大楯の雷   作:擬態人形P

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第7話 ~失った自信~

岸波の救援と空母棲姫の討伐に来た第九十九駆逐隊は、初の海戦を開始。

しかし、流れ的に仕方ないとはいえ、平然と大楯を使い岸波を庇いに行く雷、注意を逸らすために近接戦闘を仕掛ける竹、引っ張られる形で近接支援に回る事になった春風。

そんな破天荒な面々に振り回される事になった旗艦の海風は、何かしらのトラウマを刺激され、戦意を喪失してしまう。

 

打開策が見つからない補佐の不知火は、やむを得ぬとはいえ原因を作る切っ掛けになった雷に指示を求める。

その結果、仲間の個性を活かした意表を突いた策を披露して空母棲姫を撃沈する事に成功する雷であったが、兵装が乗った台座が残ってしまった。

 

海戦後に破天荒組の3人は海風に謝るが、彼女は茫然自失で項垂れたまま。

戦場の後始末を行う、後始末屋の苦労などを考えた結果、空母棲姫の台座は持ち帰る事になり、結果的に大湊で待っていた鈴谷達を驚かせる事に。

波乱の幕開けとなった第九十九駆逐隊の明日は、どうなるのか………。

 

 

「よーし、薬剤ぶっかけるぞー!」

「竹さん、穢れには気を付けて………!」

 

日が昇った頃、竹と夏雲は夕張の指示を受けながら、穢れを浄化する特殊な薬剤をホースから出して、空母棲姫の台座にかけていた。

本当は夜通し海戦をしていた為に、第九十九駆逐隊は休息をすべきではある。

しかし、曳航してきた以上、責任を持って深海棲艦の兵装の後処理はやらせて欲しいと、彼女達の大半………失意状態の海風以外が願い出る事になった。

そこで鈴谷が大本営に確認をした所、貴重なサンプル故に、後始末屋に台座をそのまま回収させる事が決定。

 

方針さえ決まってしまえば、ここからは工廠を担当する夕張がメインだ。

怪力の竹、専門の資格を持つ夏雲が手伝う形で、台座の洗浄を行い完全に鎮静化を行っている。

不思議な事に穢れさえとってしまえば、深海棲艦の艤装は働かなくなるという特徴を持っている為、こうして薬剤で無効化を果していた。

 

「凄いわね、貴女達。いいコンビネーションよ。組んでいる履歴長いの?」

「俺は只、力があるだけだよ、夕張さん。経歴も技術もある夏雲さんが凄いんだ。」

「た、竹さん………出会う人みんなに自慢しなくても………。」

 

妖精さん達と共にホースを運んで台座の全体を洗浄して回っている夕張の質問に、竹が自分の事のように喜び、夏雲は照れる。

しかし、夕張にしてみれば、夏雲が自分と同じ第一級工作艦技術者免許を所持していることは、謙遜すべきことでは無いと思っていた。

それだけ難しい資格ではあるし、培った技術を、海戦やこういう機会にしっかりと活かせているのは褒めるべきことである。

 

「雷さんも褒めてるんだから、もっと胸を張れよ、夏雲さん。」

「海風じゃなくて雷なのね。」

「経歴がぶっ飛んでるんだ。平然と30年戦士って自分から言ってる。」

「………マジ?」

 

夕張は驚くと共に、納得すらしてしまう。

社交的な雷は、旗艦能力を持つ海風や不知火から見ても、かなりの熟練者であるのだろう。

その分、驚くべき行動に出る事もあるらしいが、全ては30年の間に培った経験。

故に、海風は自分に自身を喪失してしまっているようにも思えた。

 

「海風は、どうするのかしら?このままだと旗艦交代が妥当だろうけど。」

「雷さんの………考え次第だと思います。でも、何故でしょうか………。もう一波乱ある気がするんですよね………。」

「もう一波乱?」

「そんな性格である気がして………。」

 

夏雲も20年と結構長い間、艦娘をやっているからか、何故か不安そうな顔をする。

とにかく、雷のこの先の行動に注目をする必要がありそうだと3人は思った。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「確認………良しっと。」

 

一方その頃、庁舎の執務室で艦娘提督である鈴谷に対し、何かしらの確認を行っていた雷は、いつも通りの笑みを浮かべながら出てくる。

そして、待たせたわね!………と扉の前に立っている2人の仏頂面の人物に挨拶をした。

 

「私達は………いる意味があったの?」

「部屋に戻っていた方が、効率が良かったのでは?」

 

早霜と不知火である。

実は部屋割りを決める際に、大湊警備府の都合で、3対2対2で分かれる事になったのだが、ここで雷は仲間達に有無を言わさず、自分の考えをパッと提示してしまったのだ。

その結果、雷&早霜&不知火、春風&海風、竹&夏雲となった。

尚、海風の容態が容態なので、春風と共に彼女達には、先に部屋で休んでもらっている。

 

