ありふれたフロンティアへ   作:友(ユウ)

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第9話 世界の真実! 希望を求めて………!

 

 

ハジメ達が一通り驚いてようやく冷静になった頃。

香織の回復魔法で傷だらけだった3人がある程度まで回復した。

その後、

 

「ねえ拓也。あの時橋から落ちた後ってどうなったの?」

 

ハジメがそう訊ねた。

 

「ああ………橋から落ちた後はお前らはすぐに気を失ってたけど、俺は何とか助かる方法を探してたんだ」

 

「あの状況で意識があったの……!?」

 

「私もすぐに気を失っちゃったよ」

 

橋から落ちた後も意識を保っていた事に、ハジメ達は驚いている。

 

「で、その途中に幾つか地下水が噴き出している所があって、偶然にも横穴に流れ込んでる所を見つけたんだ。それで、お前らを何とかその水の流れに乗せて横穴に入れる事に成功した。まあ、俺はその反動で横穴から離れちまったから、そのまま奈落の底へ真っ逆さまだったな」

 

「僕達が助かったのは、拓也のお陰だったんだ………!」

 

「拓也君………本当にありがとう」

 

命の恩人だという事を知り、改めてお礼を言う2人。

 

「まあ、その後は魔法やら技能やらフル活用して奈落の底に激突。即死は免れたけど、瀕死の重傷で死ぬ寸前だったな。けど、その時にオファニモン達が助けてくれたんだ」

 

「オファニモン………昔拓也達にデジタルワールドを救ってくれって頼んだデジモンだよね?」

 

「ああ。デジタルワールドを守護する三大天使デジモンの1人だ。オファニモンが瀕死の俺をデジタルワールドに呼び込んでくれて、そこで俺の治療をしてくれたんだ。けど、1カ月ぐらい眠ってて、目覚めたのがつい数時間前だったよ。その後はオファニモン達と話をして、トレイルモンに乗ってこっちに戻って来たんだ。その時に十闘士の皆も俺に力を貸してくれることになって、スピリットとしてこのデジヴァイスに入ってる」

 

拓也はデジヴァイスを見せながら言った。

 

「因みに、元の地球に戻る事も出来たけど、流石にお前達や優花を置いて帰る訳にもいかなかったからな」

 

拓也は笑ってそう言うと、

 

「ッ…………!? 帰れたの!?」

 

「ん? ああ。オファニモンは最後に選択肢をくれたんだ。この世界に戻って戦いの道を歩むか、地球に戻って平穏な日常に戻るか、ってな」

 

「そんな……! 折角帰るチャンスだったのに……!」

 

「さっきも言ったが、お前らや輝二、輝一………それに優花もこっちに残ってるのに、帰れるわけ無いだろ?」

 

拓也は迷いなくそう言い切る。

 

「あと、オファニモンが言うには、もう一度この世界から地球に帰るには1年ほど時間が必要らしい」

 

「えっ!? それって、1年経てば帰れるって事!?」

 

ハジメが食いつく。

 

「まあ、特に問題無ければ帰れるんじゃないか?」

 

「そっか………!」

 

1年後とは言え、帰れる希望が見えたのは嬉しいのだろう。

すると、

 

「なあなあ拓也はん……」

 

ボコモンが話しかけてきた。

 

「ん? どうしたボコモン」

 

「ちょっと気になっとったハラが、さっきからちょくちょく名前の出とる優花はんって誰じゃマキ?」

 

「あ、ぼくも気になってた」

 

ボコモンとネーモンが優花の名に疑問を持っていたようだ。

 

「えっ……!? あ~、優花は………」

 

流石に仲間に恋人だと紹介するのは恥ずかしさがあるのか少し言葉を濁す。

だが、

 

「優花ちゃんは拓也君の恋人の女子だよ!」

 

香織がズバッと言ってしまった。

 

「なんやとーーーーッ!?」

 

