ミレディにより水に流された拓也達は、ブルックの町の近くにある泉から吐き出された。
「あんのヤロー………! 次会ったら絶対燃やす!」
泉から出るなり拓也はそう愚痴る。
「やれやれ、大変な目に遭ったハラ………」
「まるで水洗トイレみたいに流されたね」
「言わんでいい!」
「あいたっ!?」
ネーモンのセリフにボコモンがゴムパッチンを食らわす。
因みに、
「ハジメ、シアが息してない」
「何だってぇぇぇぇっ!?」
ユエの言葉にハジメが取り乱す。
シアは蒼い顔をして意識を失っている。
「ハジメ君! 人工呼吸!」
「そ、そうか!」
そうしてハジメがシアに人工呼吸して無事に息を吹き返すという一幕があったりする。
ずぶ濡れのままブルックの町のマサカの宿に再びやって来た俺達。
「7名1泊。風呂も付けてください」
宿娘にそう言うハジメ。
「この前のお客様!? そのお姿は一体!?」
宿娘が驚くのも無理はないだろう。
特に雨も降っていないのに一行の全員がずぶ濡れなのだ。
「まあ、色々あって………出来ればすぐ風呂に入りたいんだけど。空いてますか?」
「は、はい! 今の時間帯なら貸し切りでご利用いただけます! 15分100ルタですが、何分ご利用ですか?」
「んー………そうですね………」
宿娘の言葉にハジメは少し考え、
「3時間で」
「さ、3時間もっ………!?」
ハジメの言った言葉に宿娘が驚く。
「そんなに使って何する気ですかっ!?」
「いや、普通に風呂に入るだけですが………?」
「そんなはずありません! この前の大部屋に泊まった時だってきっとすごいプレイを………痛い!」
その瞬間、母親に拳骨を落とされる宿娘。
「すみません、そう言う年頃でして………どうぞゆっくりなさってください」
「は、はい………」
そのまま引き摺られていく宿娘を見て、ハジメは若干引いた声を漏らした。
因みに宿娘の言葉に、拓也は内心大正解と思っていたりする。
因みにハジメが3時間も時間を取った理由として、全員が一緒に入るわけにはいかないので、それぞれ男女でゆっくり入れるようにそれだけ時間を取ったわけだが、それぞれに何があったかはご想像にお任せしよう。
尚、
「あ~も~…………ほんっと優花に会いてぇ………………!」
拓也のこのセリフで何があったのかは推して知るべし。
翌日。
再びブルックの冒険者ギルドを尋ねた拓也達を、あの『キャサリン』というおばちゃんが出迎えた。
「おや、いつぞやの坊や達じゃないか。今日はどんな用だい?」
「グリューエン大火山の迷宮へ行きたいのですが。何か情報を持っていませんか?」
「はいはい、ちょっと待ちな」
キャサリンは資料を取り出すと捲り始める。
「そう言えばこの間、冒険者登録をここでしたよね? とすると、今のランクは青だね」
「はい」
「…………あった。待たせたね。大火山の情報だよ。これを見てみな」
キャサリンが資料を見せながらそう言ってくる。
「グリューエン大火山は大陸を西に進んだ大砂漠の中にある。迷宮に挑戦するならしっかり準備をする必要があるよ。おすすめは途中の『フューレン』って所に寄ることだね。大陸一の商業都市だから、大体の物は何でもそろうはずさ。今ならフューレンへの護衛の依頼が一件あるね。馬車で移動できるから丁度いいと思うよ。どうするかい?」
「そうですね………乗り物はありますから移動手段には困ってませんが…………」
ハジメはそう言いながら他のメンバーに振り向く。
その顔は依頼を受けてみたいとウズウズしている顔だ。
流石は根っからのオタクである。
「急ぐ旅じゃない…………」
「他の冒険者さん達と情報交換できるかもですよ?」
