シアが戦闘訓練を始めて、今日が最終日の10日目。
「でぇやぁああ!!」
教官役のユエに向かってシアが圧し折った大木を投げつける。
「それにしてもシアはん、パワフルになったもんやハラ………」
「特訓始める前はあれだけ非力だったのにね~」
そんなシアを見つめながらボコモンとネーモンがそう漏らす。
訓練を始める前のシアは間違いなく非力で、大木どころか枝を振り回すのも一苦労だった筈。
それがたった10日間でここまでの怪力を引き出せるようになったのは、偏にユエの指導の賜物だろう。
「……〝緋槍〟」
投げつけられた大木に対して、ユエは炎の槍を生み出してそれを放つ。
大木は一瞬にして燃え尽き、灰となって宙を舞う。
「まだです!」
直後に真上から丸太が投げつけられ、ユエはバックステップでそれを躱す。
でも、その瞬間にその丸太に蹴りが叩き込まれて砕け散り、無数の破片の散弾となってユエに襲い掛かった。
「ッ! 〝城炎〟」
ユエは炎の壁を発生させてそれを防ぎ、
「もらいましたぁ!」
「ッ!」
更に後ろに回り込んでいたシアが大槌を振りかぶっていて、直後に衝撃波を伴って振り下ろされた。
その瞬間、
「〝風壁〟」
ユエは風の壁を発生させると同時に飛び退いて大槌の直撃を躱し、更に風の壁で余波を防ぎつつその風に乗ってシアから距離を取る。
そしてそのまま、
「〝凍柩〟」
「ふぇ! ちょっ、まっ!」
大槌を振り下ろした状態で隙だらけとなっていたシアに氷系魔法を放ち、頭を除いて一瞬で氷漬けにした。
ユエとシアは勝負をしていた。
それは、訓練が終わる今日までにシアがユエに傷一つでも付けられたらシアの勝ちという勝負。
その結果は、
「づ、づめたいぃ~、早く解いてくださいよぉ~、ユエさ~ん」
「……私の勝ち」
氷漬けのシアにユエが勝ち誇った笑みを向ける。
「そこまで!」
香織が試合終了の合図を出す。
「この勝負は………シアの勝ちだね!」
香織はシアを勝者とした。
「えっ!?」
「…………何故?」
香織の言葉にシアは驚いた表情で顔を上げ、ユエは納得いかないという表情で香織を見た。
「ユエ、頬っぺを確認してみて」
香織は微笑みながら自分の左頬を指差し、ユエに告げる。
ユエがつられる様に左頬をなぞると、そこには一筋の傷。
おそらく先程の大槌の一撃で飛び散った小石の一つがユエの風壁を突破したのだろう。
すると、
「それ! ユエさんの頬っぺ! キズです! キズ! 私の攻撃当たってますよ! あはは~、やりましたぁ! 私の勝ちですぅ!」
シアが満面の笑みで喜び、勝ちを宣言する。
「……………傷なんて無い」
なぞった傍から再生能力で傷を消し、とぼけるユエ。
「んなっ!? 卑怯ですよ! 確かに傷が……いや、今はないですけどぉ! 確かにあったでしょう! 誤魔化すなんて酷いですよぉ! ていうか、いい加減魔法解いて下さいよぉ~。さっきから寒くて寒くて……あれっ、何か眠くなってきたような……」
「ユ~エ、誤魔化すのは無しだよ。私がちゃんと見てたんだから」
「………………………不覚」
ユエは嫌そうな顔でそう呟いた。
「ぴくちっ! ぴくちぃ! あうぅ、寒かったですぅ。危うく帰らぬウサギになるところでした」
氷漬けから解放されたシアがくしゃみをしながら近くの葉っぱで鼻をかむ。
すると、シアが真剣な表情をして、
「ユエさん。私、勝ちました」
「………………ん」
「約束しましたよね?」
「……………………ん」
「もし、十日以内に一度でも勝てたら……ハジメさん達の旅に連れて行ってくれるって。そうですよね?」
「…………………………ん」
「少なくとも、ハジメさんに頼むとき味方してくれるんですよね?」
「……………………………今日のごはん何だっけ?」
「ちょっとぉ! 何いきなり誤魔化してるんですかぁ! しかも、誤魔化し方が微妙ですよ! ユエさん、血さえあればいいじゃないですか! 何、ごはん気にしているんですか! ちゃんと味方して下さいよぉ! 香織さんとユエさんが味方なら、九割方OK貰えるんですからぁ!」
「…………………香織は良いの?」
ユエは香織の方に向いてそう問いかけた。
「ユエ、私がユエをハジメ君の傍にいる事を許した理由を覚えてる?」
「…………ハジメが香織から離れて行かない為の『鎖』にする為…………」
「うん。でもね、情けない事だけど、私の中にはまだ『不安』があるの。『鎖』がユエだけじゃ、その内離れちゃうんじゃないかって…………」