「拓也に恋人~~~~~!?」

 

盛大に驚く2人。

 

「いや、そこまで驚く事かよ?」

 

2人の反応に若干不満げになる拓也。

 

「いや~、拓也はんも大人になったんやな~、と………」

 

「やるね~拓也」

 

「揶揄うな………! あと大人って言ってもまだ17歳だ!」

 

2人の揶揄い言葉にそう返した。

 

 

 

 

 

話が一段落した後、拓也達は扉の先へ進む。

そこは今までの洞窟の様な迷宮とは違い、明らかに自然に近い環境が整えられていた。

 

「ここが………反逆者の住処?」

 

拓也達が周りを見渡すと、屋敷の様な建物が見えた。

一先ず屋敷の周りを探索すると、裏庭に風呂を見つけた。

 

「風呂だな」

 

「風呂だね」

 

拓也とハジメが確認し合う。

 

「でも助かるよ。もう一ヶ月以上も風呂に入ってないから」

 

その言葉に、香織とユエがピクリとした。

慌ててこそっと自分の肩辺りに鼻を近付け、体臭を確認している。

香織でも一ヶ月。

ユエに至っては300年以上風呂に入っていない計算になる。

すると、

 

「……入る? 一緒に……」

 

ユエがすかさず提案する。

その言葉に香織がムッと顔を顰めるが、

 

「1人でね?」

 

「むぅ………」

 

ハジメがそう言うと、ユエは剥れた。

そのまま屋敷内の探索に入るが、扉の殆どは封印されており、ハジメの錬成でも開けることは出来なかったので仕方なく上の階の探索を先に行う。

すると、3階にそれはあった。

3階には一部屋しかなく、直径7、8mの今まで見たこともないほど精緻で繊細な魔法陣が部屋の中央の床に刻まれており、その奥に椅子に座ったまま白骨化した躯があった。

 

「……怪しい……どうする?」

 

ユエが呟くと、

 

「多分、地上への道を調べるには、この部屋がカギなんだろうし。僕の錬成も受け付けない書庫と工房の封印……調べるしかないか………皆は待ってて。何かあったらお願い」

 

「気を付けてね、ハジメ君」

 

香織は心配そうに声を掛ける。

ハジメはそれに微笑んで応えると、魔法陣の中央に足を進めた。

魔法陣が光り輝くと、ハジメの前に黒衣の青年が立っていた。

若干ぼやけたような光を纏っており、よく見れば半分透けている。

 

『試練を乗り越えよくたどり着いた。私の名はオスカー・オルクス。この迷宮を創った者だ。反逆者と言えばわかるかな?』

 

「反逆者………?」

 

余り状況を理解していない拓也が首を傾げる。

それと、パッと見た感じ優しそうな雰囲気を持つ青年で、反逆者と言われるような男性には見えない。

 

『ああ、質問は許して欲しい。これはただの記録映像のようなものでね、生憎君の質問には答えられない。だが、この場所にたどり着いた者に世界の真実を知る者として、我々が何のために戦ったのか……メッセージを残したくてね。このような形を取らせてもらった。どうか聞いて欲しい。……我々は反逆者であって反逆者ではないということを』

 

