岸波が第九十九駆逐隊を波止場に呼んだ理由は、竹のドロップ艦としての能力で、自身に眠る岩波が深海棲艦かどうかを確かめたかったからであった。
竹の目から見た所、少なくとも深海棲艦由来の力では無いという事が分かるが、そこで岸波の出した答えが、岩波は妖精さんの力だという事。
彼女の荒々しい性格故に、疑問に思う雷達であったが、岸波は笑みを浮かべたまま説明をしてくれる。
実は、彼女は過去に「応急修理要員」の力を借りていた。
その時から岩波が自身の中に宿るのを感じた為、岩波は応急修理要員の生まれ変わりなのだと推論を立てていたのだ。
では、何故岸波だけ?………という雷の疑問に対し、彼女は艦の経歴から岩波という水増しの架空艦として生まれ変わる事になったのだと推測。
それ故に九十九駆も、もしかしたら、艦の力と妖精さんの力で、何か力を発揮できるかもしれないと教えてくれた。
一方で、佐渡達は反省文を書きながら、基礎訓練を積みながらも、どうすれば強くなれるかを模索していた。
熊野が驚く中、感心したアトランタは、色々な艦娘を頼ればいいとアドバイスをくれる。
翌日、佐渡が頼ったのは、旗艦能力を持つ岸波と、切り札的な必殺技を持ってそうである岩波であった。
仕方ないと言いつつも、面倒見の良い岩波が見せてくれる必殺技とは?
岸波&岩波と佐渡は、訓練海域へと赴いていた。
2人共艤装を付けており、夕張に許可を貰ったうえで、何故か実戦用の実弾装備を付けている。
佐渡は、何か派手な事をやるのか?………と、ビビり半分興奮半分の心境であった。
「海防艦という事は、爆雷は沢山持っているわよね?」
「うん。対潜用の切り札だからな。艤装に沢山付いている。」
基本的に爆雷というのは、水中に投げ込む事で敵潜水艦を爆破する為の兵装だ。
水圧で爆雷の信管が起動し、本来ならば手を出せない水深の敵に、決定的なダメージを与える事が出来る。
だが、その性質故に、海上では意味を成さない。
「海防艦に備わっている兵装は、単装砲と爆雷だけ。………ならば、この2つの兵装を使いこなすしか無いわね。」
「使いこなすって………。」
「まずは、見ていてくれればいいわ。」
本当は沖姉の方が上手なんだけれど………と前置きをしたうえで、岸波は左手で爆雷を掴み、遠くに放り投げた。
弧を描きながら飛んでいく爆雷を眺める佐渡であったが、突如その筒が砲弾によって貫かれた。
「!?」
信管を射抜かれたのであろう。
爆音と共に爆雷は爆発を起こし、空気を振動させて派手な音を響かせる。
思わず岸波の方を見たら、彼女は右手の連装砲で即座に爆雷を撃ちぬいていた。
「……………す、すげえ!!」
驚いた顔の佐渡であったが、徐々にその顔が、興奮へと染まる。
同時に岸波がやる事の難しさも把握したため、彼女に尊敬の念を向けた。
爆雷は当然ながら、弧を描きながら飛んでいく。
しかも、砲弾も多少ではあるが弧を描きながら飛んでいく為、上手く遠くで直撃させるのは難しい。
だが、岸波はその技術を当たり前のように使いこなした。
ここで、岩波が前面に出て来て、獰猛な笑みを佐渡に向けながら告げる。
「ちなみに、俺様と岸波の2つの思考を活用すれば、こういった裏技も可能だ。」
そう言うと、今度は左手で3つの爆雷を遠くに放り投げる。
次の瞬間、矢継ぎ早に次々と連装砲を3連射して、爆雷を3つ射抜いて起爆させた。
「すげーーーっ!!」
「語彙力ねぇな。もっと他の感想はねぇのか?」
「だって、すげえもん!岸波さんも岩波さんも天才だ!」
素直に拍手すらしてしまう佐渡であったが、岩波は顎で彼女にもやってみるように告げる
佐渡は緊張した面持ちで、左手で爆雷を1個掴み、右手で単装砲を構えた。
そして、爆雷を遠くに遠投したうえで、主砲を一発。
だが、砲弾は見当違いの方向に飛んでいき、爆雷は即座に同じく主砲を放った岩波の一発により、爆破される。
「………やっぱりいきなり最初から上手くいったら、苦労しないよな。ヘッドショットよりも的が小さくて難しいんだし。」
「でも、破壊力は間違いなくこちらの方があるわ。鍛えるのは苦労すると思うけど、修練を積むことで、確実に相手を倒す為の力は手に入るわね。」
岸波の言葉を受けて、佐渡は頷く。
これで、これで海防艦ならではの「必殺技」を身に着ける為の道のりは見定める事が出来た。
後は基礎を身に付けつつ、砲撃訓練をこなし、演習用の爆雷に当てる特訓をすればいい。
只、コツがいる為、師匠は必要になるだろう。
「………岸波さん、岩波さん。散々迷惑掛けたうえで、こんな事言うのは身勝手だと思うけど………。」
「仕方ねぇな………。乗りかかった船だ。テメエがここまで本気なら、付き合ってやるよ。」
「本当!?ありがとう、岩波さん!………じゃあ、師匠、宜しく頼みます!」
