大楯の雷   作:擬態人形P

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第6話 ~意表を突いた戦い~

抜錨した第九十九駆逐隊は、会話を交えながらそれぞれの意見や考えを提示していく。

しかし、その中で雷が30年も艦娘を勤めているという事を知った事で、海風が途端におかしな兆候を出し始めた。

 

違和感を覚える中、空母棲姫が戦う海域へとたどり着いた雷達は、単艦で奮闘して負傷した岸波を見つける。

そして、砲撃が炸裂しようとした瞬間、雷が大楯を駆使し、砲撃を弾き飛ばすという荒業を披露し、海風達を驚かせてしまう。

更に、竹が岸波を狙う敵母艦の動きを止める為に格闘戦を仕掛け、つられて春風が、そして雷も肉薄して戦う事に。

明らかに破天荒で無茶苦茶な事をしでかす面々を見た海風は、突如、補佐の不知火の前で戦意を喪失してしまう。

 

転籍しても旗艦なんてできなかった。

その言葉の意味とは………?

 

 

「海風、しっかりして下さい!旗艦であるあなたが………!?」

「無理よ………もう止めて!!」

 

明らかに精神状態が悪化している海風の姿を見て只事では無いと感じた不知火は、彼女を守りながらも、前線で戦っている春風に電探で問う。

 

「春風!海風が戦意を喪失しています!?自分には旗艦が無理だと言っていますが、何があったのですか!?」

「ええ!?そ、それは………。」

 

思わず言いよどむ春風の姿も合わせ、雷や竹も只事でない事を悟る。

かなり不味い過去があったのか、春風は言う事が出来ないらしく、代わりにこう述べた。

 

「不知火さん………代わりに指示を出してください。」

「答えになっていません!」

「言えないんです!察して下さい!!」

 

どうも春風にとっても、あまり触れてほしくない過去であるのか、動きが鈍くなり始める。

それが目に入った不知火は、雷に言った。

 

「雷、元はと言えば、貴女の破天荒な行動が全ての発端ですよ!」

「被弾しそうな艦を、守るなって言いたいの?」

「やむを得ない事情があるのは分かります。ですが、ケジメを付けて下さい。………情けないですが、私にはこの状況を改善する手段が閃きません。」

 

こちらも少し悔しそうな声音だったのが気になったが、雷は不知火の言葉にも一理あるだろうと思い、考えを巡らせる。

敵の白い肌の女は台座の上に立ちながら、ひたすら砲撃を放ったり攻撃機を飛ばしたりしている。

しかし、台座は白い肌の女の指示に従っているだけなので、早い話、上のその「本体」を仕留められれば早く撃沈する事が可能だとも思った。

 

「夏雲、岸波の応急処置は?」

「今、終わりました………!とりあえず大湊に戻るまでは大丈夫です………。」

「じゃあ、岸波のバックアップは夏雲で。早霜は海風のバックアップに回って。これで、不知火は動けるわね。」

「ですが、貴女達が離れないと………!」

 

3人がインファイトをしている状態では、不知火も支援が出来ない。

雷はそこで、今度は竹と春風に対し、冷静に質問をした。

 

「竹は、殴り合いは好き?」

「大好きだぜ。何だ?何か面白い策でも考えたのか?」

「じゃあ、投げ技は得意?」

「あ………いや、そっちは専門外だが………。」

「そちらならば、わたくしがある程度は出来ます!」

 

意外にも、春風が答える。

日傘による接近戦を好む上に、投げ技まで習得している彼女の過去も気にはなったが、雷はそこには触れず、皆に作戦内容を伝えた。

 

「ま、マジか………!?」

「本気ですか………!?」

「マジだし本気よ。手っ取り早いのはこの方法だもの。試さない手は無いわ。」

 

雷はあくまで明るく言うと、真っ先に動き出した。右肩の連装砲を、敢えて台座の上に乗っている白い肌の女………本体の方に撃ちながら、砲門の死角に当たる正面に回る。

 

「愚カナ………。」

 

ここで、初めて深海から響き渡るような女の声が聞こえて来たかと思ったら、空母棲姫は台座の顎を開き、雷を巨大な口で喰らおうとする。

意表を突いた攻撃。

だが、雷の方はそれを読んでいた。

 

「それを待っていた!」

 

ここで、雷は半歩だけ下がると、両肩の大楯を何と敢えて顎に挟ませ、つっかえ棒にしてしまう。

頑丈に作られた盾は、顎の圧力にミシミシと音は立てたが、壊れずに耐えた。

 

「竹!私を踏み台にして!」

「おう!雷さん、肩借りるぜ!」

 

そのまま身を屈めた雷の艤装などを足場にして、竹が一気に台座の上へと登る。

これは予想していなかったのか、空母棲姫の本体は一瞬驚くが、すぐに剛腕を振るい、竹を叩き落とそうとする。

 

