異世界戦闘記ー表裏一体ー   作:紅色の落ち葉

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みのりが参戦しました。つまりそういうことです(どういう事)


再会

 みのりは一人、魔界研究所にて待機という名目で、留守番を任せられていた。

 戦力にならないから、という意味で待機を命じられた訳では無い。ただ、ヘヴィーに戦わないでくれと頼まれた為だ。本当は力になりたかったのだが、ヴァリネッタからの「相棒が帰ってきた時に生きてなかったらどうすんだよ」という言葉に負け、研究所内から外を見上げているのだった。

 ぼんやりと空を眺めていると、ふと、1つのワープホールが開いているのが見えた。裏世界の1つへと繋がっている物だ。どこに繋がっているのか、分からない。だが、ここに入ってもいいものか。

 正体不明の存在に直面した時、恐怖の対象として、触らぬ神に祟りなしを貫徹するか、若しくは、恐怖を和らげようと正体を暴くか。それは、人それぞれだろう。そして、みのりは後者だった。

 研究所から出、念の為に鍵をかけると、躊躇いなくワープホールの先の世界へと足を踏み入れた。

 

 そこが、相棒との再会の地になるとも知らずに。

 

─────

 

 影星が降り立った裏世界は、闇世界-メギド э-という世界だった。

 闇に包まれた世界。灯り等は無いが、視界が塞がれる程暗くも無い。見渡す限り暗い世界で、影星は1歩足を進める。

 刹那、影星の眼前の闇が蠢いた。それらは、人型を形作り、意志を持って動き始める。瞬く間に、10を超える闇の人形がその場で生成された。その人形は、影星を狙い、一直線に向かってくる。

 即座に横へ飛び退き、バズーカで魔力を撒き散らす。しかし、人形は1度砕けても直ぐに再生し、挙句には闇の中から新たに這い出てくる。キリのないその量に、魔力関係を懸念し、バズーカを即座に縮小し服に仕舞うと、迷いなく体術戦へと移行した。

 闇の人形へ蹴りを入れる。しかし、相手はノックバックこそすれど、ダメージを受けた様子は無い。なにより、足裏に伝わった感覚が、異常な程に硬い事に気付いてしまった。肉弾戦で不利な立場にある事は間違いないだろう。そして、紅葉はその事を知っていて、ここに送り込んだのだろうと勝手な推測を立て、沸々と怒りが湧いてくる。

 それがわかったところで、どうしようも無いのが現実だが。

 

 

 それから何分、何十分が経ったか。己よりも多い相手と戦っていれば、嫌でも体力は消耗される。一体蹴り倒す度、闇から新たな人形が産まれてくる。終わりの見えない戦闘に、流石の影星も鬱陶しく感じ始めるのも仕方ないと言える。

 

「はぁ…はぁ……多すぎやろ……しかも普通に強いじゃねーか…」

 

 僅かな間を縫って息を整える。闇の人形に気配を向けながら、視界内に不可思議なものが無いかを探った。

 視界内には無い。然し、この量はどう見てもおかしいと直感が告げる。もっと奥に、何かがあるのだろう。だが、奥へ行くにはこの闇の人形を片付けなければいけない。バズーカで強引に道を作り、奥の方へ見に行くか…と考えるも、追い詰められた場合のリスクは計り知れない。最悪、死んでしまう事も考慮すると、どうもいい手とは言えないようだ。

 思考する影星の耳に、足音が近付いてくるのが聞こえた。ヒールのような足音だ。そちらを見ると、翠眼を妖しく光らせ、金色の波打つ様な髪を靡かせた女性が、影星の方へ向かってきていた。この人物が『(キー)』だろうと影星は一瞬で察する。その間、闇の人形は背景と同化し、動きを止めて主を待っていた。

 

「初めまして」

 

 影星の正面で歩みを止めると、長い髪を揺らしながら、丁寧に頭を下げる。然し、その表情には優雅な笑みが刻まれており、余裕を醸し出していた。

 

「闇世界-メギド э-へようこそ。わたくし、この世界の(キー)、グロウ・シュヴェヴァリテと申します。御名前は?」

「は、だれが敵に名前言うと思ってるん?」

 

 グロウを睨みつけながら、服からバズーカを取り出す。その視線に気付いたのか、グロウは頭を上げると、影星の手元に視線を落とした。

 

