殺意を込めて   作:人間の業

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1対2

 

 緑谷君達の訓練が終わり、モニタールームに戻って講評の時間が設けられた。

 緑谷君は怪我が酷く、保健室に運ばれていった。

 

 彼等の白熱した試合に影響されたのか、他のグループも全力で取り組んでいたように見えた。

 訓練、そして講評。前グループの反省を生かし、次のグループが出来る範囲で実践する。非常に素晴らしいサイクルだ。

 

 そして、それらの一巡が終わる。

 

「さて、これで最後だな! 厭少年、準備は良いかな」

 

「大丈夫です、先生」

 

「では、厭少年と戦いたい人は手を挙げて!」

 

 そうして、挙がったのはほぼ全員。うーん人気者は辛いね。

 

「多いね! じゃあ、もう一回くじだ! その間に、厭少年はヒーローチームかヴィランチームか好きな方を決めてくれ」

 

「では、僕はヴィランチームの方でお願いします」

 

「オーケー! では、ヴィランチームの厭少年と戦う、ヒーローチームはこの二人!」

 

 オールマイトは両手に一枚ずつの紙を掲げる。そこに書かれてあるのは、『飯田』と『轟』の名前。

 

「それじゃあ、始めようか! 厭少年は準備を、ヒーローチームの飯田少年と轟少年は五分後に潜入開始だ!」

 

 オールマイトの号令で、僕はビルの中に入った。

 とりあえず、核は最上階で、ヒーローを待ち構えるような形で行くのが良いと思う。

 

 彼らは数の有利を持っている。無線機が与えられているから、別行動をとられて、一人と戦闘を行っている間に核を確保されるのが一番面倒なパターン。核は目の届く範囲、または認識できる程度には近くに置いておきたい。

 

「お、良いなここ」 

 

 通路から扉をくぐると、割と広い部屋。そして、その部屋の中から小部屋へと扉がつながっている。小部屋の入り口はその扉だけ。広い部屋で待ち構えつつ、小部屋に核を置くのがよさそうだ。

 準備はこれで終わり。僕は特別何かが出来る訳でも無いしね。

 

 飯田君と、轟君か。飯田君の個性はなんとなく分かるけど、轟君の個性は一回しか見ていない。大規模な氷の個性で、ビルを丸ごと覆って決着がついていた。その後、凍り付いてしまったクラスメイトを炎で溶かしている所も確認できた。

 炎と氷、どちらも使えると見ていいだろう。なんて良い個性。羨ましくなるね。

 

「んふふふ、楽しみだ」

 

 さあ、どんなふうに来るかな。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「俺は氷と炎が出せる。お前は?」

 

「俺は飯田天哉だ。個性はエンジン、速く走れる」

 

 先程の訓練では、ビルごと凍らせていた。ものすごい出力の個性だ。

 

「作戦はあるのか?」

 

「……まずはさっきと同じように丸ごと凍らせる。だが、多分効かねえ。飯田、アイツの個性分かるか?」

 

「……いや、すまないが俺も分からない。体力テストを見ている限りでは、身体能力を上げるような個性だと思う」

 

 個性把握テスト、あれは圧巻だった。

 どの種目においても最上位。常に笑顔を浮かべながら、とんでもない記録をかっさらっていく。

 

 数の有利なんて関係なく、油断は禁物だろう。

 

「――五分だ。行くぞ」

 

 そう言って、轟君はビルに右手を置き、一気に凍らせた。

 

「多分アイツは凍ってねえ! 時間制限もある、急ぐぞ!」

 

「もちろんだ!」

 

 凍り付いて気温の下がったビルの中を駆けていく。僕の個性は長時間使い続けると熱を持って上手くトルクが回らなくなる。この冷えた環境は僕にとって好都合だ。

 

 一階から、手分けして部屋の中を覗いていくが、見つからない。僕らの個性が索敵に向いていないことを改めて実感する。

 

「結局四階も無しか……。後は五階だけだが、時間はあと10分しかねえ」

 

「だが、五階にいると分かったなら、警戒しながら進むべきじゃないか? 『核』と別々の場所にいるとは考えにくい、恐らく戦闘は避けられないぞ」

 

「……それもそうか、なら、ここからは二人で行くぞ」

 

 二人で、しかし、変わらず走りながら、次々と部屋を巡っていく。そして――。

 

 

「随分ゆっくり来たね。待ちくたびれちゃったよ」

 