「まあ、いいんじゃないか?」
拓也達も賛成に回る。
「そうだね………たまにはいいか。受けさせてもらおう」
「あいよ。それじゃそのまま正門へいっとくれ………あ、ちょっと待ちな」
キャサリンがハジメ達を呼び止め、何かを一筆サラサラと書き始めた。
すると、それに封をして、
「あんた達には見込みがありそうだからね」
そう言いながらそれを渡してきた。
「これは?」
「手紙だよ。他の町でギルドと揉めた時はそれを見せな」
軽くそう言ってくるが、それは即ちこのキャサリンは他のギルドにも大きな影響力を持っている事に他ならない。
「おっと、詮索は無しだよ? イイ女には秘密が付き物さね☆」
キャサリンが良い笑顔でサムズアップする。
「一体何者なんです………あなた」
目の前のおばちゃんに対する疑問をハジメは口にした。
正門へ行くと、護衛の依頼主である隊商が集まっていた。
すると、責任者らしき男が近付いて来て、
「私の名はモットー・ユンケル。この隊商のリーダーをしている。護衛よろしく頼むよ」
「はい、役目はしっかりと果たすつもりです」
そう名乗った男とハジメが握手を交わす。
すると、
「………早速で悪いが、君に相談がある」
モットーはまるで物を見るような目でシアに視線を向けると、
「その兎人族………売るつもりは無いかね?」
その言葉を聞いた瞬間、こちらのメンバーから非難するような目がモットーに向けられる。
しかし、モットーは慣れているのかどこ吹く風だ。
「シアを売る気は無いか………ですか?」
「ええ。珍しい白髪に美しい容姿の兎人族。これほど美しい商品は初めて見るものでして」
『商品』と言った時点で非難の目が一層強くなる。
シアはハジメの後ろに隠れるように移動した。
「見れば随分と懐かれている様子。それなりの額を出しますが………いかがかな?」
その言葉にシアは不安そうにしている。
ハジメが溜息を吐くと、シアを抱き寄せ、
「僕の『大切』は、例え神が欲しがっても渡すつもりはありません。と言えばわかって頂けますか?」
そう言い切った。
その言葉を聞いたシアが顔を真っ赤にしている。
「………そこまで言われたら仕方ない。一先ず今は引き下がろう」
モットーは思ったよりもあっさりと引き下がった。
「では、そろそろ出発しますよ。護衛の程宜しくお願いします」
モットーはそう言うと自分の馬車へと戻っていった。
隊商が出発し、俺達に割り当てられた馬車の中では、
「ハジメさん♪」
シアはご機嫌な表情でハジメに寄り添う。
好きな相手にあんな風に言って貰えたのが嬉しいのだろう。
「シア、嬉しい?」
「はい! それはもちろん!」
ユエの質問にシアは笑顔で答えた。
やがて日が落ちて野営の準備をしていると、
「今日はどのくらい進んだんですか?」
ハジメがモットーに問いかけた。
「大体三分の一って所ですな。順調に行けば、後4日程で着くでしょう」
「結構かかるんですね」
「因みに食事は如何されるおつもりで? 一応食料の販売もしてはいますが………」
「ああ………そう言った事は心配いりません」
ハジメが視線を香織とシアに向けると、彼女達の目の前に食料の入った袋が現れた。
ハジメが宝物庫から取り出したものだ。
「今日もお願いね。香織、シア」
「うん」
「お任せくださーい!」
因みに香織とシアは料理の腕前を見込まれて食事係に任命されている。
しかし、そんなものを目の前で見せられたモットーは目を真ん丸にして食い入るように見つめていた。
「なっ……何ですかその道具は!?」
「あっ………」
自分の失態に気付いたハジメが声を漏らす。
「『宝物庫』って言うアーティファクトです。見ての通り好きな物を出し入れ………」