「おっと!」

 

だが、竹は顔面に向けて振りかぶられた右フックを、軽く左手を下から突き上げる事で弾く。

すると、懐に潜り込んでお返しの右ストレートを抉り込むように腹に叩き込んだ。

 

「ガハッ!?」

「まだ終わらねぇぜ!!」

 

今度は、怯んで前かがみになりそうになった本体の顎に、痛烈なサマーソルトキックを喰らわせて台座の上に倒す。

そして、器用にそのままバク転をして体勢を立て直し、飛び込むように体の上に馬のりになると、その顔面に何度も何度も拳を叩き込んだ。

 

「オラオラオラオラオラァ!!」

「ゲァーーーーーーーーッ!?」

 

悲鳴を上げる空母棲姫は、何とか反撃しようと拳をでたらめに振るう。

これは下手に受けたら危ないため、竹は即座にステップを踏んで飛びのく。

 

「貴様ァーーーーーーーーッ!!」

 

散々殴られた挙句、綺麗な顔面を酷い姿に変えられた怒りからか、空母棲姫は起き上がると同時に渾身の右ストレートを叩き込む。

だが、その右腕の前で待っていたのは竹では無く、同じように台座の上に登って来た春風であった。

 

「たあああああああああああっ!!」

「ゴォオオオオオオオオオオッ!?」

 

その手首を掴むと共に、背中の艤装ごと後ろに倒れ込むようにすると、姫クラスの腹を蹴り上げ、思いっきり虚空へと投げ飛ばす。

敵のパワーと勢いを活かした巴投げ。

艤装のアシストも有り、巨大なはずの女は、台座から海面へと軽々と投げ出されて派手に着水した。

 

「不知火!今!!」

「了解………!」

 

大楯を台座の顎から無理やり外した雷の叫びを受け、本体の女が起き上がる前に不知火が左右の計8門の魚雷発射管を一斉に撃ちだした。

それは、女に全て炸裂し、猛烈な炎によって呑み込んでいく。

 

「ガ………ガァ!?」

「沈め………沈め!!」

 

焼け焦げた傷を付けながら、空母棲姫は夜空に手を伸ばしながら助けを求めるように悶えるが、不知火は容赦をしなかった。

陽炎型の改二艦には次発装填装置が供えられている者がおり、彼女達は即座に8発の魚雷を再度撃ち出す事が可能だ。

その為、計16発の魚雷を一気に叩き込む事が出来る。

当然ながら不知火は、丸裸とも言えるこの女に対して、絶好の機会を逃すわけが無い。

すぐさま妖精さんによって装填がされた魚雷発射管から、更に雷撃が飛び出す。

 

「ア………アァ………!?」

 

これだけの魚雷を受ければ、空母棲姫と言っても耐えられるわけが無い。

派手な爆炎に包まれた女は、断末魔のかすれた叫びと共に沈んでいく。

やがて、炎が収まった時、そこには何も残っていなかった。

 

「終わった………みたいね。」

 

周りを飛来していた攻撃機が次々とコントロールを失ったように墜落していく姿を見て、早霜は海戦の終わりを悟る。

すぐさま夏雲が、各艦娘達の状態を確かめようとするが、雷も竹も春風も大丈夫だと手を振った。

後は海風であったが、彼女は一連の海戦の流れを見て茫然自失になっている。

 

「大丈夫ですか?海風さん………。」

「何も………できなかった。私、やっぱり………!」

 

海面に手を突き、自分の不甲斐なさに涙を流す海風の姿を見て、夏雲は雷に対して恨めしそうな眼を向ける。

別に、指揮を担った事が悪いわけでは無い。

破天荒な行動であったとはいえ、岸波を庇おうと思った判断も完全に悪いとは言い切れない。

しかし、海風がこうなってしまったからには、不知火と同じく、しっかりとケジメを付けろと彼女は言いたかったのだ。

その意味が分かったのだろう。

雷は海風の前に来ると、両ひざを付いて目線を合わせると頭を下げる。

 

「ゴメンね………海風。落ち込む原因作っちゃって。でも、誰かを守る事は悪い事じゃないって事だけは覚えて欲しいの。だから………。」

「あー………それなら俺も悪かった。意見具申してから動けばよかったな。」

 

同じように竹も片膝を付き、頭を下げる。

自身の最善の行動であったとはいえ、いきなり格闘戦を仕掛けて艦隊のペースを乱してしまったのだから仕方ない。

釣られて動いてしまった春風も、思う所があるらしく、正座をして深々と頭を下げる。

だが、海風は誰の目を見る事も出来ない。

只、頭を抱えながら泣いていた。

 

「私なんかじゃ………やっぱり私は………!」

 

重症だと思った一同は軽く溜息を付き、残された空母棲姫の台座を見る。

主を失ったからか、機能は失われているみたいだが、それでも砲門やカタパルトが付いているのだ。

このまま放っておくわけにもいかない。

岸波も含めた、海風以外の7人は、即座に相談する事になった。

 