そこで語られたのは、聖教教会で教わった歴史やユエの知る反逆者の話とは大きく異なった驚愕すべきものだった。

神代の少し後の時代、世界は争いで満たされており、人間と魔人、様々な亜人達が絶えず戦争を続けていた。

領土拡大、種族的価値観、支配欲など様々だが、その一番は〝神敵〟だから。

今よりずっと種族も国も細かく分かれていた時代、それぞれの種族、国がそれぞれに神を祭っていた。

その神からの神託で人々は争い続けていたのだ。

だが、そんな何百年と続く争いに終止符を討たんとする者達が現れた。

それが当時、〝解放者〟と呼ばれた集団である。

彼らには共通する繋がりがあった。

それは全員が神代から続く神々の直系の子孫であったということだ。

そのためか〝解放者〟のリーダーは、ある時偶然にも神々の真意を知ってしまった。

何と神々は、人々を駒に遊戯のつもりで戦争を促していたのだ。

〝解放者〟のリーダーは、神々が裏で人々を巧みに操り戦争へと駆り立てていることに耐えられなくなり志を同じくするものを集め、神に反旗を翻した。

彼等は、〝神域〟と呼ばれる神々がいると言われている場所を突き止め、〝解放者〟のメンバーでも先祖返りと言われる強力な力を持った7人を中心に、彼等は神々に戦いを挑む。

しかし、その目論見は戦う前に破綻してしまう。

何と、神は人々を巧みに操り、〝解放者〟達を世界に破滅をもたらそうとする神敵であると認識させて人々自身に相手をさせたのである。

結局、守るべき人々に力を振るう訳にもいかず、神の恩恵も忘れて世界を滅ぼさんと神に仇なした〝反逆者〟のレッテルを貼られ〝解放者〟達は討たれていった。

最後まで残ったのは中心の7人だけだった。

世界を敵に回し、彼等は、もはや自分達では神を討つことはできないと判断した。

そして、バラバラに大陸の果てに迷宮を創り潜伏することにしたのだ。試練を用意し、それを突破した強者に自分達の力を譲り、いつの日か神の遊戯を終わらせる者が現れることを願って。

 

『君が何者で何の目的でここにたどり着いたのかはわからない。君に神殺しを強要するつもりもない。ただ、知っておいて欲しかった。我々が何のために立ち上がったのか。……君に私の力を授ける。どのように使うも君の自由だ。だが、願わくば悪しき心を満たすためには振るわないで欲しい。話は以上だ。聞いてくれてありがとう。君のこれからが自由な意志の下にあらんことを』

 

オスカーは微笑みながらそう言うと、そのまま記録映像はフッと消えた。

それと同時にハジメが頭を押さえる。

魔法陣の光が収まると、ハジメはゆっくり息を吐いた。

 

「大丈夫か? ハジメ」

 

拓也がハジメの身を案ずると、

 

「うん、大丈夫……それにしても、凄い事聞いちゃったね………」

 

「どうするの?」

 

香織がそう聞くと、

 

「うん……今の話が本当なら、神エヒトは人間族の救済をするつもりなんか無いって事…………僕達が召喚されたのは、何らかの理由で魔人族が力をつけすぎてパワーバランスが崩れたから、それを調整する為に新しく駒を配置したって所だと思う」

 

「神の遊戯………ゲームの駒…………」

 

香織がショックを受けた様な表情になる。

 

「それと気になるのが、折角用意したゲームの駒を、態々元の場所に戻す気があるのかって所」

 

「今の話を聞いた感じだと、そんな気はしないな」

 

拓也はそう言う。

 

「この世界の神は、この世界に生きる『命』を玩具程度にしか思っとらんようじゃマキ……」

 

ボコモンが腕を組みながらうんうんと頷く。

 

「玩具は遊んだらちゃんと片付けないといけないんだぞ~」

 

「むっ! 命を玩具と思っとる時点で大問題じゃろうが!」

 

ボコモンがネーモンにゴムパッチンをする。

 

「あいたっ!?」

 

その様子を見て拓也達は笑う。

 

「もしかしたら、僕達が帰るのを邪魔するかもしれないし、もし帰れても、また召喚される羽目になるかもしれない」

 

「態々用意した駒を、手放す意味は無いもんね」

 

ハジメの言葉に香織が頷く。

 

「だからまず、エヒトの意志を確かめよう。僕達に関わらないって言うのならそれでいいし、もし邪魔するって言うのなら倒す事になるかもしれない」

 

その言葉に全員が頷く。

 

