ウルトラマンクリシュナ Twisted Mahabharata   作:りゅーど

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そのメサイアはニンジャだった

 M78星雲、光の国。

 そこは光に包まれ、一切の邪悪のない星。否、邪悪は存在するのだろう。それでも数多の光で浄化されたのだろうか、悪しき存在は過去に二人。

 そんな星から逃げ出した、変わり者の男一匹。

「──────ッ、!!」

 その男は飛んでいた。逃げなくては、とその男は焦っていた。走って、逃げて、逃げて逃げて逃げて……。

「いたぞッ」「逃がすなッ」

「やめろオオ」

 そうして、逃げ出して、そうして、ながれて、ながれて、目の前がぐにゃりと歪んで、ゆらめいて。サイケデリックな光が、男を包んで。

「……夢、かあ」

 独りきりの部屋で、その青年は────天龍(てんりゅう) 道玄(どうげん)は目を覚ました。ピピピ、と無機質な音が鳴り響く。その時刻は午前五時、皆寝静まっている中である。そろそろ部活に勤しむ高校生共が起きてくる頃合いか、と思いつつ、道玄は一つ伸びをする。

「……嫌な夢だったな」

 着替え、キッチンへ向かう。寝ている子供を起こさぬよう、そっと歩く。職員に混じって料理を作るという事も仕事である。

 そうやって、また一日が始まる。

 ここは、怪獣災害で親を亡くした子供達の集う孤児院、その名も『降谷養育院(ふるやよういくいん)』。

 日本でも有数の、規模の大きな孤児院である。

 ◇◆◇◆◇

 午前八時。

 子供達はみんな学校に行った。

「ふぅー……」

 朝のテレビ番組では著名人の訃報が並ぶ。

「あっ。あのマナー講師、一昨日出た怪獣に殺されて死んだんだ。ざまぁ」

 加須内(かすない)恵美子(えみこ)、だったか。名前が出たのはそんな感じの、テレビ番組によく出てくるような人格破綻者だった。

 確かあるバラエティで取材を受けている時、勝手に突撃してきた挙句、出演芸人に向けてマナーを守れだのなんだのほざいてきたような事があったか。あれは腹が立った。

 あの時に打ち込んだ“神傷”はどうなっていたのかは依然不明だが、何はともあれ、生きる価値のない外道が一匹死んだ事には満面の笑みが止まらぬ道玄である。

 なんせ長男のカランの事を「孤児のガキ」と宣ったのだ。正しく生きる価値のないクズである。

 道玄は、自分の事を愚弄されるのは慣れているが、我が子を愚弄されるのは腹が立って仕方がないわけで。

 今まで息子達を愚弄してきた相手が殺されるのは凄く嬉しい。邪悪の不幸は蜜の味、善人の不幸は反吐の味だ。ケラケラと笑って、紅茶を飲む。

「……ふぅー」

 妻のおかげで、紅茶のうまさも分かるようになってきた。マーガリンを塗ったトーストをかじりつつ、道玄は妻に感謝した。

 そろそろ仕事をやらなくては。彼はLeoboのノートパソコンを立ち上げ、表計算ソフトを開いた。

 ◇◆◇◆◇

 昼飯も食わずに書類は完了、と同時に子供たちが帰ってきた。高校生共は遅くなるか、と思いつつ、小学生たちを笑顔で迎える。

「おかえり」

「ただいまー!!」

 なんとも元気な声だ。思わず道玄は破顔した。

 子供たちが無事に帰ってくる、それこそ最高である。

「おやつ欲しい人は手洗いうがいをしっかりしてから慎太郎さんとこ行くように!」

 はーい! と、元気な返事が響く。なんと、なんと微笑ましく可愛らしい光景か。てててて、と擬音を立てながら手を洗いに向かう彼らを見送り、道玄は妻の方を向いた。

「…………ねえ、嫁様」

「なんだい?」

「……………………見捨てられずに連れてくる気持ちはわかるけど、なるべくこれ以上は自重してくれないかな」

「善処するね~♪」

 ああ、またこうだ。胃が痛くなってきた。いつもこうだ。妻はすぐ子供を連れてくる。

 いや、それほど怪獣災害が多いという証左でもあるのだが。その度にデータベースに書き込んだり閻魔帳に追記したりする手間が増えるのは正直面倒だと思う道玄である。

 閻魔帳に追記するか、とパソコンを立ち上げた瞬間──────

「──────シャァァアアアアッ!!!!」

 大地が揺れ、人ならざる怒号が響いた。

 ◇◆◇◆◇

「怪獣だとッ」

 道玄は、即座にシェルターに隠れるよう避難警報を発令した。院の地下にあるシェルターは、特殊な空間で囲われており、外部からの攻撃に干渉されない。

 道玄と子供たちに血は繋がってないけれど、それでも曲がりなりにも父親だ。道玄には、未来ある子供の命を奪う事など、できやしないのだ。子供たちを誘導し、シェルターへと向かわせる。そして、最後に妻がシェルターに避難し終えたことを確認すると、道玄は外に出た。

