2人が転移した先は学園だった。体力の都合上か、夜鴉のいる場所までが限界だったが、上手く身体が動かない穂と、それを支える血塗れの影星という異様な構図に、夜鴉も緊急事態を察し、2人を保健室まで転移させた。
「けほっ…」
床に血塊を吐きながら、影星はふらりと美麗達の前に姿を現す。
「緊急なんやけど…こいつを寝かせてやってくれねーか?」
「緊急なのは君の身体だよ!?まままま待ってね治すから…クレセントはみのりちゃんを寝かせて!」
「はーい!!」
クレセントダイバー・ディバストは、美麗に言われた通りに穂を預かり、大きなベッドに降ろす。
「だいじょーぶ?寝た方がいいよ、何か音楽かけてあげようか?」
「大丈夫…ありがとう…」
クレセントダイバーに気遣われながら、蘇生直後の気怠い身体をベッドに沈め、天井を眺めながらぐるぐると思考を巡らせる。だが、初の蘇生に身体が上手く着いてこられず、いつの間にか深い眠りに落ちていった。
一方、美麗は影星の手当を行いながら、彼女に憑き従う世界の創造神、
「魔力不足で回復を受け付けない…雨飾、魔力供給」
「分かってるよ。…ん?この魔力の使い方、なんか変」
「変?どんな風に?」
「魔力の容量は大きいし、能力に使う量も多くない…誰かに吸われた位しか考えられない」
魔力不足から成るこの様な怪我は、魔力供給を行わなければ回復を受け付けない。魔力が有る状態が正常であり、魔力が残っていない状態は異常を指す。怪我を負った状態が『マイナス』で、『ゼロ』にするには回復させればいい。だが、魔力が残っていなければ、まずは魔力の『マイナス』を正常な『ゼロ』へ戻す必要が出てくる。
魔力が『ゼロ』で、初めて正常な状態で治療を受け取れるからだ。
「充分に魔力は渡したよ、治して」
「うん」
美麗の能力、【回復蘇生】はサポートに長けた能力だ。どの程度の怪我も一瞬にして治す事が出来る。勿論、蘇生も。
そうやって治療している折に、菊花からの交信を受けた。
《
《どうしたの?》
菊花からの交信は珍しく、緊急時以外は無い。美麗から話しかける事が殆どだ。知らない事を知る為に、菊花に尋ねれば間違えのない答えが返って来る。
しかし、敬愛する美麗を思ってか、菊花からアクションを取ることは控えていた。
その神が、今この場で何か。
《先程、表世界が7割程崩壊しました。現在は正常に修復されています。また、贋作世界-ヴェルス И-も崩壊、それに伴い1区画が崩落しました》
《え!?…どういう事?》
「何やってるの半妖王。もう終わったよ?」
菊花との交信に専念していた美麗は、影星の治療が完了していた事に気が付かず、雨飾のロケットランチャーで頭を殴られる。
半妖王とは、雨飾が美麗を呼ぶ時に使う肩書きだ。
「痛った!お前ふざけんなよマジ」
「もう戻っていいんか?」
「ちょちょちょちょちょっと待って」
保健室から出ていこうとする影星を呼び止めると、彼女は存外素直に振り向く。
「休まなくて平気?」
そう聞けば、「へーきへーき」と軽く返され、部屋を離れた。恐らくは、夜鴉に報告でもするのだろう。
「で、君は怪我人の治療を放ったらかして何してたの?」
「ちょっと黙ってろお前」
影星には悪いが、美麗としてはそれ所ではない。
《崩壊した理由は?》
《裏世界での人物の暴走が原因です。そして…》
菊花は、少し何かを伺うような間を開ける。これは大抵、話してもいいか、美麗に許可を求めている。
《続きは?》
《…影星によるものです》
「…え?」
「何急に」
「……いや、なんでもない」
「…そう」
思わず漏れた声に、雨飾は冷たく返す。然し、彼も何かを察した様で、部屋の奥へと姿を消した。
《…それで?》
《今までに類を見ない暴走でした。それにより、
《…能力内容は?》
美麗は尋ねる。内容が分かれば、対処が可能かもしれない。紅葉ならばもう『持っている』だろうが、情報が多いに越したことはない。