「言い値で買う!! いくら欲しい!?」
ハジメが言い終わる前にモットーは叫んだ。
物資の輸送のコストを大幅に削減できる道具だ。
商人にとっては垂涎ものだろう。
ハジメは目が血走ったモットーに一晩中質問攻めにされることとなった。
翌日。
ハジメは馬車の中で眠そうにしていた。
シアが馬車の屋根の上で風に当たりながら、
「ハジメさん、風が気持ちいいですよ!」
ハジメにそう言うが、
「ごめん、あの後ひたすら質問攻めされて眠いんだ………」
ハジメはそう言いながら欠伸をする。
「〝宝物庫〟があれば馬車いらずですもんね」
シアが屋根の上から馬車の中を覗き込みながらそう言う。
すると、
「ッ!?」
何かに気付いた様に顔を上げた。
そしてウサミミをピコピコと動かすと、
「敵襲です! 数およそ100以上! 森の中から来ます!」
そう叫んだ。
その言葉を聞いた御者は驚愕の表情をして、
「ひゃ、100以上だと!? そんな数聞いた事ないぞ!」
直ぐに手綱を引こうとする。
「引き返せ! 今ならまだ間に合うかもしれん!」
御者は完全に狼狽えていた。
そんな御者にハジメは、
「ああ、このまま進んで大丈夫ですよ」
何でもないようにそう言った。
「何言ってる!? 魔物が100匹も居るんだぞ!?」
御者は馬鹿かこいつと言わんばかりの表情だ。
普通の人達にとっては低級の魔物100匹は十分ヤバいレベルなのだ。
まあハジメ達はもっとヤバい魔物100匹以上に囲まれた事もあるので全然危機感が無いが。
「皆、ここは私に任せて」
ユエがそう言うと馬車の屋根に上る。
すると、
「あ、ちょっと待ってくれ、ユエ」
そう言いながら拓也も屋根の上に登る。
「第一撃は俺にやらせてくれ。ちょっと試したい事があるんだ。まあ、全滅は無理だと思うけど、多分半分ぐらいは減らせると思うから」
「ん………いいけど………」
「悪いな」
拓也がそう言うと、正面に魔物の群れが出現する。
シアの見立て通り100匹は堅いだろう。
しかし、拓也は臆することなく魔物の群れを見据えると、身体に力を入れながら両手を胸の前で向かい合わせにする。
「はぁああああああああっ…………!」
すると、その両手の中央に火球が生み出され、その火球がどんどん巨大化していく。
更にその火球は、今までの様に燃え盛るのではなく、完全な球体として圧縮されていた。
その炎の球体を掲げる様に持ち上げると、直径2m程にまで巨大化する。
「ブラフマシル!!」
拓也はその火球を身体全体を使って投げつける様に放った。
投げ付けられた火球が一直線に魔物の群れに向かい、着弾。
爆発と共に大半を飲み込んだ。
「うわ………何今の………?」
ハジメは驚き、
「おおっ! 今のはアルダモンの技を再現したんじゃな?」
ボコモンが気付いた様にそう言った。
「ああ。前々から考えていたんだが、重力魔法を使う事で上手くできるようになったんだ」
拓也がそう言うと、
「むう、これは負けていられない………!」
ユエが対抗意識を燃やす様にやる気を出す。
するとユエは天を指差し、
「彼の者、常闇に紅き光をもたらさん、古の牢獄を打ち砕き、障碍の尽くを退けん、最強の片割れたるこの力、彼の者と共にありて、天すら呑み込む光となれ」
ユエに本来詠唱は必要無いが、無詠唱で魔法を使うと人目の多い隊商では疑問に思う人間も多く出てくるので、そのカモフラージュの為にハジメが詠唱する様に言っていたのだ。
そして、
「〝雷龍〟」
ユエの魔法が発動すると、暗雲にとどろく雷鳴が集まり、一匹の龍を象った。
ユエが天へ向けた指を魔物の群れに向かって振り下ろすと、雷の龍は残っていた魔物の群れに襲い掛かった。
