「はぁ……まいったね」
旅人の国の中にあるマキナタの街を少し東にいった所にある沼地。
そこに住み生命の研究をしているセンは困っていました。
天気も良いので研究に必要な生物の骨を探しに出かけた……までは良かったのですが。
「骨になる前の人を見つけるとは」
そう言ってため息を付いたセンの前には一人の男性が横たわっていました。
センが座り込み、息などを確認するとまだ生きているようです。
そして外傷などの怪我などがないかを確認していきました。
(行き倒れか?……しょうがない)
怪我はなく、息もありますが意識はありません。
センは何度目かになるため息を付いた後、懐からコードの付いた笛を取り出します。
そしてすぅっと一息吸い込んだ後に笛を吹きました。
(病院はどこにあったかな)
沼地にセンの吹き込んだ笛の音が響き渡ります。
その音色は音楽と言ったものではなりません。
一定のリズムで心音の様に規律正しく流れていきます。
そしてその心音の様な音色につられたのか様にセンの後ろで大きな影が動き出しました。
And now…
(そして現在)
「なんだこれ」
「わーっ!」
東の沼地に二人の客が訪れました。
一人は癖毛のある真っ赤な髪の毛を持つハクメイ。もう一人は綺麗な真っ黒い髪の毛のミコチ。
どちらも女の子です。
そんな二人は東の沼地の変わりはてた姿に驚きます。
前までは大きな沼地が広がっており、その沼地を覆い隠す様に生えた木々のせいか薄暗い場所でした。
他の場所では味わえない不思議な雰囲気を味わえると評判です。
もっとも骨だけの大きな魚を見たとか、その骨に食われた女の子がいるとか不思議な噂も絶えませんでしたが。
「素敵ね!」
「あぁ……とても美味しそうだな」
しかし、現在の沼地と言えば様子が違いました。
一部分ですが木々が切り開かれて日光がさんさんと迷い込むようになっています。
その恩恵を存分に味わってるのが、二人が目にしている大きな畑でした。
「センの畑かしら?」
「そうなんじゃないか?ほら、畑を囲む柵が……」
「あぁ……そうね」
「センスが……な」
その畑を囲むような柵を見て二人は畑の主が誰なのかを察しました。
一見、真っ白い色づけされた柵に見えますがよく見ると先っぽが丸っこく二つに分かれています。
誰がどう見ても骨です。それが柵として使われていました。
この独特なセンスを持つ人はセンしか居ません。
不気味な雰囲気の沼地に突如現れた大きな畑、しかも周りを囲むのは骨の柵。
「ホラーだな」
「ホラーね」
二人の意見は見事に一致しました。
むしろ二人以外の意見も一致する事でしょう。畑泥棒でさえ、この畑から盗もうとはしないでしょう。
「でも実ってる野菜は美味しそうだ」
「それは同感ね。質も良さそうよ」
「センに言って分けて貰おう!」
「もう!ハクメイ、そっちが目的じゃないでしょ」
「友達に会いに来て一緒に美味しい物を食べる。最高じゃないか」
「はぁ……」
「行こう!ミコチ!」
目を輝かせたハクメイがミコチの手を引っ張って走り出します。
目的地は友人の家――沼地に浮いている大きな亀の骨の家でした。
「おーい!セン!いないかー?」
「セン、遊びに来たわよ」
亀の甲羅に取り付けられた扉をドンドンとノックします。
それと同時に大きな声で来訪を告げました。
研究者なセンのこと、少しばかり騒がしくしなければ研究に没頭して気付かないことでしょう。
二人は暫く待った後にもう一度扉を叩こうとした時でした。
「――開いてるよ」
「おっいた」
「お邪魔するわね」
扉の向こう側から愛想のない、それでいて落ち着いた声が聞こえてきました。
センの声です。二人は顔を見合わせるとそのまま遠慮なく扉を開けます。
「よぉ!遊びに来たぞ!」
「お久しぶりね」
「うん?……そんなに会ってなかったかな?」
「ここ二か月ぐらい会ってないわよ」
「んー……そうだったか」
扉を開けると椅子に座り込んで本を読んでいるセンが居ました。
真っ白い髪の毛を全て後ろに流し結んでいます。
そしてその頭の上には黒い種帽子、何時ものセンでした。
そんなセンはミコチの問いに対して不思議そうにカレンダーを眺めました。
どうやら時間の流れに置いて行かれていたようです。
「なぁなぁ!セン!あの畑ってセンのだろ?食べていいか?」
「はぁ……もう」
「ハクメイは相変わらずだね」
友達との二か月ぶりの再会に花を咲かせているとハクメイが身を乗り出してそう言ってきます。
そんな問い掛けにセンは気を悪くした様子もなく、少しばかり天井を眺めて考え込みました。
