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「ガアガア(もうすぐ午後4時か)」
俺は与えられた部屋で呟いた。いや鳴いたが正確か。
1日経って理解した。これは夢ではないと。……いや、ある程度覚悟していたが、きついなあ。夢オチが一番平和だったのに。まあ、夢ではない以上頑張るしかない。
時計を確認するともうすぐ言われた時間であった。
……何をさせられるんだろうなあ?正直不安だ。
「入るわね」
「ガアガア(どうぞ)」
そんなことを考えていたらノックとともに冷泉さんの声が聞こえてきたので返事をした。
すると、黒髪の女性が部屋に入ってきた。あれ? ドアの前で聞こえた声は冷泉さんのものだったのに姿は昨日とは全然違う。今の彼女は髪の色が黒だし、制服のブレザーみたいなものを着ていた。昨日と全然違う。……魔法少女って言ってたしアニメみたいに変身とかしたら髪の色も変わるのかな?
「……あなた、本当にインベーダー? 返事はできるし、全然暴れた様子もないし、姿が変わっても私を私と認識できてるようにも見えるし……。本当に変わったインベーダーね」
冷泉さんは首をひねって俺を見ている。まあ、元人間だからね。
「……まあ、今はいいか、早速だけど私に付いてきなさい」
冷泉さんは俺の前を歩いていくので俺もそれについていく。
「……大丈夫だと思うけど死なないでね」
冷泉さんは歩きながらそう言った。その声は少し震えていた。……なぜ彼女は契約したとはいえ怪物である自分に優しいのだろうか。普通人外にこんな言葉はかけないと思う。
「ガアガア(頑張ります)」
彼女の気持ちが分からない俺はそう言うしかなかった。
「ふむ、よく来たな。インベーダー、冷泉」
しばらく歩いて着いたのはアリーナのようなところだった。 床は柔らかい畳みたいなものを敷かれ、壁はいかにも頑丈そうな黒い金属でできた、似たものを挙げるならプロレス会場のような部屋だった。しかも二階に登れるようで観覧できるスペースもあるようだ。
なるほど、要するにここは――
「インベーダー、貴様には戦闘訓練を行ってもらう!」
俺たちを待っていたであろう黒髪を腰まで伸ばした少女は俺に対してそう言い放った。声からして黒いドレスを着ていた人だろうか。冷泉さんと同じく昨日と髪の色が違う。
「そもそも危険な外来種であるインベーダーが殺されなかったのは人類に益となるからだ。そして一番今の我々に必要なのはお前以外のインベーダー、つまり外敵を殺すための力。弱ければ役に立たないとみなされ処分される。死にたくなかったら命がけで強くなれ! ……まあ、ここまで言えば言葉は通じてないだろうが、気持ちは伝わるだろう」
「ありがとう、美玲」
「……これで伝わってなかったら徒労だな」
「ガアガアガアガア(伝わりました。ありがとうございます)」
「……何となくだが伝わっているって言っている気がするな」
「そうね」
美玲と呼ばれた女性は冷泉さんにはぁと息を吐き呟いた。
「……さて、始めるか。戦闘訓練」
美玲さんはそう言うと、ポケットから何か四角いスマホのような端末をいじくった。
「ガアガア!? (えっ!?)」
すると、彼女の体が光に包まれていき、その光が収まると、黒いドレスを身に纏った少女の姿が見えた。
……昨日見た姿だ。
つまり俺は美玲さんと戦闘訓練をするということか。……どうしよう、俺、格闘技とか使えないぞ?
「さあ、来い、インベーダー。私からは攻撃しないから安心して攻撃してこい。ああ、人間に危害を加えないというのは
うん?この部屋では人に危害を加えても大丈夫?どういうことだ。
美玲さんは左の人差し指を右手で握り、折った。
……は?
俺が思わず絶句していると、美玲さんは、驚いたか、となんでもないように笑った。そして、左の人差し指を見せた。……折れてない?
「この部屋では怪我をしない。特殊な部屋なんだ。痛覚自体はあるがな」
マジか。すごい技術……痛覚あるなら折ったらだめじゃないですか?
