだ。
故に、感謝の言葉を述べておきたかった。
そんな石垣達を見送った後で、佐渡が腕を組んで考え込みながら雷達に告げる。
「あたし達も、初霜さんと一緒に洗浄してくるよ。そのうえで、今回の反省会をしないと。」
「それもいいけれど………ちょっと先に話をしていい?」
今度は、工廠の妖精さん達に海戦で使ったバトルアックスを渡した敷波がやって来る。
彼女は能美を見ると、左手に装着した対潜短魚雷(試作初期型)を見ながら笑みを浮かべた。
「それ、あげるよ。」
「え!?も、貰っていいんですか!?この装備………かなりの高級品だと思うんですけど………。」
能美が思わず引いてしまうのも、無理はない。
対潜短魚雷なんて、配備されている鎮守府は限られている。
そんな優れた魚雷を、海戦初心者である自分が貰っていいのか?………と思ってしまったのだ。
だが、敷波は手をヒラヒラとさせつつ言う。
「あのコンビニで買った商品だから、気にしなくていいよ。まだストックはあるし、その気になれば、また買えるし。」
「で、でも………かなり高いんじゃ?」
「海戦デビュー記念の餞別だと思ってくれればいいよ。………納得できないのならば、渡して良かったと周りを納得させるだけの強さを身に付けて。」
「敷波さん………。」
能美は、少しだけ考え込んでしまう。
この魚雷は、自分のスタイルを広めるだけの魅力がある。
実際石垣の足の怪我だけで済んだのは、この兵装のお陰でもあった。
力に溺れてはいけないが、力を操れなければ強くはなれない。
「………敢えて、言わせて下さい。強くなるために………守りたい人達を守るために、この力を使う事を誓います。だから………使いこなしてみせます!」
「うん、いい覚悟だね。じゃあ、譲渡成立。」
「ありがとうございます!」
能美が頭を下げた事で、正式に対潜短魚雷は彼女の物になった。
太っ腹な敷波に、雷も同じように頭を下げる。
「何か………色々とお世話になっちゃってるわね。」
「そう思うなら、ちゃんと体を回復させてね。みんな元気な顔で、鈴谷さんに会う事。」
「気を付けます………。」
しっかりと釘を刺す敷波に、雷を始めとした面々は苦笑するしかなかった。
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敷波や初霜達と共に洗浄を終えた佐渡達は、石垣のドック入りが終わるのを待って九十九駆と共にデッキへと向かう。
そこには、瑞鶴と葛城が洗浄用の薬剤を撒く為に装備を整えて出ていた。
今回、彼女達を招いた敷波が見せたかったのは、今の海戦の後始末の流れである。
「水中でしおいとはっちゃんが、戦艦棲姫の艤装にロープを巻き付けて、比叡さんと青葉さん、それに初霜の大発動艇の力を使って引き上げるんだ。」
ここで活躍するのは、伊8。
彼女の耐水性の本には、色々な用具を仕舞っておけるらしく、魚雷などの兵装の他にも、千切れにくい固定用のロープを取り出せるように出来た。
その為、質量を無視して水中に運びこむ事が出来て、伊401と共に作業が出来るらしい。
「水中で固定したら、大発を滑車替わりにして、みんなで引っ張るんだよ。上手く海面まで持ってきたら、大発3つを並列にして上手く乗せるんだ。」
声からして、磯波であろうか。
防護服を着た彼女の掛け声と共に、艤装のパワーアシストを得た艦娘達が、ロープを引っ張りつつ戦艦棲姫の生態艤装を海面まで引き上げ、大発動艇に乗せていく。
この後は工廠まで運ばれていき、大発ごと妖精さんが回収をして亡骸を弔う事になる。
戦艦棲姫1隻分だけでも重労働であったが、後2隻、同じ事を繰り返していった。
「彼女達にスタミナがあるのも、分かる気がするわね。アレだけの作業を行うもの。」
「この後は更に、穢れを取る作業もあるんですよね………。その労力には脱帽するばかりです。」
早霜と不知火が感心する中、空母2人が艦載機を使い、少しずつ薬剤を撒いて行く。
海を綺麗にしたら、野分にピアノを弾いて貰い、鎮魂の演奏会を開く事になるだろう。
そこまでの大作業をこなして、初めて1つの海域を綺麗にする事が出来るのだ。
「そういえば、竹さん………。あの戦艦棲姫達は、一応………。」
「いや、大丈夫だ。少なくとも俺の目から見たら、元艦娘じゃない。でも、ああいう形の怨念もあるんだな………。」
深海棲艦化の経験がある竹に、戦艦棲姫達もその可能性があるか確認を取った夏雲。
彼女は首を振るが、薄雲の言っていた怨念が海中に溜まるという仮定を少し感じ取った事で、若干ではあるが、恐れる想いがあった。
今回は、海風がその手を握って落ち着かせながら、敷波に言う。
「後始末屋は、ああいった怨念を成仏させる役目も担っているのね。」
「まあね。たったそれだけ………って言う人もいるけど、アタシにしてみれば、それ程の事をみんながやってくれているんだから、感謝しか無いよ。」
敷波は、笑顔を見せる。
彼女がそんな大変な後始末屋「はくちょう」の艦娘提督になった経緯は不明だが、何かしらの理由があるのだろう。
雷達は、提督としての資質を持つ敷波に、改めて強さを感じた。
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後始末を終えて野分のピアノの鎮魂の演奏会を開き、祈りを捧げた後は、その場で1日様子を確認する事になった。
