大楯の雷   作:擬態人形P

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第49話 ~久々の大湊~

後始末屋「はくちょう」の北上の過去話は壮絶なものであった。

人間時代に子供を産んだが相手の男に逃げられたり、絶望して子供と共に投身自殺を図ったが「はくちょう」の初代提督に救われたりと、数奇な運命を辿る事になる。

 

特に雷巡として戦い、体がボロボロになった後で「はくちょう」に引き取られ、工作艦の資格を手にした北上が、要救助者として再会した逃げた男を見捨てたという話は、平戸達にとっては特に衝撃であった。

一時の感情で周りの人々を不幸にした事を、ずっと悔やんでいる北上。

そして、その母の罪を償う為に、義父である「はくちょう」の提督に、艦を運営するイロハを叩き込んで貰った子供………現提督であり北上の娘である敷波。

2人の言葉を受けた平戸は、すぐに納得が出来ずとも、間違いなく価値観は揺さぶられる事になった。

 

工作艦に必要な資格の教本を渡し彼女達が去った後で、北上と敷波の親子は今後の予定について語る。

それは、工作艦の経験を積みたい初霜の一時的な転籍についてであった。

 

 

その後の「はくちょう」の航路は順調であった。

次の日の夕方までに異常は見つからなかったので、そのまま南下しつつ海風達が遭遇した海戦の場所も藤波の力を借りて確かめる事に。

更に、本州の北端である大間市まで戻って来た「はくちょう」は陸奥湾に入り、欧州装甲空母棲姫との海戦地点も確認を行う事になった。

 

「ここで、様々な悲劇があったのよね………。」

「本当………。こうして見ると、何も無かったみたいなのに………。」

 

朝方の時間に、デッキから藤波達の活動を見ていた雷や早霜が、何とも言えない気持ちになる。

まだ欧州装甲空母棲姫との海戦から、1週間も経っていない。

それでも静かな海は、そこにあった物を忘れさせるかのようであった。

 

「でも、確実に海戦はあったって分かるよ。遊覧船の残骸、まだ残ってるし。」

 

抜錨して索敵能力を活かしている藤波がマイクで言うには、水深にはまだ沈んだ遊覧船があるとの事。

亡骸は伊401や伊8が回収したが、船そのものまでは、引き上げる事が出来ていなかった。

これは、この後作業を行い、「はくちょう」に横付けさせて大湊警備府まで運ぶらしい。

 

「先に大湊に戻って、報告をしておくわ。」

 

そう言いつつ工廠から抜錨して行ったのは、三日月。

彼女は沈んだ遊覧船を引き上げる作業を行う間、先に艦娘提督を勤めている鈴谷達に、戻って来た事を伝えてくれる役目を担ってくれた。

これで、向こうも「はくちょう」を迎え入れる準備が出来るだろう。

 

「敷波、「はくちょう」は着いたら、どうするのですか?」

「少しの間だけど、羽を伸ばすかな。初霜の引っ越し準備もあるし。」

 

不知火の質問に、敷波は軽く答える。

「はくちょう」は今回の寄港を、休暇の機会にしているらしい。

陸地で羽を伸ばし、ついでに食料などの補給も整える事で、次の後始末に向けて準備を行うのだ。

その一方で工作艦の資格を目指す初霜を、一時的ではあるが大湊警備府に転籍させる事にしていた。

大湊には既に資格を持つ夕張がいるし、何よりも駆逐艦で正式な資格を持つ夏雲がいる。

北上が修行に出てみるかと聞いた所、二つ返事で、お願いします!………と何故か敬礼をしてしまったのだ。

 

「でも、いいのですか………?大発を扱える艦娘を、旅に出してしまって………?」

「他にも磯波を始め使える子はいるから大丈夫だよ。それに、厄介な時は遠慮なく連れ戻しに来るから。」

 

結構スパルタな事を言ってのける敷波に、夏雲は苦笑。

しかし、エース級の存在であり、何よりもフラッグシップ級カ級との戦いで海防艦達を教育しつつ指揮出来た才能を鑑みると、大湊にとって有難い存在であるのは確かであった。

 

「もうすぐ、鈴谷さん達に会えるんだな………。」

「なんだ?会うのが怖いのか?」

「違うよ、竹さん。早く会って謝りたいんだ。でも、可能ならばぶん殴られるのは、アタシだけにして欲しいかな………。」

 

