学園内に向かった影星と穂を見送ったヘヴィーは、鎌を召喚してから紅葉に歩み寄る。
「それで、私達を呼んだ理由は?」
「夜鴉に聞いて」
投げやりに言うと、紅葉は学園内に戻っていく。その後ろ姿を見て、ヴァリネッタは舌打ちをしてから漸く話し出す。
「あいつふざけてるよな」
「今更か?」
その言葉に、再度舌打ちをしながらナイフを手の中で弄ぶ。不機嫌なヴァリネッタの様子を横目に、ヘヴィーは夜鴉へ
繋いだとは言っても、渋々、である。大魔王とは馬が合わない。
『…で、この深夜に私達人間を何処に動かす気だ?』
開口一番の嫌味も軽く流し─というか聞いていなかった─夜鴉は淡々と告げる。
『水世界-アクア μ-に行け。それくらいなら出来るだろ…』
『当たり前だ。場所はどこにある?』
『…水鏡の深潭の最深部』
『分かった。私達を選んだ理由は?』
水鏡の深潭。その場所は、
『…連絡が取れない』
『は?どういう事だ?誰と取れないんだ?』
『…彼奴ら全員と』
ヘヴィーは少しの間、思考を動かす。
一つは光星の洞窟の内部。ナイティア・ノクト・ブラッドノヴァ率いる
もう一つは裏世界。一歩足を踏み入れれば、外部からの
『勝手に乗り込んだのか』
『…そうかもな…』
特定は不可能。水鏡の深潭にあるワープホールへ向かったのかも分からない。
『…だから私達に生存確認を兼ねて行ってほしいという事か』
『ああ…』
『仕方ない。…貴様の言う事を聞きたくは無いが、事情がわかったからな』
『助かる…』
言葉を聞き、
「という事で、私達はこれから水鏡の深潭に行く。いいな?」
「拒否権とかねぇんだろうなあ…ま、仕方ねぇ」
手の中で持て余していたナイフを持つと、ヴァリネッタは指定された場所へ歩き出す。その後を追って、ヘヴィーもゆっくりと歩みを進めた。
─────
その頃、話に上がっていた永克覇王は裏世界の一つ、白銀世界-アルブス С-の内部にいた。
五感全てが奪われた状態で、どこに進めばいいのかも分からない。気配を辿り、辛うじて全員で固まっているが、戦いにくくなるのは目に見えている。
「どこなのぜ…どこまで行けばいいんだぜ…分からないのぜ…怖いぜ…」
誰にも聞こえないのをいい事に弱音を吐くのは、永克覇王のリーダー格、
「……ん?」
そこでふと、気が付いた。
能力が封じられているわけでは無いのだから、能力でこの状況を打開出来るのでは?と。
恐怖で完全に忘れていたが、良く考えれば打つ手はあった。
「たまには言葉に出すのもいいのぜっ!!」
元気を取り戻した威弧燈は、通常運転の通常音量へ戻る。耳を塞いでいても鼓膜が破れてしまいそうな程の大声。無駄に明るく、そしてポジティブシンキング。それが取り柄である。
能力の一つ、【
広がる世界が眩しい。
何処までも続く真っ白な世界。
そして。
「さっっっむ!!」
摂氏-273.15℃。絶対零度下に、永克覇王の9人は放り出されていた。
─────
「マジで死ぬ…死ぬ…」
数分と持たず死ぬ様な気温で、辛うじて死ななかったのはクレセントダイバーに温度変化無効を付与されていたおかげである。だが、あくまで影響を無効にするもの。つまり、この気温下で凍ったり死んだりしないということ。感覚はどうあっても残ったままだ。この状況で耐性を消されてしまえば、全員漏れなく凍結してしまう。そうでなくとも、異例の寒さに身体ではなく心が悲鳴をあげている。
今も、死ぬ、死ぬと
「…ど、どうする?」
威弧燈も世界を見渡すが、
「とりあえず、探すだけ探──」
「威弧燈危ない!」
「ッ…!?」
