大楯の雷   作:擬態人形P

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第53話 ~盾を使いこなす為に~

工廠の中で雷に、いきなり弟子入り志願をしてきた八丈と平戸。

八丈は二振りの大楯の技術を身に着けたいと言い、その為ならばどんな痛みにでも耐えてみせると覚悟を決めていた。

そんな八丈の覚悟を前に、訓練の辛さを知る雷は渋ってしまうが、長波の助言も有り、最終的には仮という扱いで弟子入りを受け入れる。

 

一方で平戸は浮遊兵装を盾代わりに扱う事で、自衛の手段をしようと考えていたが、今度は絶対に無理だと、雷は否定。

何故ならば、専用の固有妖精さんの力が無いと浮遊兵装は扱えないという事を、彼女は知っていたからである。

だが、ここで助け船を出したのは、また長波。

 

彼女が工廠の外に出て頼りにしたのは、石垣や能美に指導をしている沖波。

実は沖波の眼鏡は特注品で様々な機能が備え付けられており、妖精さんのサポートのような効果を引き出していた。

だが、平戸にしてみれば、今の自分の安月給では買えないような品であったので、無理かと思った時、沖波がしばらくはお金を肩代わりしてくれると言ってくれる。

その代わり、彼女も師匠として仰ぐ事になったが、雷達にしてみれば、大人しめな沖波がここまで積極的に介入する理由が分からなかった。

 

 

「………じゃあ、八丈や平戸は、明日から本格的に訓練を行うのね。」

「………みたいだな。長波から聞いた話だと、あたいは嫌な予感がするけど。」

 

後始末屋「はくちょう」が寄港してから、2日目。

各艦娘達が街へと繰り出して羽を伸ばしている中で、初霜は庁舎の新しい部屋に引っ越しを淡々と行っていた。

手伝ってくれるのは、朝霜を始め、不知火に竹、藤波。

部屋の備品の他に、工廠に置いてある工作艦の用具を運搬する形になったので、手の空いている艦娘に手伝って貰う事になっていた。

勿論、「はくちょう」所属の艦娘に頼るのも有りだったが、折角の休暇を過ごして欲しいという初霜の気遣いも有り、ここら辺は大湊所属の艦娘達にお願いしている。

 

「それにしても、海防艦の6人は、みんな方向性を決めているのね。」

「平戸が頼って来たら、初霜も協力をするのですか?」

「ええ。夢を持つ人は、私も応援してあげたいもの。でも………沖波がわざわざ介入するって事は、何かあるのかしら?」

 

不知火の言葉に答えつつ、初霜は朝霜を見る。

彼女は備品を部屋にふうと、ため息を付く。

 

「あるにはあるぜ。只………悪ぃな。あたいは、その詳細を言えない。」

「そう………じゃあ、仕方ないわね。」

 

拒むような朝霜の態度に、誰も無理強いをしなかった。

言いたくない過去というのは、誰にだってあるのだから。

そんな中、話の流れを変えようと藤波が告げる。

 

「そういえばさ。藤波は三日月ちんと同部屋だけど、初霜ちんは、誰と同部屋になるの?」

「私?………あ、聞いてないわね。」

 

初霜の部屋も駆逐艦という事で、基本は2人部屋となっている。

1人で使う可能性もあったが、それなら3人部屋の雷を初霜の部屋に移す可能性も候補に考えられた。

元々、彼女が3人部屋に居たのは早霜と不知火の関係がギクシャクしていたから。

只、艦娘補給用物資販売店………「コンビニ」でその関係が大分改善された今ならば、怪我しがちな雷は工作艦免許所得を目指す初霜の部屋に移動して貰った方が良い気もしたのだ。

 

「鈴谷さんが何も言わないって事は、1人で使えって意味なんじゃないのか?」

「そうかもね。………って、表札が出来てるじゃん。どれどれ………。」

 

目ざとく部屋の入り口で、裏返しになっているプレートを見つけた竹と藤波が、それをひっくり返して同居人を確認する。

だが………次の瞬間、竹は怪訝な顔をし………藤波の目が見開かれた。

 

「これって………。」

「う、嘘………!?」

「………藤波さん?」

 

藤波は思わずふらつき、慌てて竹に支えられる。

彼女のただならぬ様子に、初霜を含めた他の艦娘達も近づいてくる。

だが、藤波は深呼吸をすると、プレートをひっくり返して元に戻す。

 

「どうしたんだ?書いてあった艦娘は………。」

「ゴメン、竹ちん。この事、まだ誰にも言わないで。藤波の勘違いである同型艦である可能性もあるから………。」

 

何度も深呼吸を繰り返す藤波に、初霜は明らかな違和感を覚える。

そして、一応誰の名前が書かれていたのかを問う事に。

 

