大楯の雷   作:擬態人形P

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第52話 ~弟子入り志願~

佐渡が岸波&岩波に見せて貰ったのは、投げた爆雷を主砲で撃ちぬく必殺技。

その高度な技術を学ぶ為に師匠が必要だと思った佐渡は、岸波達に弟子入りをする。

彼女達は、乗りかかった船というわけで了承してくれた。

 

一方で片手盾を扱う福江は、三日月に弟子入りをしていた。

彼女は、冷静に艦隊を支える縁の下の力持ちを目指そうと決めており、その考え方を三日月に称賛される。

また、威圧感のある武装を求めた結果、早霜に金棒を使う事を提案して貰った。

 

雷は夕張によって、改良された艤装を装着。

芯となる杭を仕込んだ大楯を手に入れた為に、もっと皆を守れると喜ぶが、海風は微妙な顔。

ここで八丈や平戸がやって来て、何と雷に土下座。

彼女達は、雷に弟子入りを志願していた。

 

 

「えっと………弟子入りって事は………?」

「まず、ハチから言います。雷さん、ハチに大楯の使い方を教えてくれませんか?」

 

とりあえず、土下座のままではダメだったので、八丈と平戸を立たせたうえで、雷は2人の弟子入りの理由を聞く。

嫌な予感はしていたが、案の定八丈は、二振りの大楯を使いたいと言ってきたのだ。

その言葉を聞いた瞬間、雷は思わず頭を押さえて嘆息してしまう。

 

「ねえ………八丈。確か私、貴女が荒んでいた頃に言ったわよね?この技術、一朝一夕で手に入れた物じゃないって。」

 

海防艦娘達が、暴走する前の事だ。

八丈が何となくではあったが、雷が捨て子であったかどうか聞いた際に、大楯の技術をどうやって習得したのかを話した。

この技術は、横須賀で戦艦の人達に頼み込んで、30年掛けて特訓をして身に着けた力なのだ。

つまり、そう簡単に身に着けられるものでは無い。

 

「ちゃんと覚えています。そのうえで、教えて欲しいって思ったんです。みんなを守る為の力を。雷さんの素敵な力を、30年掛けてでもハチに教えて下さい!」

 

八丈の言葉に、雷は考え込む。

海風や長波にしてみたら、意外であった。

てっきり雷ならば、ここまで熱意を見せた八丈を快く弟子にすると思ったのだ。

しかし、ここまで渋るという事は………。

 

「ねえ、雷。その弾く訓練って………そんなに酷いものなの?」

「襲い来るゴム弾を、何十発もひたすらに弾き飛ばしていくのよ?失敗して、体中痣だらけになるのならば、まだマシ。全身を、何度も何度も殴られるような感覚に襲われるわね。」

「そういう事なのね………。」

 

質問をした海風は、雷が渋っている理由を察した。

海防艦娘達は、その親に恵まれなかった過去故に、暴力を受ける事にあまり良い印象を持っていない。

だが、敵の弾を弾く訓練をするという事は、ひたすら大楯で弾いて行く事になる。

当然ながら、最初は失敗ばかりで痛い目を見る。

雷にしてみたら、過去にそんな痛い目を見た海防艦娘のトラウマを掘り返すような真似は抵抗があったのだ。

ある意味では、彼女の他人の為の優しさ故の考え方だ。

 

「八丈、悪い事は言わないから………。」

「ハチは、それでも構いません。繰り返しますが、みんなを守る為の力が欲しいんです。その為なら、何百発でも何千発でも痛みに耐えてみせます。」

 

だが、八丈はそれでも意志が変わらなかった。

むしろ、逆に望むところだと言わんばかり。

ここまで彼女がやる気を見せられるのは、実際に雷が身を挺して、自分達を含めた皆を守れているからだ。

そんな高潔な精神を持った駆逐艦のような存在に、どうしても八丈はなりたかった。

言う事は無かったが、根幹にあるのは、母として接してくれた雷を守りたいという想い。

彼女の負担を軽くできるのならば、傍で支えたかった。

 

