ありふれたフロンティアへ   作:友(ユウ)

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第11話 ハウリア族の訓練

 

 

 

帝国兵を退けた後、樹海に向かう道すがらシアにこれまでのいきさつを話しつつ先へ進む。

時折魔物が出てきたが、ハジメと拓也の前には全くと言っていい程無力だった。

樹海に入って数時間が過ぎた頃、

 

「お前達……何故人間といる! 種族と族名を名乗れ!」

 

虎模様の耳と尻尾を付けた、筋骨隆々の亜人が現れ、そう叫んだ。

目の前の虎の亜人と思しき人物はカム達に裏切り者を見るような眼差しを向ける。

その手には剣が握られており、周囲にも数十人の亜人が殺気を滾らせながら包囲網を敷いていた。

 

「あ、あの私達は……」

 

カムが何とか誤魔化そうと額に冷汗を流しながら弁明を試みるが、その前に虎の亜人の視線がシアを捉え、その眼が大きく見開かれる。

 

「白い髪の兎人族…だと? ……貴様ら……報告のあったハウリア族か……亜人族の面汚し共め! 長年、同胞を騙し続け、忌み子を匿うだけでなく、今度は人間族を招き入れるとは! 反逆罪だ! もはや弁明など聞く必要もない! 全員この場で処刑する! 総員かッ!?」

 

――ドパンッ!!

 

その亜人の顔のすぐ横を紅の閃光が通り過ぎ、後方の木々を一直線に貫いて行く。

ハジメがドンナーを抜いて発砲したのだ。

 

「いきなり処刑は無いでしょう? 話を聞くぐらいはして欲しいですね。問答無用で襲い掛かられると、こちらも反撃せざるを得ませんから」

 

ハジメは話し方は丁寧だが、威圧を使って牽制している。

 

「因みに今の攻撃は、刹那の間に数十発単位で連射出来ます。周囲を囲んでいる人たちも全て把握していますから、僕がその気になれば数秒後には全滅もあり得ますよ?」

 

「な、なっ……詠唱がっ……」

 

驚く亜人を他所に、ハジメはシュラークを抜くと、霧で目視できない向こう側に銃口を向けた。

その向こうに腹心の部下が居たのだ。

 

「今現在、ハウリア族は僕達の保護下に居ます。彼らを襲うという事は、僕達と事を構えるという事なので、その辺りを踏まえて理性的な判断をお願いします」

 

ハジメは笑みを浮かべながらそう言うが、その笑みを向けられた方はたまったものではない。

その気になれば全滅だという事を直感したのだ。

 

「……その前に、一つ聞きたい」

 

虎の亜人は必死に口を開いた。

 

「…………何が目的だ?」

 

もし同胞の身柄や命だと言われれば、例え全滅する事になろうとも戦いを挑む覚悟でそう聞いた。

すると、

 

「そんなに身構えないでください。僕達はただ樹海の深部、大樹の下へ行きたいだけです」

 

「大樹の下へ……だと? 何のために?」

 

「そこに、本当の大迷宮への入口がある可能性が高いからだよ。僕達は七大迷宮の攻略を目指して旅をしている。ハウリアは案内のために雇ったんだ」

 

「本当の迷宮? 何を言っている? 七大迷宮とは、この樹海そのものだ。一度踏み込んだが最後、亜人以外には決して進むことも帰る事も叶わない天然の迷宮だ」

 

「いや、それはおかしいです」

 

「なんだと?」

 

ハジメの言葉に虎の亜人は怪訝そうに問い返した。

 

「大迷宮というには、ここの魔物は弱すぎるんですよ」

 

「弱い?」

 

「ええ。大迷宮の魔物は、どいつもこいつも化物揃い。少なくとも【オルクス大迷宮】の奈落はそうでした。それに……」

 

「なんだ?」

 

「大迷宮というのは、〝解放者〟達が残した試練なんだ。亜人族は簡単に深部へ行けるんですよね? それじゃあ、試練になってない。だから、樹海自体が大迷宮っていうのはおかしいんだ」

 

「……」

 

虎の亜人はその言葉に困惑する。

しかし、それでも最善の判断をする為に頭をフル回転させた。

 

「……お前が、国や同胞に危害を加えないというなら、大樹の下へ行くくらいは構わないと、俺は判断する。部下の命を無意味に散らすわけには行かないからな」

 

その言葉に、霧の奥からザワッとざわめきが起こった。

それだけ異例の判断何だろう。

ハジメはフッと威圧を緩める。

 

「だが、一警備隊長の私ごときが独断で下していい判断ではない。本国に指示を仰ぐ。お前の話も、長老方なら知っている方もおられるかもしれない。お前に、本当に含むところがないというのなら、伝令を見逃し、私達とこの場で待機しろ」

