異世界戦闘記ー表裏一体ー   作:紅色の落ち葉

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白銀世界-アルブス С-

 学園内に向かった影星と穂を見送ったヘヴィーは、鎌を召喚してから紅葉に歩み寄る。

 

「それで、私達を呼んだ理由は?」

「夜鴉に聞いて」

 

 投げやりに言うと、紅葉は学園内に戻っていく。その後ろ姿を見て、ヴァリネッタは舌打ちをしてから漸く話し出す。

 

「あいつふざけてるよな」

「今更か?」

 

 その言葉に、再度舌打ちをしながらナイフを手の中で弄ぶ。不機嫌なヴァリネッタの様子を横目に、ヘヴィーは夜鴉へ念波会話(テレパシー)を繋いだ。

 繋いだとは言っても、渋々、である。大魔王とは馬が合わない。

 

『…で、この深夜に私達人間を何処に動かす気だ?』

 

 開口一番の嫌味も軽く流し─というか聞いていなかった─夜鴉は淡々と告げる。

 

『水世界-アクア μ-に行け。それくらいなら出来るだろ…』

『当たり前だ。場所はどこにある?』

『…水鏡の深潭の最深部』

『分かった。私達を選んだ理由は?』

 

 水鏡の深潭。その場所は、永克覇王(えいこくはおう)という魔王グループの管理下にある。態々ヘヴィー達を動かすよりも、永克覇王が行った方が早い。勿論、ヘヴィーが行きたくないというものが本音に含まれているが。

 

『…連絡が取れない』

『は?どういう事だ?誰と取れないんだ?』

『…彼奴ら全員と』

 

 ヘヴィーは少しの間、思考を動かす。

 

 念波会話(テレパシー)が届かない場所の心当たりは二つ。

 一つは光星の洞窟の内部。ナイティア・ノクト・ブラッドノヴァ率いる暗影の祝園(ダークファンタジア)の支配下の一角。暗黒の平原にある洞窟だが、平原は光があったとしても、とても入れるような場所ではない。仮に運と勘で辿り着けたとしても、特殊な光─三月に一度現れる星から放たれるものだ─がなければ、内部には入れない。転移さえも不可能な不可侵領域だ。

 もう一つは裏世界。一歩足を踏み入れれば、外部からの念波会話(テレパシー)は完全に遮断される。今のこの状況で可能性が高いのは裏世界。

 

『勝手に乗り込んだのか』

『…そうかもな…』

 

 特定は不可能。水鏡の深潭にあるワープホールへ向かったのかも分からない。

 

『…だから私達に生存確認を兼ねて行ってほしいという事か』

『ああ…』

『仕方ない。…貴様の言う事を聞きたくは無いが、事情がわかったからな』

『助かる…』

 

 言葉を聞き、念波会話(テレパシー)をさっさと切り上げると、ヴァリネッタへ向き直る。

 

「という事で、私達はこれから水鏡の深潭に行く。いいな?」

「拒否権とかねぇんだろうなあ…ま、仕方ねぇ」

 

 手の中で持て余していたナイフを持つと、ヴァリネッタは指定された場所へ歩き出す。その後を追って、ヘヴィーもゆっくりと歩みを進めた。

 

─────

 

 その頃、話に上がっていた永克覇王は裏世界の一つ、白銀世界-アルブス С-の内部にいた。

 五感全てが奪われた状態で、どこに進めばいいのかも分からない。気配を辿り、辛うじて全員で固まっているが、戦いにくくなるのは目に見えている。

 

「どこなのぜ…どこまで行けばいいんだぜ…分からないのぜ…怖いぜ…」

 

 誰にも聞こえないのをいい事に弱音を吐くのは、永克覇王のリーダー格、威弧燈(いこどう)だ。聴覚と視覚が塞がれているだけで、ここまで不安になるものだとは思わなかったのだ。いつも強気で煩い本人とはかけ離れているが、周囲の鼓膜を考えればいい事なのだろう。

 

「……ん?」

 

 そこでふと、気が付いた。

 能力が封じられているわけでは無いのだから、能力でこの状況を打開出来るのでは?と。

 恐怖で完全に忘れていたが、良く考えれば打つ手はあった。

 

「たまには言葉に出すのもいいのぜっ!!」

 

 元気を取り戻した威弧燈は、通常運転の通常音量へ戻る。耳を塞いでいても鼓膜が破れてしまいそうな程の大声。無駄に明るく、そしてポジティブシンキング。それが取り柄である。

 

 能力の一つ、【威永者(ミライアルモノ)】にて、奪われた五感のリセットを行う。

 広がる世界が眩しい。

 何処までも続く真っ白な世界。

 そして。

 

「さっっっむ!!」

 

 摂氏-273.15℃。絶対零度下に、永克覇王の9人は放り出されていた。

 

─────

 

「マジで死ぬ…死ぬ…」

 

 数分と持たず死ぬ様な気温で、辛うじて死ななかったのはクレセントダイバーに温度変化無効を付与されていたおかげである。だが、あくまで影響を無効にするもの。つまり、この気温下で凍ったり死んだりしないということ。感覚はどうあっても残ったままだ。この状況で耐性を消されてしまえば、全員漏れなく凍結してしまう。そうでなくとも、異例の寒さに身体ではなく心が悲鳴をあげている。

