異世界戦闘記ー表裏一体ー   作:紅色の落ち葉

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今回はちょっと描写注意回です


贋作世界-ヴェルス И-

「…という事らしい」

「めんっっっど」

 

 穂に叩き起された。それは別にいい。

 

 なんで寝起きで紅葉の伝言聞かなきゃなんねーんだよ意味わかんねーわすり潰すぞ。

 

「まあそんな事言わないでくれよ。俺はお前に強くなった所を見せたい」

「んー…」

 

 とは言え、相棒の頼みやしなあ…それに戦えるし…行かない選択肢は私としてもないんよな…上手く行けば色んな技とか盗めるかもやし…殺せないのは残念だけど。

 

「まあいいぜ、お前と一緒に戦うの楽しいしな」

 

 1人で戦う方が自己判断で動けるし好きなこと出来るから楽なんやけど。でも久しぶりに会えたんやし…

 

 たまにはいっか。

 

─────

 

 紅葉の「起きたら夜鴉の所に行って」とかいう、どこにいるかもわかんねー奴に会いに行けとかの伝言を受けて、とりあえず外に出る。

 

 外に出たらいた。

 

 校舎が半壊したのか、建物があったはずの場所は瓦礫が積み重なっているだけ。その上で、足を組み座る黒髪の男。

 

 一日で何があった?

 

「…来たか」

 

 で、なんでこいつはこんな涼しい顔してるん?

 

「その前に何があったのかだけ教えてくれませんかね?」

 

 穂が、至って丁寧な言葉で、それなのにどこかに怒りや困惑やその他の感情を含んだ声と表情で問いかける。こいつと穂って、そんな仲良いのか?いや、仲悪いから敬語なんか。なんかよくわかんねーな。

 

「…裏世界のやつに絡まれた…だけだ」

「誰だよそれ」

「説明になってねーだろ」

「…グロウ・シュヴェヴァリテ」

「あいつ生きてたんか」

 

 闇世界の(キー)か。仕留め損ねちまってたんやな…逃げられたこともちっと考えてはいたけど、マジでこっちに逃げてきたとはな。

 って事は、これからも逃げられる可能性があるんやな。

 

「…で、どうせ行って欲しい世界やろ?どこだよ」

「贋作世界-ヴェルス И-…なん、だが」

「だが…?珍しく歯切れ悪いな」

 

 夜鴉は少しだけ言い淀む。というより、言葉を選んでいる?

 

「…かなり…遠い…」

「は?それだけか?」

「…そう、だな…」

 

 敵がめちゃくちゃ強いとか、行くまでの道が塞がってて簡単には行けないとか、そういう奴だと思ってたのにただただ遠いだけ?なんだそれ。

 

「それくらいなら余裕だわ、場所は?」

「安寧の氷華山…の、途中の洞窟だ」

「よし座標わかんねーけど行くか」

 

 適当に門の創造を展開する。どうせ出口は後からだって直せるんやし、とりあえずそれっぽい所に出られるか試してみるか。

 

「…出口が分からない…か…」

 

 夜鴉はそう呟くと、門に向かって何かを唱える。

 

「……座標を設定した。…ついでに、最適化もな」

「最適化?」

「…座標を必要としなくなった。…で、説明はいいか?」

「ほーん…よく分からんけどさんきゅ」

 

 夜鴉のよくわかんねー温情に適当な感謝をして、穂の手を引き門を通った。

 でも移動は前より楽になったし、戦闘にも相変わらず活かせるやろし、私側が何かしなくても良くなったのはいい事やな。

 

─────

 

 門の創造で転移したのは、砂利小道。横には木がこれでもかと生い茂っている。黒い仔山羊が出てきてもおかしくねーくらい。向こうに山は見えるけど…入口は作れるのに、私らが今いる地点より奥に出口は作れない。阻害されてるっぽいな。この山がそうだからなのか、そんな簡単にワープホールには行かせねーよってことか。

 

「行こうぜ穂、この先は徒歩じゃないと無理っぽいわ」

「…あ、ああ」

「…?穂、どうした?」

「…何でもねえ」

 

 穂の身体も声も、何でかわかんねーけど小刻みに震えている。

 碌に舗装されていない道を歩きながら、穂はずっと下を向いている。私がなんか話しかけても生返事しかない。どうしたんやろ?でもさっき何でもないって返されちまったしなあ…

 

「…俺、ここに転生してきたって話したよな」

「ん?そういや言ってたな。私がお前を殺そうとした時やろ?」

「…それだ」

 

 急に話しかけてきたかと思えば、大分前の話を掘り返されて、戸惑いながらも答える。

 

「転生してきた時の初期スポに近いのがここ」

「おん」

「で、俺がここに転生した時…」

 

 その時。

 

 穂の声に重なるように、右側の森林から沢山の足音が聞こえる。

 いやこれ人にしては重くねーか?