無理な話だけど………と付け加えたうえで、佐渡は遠くを見つめる。

それだけの事をしたのだから、何をされても文句は言えない。

佐渡達6人の海防艦娘達は、覚悟を決めていた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

遊覧船の残骸を引き上げて回収を終えた頃、デッキの上にいた第九十九駆逐隊や海防艦達は、大湊の方から偵察機が飛んで来るのを見た。

 

「お迎えだね。追ってみようか。」

 

敷波の指示で、妖精さんにコントロールされた「はくちょう」がゆっくりと動き出す。

やがて港が見えて来たので、双眼望遠鏡(メガネ)で確認してみると、弓に矢を番えて飛ばしているのは改二艦の龍鳳であった。

いや、龍鳳だけではない。

提督の鈴谷に、秘書官の熊野、赤城、アトランタ、夕張。

更に先に到着した三日月に呼ばれる形で、岸波、長波、沖波、朝霜の第三十一駆逐隊も出て来ていた。

 

「鈴谷さん達………疲れているよな………。」

 

申し訳なさそうに呟いたのは、佐渡。

確かに鈴谷や熊野は、なるべく平静を装っていたが、かなりやつれているように感じた。

やがて、港に横付けされた「はくちょう」のタラップが下りて、雷達が降りていく。

港に上陸して並んだ所で、まずは、色々と報告しようと海風が先頭になろうとしたが、その背中を佐渡が引っ張った。

 

「佐渡………?」

「まずは、あたし達に言わせてくれないか?」

 

そう言うと、佐渡を始め海防艦6人が鈴谷の前に並んだ。

鈴谷の表情は変わらない。

喜怒哀楽全ての感情が抜けてしまっているかのようであった。

それでも構わず、佐渡が代表して告げる。

 

「どうやっても許される事じゃ無いのは、分かっているつもりだ。でも………あたし達なりに、ケジメは付けておきたかった。だから………本当にゴメンなさい。」

 

佐渡の言葉に続いて、残りの5人も謝罪を述べて一斉に頭を下げる。

そのうえで顔を上げると、鈴谷が無表情で近づいてきていた。

繰り返すが、佐渡達はそれだけの事をしたのだから、殴り飛ばされても文句は言えない。

雷達も分かっているから、止めるような真似はしなかった。

 

「……………。」

 

鈴谷は無表情のまま佐渡を見据える。

佐渡も視線を逸らさない。

しばらく無言の空気が流れたが、やがて鈴谷は………屈みこみ、両手を広げて佐渡を思いっきり抱きしめた。

 

「す、鈴谷………さん………?」

「………った。」

「え………?」

「良かった………。良かったよぉ………!」

 

佐渡は驚く。

鈴谷は泣いていた。

アレだけの悪事を働いたのに、アレだけの暴走をして迷惑を掛けたのに、鈴谷は佐渡達6人が戻って来た事を喜んでくれていた。

その意味が分からない佐渡に、ため息を付きながらアトランタが補足してくれる。

 

「鈴谷は、ずっと後悔してたの。自分の力の無さ故に、貴女達の不満が爆発したんだって。」

「こ、後悔する事無いだろ!?悪いのは、あたし達なんだから………!」

「そう言っていられないのが「提督」なのよ。………まあ確かに、心を入れ替えて無かったら、あたしが代わりにぶん殴ってたけれどね。」

「あ………ああ………。」

 

泣きじゃくる鈴谷の温かさを感じて、佐渡の目からも自然と涙が流れる。

ある意味、叩かれるよりも心に痛みがあった。

こんな優しい艦娘を………提督をずっと苦しめてしまったのだから。

アトランタは、更に熊野の肩も叩いて言う。

 

「後、分かってると思うけど、熊野にも謝っておきなよ。何だかんだ言って、貴女達をずっと一番近くで気にかけてくれていたんだから。」

「わたくしは、お寝坊さんを起こしていただけですし………って、きゃあ!?」

「うわ!?」

 

熊野とアトランタが突っかかるように、前に押し出される。

いつの間にか後ろに回り込んでいた岸波と朝霜、更に夕張が黙って手を出したのだ。

 

「い、いきなり何を………って、ええ!?」

「ゴメンなさい、熊野さん!」

「アトランタ………さんも!」

「ちょ!?あたしは関係無いでしょ!?………ああ、もう!」

 