「私達と一緒に寝たがるなんて………貴女も物好きなのね。」

「スキンシップは必要でしょ?実力があるのに日常生活においてコミュ障なのは、納得いかないもの。」

「……………。」

 

ハッキリとコミュ障と言ってのけた事で、不知火が閉口する。

無論、列車の時から任務以外の時は、意図的に人を避ける傾向が2人にはあったので、それぞれ自覚はあるのだろう。

そして、「その状態に至る事になった経緯」も。

只、艦娘が人間時代の過去を詮索するのは、御法度だ。

だから、雷は「2人に対しては」詮索をしない。

その代わり、今からは仲間なのだから、しっかりとスキンシップを取って貰おうと無理やり会話の輪に入れようとしていた。

 

「流石に艦娘になる前に何をやっていたのかは聞かないけれど………、それでも語れる事はあるでしょ?好きなアーティストとか好きな曲とか。」

 

そう言って庁舎を出ながら、雷は自分の好きな音楽について喋り始める。

中には艦娘でありながらアイドルの側面もある、「那珂(なか)」や「桃(もも)」がカバーしたような曲も出してくるのが密かに凄い。

只、早霜も不知火も興味が無いのか、黙ったままだ。

 

「もう!相槌くらいうってよね!まずは、そういう所から練習!」

「そう言われても………あ、あの子達は………。」

 

早霜の視線の先を見てみれば、そこには秘書艦である熊野に叱られている、佐渡を始めとした海防艦娘達。

彼女達は素知らぬ顔で、相変わらずカードゲームに準じている。

早朝訓練もサボる気満々であった。

 

「そういえば早霜、前もあの子達の事、気にかけていたわよね。」

「え………?そうかしら………?」

「別に今、貴女の過去に深入りする気はないけれど………あの子達って、どうしてあんなに反抗するのかしらね?」

「………それこそ、あまり深入りしない方がいいのかもしれないわ。」

 

早霜は、視線を外し宿舎の方へと歩いて行く。

雷は最後の台詞の意味を少しだけ考えたが、横目でそっと不知火を見る。

彼女は複雑そうな表情で、下を向いていた。

 

「ま………いっか。行きましょう、不知火。」

「ええ………。」

 

雷達は、早霜を追って行った。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

宿舎の部屋は、基本的な設備はそろっている。

2人部屋にはベッドにテレビにタンスに机に椅子。

3人部屋は畳だが、しっかりと布団を敷ける空間が広まっていた。

本来ならば、自分の荷物を整理しないといけないのだが、列車が爆撃を受けた際に日用品は吹き飛んでしまっている。

自分の元いた場所から海路で届くまでは小道具も無いので、部屋の中では暇で仕方なかった。

 

「制服や寝間着を準備して貰えるだけ、まだいっか。下着も新品の物を選べるみたいだし。」

 

服に関しては、妖精さんがオーダーを取って即座に裁縫をしてくれるので、どうにでもなるのが救い。

寝間着や下着は、その気になればサイズや種類だけでなく、色なども自由に選択できる。

ここら辺は、女性としてのオシャレをある程度は気を配ってくれているのかもしれない。

 

「ちなみに2人は、下着は何色にする?」

「それは、答えないといけないのですか?」

 

思わず軽蔑な目を向ける不知火と早霜に対し、雷は即座に、やーねぇ冗談よ!………と言うが、何処まで本気か分からない発言も、スキンシップの為ならば平然とするらしい。

正直、2人にしてみれば、雷は掴み所が無い娘だと思った。

これも、30年の艦娘歴で培った話術なのかもしれないが………。

 

「これじゃあ、海風や春風もすっきりしてないわね。ちょっと話に行こうかしら?」

「眠っていると思うのだけど………。」

「あんなことがあったんだから、眠れるわけ無いわ。とりあえず、気分を和ませに行ってくるわよ。………というか、折角だから付いて来て。」

「はあ………。」

 

結局のところ雷に引っ張られる形で、早霜と不知火は付いて行く事になってしまう。

雷は鼻歌混じりに部屋を出て、隣室へ。

コホンと咳ばらいをすると、そっとノックをした。

 

「春風、海風………いる?」

「はい………。」

 

部屋から若干落ち込み気味ではあったが、春風の言葉が返って来た。

雷は海風に会いたいとストレートに直訴するが、春風が遠慮がちに否定しようとする。

しかし………。

 

「雷、入ってもらってもいい………?」

 

弱々しい海風の声が聞こえた事で、雷は扉を開ける。

部屋は入り口から見ると左に二段ベッドが有り、右に簡素なテーブルとタンス、テレビが置いてある感じだ。

奥には窓が開いていて、その前に机と椅子。

春風はテーブルの所の椅子に腰かけており、海風は窓辺の椅子に座りながら俯いていた。

 

「あの………椅子を。」

「ああ、大丈夫よ別に。それよりも海風。体調は大丈夫?」

 