 

虎の亜人は自分が出せる限界ギリギリの譲歩案を出した。

 

「……いいでしょう。さっきの言葉、曲解せずにちゃんと伝えてくださいね?」

 

「無論だ。ザム! 聞こえていたな! 長老方に余さず伝えろ!」

 

「了解!」

 

1人の亜人がこの場を離れていった。

 

 

 

 

それからしばらくして、霧の奥から、数人の新たな亜人達が現れた。

彼等の中央にいる初老の男性が特に目を引く。

その男性は長く尖った耳を持った、所謂エルフであり、トータスでは森人族と呼ばれる。

 

「ふむ、お前さんが問題の人間族かね? 名は何という?」

 

「ハジメです。南雲ハジメ。あなたは?」

 

森人族の男性の問いに答えるハジメ。

 

「私は、アルフレリック・ハイピスト。フェアベルゲンの長老の座を一つ預からせてもらっている。さて、お前さんの要求は聞いているのだが……その前に聞かせてもらいたい。〝解放者〟とは何処で知った?」

 

「え? オルクス大迷宮の奈落の底、解放者の一人、オスカー・オルクスの隠れ家ですが………」

 

「ふむ、奈落の底か……聞いたことがないがな……証明できるか?」

 

「……ハジメ、魔石とかオルクスの遺品は?」

 

「ああ! そっか、それなら……」

 

宝物庫から地上の魔物では有り得ないほどの質を誇る魔石をいくつか取り出し、アルフレリックに渡す。

 

「こ、これは……こんな純度の魔石、見たことがないぞ……」

 

「後は、これ。一応、オルクスが付けていた指輪なんですけど……」

 

続けて見せたのはオルクスの指輪。

アルフレリックは、その指輪に刻まれた紋章を見て目を見開いた。

 

「なるほど……確かに、お前さんはオスカー・オルクスの隠れ家にたどり着いたようだ。他にも色々気になるところはあるが……よかろう。取り敢えずフェアベルゲンに来るがいい。私の名で滞在を許そう。ああ、もちろんハウリアも一緒にな」

 

アルフレリックの言葉に、周囲の亜人族達だけでなく、カム達ハウリアも驚愕の表情を浮かべた。

虎の亜人を筆頭に、猛烈に抗議の声があがる。それも当然だろう。かつて、フェアベルゲンに人間族が招かれたことなど無かったのだから。

 

「彼等は、客人として扱わねばならん。その資格を持っているのでな。それが、長老の座に就いた者にのみ伝えられる掟の一つなのだ」

 

「いや、ちょっと待ってください? 僕達は大樹に用があるのであって、フェアベルゲンに行く理由がありません。問題ないなら、このまま大樹に向かわせてもらいたいんですが……」

 

「いや、お前さん。それは無理だ」

 

「えっ?」

 

「大樹の周囲は特に霧が濃くてな、亜人族でも方角を見失う。一定周期で、霧が弱まるから、大樹の下へ行くにはその時でなければならん。次に行けるようになるのは十日後だ。……亜人族なら誰でも知っているはずだが……」

 

アルフレリックはそう言いながら視線をハジメからカムに移す。

 

 

「あっ」

 

そのカムは、たった今思い出したと言わんばかりの声を上げた。

 

「カム?」

 

「あっ、いや、その何といいますか……ほら、色々ありましたから、つい忘れていたといいますか……私も小さい時に行ったことがあるだけで、周期のことは意識してなかったといいますか……」

 

言い訳を並べ始めるカム。

その上、

 

「ええい、シア、それにお前達も! なぜ、途中で教えてくれなかったのだ! お前達も周期のことは知っているだろ!」

 

「なっ、父様、逆ギレですかっ! 私は、父様が自信たっぷりに請け負うから、てっきりちょうど周期だったのかと思って……つまり、父様が悪いですぅ!」

 

「そうですよ、僕たちも、あれ? おかしいな? とは思ったけど、族長があまりに自信たっぷりだったから、僕たちの勘違いかなって……」

 

「族長、何かやたら張り切ってたから……」

 

「お、お前達! それでも家族か! これは、あれだ、そう! 連帯責任だ! 連帯責任! ハジメ殿、罰するなら私だけでなく一族皆にお願いします!」

 

「あっ、汚い! お父様汚いですよぉ! 一人でお仕置きされるのが怖いからって、道連れなんてぇ!」

 

「族長! 私達まで巻き込まないで下さい!」

 

「あんた、それでも族長ですか!」

 

ハウリア族が内輪もめとばかりにてんやわんやしている。

そんな彼らを見て、ハジメは溜息を吐き、

 

「……………皆さん?」

 

威圧を発動させながらそう笑顔で問いかけた。

 

「「「「「「「「「「ッ!?」」」」」」」」」」

 