「何よりもまず、僕達の方でも帰る方法を探してみよう。拓也を疑う訳じゃないけど、方法は幾つかあった方が安心できる」

 

「そうだな」

 

その言葉に再び全員が頷いた。

 

「あと何か新しい魔法……神代魔法っていうのを覚えたみたい」

 

「……ホント?」

 

ユエが驚いた声を漏らす。

 

「何かこの床の魔法陣が、神代魔法を使えるように頭を弄る? みたいな」

 

「だ、大丈夫なの?」

 

香織が心配そうに尋ねるが、

 

「大丈夫、問題ないよ。しかもこの魔法……僕のためにあるような魔法だね」

 

ハジメは平気そうな表情でそう言う。

 

「……どんな魔法?」

 

「え~と、生成魔法ってやつ。魔法を鉱物に付加して、特殊な性質を持った鉱物を生成出来る魔法だよ」

 

「それって、アーティファクトが作れるようになったって事?」

 

香織はその言葉からそう推測した。

 

「うん、そういう事みたい。皆も覚えたらどう? 何か、魔法陣に入ると記憶を探られるみたいなんだ。オスカーも試練がどうのって言ってたし、試練を突破したと判断されれば覚えられるんじゃないかな?」

 

「……錬成使わない……」

 

「まぁ、そうかもしれないけど……せっかくの神代の魔法なんだよ? 覚えておいて損はないんじゃないかな?」

 

「……ん……ハジメが言うなら」

 

「まあ、一応?」

 

それぞれが魔法陣の中に入る。

オスカーの語りが再び始まってしまい、色々と台無し感があったが、

 

「修得できた?」

 

ハジメがそう聞くと、

 

「ん……した。でも……アーティファクトは難しい」

 

「私も………出来て使い捨てみたいに一時的に付与できる位………」

 

「俺は攻略者とは認められなかったみたいだな。最後の締めだけ頂いたようなもんだし」

 

「ワシは何も感じんかったハラ」

 

「ぼくも」

 

それぞれが結果を言う。

 

「う~ん、やっぱり神代魔法も相性とか適性とかあるのかな…………それに迷宮を攻略してない拓也は順当として、デジモンには効果が無かったのかな?」

 

「まあ、デジモンはデータで構成されてるからな」

 

ハジメの言葉に拓也がそう言った。

すると、ハジメはオスカーの亡骸に向き直り、

 

「この魔法とあなたの遺してくれたもの………ありがたく使わせていただきます」

 

ハジメは合掌して黙祷する。

 

「それじゃあ、オスカーさんの遺体を埋葬したら、探索を始めよう」

 

その言葉に全員が頷いた。

 

 

 

 

 

オスカーの躯を畑の片隅に埋葬した拓也達は、館の探索を再開した。

オスカーの躯が付けていた指輪によって扉の封印が解けるようになり、探索の幅が広がったからだ。

まず、書斎では一番の目的である地上への脱出の方法が書かれた資料が見つかった。

先程の魔法陣がそのまま地上への転送陣となるらしい。

指輪が無ければ機能しない様だが。

更に他の迷宮を攻略すれば、創設者の神代魔法が手に入る事も書かれていた。

その中に、地球に帰る事が出来る魔法があるかもしれないという事で、次の目的は他の七大迷宮の攻略と定めた。

この部屋の他にも、工房や倉庫などがあり、それらは錬成師であるハジメにとって宝の山だった。

それを見て何か考え込んでいたハジメが口を開いた。

 

「う~ん、ねえ皆………しばらくここに留まらない? 地上に出たいのは僕も一緒だけど……せっかく学べるものも多いし、ここは拠点としては最高だよ。他の迷宮攻略のことを考えても、ここで可能な限り準備しておきたい。どうかな?」

 

ハジメの提案に、

 

「あ~、早く優花や皆と合流したい気持ちはあるが………そうだな。神と戦うかもしれないのに、準備を怠る訳にはいかないか………」

 

