大楯の雷   作:擬態人形P

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第54話 ~心の空回り~

海防艦達がそれぞれ弟子入りしている裏で、初霜は手伝いの艦娘達と共に、引っ越しを淡々と進めていた。

その際、藤波が同部屋になるのは誰か気になり、目ざとく見つけた表札を見る事に。

しかし、そこに書かれていた名前………電の名前を見て、驚愕する。

 

執務室に行った沖波は、言いにくそうにしながらも、鈴谷に「ある事」を海防艦6人に話していいかと問う。

その瞬間、空気が固まったが、何やら重い感情を持っていた鈴谷も、覚悟を決めて許可を出す事に。

 

そして、翌日に訓練海域で設備を整えた雷は、アトランタのゴム弾による砲撃を受けて新調された大楯の様子を確認する事に。

だが、その過激な内容を見て、皆、思わず絶句してしまう。

しかし、それでも大楯を使いこなしていく雷の様子を見て、改めて厳しい訓練でも、耐え抜く決意を固める八丈と平戸。

その仲間達の、のめり込む様子を見て、福江は雷の異常性に気付き始める。

 

 

雷が手本として新調した大楯に慣れた後、今度は八丈が同じようにゴム弾を弾き飛ばす事になった。

30発弾いただけとはいえ、雷の体は事前に告げていた通り痣によりボロボロで、夏雲に応急処置を施されている。

そんな姿を見せられても八丈は怯まず、むしろ俄然やる気が上がっていた。

彼女にゴム弾を放つのは、三日月。

いきなりアトランタのような強力な艦で試すわけにもいかず、まずは破壊力の少ない睦月型で慣れていく感じだ。

それでも、海防艦という体格である上に、初めての大楯の扱いになるので、キツイと言えばキツイが………。

 

「じゃあ、お願いします!」

「無理だと思ったら、すぐに言うのよ?」

「大丈夫です!ゴム弾ならば、死にませんから!」

 

念には念を押して確認をしたが、八丈の意志は梃子でも動かなかったので、三日月はまたため息を付きながらも、単装砲を構える。

八丈は事前に、雷に大楯の弾き方を教わっていたが、実際に感覚を掴むのは初めてだ。

緊張した面持ちで、盾を構えゴム弾に備え………。

 

「うわぁっ!?」

 

三日月は最初という事で、敢えて盾を狙って主砲を撃った。

しかし、睦月型の駆逐艦の威力と言っても海防艦に比べれば、かなり凄まじい。

結局最初は、雷のように吹っ飛ばされ背後のマットに叩きつけられる。

 

「八丈、やっぱり無茶しない方が………。」

「い、いえ………まだまだできます!」

 

予想通りの展開に雷は八丈を気遣うが、彼女は体を起こし、もう一度大楯を構える。

その眼光は鋭く熱意があったが、それが周りを不安にさせた。

 

「前途多難ですね………。沖波さん、平戸さんの方は………。」

「最初からは、上手くいかないかな。」

「………ですよね。」

 

沖波に話しかけた夏雲もまた、ため息を付く。

平戸は水面に浮いている浮遊兵装を、持ち上げようとしているが、上手くいかない。

特注眼鏡のダイヤルを弄り、兵装のコントロールを、脳でダイレクトにコントロール出来るようにしているのだが、そう簡単に最初から出来れば苦労しないだろう。

 

「最初から持ち上げる事をしないで、動かすイメージを持てばいいんだよ。」

「でも………それじゃあ、いつまで経っても戦力になれませんよ………!」

 

沖波は焦らないように言うが、平戸は早く力を得たいと思っているらしく、目を瞑り、かなり力を込めている。

あまり良い姿に見えなかったが、手本となる存在がいない故に、まずはやってみないといけなかった。

 

「……………。」

「福江さん………どうしましたか?」

「いや………八丈も平戸も………その、正しい事やってるのかなって………。」

「それは………。」

 

その訓練の様子を、遠くから見つめる福江は、かなり不安そうな表情であった。

まるで、仲間達が間違った道を進んでいるのでは無いか………という疑念。

何処か悲観しているようにも見える表情に、夏雲は何も言えない。

実際、彼女もまた、この雷の姿勢に対し素直に憧れる2人の姿は、危険だと思っているのだから。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

八丈と平戸の訓練は尚も続いた。

だが、どちらも初めての修行である故に、そう簡単に好転したら苦労はしない。

実際、八丈は何回も弾く事が出来ずにマットに叩きつけられたし、平戸は浮遊兵装を全く浮かす事が出来ない。

それでもめげない所は、十分に評価できるのだが、限界はいつか来てしまう。

 

「うああああああああああっ!?」

「八丈!?」

 