ビクッと身体を震わせながらハジメに向き直るハウリア族。

 

「忘れていたのなら仕方ありません。間違える事だってあるでしょう……………ですが、間違いだと分かったのなら、色々御託を並べる前に言わなければいけない言葉があるでしょう……………?」

 

顔は笑顔だが目は笑っていないハジメがハウリア族に問いかけた。

すると、

 

「「「「「「「「「「申し訳ありませんでした!!」」」」」」」」」」

 

一族全員一糸乱れぬ動きで土下座をするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、フェアベルゲンに招待された拓也達は、アルフレリックの案内でとある一部屋に案内され、そこで【オルクス大迷宮】の奈落で知ったことを話した。

 

「なるほど………この世界は神の遊戯の盤であったと………」

 

アルフレリックは溜息を吐きながらそう呟く。

 

「驚かないんだな?」

 

拓也は気になった事を聞いた。

 

「この世界は亜人族(われわれ)に優しくない。今更だ」

 

呆れるように言うと、

 

「あんたは『解放者』について知っていたのか?」

 

ハジメがそう聞く。

 

「詳しくは何も知らんよ。古くから伝わる長老の座についた者への言い伝えだ。『七大迷宮は“解放者”という者達によって創られた』。曰く、『迷宮の紋章を持つ者に敵対しない事』『その者を気に入ったのなら望む場所へ連れて行く事』。お前さんの持っていた指輪はその紋章の一つだった。故に敵対せず案内したのだが…………全ての亜人族がこれを知っているわけでは無い。それに、知っていてもそれを守らない者もいる…………」

 

そう言った瞬間、部屋のドアが蹴破られた。

 

「アルフレリック!! 貴様………どういうつもりだ? 人間と忌み子を招き入れるなど…………!」

 

ドアを蹴破って来たのは大柄の熊の亜人で見て分かるほどに額に青筋が浮かび上がっている。

 

「なに、口伝に従ったまでだ。お前達も各種族の長老の座にあるのだ。事情は理解できるはずだが?」

 

アルフレリックは冷静にそう言い返すが、

 

「こんな人間族の小僧共が資格を持つというのか!? 敵対してはならない強者だと!?」

 

熊の亜人の男はわなわなと拳を握ると、

 

「ふざけるなっ!! ならばこの場で試してやろう!!」

 

拳を振り上げ、一番近くに居た拓也に殴りかかった。

拓也は一度溜息を吐くと、

 

「むんっ!」

 

左手1本でその拳を受け止めた。

 

「な、何だと!?」

 

受け止められた事に驚愕する熊の亜人。

何故なら、本来亜人は身体能力に秀でている。

魔法が使えないため、戦術的アドバンテージに劣るが、単純な力比べなら人族に劣る筈が無いからだ。

 

「この世界の人間は、どいつもこいつも血の気の多い奴ばっかりなのか?」

 

しかし、目の前に居る拓也は普通では無かった。

ハジメ、香織に比べれば劣るが、それでも普通の人族が辿り着ける筋力の10倍近い能力を持っている。

精々数倍程度の身体能力しか持たない亜人が力比べで敵うはずが無かった。

 

「ぐっ………! このっ………!」

 

熊の亜人は押したり引いたりしようとしているが、拓也はビクともしない。

 

「別に俺達はここにいる奴らを如何こうしようとするつもりはない。落ち着いて話を聞いてくれ」

 

拓也はそう言うが、

 

「ふざけるな! 貴様ら人族が我々亜人族にしてきた仕打ちを忘れたとは言わせんぞ!!」

 

怒りと憎悪の籠った声でそう怒鳴りつける。

 

「…………こっちの世界の人間は本当にどいつもこいつも………」

 

拓也は再び溜息を吐く。

今の溜息は、亜人族に対してではなく、この世界の人族に対してだ。

拓也はアルフレリックに顔を向けると、

 

「森人族の長老さん。この場合反撃してもいいんですか?」

 

そう訊ねた。

 

「すまんが手荒な真似は止めてくれ。ジン、力自慢のお前が完全に抑え込まれておる。少なくとも、それだけの力量を持つ者達だという事は理解したはずだ」

 

「ぐっ………」

 

ジンと呼ばれた熊の亜人は悔しそうに声を漏らし、腕から力を抜いた。

それを確認して拓也も手を離す。

すると、ハジメがジンが入って来た扉の方を向くと、

 

「それで………? 外にいる人たちも僕達を試しますか?」

 

そう、扉の外に居る者達に呼びかけた。

 

 

 

 

 

 

亜人たちは近い種族ごとに長老が居るようで、虎人族のゼル、翼人族のマオ、狐人族のルア、土人族のグゼ、熊人族のジン、そして森人族のアルフレリックが俺達と向かい合うように座っていた。