「…………シアも『鎖』に?」
「うん。もちろん、誰でもいいって訳じゃないよ。ちゃんとその子がハジメ君を大切に思ってて、同時に私やユエの事も好きで、その上で私とユエが好きになれる子じゃないと私は許さない。その点で言えば、シアは合格かな? ユエはシアの事嫌い?」
「…………………嫌いじゃない」
素直に好きだとは言ってないが、絶対に反対という訳ではない。
「そっか」
香織は唯微笑むのだった。
シアの訓練を終えた香織達は、ハジメや拓也と合流するためにハウリア族の特訓をしている所までやってきた。
「ハジメさーん!」
シアが機嫌よく声を掛ける。
「あ、皆。特訓は終わったの?」
「はい! 聞いてくださいハジメさん。私―――」
シアが本題を切り出そうとした時、
「お頭! 大樹周辺の霧が弱まってきました!」
突然音もなくハジメの隣に跪いた忍び装束のカムが現れてそう報告する。
「お、お頭!? って父様!? どうしたんですかその恰好!?」
シアはカムの恰好に驚いている。
「む? おお、シアか。私だけでは無いぞ。ハウリア族はお頭のお陰で生まれ変わったのだ」
カムがそう言うと、カムの背後に他のハウリア族が音も無く現れ、片膝を着いていた。
「こ、これは一体…………?」
シアが知るオドオドしたハウリア族の姿は無く、そこには自信に満ちた眼差しで前を見据える集団が居た。
「お頭が我々に、我々の戦い方をお教えくださったお陰だ。我々の長所を最大限に生かせば、他の種族にも決して劣るものでは無いと証明してくださったのだ」
「そ、そうですか………因みにその恰好は?」
「これか? これはハジメ殿の故郷にかつて存在した忍者という隠密や密偵を得意とした者達が身に着けていたとされる衣装だ。これがまた我々によく合っていてな。武器もそれに合わせてお頭にご用意していただいた」
「は、はあ………」
たったで10日でここまで様変わりした同胞達にシアは唖然としていた。
まあ、どちらかと言えばいい方向への変化だと言えよう。
その変化が急すぎただけで。
「………それよりも、霧が弱まったのは本当?」
「ハッ! 今からでも向かえます!」
「そう……話は後でも大丈夫かな?」
「えっ………わ、分かりました」
シアは話すタイミングを逃したのかそれに頷く。
「よし、じゃあ大樹までの案内を頼むよ」
そう言って一行は大樹へと向かった。
その道すがら、
「そう言えばシアの特訓は如何だったの?」
ハジメがユエに訊ねる。
「………魔法の適性はハジメと変わらなかった」
つまり全属性に適性無しという事だ。
「宝の持ち腐れってこと?」
「ただ………身体強化に特化してる。正直化け物レベル。多分通常のハジメの8割ぐらい…………少なくとも通常の香織より身体能力は上。しかも鍛練次第でまだ上がるかも」
「マジで? 確かに化け物レベルだね」
「だからシアを………」
「ん?」
「………なんでもない」
出掛かった言葉をユエは呑み込んだ。
その時、
「お頭! 大樹が見えてきました!」
「わかった! 最後まで気を抜かないように!」
やがて森が開けるとそこには、
「これは………?」
「枯れてる………?」
ハジメと香織が呟く。
その言葉通り、目の前の幹が直径50mほどもありそうな大樹は見事に枯れていた。
すると、
「大樹は、フェアベルゲン建国前から枯れているそうです。しかし、朽ちることはない。枯れたまま変化なく、ずっとあるそうです。周囲の霧の性質と大樹の枯れながらも朽ちないという点からいつしか神聖視されるようになりました。まぁ、それだけなので、言ってみれば観光名所みたいなものですが……」
カムがそう説明する。
そしてその大樹に近付き、
「後は、石板がここにあるぐらいですな」
大樹の根元にある石板を指した。
その石板には七角形と、それぞれの頂点にある紋様が描かれている。
すると、ボコモンが何かに気付いたのかその石板に近付き、
「拓也はん、この紋様は確か………」
何かを確認する様に石板に描かれていた7つの紋様の1つを指し示した。
拓也がそれを確認すると、
「これって確か、オスカーの紋様じゃないのか?」
ボコモンの言葉で見覚えがあった事を思い出す。
「どうやらここが大迷宮の入り口みたいだけど………ここからどうすればいいんだろう?」
ハジメが腕を組んで考える。
