穂と
「はは…会って早々負け戦は…
流石に、惨めすぎるよな」
その前に片をつけてしまおうと動き出す。体躯の割にはスピードのある攻撃も、今の穂には当たらない。振り下ろされた拳が地面に接触する。一瞬の隙を突き、腕下を通り身体へと近付く。
基礎から鍛え直したついでに、幾つもの力を自力習得にまで漕ぎ着けた。
天才で努力家。鬼才で貪欲。それが雨宮 穂という人間。
「【呪淵回路】」
その瞬間、全てが止まる。動き、時間、景色さえ、何もかもが凍りついたように動きを無くす。
静止した世界でただ1人、穂は右腕を振り翳す。光速を超えて迫ったそれは、
状態変化すら停止した此処では、物理法則も意味を成さない。因果律にまで干渉するこの力の中では、運動も許されず、止まった原子は僅かな衝撃でも崩壊する。
彼が得た、オリジナルで創り出した技。
「【リトルナイトメア】」
宣言と同時、再び世界は動き出す。
「終わったか。ほんとは一番最初にあいつの前で見せたかったんだよな…」
呟きながら檻を蹴り飛ばし、光へ近付く。触れると生暖かいが、特に身体などに異常は出ていないようだ。
何度か触れ、異常がない事を確認すると光を掴んだ。少し力を入れると、光は粒子となり空間内を流れる。流れた光は、闇の世界を巡り色々な場所へ灯りを灯す。
闇は光に浄化され、効力を喪った。
─────
「流石闇、光と炎には弱いんやな」
クトゥグアを憑依させ、熱を辺りに撒き散らしながらグロウに対し偽足を放つ。最早、
「貴方みたいな野蛮人がいるなんて聞いていませんでした。お行儀が悪いのね、どの様な教育を施されたのでしょう」
偽足を躱し、或いは跳ね返しながらグロウは笑う。然し、その表情には余裕は無く熱波の中で生まれた、だけではないのだろう汗を拭き、
「そんなんで私の攻撃受け止められると思ってるん?」
「思いません。ですが、貴方を殺す事は出来るでしょう」
「やれるもんなら…」
炎を纏った偽足が、一度にグロウへ向かう。全方位から捕捉しようと、
「やってみろよ!」
だが、グロウが
物質に対し、常に最大打点を叩き出せる代物だと解釈し、それは間違いないだろうと判断を下す。そうであれば、影星の模倣の才能にて再現も不可能ではない。今はまだ無理だが、実戦の中で何時間か試せば同じような事が自身の身体で出来るだろう。
たった偽足が使えなくなった程度。だが、あの剣が少しでも触れれば、忽ち死んでしまう。主な武器が徒手空拳である影星にとって、近距離戦の択が封じられる事は痛手。
そうであれば、寧ろ成長の機会。
「へー、なるほどな」
憑依状態であれば、どの様な攻撃でも神格が肩代わり出来る。例えあの
「んじゃ、行くか」
身体増強Lv14、そして神格憑依にて大幅に強化された身体能力で接近する。
その瞬間、
だが、発生した衝撃波で双方共吹き飛ばされる。クトゥグアの憑依は解除され、熱が収まると
「ッチ…」
神格憑依のデメリットとして、自分から消した場合は即時憑依が可能なのだが、消された場合の憑依はクールタイムが必要になる。
クールタイムは5分間。その間、他の能力を駆使する必要があるのだが。
「これ…まずいな」
長く戦っていた影星の身体は、想像以上に疲労が蓄積していた。
殴り合いへ発展した場合、持ち堪えられないのは目に見えている。
更に悪い事に、グロウは気絶していなかった。蹌踉めきながらも、手から離れた
「あいつがここにいるんだ…」
──負けらんねーよ。
言葉には出さず、代わりに行動で示す。
大きく息を吐き、グロウを鋭く睨みつける。
そして、人形の攻撃に備え回避体勢を取った時。
突如、
「…何だ?」
素早く世界内に意識を巡らせる。
光速で飛来する気配。
よく、知っている。
「…穂」
名を呼ぶとほぼ同時、その光は影星の隣に降り立った。
「予想通り、ってところか?とりあえず潰してきたけど合ってたみたいだな」