「ねえ、藤波。もしも、貴女の思う通りの艦娘だったら………どんな事になるの?」

「横須賀の指令………大湊に雷ちん以上のド派手なダイナマイトぶち込んで来た!あの2人をわざわざぶつけるなんて!!」

 

驚愕の中に、怒りすら含まれている藤波の声に、初霜達は訳が分からなくなる。

表札に書かれていた、名前はこうだ。

 

『初霜・電』

 

大湊で新藤提督が一騎当千の艦娘として増援に告げていた、「初期艦」である電の名前であった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

一方で、平戸と八丈を弟子に取った沖波は、執務室に報告に来ていた。

部屋の中では、机に座って艦娘提督の鈴谷が、真面目な顔で海防艦達の書いた大量の反省文をチェックしている。

秘書艦である熊野もまた、佐渡達を管理する責任者として、改めて確認をしていた。

 

「沖波が、そこまで介入するなんて珍しいね。」

「ちょっと、気になる事があるので………。」

 

鈴谷は書類をある程度見終わると、一度お茶菓子を食べて心を落ち着かせる。

そして、静かに沖波を見つめた。

 

「………で、沖波。言いたい事はそれだけ?」

 

表情はそのままに、鈴谷は沖波に目を向ける。

沖波の方は、少し笑みを浮かべたままだ。

寂しげに………。

その表情から何を言いたいのかは、何となくではあるが、鈴谷も熊野も悟り掛けていた。

沖波は、少々俯き、しかし意を決したように言う。

 

「機会を見て6人に、「あの話」をしてもいいでしょうか?」

 

その瞬間、空気が固まったような気がした。

もしも、その場に3人以外の誰かが居たら、居心地の悪さを感じるだろう。

沖波も鈴谷も、互いに真面目な視線を外さない。

熊野は少し、心配している顔だ。

やがて、鈴谷の方が先にため息を付いて、お茶を一気に飲み干して言う。

 

「………あの時の事、まだ恨んでいる?」

「その言葉は、私が言うべき言葉だと思うんですが………。」

「八つ当たりをしたのは、私だよ?」

「守れなかったのは、私です。」

 

2人の会話からは、第三者では意味を捉えられなかったが、何か悲しい事があった事だけは分かる。

実際に瞳に暗い影を落とす2人の様子を見て、熊野はより不安そうな顔をする。

そんな中、沖波が理由を答えた。

 

「ようやく前を向けたあの6人には、私のような弱い艦娘にはなって欲しく無いんです。体だけでなく、心も成長して欲しいですから。」

 

沖波が言葉を紡ぐ度に、鈴谷が苦しい顔をするのが目に見えて分かった。

だが、言わなければ始まらない。

鈴谷は、静かにちらりと自分の左の薬指を見る。

そこに付けられた今は亡き前提督とのケッコンカッコカリの絆の証………指輪には、よくよく見れば、天使のような羽が付いている。

鈴谷はそんな可愛らしいデザインが、気に入っていた。

 

「いいよ。」

 

鈴谷は、やがて覚悟を決めたように言う。

 

「あの子達も、経緯はどうあれ大湊にいる道を選んだもの。知らなきゃいけない事だと思うし………私のようにもなって欲しく無いから。」

 

鈴谷は立ち上がると悲しそうな笑みを浮かべつつ、あの子達を宜しくね………と、沖波に頭を下げる。

沖波も鈴谷に頭を下げつつ、ありがとうございます………と告げた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

翌日………「はくちょう」が停泊してから3日目。

訓練海域の一部には、特殊な設備が出来ていた。

3方向を囲うようにネットが建てられており、中央の一番奥には巨大なマットが立てかけられていた。

これは、大楯の訓練をする為に雷が考えた設備で、ゴム弾が海に飛び散らないようにする為の処置だ。

マットは弾き飛ばされた際に、大怪我を未然に防ぐ為の処置と言える。

 

「手伝うとは言ったけれど………。」

 

そのネットの空いた方向………離れた場所で待機しているのは、アトランタ。

彼女は、マットの前で新しい大楯の調子を確かめている雷に、顔をしかめて言う。

 

「本当にいいの?防空巡洋艦の主砲の威力………それなりにあるよ?」

「一応、師匠ですから、手本は見せないといけないので。それに、こうやってチェックしていくしか無いですし。」

 

雷は、マットの前で大楯を構える。

その姿勢は流石に30年間掛けて身に着けただけあって様になっており、近くで見守る面々は改めてそのオーラを感じ取っていた。

ちなみに海防艦で今回、弾く訓練をするのは、盾を操る八丈と福江と平戸。

尤も、平戸に関しては、まずは浮遊兵装を1つ操る所から始めないといけないので、上手く行ったら………という条件付きだが。

この他、何かあった時の事も含め、それぞれの師匠役である夏雲と沖波、それに三日月が待機していた。

 

「じゃあ、行くよ。恨まないでね。」

「遠慮なく、お願いします。」

 