「トツカノオロチ……! 確か、かつて素戔嗚尊(スサノオノミコト)の化身と呼ばれた侍、小埜田(おのだ) 公忠(きみただ)と村井 強右衛門がタッグを組み、退治したと伝えられている巨大な蛇の怪獣ッ……!」

 当時は十拳剣(とつかのつるぎ)によって倒された。だがその十拳剣は博物館に送られているし、そもそも今使える代物じゃあない。ならば、自分が行くのみ。

 道玄は覚悟を決めると、虛空から特殊なカートリッジと、クナイのようなアイテム─────異次元式変身苦無(いじげんしきへんしんくない) 摩耶(まや)を取り出した。

 ────────瞬間、道玄の周りをサイケデリックな空間が包む。

 そうして、道玄の姿は一瞬消えた。

 ◇◆◇◆◇

 カラフルでサイケデリックな空間の中、道玄はカートリッジのボタンを押した。

『ULTRAMAN KRISHNA - STYLE OF NINJA』

 無機質な声が響く。道玄はそのカートリッジを、『摩耶』へと装填する。一瞬刀身が光った直後、摩耶の小窓に赤い眼が映り、煌々と輝く。同時に、小窓にウルトラ文字で『クリシュナ』と浮かんだ。

 摩耶のトリガーに指を掛け、道玄は叫ぶ。

「奏でろ、放て、勇気の光をッ! ウルトラマンッ! クリシュナァ────ッ!!」

 眩い光が、道玄を包む。光は人ならざる姿を構築していき、身長60メートルの()()()()()()()へと変貌していった。

 黒と青の肉体を纏う、漆黒の忍装束。ウルトラマンクリシュナ スタイル・オブ・ニンジャ──────ウルトラ忍者部隊のエントリーだ! 

 ◇◆◇◆◇

「退治させてもらうよ」

 クリシュナは構え、消えた。

「────ズァ」

 空に舞い上がり、トツカノオロチの背を踏みつけていたのだ。

「シャアーッ!?」

 驚いたトツカノオロチは口から光弾を撃つが、クリシュナはそれを瞬間移動で避けていく。その外見も相まって、まさしく忍者だ。

「シュアーッ」

 黒い影が消えては現れ、現れては消え、次々に温度が変わる。高温低温なんでもござれ。蛇特有のピット器官すら騙くらかす、それがウルトラマンクリシュナだ。

「ズァ……ラァッ」

 再度、トツカノオロチの背を踏み台にして飛び上がり、上空2000mからボディプレスの要領でトツカノオロチに伸し掛る。マウントポジションとなったクリシュナは、大きめのクナイでトツカノオロチの首を掻っ切ろうとした。

 その時であった。

 コツン、と足に何かが当たる。

「なんだあっ」

 僅かに視線を向ければ、怪獣保護を訴える連中が投石していた。リーダー格が指示を飛ばして、クリシュナ目掛けて石を投げる。

 たとえ些事だとして、しかしそれが沢山集まってくればイライラするというもの。いくらウルトラマンの一人であるクリシュナとて、感情自体は人間のそれだ。一瞬、クリシュナはそちらを睨んでしまった。

 自身への意識が途切れた瞬間、今だと思ったかトツカノオロチ、クリシュナの体に勢いよく巻き付くと、超高電圧の電気を流し込む! 

「アッ、ガラ、ガガガガ」

 痛みに苦しむクリシュナ、それを見てケラケラ笑うような仕草をするトツカノオロチ、そしてここぞとばかりに石を投げる愛護団体。TEAM PETAだったか。

 ────クリシュナの怒りは、そろそろ沸騰する。

「……っらぁ!!!」

 全身の筋力を高め、トツカノオロチの拘束を解く。そして引っ掴み、一本背負いの要領で叩き付けた!! 

 ────ぐちっ。

 余波で何人か死んだが、問題は無い。怪獣を取り逃がすことが問題だ。クリシュナは何とか立ち上がろうとした。

 瞬間、トツカノオロチは口を開くと、超高圧の水を放つ。それはクリシュナの肩を貫き、数刻遅れて痛みがやってきた。

「痛ッ!?」

 僅かにクリシュナの動きが鈍ったのを、トツカノオロチは見逃さない。勢いよく血の流れる肩に噛み付き、実にうまそうにクリシュナの生き血を啜る。

「ア、ガ、ゥガ、ガ、ガガカ、ジュ、ア」

「シャァーア!」

 勝ち誇ったような声を上げるトツカノオロチ。同時に、クリシュナのカラータイマーが、ピコンピコンと鳴り響く。

 流れる、流れる、光の血潮。血潮を啜られ、痙攣し、クリシュナの赤い目の光が虚ろになっていく。遠くなる意識の中、クリシュナは何かを確信したように、フフ、と笑う。

 瞬間、トツカノオロチの身体が一瞬硬直し、直後肩から口を離した! 