 その音を聞いて、穂の顔が青ざめる。

 

 姿を現したのは、ケンタウロス的な見た目をした動物…魔物?…の、群れ。その数、6体。

 

「…こいつに襲われた」

 

 パッと見て、心当たりのある神格がいないか脳内検索する。

 いない。って事は、こいつはこの世界に存在する謎の何か。

 

「…よし穂」

 

 さっきこいつに襲われたって言ってたな。

 ならチャンスやろ。今の穂にこいつらを倒せるか、力試ししてもらうか。

 

「なんだ?」

「そいつら全員殺せ」

「は、はあああああ!?」

「私の前で強くなった所を見せたいんやろ?なら今ここで証明しろ」

「鬼かよ!」

 

 そんな事を言いながらも、穂は深呼吸して敵を睨みつけた。相変わらず顔色は悪い。

 とりあえず、自分には対物理最強格の結界を張って被弾を防ぐ事にする。安全圏から見てるわけじゃねーぞ、出来れば私も戦いたいんやけど、穂に克服させる為やからな、仕方ないな。

 

「くっそ…ああいいだろう、俺がお前の隣に立つためにどれだけ努力したか!見てろ!!」

 

 ピッと私に指を突き立て、そしてケンタウロス的な奴の群れに無防備に突っ込んで行った。

 嘘だろあいつ。捨て身特攻か?

 

「覚悟しろよモンスター!」

 

 突進を躱し、空中に飛び上がった穂の顔は明らかに引き攣っていた。やばそうなら私が入ればいい──その考えは、次の穂の行動に壊された。

 

「【付術(エンチャント)絶死の炎(アブソリュートデスファイア)】!」

 

 赤黒い火球が6つ、穂の周りに現れる。一つ一つの大きさは、片手で握れるくらいのサイズ。それらは、ケンタウロス的な奴に一直線に飛んでいく。

 ケンタウロス的な奴は、何かを吠える。すると、奴らの目の前に透明な結界…バリアが張られる。が、穂の放った火球はいとも容易くバリアを破壊し、ケンタウロス的な奴らはその球に直撃する。

 直撃したそいつらは、声を上げながら黒い煙を上げて消滅した。火球はそれ以上飛ぶことなく、同時に消える。周囲への被害は一切皆無。それなのに、一撃だった。

 

 今の…掠ってもアウトだろ、間違いなく。

 大きくなかったからどれくらいとかは断定出来ねーけど、平気で国の一つは終わらせられそうな火力してたな…

 

「…ふ、はは」

 

 地上に降りた穂が、突然笑い出す。どこの悪役だその笑い方。

 

「はーはっはっはっは!!!はぁー……見てたか相棒!!」

「見てたからちょっと落ち着けよ」

 

 急にテンションが壊れた穂を宥めながら、自分に張っていた結界を解く。多分さっきのやつ、この結界じゃ耐えられねーんだろーな。

 

「気は済んだか?先進もーぜ」

「ん?ああ、そうだな」

 

 元々言い出したのは私やけど、本人が都合よく忘れてくれてるからこれ以上は突っ込まなくてもいいか。

 

─────

 

 それから1時間ちょい歩いて、山の麓まで辿り着く。これからこの山登るんか…しかもこの中から洞窟を探す…

 

 無理じゃね?どこら辺にあるか分かってれば別やけど、無闇矢鱈に探すのは時間と体力の浪費じゃね?