「ほーんと、ナイスすぎるわ」
相棒の手際の良さに感心半分、驚き半分の感情が胸の中で渦巻く。
「お前が大分時間稼いでくれたんだな、身体は大丈夫か?星辰」
「大丈夫だぜ、穂がいるから尚更」
信頼を乗せた瞳が、影星を見据える。言葉とは裏腹に、影星の無事を信じて止まない表情。
影星もまた、片目を閉じ、穂へ信用の念を向ける。
「そろそろ片付けようぜ穂!」
「了解!」
魔力を異質に形取り、生成されるは巨大な鏡。
影星が創造した銀鏡に、穂が生み出した閃光が収束される。
銃の形を取った指先同士が、触れ合う。
「【
声が重なり、光が弾ける。
闇の一欠片も残さず、軈てこの空間内は光で覆われた。
光が収まると、辺りは再び闇に染まる。
腕を下ろし、一息ついて気配を探る。どうやら、グロウはいなくなったようだ。殺してはいないだろう、恐らくは。
空間は未だ保たれている。崩壊しないということは、生きているという事。
表世界に逃げたのか、裏世界で気絶しているのかは分からないが、一先ずは紅葉の言う通りになったようである。
「終わったってことでとりま戻ろーぜ、いつまでもここにいても仕方ないやろ」
「でも俺勝手に来たんだよな…大丈夫か?」
「平気平気、適当に言っときゃいけるだろ」
唐突に気弱になる穂の手を引き、闇世界から出る。
影星が入った所と同じワープホール。目の前には学園があり、その前に紅葉が立っている。
空はもう暗く、何時間も経っていたのだと感じながら、二人は紅葉の元へと向かった。
「帰ってきたぜ、多分解決したと思うわ」
「多分、じゃないよ。…あれを見て」
出入り口のワープホールを指す紅葉。言われた通りに見ていると、すっと出入り口が縮小し、空に溶けて消えた。
「…消えた?」
「入る必要が無くなったって事。死ぬかと思ったけど、生きてたのか」
「は?お前どういう意味だ?」
鬱陶しそうに影星を見る紅葉。その紅葉に、徹底抗議の姿勢を見せようとした影星を何とか止めて、穂は遠慮がちに口を挟む。
「えーっと…一応俺も戦ってきたけど…大丈夫か?」
「いいんじゃない。キミの相棒が戻ってきたんだし。そこまではボクには関係ない」
紅葉然り、夜鴉然り、穂に対しての扱いは全てヘヴィーに任せている。退くも進むも彼次第。若しくは、ヘヴィー次第なのだが、ヘヴィーは穂の気持ちを尊重するだろう。
「まあ、生きて帰っては来たんだしとりあえず協力してもらうね、影星。別に難しい事じゃなかっただろ?」
「意外と楽しかったわ、楽勝だったしな」
チラ、と影星を一瞥するも、すぐにどうでもいいと言いたげに、学園の方へ視線を投げた。
「そう。もう夜遅いから今日は休んで。その時が来たら頼むよ。後…みのりは研究所に──」
「おっとその必要は無いぞ」
影星に休むよう促し、穂はどうしようかと考えながら、とりあえず研究所に送り返そうとした時。
近付いてくる2人分の足音と共に、やけによく通る声が3人の鼓膜を震わせた。
「ヘヴィー、ヴァリネッタ」
「みのりが戦いたいと言うのであれば私は止めない。さあ、どうする?」
紅葉に名を呼ばれたヘヴィー・プラネットホームは、紅葉から3歩ほど離れた所に立っている。その後ろでは、ヴァリネッタ・クロスディールが何も言わずに控えていた。
「私は…影星と一緒に戦いたい」
穂は、ヘヴィーと紅葉を交互に見遣り、最後に強い意志を秘めた瞳を影星に向ける。
その言葉を聞き、ヘヴィーは僅かに頷いた。
「貴様の好きなように行動する事を許可する。呉々も死ぬな」
「勿論。分かってる」
そして、分かっていたかのように、ヘヴィーは新たな指示を出す。
斯くして、穂は表裏戦争に影星と共に参戦する事となった。それと同時に、この世界の中心戦力の一角として少しずつ、頭角を現していく事を、未だ誰も知らない。
これ書いてて思う
ルビ多すぎて死ぬ