夜。
みのりは、学校の屋上のフェンスに寄り掛かり、下を見詰めていた。
普段ならば明るい筈の街並みは、住民が居ない為に暗く、そして静かだ。
まるで、今の彼女の心を映しているかの様に。
「こんな所で何をしているの?」
不意に背後から声をかけられる。聞き覚えのあるその声音に、振り返る。
夜闇に溶けるほどに暗く紅い髪に、血のように赤い瞳。纏った着物も、下駄さえも全て赤。
「…
考えていたのは、今まさに、目の前に居る人物の事で。けれど、それは願いもしない。
「…俺は戦線を下りる」
それでも、口を開けば本音が零れた。
「何故?」
それに対応する紅葉も、まだ静かに問いかける。
「気付いたんだ。…俺が傷付けば、
目の前の紅に視線を留め、全てを話す。
「俺は別にいい。…けど、あいつには傷ついて欲しくない」
その言葉を聞いた紅葉は、みのりに向かって1歩足を踏み出した。
闇に紛れたストレートの紅が揺れる。
「…そう。それなら仕方ない──
─影星の事を殺すとするよ」
「………は…?」
思考が固まる。漸く発した言葉は、たった1音。然し、そこには底知れぬ怒りが、本人すらも気が付かずに含まれていた。
「影星のせいでキミが戦いたくないなら、原因を潰せば解決する。安心しなよ、キミ、ヘヴィーの所で助手やってるんだから、前は何も気にせず戦えてたんでしょ。その状態に戻すだけだ」
「お前……」
空気が震える程の殺気が場を支配する。それさえも、紅葉は意に介さず、相も変わらず底冷えするような、光の無い瞳を真っ直ぐに向けた。
「嫌ならボクを止めてみれば?」
「ああ……そうさせてもらう」
踏み込み。
屋上に罅が入り、割れて砕け散る。
勢いで紅葉に殴り掛かるも、拳は空を切り、屋上の地を叩き割るに終わる。
瞬間的に背後に移動し、無防備な彼女を蹴り飛ばした。
「ッぐ…」
フェンスに衝突し、視界が一瞬真っ暗に染まる。
呼吸もし難く、力が入らない。
何とかフェンスを掴み、立ち上がる。
「…弱いね」
「…舐めんな…!」
みのりは、姿勢を低くし紅葉に飛び掛った。
─────
「………」
数分後、みのりは地に横たわっていた。
外傷は無い。ただ、的確に内部を傷付けられただけだ。
「終わりか。もうすこしやると思ったのに…」
カン、と下駄の足音が近付いてくることを悟って、静かに目を閉じる。
瞼の裏からでも眩しい光が迫って──
──消えた。
「…え」
思わず目を開くと、紅葉は背を向けて立っていた。
「そんなに簡単に諦めるな。キミは、影星の隣に立ちたいから夜鴉に鍛えてもらったんでしょ。それに、自力で新しい技を作り出す程努力家だ。ボクは、そんなキミにはまだ成長の余地があると思っている」
カツン、とまた下駄の音が鳴る。
「キミが本当に影星の事を大切に思うなら、逃げるんじゃなくて立ち向かうことだ。守りたければ強くなれ、だよ。自分の力で、今の状況を超えるんだ。そうすれば…」
風が吹き、赤黒い髪が横に流れる。
同時に、内傷が瞬く間に治癒されていった。
「大切な
最後にそれだけ言うと、闇に溶けるように転移した。
「…守る為に、強くなれ…か」
取り残された屋上で、みのりは一人呟く。
「…また、自信を持って、隣に立てるようにならないとな」
そんな独り言ちた言葉に呼応する様に、彼女に『才能』が発現した事を、まだ知らない。