ハクメイとミコチはしばしの間、静かにセンの横顔を眺めます。
「まぁ……構わないと思うよ」
「おぉー!……おー?」
「構わないと思うって、あれってセンの畑じゃないの?」
センからの答えに一瞬目を輝かせたハクメイとミコチでしたが、彼女の答えが少しおかしなことに気付きました。
物言いからしてどうもセンの畑ではなさそうなのです。
「うん。いつの間にか出来てたね」
「いつの間にか?」
「うん。いつの間にかね」
ミコチが聞き返すとセンが何でもないとばかりに頷き返します。
行き成り家の前に畑が出来れば誰とて驚きすると思いますが、センの興味は薄そうです。
「まじか。あの柵のセンス的にセンのだと思ったのに」
「あぁ……あれはアタシが作った」
「それは良かった。良かった?」
センの答えにますます訳が分からなくなってきました。
今までの話の流れをまとめると『畑はセンが作った訳ではない。いつの間にか出来ていた』『センはその事に興味がない?不思議や不気味に思っていない』『畑の柵を作ったのはセンである』となります。
取り合えず、センの様なセンスを持った人が新たに現れたという事ではない事に安堵しました。
「中々に不思議な……犯人は誰だ」
「ホラーと思ったけどサスペンスっ!考えられるのは――」
「同居人」
「「犯人は分かっていた!?」」
ハクメイが腕を組んで犯人捜しをしますが、あっさりと見つかりました。
センは読んでいた本のページを捲りながらバラしたのです。
これには一緒に考えていたミコチも驚きます。
「って同居人?」
「そんな人居たの?」
「んー……まぁ、成り行きと言うか。何と言うか」
「どんな人なんだ?」
センの口から思いがけない言葉を聞いて、ハクメイとミコチは二人してずいっと身を乗り出します。
そんな二人の圧のせいか、センは横に体を反らして少し恥ずかしそうに頬を染めました。
「あれか……ミコチにとっての私みたいなものか?」
「女性?もしかして男性?」
「っ!と、とりあえず落ち着きたまえ!」
ずいずいと身を乗り出して聞いてくる二人にセンもたじたじです。
センには珍しくあわあわと慌てて両手を使い二人の顔を押し返しました。
「はぁ……はぁ……」
「ごめんなさい」
「いやー気になって」
「説明はちゃんとするから」
「ごほん。で、どんな出会いだったんだ?」
「昔からの友人?それとも新しく出来た友人かしら」
「……」
身を乗り出さなくなった二人ですが興味はまったく尽きてないようです。
センは何とも言えない表情で一度目を瞑ると、ため息をついてから立ち上がりました。
そして椅子にかけていたマントを着込むと歩き出します。
「どうせなら会いに行こうか。そっちの方が説明もしやすい」
そう言って扉を開けました。
「わぁ……!」
「おぉー……外から見た時も凄かったが、中に入ると更に凄いな」
「……見ないうちにまた広がってる」
三人は畑の柵を超えて中に入っていきました。
そこは外で眺めた時よりもあふれんばかりの綺麗な光を纏っています。
キャベツなどの葉類はより緑濃く、赤いイチゴはみずみずしく真ん丸に。掘り起こされたばかりの土の付いたジャガイモは実がしっかりしており美味そうです。
ミコチはすぐに野菜に近寄ると一つ一つしっかりと品質を見極めていきます。
そんなミコチとは対照的にハクメイは涎を垂らしながら、どれが一番美味いのかと考えました。
センと言えば、足を伸ばして何処に捜し人がいるのかと目を細めます。
「ふむふむ、これ良さそう」
「なぁなぁ、これ食べてもいいか?」
「いいんじゃないかな?少なくとも何時も腕いっぱいに抱えて帰って来るし、駄目と言う事もないだろう」
「なら一個だけ」
「あっ……私も!」
辺りを見渡して探していましたが、野菜の背が高く背伸びした程度では遠くは見通せません。
センは伸ばしていた足を戻して一息付きました。諦めました。
そんな横でハクメイとミコチはどれを食べようかと辺りを見渡します。
「生でがぶっといけるのはイチゴだな」
「そうね。どれにしようかしら?」
「手前にはいないようだ。奥で作業してるのか?」
辺りを見渡すも人の影一つもありません。
「これにしよう。ミコチ」
「うん、これが一番美味しそうね」
センが同居人の居る所に辺りを付け終わったのは、二人が今まさに最高の一個を見つけてナイフでイチゴを切り取ろうとした時です。
まさにすきっ腹に恵みの一粒が収まる時、そんな時にセンが二人に無慈悲な言葉を告げました。