拓也はそう言う。

 

「私はハジメ君のやりたいことを応援するよ!」

 

「……ハジメと一緒ならどこでもいい」

 

香織とユエも賛成の様だ。

こうして、拓也達は今しばらく奈落の底に留まる事になった。

 

 

 

その夜の事…………

ハジメが就寝しようとしていた時、コンコンっと部屋の扉がノックされた。

 

「…………誰?」

 

ハジメは、もし香織なら何か理由を付けて会うつもりは無かった。

しかし、

 

「ハジメ、私………」

 

「ユエ?」

 

声を掛けてきたのはユエだった。

ハジメは気配感知でユエの気配しか無い事を調べると、扉を開いた。

 

「ユエ、こんな時間に何か用?」

 

「話があって来た」

 

「話?」

 

「とりあえず部屋に入れて………」

 

「う、うん………」

 

ハジメが扉を大きく開いてユエを招き入れる。

そしてハジメが扉を閉めようとしたその瞬間、

 

「お邪魔します!」

 

離れた所から香織が縮地でハジメの部屋の中に飛び込んだ。

 

「か、香織!?」

 

驚くハジメ。

香織は少し離れた所で気配遮断で身を隠しており、ユエを招き入れる瞬間に縮地で飛び込んだのだ。

 

「えへへ………騙すような真似をしてゴメンね、ハジメ君。でも、こうでもしないとハジメ君は私と話をしてくれなかっただろうから」

 

「ッ………」

 

香織の言葉にハジメは気まずそうに目を逸らした。

 

「ハジメ君。まずはユエの話を聞いてあげて」

 

香織の言葉で、ユエがハジメに歩み寄る。

 

「ハジメ………」

 

「ユエ………?」

 

ユエはハジメの前に来ると、少し躊躇した後、

 

「私は………ハジメが好き…………」

 

「ッ………!?」

 

ハジメは目を見開いた。

 

「ユエ………僕は………」

 

「ハジメが香織と恋人なのは知ってる。香織から聞いた。側室でも愛人でもいい。ハジメの傍に居させて……!」

 

潤んだ瞳でハジメを見上げるユエ。

 

 

「ッ!? それは………」

 

「私は許したよ」

 

迷いを見せたハジメに香織は言った。

 

「香織!? 何で………!?」

 

「だってハジメ君。地上に戻って私を安全な所に送り届けたら、私の前から居なくなるつもりだよね?」

 

「そ、それは………」

 

香織の言葉に言い淀むハジメ。

 

「何度も言うけど、私はあの時の事は全然気にして無いし、傷付いてもいない。むしろ嬉しかったって思ってる。でも、ハジメ君は私の言葉だけじゃ不安なんだよね?」

 

「ち、ちがっ………!」

 

「だから私はユエとの関係を許すよ。言い方は悪いけど、私はユエを利用する。ユエを使って、ハジメ君を私に縛り付ける! 絶対に逃がさないから!」

 

「か、香織………? なんか性格変わってない………?」

 

「如何かな? ハジメ君を逃がさないために、手段は選んでいられないから……! と、言う訳で………」

 

香織がハジメににじり寄る。

 

「か、香織………?」

 

「ハジメ、観念する……!」

 

ユエもハジメに迫る。

 

「ユ、ユエ………?」

 

2人に迫られ、タジタジになるハジメ。

ハジメは後ろに一歩二歩と下がるが、ベッドに躓いてベッドの上に倒れた。

 

「「覚悟っ!!」」

 

その瞬間、2人が同時にハジメに飛び掛かり、

 

「アーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」

 

ハジメは食われる事になるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ………やっ………………ハジメくっ…………んんんっ………………!」

 

「ハジメ………ハジメッ…………もっと……………!」

 

「……………………………………………………………………」

 

部屋の前で扉をノックしようとしていた拓也が固まる。

 

「……………何やってんだよ、あいつらは………」

 