流石に今回は念入りに見ないといけないという事で、その日の夕方から明日の夕方まで様子見をしないといけなくなる。
大湊に戻るまでには、更に1日時間が空く事になったが、その分、雷の体調を回復させられるので、結果的にはいいだろうと考える事になった。
海防艦娘達は、あの後しっかりと反省会を行い、更に春風に保護者代わりになって貰い、トレーニングルームで専用の服に着替えてストレッチを行いながら、体をしっかりと解す。
特に石垣は、治った右足の感覚を確かめる為にも、無理をしない程度ではあったが、しっかりと柔軟体操などを行った。
「就寝時間までは、どうする?すぐに風呂に入るか?」
「それなんですけれど………今、雷さん達って何処にいるでしょうか?」
福江の質問に対し、平戸が質問で返す。
食堂の時の会話を聞いていた春風が、答えてくれる。
「今は入浴中ですね。海風さんや初霜さん達が支えてくれていますけれど、少し時間が掛かるかもしれません。」
「じゃあ、医務室に向かいませんか?私、北上さんにお願いしたい事があるんです。」
平戸の言葉で、トレーニングウェアから制服に着替え直した7人は、医務室に向かった。
そして、扉を叩くと………中から顔を覗かせたのは、敷波。
「ん?北上さんに用?」
「はい。お願いしたい事があって………。」
「今着替え中だから、ちょっと待ってね。」
「ありがとうございます。」
敷波はそう言うと、扉を閉じる。
あまりにも自然な流れであったので、平戸は何も感じなかったが、ここで八丈が一言。
「………何で、敷波さんが医務室にいるんだろう?何処か体が悪い所でもあったのかな?」
思わず心配する7人であったが、扉が開かれた事で、平戸を始め全員が入っていく。
今回は、前回とは状況が違う。
雷がいないうえに、平戸のお願い次第では海防艦全員で頭を下げる必要があると、佐渡が考えたからだ。
「どうしたの?何か真剣そうだけど?」
北上が相変わらずの古傷だらけではあったが、マイペースに椅子に座りながら聞いてくる。
敷波はその傍で、誰かのカルテを見ながら嘆息しつつ立っていた。
平戸は敷波も居て丁度良かったと、一歩進み出て2人に頭を下げると、お願いの内容を話す。
「北上さん、敷波さん………もしも可能ならば、第一級工作艦技術者免許の教本を、貸して貰えませんか?」
「お?平戸も、本気で目指す気になった?」
「はい。所得困難な資格なのは、分かっています。でも、私は昼の海戦で自分に必要な役回りとして悟りましたし………それ以上に、私の進むべき道として強く惹かれたんです。」
子供を産めない平戸は、同じく子供を産めないながらも、周りの者達を守る事で幸せにしたいという雷の想いに衝撃を受けた。
そして、自分なりの手段で、周りの人たちを幸せに出来ないか考えるようになったのだ。
「いい事だねぇ。………でも、厳しい事を言うと、今の平戸じゃ、この資格は取れないよ?」
「どうしてですか?私が未熟だからですか?だったら………。」
努力をする………と言おうとして進み出た平戸に対し、穏やかな笑みを浮かべていた北上は、少しだけ憂いのある顔をしつつ告げる。
「この資格はね………助ける人の「取捨選択」は許されないんだよ。」
「あ………。」
平戸はハッとする。
それはつまり、彼女の嫌っている「汚れた」人間であっても助けないといけないという事。
明らかに助けるべき資格の無い人間であっても、我儘は言っていられないのだ。
勿論、平戸にとって、どれだけ苦痛でも………だ。
「菩薩になれ………とは言わないよ。でも、感情を押し殺してでも、救わなければいけない時がある。」
「そうです………けれど………。」
この時、後ろから着目していた春風は、平戸が辛そうな顔をしていたのを察した。
それは、彼女の過去を考えれば無理もない話。
だが、彼女の目には、苦笑する北上の隣で、同じように辛そうにしている敷波の顔も入った。
「敷波さん、大丈夫ですか?やっぱり何処か体の具合が………?」
「何でもないよ。うん、何でも………。」
そうしている内に、北上は電話で誰かに何かを伝える。
しばらく、嫌な沈黙が続く事になった。
やがて、熟考した平戸が暗い瞳で北上に問う。
「確かに、私は菩薩ではありません………。でも、過去の痛みがあるからこそ、救える人は救いたいという想いは………間違っていますか?」
「間違ってないよ?私も………平戸や雷の気持ちは、痛い程分かるからさ。」
「え?それって………。」
まさか、北上も子供を産めないのか?………と思った所で、彼女は先んじて首を横に振る。
その意味が分からない中、彼女は少しコーヒーを入れて飲むと、ひと呼吸をして平戸達に告げた。
「今、磯波に電話を入れて、風呂から上がった雷達に、ちょっと食堂で待って貰うようにお願いをしたよ。」
「北上さん………?」
「いい機会だからね。昔話をしよっか。「工作艦もどき」北上の、半生を………さ。」
北上は、静かに天井を見上げながら過去を懐かしんだ。
敷波の推薦によって行われた海戦により、石垣は恐怖を克服。
能美も自身のスタイルに合う兵装をプレゼントして貰う事に。
平戸もまた、北上に教本を貸して貰おうとお願いしますが…。
しかし、北上の優しい表情に対し、言葉は厳しいものでした。
果たして、彼女が自身を工作艦「もどき」と言う理由とは…?