熊野には八丈が、アトランタには石垣がそれぞれ涙を流しながら飛びつく。

気付けば、赤城が能美を、長波が福江を、沖波が平戸を、それぞれ胸に抱いていた。

どの海防艦娘も、鈴谷達の優しさに耐えきれなくなって泣いており、6人の艦娘達が赤子をあやすようにしている。

 

「能美さん………思いっきり泣いていいからね。」

「ありがとうございます………!」

 

「長波サマはそんなキャラじゃないんだけど………。」

「凄く温かいよ、長波さん………。」

「おい、何処触って言ってる!?胸か!?結局、胸なのか!?」

 

「沖波さん………ゴメンなさい………私………私………っ!」

「今は気にせず甘えていいから………ね。」

 

そうこうしている内に、夕張と岸波と朝霜は、雷の元に行く。

大湊に来るまでの間に、雷の体調も大分回復したため、もう松葉杖などは必要無かったが、念の為、夏雲と竹が両脇に居てくれた。

岸波は、自分の左頬………つまり、雷にとっては海防艦達を庇って跡が残った場所を指しながら呟く。

 

「随分と、無茶をしたわね。死地を彷徨うだなんて相当じゃないの。」

「岸波達に言われたくは無いわ。これは、名誉の傷でエースの証でしょ?」

「いや、確かにそんな事あたいは言ったけどさぁ………。」

「今、岸波達の為にも人工皮膚の開発を行っているから、上手く行ったら雷にも適用してあげるわ。」

 

夕張が告げると、雷は頭を下げる。

正直、雷自身は傷を気にしてはいないが、自分の傷で海防艦達が悲しむのならば、将来的に可能であれば治したいという想いが芽生えていた。

そこに、泣きつく佐渡を胸に抱いた状態で、鈴谷が不安そうな顔でやって来る。

 

「ねえ、雷………。その………。」

「謝罪はダメですよ、鈴谷さん。これは、私の力不足で付いた傷なんですから。………だから、鈴谷さんはみんなが帰って来た事を喜んであげてください。」

「雷………。」

 

鈴谷は、周りを見渡す。

色々とあったが、大湊を旅立った者達は全員無事に帰って来てくれた。

だからこそ、提督として言わないといけないだろう。

いや、提督らしくは無いかもしれないが、伝えておきたかった。

 

「みんな………おかえり!」

『ただいま!』

 

こうして、第九十九駆逐隊を始め、皆が大湊警備府へと帰投を果たした。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

大湊に戻って来た事で、色々と作業が進む。

まず、欧州装甲空母棲姫の被害にあった人々は、既に帰宅をした者がほとんどであったが、一部の人達は雷達にお礼を言いたいという事で、警備府に残っていた。

その被害者の人達の対応は断る事も出来たが、無下には出来ないという事で、九十九駆は三十一駆と共に対応をする事になる。

 

海防艦娘達は、まずは今回の件の反省文の作成。

しっかりと罪に向かい合った事で、熊野だけでなくアトランタも協力してくれるようになったので、書類を宿舎の食堂でとにかく書いていく事に。

 

敷波達は鈴谷と話し合い、休暇と補給について話し合う事になった。

鈴谷の体調はまだ悪かったが、皆が無事に戻って来てくれた事で、幾らか精神的に楽になったらしい。

無理は禁物であったが、モチベーションはかなり上がっていた。

 

また、初霜が一時的に転籍するのは、大湊にとってはかなり有り難く、早速部屋の準備とか艤装の受け入れとかを行う事に。

 

「色々あったけれど………ようやく皆が元の生活を送れるんですね。」

「何でも鈴谷の話だと、数日以内に横須賀から、また増援が来てくれるらしいわ。」

「そうなんですか?………誰か分かります?」

「そこまでは分からないけど………でも、北方で活躍できる人なんじゃないかしら?」

 

最後まで残ってくれた遊覧船の被害者達が、それぞれの家に帰宅する為に乗り込んだバスを見送った後、雷は工廠で龍鳳と会話をしていた。

彼女の艤装は、大湊に着くまでに直っており、許可が出ればいつでも装備が出来る状態である。

その許可というのは体力的な回復であるのだから、本格的に稼働試験をさせるのは明日位になるだろう。

しかし、その前に彼女は夕張に頼んでやっておきたい事があった。

 