 

「何度も言いますが、僕達は大樹に行きたいだけでここに住む人たちを如何こうしようなんて思っていません。信用できないというのならこの町の外で野宿させていただければ結構です。監視も自由にしてください。ただ、襲撃されるとこちらも身を護る為に反撃せざるを得ないので、なるべく穏便に済ますつもりではいますが、絶対とは言い切れませんので」

 

ハジメの言葉に、ゼルやジンが顔を顰める。

すると、

 

「確かに、この少年達は、紋章の一つを所持しているし、大迷宮を突破したと言うのは本当だろう。僕は、彼を口伝の資格者と認めるよ」

 

そう言ったのは狐人族の長老ルア。

翼人族のマオ、土人族のグゼも、渋々と言った感じで認める発言をする。

しかし、

 

「俺は認めんぞ!」

 

虎人族のゼルが拒否の意を示した。

 

「俺も同意見だ!」

 

先程殴りかかって来たジンも続く。

 

「口伝には気に入った相手を案内するとあるんだろう? 俺はコイツらが気に入らん! 大樹への案内は拒否させてもらう。ハウリア族に案内してもらえるとは思わない事だな。そいつらは忌み子を匿った罪人たち。すでに長老会議で処刑が決まっている」

 

それを聞いた瞬間、

 

「そんな! どうか………どうか一族の命だけはお助けください!」

 

シアが必死に懇願する。

 

「やめなさいシア。皆、覚悟は出来ている」

 

それを止めたのはカムだ。

 

「でも………でも………!!」

 

「お前には何の落ち度もない。そんな家族を見捨ててまで生きたいとは思わん。我らハウリア族はどんな時も一緒だ」

 

カムの言葉に泣き崩れるシア。

 

「大樹に行く方法が無くなった訳だが、どうする? 運よく辿り着く可能性に賭けてみるか?」

 

ゼルがいい気味だと言わんばかりにガハハと笑う。

目を伏せていたハジメが、スッと瞼を薄く開けると、

 

「………………では、僕達と敵対する、という事で宜しいですね?」

 

ハジメが冷たい声で言った。

その場の空気が凍り付いた。

 

「何だと!?」

 

ゼルが叫びながら言い返す。

 

「あなた達は前提を理解していません。僕達はハウリア族に対し、彼女達を護る代わりに大樹まで案内してもらう、と約束したんです。大樹まで行くのが僕達の目的であり、その目的が達成されるまで僕達には彼女達を護る義務がある」

 

ハジメがシアの隣に立ち、その肩に手を置く。

 

「彼女達を処刑するというのなら、僕達は全力でそれを阻み、彼女達と大樹へと向かいます!」

 

ハジメは微塵の揺らぎも見せずにそう言い切る。

 

「本気かね?」

 

「当然です」

 

アルフレリックの問いかけに即答するハジメ。

 

「フェアベルゲンから案内を出すと言っても?」

 

「何度でも言います。僕達の案内人はハウリアです」

 

「なぜ、彼等にこだわる。大樹に行きたいだけなら案内人は誰でもよかろう。案内人を変えるだけで我々と争わずに済むのだ。問題無かろう」

 

「大有りだよ。あんた達は俺達を嘘つきにしたいのか?」

 

アルフレリックの言葉に拓也が言った。

 

「俺達は俺達の信念をもって生きている。アンタの言っている事は、その信念を曲げろと言っているのと同義だ」

 

「それに案内するまで助けてやるって約束したんです。途中でいい条件が出てきたから鞍替えなんて………格好悪いでしょ?」

 

拓也の言葉にハジメがそう続いた。

 

「…………何を言っても無駄か………」

 

アルフレリックはそう言って深いため息を吐いた。

 

「ならば、お前さんの奴隷ということにでもしておこう。フェアベルゲンの掟では、樹海の外に出て帰ってこなかった者、奴隷として捕まったことが確定した者は、死んだものとして扱う。樹海の深い霧の中なら我らにも勝機はあるが、外では魔法を扱う者に対して勝機はほぼない。故に、無闇に後を追って被害が拡大せぬように死亡と見なして後追いを禁じているのだ。……既に死亡と見なしたものを処刑はできまい」

 

「アルフレリック! それでは!」

 

ゼルが叫ぶ。

アルフレリックが言った理由は完全に屁理屈だ。

納得できないのは当然だろう。

 

「ゼル。わかっているだろう。この少年が引かないことも、その力の大きさも。ハウリア族を処刑すれば、確実に敵対することになる。その場合、どれだけの犠牲が出るか……下手をすれば、宣言通りに全滅も在り得る。長老の一人として、そのような危険は断じて犯せん」

 

