殺意を込めて 作:人間の業
寒さが和らぎ、世界に色が戻り始める頃。
植物たちは青々と茂り、温かさと明るさを強く感じる。
秋や冬特有の、色素の薄い雰囲気も好きだし、春や夏の生命の誕生と表現するべき雰囲気も好きだ。四季のうちどれが一番好きかなんて選びようが無い。
日光を浴びて目を覚まし、いつも通りの準備を終え、新しい場所に向かう。
今日は、入学式。新たな生活の始まりを祝う日だ。
「入試の時も思ったけど、ほんとにデカイなぁ……」
目の前にあるのは本当に校門かと疑問が浮かんでくるほどの巨大な門。
この門をくぐる事が出来るのは、倍率300倍という馬鹿げた狭き門を通り抜けた限られた人間だけだ。
あくまで、ヒーロー科の倍率ではあるが。
そんな事を考えながら、校舎の中に入っていこうとすると、背後から声がかかる。
「――やっぱり受かってたんだ」
「その声、久しぶりだね。耳郎」
紫がかったショートボブ、その隙間から伸びる長い耳たぶ。制服に身を包む、耳郎響香の姿がそこにあった。
「制服、似合ってるね」
「ありがと、そういうアンタも似合ってるよ」
あの時は運動着姿だったし、制服姿を見るのは初めてだ。容姿を褒めて悪い事は無いって誰かが言ってたはず。
「良かったよ、耳郎が受かってて。一人じゃちょっと心細かったんだ」
「あの時はありがと。おかげで合格させてもらった。あれが無きゃ、レスキューPが足りなくて落ちてたよ」
話しながら教室へ向かう。
「きっかけは僕だったかもしれないけど、それをやると決めたのは耳郎だ。ちゃんと実力が現れただけさ」
「……なんか、ほんとにアンタも学生?」
「……それどういう意味?」
適当に会話を続けながら歩いていると、1-A教室の扉が見えた。これもまたデカイ。
「ここだね」
「……ドアでか」
「わかる」
バリアフリー意識か、異様にデカいドアを開けて中に入っていく。
「おはよー」
「おはよ」
とりあえず挨拶はするが、誰一人見覚えは無いし、返ってくる気がしない。中学の時は友達一人もいなかったし、人との距離感がまるで分からない。
僕の学園生活、割と不安しかないな。
「耳郎が僕の
「頭おかしくなった?」
「ごめん、なんでもない」
チラと黒板を見ると、席順が貼られている。書いてある名前を見る限り、出席番号順のようだ。
耳郎とは少し離れた場所になってしまったが、まあ仕方ない。自分の席に着き、荷物を整理する。
「なあ」
「んお?」
鞄の中身を机の中に突っ込んでいると、声がかかる。自分から声をかけるのは迷っていたのでありがたいと思いつつ顔を上げる。
「アンタ、入試の時にゼロポイントぶっ飛ばしてたヤツだよな」
「……まあ、一応ぶっ飛ばしはしたけど」
どうやら同じ試験会場だったらしい。逆立った真紅の髪、非常に特徴的ではあるが、耳郎以外覚えてない。
「やっぱり受かってたんだな! いやー、あの一撃がめちゃくちゃカッコ良くてよォ! 全身鳥肌もんだったぜあれは!」
そう言って、ニッと笑う。ギザギザとした歯が見えるが、恐ろしさは感じない。むしろ清々しいような気分にさせられる。
「俺は切島鋭児郎! こんなスゲェヤツと一緒に学んでいけると思うと今から楽しみだ! よろしくな!」
「僕は厭憎忌。僕も、君みたいな明るい人が話しかけてくれてホッとしてるよ。こちらこそよろしく、切島君」
高校三年間ボッチ生活はこれで免れたも同然。寂しくなったら取り敢えず耳郎か切島の所に行けば何とかなるはず。
差し出された手を握ると、向こうも更に強く握り返して来る。これが友情ってやつか……。良いものだ。
「――お友達ごっこしたいなら他所へ行け」
教室の外、ドアの向こう側に見える寝袋。
中から顔を出した男は、ゼリーを取り出し、一瞬にして飲み干す。
「ここは、ヒーロー科だぞ」
この場にいるほとんどは初対面。だけど、その一瞬だけは全員が同じことを思ったはず。
(((なんか!!!! いるぅぅ!!!!)))
「ハイ、静かになるまで8秒かかりました。時間は有限、君たちは合理性に欠くね」
寝袋の男はそのまま立ち上がり、のそのそと中から出てきた。
「担任の相澤消太だ、よろしくね」
このくたびれた男が、僕達1-Aの担任らしい。
「早速だが、
そう言って人数分の体操服を教卓に置き、どこかへ行ってしまった。
「なんか、ほとんどわかんなかったけど、凄かったな…」
ポツリと呟いた切島の言葉に、全面的に同意した。
◇
「「「個性把握……テストォ!?」」」
グラウンドに出て相澤先生から告げられたのはテストだった。
「入学式は!? ガイダンスは!?」
「ヒーローになるならそんな悠長な行事出る時間ないよ」
疑問の声に、先生はサラリと答える。
「雄英は“自由”な校風が売り文句。そしてそれは“先生側”もまた然り。中学の頃からやってるだろ? “個性”禁止の体力テスト。国は未だ画一的な記録をとって平均を作り続けている。合理的じゃない。まぁ、文部科学省の怠慢だよ」
そこまで言い切ると、先生は僕の方へ視線を向けた。
「入試1位はお前だったな、厭。中学の時、ソフトボール投げ何mだった?」
「58mです」
「じゃあ、個性を使ってやってみろ。円から出なきゃ何してもいい。思いっきりな」
「分かりました」
先生から機械製の球を渡され、円の中に入る。
改めて見ると、校庭も意味のわからない広さをしている。これなら、割と強めに投げても問題なさそうだ。
思いっきりと言われた手前、ある程度は強く投げないといけないだろうが、個性を強めすぎると副作用が出てしまう都合上、全力は難しい。
少しだけ、軽めに。
全身の強化で土台を作り、耐えられる限界まで腕を強化。あとはそのまま、投げるだけ。
「よい、しょッッ!」
砂埃を巻き上げながら、球は凄い勢いで飛んでいく。
「まず、自分の「最大限」を知る。それがヒーローの素地を形成する合理的手段」
先生が見せてきた手元の端末には1306.8mの文字が表示されている。
「なんだこれ! すげー
「1km越えってマジかよ!!」
「個性思いっきり使っていいんだ! さすがヒーロー科!」
沸き立つクラスメイト。
今まで個性をほとんど使えなかった環境からこうなれば、盛り上がるのも当然か。
「……。面白そう…か」
ボソリと呟いた先生の雰囲気が変わる。なんだか、凍てついたような、圧を感じる。
「ヒーローになるための三年間、そんな腹づもりで過ごす気でいるのかい? …よし、トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し、除籍処分としよう」
「「「はああああああ!?」」」
先生の口から飛び出した、除籍処分の言葉に生徒たちは阿鼻叫喚。
「生徒の如何は俺達の“自由”。ようこそこれが――」
背筋がゾクリとする。
「――雄英高校ヒーロー科だ」
嗚呼、なんともまあ、面白くなってきた。
自然と、口角が上がった。
早速感想来てて泣いた。
ありがてぇ……