「一体、何をしたいの?」

「艤装を強化したくて………。私の大楯、改ル級との海戦じゃ全く役に立たなかったんですよ。」

 

雷は龍鳳に、その時の戦いの事を説明する。

あの時は佐渡を抱えていた為に、得意の敵の砲弾を「弾く」事が出来ずに、結局盾はボロボロになって破壊されてしまった。

 

「だから、盾に芯のような物を入れて防弾性能を強化して、尚且つ攻撃にも転用できるような物に出来たらな………って思ったんです。」

「そんな美味しい話………あるのかしら?」

「夕張さんに聞いたら、目を輝かせて、任せて!………って言ってましたけれど?」

 

龍鳳が首を傾げる中、工廠の奥から夕張が出てくる。

彼女はニヤリと笑みを浮かべると、近くのモニターを起動させて、雷の大楯の新設計図を見せる。

 

「やっぱり、思った通りの強化が出来そうね。雷の大楯には、色々と仕込みを入れる事が出来るわ!」

「色々って………あの、我儘言って申し訳ないんですが、出来れば重量はあまり増やさないで貰えると有り難いのですけれど………。」

「分かってるわよ。入れるのは芯となる杭を、それぞれの盾に3本ずつ仕込むだけよ。これで、防弾性能は大幅に上がるわ!」

 

夕張の説明に、成程と2人は思った。

硬度の杭を入れる事で盾が割れにくくなり、それだけでも継戦時間は増える。最悪、大楯が砕けても、杭を盾代わりにする事も可能だ。

夕張の説明は、更に続く。

 

「でね!この杭の扱い方がポイントで!ぶっちゃけ「パイルバンカー」にしちゃおうってわけ!!」

『パイルバンカー!?』

 

早口でまくし立てる工作艦の説明を聞いて、雷達は唖然とする。

特に雷は、海風や春風から、艦娘補給用物資販売店………「コンビニ」の陽炎が、バルジでラムアタックを繰り出したのを聞いていた為、類似したイメージをしてしまう。

実際、設計図を見てみると、夕張が抱いているのは、それに近い戦い方であるらしい。

隙を見て敵艦に接近し、一気に炸裂させるというスタイルだ。

 

「うーん………接近可能でしょうか?」

 

仲間の為に無茶をしがちな雷であったが、それ故に戦いに関しては冷静になれる部分もあった。

そもそも敵に接近する事になると、その分防御面が疎かになってしまう。

こうなってしまうと、大楯を持っている意味が無いようにも思えたのだ。

しかし、夕張もここは落ち着いて雷に言う。

 

「あくまでパイルバンカーは、「最終手段」よ。業を煮やした敵が突撃してくる事もあるでしょ?攻めるのではなく、迎え撃つ為の切り札。」

「確かに、そう言われれば………みんなを守る為に役立ちますね。」

 

雷の言葉を聞いて、少々龍鳳は顔をしかめる。

恐らく夕張は、雷の身を守る為の手段として開発を考えてくれているのだが、雷自身はあくまで、仲間を守る事を第一に考えてしまっている。

ここら辺は、考え方がそもそも噛み合っていないようにも思えた。

 

「とりあえず雷自身を守る為にも、パイルバンカーを採用するとして………大楯の形状が変わる事で、弾く角度とかも変わらない?」

「そこは、訓練で鍛えていきますよ!何事もまずは、努力です!」

 

前向きに答える雷に、龍鳳は一抹の不安を覚えたが、そこに春風がやって来る。

 

「雷さん。一度、波止場に来てもらえないでしょうか?」

「何かあったの?」

 

首を傾げる雷に対し、春風は指を立てて答える。

 

「岸波さんが、九十九駆と話をしたいそうです。」

 

この時はまだ、誰もその話の内容が何なのか見当も付かなかった。




暴走した海防艦を追いかけて、大湊を出発したのが第24話。
ですので、25話ぶりの帰投になります。
何と今までの半分以上の話数を費やす事に…。
その分、見違えるように色々と変わりましたけれどね。

とにかく、鈴谷達もやっと落ち着けたと思います。
これからは、佐渡達も見せ場を作れるかも。

さて…岸波の話は何でしょうか?
次回、第50話です!
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