「こんなこともあろうかと、ぼかァ体内に毒を仕込んでてね……!!」

 そう言いながら、クリシュナは、肩に手を当てヒーリングする。外宇宙からの“レイキ”と呼ばれるスピリチュアル・エネルギーが体内に取り込まれるや否や、みるみるうちに肩の傷がふさがっていく! 

「覚えておけ! 僕みたいにウルトラ忍者部隊に居た連中は、全身が武器庫なんだあっ」

 クリシュナはそう叫びながらトツカノオロチの尾を掴み、愛護団体の居るであろう方面に目掛けてもう一度一本背負いする! 

 ────────バガン!! 

 コンクリートが大きくえぐれ、外道の血肉が飛沫となり、トツカノオロチの頭を衝撃が襲う。トツカノオロチは脳震盪を起こしたのか、びくりと全身を痙攣させ、やがて動かなくなった。

 それを見て、クリシュナはふう、とひとつ息を吐き、特殊な印を組みながら、『悪を滅する光を放つマントラ』を唱える。

 そして腕を十字に組んで、どす黒い稲光を帯びた青い光線────滅命魂光線(メツメイコンこうせん)を発射した!! 

「───────カ」

 滅命魂光線を浴びるトツカノオロチ! 

 断末魔の叫びをあげることなく、トツカノオロチは轟音を上げ爆発四散────サヨナラ!! 

「ヴァアアルルルラァ……。…………シュゥーアッチ!!」

 爆散する姿を見届け、クリシュナは空に消えた。赤い光がクリシュナの後を追った。

 ◇◆◇◆◇

 そのトツカノオロチのいた所には、カードが落ちていた。トツカノオロチが描かれた、禍々しいエネルギーを秘めた特殊なカード。

 それを、金髪の青年は拾い上げた。

「また変なカード拾ってる。ホルダーの中、ちゃんと入る?」

 銀髪の青年はそう言うと、くぁ、とあくびをする。それを聞いて、金髪の男はひとつ笑い。

「大丈夫だ。安心しろ優作」

「ならいいけど」

 ケラケラ笑う兄に、弟────優作は、一つため息をつく。

「イナナキとヴァスシェーナから連絡。動物愛護団体が集団で死んだ以外は殆ど人的被害はないってさ」

「アイツら殺すのは俺の仕事だったんだが……まあ面倒だったしいいか」

「そういう面倒くさがりなところやめときなさいよ兄さん」

 優作は皮肉げな表情をうかべる。

「……で、これからどうするつもり?」

「決まってるだろ?」

 少し息継ぎをして。

()()()()()()()()()()()、それだけだろ?」

 その金髪の男────朔間(サクマ) 幸吉(コウキチ)は、ニヤリと笑った。

 それを聞いた弟、佐久間(サクマ) 優作(ユウサク)は、呆れたような顔つきで、

「兄さんのそういうトコ、嫌いじゃないな」

 そう言った。

 ◇◆◇◆◇

 所は変わり、カラフルでサイケデリックで、何度も目に悪い空間に、道玄はいた。

「道玄。報告しろ」

 声が響く。男とも女とも取れる、そんな声が。

「地上にて突如トツカノオロチが出現したため私が対処致しました」

「そうか」孤児院の被害は?」

 声が被さる。これは男の声であった。

「早期対応を行いましたゆえ、損害はございません」

「よい、わかった。では下がれ。今後も引き続き頼むぞ? クリシュナ」

「お任せ下さい」

 ニィ、と口角を上げ、

()()()()()()()()

 道玄は────ウルトラマンクリシュナは、そう言って、煙と共に消えた。

「子供を育て上げ、ヤプールの戦力として鍛え上げる。順調に進んでいるようだな……! フ、ハハ、フハハハハハハ!!!」

「このまま行けば、ヤプール。お前が地球を手に入れるのも、もう遠くない未来かもしれないな。フフフフフ……!!!」

 ────異次元の中に、ヤプールとダークザギの哄笑が響き渡った。

 

 

 

 ────これは、あまたの孤児を受け入れる、異次元に就いたウルトラ戦士の物語。

 

 ────これは、地球を手に入れるために奔走する悪党の物語。

 

 ────これは、数多の戦士たちを引き連れて闘う、悪の化身(アヴァターラ)たちの物語。

 

 ────これは、たったひとつの地球を狙う、悪しき正義の物語。

 

 ────()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。正義が、悪が、全てが()()()()()、狂った世界。

 

 ウルトラマンクリシュナ

 Twisted(ツイステッド) Mahabharata(マハーバーラタ)

 

 ────開演(カイエン)シマス。

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