「本当に………覚悟はあるの?」

「あります。泣き言は言いません。」

「うーん………。」

 

雷は熟考する。

今の八丈は、梃子でも動かないだろう。

それだけ意志が固いのが、見て取れる。

ここで、長波が口を挟む。

 

「仮でもいいから、一回弟子扱いにしてみたらどうだ?大楯習得の厳しさは、実際に体感しないと分からないんだろ?」

「そうだけど………。」

「意固地になったら、それは雷の我儘だ。いいじゃないか、弟子になりたいって言われるんだからさ。」

「……………。」

 

散々悩んだ雷であったが、深呼吸をすると改めて八丈を見据える。

彼女の視線は、揺らぐことは無かった。

やがて、彼女に静かに告げる。

 

「あくまで仮よ?でも、貴女の熱意に応じて、弟子入り志願は受けるわ。」

「ありがとうございます!!ハチ、頑張ります!!」

 

ここでようやく笑顔を弾かせて頭を下げる八丈を見て、雷は軽くため息を付く。

その一貫した態度を見るに、海風や長波は相当茨の道なのだろうと悟る。

雷は、少し心を落ち着かせたうえで、今度は平戸を見る。

 

「………で、平戸も大楯を?」

「いえ………私は工作艦を目指しているので、八丈さんとは方向性が違います。」

「工作艦って………それは、夏雲とかの担当じゃない?」

 

夏雲を見ている限り、工作艦は海戦では、負傷者の治療や傷ついた艤装の応急修理を施す。

その為、両手は開けていなければならない。

でも、雷に弟子入りをすると、その両手が大楯によって塞がってしまうのだ。

平戸は、説明不足でしたね………と謝ると、詳細を話し始める。

 

「工作艦は確かに、治療中は手が塞がります。でも、その隙を敵に狙われたら、自衛の手段が無くなってしまいます。八丈さん達に守って貰うのも手ですが、それにも限界はあるでしょう。」

「それはそうだけど………。」

「確か、駆逐艦の中には「浮遊兵装」を扱う方もいたはずです。その方に倣って、私は浮遊兵装に単装砲と即席の盾を装着して、自衛を出来るように出来ないかと思ったんですよ。雷さんに教えて欲しいのは、弾く技術ですね。」

「………待って?ちょっと、待って!?」

 

分かりやすい平戸の説明であったが、それ故に雷は思わず声を荒げてしまう。

確かに駆逐艦の中には、浮遊兵装を扱う者がいる。

初春型ネームシップの、「初春(はつはる)」だ。

彼女はサブアームに装着してある連装砲を、浮遊艤装として飛行させる事が出来る。

しかし、あくまでそれは「初春」という適性のある艦娘だからこそ成しえる技術。

元々適性の無い者がいきなり浮遊兵装を操ろうとしても、上手くは行かない。

いや、コントロールが出来ないのならばまだしも、無理に操ろうとして脳に負荷を掛けた結果、自滅する可能性の方が高いのだ。

 

「無理よ!ゴメン、頭ごなしに言うようだけど、流石に平戸の考えは現実的には無理!」

「どうしてでしょうか………?努力をすれば………。」

「詳しくは言えないけど、確かに別の艦娘が浮遊兵装を扱った例はあるわ。でも、それには明確な条件があったの。妖精さんっていう条件が!」

 

雷の言葉には、平戸だけでなく海風や長波、八丈も興味を惹かれる。

彼女の説明を聞いている限りだと、どうも、初春の浮遊兵装を操るには、初春の固有妖精さんの力を借りないといけないらしい。

そうしないと兵装を含めた艤装は応えてくれないらしく、浮遊艤装を飛ばす事も難しいらしい。

 