「しかし、それでは示しがつかん! 力に屈して、化物の子やそれに与するものを野放しにしたと噂が広まれば、長老会議の威信は地に落ちるぞ!」

 

「だが……」

 

「ちょっと質問いいマキか?」

 

ボコモンが口を挟んだ。

 

「お前さんは…………先程から思っていたが何者だ? 亜人とも魔物とも違うようだが……」

 

アルフレリックが疑問を口にする。

 

「ワシらはデジモンじゃハラ。じゃが、今は気にせんでいいマキ。それよりも、さっきから気になっとんたんじゃが、何故魔力を持っとるだけで忌児と呼ばれるんじゃマキ?」

 

ボコモンがそう尋ねる。

 

「何を言う!? そいつは我々を苦しめた人間族と同じく魔力を持ち、更に魔物達と同じく魔力を直接操作している! それが化け物でなくて何だというのだ!?」

 

ゼルがそう言い返すが、

 

「亜人が本来魔力を持たず、他の種族から迫害されとる事は聞いとるハラ。じゃが、逆に考えれば、魔力を持っておるなら他の種族に対抗できるという事にはならんマキか?」

 

「そうだね~。亜人は身体能力もすごいみたいだし~。それで魔力が使えたら結構すごくなるんじゃない?」

 

ネーモンも思いついた様に言った。

 

「そんな者を迫害などすれば、逆に恨まれてその力で復讐されるがオチじゃハラ」

 

「何を言うか!? そうならないために早々に処刑を………!」

 

「本末転倒だね…………」

 

香織が呆れた様に呟いた。

 

「迫害なんかせずに保護して重用すれば、有事の際に亜人達を護ってくれる存在になるかもしれないのに………」

 

そう説いた。

 

「ぐっ…………!」

 

ゼルが再び何かを言おうとした時、

 

「そこまでだ! ハウリア族は忌み子シア・ハウリアを筆頭に、南雲 ハジメの身内と見なす。そして、資格者南雲 ハジメに対しては、敵対はしないが、フェアベルゲンや周辺の集落への立ち入りを禁ずる。以降、南雲 ハジメの一族に手を出した場合は全て自己責任とする……以上だ。何かあるか?」

 

アルフレリックがそう結論を出す。

 

「ありません。何度も言いますが、僕達はハウリア族の案内で大樹まで行ければいいんです」

 

「……そうか。ならば、早々に立ち去ってくれるか。ようやく現れた口伝の資格者を歓迎できないのは心苦しいが……」

 

「気にしないでください。あなた達にはあなた達の流儀があるんでしょうし、その流儀を此方の都合で捻じ曲げてしまっているんです。むしろ理性的な判断をしてくれて有り難いくらいですから」

 

「まあ、今までの話を踏まえても、単純にアンタらとハウリア族のどちらに味方すると聞かれたら、普通はハウリア族に味方したくなるけどな」

 

ハジメと拓也がそう言いながら席を立つ。

 

香織やユエ、ボコモン、ネーモンもそれに倣って立ち上がるが、シア達ハウリア族は、未だ現実を認識しきれていないのか呆然としたまま立ち上がる気配がない。

 

「どうしたの? 早く行くよ」

 

すると、シアがオロオロしながらハジメに尋ねた。

 

「あ、あの、私達……死ななくていいんですか?」

 

「? さっきの話、聞いたでしょ?」

 

「い、いえ、聞いてはいましたが……その、何だかトントン拍子で窮地を脱してしまったので実感が湧かないといいますか……信じられない状況といいますか……」

 

周りのハウリア族もシアと同じように困惑している。

すると、

 

「……素直に喜べばいい」

 

ユエがそう呟いた。

 

「ユエさん?」

 

「……あなた達はハジメ達に救われた。それが事実。受け入れて喜べばいい」

 

「……」

 

ユエの言葉に、シアはハジメに視線を向ける。

 

「約束だからね」

 

ハジメがシアに笑みを向けた。

 

「ッ……」

 

その瞬間、シアは感極まった表情になり、

 

「ハジメさ~ん! ありがどうございまずぅ~!」

 

シアが泣きながらハジメに向かって跳び付くように抱き着いた。

 

「わわっ!?」

 

「むっ……」

 

「…………………」

 

ユエがムッとなったが、香織は何やら神妙な表情で何かを考える様な仕草をした。

 

 

 

 

 

 

「さて、あなた達には戦闘訓練を受けてもらおうと思います」

 

フェアベルゲンを出て、大樹に近い場所に拠点を作ったハジメが唐突に言い出した。

その言葉にハウリア族はポカンとした表情を浮かべている。

 

「え、えっと……ハジメさん。戦闘訓練というのは……」

 

一族を代表してシアが尋ねると、

 