佐渡が深々と例をした事で、岩波は嘆息しながらも喜んでいた。
一方で、岸波は少し気になった事があるので、佐渡に聞いてみる。
「そういえば、佐渡。他の海防艦娘達も、何かしらの特訓はしているのかしら?」
「うん。今頃はそれぞれ、弟子入りの志願をしてると思うよ。………ほら、あそこにいるの、福江じゃん。」
佐渡の言葉に反応して見れば、確かに福江が艤装を付けた状態で、三日月や早霜、春風と共にいた。
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「いい?雷を見ていたのならば分かると思うけど、片手盾は防ぐ為の装備じゃないわ。あくまで、「弾く」為の装備。」
「まともに受けてしまったら、壊れちゃうって事だな。実際、改ル級の砲撃で根こそぎ持って行かれたし………。」
「後は、相手にあわせて、咄嗟に防御をするか回避をするか選択する判断力も必要ね。無理な物は無理だって決めておかないと自他共に滅ぼすだけだもの。」
「盾を持つから安全ってわけじゃない………か。流石三日月さん、説明が分かりやすいや。」
福江は耐水性の紙にメモを取りながら、三日月の話を聞いて行く。
彼女は元々、荒れていた頃から片手盾を扱うのをメインとしていた為、その達人である三日月に、色々と教わろうと決めた。
頭を下げて来た福江の心意気を受けた三日月は、喜んで師匠になってくれたのだ。
「そういえば、福江が元々盾を持とうとした切っ掛けは何?」
「別に大した理由じゃないよ。熱いのと痛いのが嫌だっただけ。」
福江は孤児院が深海棲艦の襲撃で破壊された際、他の皆と同じように大火傷を負った。
その経験を乗り越える為………と言える程、偉そうな事では無いかもしれないが、福江は盾を持つ事で自身に保険を掛けたのだ。
「でも、折角盾を持っているんだし、あたしはみんなのサポートに回ればいいかなって思って。」
「福江って冷静なのね。」
「そうかな?」
「ええ。みんな躍起になって力を求める傾向が強いけれど、貴女は真っ先にサポート役に回る道を選んだわ。今の発言がその証拠ね。」
三日月の言葉に、福江は特に何か違和感や不快感を抱く事は無い。
そもそも、リーダーは佐渡が担ってくれたし、サブリーダーは八丈、知将は平戸が担ってくれた。
攻撃役としては、能美や石垣がいる事も考えれば、福江は彼女達を補助する役目に回るのが一番しっくり来ていたのは、事実なのだ。
だからこそ一歩後ろで仲間達を見守り、何かあった時に備える事を是非としているのが、福江なりの見出した道とも言える。
「三日月さんの言う通り、みんな今までの分を取り戻す為に必死だからな。それは凄くいい事だと思うけど………。」
「間違いなく、今後空回りを起こす事はあるわね。貴女は貴女で、自分の弱さを受け入れたうえで、周りを見守る道を選べばいいと思うわよ?」
三日月は睦月型だ。
睦月型はコストパフォーマンスに優れた艦娘ではあるが、肝心の火力に乏しいという大きな弱点を抱えている。
無論、それぞれが弱点を補う為に色々な努力をしているが、それでも補いきれない部分は確実にある。
それ故に三日月は、周りの状況を冷静に分析する思考も必要では無いかと思っていた。
尤も彼女の場合は、大潮や雷といった周囲の関係も大きいと言えるが………。
「福江はメンタルトレーニングも、的確にこなした方がいいかもしれないわね。」
「座禅みたいなものか?確かに、常時落ち着く事が出来れば、心強くなれると思うけど………。」
「後、もしも何かあった時は、仲間に対しても強気に出ていいわ。縁の下の力持ちを目指しましょ。」
「そうだな。あたしが目指す道は、そこなのかも。」
色々と試行錯誤を繰り返す福江は頷き、左手に備え付けられた盾を見る。
そして、少しだけ顔をしかめながら告げる。
「………で、縁の下の力持ちを目指す以上、この盾を有意義に使わないといけないけど………。」
福江は考え込む。
片手盾を持つ以上、状況にフレキシブルに対応しなければならない。
例えば平戸が、緊急時に応急処置や修理に従事している際は、その間に敵の砲撃を弾く必要が出てくるだろう。
一応、平戸自身は自衛する手段を考えてはいるらしいが、その話を聞いた福江にしてみれば、それこそ無茶と言える方法であった為、慣れない内は自身が壁になる方がいいと考えている。
しかし、例えば敵が強引に突進してきた場合、この片手盾では受けきれない。
「何か方法は考えているの?」
「春風さんみたいに、鋼の日傘を持つ事も考えたけど………一から磨くなら、もっと相手が近づきにくい威圧感のある装備にするのも有りかなって。」
福江にしてみたら、見た目で牽制するのも立派な手段だと考えている。