「横須賀で、私はそういう子を見た事があるから………だから、悪いけど、平戸の戦い方は実現不可能よ………。」

「そんな………。」

 

泣きそうな顔をする平戸であるが、こればかりは雷もどうしようもならない。

そもそもそんな事が可能ならば、雷自身が浮遊兵装で大楯を操って、より防御力を強固な物にしている。

だが、ここで意外にも助言を出したのは、長波であった。

 

「その問題………解決する手段はあるかもな。」

「嘘!?」

「落ち着けよ、雷。実は、平戸だから出来るかもしれない………っていう抜け道なんだが………ちょっと、夕張に会いに行こうか。何処にいるか知ってるか?」

「夕張さんならば工廠の外で、夏雲さんや沖波さんと共に、石垣さんや能美さんの指導をしてくれていますけれど………。」

 

ならば丁度いい………と、長波は平戸に笑みを浮かべ、皆を連れて工廠の出口へと向かって行く。

残った者達は、全員で顔を見合わせた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

工廠の外には、夕張達が控えていた。

夕張は石垣に対し、高速建造材(バーナー)を改良して作った「火炎放射器」をプレゼントしており、構え方を教えてくれている。

一方で夏雲は、能美に朝潮型の艤装や兵装の使い方を説明しており、こちらも時折構え方を指導して、反動の軽減方法などを教えていた。

その様子を、遠くで沖波が見守っている形である。

 

「あ………八丈に平戸………。」

「弟子入り上手くいった?」

 

いい汗をかいている石垣と能美に言われた事で、平戸が首を振って、今までの事を説明する。

その話を聞いていた夕張は、成程………といった顔で、話の中身を聞いていた。

 

「沖波ちゃんに聞きたい理由も、分かるわね。」

「夕張さん。沖波が何かカギを握っているのですか?普通は固有妖精さんがいないと無理だと思うのですが………。」

「詳しいのね、雷ちゃん。でも、代替で可能な場合があるのよ。」

 

夕張はそう言うと、長波から説明を受けている沖波の方を見る。

彼女は話を聞き終わると、少しにこやかに笑みを浮かべてこちらにやって来た。

 

「そっか。平戸さんは、色々と考えているんだね。」

「長波さんは、私に可能な抜け道があると言っていましたが………。」

「うん、あるよ。平戸さんは、眼鏡を掛けているもの。」

 

眼鏡?………と一斉に疑問符を浮かべる一同に対し沖波は、百聞は一見に如かずと言わんばかりに自分の眼鏡の耳の部分にあるダイヤルを弄りつつ取り外し、平戸に掛けさせる。

その理由が分からなかった平戸だが、沖波の度の強い眼鏡を付けた途端、驚きを見せた。

 

「こ、この眼鏡………サーモグラフィーが備わっています!?」

「ええっ!?」

 

驚く雷に眼鏡が渡され掛けてみると、確かに各艦娘の体温が色によって判別されている。

沖波は眼鏡を平戸にもう一度渡したうえで、ダイヤルを弄っていく。

 

「他にも基本的な物は、色々と備わっているよ。電探、レーダー、ソナー、心拍数、気象情報………とか。」

「す、凄い………!あ、じゃあこの眼鏡を付ければ………!」

 

眼鏡を返しつつ、平戸は笑みを見せる。

沖波の特注眼鏡は、妖精さんに近いバックアップを可能にしている。

この力を借りて、浮遊兵装を制御する手助けをして貰えば、初春の固有妖精さんを扱えない平戸でも、疑似的に力を使えるだろう。

 

「勿論、習得は厳しいと思うけれど………、そこは努力次第かな。」

「努力ならば惜しみません!これなら、私も………!」

「只、デメリットもあるよ?」

「え………?」

 