雷の龍は魔物達を蹂躙し、一瞬の内に消し去っていく。
「………うわぁ、あんな魔法僕も初めて見るんだけど………」
ハジメも今の魔法に驚きを隠せない。
「複合魔法、私のオリジナル。雷属性の魔法にライセンで手に入れた重力魔法を組み合わせてみた」
重力で雷を龍の形に束ねたという事だ。
「因みに詠唱はハジメと私の出会いと未来を詠ってます」
ユエが得意げにそう言う。
そして瞬く間に魔物達は全滅した。
その後も特に問題なく(魔物の襲撃はあったがあっさり片付けた)進み、目的地であるフューレンが見えてきた頃だった。
「ハジメ殿、着く前に宜しいか?」
隊商のリーダーであるモットーがそう言って近付いて来た。
「出発前に話したその兎人族と『宝物庫』。やはり売る気はありませんかな?」
「またその話ですか? いい加減しつこいですよ」
ハジメは珍しく鬱陶しそうにそう言う。
しかしモットーは話を続け、
「一生遊んで暮らせる金額をお支払いしますよ。特に『宝物庫』は個人の手に余る代物。この先厄介な事になるかもしれませんぞ………例えば彼女達のみに何か起きたり………」
脅しとも取れるその言葉に、ハジメの纏う空気が変わった。
一瞬の内にモットーの視界からハジメの姿が消える。
「…………? あれ………何処に………」
その時、
「それは、あなたが僕の『大切』に手を出すという意味で間違いありませんか?」
モットーの後頭部に銃口が押しあてられ、威圧を放ちながらそう言うハジメ。
威圧を受けて、モットーは慌てて取り繕った。
「ひっ………ち、違っ………! わ、私はあなたがそれを隠そうとしていないので………可能性としてそういう事もあると………たっ、ただそれだけで………」
嘘か本当かは分からないが、モットーは完全に委縮してしまっている。
「では、そういう事にしときましょうか。言っておきますが、降りかかる火の粉は払うだけです。少なくとも、あなたがこれを持つよりかは僕が持っていた方が〝宝物庫〟にとっても、持ち主にとっても安全だという事は理解できたでしょう?」
忠告の意味を込めてハジメはそう言った。
その後、街に到着すると、
「では、私は手続きがあるのでこれにて」
「ええ」
モットーが別れの挨拶に来る。
すると、
「とんだ失態を犯しました。ご入用の際はぜひ我が商会を」
「銃口を突き付けられた相手に営業ですか。ホント商魂逞しいですね」
ハジメが呆れた様にそう言った。
近くの軽食屋で休憩を取っていた俺達は、
「人の数が凄いな」
「流石大陸一の商業都市だ」
先ずは人の多さに驚く。
ブルックとは比較にならない人口の多さだ。
「これ食べたら一先ずギルドで依頼完了の報告と宿探しをしよう」
ハジメがそう言うと、
「またお風呂がある所が良い。勿論混浴で貸し切り出来る所」
「私は4人で寝れるベッドが良いです!」
ユエとシアは要望を口にする。
「………………………」
そんな彼女達に拓也は何とも言えない表情をする。
ハッキリ言って、拓也にとって宿で休むよりも野宿の方がゆっくり休めている。
流石に野宿ではハジメ達も自重するからだ。
ふと周りを見れば、男達の視線がこちらに集中している。
まあ、男が2人いるとは言えこれだけの美人が集まっているのだ。
視線を集めるのも仕方ないだろう。
見られるだけなら害は無いと気にしないようにしていたのだが、
「お、おい、そこのガキ共」
いきなりそんな声を掛けられてそちらを見れば、身形のいい格好をした、でっぷりと腹の出た、正に『The ロクデナシ貴族』と言わんばかりの金髪の男が立っていた。