拓也はハジメを風呂でも誘おうかと思ってここに来たのだが、とんでもない声を聞いてしまった。

 

「しかも2人同時とか……………」

 

香織は元から恋人だったのでこうなっても不思議はないが、ユエも一緒なのは完全に予想外だ。

 

「けど、奈落の迷宮の中で、生きるか死ぬかの戦いを一緒に潜り抜けてきたって言ってたからなぁ…………」

 

その気持ちは、当人だけしか分からないだろう。

 

「………風呂は1人で行くか…………」

 

まあ、香織も一緒ならハジメの浮気という訳ではないと思い直し、拓也は部屋の前を後にした。

だが、

 

「………………はぁ…………優花に会いてぇなぁ………………」

 

拓也はしみじみと呟く。

神原 拓也、17歳。

近くでいちゃつかれると、寂しくなって彼女に会いたくなる健全なお年頃の男子であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は少し遡る。

地上の迷宮攻略を続けていた光輝達は、最高到達階層の65階層まで辿り着いていた。

 

「気を引き締めろ! ここのマップは不完全だ。何が起こるかわからんからな!」

 

メルドが全員に呼びかける。

迷宮攻略を続けているメンバーは、光輝を始めとした、龍之介、雫、鈴、恵理で構成される勇者パーティー。

永山 重吾という大柄の柔道部の男子生徒を始めとして、野村 健太郎、遠藤 浩介、辻 綾子、吉野 真央の5人で構成される永山パーティー。

檜山を始めとして、中野 信治、斎藤 良樹、近藤 礼一の4人で構成される小悪党組。

そして唯一単騎で、状況に応じて各パーティを遊撃で援護する輝一。

この15人が訓練を続けるメンバーだった。

しばらく進んでいると、大きな広間に出た。

すると、広間に侵入すると同時に、部屋の中央に魔法陣が浮かび上がった。

赤黒い脈動する直径10メートル程の魔法陣。

そう、あの時ベヒモスを召喚した魔法陣と同じものだった。

 

「ま、まさか……アイツなのか!?」

 

光輝が冷や汗を浮かべながら叫ぶ。

他のメンバーの表情にも緊張が走る。

 

「マジかよ、アイツは死んだんじゃなかったのかよ!」

 

龍太郎も驚愕しながら叫ぶ。

 

「迷宮の魔物の発生原因は解明されていない。一度倒した魔物と何度も遭遇することも普通にある。気を引き締めろ! 退路の確保を忘れるな!」

 

メルドが険しい表情をしながらも冷静な声で答えた。

いざと言う時、確実に逃げられるように、まず退路の確保を優先する指示を出すメルド。

それに部下の騎士達が即座に従う。

だが、光輝がそれに不満そうに言葉を返した。

 

「メルドさん。俺達はもうあの時の俺達じゃありません。何倍も強くなったんだ! もう負けはしない! 必ず勝ってみせます!」

 

「へっ、その通りだぜ。何時までも負けっぱなしは性に合わねぇ。ここらでリベンジマッチだ!」

 

龍太郎も不敵な笑みを浮かべて同意する。

メルドはやれやれと肩を竦めつつ、確かに今の光輝達の実力なら問題無いだろうと判断し、光輝に任せることにした。

そして、魔法陣が爆発したように輝き、ベヒモスがその姿を現した。

 

「グゥガァアアア!!!」

 

「ベヒモス…………」

 

咆哮を上げるベヒモスを見て、雫が静かに呟く。

 

「………やっと、ここまで戻って来た………!」

 

その言葉と共に雫は剣を抜き、構える。

 

「私は………香織達を迎えに行かなきゃいけないの……………だから…………」

 

そこで一度息を吸うと、

 

「………邪魔しないで!!」

 

雫のその言葉が切っ掛けになったかのように戦闘が開始される。

 