「そのままの意味だよ。どうせ、これから十日間は大樹へはたどり着けないんでしょ? ならその間の時間を有効活用して、最低限身を護れるようにしてあげようと思ったんだよ」

 

「な、なぜ、そのようなことを……」

 

「僕達があなた達を護るのは大樹への案内が終わるまでです。その後はどうするんですか?」

 

「それはまだ…………」

 

「あなた達は弱い………悪意や害意に対しては逃げるか隠れることしかできない。そんなあなた達は、遂にフェアベルゲンという隠れ家すら失った。逃げ場のないあなた達は人や魔物の恰好の餌です。このままだと間違いなく全滅。折角拾った命も無駄に散らすことになる。それでいいんですか?」

 

ハジメがそう言うとシアは拳を握り、

 

「そんなの………いいわけありません!」

 

ハッキリとそう言った。

その言葉にハジメは笑みを浮かべ、

 

「なら答えは1つ。強くなればいい。約束の十日間までなら手助けもする………どうする?」

 

ハジメの問いかけにシアやカムを始めとしたハウリア族は顔を見合わせて頷き合うと、

 

「やります! 私達に戦い方を教えてください!」

 

決意の籠った瞳でそう頷いた。

 

 

 

 

 

魔力持ちで魔力操作も持つシアは魔力の扱いに長けたユエが指導することになり、残りのハウリア族はハジメが指導することになった。

しかし、ハジメの方は前途多難だった。

何故なら、

 

「ああ、どうか罪深い私をお許しくれぇ~」

 

「ごめんなさいっ! ごめんなさいっ! それでも私はやるしかないのぉ!」

 

「ふっ、これが刃を向けた私への罰というわけか……当然の結果だな……」

 

魔物を1匹殺すたびに号泣し、

 

「うわぁっ!?」

 

「ふう、危ない。危うく虫の行列を踏んでしまう所でした」

 

地面を這う虫たちにすら気を使い、

 

「お花さんを踏みそうになっちゃった……よかった。気がつかなかったら、潰しちゃうところだったよ。こんなに綺麗なのに、踏んじゃったら可哀想だもんね」

 

挙句の果てに花などの植物達を踏むことすら躊躇する始末。

 

「「…………………………」」

 

シア以外のハウリア族の特訓を受け持ったハジメと拓也は、そんな彼らをゲンナリとした表情で見ていた。

 

「これはまた………」

 

「想像以上だな………」

 

兎人族は基本的に温厚で臆病。

戦闘能力も低く、愛玩奴隷として需要が高いと言われていたので、荒事は苦手とは思っていたが、ここまでとは思っていなかった。

まあ、必死に訓練を受けようとしているので、決してやる気が無いわけではないのだが………

 

「………………皆さん、一度集まってください」

 

ハジメがそう呼びかける。

 

「はい、何でしょうか? ハジメ殿」

 

カムが代表してハジメに訊ねる。

 

「まず言っておきますが、あなた方の優しい心はとても尊ぶべきものです。この命の軽い荒んだ世界であなた達のような優しい心を持った人が育ったのは、とても貴重だと思います」

 

ハジメの言葉に、ハウリア族達が照れた様な仕草をする者がチラホラする。

しかし、ハジメはそこで言葉を区切ると、

 

「………ですが、その優しさを出す所は考えてください。仮にあなたの大切な人………シアがピンチに陥った時、あなたは相手が可哀想だという理由でシアを見捨てますか?」

 

「ッ…………!?」

 

その言葉にカムは目を見開く。

 

「何かを護るという事は、誰かを傷付け、あるいは殺す事にもなるんです。それに耐えられないのなら、これ以上の訓練は無意味です。今まで通り、逃げ続ける人生を送るしかありません。今回は偶然にも僕達が通りかかり、シアが頑張ったお陰で難を逃れましたが………こんな偶然が何度も続くとは思わない事です」

 

「ッ………………」

 

カム達は俯く。

 

「戦うっていう事はそういう事だ。戦うか、逃げるかは個人の自由だ。だけど、戦わなければ護れない時がある。だから俺は…………戦う事を選んだ」

 

拓也がそう言った。

 

「戦わなければ………護れない…………!」

 

カムが呟くと、再び顔を上げた。

その顔は、何か覚悟を決めた顔だ。

数日前の表面上の薄っぺらい覚悟ではない。

『戦う覚悟』を決めた表情だ。

そしてそれは、他のハウリア族も同じだった。

 

「ハジメ殿、拓也殿………もう一度我々を鍛えていただきたい! 今度こそ、本当に……!」

 

彼らはそう言って、揃って頭を下げた。

 

「…………わかりました」

 

その言葉に、ハジメ達は応える事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

それからのカム達は、眼の色を変えて訓練に励んだ。

生き物を殺すときも、訓練中は感情を押し殺し、集中を途切らせない。

 