「ひゃ、100万ルタやる。その兎をわ、渡せ。そ、そっちの女共は私の妾にしてやる。い、一緒に来い」
ハァハァ言いながらそういう男に女性陣は気持ち悪さに一気に引いた。
ハジメは溜息を吐くと、
「場所を変えよう」
ハジメはその男を無視して立ち上がり、立ち去ろうとした。
「わ、私を無視するな!」
男は叫ぶが拓也達は取り合わない。
そのまま立ち去ろうとした時、
「ま、待てクソガキィ!!」
その男は拓也達を呼び止めた。
「レガニド!! あいつ等を殺せ! この私を無視したのだ!」
とは言え、自分で立ち向かう気概が無いのは見て分かる事。
近くに居た冒険者らしき男にそう叫んだ。
「坊ちゃん、流石に殺すのはヤバいですぜ」
「い、いいからやれぇ!!」
「ったく、報酬は弾んでくださいよ」
口では諫めている物の、貴族(らしき)男の言葉を強くは止めない冒険者の男は俺達の前に立ちはだかると、
「そういうことだ。何、殺しはしねえよ。悪いが女の事は諦めてくれや」
自分の実力に自信があるのか、堂々とそう言って来た。
「ホントこの世界の人間は沸点低すぎないか?」
無視しただけで殺そうとするとか、と拓也が愚痴る。
まあ、貴族の命令を無視すれば無礼討ちの可能性もあるが。
すると、周りの人々からの声が聞こえる。
「あいつ………『黒』のレガニドだぞ」
「マジかよ!? 金次第であんな奴の護衛もするのか………」
どうやら目の前の男はそれなりに有名な冒険者らしい。
『黒』というのは冒険者ランクの事。
つまり、この男は上から3番目の冒険者ランクという事だ。
「俺がやるか?」
拓也がそう言うと、
「私が相手をするよ」
香織がそう言った。
「香織?」
ハジメが何故と尋ねると、
「私が戦えるって事を周りに示せば、変な事を考える人も減ると思うの」
「なるほど……………」
香織の言葉にハジメが腕を組んで考えると、
「そういうことなら任せたよ」
「うん!」
そう言って香織はレガニドと呼ばれた男の前に立つ。
「おいおい、嬢ちゃんが相手だって!? 中々笑わせるじゃねえの」
その言葉に香織は杖を構え、
「怪我をしても私が治すから安心して。報酬は諦めてもらうけど………」
「……………本気で言ってんのか? 俺はランク『黒』だぞ」
「私の天職は治癒師。冒険者ランクは『青』」
「おいおい、ランク『青』で治癒師だって?」
レガニドは馬鹿にしたようにそう言う。
「レ、レガニド傷付けるなよ! その女共は私のだ!」
貴族の男がそう喚く。
「へいへい、分かってますよ坊ちゃん」
レガニドは返事をすると、香織に向き直り、
「嬢ちゃん、夜の相手ならしてやってもいいぜ」
「ッ…………!」
その言葉にハジメが密かにカチンときていた。
「悪いけど、私には心に決めた人が居るの。ハジメ君以外に抱かれるのは絶対嫌だよ」
照れもせずに真面目に言い返す香織。
「そうかい………残念だがその彼とは今日でお別れだ。運が悪かったと思って諦めな!」
その言葉と共に、一気に間合いを詰めるレガニド。
一応言われた事は守るつもりなのか、素手で抑え付ける気の様だ。
だが、香織は素手でレガニドの両手首を掴む。
「何っ!?」
余裕で制圧できると思っていたのか驚愕の声を漏らすレガニド。
「腰の剣を抜かなくてものいいの? 手加減はするけど危ないよ?」
香織が手を離しながらそう言うと、
「治癒師如きが大きく出たな! 坊ちゃん、悪いが傷の1つや2つは勘弁ですぜ!」
頭に来たのか叫びながら剣を抜く。
先程とは違い、油断をしてないのか構えに隙が無い。
次の瞬間には、一気に飛び掛かってきた。
レガニドは剣の腹で打撃を与えて行動不能にするつもりだった。
しかし、
―――ガァン!