「万翔羽ばたき 天へと至れ 〝天翔閃〟!」

 

先手は光輝。

光の斬撃がベヒモスに襲い掛かる。

 

「グゥルガァアア!?」

 

ベヒモスが叫び声を上げながら後退する。

その皮膚には、くっきりとした傷が見て取れた。

 

「いける! 俺達は確実に強くなってる! 永山達は左側から、檜山達は背後を、メルド団長達は右側から! 後衛は魔法準備! 上級を頼む!」

 

「ほぅ、迷いなくいい指示をする。聞いたな? 総員、光輝の指揮で行くぞ!」

 

メルドが叫び騎士団員を引き連れベヒモスの右サイドに回り込むべく走り出した。

それを機に一斉に動き出し、ベヒモスを包囲する。

小悪党組はともかく、永山パーティーは光輝に対し懐疑的だ。

裏切り者と言っていい檜山に、特に罰を与えないどころか共に迷宮攻略に参加させているなど正気ではない。

いつ自分達も後ろから撃たれるか分かったものではないからだ。

それでも、何とかここまでやって来れたのはメルドの尽力あったればこそだろう。

迷宮攻略の間は、常に2人以上の監視を檜山に付け(本人や光輝には秘密)、妖しい動きをすればすぐに対処する事を約束している。

そしてメルドが光輝を重用しているのも、上からの命令という所が大きい。

メルドも檜山に対して厳罰を申し出たのだが、全て却下された。

勇者である光輝が許したのなら許すべきだと。

それでも裏切者の危険性はメルドもよくわかっているために、秘密裏に監視を付けているのだ。

光輝に傷をつけられたベヒモスは、怒ったように叫び声を上げ、突進してきた。

そこで前に出たのは、龍太郎と重伍の2人。

 

「「猛り地を割る力をここに! 〝剛力〟!」」

 

身体能力を上げる魔法を使い、ベヒモスの突進を受け止める。

 

「ガァアア!!」

 

「らぁあああ!!」

 

「おぉおおお!!」

 

地面を滑りながらも、2人はベヒモスの突進を受け止める事に成功する。

 

「ぐぉお………! 今の俺達2人掛かりでようやくあの時の神原に並んだ位か……! やっぱスゲーわ神原の奴………!」

 

龍太郎が場違いな笑みを浮かべながらそう呟く。

そして気を取り直すと、

 

「今だ!」

 

龍太郎は叫ぶ。

 

「粉砕せよ、破砕せよ、爆砕せよ 〝豪撃〟!」

 

メルドが飛び込みながら右の角を断たんと剣を振り下ろす。

しかし、3分の1ほど罅が入っただけで、切断には至らない。

 

「くっ! 相変わらず硬い!」

 

メルドがそう吐き捨てる。

するとそこへ、

 

「任せてください!」

 

雫が跳躍しながら叫んだ。

 

「全てを切り裂く至上の一閃 〝絶断〟!」

 

雫の一閃が今度こそベヒモスの角を切り落とした。

角を切り落とされた痛みでベヒモスが暴れようとして、

 

「――〝堕識〟」

 

恵理が唱えていた闇魔法が、数瞬の間だけベヒモスの意識を飛ばす。

 

「はいは~い! 今の内に離れてね~!」

 

恵理がおちゃらけた雰囲気で呼びかける。

メルド、雫、龍太郎、重伍は咄嗟に飛び退く。

その直後、

 

「ガァアアアア!?」

 

ベヒモスが悲鳴を上げて暴れ出した。

 

「あのままだったら巻き込まれてたわね。ありがとう、恵理」

 

「どういたしまして」

 

雫の礼に対し、全く興味が無さそうな口調で恵理は返す。

我に返ったベヒモスが再び全員を睨み付け、それに対し皆は気を引き締めながら武器を構え直す。

その時だった。

 

「……………………………」

 

輝一が無言でベヒモスの前に進み出た。

 

