殺意を込めて 作:人間の業
昨日は初日から非常に充実していた。
正直なところ、入学式やらガイダンスやらを受けているより、よっぽど楽しくて有意義な時間になったと思う。
そして、初日が楽しかったという事は、次の日の期待もそのまま継続している訳で――。
「んじゃ次の英文のうち間違っているのは?」
……。
「おらエヴィヴァディヘンズアップ盛り上がれ――!!」
めちゃくちゃ普通だった。
まぁ、全部の授業が楽しい訳も無いか。勉強に関しては高校生の範囲は全て予習してあるため、授業の内容も復習みたいなもので面白味には欠ける。
だからこそ、予習のしようが無い授業が楽しみな訳であり――。
「わーたーしーがー!!」
――その授業こそが、午後の授業であるという訳だ。
「普通にドアから来た!!!」
「HAHAHAHA!!」と高らかに笑い声をあげて教室に入ってきたのは日本が誇るトップヒーロー、オールマイト。その圧倒的なまでの存在感に肌がひりつく。
「オールマイトだ……! すげぇ、本当に先生やってんだ……!」
「
ヒーローを志す者であれば誰もが憧れを抱く事になるであろう存在。そんなオールマイトの授業を受けられるとなれば、クラスメイト達がざわめきだすのも無理も無い。
「――ヒーロー基礎学! ヒーローの素地をつくる為様々な訓練を行う課目だ! 早速だが今日はコレ! 戦闘訓練!!」
最初から非常に楽しみな課目だ。
救助もさる事ながら、ヴィランとの戦闘もまたヒーローの花形。オールマイトの言葉を聞き、教室のボルテージが上がっていく。
「そしてそいつに伴って……こちら!」
オールマイトの言葉に反応するように、教室の壁が動き出す。
「入学前に送ってもらった『個性届』と『要望』に沿ってあつらえた……
「「「おおお!!」」」
盛り上がりは最高潮。今すぐにでも駆け出したいとばかりの熱気が教室を支配する。
「さあ、着替えたら順次グラウンドβに集まるんだ!!」
「「「「「はーい!!」」」」」
そう言って、オールマイトは一足先に教室を後にした。
僕たちは、それぞれのコスチュームをせり出てきた壁から取り出して着替えていく。
僕のコスチュームは着替えるのにほとんど手間がいらない。さっさと着替えてグラウンドに向かった。
◇
「さあ! 始めようか、有精卵共!! 戦闘訓練のお時間だ!!」
グラウンドβに着くと、そこは見覚えのある街並み。
「入試の時と同じ演習場……」
「みたいだね。あと、そのコスチューム似合ってるよ、耳郎」
ピンクのシャツに黒いジャケット。白い指抜きグローブと、スピーカーの様な大きなブーツ。シンプルで、かっこ良くて可愛い。端的に言えば非常に似合っている。
「ありがと、アンタも様になってんじゃん」
「でしょ? 出した要望よりかっこよくなってたよ」
僕のコスチュームは全体的に黒く、ダボついた緩めのシャツに、袖口の広いコート。コートの内側には収納ポケットがたくさんついており、様々なアイテムを仕舞っておけるような作りになっている。現状だと、特別何かが入っている訳では無いけれど、今後何か欲しいものが出来た時に必要になるだろうと思って付けて貰ったものだ。
僕の個性は炎を出すとか、特別な事が出来るわけじゃないし、出来ないところはアイテムで補っていこうという方針だ。
「先生! ここは入試の演習場ですが、また市街地演習を行うのでしょうか!?」
耳郎と話していると、一人の男子生徒が先生に質問を投げかける。確か、名前は、飯田君だったはず。50m走を僕と同じ三歩で走ってたからちょっと印象に残っている。
「いいや! もう二歩先に踏み込む! 屋内での対人戦闘訓練さ!」
対人とはまた、いきなりの様な気もする。これが最先端という事か。
「ヴィラン退治は主に屋外で見られるが、統計で言えば屋内の方が凶悪ヴィラン出現率は高いんだ。監禁・軟禁・裏商売……このヒーロー飽和社会、真に賢しいヴィランは
個人戦でもないのか。これはなかなか厳しいかもしれない。
「基礎訓練もなしに?」
「その基礎を知るための実践さ!」
クラスメイトから当然の疑問がなされるが、オールマイトは間髪入れずに回答する。
「ただし、今度はぶっ壊せばオッケーのロボじゃないのがミソだ。いいかい? 状況設定はこう! 『
ポケットから取り出した小さな紙、もとい、カンペを読みながらルールについて詳しく説明がなされる。