 

「…どうする星辰」

「んー…」

 

 …そういや、夜鴉は出口が分からないから座標を設定してくれたんだったな。後「最適化した」とも。

 って事は、洞窟の入口はこっち側にある且つ、途中って言ってたから山頂と山麓は有り得ない。となれば…<目星>で洞窟の入口っぽいとこ探すしかないか。

 

「…登りながら探すぞ、多分そんなに高いところにもねーと思う」

「あいあいさ」

 

 穂の楽しそうな声を聞いて、余裕だと確信する。私も体力はまだまだ有り余ってっから、休むこと無く上に進んだ。

 

 

「ところで星辰、お前強化がなんとかって言ってたよな」

「あー、そういや強化忘れてたわ。しながら行くか」

 

 どうせ見られても読めないんやし、そもそも穂やし適当に召喚しても大丈夫やな。

 

==========

表世界 身体増強Lv4

    HP増強Lv3

    MP増強Lv4

コスト:1

魔界  身体増強Lv8

    HP増強Lv7

    MP増強Lv8

コスト:640

裏世界 身体増強Lv1

    HP増強Lv1

    MP増強Lv1

コスト:88

=====目次=====

HP増強

MP増強

身体増強

呪文

コスト

=============

 

 コストすっくねえな…殆どはクトゥグアを降ろした時の偽足の熱か。多分こいつらも「力を持った奴はコスト2倍」とやらの対象やろし、殺した数ほんとに少ねーんやな。

 とりあえず身体増強振っときますか。

 

=====身体増強=====

Lv1

強化後 Lv1→Lv2

コスト:1

===============

 

「相変わらず内容読めねえな…」

 

 浮いた本に手を翳しながら登山する人間とか変人だろ。まあ誰も見てないだろうからいいけど。

 

=====身体増強=====

Lv5

強化後 Lv5→Lv6

コスト:32

===============

 

 残りコストは57…MPでも増やしとくか。

 

=====MP増強=====

Lv1

強化後 Lv1→Lv2

コスト:1

===============

 

「おい足元気をつけろ!」

「え?──う、わ!?」

「危ねぇ!」

 

 本の方見てたから石に躓いた所を、穂に支えてもらって何とか転ぶのは避けられた。…んやけど。

 

「お前意外とドジっ娘か?」

「んなわけねーだろ」

「おうおうおーう、照れてるのか?」

 

 ニコニコしながら私の腕を掴む穂にちょいイラッとした。普段やられたらこいつでも1発くらい蹴り入れるんやけど、助けてもらったんやし流石にやめとく。

 

「お前じゃなかったらとっくにこの世にいねーぞ」

「怖い怖い」

 

=====MP増強=====

Lv5

強化後 Lv5→Lv6

コスト:32

===============

 

 よし…こんなもんでいいやろ。

 

==========

表世界 身体増強Lv4

    HP増強Lv3

    MP増強Lv4

コスト:1

魔界  身体増強Lv8

    HP増強Lv7

    MP増強Lv8

コスト:640

裏世界 身体増強Lv5

    HP増強Lv1

    MP増強Lv5

コスト:26

=====目次=====

HP増強

MP増強

身体増強

呪文

コスト

=============

 

 本をしまって、今度は足元にも気を配りながら先に進む。

 

「…なあ穂」

「ん?」

「腕離してくれねーか?」

 

 さっき転んだ時から、穂が私の右腕を掴んで離さない。おかげで私は半分引きずられながら進んでいるようなもん。割と何やってんこいつ案件だからな、穂だから許すけど。

 

「え、またお前転ぶかもだし無理」

「もう転ばねーよ舐めんな」

 

 まあ、無理やり解くことも出来るんやけど、折角心配してくれてるんやしたまにはいいよな。

 

「それにこういう機会じゃないとお前に中々触れないし」

 

 前言撤回ここで粉々にして行ってやろうか。

 

「急にキモイのやめろ」

「でもお前無性じゃん」

「そうだけどなんか嫌だわ」

 

 振りほどいてみようかと思ったのに、予想より強く握られてた。どんだけ離したくないんだこいつ。

 もういいか、どうせ戦闘になったら離すやろ。

 

「っと、ここら辺1回調べてみるか」

 

 穂が私の腕を引きながら、あっちこっちと移動する。ここで私も<目星>で調べて…っと。

 

「なあ穂、なんかあの岩怪しくね?」

「ん?…確かに」

 

 不自然に設置された大岩。空いた所から若干通れそうな隙間が見える。

 ここか。

 

「じゃあ壊すから手離──」

 

 私が言い終わる前に、穂が空いた手に光を圧縮し、岩を木端微塵に砕く。こいつどんだけ手離したくないん?