 今も、死ぬ、死ぬと五雨月(さみだづき)が繰り返している。こんな事になるなら、いっそ何も感じない方が良かったのではないかと、威弧燈は今頃になって阿鼻叫喚の極寒地獄を噛み締める。斯く言う威弧燈も、余りの寒さに1度得た元気の半分を失ってしまった。

 

「…ど、どうする?」

 

 群樺离(ぐんかり)が広がった世界を眺めながら威弧燈に問う。

 威弧燈も世界を見渡すが、(キー)らしき人物は見当たらない。

 

「とりあえず、探すだけ探──」

「威弧燈危ない!」

「ッ…!?」

 

 音も気配もなく、いつの間にか背後に忍び寄る人物。

 辛うじて蘭葉蘭(らんはら)の警告により躱す事が出来たが、反応があと一歩でも遅ければ気絶所か死亡まで有り得ただろう。

 水色の腰まである長い髪を靡かせ、青いドレスを身に纏っている。極寒の世界の中、涼し気な顔をして水色の瞳を光らせた少女。

 白銀世界の(キー)だ。

 

「あー!見つかっちゃったのです!」

 

 くすくすと笑いながら、9人を眺める少女。

 

「名を名乗れ、卑怯者!」

 

 狛香綺(はくがき)の威圧にも動じず、それ所か「あちゃー、忘れちゃってたですのー!」とわざとらしく困り顔をしてみせる。

 その表情は、一瞬で消える。

 

「ワタシは白銀世界-アルブス С-の鍵、名前はー…ノウと呼ばれているんですの!」

 

 そして、自身の身長の3倍はあろう槍を召喚し、尖端を威弧燈へと真っ直ぐに向ける。並々ならぬ殺気と、凍てつくような視線で睨みつけると──

 

「っく…!」

 

 蘭葉蘭が割り込み、威弧燈へ刺そうとした槍を抑え込む。しかし、触れた先から手が溶けている。

 

「ここでみんな死んじゃうんですの!」

 

 細胞の壊死と融解。槍に込められた力は、ノウの能力の劣化版。

 【効果付与(アライメント)】という能力により、武器全体へ能力の一端を仕込んであるのだ。

 

「気を付けて、意外と、身体能力…高い、かも…」

 

 ノウを蹴り飛ばし、槍から離れるも、蘭葉蘭の手は刻一刻と溶けていく。

 

「…それに槍、触ったら…ダメ」

「…そうみたいだ」

 

 威弧燈は少し考えた後、世界全体を見て判断する。

 

「一度退くのぜ!このまま戦闘続行は、いざという時に撤退できなくなるのぜ!」

 

 この瞬間にも、出口が氷によって固められていく。

 今の自分達では力不足。能力で押し込めない事もないが、そもそも永克覇王は魔力が多い訳では無い。乱用は危険だと判断した。

 どちらかと言えば、能力に頼らない戦闘を得意としている為、必然的に魔力量が少なくなったとも言える。9人全員合わせても、同じく体術戦に特化した夜鴉よりも遥かに少ない。

 

「今帰るなら見逃しちゃうんです!えっへっへ、ノウってすっごく優しいから!」

 

 途端に機嫌が良くなったノウは、槍を振り回しながら出口を指し示す。

 

「でもここで撤退なんて!」

「落ち着くのぜ盗禀己(とうき)!」

 

 殺意を向ける盗禀己を宥めながら、威弧燈は出入口の方へと身を翻す。その後を8人が続くのを見て、ノウは面白可笑しそうに嗤った。

 

「オレらじゃないのぜ、次に来る奴がお前を倒しに来るんだぜ!」

 

 忌々しげに睨み、威弧燈は吐き捨てる様に言う。

 こうして、永克覇王は白銀世界-アルブス С-に敗北を喫す事になる。

 

─────

 

 夜鴉は、生徒会室で各地の戦況を一度に見ながら手配を行う。

 邪王を模した影が出現したと報告を受け、急遽悠衣と白槍を送り出した。本物の邪王には、天萊と羅刹を向かわせ、水世界-アクア μ-へは守護者2人に行くように指示をした。

 雨飾からは、何の連絡もない。

 外部─例えば、魔界や天界、冥界等だが─からの侵略者が来たら判断出来るよう、感知結界を世界中に張り巡らせている。もしも、来るのであれば雨飾が即座に感知する。

 相手が彼でなければ、気が付かなかっただろう。

 

「…気付かれないとでも思ったか、闇世界」

 

 その言葉に、悔しげな表情を浮かべながら、グロウ・シュヴェヴァリテが現れる。

 影星と穂の合体技を受ける瞬間、表世界へ逃げ出したグロウは、能力、【完全一致(パーフェクト・マッチ)】にて結界と同化し感知されないように降りてきた。それなのに、勘づかれてしまった。

 更に不幸な事に、目の前には大魔王の中でもかなりの実力と評される司令塔。

 勝利の目は既に無いが、見逃してはもらえないだろう。

 

 グロウは諦め、細剣(レイピア)を取り出す。

 夜鴉は、念波会話(テレパシー)で紅葉に、グロウと交戦する旨を伝え、戦闘態勢に入った。

 

 彼が気が付いた理由、それは未来予知。

 もう少し言うのであれば、未来誘引。彼が望む未来を手元に引き寄せる能力。

 その能力で未来を手繰り寄せたのだから、気が付いたというには少し語弊があるのかもしれないが、そんな事、彼にとっては瑣末なことである。

 




次はちゃんとヘヴィー&ヴァリネッタ+夜鴉で1日目終わらせる予定(予定)
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