「そういえば……イチゴで思い出した。同居人が言っていたんだが、畑の中央にある物の方が熟していて品質も最高なんだそうだ」
「……」
「……」
「……食べないのか?」
「が、我慢する」
「な、なんか……すまない」
センの言葉にハクメイとミコチはすごすごと手を戻しました。
そしてハクメイのお腹がぐーっと鳴った所で邪魔してしまった事に気付いたセンが小さく謝罪します。
「お腹を満たす事も含め、もう少し奥へと行こうか」
「おぅ……」
「そうね。ハクメイも限界が近そうだし」
そう言って申し訳なさそうにセンは畑の奥へと歩き出しました。
「お腹の足しになるか分からないけど、先ほどの質問に答えるよ」
「質問?」
「ほら……どうしてとかの」
歩きながら奥へと向かう途中で話題は、ようやく同居人の話に戻ってきました。
ハクメイはお腹が空いているせいか、ぐったりとした様子でふらふらです。
ミコチはそこまでお腹が空いてないか、目を輝かせて見を乗り出します。
「どうやって出会ったの?」
「落ちてたから拾った」
「お、落ちてた?」
「行き倒れか」
「そうだね」
行き成りの出会い方にミコチは驚きます。
もっとロマンチックな出会い方を考えていたのかも知れませんが、ハクメイは至って普通の事だとばかりに当たりを告げました。
流石元旅人です。昔に行き倒れたことがあるだけあります。
「病院に連れて行ったのだけど問題があってね。そのせいもあり、居候させているんだ」
「問題?」
「一言で言えば別の大陸から来た人らしい」
「別の大陸ってケイとかハルハンか?」
センの答えにハクメイが指を一つ一つ曲げて他の国の名を挙げていきます。
しかし、センはその答え全てに首を横に振るうのでした。
「もう国が残ってないぞ」
「そうよね……他に大陸ってあったかしら?」
「うむ……彼はアタシ達が知っている大陸全てに知らないと答え、全く聞いたこともない大陸の名を挙げた。少なくとも彼の中の常識ではそうなってるらしい」
そう言って話を畳むセンにハクメイとミコチは顔を見合わせて不安そうな表情をしました。
それもしょうがないことでしょう。
何せ、そのセンが拾った人物は旅人の国のヒノチに居ながら『ヒノチと言う大陸は知らない。自分の知ってる大陸はこうだ』と言っているのです。
「なぁ、その人大丈夫なのか?言い方悪いが気が……」
と思っても仕方がないです。
そんな人物と一緒に暮らしていてセンは大丈夫なのかとハクメイとミコチは友人として不安になりました。
しかし、センは二人の不安そうな表情を見て小さく笑いました。
「二人が不安になるのもしょうがないことだし、心配してくれるのも有難い。しかし、アタシは少なくとも彼の頭は正常で本当の事を言っているのだと思ってるよ」
「……」
「……」
「何せ……彼は――」
センは何の迷いもなくそう言いきりました。
その時の彼女の表情は綺麗な微笑みで、同姓であるハクメイとミコチでもドキッと胸が高鳴るほどのものです。
センの口からの情報だけでは胡散臭い人でありますが、その人に対してしっかりとした信頼が見てとれました。
そして、センの表情には他の感情も含まれていそうです。
「センはその人の事……」
「――っと、居たね」
ハクメイがセンの表情がどういう感情ものか言い当てる直前で目的の人物を発見してしまいました。
その事でセンの表情の答えを知る機会がなくなります。
「な、なんだこれ……」
「すっごい……」
「ふふっ……凄いだろ。アタシもこれを見たときは驚いたよ」
センの話や表情が気になりすぎてハクメイとミコチは周りの風景が徐々に変わっていってることに気づかなかったようです。
そのお陰といいますか、二人を驚かすには十分な結果となりました。
ハクメイ達の前に現れたものは楽園でした。
色とりどりな野菜達は自ら輝き宝石のように思えるほどです。
入り口にあったものと品質が違うとはっきりとわかります
「こ、これって全部野菜なのか?」
ハクメイは目の前の光景に開いた口が塞がりません。
「……すごい、凄い!ハクメイ!これ全部!全部っ!」
ミコチは料理人と言うこともあり、目の前の光景がどういったものなのかを正しく理解します。
そして興奮を抑えきれなくなってその場でぴょんぴょんと跳び跳ねます。
「ようこそ、ハーベストムーン牧場へ」
そんな二人へとセンは振り返るとスカートの裾をつまみ上げて芝居じみた動きでペコリとお辞儀をしてそう言いました。
そして顔をあげたと時の表情はとても綺麗なものでした。
クロスオーバーの時は原作名は主人公と世界観のどちらなのだろう?