 破壊された岩の奥には、案の定洞窟の入口があった。

 

「洞窟見つけたしもういいやろ?」

「そうだな…流石にずっとこの距離も邪魔か。直ぐに戦闘態勢も取れなくなるしな」

 

 洞窟に入ってから、急に素直に手を離す穂。何で山道では握りっぱなしだったん?もう聞く意味ないから別にいいけど。んな事よりワープホールってどこにあるん?そこら辺見てもないけど。

 

「って…もしかしてこれか?」

「これ…?…なんでこんなとこにあるん?」

 

 穂が頭上を指差す。

 学園の近くでも見たワープホールと同じような、輝いているもの。間違いなく、これだ。

 

 それに気付いた瞬間、私と穂の身体は、ワープホールに吸い込まれる。

 

「え!?は、マジかよ!?」

「へー、こういうことあるんやな」

 

 抵抗する意味もないし、私は大人しくワープされる。穂はなんか暴れてたけど、まあ無駄な抵抗やろ。

 

─────

─────

 

 影星と穂が転移した先の景色は、2人が転移した場所と同じ、奥に山が見える砂利道だった。

 

「…ここか」

 

 影星がそう呟き、1歩足を進めた途端、穂が光に覆われる。

 

「うわ…!?」

「な、穂!?」

 

 溢れ出る光に、影星は片腕で視界を遮りながら穂に声をかける。

 

「…大丈夫だ、気にしないでくれ」

「…穂、お前」

 

 穂からの返答に、影星は違和感を覚える。それもそのはず、中性寄りの高い声だった穂は、相変わらず中性寄りではあるが、低い声に変わっている。

 そして、変化していたのは声質だけでは無い。

 長く2つ結びにされていた髪は肩よりも短く、胸部には膨らみが無い。

 

「あーこれ生前の俺だな」

「生前の俺とかパワーワードすぎるだろ」

 

 能力、【神様のいたずら】のデメリットは、『能力を持っている間、能力の持ち主が男だった場合、性別が女に変更される』というものだが、能力が発動されていない状態では、男体に戻ってしまう。

 

「俺の能力が消されたってことは…お前も能力使えない可能性高いな」

「…私それよりやばいかもしれねーわ」

「大丈夫なのかよ?」

「…世界補正が消されてるわ…身体がさっきより…重い」

 

 贋作世界-ヴェルス И-。世界効果は、『全てによるバフ効果消失』。影星の持つ、後付けのバフ能力の【神格憑依】や【人体強化モジュール】、そして『世界補正』すらも消されてしまっている。幸い、天性『クトゥルフ神話〜Real〜』は消されていないようだが、自己強化能力にキャパシティを割いた影星と穂では、分が悪い。

 【星達の不純物】はデバフモードしか起動出来ないようだし、無いよりはマシだが、殆ど無能力の状態だ。

 一通り、能力の確認を行った影星と穂は、重々しい溜息を吐く。

 

「穂、お前能力なくても行けるか?」

「ああ…行けなくは無い。星辰はどうだ?」

「私は平気だぜ」

 

 影星からしてみれば、元の世界に居た時と何も変わりはない。そして、それは穂も同様。

 

「なら進むか」

 

 穂がそう言った瞬間、タイミングを見計らったかのように豪風が吹き荒れる。

 思わず二人とも目を閉じた。

 

「いらっしゃい」

 

 その声に、薄目を開けるといつの間にか目の前には3人の人物が立っていた。

 中心に立っているのは、ローブを羽織り、黒いロングブーツを履いた、中性的な顔立ちをしている。然し、その橙色の瞳は強く輝いている。

 右に控えるのは、同じくローブを羽織り、白いロングブーツを履いている。桃色の瞳は、穂の事を睨みつけていた。

 その2人から、1歩後ろに下がった所にいるのもまた、ローブと茶色いロングブーツを着用していた。浅緑色を宿した瞳は、じっと中央の(キー)に注がれている。

 

「僕はこの世界の(キー)、アルティ。こっちは、リネット」

 

 アルティの隣に立つリネットは、穂から影星に視線を移して、小さく頷く。

 

「それで、ここにいるのが…」

「エルデ。」

 

 紹介を受けるより早く、前に進み出て名乗りを上げるエルデ。それでいて、視線は相変わらずアルティに注がれている。

 

「君達が例のあれだね?噂はよく届いてる。人間らしくない異世界人…と、その相棒の魔界研究所の助手」

「おいお前私が人間らしくないってどういう事だ」

「俺の事おまけみたいに扱うんじゃねぇ殴り飛ばすぞ」

 