すると、ネーモンが興味あり気に石板を眺めながらその周りをまわっていき、石板の裏側に来ると、
「ねえ~、石板の裏側に窪みがあるよ~」
何かを見つけた様に石板の裏側を指した。
ハジメが確認すると、確かに窪みがある。
「こういう場合のお約束は…………」
ハジメが宝物庫からオルクスの指輪を取り出すと、石板の裏にあった窪みにはめ込んだ。
すると、石板が光り出して文字を浮かび上がらせた。
そこには、こう書かれていた。
〝四つの証〟
〝再生の力〟
〝紡がれた絆の道標〟
〝全てを有する者に新たな試練の道は開かれるだろう〟
「……どういう意味なんだろう?」
ハジメが呟くと、
「……四つの証は他の迷宮の証じゃないかな?」
香織がそう言う。
「紡がれた絆の道標は亜人の案内人って事じゃないですか?」
シアが続ける。
「再生の力は……………私の再生能力とは違うみたい」
ユエが石板に触れても何の反応も示さない事からそう言うと、
「なら、再生に関する神代魔法って事か?」
拓也がそう結論付ける。
「つまり今すぐ攻略は無理って事か………仕方ない。面倒だけど他の迷宮に行く事にしよう。先に三つの証を手に入れよう」
ハジメの言葉に皆は頷いた。
「という訳で僕達は他の大迷宮を目指すことにする。大樹の元へ案内するまで護るという約束もこれで完了だ。今の君達ならフェアベルゲンの庇護が無くても生きていけるだろうし。そう言う訳でこれでお別れだよ」
ハジメがそう言うと、
「あ、あの! ハジメさん、お願いがあります!」
シアが意を決して口を開いた。
「私を………ハジメさん達の旅に連れて行ってください!」
その言葉を聞いても、ハジメは予想していたのか驚くことは無かった。
「………もうフェアベルゲンで生活してるわけじゃないんだ。君が忌児でも一族に迷惑をかけることは無いよ。なのに、何で付いて来るって言うの?」
ハジメは純粋に問いかけた。
「それはですねぇ………えっと………そのぉ…………」
シアが顔を赤くしながらモジモジする。
「何? ハッキリと言ってごらん?」
ハジメは出来るだけ優しい声で理由を聞き出そうとそう言う。
すると、シアは意を決したように顔を上げ、
「~~~~~~~~っ! ハジメさんの傍に居たいからですっ!! しゅきなのでぇ!!!」
「ええっ!?!?」
その言葉は予想外だったのか、盛大に驚くハジメ。
「な、何で…………?」
「窮地を何度も救われて、同じ体質で……長老方に啖呵切って私との約束を守ってくれたときは本当に嬉しかったですし……ただ、状況が関係あろうとなかろうと、もうそういう気持ちを持ってしまったんだから仕方ないじゃないですか」
狼狽えるハジメにシアは続けた。
「か、香織、ユエ………! 2人からも何か言って………」
「え? 私は賛成だけど?」
「……………嫌ではない」
香織とユエに助けを求めたハジメだったが、あっさりと裏切られる。
「た、拓也は………」
「ボコモン、ネーモン。シアの特訓は如何だったんだ?」
「経験不足は否めんじゃハラが、身体能力的には進化する前の拓也はんよりも強いと思うマキ」
「素手で大木引っこ抜いてたもんね」
「ふ~ん。まあいいんじゃないか?」
拓也も反対ではない様だ。
「決まりですね!」
シアはニコニコしながらそう言い切った。
「…………好きにして」
ハジメはガクッと項垂れるのだった。
こうして、一行の旅に新しい仲間が加わった。
樹海でシアを仲間に加えた一行は、魔力駆動四輪で近くの街に向かっていた。
次の迷宮である【ライセン大峡谷】に向かう前の準備の為だ。
街が見えてきた所で車を降り、徒歩で街の入り口まで向かう。
その道すがら、
「あ、そう言えば香織と拓也。ステータスの隠蔽はしてある?」
「勿論だよ」
ハジメの言葉に香織は当然の様に頷いたが、
「隠蔽? 何でそんな事するんだ?」
拓也は首を傾げた。
「あのさ、僕達のステータスはハッキリ言って化け物レベルなんだよ?」
「こんなステータス見せたら大騒ぎになっちゃうよ」
ハジメと香織は2人してそう言う。
「あ~、確かに………けど、それってお前らだけだろう? 俺のステータスはお前らに比べたら大したことないし…………」
拓也は楽観的にそう言ったが、2人は溜息を吐いた。
「拓也、忘れてると思うんだけど、王国の騎士団長のメルド団長ですらステータスの平均が300前後なんだよ? それに比べたら拓也のステータスも十分化け物レベルだって………」