剣の腹による打撃を、香織は素手の手の甲でガードしていた。
いくら刃が無い場所とは言え、本来なら骨折や骨にひびが入ってもおかしくない。
だが、香織は元々の耐久と防御力を上げる金剛を発動させ、ノーダメージで防いでいた。
「なっ!? バカな!?」
信じられなかったのか目を見開いて叫ぶ。
「フッ!」
その隙に、香織はレガニドの腹に掌底を撃ち込んだ。
「ガハッ!?」
レガニドは吹き飛んで建物の塀に激突。
完全に気絶していた。
「あっ! ちょっとやり過ぎちゃった?」
意識を刈り取るつもりは無かった香織が、少し申し訳なさそうになった。
「レ、レガニド!? 何をやっている! さっさと起きてそいつらを………!」
貴族の男が勝負がついた事にも気付かずにそう捲し立てる。
拓也は溜息を吐くと、その男に向かって歩いて行く。
「ひっ! ひぃいいいいいいっ!! く、来るなぁ!!」
その男は腰を抜かしながら狼狽える。
「わ、私を誰だと思っている! ミン男爵家のプーム・ミンだぞ! 私に逆らったら………プギャ!?」
「いい加減黙ってくれ……!」
余りの鬱陶しさに、拓也は大剣を抜き放つと同時に、剣の腹でその男の顔面をぶっ叩いた。
まあ、死なないように手加減したが。
やっと静かになったとこの場を離れようとした所、
「そこの冒険者、止まりなさい!」
また別の男の声が聞こえた。
「冒険者同士での争いはギルドにて公正に判断いたします。一旦その足をどけてはいただけませんか?」
どうやらメガネを掛けた男はギルド職員の様だ。
「そうは言われましても。こいつらが襲ってきたから対処しただけなんですが」
ハジメはそう言うが、
「………証人は大勢いますし嘘では無いのでしょう。ですが双方の言い分を聞くのが規則となっています。あなた達のステータスプレートを拝見しても?」
そう言われたので、拓也達はステータスプレートを差し出す。
「…………非戦闘職の『錬成師』に『治癒師』、『炎の闘士』? しかもランクは『青』………妙ですね、あちらの彼はランク『黒』なんですが………」
ギルド職員は気絶しているレガニドに視線を向ける。
「そちらの2人もステータスプレートを宜しいですか?」
ギルド職員はユエとシアの方を向いてそう言う。
「実は彼女達はプレートを無くしてしまって………再発行はしてないんです………主に金銭的な理由で………」
ハジメは尤もらしい言い訳を言う。
「でしたらギルドで立て替えましょう。事情聴取もそちらで行います」
なんかめんどくさい事になって来たとハジメが顔を顰めていると、
「ハジメ、あの手紙出して………キャサリンからの手紙。ギルドと揉めた時に出す様に言われてた」
ユエがそう言う。
「ああ、あの手紙………こんな事なら先に中を確認しとくべきだった」
ハジメも言われて思い出したのか、手紙を取り出すと、
「これを読んでください。知り合いのギルド職員に困ったら渡してと言われまして」
目の前のギルド職員はその手紙を受け取り、
「………拝見します」
その手紙に目を通した瞬間、明らかに顔色が変わった。
「ッ………!? こ、これは……………支部長に連絡を入れろ! 客人を迎える準備もだ!!」
大慌てで部下たちにそう指示する。
「…………マジで何者? キャサリンさん………」
ハジメがそう呟いた。
そのままギルドに連れて来られて支部長室に通されると、向かい合ったソファーで支部長と対面する。
「冒険者ギルドフューレン支部へようこそ。支部長のイルワ・チャングだ」
イルワと名乗った男性がそう挨拶をする。
「手紙は読ませてもらったよ。有望だけどトラブル体質………出来れば目をかけて欲しいとあった…………あの人らしいな」
「あの~~~~………キャサリンさんって何者なんでしょう?」
シアがキャサリンが何者なのか気になったのか、若干遠慮がちにそう質問した。
