「ヤッホ……あれ? インベーダー君? 死にそうな顔をしてるね?」
「……ガアガア(大丈夫です)」
「そんな死にそうな顔でサムズアッブをされても説得力はないよ?」
「ガアガア(ですよねー)」
俺は部屋に入ってきた菊川さんに壁にもたれながら返答した。だらしないけどしょうがないのだ。しんどい。
「あ、訓練でもしてたのかな? ……もしかして冷泉ちゃんか新田ちゃんにしごかれてた? だとしたら同情しちゃうな」
「ガアガア(大当たりです)」
そう俺はうなずいた。
体も精神も疲労感は強いし、だるい。もう今日は一歩も歩きたくはない。
「まあ、あの二人はスパルタだから」
そう言って菊川さんは小さく口角を上げた。
「ま、頑張ってね。忘れるまでは応援しておくね」
……できればしばらくは忘れないでほしいなあ、なんて。
俺は、部屋を出ていく彼女を見てそう感じた。
「インベーダー君が戦う日程決まったよ、多分二時間後ぐらいだね」
「……うわあ」
上層部とやらは俺をまじで殺す気しかないらしい。名草先生と冷泉さんがかわいそうな目で俺を見ている。
難しいことはよくわからないが、なにやらインベーダーの出現を予測する機械があるらしい、ただし強いインベーダーじゃないと観測できないらしいが。それによると、後二時間くらいで大型のインベーダーが現れるようだ。
俺、死ぬのかな?
なんだかんだ二時間が経過した。
「インベーダー、死ぬなよ」
俺にそう言ってくれたのは岩井戸先輩だ。ヒャッハー!と叫んでいた印象が強い岩井戸先輩だが、割といい人みたいだな。ありがたい。
俺はインベーダーが現れるであろう場所にトラックで運ばれていた。貨物かな?
魔法少女たちが普通の乗用車で運ばれていたから余計に冷遇されている気がする。いや多分人権ないし、仕方ないけどさ。
魔法少女たちはインベーダーの出現地点から少し離れたところで待機し、俺が殺されたらすぐインベーダーを殺すようだ。俺、すぐ殺される想定だね?
まあとりあえず頑張りますか、と気合いを入れたところで、空気が振動した。正確にいうと、風景が揺れお、来たかな?
そう思い、上を向くと、大きな穴が空いていた。そして大きな穴から身長が十メートルくらいはある狼のインベーダーが現れた。……え、デカイ。
その狼は体と眼が青く妖しく光り、神秘さを感じられた。しかし、それ以上に引き締まった筋肉に目が行く。まるで巨木のように太い足、もはやどう表現したらいいかわからないほどの胴体、強いていうなら大仏ぐらいの大きさだろうか。本当に大きすぎてどう表現したらいいかわからない。
まあ、ともかく、言えることはただ一つ。無理だろこれは。冷泉さん、ごめん。死ぬわ。
俺は目の前に迫り突進してきた狼を見てそう悟った。
俺は後ろへ跳んだ。すごい衝撃だ。だが耐えられる。まじかよ、俺。人間離れがすごいな。いや、もう人間じゃなかったわ。悟りは間違っていたらしい。うわあ、恥ずかしいな。まあ、気にしたら負けだ。
よし、行くか。
「おい! インベーダー死んだだろ、これ。というか私達も死ぬわ。岩井戸だ! インベーダー捕獲用部隊は撤退しろ。後、冷泉、新田、菊川を出動させろ。できれば唯川と高坂もだ。平等院はまだ病院だろうができれば連れてこい。どうしても戦わせられないなら逃がせ。あいつがいないと可能性すらほぼなくなる。あ? 上層部が駄々をこねてる? 知らん。後で批判食らうのはお前らだぞ、戦力喪失でな、って伝えとけ。こっちのインベーダーの生死なんかもうどうでもいいレベルだ。最悪国が滅ぶぞ、これ。ドローンを飛ばせ。少しでも情報を残して若木に突破口をこじ開けさせられる可能性を残しとけ、んじゃ連絡を切るぞ。アバヨ」
私は魔法少女管理本部への電話を切り、前を見た。笑えるぐらいデカイ狼が私達を睨んでいる。インベーダーは狼の突進で吹き飛ばされた。大体100メートルは飛んでたかな?まあ、死んだだろ。あっさりしててすまんが、多分私も死ぬ。許してくれ。ほれ、狼が口を開けてこっちに向かって来た。一緒に来ていた部隊がガタガタ震えている。しょうがねえ。私も本当は逃げたいぐらいだ。こんなデカイのは初めて見るし、威圧感も半端じゃねえ。魔法を唱えても多分無駄、唱えられても効かねえわ。ああ、短い人生だったな。
なんて考えていたら狼のインベーダーが「グアアア!?」と悲鳴を上げた。内心何があった?と首を傾げると人型のインベーダーが狼の尻尾に噛みついていた。
「く、はは」
思わず笑みが漏れ出た。諦めるのはまだ早いか。やれるだけやろう。
「ガアガア!」
人型のインベーダーは狼にヒットアンドアウェイを仕掛けており、避けることを主眼においている。多分、新田の入れ知恵だ。さっきの噛みつきも入れ知恵の一つだろうな。
ん?人型のインベーダーの体が黒く染まった?急に動きが、っておい。急に光るな。眩しいだろ、うわ、更に動きが速くなった。おいおい、待て。あいつ、狼を圧倒してないか?
あっ、目をえぐった。やべえわ。というか援護する暇がない。一応能力の岩を操る能力で狼の動きを阻害しようと思ったがあまりにも速すぎて無理だ。むしろ邪魔になる。おっ、来たな。援軍、冷泉と菊川、新田か。
「唯川と高坂は?」
「……上層部が唯川たちは防衛に回すとのことです」
「おいおい、あいつらがいないと詰んでたかもしれないのにまだそんなことをいってんのかよ」
「……うわあ、冷泉ちゃんの支援があってもあれはやばいね」
「ええ、すごいわ」
「やっぱりインベーダーに魔力を回していたんだな。冷泉」
「ええ、そうよ」
新田の言葉に内心首を傾げる。
冷泉の能力って確か契約しているインベーダーの強化か。にしてもだ。
「おい、あいつの力さ、私たちを凌駕してないか?」
「……はい」
「あいつがいればもっと魔法少女の死亡者数を減らせるかもしれんな」
「はい、あ……頭突きした」
頭突きだと?あいつなら多分だが、頭突きとか使わねえだろ、本来なら。
「は!? おい新田、教えたの、お前だな?」
「はい」
悪びれもせず新田は私の質問をさらっと肯定した。
「あ、倒れた」
「あー、インベーダー君がめちゃくちゃ執拗首に噛みついてるね」
「まあ、首を切れば大抵の生物は死ぬしな」
「そうね」
そんなこんなで狼のインベーダーは死んだ。
おそらくあの人型のインベーダーがいなければもっと被害がでかかっただろう。
その功績もあって、インベーダーは一旦は処分されずに済んだ。
ただ、その2ヶ月後、また上層部が余計なことを仕掛けに来るのだが、それはまた別の話である。