雷の言葉に、海風は首を縦に振ろうとして………しかし、一瞬躊躇した後、横に振った。

その手はガクガクと震えており、未だに前の海戦を………いや、もっと言えばその前に起こった「何か」を気にしている様子である。

 

「随分、気にしているわね。繰り返すけど、人間も艦娘も誰でも失敗はするものよ?別に「致命的な」ミスじゃなかったんだから、次への励みにすればいいじゃない。」

「次が………あるのでしょうか。」

 

堂々と言ってのける雷の姿ではあるが、海風の声音は落ち込んだまま。

春風も心を痛めているようであったが、部屋の入り口で待機している早霜と不知火は、雷の言葉に少し違和感を覚えた。

致命的なミスとわざわざ言ってのける、その姿はまさか………。

しかし、その意図まで読み取る余裕が無い春風が、せがむように雷に告げる。

 

「あの、雷さん。申し訳ありませんが、海風さんを休ませてくれませんか?彼女は疲れているから………。」

「悪いけど、そうはいかないわよ。今回の海戦、確かに私は貴女に迷惑を掛けたわ。でも、同時に海風は戦意を喪失して、不知火達に迷惑を掛けた。違う?」

「た、確かにそうですが、でも………。」

「それに関しては、春風も同じよ。不知火の質問に、何で答えられなかったの?察してくれと言われても、組んだばかりの人達が察する事なんて出来ないじゃない。」

 

正論を告げられた事で海風は勿論、春風も閉口してしまう。

30年艦娘をやっている雷は、決して甘くはない。

厳しい事も、平然と言ってのける。

無論、それは第九十九駆逐隊を思っての事であったが、ズケズケと言ってしまうその姿は、艦隊のお母さんと軽い調子で言った言葉に相応しい物のように思えた。

だからこそ海風は、ぼそりと雷に向けて喋り出す。

 

「雷は………旗艦経験はあるの?」

「一応、あるわよ。30年もやっていれば横須賀で旗艦は勿論、「嚮導艦」の経験もあるわね。」

 

嚮導艦というのは、簡潔に言ってしまえば艦娘として艦隊の指揮をとるだけでなく、随伴艦の面々を鍛える役目を持った、指導を行う艦娘の事だ。

本来ならば水雷戦隊の頭である軽巡クラスが担当する事が多いが、駆逐艦でも担当する者はいる。

そして、優れた嚮導艦によって鍛えられた艦娘達は、優れた艦隊として深海棲艦に立ち向かえるだけの実力を伴うのだ。

故に雷は、それだけの実力を持っていると自分の言葉で証明したようなもの。

少しだけ目を細めると、懐かしむように言う。

 

「ま………「そこに至るまでに」、酸いも甘いも色々あったわね。」

「私は………旗艦としても嚮導艦としても、自信が無いわ………。」

 

あくまで雷の目を見られない海風は、相変わらず膝の上に置いた手をわなわなと震わせている。

そこにあるのは悔しさか、悲しさか、それとも………。

 

「それは、「海風」だから?」

「………それもあるかもしれない。」

 

海風という艦は、ソロモン海で何も出来なかった経歴がある。

そうした面も、海風という艦娘に影を落としているのかもしれない。

だから、海風はこう言った。

 

「雷………お願いがあるの。第九十九駆逐隊の旗艦を代わってくれない?」

「旗艦の役目を放棄するの?」

「私には無理よ。貴女は実際に、空母棲姫との海戦でその実力を発揮してくれていた。」

 

雷は個性的な面々を纏め、すぐさま30年の経歴を持つ艦娘としての実力を見せつけた。

旗艦に相応しいのは、誰がどう見ても雷だ。

海戦後からずっと痛感している海風は、顔を手で覆いながらも告げる。

 

「お願い………私に代わって、旗艦をやって。」

「………本当にいいの?」

「ええ………。」

 

雷は呆れたように腰に手を当てながらも、海風から旗艦を譲渡された事に、少しだけ笑みを浮かべる………あくどい笑みを。

それこそ、まるで「その言葉を待っていた」かのように。

 

「じゃあ………旗艦として最初の命令をしないといけないわね。」

 

ニヤリと笑った雷は、海風を見下ろしながらハッキリと告げる。

そして、その内容はとんでもない物であった。

 

「海風!今から私と「決闘」をするわよ!」

「はい………え!?」

 

ここで、思わず海風は顔を上げて初めて雷の顔を見た。

春風も早霜も不知火も驚いた顔だ。

 

「旗艦として、甘ったれた事を言う艦娘の根性は、すぐにでも叩き直してやらないといけないもの!」

 

雷の宣言に、全員が絶句してしまっていた。




海戦パートを終えて日常パートに入ったかと思いきや、即座に決闘パートに。
艦娘30年の経歴を持つ雷には何かしらの考えがあるのだと思いますが、その真相は?
次回以降もお楽しみください。
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