「君達兎人族は非力だ! だから真正面から戦うんじゃない! 隠れて敵の眼を欺き、敏感な気配察知で相手の居場所を把握! 相手に気付かれないように奇襲で仕留めるんだ!」

 

ハジメは、兎人族の短所を埋めるのではなく、長所を伸ばす方向に力を傾けた。

非力な兎人族がいくら力を鍛えようと、屈強な虎人族や熊人族には遠く及ばないからだ。

 

「力が足りないなら他から補うんだ。君達がこの大自然で培ってきた知識を全て活かせ!」

 

そして、兎人族最大の弱点である非力さは、毒草を利用する事を覚えさせた。

樹海には色々な植物が自生している。

その中には命を奪う毒草から傷を治す薬草までいろいろな種類が存在している。

それらを武器や道具として利用し、相手を行動不能、必要ならば殺す事も視野に入れる。

そして、そこで役立つのがハジメのオタク知識。

ハウリア族の適性は隠密に特化している。

つまり、忍者だ。

更にハジメが何を思ったか、短めの直刀である忍者刀を持たせ、更には苦無や手裏剣も錬成で大量に生産し、更には黒い忍び装束まで準備した結果…………

 

 

 

 

訓練が始まってから9日。

ハジメの目の前には、ハイベリアの尾が1つと、その前にズラッと並んで跪く忍び装束のハウリア族の姿があった。

 

「お頭! 訓練目標であるハイベリアの討伐、完了いたしました!」

 

カムが跪きながらそう報告する。

ハジメはいつの間にか『お頭』になったらしい。

 

「う、うん。ご苦労様」

 

「はっ! 途中で仲間を呼ばれましたが、目標は1体でいいという事でしたので、無用な殺生は避け、麻痺毒による行動不能にとどめて参りました。他の魔物に襲われなければ、半日程で復帰できるかと」

 

「そ、そう…………」

 

ハジメはやや引き攣った表情で呟いた。

ウサミミ忍者軍団の爆誕である。

ハジメが、知識の一端として、昔忍者と呼ばれる隠密に長けた集団が居たと、話しただけなのだが、あれよあれよという間に話が広がり、こんな事になった。

すると、ハジメの近くの木々が揺れ、その木の枝から別のハウリア族が飛び降り、着地と同時に跪いた。

 

「お頭! 報告します! 大樹へのルートに武装した熊人族の集団を発見! おそらく我々に対する待ち伏せと判断いたします!」

 

「う、うん………良く見つけられたね………」

 

「はっ………! もったいなきお言葉!」

 

その時、

 

「お頭、宜しければ我々にお任せ願えませんでしょうか?」

 

カムがそう言った。

 

「カム…………?」

 

「…………お頭の保護が無くともこの樹海で生きていける…………その証明をさせていただきたく存じます」

 

「……出来るんだね?」

 

「はっ!」

 

カムは力強く肯定した。

 

「それなら最終試験だ。待ち伏せしている熊人族の集団を無力化して。殺しは極力避けて欲しいけど、いざと言う時は躊躇わないで」

 

「「「「「「「「「「承知!」」」」」」」」」」

 

ハウリア族は頷くと、シュッと言わんばかりに姿を消した。

 

 

 

 

 

 

森の中では、熊人族が、拓也達が来るのを今か今かと待ち続けていた。

長老会議では手出し無用と決定したが、どうしても納得できなかった熊人族のジンが自分を慕う手勢を集めて襲撃を計画したのだ。

息を潜め、相手が来るのを待っていると、シュッと空気を切り裂く音がして、

 

「ぐあっ!?」

 

熊人族の戦士の1人が突然二の腕に走った痛みに声を上げた。

見れば、その二の腕に苦無が刺さっている。

 

「ちぃっ!」

 

その戦士は苦無を握ると引き抜く。

 

「大丈夫か!?」

 

別の戦士が声を掛ける。

 

「ああ。傷は大したことない!」

 

傷をつけられた熊人族はそう言って傷の痛みを無視する。

 

「襲撃だ! 総員、気を引き締めろ!」

 

ジンが叫ぶ。

待ち伏せている筈だった熊人族の戦士たちは、慌てて武器を取ると、辺りに気を配る。

音も気配も感じない。

静寂だけが過ぎる中、

 

「………うっ……ううっ………!?」

 

突然1人の熊人族が苦しそうに蹲った。

それは先程苦無で傷付けられた戦士だ。

 

「如何した!?」

 

「かっ……身体が痺れて…………!」

 

その言葉に、熊人族の意識が一瞬そちらに向いた。

その瞬間、ジンの背後に悪寒が奔った。

 

「チィッ!?」

 

ジンは咄嗟に背後に剣を翳した。

 

―――ギィン!