ハジメは呆れた様にそう言った。
「あ、ああ………そう言えばそうだったな…………」
言われて思い出したのか、声が尻すぼみになりつつステータスプレートを取り出してステータスを隠蔽する。
「ああ、それから…………」
ハジメは思い出したように宝物庫から3つの輪っかを取り出した。
「悪いと思うんだけど、シアとボコモン、ネーモンにはこれを付けて貰いたいんだ」
そういうハジメ。
「それは何じゃハラ?」
ボコモンが尋ねると、
「簡単に言えば首輪だね」
「首輪………って、それじゃまるで奴隷じゃねえか!?」
仲間にそんな物を付けようとしているハジメに拓也が声を荒げる。
「ちょっと待って! 落ち着いて! これはむしろシア達の身を護る為なんだよ」
詰め寄る拓也にハジメはそう言い聞かせるように言った。
「どういうことだよ?」
拓也が聞き返すと、
「この世界では街中で見かける亜人は殆ど奴隷と言っていい。そんな所に、首輪をしていない亜人が歩いていたらどうなると思う?」
「もしかして、人攫いに狙われるとか?」
香織がそう言うと、
「その可能性が高いと思ってる。今のシアなら返り討ちに出来るだろうけど、騒ぎはなるべく起こしたくないから」
「そういうことか…………」
理由を聞いて納得したのか、拓也も大人しくなる。
「そういうわけで、悪いけど付けてくれないかな?」
「シアはんは分かるんじゃが、ワシらもじゃマキ?」
ボコモンが聞き返す。
「まあ、ボコモン達は如何見ても人間には見えないからね。とりあえず変わった亜人で通そうと思う」
一先ず皆を納得させ、シア、ボコモン、ネーモンは首輪をつける事になった。
そうして街の門の前まで辿り着くと、やはり門番に声を掛けられた。
「止まってくれ。ステータスプレートを。あと、町に来た目的は?」
そう言いながらステータスプレートを差し出す拓也、ハジメ、香織。
ユエとシア、ボコモン、ネーモンはステータスプレートを持っていないので出せない。
「食料の補給が主です。旅の途中でなので」
「ふむ…………」
そう言って門番はステータスプレートに目を通す。
「それで、そっちは………」
ステータスプレートを提示してないユエとシア、ボコモン、ネーモンに視線が向く。
「え~、実はこっちの金髪の方は前に魔物に襲われた時に無くしてしまいまして…………それでこっちの3人は………言わなくても分かるでしょう?」
そう言うハジメ。
門番は3人に嵌められている首輪を見て、
「なるほど………綺麗所を手に入れたな。まぁいい、通っていいぞ。冒険者ギルドは中央の道を真っすぐだ。ようこそ『ブルック』へ」
街へ入る事を許された一行は門を潜る。
街を見回りながら道なりに進む。
王都と比べれば当然ながら小さいが活気がある。
「中々活気があっていい街だな」
「そうだね」
「んっ………」
ハジメの言葉に香織とユエが頷く。
一先ず一行は素材を換金する為に冒険者ギルドへ向かう事にした。
「冒険者ギルド。ブルック支部へようこそ! ご用件は何だい?」
冒険者ギルドに着くと、受付で出迎えたのは恰幅の良いおばちゃんだった。
「両手にとびきりの花束を抱えてるのにまだ足りなかったかい? 残念だったね、美人の受付でなくて」
「いや……そんな事考えてないですよ………」
ハジメがそう言うが実際は内心ガッカリしていた事はハジメだけの秘密だ。
「それよりも素材の買取をお願いしたいのですが………」
「はいよ! 買取だね! じゃあ、まずステータスプレートを出してくれるかい?」
「え? 買取にステータスプレートの提示が必要なんですか?」
「あんた冒険者じゃなかったのかい? 確かに、買取にステータスプレートは不要だけどね、冒険者と確認できれば一割増で売れるんだよ」
「そうだったんですか」
冒険者になれば、色々と特典が付いて来るらしく、街の外ではいつ魔物に襲われるか分からないので、それに見合った報酬が付くのは当然なんだそうだ。
「ならウチで冒険者として登録できるよ。一緒にやっとくかい?」
「………せっかくだし。お願いしましょう」
ステータスプレートを差し出すハジメ、拓也、香織。
「買取はここでやってくれますか?」
「ああ、そこに出してちょうだい」
ハジメは予め宝物庫から出しておいて袋に入れておいた素材をカウンターに置く。