「そうですね。…貴方はここで死ぬのですから、私の名前を教えましたが、貴方は教える訳にはいきませんね」

 

 闇に紛れた人形が、再び影星を狙ってゆらりゆらりと動き出す。影星は、バズーカに魔力を込め、人形へ先端を向けた。

 

「行きなさい、魔人形(レプリカ・ドール)。あの人間を引き裂いて」

 

 躊躇いなく、魔人形(レプリカ・ドール)をバズーカで焼き払い、そのままグロウへ一直線に突っ込む。しかし、今までの戦闘で疲労が蓄積していたのか、正常な判断が下せなかった。影星の背後では、既に新たに生成された人形が、彼女の背後へ迫り、彼女の体が闇で翳る。

 少し考えれば分かる事だが、その判断力すらも削られていた。

 

「しまッ……」

「ふふ、これで終わりですね」

 

 魔力の装填には時間が足りない。しかし、今更魔人形(そっち)の方を振り返る事も出来ない。

 

 ──あーあ、やっちまったな。

 

 そう心の中で呟いた時、背後の魔人形(レプリカ・ドール)があらぬ方向へ吹き飛ばされた。

 

「何…?何が起きたの?」

 

 混乱気味のグロウを置いて、背後を振り向く。

 綺麗な赤髪を2つに結び、どこかの制服と見間違える様な服を身に纏っている。黒い瞳は、影星を見据えていた。

 

「なあ…星辰…俺は…

 

 …お前の隣に立てるくらい強くなってるか?」

「…(みのる)

 

 影星から思わず溢れた名を聞き、みのり─否、穂はニヤッと笑った。

 

「久し振りだな、相棒」

「ああ…せやな」

 

 そう会話を交わしていた時、魔人形(レプリカ・ドール)が蠢きだす。それぞれ、別の方向へ素早く移動し、ターゲットを分散させる。言葉が無くとも、事前に打ち合わせたかの様な動き。

 

「頼んでいいか穂!」

「何だ?」

「この人形共のスポナーがどっかにあると思うんよ、だからそれ探して壊してきてくれねーか?」

「了解!」

 

 信頼の上に成り立つこの関係は、たった一つの世界如きが容易に断ち切れる物では無い。

 幾ら時間が開こうとも、影星はこの世界に招来され、同じ場所へと穂も入り込んで来た。

 

 これが運命、或いは必然。

 

「行かせません!」

「通さねーよ」

 

 世界の奥へと向かおうとする穂の静止に、グロウが動くが、影星が直ぐ様間に割り込み脛に蹴りを叩き込んだ。舌打ちを零し、後退するグロウを横目に、影星が魔人形へ攻撃を仕掛けようとした時。

 

「そっちは頼むぜ、星辰(あいぼう)!」

 

 その言葉に、影星は1ヶ月前の記憶を思い出す。

 あの時は、自らが穂に言葉を向けた。

 だが、今は違う。

 

「OK、任せろ(あいぼう)!」

 

 その返事を聞き、満足したのか穂は光速でスポナーを探しに行った。

 その姿を見ながら、グロウは嫌味ったらしく影星へと告げる。その表情には、先程までの笑みは浮かんでおらず、殺意の籠った鋭さを湛えていた。

 

「お友達ごっこは他所でやってくださいな」

「お友達ごっこか…はは、言うじゃねーか」

 

 影星の後部が揺らめく。

 

 巨大な燃える塊は、絶えず形を変えている。本人から、辺りを焼き焦がすほどの熱が放たれ、魔人形は少しずつ、しかし確実に熱によって体力を消耗している様だ。当然、グロウも無事では無いだろう。

 

 ──クトゥグア、生きている炎──

 

 グレート・オールド・ワンが一柱、クトゥグアをその身に憑依させた影星は、不敵に笑う。

 

「私らの事舐めてると火傷するぜ?