最初に悲鳴を上げたのは、八丈であった。

丁度10発目の弾を大楯で弾くのに失敗し、ゴム弾が直接右腕に当たったのだ。

思わず盾を取り落とし左手で右腕を押さえる。

すかさず雷と夏雲が駆け寄り、その状態を確認していく。

 

「夏雲、どう………?」

「骨、折れていますね………。これじゃあ、続けるのは………。」

「い、いえ………まだ出来ます!」

「ちょ!?八丈!?」

 

右腕を固定して貰った八丈の信じられない言葉に、驚愕したのは雷。

八丈は左手で大楯を1つ持つと、マットの前に立つ。

 

「まだ、左手で訓練は出来ます!お願いします!」

「ダメよ!そんな状態で許可を出せるわけがないでしょ!?師匠命令よ!今日は中止!!」

「聞けませんっ!」

「えぇっ!?」

 

思わぬ反発の言葉に、雷は更に動揺してしまう。

八丈の目は、既に三日月を向いており、左手で大楯を構えていた。

明らかに常軌を逸脱した行動に、雷も夏雲も、そして三日月も信じられないような眼を向ける。

だが、八丈は本気だった。

 

「今まで、みんなに迷惑掛けていたんです!雷さんにも!だから………!」

「迷惑って………!」

「みんなを守れるようになれば………!今まで守って貰った恩返しができるんです!お願いします!続けさせて下さい!!」

 

八丈の目は純粋だ。

それ故に、「狂っていた」。

今の自分に出来る事を、最大限やろうとしている。

だが………だからこそ、周りが全く見えていない。

 

「う………!」

 

そして、それは平戸にも言えた。

彼女は無理に浮遊兵装を持ち上げようと脳に負荷をかけ続けた結果、鼻から大量の血を流し始めたのだ。

明らかに許容オーバーであるのは、目に見えている。

思わずここで、福江が介入した。

 

「八丈、それに平戸も!今日は、もう無理だ!これ以上やったって、上達しない!」

「もう少しでコツが掴めそうなの!邪魔しないで!」

「わ、私も………後少しで………!」

「そんな状態で、どうすれば進展がありそうなんだよ!?気持ちが空回りしているだけだろ!?」

「大丈夫だから!早く、強くなって………!」

「もっと………皆さんの………役に………!」

「……………。」

 

福江は一瞬だけ目を伏せると、平戸を診ていた沖波に来てもらうようにお願いする。

雷達は何事かと思ったが、福江が軽く沖波に耳打ちをすると、彼女は笑みを浮かべた。

そして、既に主砲を下ろし、撃つ気の無い三日月の隣まで移動すると、何と自身の主砲を構える。

 

「八丈さんは、訓練続けたいんだよね?」

「はい………!お願いですから………!」

「分かったよ。じゃあ………。」

 

左手で大楯を構える八丈に対し、沖波は一転して真剣な顔になる。

そして、迷わずトリガーを引き、ゴム弾を撃った。

 

「え?」

 

八丈は、一瞬呆気にとられる。

実は、今まで三日月の方は、初めての八丈でも弾きやすくするために、敢えて体では無く盾の方をずっと狙っていた。

しかし、沖波の狙いは八丈の眉間。

当然ながら意表を突かれた事で、八丈は弾く事も出来ずに脳を揺さぶられて海面を転がり、マットに叩きつけられて気を失う。

 

「お、沖波さん!何………を………!?」

 

沖波の行動に呆気に取られた平戸は、思わず彼女に近寄る。

だが、沖波は素早く平戸の腹に、抉るように拳を入れた事で、彼女もまた気絶させてしまう。

その昏倒した平戸を抱えながら、沖波は少しだけ寂しい顔をした。

 

「………福江。貴女、沖波に何を頼んだの?」

「荒っぽい方法でもいいから、2人を気絶させてくれってお願いした。」

 

夏雲と共に八丈を持ちながら、雷が福江に問う。

彼女は、口で言って聞かない2人の「暴走」を見て、沖波に実力行使で止めて貰ったのだ。

ここら辺は、サポート役として仲間には強気に出てもいいという、師匠である三日月の教えをしっかりと反映していると言えた。

勿論、罪悪感はあるらしく、罰のある顔はしているが。

 

「とりあえず、2人をドック入りさせないといけないけど………その後どうしようか………。」

「じゃあ、少し………みんなで一緒に話さない?」

「沖波さんと………?」

 

首を傾げる福江に対し、沖波は安心させるように、また笑みを見せた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

八丈は、夢を見ていた。

どちらかと言えば、悪夢に近い悪い夢。

改ル級の前で動けなくなっていた所で、雷が砲撃を浴びて傷つく夢だ。

実際には、過去に起こった事なので、トラウマとして思い返してしまっているとも言える。

 

(もっと、ハチが強ければ………雷さんも、こんな事にはならなかったのに………。)

 

八丈は悔しくなる。

顔や体に痕が残る程に傷つけられるという、女としての尊厳を捨ててでも、暴走した自分達を救いに来てくれた雷。

そんな優し過ぎる艦娘を、もう傷つけたくなかったのだから。

 

(強くなりたい………!強くなりたいのに………!)