 アルティの根も葉もない噂に、二人はそれぞれ別の方向で怒りの感情を露わにする。その様子を見て、彼女は面白そうに笑った。

 これが敵陣地でなければ、ただの会話に見えるだろうが、実際はリネットとエルデからは殺気が放たれている。

 

「まあ、お話は終わりだ。そろそろ本題に入ろう」

 

 宣言と同時に、アルティからも殺気が放たれる。しかも、横に控えた2人の比では無い。

 表情こそ澄ましているが、感じる威圧はあまりにも強大。

 

「君達にはここで死んでもらう。でも悪く思わないで」

 

 アルティは双剣、リネットは大鎌、エルデは弓を召喚し装備すると、鋒を2人に向ける。

 

「多分こいつら強いから気を付けろよ」

「分かってる。能力が使えないんだ、油断しようがないしな」

「OK、好きな様に動いていいぜ穂」

「了解!」

 

 影星は思い切り踏み込み、エルデの元へ疾走する。身体増強のみでも十分過ぎる速度。その影で、こっそりと【天誅の殺生】内にある<高速移動>の使用も試みたのだが、発動は許されなかった。<五感操作>は自分に対し使う事は出来なかったが、相手に対しては使える事を利用し、エルデの視界を奪い片付けようと考える。

 

 だが、僅か3mほどの距離から、エルデの手元より寸分違わず影星に対し矢が飛ぶ。先端は赤く燃え上がり、触れれば到底火傷で済まない事は本能で察した。すぐさま門の創造を正面に展開し、遠くへ転移させる。

 【魔法武具(マジックウエポン)】。エルデの持つ能力。召喚される武具全てが魔法製。この効果は、リネットとアルティにも反映される。

 エルデ自身、味方のサポートの為に能力があるようなものだ。

 そして、その能力は影星と穂を苦しめる。

 影星の蹴りが命中する。然し、エルデは無傷。それ所か、至近距離から矢によるカウンターを仕掛ける。

 電気を貯めた矢を行射する。

 

「ッ……感電したか…」

 

 矢は太腿に刺さり、その部位から瞬く間に全身へと痺れが広がる。ダメージ自体はHP増強のおかげで気にするほどでもないが、痺れは強く、指を動かすのも痛い程。

 エルデの能力。【無力無効(アビリティ・ディナイアル)】。その効果は、やはり味方全体に付与される。どんな攻撃も無効化する能力が、贋作世界-ヴェルス И-の3人に掛けられている。

 対して、影星と穂はこの能力を破る術を持ち合わせていない。

 更にエルデは追い討ちをかける。

 【吸収併合(アブソプション)】にて、影星の魔力を全て吸収し、アルティとリネットに分配する。その上で、四肢の関節と肩、足の付け根を召喚した魔法製のナイフで貫く。

 

「う…ぐ…」

 

 足元がフラリと彷徨い、膝をつく。だが、直ぐにエルデの事を睨みつけ、立ち上がると<時間遡行>を行おうとした。

 しかし、魔力残量が0の状態で能力を使おうとした場合、HPを削る事になる。

 そして、特に【天誅の殺生】で得た能力を使う為のコストは、元の消費魔力よりも遥かに多くなる。

 釣り合わないのだ。リスクとリターンが。

 その結果。

 

「あが!?──ッ…か、は……ぅ゛」

 

 一度にHPを削れる量を超え、能力発動までの魔力補填をする間もなく、影星の両腕から、両脚から、肋骨から、軋轢音が脳まで響く。それと同時に、腹部に傷が開き血が溢れ出す。口からは血の塊を何度も吐いた。その身体は地に横たわる。

 魔力枯渇に加え、多大な負荷を身体にかけた所為だ。

 鏡の具現化など比にもならない。

 魔力が枯渇している時に魔力を使おうとすると、HPが犠牲になる。その他に、魔力を一度に全て消費しきっても同じだ。

 事前に魔力を全て吸収された上、肉体を削り無いものを作り出そうとしたのだから当然と言える。HP増強のおかげで、死んでいない。或いは、影星のしぶとさ故と言うべきか。

 エルデは、そんな影星を見つめながら思考する。

 エルデ自身に攻撃能力はそこまでない。刺さったナイフから魔力を流しても、殺せるまでのダメージには足らないと推測する。

 初手の動きで影星の身体能力について行けないと悟った彼は、無効化が破られない事に賭けて、影星の身動きを封じる手段を取った。

 この状態なら、放っておいても死ぬだろう。

 作戦は成功したと判断し、後は二人が魔界研究所の助手を片付けるまで手を出さないよう、見張る事に専念する事にした。

 