 

 相変わらず、笑みを浮かべたまま、部屋の中央に立っていた。

 

「やっぱり、凍ってなかったか……」

 

「まぁね、冷気が上ってくるのを感じて、その場で飛ぶだけだし。対処さえ分かってればそう難しい話じゃ無いでしょ」

 

「普通は冷気を感じた時点で凍り付いてんだよ」

 

 想像通りとはいえ、とんでもない。

 

「『核』はどこだ!」

 

「実は、三階の――なーんて、言うと思うかい? 力ずくで吐かせてみなよ、ヒーロー」

 

 そう、この部屋には核が見当たらない。別々の場所などあり得ないと思ったが、読み違えたのか……?

 勝利条件は、『核に触れる』または『確保テープを巻く』のどちらか。達成しやすいのは明らかに前者。

 

「飯田、他の部屋を急いで見て来い」

 

「っ! 了解した!」

 

 轟君の周囲が一気に冷たくなったように感じた。やる気だ。

 

「行かせるとでも?」

 

「お前の相手は俺だ」

 

 くぐってきた扉から外に出る。厭君が迫ってくるが、轟君が氷で壁を作って止めた。

 

「待っていろ、轟君! すぐに戻ってくる!」

 

 僕の仕事はただ一つ。

 少しでも早く、残りの部屋を確認してこの部屋に戻って来る事だ!

 

 残りは凡そ半分程度。僕なら一分も掛からない。

 僕はギアを一段階上げた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「ありゃ、行かれちゃった」

 

「……行かせた、の間違いだろ」

 

 氷の壁は展開した。だが、防ぎきれてねえ。

 ボロボロと氷壁が崩れ落ちる。

 

「まあ、別にどっちでもいいと思わない? 『行かれた』も『行かせた』も結果は同じな訳だし」

 

「……そうだな」

 

「そうそう、だから同じ事なんだよ。『君が残った』のも――」

 

 消え――!

 

 

「『君が残された』のも、ね」

 

「っ! がっぁ!?」

 

 

 見えなかった……! コイツ、なんて速さしてやがる!

 見失ったと思った時には既に殴られた後……!

 

「クソっ!」

 

 圧し潰すように氷を展開する。

 

「はぁ、はぁ、どうだ……」

 

「うーん、悪手かな」

 

「なッ、ぐっぅあッ!」

 

 馬鹿な、そんな訳ねえ……!

 

「いくら広範囲高威力だろうと、自身の視界を制限するような攻撃はやめたほうが良いよ。君、その氷に感覚が通ってる訳じゃないんでしょ? だったらなおの事やめといたほうが良い」

 

 何てこと無いように避けやがって……!

 

「初見の相手、情報の無い相手と戦うときは、一挙手一投足に気を配らないと。何をしてくるか分からないヴィラン相手に、視線を外すなんて自殺行為もいいとこだ」

 

「ご忠告、ありがとう、なッ!」

 

 再度、氷を展開。だが、今度は足元に限定する。

 

「その速さで動こうとすりゃ、氷が砕けるだろ!」

 

 この氷で捕らえられるなんて思っちゃいねえが、動きの制限、位置の特定にはなる。

 

「そうそう、良い手だね」

 

「ちッ! ぴょんぴょん動き回りやがって……!」

 

 早くてほとんど見えねえが、床だけじゃなくて、壁や天井も使って動き回ってやがる。

 

「悪くない手だけど――」

 

「どこから――!」

 

 氷の砕ける音が、部屋中から鳴り響く。

 

 

「――君本体の力が、足りてないんじゃない?」

 

 目の前。眼前。こぶし。回避。間に合わない。個性。氷。展開。間に合わない。

 

 間に、合わな――――

 

 

「ォォぉォおオオおおオオォォッッ!」

 

 

 横から、視界が塗り替えられた。

 

 

「今度は早かったね、ヒーロー」

 

「すまない、轟君。――遅くなった!!」

 

 

 ふくらはぎのマフラーから煙が噴き出している。全力でやり遂げた証だ。

 

「飯田、――助かった。悪く思うなよ、ここからは2対1だ」

 

「悪くなんて思わないさ、全力で来なよ」

 

 相変わらずの表情。

 

「その余裕、無くさせてやるよ!」

 

 先程同様、部屋を全体を覆うように、足元に氷を展開した。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「飯田すげえなアイツ!!」

 

「間一髪だったね!!」

 