「すごいだろ、昔ある天才科学者が考案し作られた人類の叡知の塊がこの部屋だ」
いや、確かにすごいけど、突っ込みたいのはそこじゃない。……もしかして魔法少女って痛みに慣れることって普通なのか?……怖いなあ。
「話はこれぐらいにするか、……行くぞ」
まあ、今は言われた通りやるしかないか。……いくぞ!
「……弱すぎる。どうやって今まで生きてこれたか分からないぐらいには弱いぞ」
「……」
「ガアガア(す、すいません)」
悲報、俺、とんでもなく弱かった。彼女の言うとおり攻撃したけどやすやすと流されるわ、避けられるわ防がれるわで全然有効打を出せなかった。……このままだと殺処分か?……どうしよう。
「……本当になんでこんなに弱いんだ? 私も弱いインベーダーとは戦って来たがどんなに弱くても攻撃に力は入っているものだし何より殺意みたいなものが込められていたものだが、このインベーダーにはそれがない。このインベーダー本当になんなんだ?」
どうしよう?殺意とか込めたことないから仕方分からないぞ?
「……このままじゃ本当に殺処分に……」
美玲さんは額に手を当てボソッと呟いた。
そして、顔を上げた。……何か思い付いたのだろうか。
「……肉壁しかないか」
……肉壁かあ。攻撃が苦手なことを考えたら妥当ではあるかなあ。
「よし、インベーダー、これから私がお前を攻撃するから避けるか防御しろ」
「ガアガア(了解です)」
俺が返事をすると、美玲さんは腰を少し落としこちらに突っ込んできた。
彼女は俺に接近すると真っ正面から拳を放ってきたので腕で防ぐ。続けて右と左のパンチを交互に二発ずつしてくるが同じく腕で防ぐと、彼女は一歩ズいっと踏み込み顎にアッパーを仕掛けて来た。流石にこれは防げないので後ろに下がる。
「ふむ……」
俺の動きを見ていた美玲さんは顎に手をやった。
「インベーダー、少し本気でやるぞ?」
え?ちょっと美玲さん?
俺が言葉を発する間もなく美玲さんは突っ込んでくる。俺も先ほどと同じように防ごうとして気づく。あれ?美玲さんどこに行った?
そう疑問に思った次の瞬間背中に悪寒が走り、思わず前に倒れ込むように転がる。
その悪寒は正しかったらしい。
いつの間にか後ろにいた美玲さんが構えていた。……まじで何をやったのか分からなかった。目を離してないはずなのにいつの間にか視界から消えていた。
「これを避けるか。防御に関してはそこそこか」
美玲さんはブツブツと呟くと、俺に向かって言った。
「インベーダー、お前には攻撃の才能はない。だが防御はそこそこできる。だから防御に重点を置いた訓練を行ってもらう。今からお前がやることになるのは地獄の訓練だと思っておけ」
「ガ、ガアガア!(わ、わかりました!)」
「とりあえず、本気で行くから、死ぬ気で防げ」
「ガ!?(え!?)」
彼女はそういうと俺に向かって駆け出し殴る、と見せかけて足払いを仕掛ける。俺は足をひょいっと上げ回避。しかし彼女はすかさず距離を詰める。
……これは柔道か?……っ!ヤバい。俺は即座に距離を取ろうとバックステップをしようとして、いつの間にか倒れていた。あ、やべぇ。マウント取られる。そう思い起き上がろうとすると美玲さんが俺の腰を膝で挟もうとしてきた。俺は体をねじりながら手で後ろに跳んだ。
「これを避けるか」
「ガアガア(ハアハア)」
え、ヤバいヤバいヤバい。
「次は打撃を混ぜていくか、まさか柔道の技
を初見で防がれるとはな」
いや、防げてないですよ。組まれるのを防いだだけ。なにされたか分からなかったもん。
「反応速度と頑丈さはありそうだな、面白い」
ひええ。
……その後、美玲さんの変幻自在な攻撃を数時間に渡ってしのぎ続けさせられた。もちろん、その日はとんでもなく疲れたのはいうまでもない。