只、海防艦は迫力が無い故に、兵装による恐怖感があれば、猶更いいとは思っていた。
だが、まだ右手に持つべき兵装を決め切れていない。
「単装砲だけで済むのならば、それに越した事は無いけれど………。」
「じゃあ面白い兵装、使ってみる?」
「早霜さん………?そんな物あるの?」
「ふふ………さっき、工廠の倉庫で見つけたの。ちょっと待ってて。」
何やら不気味な笑みを浮かべる早霜に、春風を含め3人が首を傾げるが、彼女は気にする様子も無く工廠へ歩いて行く。
そして、数分後戻って来た彼女の姿に………空気が凍り付いた。
「は、早霜さん………そ、それは………何ですか!?」
早霜は、得意げな笑みを浮かべながら肩に鋼鉄製のトゲの生えた棒………即ち金棒を携えながら現れたのだ。
不敵な笑みを合わせ、あまりにも似合いすぎるその姿に、春風でなくても引いてしまう。
「見た通りの打撃武器よ。ふふ………思い出すわね。昔、生徒達の豆まきで、こうして鬼役をやっていたもの。」
「か、金棒を右手に持つのか!?」
「夕張さんに、もうワンサイズ小さな特注品を作って貰う事になると思うけど、威圧感はあるでしょう?これなら、緊急時に敵を傷つける為の武装になるわ。」
海防艦が打撃武器を扱うのは、あくまで敵の方から近づいて来た時くらいだ。
だが、それなりにリーチが有り、しかも棘によって相手に痛みを与えられる金棒は、意外と実用的とも言える兵装であった。
イメージとしては、かなり近寄りがたいが。
「福江。騙されたと思って、使ってみるのはどうかしら?」
「か、考えておくよ………。それにしても、やっぱりみんな発想が違うんだなぁ………。」
福江にしてみたら早霜の柔軟な発想は、考えさせられるものがあると感じていた。
そもそも第九十九駆逐隊は、救助に特化した駆逐隊を目指しているだけあり、こういった敵を近づけさせない為の手段も日々考察しているらしい。
今回の早霜の例は少々遊び心がある様にも思えたが、雷の大楯の使い方を始め、役立つ事は多かった。
「………八丈や平戸も、だから惹かれたのかな?」
「そういえば、八条さんは改装の時に、何かしらの意志を固めていましたね。まさかとは思いますけれど………。」
少々心配そうな目を向ける春風に対し、福江は頷く。
早霜や三日月にとっても、2人が考えている事を理解するには十分すぎる判断材料であった。
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「………うん!まさか一晩で兵装を整えてくれるとは思わなかったけれど、この重量なら許容範囲ね!流石、夕張さんと妖精さん達!」
工廠の奥では、雷が海風と長波に見守られながら、新しく改造が加えられた艤装を付けていた。
その艤装の両肩の大楯は事前に雷が所望した通りに、左右3本ずつ芯となる杭が埋め込まれており、防弾性能を高めてくれている。
また、夕張の遊び心でパイルバンカーにもなるおまけ付きだ。
「雷………この艤装は、すぐに使えるの?」
「まずは訓練が必要ね。ゴム弾を受けて、どの角度や力加減ならば上手く弾けるか調整する必要があるわ。」
海風の少し心配した言葉に、雷は指を立てながら答える。
流石にいきなりこの艤装を、実戦に使えるとは思っていない。
しかし、訓練で調整する事で、間違いなく前よりは強くなれるだろう。
「使いこなせば、今よりもみんなを守れるから安心して。」
「そ、そうね………。」
あくまで、自分で無くみんな。
その潔過ぎる雷の言葉に、海風は反応に困ってしまう。
長波も色々と考えていたが、そこに2人程入って来るのを感じた。
「アレは………?」
その視線を追って、雷と海風が見てみたら、やって来たのは真剣な顔をした八丈と平戸であった。
2人は雷の前までやって来る。
「八丈?平戸?一体どうしたの………?」
「雷さん………。」
「!?」
次の瞬間、海防艦娘達はその場で膝を付き、何と土下座をする。
いきなりの行為に面食らった雷達であったが、彼女達が何か言う前に、2人は声を揃えて告げた。
『私達を………弟子にしてください!!』
雷を見上げるその目は、熱く燃えていた。
お疲れ様です。
色々と考えましたが、しばらくは1週間に1本ずつ確実に投稿できればいいかなと考えました。
これからも、気長に付き合って貰えると有り難いです。
今回、佐渡を始め海防艦娘達が、先輩艦娘に弟子入りをしています。
その中で、福江の所で早霜が金棒を用意したのは、節分イベントのグラフィックからですね。
赤鬼として振る舞う早霜は、かなり様になっていたと思います。
ちなみに青鬼は、ジョンストンが妥当でしょうか?
早霜にとっては初めての私服イベントだったので、喜んだ思い出がありますね。