「ていうか、厭はほんとにナニモンだよ!」

 

 クラスはみんな盛り上がってる。

 そりゃそうだ。あんなもの見せられて、昂らない奴なんていない。

 

「アイツらすげえ連携だな! ホントに初めて組んでんのか!?」

 

「轟さんが氷で厭さんを追い詰めつつ、飯田さんの足場も並行して作る。動きも段々と洗練されてきてますわ」

 

 轟と飯田は、少しづつ近づいてるように感じてるんだろう。

 傍から見てても、そう思ってしまうから。

 

 だけど、知っているから、分かってしまう。

 

「……全然本気じゃない」

 

 もちろん、ウチなんかからすれば次元の違う話で、あの中に入れるかと言われれば絶対に無理だけど。

 だけど、分かる。まだまだ余力を残してる。

 

 圧が無い。全身に鳥肌が立つような、圧を感じない。

 

 

 なのに、見入ってしまう。目が離せない。

 憧れが強くなってしまう。

 

 遠い。どこまでも遠い。

 同じ場所に辿り着く事さえ不可能に感じられるのに、アイツはこれからも成長していくんだろう。

 

「すごいなぁ……」

 

 確実に動きを捉えたはずの飯田の蹴りも、動きを予測していたかのように待ち構える轟の氷も、全部躱して、壊していく。

 目指すべきヒーロー像。それは、憧れで。それはきっとほとんどの人がオールマイトと答えるもので。

 

 ウチには、厭の姿がうっすらと被って見えた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「はぁ、はぁ……!」

 

「クッ、どうなってる……!」

 

 肩を震わせ、息も絶え絶えな二人の姿。

 

「全て、躱された……!」

 

「そろそろ終わりかな。とっても楽しい時間だったよ」

 

 全方向からの氷結攻撃と、飯田くんの“速さ”での撹乱と攻撃。後半にかけて、連携の練度も上がってきた。

 

「最後まで、余裕たっぷりってか……!」

 

 轟君が氷を走らせるが、それにはもうキレが無い。

 床を踏みつけ、衝撃で氷を砕く。

 

「そういう君は、もう限界だろ? ――見ればわかる」

 

 全身に降りた霜、荒れた呼吸に、震える身体。

 身体から発する氷は、本人の体温も奪っていくらしい。

 

 彼が、炎を使えば解決する問題だとは思う。

 思うが、何かがあるのだろう。使う素振りを一切見せない。

 

 興味はあるけど、追々かな。僕はまだ、轟君と出会ったばかりなわけだし。

 初対面も同然の人間から、根掘り葉掘り聞かれるなんて気持ち悪いだろう。

 

 結構ウザイ立ち回りとか言動とかしてたから、既に手遅れかも……? いや、仕方ないんだ。どうしても勿体なさを感じてしまうから、言うしか無かったんだ。

 

 でも、そろそろ終わらせた方が良いか。こんな最初から無理をするものでもない。

 いくら治癒して貰えるからと言っても、怪我をしないに越したことはないし。

 

「なに、いきなり、はぁ……唸ってんだ……!」

 

「あ、ごめん。ちょっと考え事を――っとぉ!」

 

 左側からの氷結攻撃。それを躱すと、飯田君からの追撃が来る。良いタイミングで入ってくるようになった。

 

 左脚の蹴りを右手で受け流し、その勢いのまま回転して、床に付けた左手を軸に右脚で蹴りを入れる。

 

「ごぁッ! これもダメかっ!」

 

 轟君の氷のおかげで、飯田君の機動力は上昇し、更に立体的な機動も出来るようになっている。

 くじで選ばれたにしては相性のいいコンビだろう。

 

「いやいや、最初とは比べるまでもなく良い動きになってるよ。だけど、今回はここまでね」

 

「はぁーー……っ! ま、だっ…!」

 

「さっきも言ったでしょ」

 

 出力を一段階引き上げる。

 

「君は、地力が足りてない、ってね」

 

 捕縛テープで両手を縛った。これで僕の勝ち。

 

「み、みえな、かった……」

 

「くそ……っ!」

 

 さっきの速度に慣れ始めた頃に、いきなりスピードを上げられれば、反応は難しくなる。

 

 んーー、楽しかった。

 

 

「ヴィランチームWIN!!!」

 

 

 





やっぱり視点変えるの難しい……。
口調合ってるのか……?って一生考えちゃう。
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