《影星の能力、【天誅の殺生】は、殺した者の能力を奪うものです。【天誅の殺生】自体にデメリットが付属されている為、奪った能力のデメリットは併合されません》
《その能力で
この世界の住民が持つ能力が、一定の条件下で能力と分離進化する、能力とは異なる物だ。
美麗の場合は、【絶無還元】から二つに分離進化した〖
《NO.能力は所詮能力です。但し、暴走中であれば可能になるものと思われます。ですが、私が保護するので問題ありません》
《分かった、ありがとう。奪った能力についても聞かせてくれる?》
菊花との交信を行いながら、美麗は手頃な椅子に座る。思考はあまり得意ではない。交信が終わり次第、癪だが雨飾に情報を共有しておいてもいい。
《YES.まずはエルデの能力ですが─》
エルデの能力は以下の通り。
《エルデが元々サポート型だった事もあり、特筆する様な攻撃能力は
《やはり、
最後のアルティの能力。
《以上3つになります。ですが》
菊花は意味深に言葉を区切る。
《…ですが?》
《影星は『
しかし、アルティの能力を奪ったことにより、その制限を潜り抜けた。誰の能力でも構わない。
間違いなく、与えられてはならない能力だった事だろう。
《でもそれだと天誅の……なんだっけ?それいらなくなると思うんだけど…》
《仰る通りです。ですが、影星は天誅の殺生が消失することを恐れて
それから、と菊花は続ける。
《これは戦闘を観測していた朱杏からですが…
自我暴走状態は、世界効果も、能力発動も通用しないものと思われます。》
─────
「来たぜ夜鴉」
「……影星か」
影星を転移させた時に触れたからだろう。血が付着している夜鴉に近付き、興味本位で軽く鼻を鳴らす。
「…お前血腥いな。でもなんかいい香りする」
素でこの発言をかました影星に、夜鴉は軽くパンチを放つ。
当然のように受け止めた影星だが、右腕に感じた軋轢に目を見開いて飛びずさった。
「お前…火力イカれてんのか?」
「…?」
イカれてるも何も、夜鴉からしたら本当に戯れ程度だった。ダメージを与えるつもりも微塵もなかったのだし、それは言いがかりではないだろうか。
「いやまあいいわ…制圧したぜ。って言うか殺しちまったけどあれ平気か?」
「…まあ…」
殺した事は確認しているし、贋作世界-ヴェルス И-の能力が奪われている事も確認している。1区画が崩壊した事も分かっているが、さしたる問題にはならない。今更、影星に報告されたところで事後報告なのだ。
「ま、なら別にいいわ。次はどこに行けばいいん?」
影星の問いに、夜鴉は少し考える。能力的にも魔力的にも向かわせる事に不安はない、が。
「…お前とみのりは…しばらく戦闘には出せねぇよ…」
「は?…ああ、さっきの事があったからか」
一瞬、影星は首を傾げるも、直ぐに合点がいったのかそれ以上は追及しなかった。
「そういや私、さっきからなんか体軽いんよね。なんでやろ?」
独り言を零しながら、校舎内にスキップで戻っていく影星を見送って、夜鴉はとある人物を二人呼び出した。
間もなく、ドラゴンに乗った鬼人と機械人形が現れる。
「よっ!俺っち達をお呼びか?」
「夜にぃに呼ばれたから来たよー!行くの?ミリアは何時でもバッチリ!だよっ!」
ちなみに今の影星のステータスは、クトゥルフの方で強化が入った事により影星も気付かずに強化されてます。後に自分で分かる事ですが。現在の影星は…
身体増強Lv17STR→300垓4194京2495兆816億9189万4741
身体増強Lv17DEX→662垓4995京2919兆4594億3315万2512
HP増強Lv11→34兆2718億9630万7633
MP増強Lv17→300垓4194京2495兆816億9189万4741
になります。HP面が脆い辺り、影星の脳筋性格が伺えますね