「………台座は「後始末屋」に任せる?」

「ここに放っておくのは危ないと思います。しかし、爆破するのも後始末屋に迷惑を掛けますよね………。」

「私達がここに待機しておくのは………。」

「それも得策では無いです………。岸波さんを早く入渠させないと………。」

 

ここでいう後始末屋というのは、深海棲艦の亡骸から発生した、戦場の「汚れ」や「穢れ」といった要素を綺麗に掃除するのが役目としている艦娘達の集まりだ。

「移動鎮守府」と呼ばれる鎮守府の機能を兼ねた船を動かし、深海棲艦や、場合によっては轟沈した艦娘達を弔う。

深海棲艦の穢れというのは厄介な物で、毒素が強いためか、肌に長時間触れていると、火傷に近いかぶれのような傷を負ってしまうのだ。

結局のところ7人は相談した結果、その危険な顎には雷の鎖付きの錨を巻き付けて固定。

そして、夏雲が持ってきていたドラム缶に入っていた備品の1つである、緊急用のロープを絡ませて大湊まで運ぶ事になった。

夏雲が岸波を支え、春風が海風を支え、竹が台座を引っ張っていく。

先頭に雷、台座の後方の左右に早霜と不知火が立ち、護衛をする事になった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

『……………。』

 

朝日が昇る頃、雷達は大湊警備府に戻る事になったが、当然ながら目を丸くする形で迎えられる事になる。

何せ、土産で巨大な深海棲艦の台座を引っ張って来たのだから、言うまでも無いだろう。

常識的に考えれば、台座を鹵獲する事など不可能に近いので、一体どんな海戦だったのか鈴谷達は唖然とする。

このざわめきは、警備府の人間の関係者にも広がる形になり、寝坊を決め込もうとした海防艦娘達はそのざわめきで起こされ………唖然としてしまう。

 

「何で………こんな事になってんだ?」

 

思わず悪態を突く事すら忘れた佐渡の言葉は、ある意味では鈴谷達を含めた皆の感想であった。

とりあえず、竹が夕張に台座をどうするのかを聞きながら、雷が責任を持って鈴谷に報告をする。

 

「第九十九駆逐隊、空母棲姫の討伐を完了し、第三十一駆逐隊旗艦である岸波の救助にも成功しました!」

「あ、ありがと………にしても、大漁?………だね。」

「まずは、岸波の入渠を!」

 

そこでようやく岸波の左腕が半分無くなっているのを見た鈴谷は、慌ててドックを指し示す。

赤城とアトランタ、夕張の3人は高速修復材(バケツ)によって、既に治療が終わっていたが、その劇薬が効かない体の長波と朝霜、沖波は、まだ入渠時間が1時間ほど残っていた。

残りの1枠のドックを岸波で埋めるのは悩む部分もあったが、幸い第九十九駆逐隊の面々が、「肉体的には」ほぼ傷ついて無かった為、素直に岸波に入って貰う事になる。

 

「ありがとう、助けてくれて。お陰で「私達」、無事で済んだわ。」

 

ドックに入る前に岸波は、赤城に支えられる形ではあったが、妖精さんに艤装を外して貰いながら雷達に感謝をしていた。

そして、ふと未だに項垂れている海風を見ると、覗き込むようにしながら労わるように柔らかく微笑み言う。

 

「………昔の私を思い出すわね。」

「え………?」

「寄せ集めの駆逐隊なんて、最初はこんなものよ。緊急で出たんだから、仲間達の特徴を理解していないのも当たり前。落ち込むことは無いわ。」

「でも………。」

 

海風は、旗艦の自信を喪失してしまっていた。

正直、先程の海戦を見て、艦娘履歴の豊富な雷に旗艦を譲った方がいいとすら思ってしまっている。

だからこそ、岸波は気にかけてくれたのだろう。

彼女は顔を上げると、雷達を見渡していった。

 

「ドックから出たら、改めて第三十一駆逐隊の皆で挨拶をさせて頂戴。感謝の言葉も伝えたいから。」

「分かったわ。」

 

海風の状態が状態である為、自然と外交担当になった雷が頭を下げると、岸波は笑顔で手を振りながら、赤城に連れられドックに入っていった。

 

 

こうして雷達の第九十九駆逐隊は、結成時の初戦を、無事に勝利を収める事に成功する。

只、前途多難とも言える滑り出しであるのは誰もが分かる事であった。




今回の話で出て来た「後始末屋」という用語は、「緋寺」様の
「後始末屋の特異点」という作品からお借りしました。
深雪が主役の面白い長編連載話なので、気になった方は下のURLから是非!

https://syosetu.org/novel/309478/

緋寺様、この場を借りてお礼を述べさせて下さい。
本当にありがとうございます!
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