 

やがて、夢から覚めて、八丈は………。

 

「ここ………は………。」

「気付いた?」

 

目を覚ました八丈の視界に入って来たのは、沖波。

ゆっくりと周りを見渡すと、そこは花畑であった。

 

「……………。」

「大湊警備府の傍の丘に、連れて来たんだ。ここならば、少し落ち着けると思って。」

 

身を起こした八丈の周りには、5人の海防艦の仲間達が居た。

皆、心配そうにしていたが、福江は少し憮然としており、平戸は落ち込んでいるようである。

この2人はともかく、何故他の3人………佐渡、能美、石垣もこの場所にいるのか、気になりはした。

 

「佐渡達は………。」

「連帯責任だってさ。今日はあたし達、みんなお休みだって。」

 

佐渡がため息を付くが、仕方ないと言わんばかりの表情であった。

だが、その言葉を聞いた八丈は、思わず目を見開く。

ゆっくりとだが、その顔は沖波へと向いた。

 

「沖波さんが………進言したんですか?」

「というより、私が決めたかな。」

「何で………何で!?」

 

八丈は、思わず声を荒げてしまう。

強くなりたいのに、沖波によって邪魔されてしまった。

怒りが爆発しそうになるが、彼女は表情を消して冷淡に告げる。

 

「雷さんが後悔していたよ、弟子にしたからだって。」

「っ!?」

 

グサリ………と八丈の心に刃が突き刺さる。

沖波の言葉により、血の気が引くのが分かった。

八丈が強くなりたいと思った一番の要因は雷の為だからであり、その雷を後悔させてしまっていると知ったのだから、無理はない。

頭が冷えた事によって、一気に自分の一連の行動の愚かさを自覚する事になり、恐怖で体が震えた。

また、自分は暴走してしまったのだ。

平戸が落ち込んでいるのは、同じ過ちに気付いてしまったからなのだろう。

だとしたら………。

 

「ハチは………ハチは、雷さんの弟子失格………なの………?」

「そこは、大丈夫だよ。私が、もう一度チャンスを上げて欲しいってお願いしたから。」

「沖波さんが………?」

 

優しく言う沖波の言葉に、八丈は意外な顔をする。

自分達の暴走を無理やり止めた沖波が、雷に頼み込むのが意外に思えたからだ。

その心を察したのか、彼女は少し寂しい顔をして言葉を紡ぐ。

 

「間違いなんて、誰だって犯すものなんだし、失敗だって、やらない人間はいないよ。」

「沖波さんは………怒って無いんですか?」

「アレくらい、可愛いものだよ。むしろ、八丈さんが怒っているのならば、謝るけれど………。」

「そ、そんな事ないです!」

 

慌てて手を振る八丈は、ここでハッとして自分の右腕や眉間などを確かめる。

ドック入りはして貰っているらしく、既に傷は治っていた。

 

「心配しなくても………八丈の傷は、ちゃんと治してくれている………勿論、平戸も………。」

 

石垣の言葉通り、平戸も鼻血は既に出ておらず、脳へのダメージは回復しているようであった。

しかし、こちらは八丈と同じく、雷を後悔させてしまった事に対して後ろめたい想いがあるらしく、俯きがちであった。

そんな平戸を気遣いながら、能美が沖波に問う。

 

「それで、沖波さん。私達をここに集めたのって、何か理由があるのですか?」

「たまには、こうしてみんなで、花畑でのんびりと過ごすのも悪く無いかなって思ったのと………。」

 

沖波はそこまで言うと、少し顔を曇らせる。

元々深い闇を抱えている海防艦達は、その表情に、何かの後悔がある事を本能的に悟った。

 

「そろそろ………みんなに話した方がいいと思ったんだ。私が守れなかった人の事を。」

「守れなかった………方ですか?」

 

ここで、平戸が思わず聞く。

沖波は頷くと、空を見上げる。

 

「「深崎 賢吾(ふかざき けんご)」。この大湊の前提督で………鈴谷さんの夫だよ。」

 

海防艦の6人は、初めて語られる話に………息を飲んだ。




福江を始めた艦娘からしてみたら、八丈や平戸の行動は暴走そのもの。
しかし、純粋に強くなりたいという想いから生まれた故に、前の暴走とは少し意味合いが違いますね。
心の空回り…アレだって経験がありそうです。

そして、これまでずっと伏せられていた、大湊の前提督の名前がここで登場。
沖波が「守れなかった」と告げる、鈴谷の夫。
この意味合いとは一体…?
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