アトランタは主砲を構える。

そして………勢いよく、ゴム弾を1発、雷に向かって撃った。

 

「うっ!?」

『え!?』

 

砲弾は雷の右の大楯にヒットするが、その瞬間、弾はあらぬ方向へと飛び、雷は海面を転がり、マットへと逆さまに激突する。

予めスパッツを身に着けていたので、あられもない姿になる事は無かったが、その衝撃は、皆を驚かせた。

特に、同じ大楯を身に着けている八丈は、驚愕している。

 

「だ、大丈夫ですか、雷さん!?」

「大丈夫。………少し重くなった分、やっぱり微調整しないといけないわね。」

 

体勢を立て直して海面に着水し、軽く体を解した雷は、特に気にした様子もなく………只、顔をしかめながら、大楯の状態を確認する。

最初は今までと同じように弾いてみたものの、これではダメであった。

ここから、少しずつ修正していかないと、実戦では使えない。

 

「アトランタさん、もう1回お願いします。」

「い、いや………もう1回って………横須賀でずっとこんな事やってたの!?」

「はい。大楯って、繊細ですから。そう簡単にはいきませんよ。」

『……………。』

 

平然と答える雷の、もう慣れっこといった様子に、アトランタだけでなく全員が絶句する。

唯一この場で彼女を知る三日月は、深くため息を付いていた。

つまり、雷は、こんな恐ろしい訓練を、ずっと横須賀で続けていたのだ。

そして、30年掛けて少しずつ自分の体を痛めつけていく事で、この弾く技術を確立した。

冷静に考えれば誰でも予想が付く事だが、今まで横須賀時代の雷を知らない面々がその思考に至らなかったのは、当たり前のように雷が敵の砲弾を弾いていたからと言える。

 

「じゃ、じゃあ………撃つわよ!撃つからね!」

「遠慮しないで下さい。30発くらいで、慣れますから。」

 

アトランタは、もう半ば自棄と言わんばかりに、砲弾を撃った。

2発目は1発目程ではないが、同じようにあらぬ方向に弾が飛び、雷はマットに叩きつけられる。

あまりの衝撃的な訓練の様子に、この後、同じことを行う予定である八丈は、唾をのみ込むが、師匠から目を離す事は無かった。

自分の目指すべき姿を、確立しないといけない………そう思っていたし、覚悟は決めていたのだから。

 

「大分慣れて来たかな。この感じなら、後は実戦で上手く使いこなせると思うし。」

「ま、まだ………実戦でも試すの!?」

「当たり前ですよ、アトランタさん。そうしないと、みんなを守れないじゃないですか。」

『……………。』

 

雷が予想した通り、本当に30発程ゴム弾を受け流し続ける事で、アトランタの砲撃を上手く弾く事が出来るようになっていた。

少なくともマットに弾き飛ばされる事は無いし、的確にゴム弾を処理する事は出来るようになっている。

只………雷の仲間を何としても守るという思考は、今の熾烈とも言える訓練を見たのもあって、異常な物を感じる者もいた。

実際、アトランタは勿論、夏雲や三日月も引いてしまっている。

 

「………で、八丈。本当にやるの?」

「やります。ハチも………やってみせるから!」

 

しかし、何としても雷の技術を身に着けたい八丈にしてみたら、その異常な訓練に怯んでいるわけにはいかなかった。

むしろ、雷に認めて貰いたいという想い故に、望むところと言わんばかりだ。

 

「………平戸は?八丈よりも、難易度高いと思うけれど。」

「勿論です。むしろ、やる気に満ちてきました。」

 

夕張に作って貰った特注眼鏡のダイヤルを弄りながら、平戸も笑みを浮かべる。

彼女もまた、雷のような艦娘に憧れている。

だからこそ、これからの訓練に恐怖心を抱いていなかった。

 

(………何か、変だ。)

 

そんな中で、新たに疑問を抱く者がいた。

雷に憧れている海防艦娘の1人である、福江だ。

彼女は、1歩引いた目線で物事を見る事が大事だと三日月に教わっていたのも有り、「ここで」雷の異常性に気付いた。

 

(雷さんは………本当に、大丈夫なのか?八丈や平戸は、突っ走って………大丈夫なのか?)

 

一度芽生えてしまった疑念は、そう簡単には取り払えない。

身近な仲間である八丈や平戸が、のめり込んだからこそ勘づいてしまった問題点。

 

福江は海防艦娘の中で、最初に恩人である雷の異常………それこそ、「壊れている」とも言える思考回路に、気付いてしまった。




色々と動き出した、今回の話。
特に、福江が雷の異常性に気付いたのは、今後に深い影響を与えるかもしれませんね。
それだけ、彼女の大楯の訓練は「危険」と言えるもの。

また、藤波が思わずふらついてしまった電の存在に付いても気になる所。
果たして初期艦の電とは、どんな艦娘なのか…?
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