「コンビ及び対戦相手は
「適当なのですか!?」
「プロは他事務所のヒーローと急造チームアップする事が多いしそういう事じゃないかな……」
「そうか……! 先を見据えた計らい……失礼致しました!」
「いいよ!! 早くやろ!!」
オールマイトと彼らのやり取りに納得を覚えると同時に、一つ思い出した。
「先生、A組は21名ですが、残りの一名は余りですか? それとも1チームだけ三名で?」
「その事なんだが、厭少年。君に一人チームになって貰いたい。あ、もちろんハブにしようとしてる訳じゃないぞ! 君は『特別』特待生だからね!」
「なるほど、理解しました。ありがとうございます」
クラスメイト達からの視線が痛い。お前は一体何者だよって視線が僕を貫いていく。
「みんなの視線が怖いよ~。助けてじろ~」
「アンタ何者よ」
「ここでまさかの裏切り……!?」
なんてこった、頼れる人が居なくなってしまったじゃないか。
「まあ、大したことは無いよ。入試の成績が良かったから、それで特殊な特待生制度が適応できたってだけの話」
「何ポイントだったわけ?」
「149ポイント」
「アンタ何者よ」
「あれ、デジャヴ……」
僕らの会話で満足したのか、周囲からの視線は少なくなった。若干名の視線は更に鋭くなったが。敵意、対抗心ってところだろう。実に面白い、悪くない傾向だ。
そんなことを考えている間に、くじは次々と引かれていき、僕を除き、合計10チームが完成した。
「続いて、最初の対戦相手は――こいつらだ!!」
そう言って、オールマイトは無造作に箱の中に手を突っ込み、二つのボールを取り出した。
「Aコンビが『ヒーロー』! Dコンビが『
Aコンビには緑谷出久。
どうやら、一戦目から面白くなりそうだ。
◇
「……始まった」
ビルの地下、モニタールームにて僕たちは訓練の様子を見ることが出来る。
ビルの中の様々な位置に設置してある監視カメラから、訓練の様子を余すことなく見れるようになっているらしい。音声は拾えないらしいが。
緑谷君と麗日さんは一階の窓からビルの中に侵入して進んでいる。
ゆっくりと、慎重に、警戒し、角では先の様子を伺いつつ、歩みを進めていく。
そして、次の角へ差し掛かろうとした時。
「いきなり奇襲!!」
飛び込むようにして爆豪君が攻撃を仕掛けた。個性把握テストの時も思っていたけど、シンプルで、分かりやすく強い個性だ。
緑谷君が麗日さんを庇うように避けたけど、完全では無かったらしく、コスチュームの頭の部分が半分消し飛んでいた。
「爆豪ズッケぇ! 奇襲なんて男らしくねえ!」
「奇襲も戦略! 彼らは今、実戦の最中なんだぜ!」
切島君には悪いが、オールマイトに賛成だ。
これがヴィランとの戦闘なら、避けられない方が悪い。僕らが目指すヒーローとは、存外シビアなものだ。
爆豪君がもう一度、大きく振りかぶって個性を発動しようとする。
しかし、いざ発動させようとすると、そこには緑谷君が潜り込んでいる。
「上手い」
思わず漏れてしまう程、スムーズに動いていた。
右腕を取って、一本背負い。床に叩きつけた。
爆豪君、滅茶苦茶キレてるな。音声無いけど表情で丸わかりだ。
「アイツ何話してんだ? 音声無いとわかんねえな」
「小型無線でコンビと話してるのさ! 持ち物は+建物の見取り図、そしてこの確保テープ! このテープを相手に巻き付けた時点で『捕えた』証明となる!!」
「制限時間は15分間で『核』の場所は『ヒーロー』に知らされてないんですよね? ヒーロー側が圧倒的不利ですね、コレ」
「相澤君にも言われたろ? アレだよ。せーの!」
「「「Plus U「あ、ムッシュ爆豪が」a」」」
また、爆豪君が飛び出す。今度も、狙いは緑谷君のようだ。
蹴りを防ぎつつ、確保テープを巻きに行く。その隙に麗日さんはその場を離脱。
爆豪君は空中で体制を整え、追撃で爆破させるが、緑谷君はそれも躱す。
「すげえなあいつ! 個性使わずに渡り合ってるぞ!」
使わない、というより、使えないんだろうけどね。
緑谷君の精神性なら使ってもおかしくは無いが、使いどころはキッチリ選ぶタイプだろう。
一度対面が振出しに戻ったところで、緑谷君がその場から走って逃げる。