 

甲高い音がして一瞬火花が散る。

ジンの頬には、一筋の傷が付いていた。

ジンはギリギリで防ぐことができたが、

 

「ぐわっ!?」

 

「がっ!?」

 

「ぎゃあっ!?」

 

複数の熊人族の戦士が悲鳴を上げる。

肩や背中、腿などに浅くない傷を負っていた。

 

「クッ………!」

 

ジンは顔を顰めてまずは目の前の敵に集中する。

それは、黒い忍び装束に黒い覆面を被り、忍者刀を逆手に持って『ウサミミ』を靡かせたカムの姿があった。

 

「き、貴様……ハウリアかっ!?」

 

「いかにも」

 

ジンの問いにカムは短く答えると音もなく霧の中に姿を消す。

 

「くっ! コソコソと隠れながらの不意打ちとは卑怯だぞ! 正々堂々戦え!!」

 

ジンの腹心である熊人族の戦士のレギンが叫ぶ。

 

「何とでも言うが良い………これが我らの戦い………これが我らの正々堂々だ………!」

 

再び空気の切り裂く音と共に複数の手裏剣が飛んでくる。

ジンは何とか叩きとしたが、

 

「がっ!?」

 

「ぐあっ!?」

 

後に居たレギンや他の戦士たちはその手裏剣を受けてしまう。

 

「ええいっ!」

 

レギンは忌々しく刺さった手裏剣を引き抜くと、地面に叩きつける様に投げ捨てた。

 

「このような玩具では、我々熊人族に致命傷を与える事など叶わんぞ!」

 

霧の中にそう叫ぶレギン。

しかし、

 

「……………フッ」

 

一瞬嘲笑う様な声が聞こえたかと思うと、

 

「あがっ………!?」

 

レギンが一瞬身体を硬直させ、膝を着いて倒れる。

 

「か、身体が…………」

 

その様子を見たジンが、

 

「これは………まさか毒か!? ッ!? という事は!」

 

気付いた様に先程傷つけられた頬に触れようとして、ガクリと膝から力が抜けて、その場に膝を着いた。

 

「くっ………既に勝負は決していた訳か………」

 

「その通り………我らの刃を僅かでも受けた時点で既にな」

 

カム達が霧の中から姿を現す。

既に熊人族の戦士たちは全員が麻痺して動けない状態だった。

ジンは最後の力でその場に手を突いて頭を下げると、

 

「俺はどうなってもいい………兎人………いや、ハウリアの長よ。すべては同族を駆り立てた俺の責任だ。部下だけは見逃してくれ、頼む………!」

 

そう懇願した。

それに対し、カムの答えは、

 

「……………我々に、お前達の命を奪う意志は無い」

 

その答えにジンはハッとなる。

 

「ただ我々は、お頭に証明したかっただけだ。お頭の庇護が無くとも、この樹海で生きていけるという証明をな…………」

 

「ハウリアの長………」

 

「それに………ただでさえ数が少ない亜人の中でも有数な戦士を有する熊人族を殺す事は、我々亜人にとって大きな損失となる。亜人の未来を踏まえても、この場でお前達の命を奪うのは得策ではない」

 

「ッ……………感謝する………ハウリアの長よ…………そして………我々の完敗だ………」

 

自分達の意地とプライドの為に動いたジン達と違い、カムは亜人族全体の事を考えて矛を収めた。

その器の大きさでも、ジンは負けたと感じたのだ。

すると、カムは後ろに振り返り、

 

「………お頭、これで如何でしょうか?」

 

そう呼びかけた。

すると、霧の中からハジメが現れ、

 

「うん。死人も出さずに全員無力化。文句なしの合格だ」

 

ハジメの言葉にハウリア族は一斉に跪き、

 

「「「「「「「「「「ありがたきお言葉!」」」」」」」」」」

 

一斉に唱和した。

それにハジメは慣れないのか、若干引いた仕草をするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次回予告

 

 

 

霧が薄まった事で大樹へと向かう一行。

そんな中、ユエとの特訓を終えたシアは、ハジメにあるお願いごとをする。

その内容とは…………

 

 

 

次回、ありふれたフロンティアへ

 

 

第12話 新しい仲間と共に!

 

 

今、ありふれた伝説が進化する。

 

 

 

 

 





はい、第11話です。
スタートダッシュ8です。
今回も前作のコピペが多いですね。
今回はハウリアの訓練に焦点を当ててみました。
この小説では真っ当に強く…………真っ当か?
まあ、ヒャッハーでは無いので………
それでもウサミミ忍者軍団となりました。
次回はブルックの町まで行けるかなぁ?って所です。

ハウリア族の特訓は?

  • 原作通りにヒャッハー!
  • 真っ当に強くしてみましょう
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