 

 ──闇世界の主(グロウ・シュヴェヴァリテ)

 

 

─────

 

 穂は、裏世界を駆け回っていた。スポナーが有れば良し、無ければ直ぐに影星の元へ戻り加勢するだけだ。

 光速移動の原理は、なんということもない。只、彼女の持つ光を操る能力を使っているだけだ。

 

 影星が不在の1ヶ月間で、穂がここまで強くなったのは理由がある。

 

 

 遡る事、影星が去って次の日。穂は、夜鴉の元へ出向いていた。

 

「私、強くなりたい」

「……」

 

 夜鴉の城の一室で、じっと相手の目を見つめる。その様子を見て、彼は静かに口を開いた。

 

「…理由は」

「影星の相棒として強くなりたい」

 

 一切目を逸らす事無く言い切ると、彼の美貌に冷笑が浮かぶ。その表情を訝しみ、穂は冷えた視線を突き刺した。

 

「…何がおかしい?」

「…お前、殺されそうになったんだろ…?そんな奴を相棒なんて」

「黙れ」

 

 思わず素に戻り、数段低い声で発した一言に、夜鴉は隠されていない漆黒の色を宿した瞳を細め、無表情へ切り替える。本気である事を読み取り、言葉の続きを待つ。

 

「確かに最初には会った時は殺されそうになった。でも影星なりの行動原理があった。それにあいつは素でいい、とも言ってくれた。お前には分からないだろうけど、元々男だった俺が女になって、慣れない性別で生活するのにどれだけの精神を削ったと思ってんだ。それだけじゃない、あいつらと遊びに行った時、俺はほんとに楽しかった。あいつらは悪じゃない。それに、」

「それに…?」

 

 一息置いて、穂は鋭い視線を和らげて呟く。

 

「俺を信じて任せてくれた奴を、信じない訳ないだろ」

 

 その言葉を聞いて、夜鴉は1人納得する。

 

「俺はあいつの親友で、それと同時に相棒だ。誰が何と言おうが変わらねえ」

 

 曲がる事の無い意志を感じ、夜鴉は部屋を出ようとし、足を止める。そして、穂の方へ僅かに身体を向けた。

 前髪が揺れ、隠されていた紅眼が露になる。左右異なる瞳に睨まれ、穂は言葉を失った。

 

「根上げたら殺す」

「は…え…?」

「…1ヶ月」

 

 その言葉に、穂は目を見開いた。

 

 その日から、朝から晩まで基礎から鍛え直す強化訓練が始まった。

 只管に身体を動かし、経験を身体に刻み込む。模擬戦に次ぐ模擬戦の中で、致命傷を受けた事も度々あった。だが、それも『隣に立てる程強くなりたい』という意思のみで、何度でも生死の境から抜け出しては、その度に確かな実力をつけてきた。初めこそ、光速に身体が耐え切れない事もあった。然し、2週間もすれば、身体を壊さず完全に速度を制御出来るようになった。

 何時しか、治癒力は飛躍的に上昇し、能力による自動回復も相俟って、受けた損傷は直ちに修復され、鍛えられたステータスは以前の何倍にも跳ね上がった。

 

 但し、上限解放だけは何度解放しても物に出来なかった。

 性質上、魔力を持たない穂は、寿命を削り通常の上限解放よりも強力な効果を得る事が出来る。その為だろうか、力をコントロールする事が難しい。重ねて、何度も解放を行っていたら、先に寿命が尽きてしまう。

 この世界には、寿命という概念は存在しない。

 ─穂以外は。

 転生方法が余りにも特異だった穂は、寿命という制限を受けたままになってしまったのだ。

 それでも、強くなったという実感は十二分に湧いてくる。

 

 誇りを持って、隣に立てるようにと今日まで自身を追い詰めてきたのだから。

 

 

 

 本格的な戦闘は、影星と初めて共闘した悪魔の影のとき以来だが、そんな事は感じさせない程機敏な動きで、闇世界を駆け回る。

 程なく、世界の片隅に薄ぼんやりとした灯りが見えた。目標を確認した穂は、一直線にその光に近付く。

 近付いて分かった事だが、その光は堅牢な檻の中に入っていた。丸く淡い光を放つそれは、周りが暗闇なだけによく映える。

 

「あの程度なら直ぐに壊せるか…」

 

 そう呟き、檻にターゲットを変えたその時。

 周囲の闇が吸収され、目の前に闇の塊が創り出される。その塊は、5mほどの巨大な体躯をした人型へと変形していった。

 目もない存在なのに、見下ろされている感覚に、穂は一つ深呼吸すると、戦闘態勢を取る。

 

「相棒に…無様な所は見せられねえよな」

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