因みにこれは樹海で狩った魔物の一割にも満たない。
すると、そのおばちゃんは手に取った素材を見て驚いた顔をした。
「なっ!? これは樹海の魔物じゃないかい………!?」
「やっぱり珍しいんですか?」
「そりゃあねぇ。樹海なんて並の冒険者じゃ命が幾つあっても足りないよ。 ここでの買取で良いのかい? もっと大きな町なら高く売れそうだけど………」
「いえ、お気遣いはありがたいですがここで構いません」
一行に持ち合わせは無いので、多少安かろうと換金しないと宿にも泊まれないのだ。
暫くして、
「はいお待たせ。全部で487000ルタだよ。冒険者登録もしておいたからね。あと、街の簡素な地図もサービスで付けとくよ」
「ありがとうございます。助かります」
ハジメは受け取った地図を見ると、驚いた表情になる。
「いいんですか? 十分にお金が取れるレベルだと思うんですが………?」
ハジメはそう言うが、
「いいんだよ。あたしが趣味で書いてるだけなんだから」
「重ねてありがとうございます」
ハジメは頭を下げる。
ハジメは礼を言って皆とギルドを出ようとすると、
「それよりもいい宿に泊まりなよ! その女の子達を見て暴走する男連中が出そうだからね!」
最後まで忠告をくれるおばちゃんに内心感謝するハジメであった。
「だそうだよ。先に宿探しから始めよっか」
貰ったガイドマップにオススメと書かれていた宿に到着すると、
「いらっしゃいませ! ようこそマサカの宿へ!」
カウンターらしき場所に行くと、15歳くらい女の子が元気よく挨拶しながら現れた。
「本日はお泊りですか? それともお食事だけですか?」
「宿泊です。このガイドブック見て来たんですが、記載されている通りで宜しいですか?」
ハジメがそう聞くと、その女の子は納得したと頷き、
「ああ、キャサリンさんの紹介ですね。はい、書いてある通りですよ。何泊のご予定ですか?」
「………一泊です」
因みにハジメが答えるのに間があったのはあのおばちゃんの名前が『キャサリン』だという事に若干のショックを受けたからだった。
「え、え~と、それでお部屋はどうされますか? 4人部屋と3人部屋と2人部屋が空いてますが……」
一行の人数からどの部屋にするかを聞いてくる。
「そうだね…………」
ハジメが少し考えていると、
「4人部屋と3人部屋で!」
香織がそう言って決めてしまった。
「わ、分かりました。4人部屋と3人部屋ですね」
そう言って鍵を差し出す。
「どうも。さあ行こう、ハジメ君」
香織はまるで急かす様にハジメを押していった。
因みにその後、必要な買い出しを終えて宿に戻って来たその夜の事…………
拓也はてっきり男子2人+ボコモン、ネーモンで4人部屋、女性陣で3人部屋だという部屋割りだと思っていたのだが、実際はハジメ、香織、ユエ、シアで4人部屋。
拓也とボコモン、ネーモンで3人部屋だった。
拓也が隣の部屋に隣接する壁際のベッドで寝ようとした時、
「んぁ………………はぁ…………ハジメさぁん……………!」
「ハジメくん………………ああん…………!」
「ハジメぇ………………!」
壁の向こうから微かにそんな声が聞こえてきた。
「…………………………あ・い・つ・らぁ~~~~~~~~~……………!」
節操がないハジメ達に怒りを覚える拓也。
しかし、人の恋路を邪魔する程野暮ではない。
「……………はぁ………マジで優花に会いてぇなぁ………………」
拓也は別のベッドで暢気に寝ているボコモンとネーモンを起こさないように静かに呟き、悶々とした夜を過ごすのだった。
因みに翌日、ハジメ達を再び視線だけで人を殺せそうな眼で睨んだのは、仕方のない事だろう。
次回予告
準備を整え、再びライセン大峡谷に足を踏み入れた拓也達。
数日にわたる捜索の末、遂に大迷宮の入り口を発見する。
その迷宮の奥で待ち受けていたものとは。
次回、ありふれたフロンティアへ
第13話 ミレディ・ライセンのドキワク大迷宮を攻略せよ!
今、ありふれた伝説が進化する。
はい、第12話です。
スタートダッシュ9です。
今回も前作と大きな流れの変更はありません。
と言いますか、変わってくるのがウル編からなのでそこまでは前作と似たような流れと思ってください。
まあ、この時点でシアが受け入れられているという所が大きな変更点ですかね。
拓也のストレスがマッハです。
では、次はライセン大迷宮の攻略です。