 

 一方、穂はこれまでにない程に苦戦を強いられていた。2対1な訳ではない。アルティは後方で戦闘を眺めているだけで、何も手を下しはしない。

 穂も、無効化に翻弄されている。

 『付術』も『呪淵回路』も全て無力化され、能力も無い彼が体術1つで渡り合うのは無謀過ぎた。

 

「【付術(エンチャント)嵐撃(ストーム)】!!少しは…効け、よ!」

 

 穂の周囲で竜巻が発生する。それはリネットのみならず、アルティまでも巻き込む程の広範囲。それでも、あっさりと無効化され、逆に隙を晒す事になってしまった。

 

「…そこ」

「ぐッ…!?」

 

 竜巻を無効化しながら距離を詰め、大鎌を振り回す。腹部から肩までを切り裂かれ、吹き飛ばされる。

 鍛えられた治癒能力も、残念ながら即時効果では無い。精々、重度の骨折でも1日あれば完治する程度。とてもではないが、能力の代用とするには余りにも粗末な代物。

 上限解放にも時間がかかる。

 

「ッ…まだ……」

 

 何とか地に手を着いて立ち上がる。激痛に顔を顰めながらも、リネットに向かって走り出す。その途中、無駄だと分かっていても頼らざるを得なかったあの技。

 

「【呪淵回路】」

 

 リトルナイトメアを発動する直前、アルティが動いた。

 

「かッは…」

 

 アルティの持つ双剣が投げられたかと思えば、それは的確に穂の背を刺し貫く。その勢いと火力に、体を支えられず、その場に音を立てて頽れる。そして、呼吸もままならない内、血を吐き出す。

 時間停止は解除され、止まりかけていた時は流れ出した。

 

「まずはそっちの人間から」

 

 アルティが合図を送ると、リネットは無数の槍を召喚し、一斉に穂に向けた。

 

「な…おま、え…ら……ま、て…!」

 

 影星は必死に静止をかけながら、震える手で身体を支え起こそうとする。

 次の瞬間、刺さっていたナイフが爆散し、全身が焼けるような痛みに襲われる。魔力の奔流に抗う程も生成出来なかったのか、殺しきれなかった勢いに呑まれ、肩や脚も抉られ、鮮血が噴き出した。

 

「それじゃあ…

 

 さよなら」

 

 

 リネットが指を鳴らすと、槍が全方向から穂に突き刺さった。

 

「が、ふッ…!?」

 

 空気が抜ける様な声が漏れる。見開いた瞳は、虚空を彷徨っていた。

 

 リネットがもう一度指を鳴らすと、身体に刺さっていた槍が消える。

 全身に作られた穴隙から、赤血が柱の様に何本も迸る。双眸からは光が消え、身体からは力が抜けた。

 

「…え」

 

 

 影星は、何度も人を殺してきた。だから、人の死を目の当たりにするのは慣れていた。

 

 それなのに、穂が死んだ時と、人を殺した時。同じ『人が死ぬ』という現象なのに、相棒が死んだというだけで、こんなにも視界が暗く閉ざされる。

 

「死んじゃったかな」

 

 影星の中の何かが、パリン、と音を立てて割れた。

 

 

─────

 

 側で見ていたエルデは、思わず息を飲む。

 

 骨折に魔力枯渇、傷口からは未だに血が滴っている。

 それなのに、何事も無く立ち上がったのだ。

 表情は狂気に満ちている。

 赤かったはずの両目は、今は右目が黒く、光が入っていない。

 それでいて、笑っているのだ。口だけは。

 

 溢れ出るのは殺気のみ。

 

「…なんだ…こいつ…」

 

 リネットの呟きも、影星の耳には入らない。

 

「オまエラ…ぜンいン…

 

 コ ろ し テ や ル」

 

 世界に大きな亀裂が入る。裏世界というクッションがあって尚、表世界にも、多大な影響を及ぼした。

 

 そして、この世界の四人──影星さえも気が付かない事だったが──

 

 穂の身体は、時間をかけてゆっくりと修復されていく。一度死んだはずなのだが、その現象は蘇生としか表現出来ないものだった。

 

 この死亡は、上限解放を完成させる最後のピースになっていた。

 それだけでなく、真の奇跡が彼に宿る事になるのだが、今はまだ、誰も知らない。

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