沖波は、指を立てながら説明をしていく。

まずは、色々な機能がある故に、流れてくる情報量が半端ないという事だ。

下手したら脳が負荷に耐えられなくなり、鼻血や血涙に襲われる。

ダイヤル式で、1つずつ機能を発揮するようにしてあるのは、なるべくその負荷を減らす為の処置と言えた。

 

「もう1つ問題があるんだ。この特注眼鏡………当然だけど、値段が高いんだよ?」

 

実は、この特注眼鏡は相当高価な物である。

しかも、自分自身の為の物なので、個人負担だ。

正直、沖波程の主戦力級の艦娘の給料ならばともかく、今の平戸の安月給では払える物では無い。

ここら辺は、ずっとサボっていたつけが、今になって出てしまっていた。

 

「そ、そんな………。」

「逆に聞きますけれど………、沖波さんはどうして、ここまでして特注眼鏡を揃えようと………?」

「もう、失いたく無いからかな。誰かが死ぬのって、辛い事だし。」

『……………。』

 

夏雲の質問に、沖波は軽く答えるが、その言葉には重みがあった。

雷はこっそり長波を横目で見てみたが、彼女は何か思う所があるらしく、珍しく俯いている。

あまり、これ以上詮索しない方が、いいのかもしれないとは思った。

話題を変えようとしたのか、沖波は朗らかな笑みを浮かべると、屈みこんで平戸に目線を合わせる。

 

「ねえ、平戸さん。どうしても、特注眼鏡は欲しい?」

「欲しいです………。自衛の盾を扱えるだけでなく、この機能があれば自分の工作艦を目指すうえでの経験の無さを補えます。海戦で何かあった時も、役立つはずです!」

「じゃあ………しばらくは、お金を肩代わりしてあげよっか?」

「え!?」

 

笑みを見せる沖波の言葉に、平戸は驚く。

沖波にとっては何のメリットも無いはずなのに、平戸の特注眼鏡の費用を肩代わりすると言ったのだ。

それは有り難い話だが、平戸はそこまでしてくれる沖波に違和感すら覚えてしまう。

 

「な、何で………?」

「強くなりたいって心は応援したいもの。但し、条件はあるよ?ちゃんと聞いてくれる?」

「き、聞きます!沖波さん、何が必要ですか!?」

 

その気になれば、沖波にも土下座をしそうな勢いの平戸であったが、彼女は雷と夏雲の方を、チラリと見ながら告げる。

 

「特訓をする上では、夏雲さんと雷さんが師匠になると思うけれど、私の事も師匠として扱う事。呼び名は沖波でいいけれどね。」

「それ位ならば………。」

「八丈さんも、雷さんの他に私の指示にも従って貰うけど、大丈夫?」

「ハチもですか?勿論、それ位ならば、大丈夫ですけど………。」

 

沖波の提示した条件に、雷達は首を傾げる。

平戸だけでなく八丈に対しても、師匠として振る舞おうとする沖波の行動には、違和感を覚えた。

別に沖波の性格を鑑みれば、2人に対して偉そうに振る舞う事は無いだろう。

だが、逆に考えれば、押しの弱い沖波がここまで介入する事が意外に思えたのだ。

そんな雷達の疑問を他所に、沖波は夕張にお願いをする。

 

「じゃあ、夕張さん。大変ですけれど、兵装の開発をお願いします。」

「任せて!専用の金棒に特注眼鏡、ワンサイズ小さ目の大楯1セット………火炎放射器の改修もあるし、腕が鳴るわね!」

 

夕張は腕まくりをしながら、白い歯を見せた。




今回の話で、海防艦達のそれぞれの道が大体は決まりました。
雷の言う、初春の浮遊艤装を使いこなした艦娘が、何者なのかは分からないですが、色々と訳がありそうですね。

そんな中で、沖波が特注眼鏡を用意して、様々なバックアップを行っていた事が判明。
平戸や八丈を見守ってくれるみたいですが、何故そこまで介入するのかは、現時点では不明。
何やら、彼女にも深い理由がありそうです。
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