「輝一………?」

 

雫が呟く。

 

「おい! 何をやっている!? 勝手な真似をするな!」

 

光輝が叫ぶが、輝一は光輝の言葉を無視しながら目を伏せ、

 

「……………申し訳ありません、メルド団長。チームワークも連携の大切さも、よくわかっているつもりです………ですが……………」

 

メルドに呼びかけながら目を開く。

 

「思ったよりも俺は、こいつに頭に来てたようです………!」

 

その声には怒りが含まれていた。

次の瞬間、

 

「〝獅子の本能〟!!」

 

輝一が叫ぶと、黒いオーラを輝一は纏った。

 

「はっ!」

 

輝一は大きく跳躍すると、

 

「シュバルツ・ドンナー!!」

 

輝一は黒球を作り出し、それを放つ。

それはベヒモスの肩辺りに当たり、その部分を抉り取った。

 

「グォオオオオオオオッ!?」

 

「まだまだっ!!」

 

輝一は黒球を連続で放ち、ベヒモスの背中や脚、身体の各部を抉り取る。

輝一はそのまま降下し、

 

「はぁああああああああああああっ!!」

 

振り下ろした槍の一閃で左側の角を切り落とした。

 

「グォオオッ!?」

 

その一撃で何歩か後退するベヒモス。

しかし、足を踏ん張って体勢を立て直すと、

 

「ガァアアア!!」

 

咆哮を上げ、半ばから折れている角が赤熱化していく。

 

「……角が折れても出来るのね。あれが来るわよ!」

 

雫が警告する様に叫ぶ。

あの時は拓也がギリギリ受け止めていた。

しかし、今回は、

 

「はぁあああああああああああっ!!」

 

輝一が槍を構えると、輝一を闇が覆い、巨大な獅子の姿を形成する。

その大きさはベヒモスにも引けを取らない。

次の瞬間、ベヒモスが突進し、

 

「シュバルツ・ケーニッヒ!!」

 

同時に輝一も地面を蹴って突進する。

ベヒモスと闇で形作られた獅子が激突し、

 

「はぁあああああああああああああああっ!!!」

 

闇の獅子がベヒモスを真っ二つに切り裂いた。

ベヒモスの後方に着地した輝一は、

 

「ふっ!」

 

槍を振ってベヒモスの血を振り払うと、纏っていたオーラを消すと共に、槍の石突を地面に付けて戦闘態勢を解いた。

その瞬間、真っ二つに分かれたベヒモスの身体が両側に倒れる。

誰の眼から見ても死んでいるのは明らかだった。

輝一はメルドの前まで歩いて行くと、

 

「………勝手な行動をしてすみませんでした」

 

そう頭を下げて謝罪した。

 

「お、おお…………」

 

確かに単独行動だが、危なげなく倒した上にキッチリと謝罪までされては、注意するに出来なかった。

なので、

 

「う、うむ。勝手な行動は褒められた事ではないが、戦いは見事だった。しかし、仲間がいる事は忘れるなよ」

 

「はい」

 

最低限の注意だけに留められた。

輝一は再びベヒモスの居た場所を見ると、

 

「拓也……………」

 

信じてはいるが、それでも心配そうな声で、その名を呼ぶのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

次回予告

 

 

オルクスの隠れ家で準備をする事数ヶ月。

遂に拓也達は地上へと帰還する。

そこで出会った人物とは!?

 

 

 

次回、ありふれたフロンティアへ

 

 

第10話 残念なウサギ

 

 

今、ありふれた伝説が進化する。

 

 

 

 

 





はい、第9話の投稿です。
スタートダッシュ6です。
何とか続きました。
今回はまあハジメのハーレムと哀愁漂う拓也。
あとは対ベヒモスの輝一無双な回でした。
次はシアの登場予定です。
お楽しみに。





PS:すみません。書くので限界なので今日の返信はお休みです。
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