音も気配もなく、いつの間にか背後に忍び寄る人物。
辛うじて
水色の腰まである長い髪を靡かせ、青いドレスを身に纏っている。極寒の世界の中、涼し気な顔をして水色の瞳を光らせた少女。
白銀世界の
「あー!見つかっちゃったのです!」
くすくすと笑いながら、9人を眺める少女。
「名を名乗れ、卑怯者!」
その表情は、一瞬で消える。
「ワタシは白銀世界-アルブス С-の鍵、名前はー…ノウと呼ばれているんですの!」
そして、自身の身長の3倍はあろう槍を召喚し、尖端を威弧燈へと真っ直ぐに向ける。並々ならぬ殺気と、凍てつくような視線で睨みつけると──
「っく…!」
蘭葉蘭が割り込み、威弧燈へ刺そうとした槍を抑え込む。しかし、触れた先から手が溶けている。
「ここでみんな死んじゃうんですの!」
細胞の壊死と融解。槍に込められた力は、ノウの能力の劣化版。
【
「気を付けて、意外と、身体能力…高い、かも…」
ノウを蹴り飛ばし、槍から離れるも、蘭葉蘭の手は刻一刻と溶けていく。
「…それに槍、触ったら…ダメ」
「…そうみたいだ」
威弧燈は少し考えた後、世界全体を見て判断する。
「一度退くのぜ!このまま戦闘続行は、いざという時に撤退できなくなるのぜ!」
この瞬間にも、出口が氷によって固められていく。
今の自分達では力不足。能力で押し込めない事もないが、そもそも永克覇王は魔力が多い訳では無い。乱用は危険だと判断した。
どちらかと言えば、能力に頼らない戦闘を得意としている為、必然的に魔力量が少なくなったとも言える。9人全員合わせても、同じく体術戦に特化した夜鴉よりも遥かに少ない。
「今帰るなら見逃しちゃうんです!えっへっへ、ノウってすっごく優しいから!」
途端に機嫌が良くなったノウは、槍を振り回しながら出口を指し示す。
「でもここで撤退なんて!」
「落ち着くのぜ
殺意を向ける盗禀己を宥めながら、威弧燈は出入口の方へと身を翻す。その後を8人が続くのを見て、ノウは面白可笑しそうに嗤った。
「オレらじゃないのぜ、次に来る奴がお前を倒しに来るんだぜ!」
忌々しげに睨み、威弧燈は吐き捨てる様に言う。
こうして、永克覇王は白銀世界-アルブス С-に敗北を喫す事になる。
─────
夜鴉は、生徒会室で各地の戦況を一度に見ながら手配を行う。
邪王を模した影が出現したと報告を受け、急遽悠衣と白槍を送り出した。本物の邪王には、天萊と羅刹を向かわせ、水世界-アクア μ-へは守護者2人に行くように指示をした。
雨飾からは、何の連絡もない。
外部─例えば、魔界や天界、冥界等だが─からの侵略者が来たら判断出来るよう、感知結界を世界中に張り巡らせている。もしも、来るのであれば雨飾が即座に感知する。
相手が彼でなければ、気が付かなかっただろう。
「…気付かれないとでも思ったか、闇世界」
その言葉に、悔しげな表情を浮かべながら、グロウ・シュヴェヴァリテが現れる。
影星と穂の合体技を受ける瞬間、表世界へ逃げ出したグロウは、能力、【
更に不幸な事に、目の前には大魔王の中でもかなりの実力と評される司令塔。
勝利の目は既に無いが、見逃してはもらえないだろう。
グロウは諦め、
夜鴉は、
彼が気が付いた理由、それは未来予知。
もう少し言うのであれば、未来誘引。彼が望む未来を手元に引き寄せる能力。
その能力で未来を手繰り寄せたのだから、気が付いたというには少し語弊があるのかもしれないが、そんな事、彼にとっては瑣末なことである。
次はちゃんとヘヴィー&ヴァリネッタ+夜鴉で1日目終わらせる予定(予定)