奇襲を食らって、不利な状態で戦闘を継続させる必要もない。リセットできるならリセットして、作戦を練ってからの方が良いと判断したのだろう。
それを爆豪君は追いかけるが、無意味に個性で爆発を起こしている。多分、ただただイラついてるだけだろうけど。
そして、緑谷君と爆豪君の戦いがある裏で、麗日さんが核の部屋に辿り着いた。
核の近くには飯田君がいるが、一人で飛び出していかない所を見ると、作戦を考えているか、緑谷君との合流を狙っているのだろう。
しかし、どうやら飯田君は麗日さんに気付いたらしい。じりじりと、詰め寄っていく。さらに、ついに緑谷君と爆豪君も接敵。残り時間も迫っている。
爆豪君が、緑谷君に、手のひらを向けた。
「爆豪少年、ストップだ。殺す気か!」
オールマイトが、マイクに向かって叫ぶ。
瞬間、映像が爆煙に包まれた。
強い揺れ。煙が晴れ、カメラの映像が復活する。
「授業だぞコレ!」
「緑谷少年!!」
クラスメイトとオールマイトの焦った声が響く。
「……とんでもないな」
もはやビルは倒壊寸前だろう。爆豪君がいた位置から先の部屋全てをぶち抜き、ビルに風穴が空いているのだから。
恐らく、この衝撃は他の二人にも影響を与えたはず。
この混乱に乗じて、麗日さんが飛び出していく。すぐに反応した飯田君は進路を塞ぐが、その上を軽々と飛び越えていく。
麗日さんの個性は自分自身を浮かすこともできるらしい。
そのまま核に触れるかと思いきや、そうはさせんと飯田君の“脚”が核を回収する。
核兵器はあくまでハリボテ。そう重たいものでは無い。このまま飯田君の足の速さで移動され続けると、麗日さんは追い付けないだろう。
「先生、止めたほうが良いって! 爆豪あいつ相当クレイジーだぜ、殺しちまうぜ!?」
「いや……」
オールマイトは一瞬考える様に間を置き、マイクに向かって語り掛ける。
「爆豪少年、次
その言葉を聞いたのか、爆豪君は頭を掻き毟ってイラついた様子を見せるが、すぐに緑谷君に殴りかかる。
爆破の勢いを使った空中戦。反撃しようと緑谷君がタイミングを合わせようとするが、目の前に爆発。その爆発で軌道を変え、即座にもう一発。完全に背後を取り、無防備な背中に重たい一撃が入った。
「考えるタイプには見えねぇが、意外と繊細だな」
「慣性を殺しつつ有効打を加えるには左右の爆発力を微調整しなきゃなりませんしね」
「才能マンだ、才能マン、ヤダヤダ……」
背中の痛みに悶える緑谷君に、さらに追撃。ここまで何度か緑谷君が捌いてきた、右の大振り。
打撃と同時に腕を掴み、もう片方の手で爆発を起こし、その勢いで回転。
地面に叩きつけた。
「リンチだよコレ! テープを巻きつければ捕えたことになるのに!」
「ヒーローの所業に非ず……」
「緑谷もすげえって思ったけどよ……戦闘能力に於いて爆豪は間違いなく、センスの塊だぜ」
爆豪君から、逃げるように距離を取り、壁際に張り付く。
「逃げてる!」
「男のすることじゃねえけど仕方ないぜ。しかし、変だよな……」
一歩、また一歩と緑谷君に近づいていく爆豪君。最初から隠されもしていない苛立ち。けれど、今の爆豪君はそれだけではないような、そんな気がしてならない。
「なんか、爆豪の方が余裕なくね?」
ここで初めて、緑谷君も自分から仕掛けに行った。
緑谷君の腕にエネルギーが収束していく。
爆豪君の手のひらがバチバチと破裂する。
激突するのは必至。どうなる――。
「先生!! やばそうだってコレ! 先生!」
「……双方…中――」
途中まで言いかけていたオールマイトが、口を噤んだ。
緑谷君と、爆豪君が激突する。
爆豪君の爆発は緑谷君へ。
緑谷君の拳は爆豪君――ではなく、空へ。
途方もないエネルギーは、全て破壊力へと変わり、屋上へと到達する。
床が崩れたことで、ビルの柱が空中へと飛び出す。それを麗日さんが軽々と振り回し、巻き上げられた瓦礫を飯田君へかっ飛ばす。
瓦礫に気を取られ、動けなくなっている隙に、麗日さんが飛び出して核に飛びついた。
緑谷君がふらりと倒れこむのと同時に、オールマイトによってアナウンスがなされる。
「ヒーローチーム、WIN!!!」
遅くなってしまって申し訳ないです。
今回はちょっと難産でした。
いま、リアルの方が少しごたついておりますので少々の遅れは見逃していただけると幸いです……。出来る限り早い投稿を心がけますので、何卒……。