それは誰もが気になっていた事だ。
「おや、聞いてないのかい?」
すると、イルワは突然懐かしそうな顔をすると、懐から1枚の紙を取り出す。
「………………彼女は素晴らしい女性だよ」
そう言いながらその紙を机の上に置く。
それは写真だった。
正確にはそれに類するアーティファクトによるものだろうが。
そこに写っていたのは、髪の色と顔の面影から10代後半の頃だろうイルワと、20代半ばと思われる女性が映っていた。
上半身しか映っていないが容姿端麗でスタイルも抜群にいいだろう、可愛いというよりも、美しいと言った方がしっくりくる美女だ。
「王都のギルド本部ギルドマスターの秘書長だった人さ。辞めた後もギルド運営に関する教育係になってね。現ギルド支部長の大半は彼女の教え子なんだ。隣にいるのが若い頃の…………」
イルワがそう言いかけた時、
「ちょっと待って…………それは誰ですか?」
キャサリンの話と写真の人物が繋がらず、我慢できずにハジメが突っ込んだ。
すると、
「誰って………当時のキャサリン先生だが?」
「「「「「「「「「……………………………」」」」」」」」」
その言葉に全員が沈黙する。
「美しさと人柄で僕らの憧れの存在だったよ。結婚して田舎へ転勤になった時は王都中が大荒れさ」
そう続けるイルワだったが、拓也達にはこの写真の美女と、何処かの食堂で働いてそうな恰幅のいいあのおばちゃんが同一人物とはどうしても思えなかった。
「………時間の流れって奴は………」
ハジメが何とも言えない声を漏らす。
それでも気を取り直し、
「それはともかく、さっきの件は大丈夫なんですか? 問題が無いならもう行きたいんですが………」
ハジメは目の前の現実を否定する様に話を変えた。
「あぁ、彼女の紹介なら身分証明は問題ない」
「なら………」
もう用は無いとハジメが立ち上がろうとした時、
「その前に一ついいかい? ドット君あれを」
「はっ」
イルワがさっきのメガネのギルド職員に話しかけた。
ドットというのが彼の名前のようだ。
そのドットという男性が俺達の前に1枚の紙を置く。
「………こちらをご覧ください」
「………依頼書?」
「ああ、君達の腕を見込んでの依頼だ」
「いや、だから何で依頼書を僕達にみせるんですか?」
ハジメがそう聞き返すと、
「まずは話を聞いてもらえないかな? 聞いてくれるなら今回の件は不問とするのだが………」
「え? たった今問題無いって………?」
「今のは身分証明についてだ。街中で暴れた件について許した覚えは無いよ」
「………………」
ハジメはイルワを軽く睨み付けるが、イルワはその視線を真っすぐに受け止めて見返す。
「説明はあったと思うけど、双方の言い分を聞くことになっている。向こうの回復を考えるといつ頃話せるようになるだろうね?」
ハジメの威圧を受けても怯まないイルワ。
支部長という肩書は伊達ではない様だ。
「分かりました。聞きますよ」
ハジメが折れて椅子に掛け直す。
「流石大都市のギルド長。いい性格してますね」
「君達も大概だと思うけどね」
やはり大都市の支部長ともなれば、並の胆力ではやっていけないのだろう。
「さて、依頼内容だが行方不明者の捜索だ。ある冒険者一行が予定を過ぎても『北の山脈地帯』から戻ってこない。捜索対象は冒険者の1人、ウィル・クデタ。クデタ伯爵家の三男だ。彼はいささか強引に同行をしてしまってね。本来はあの場所へ行けるほどの実力は持っていない。『北の山脈地帯』は1つ山を越えるとほぼ未開の地だ。強力な魔物も出没している。並の冒険者じゃ二次被害になる。そこで君達に………」
そこまで言った所でハジメが口を挟んだ。
「僕達に白羽の矢が立ったと………」
「さっきそちらの彼女が『黒』を瞬殺したのだろう? ならば、私の見立てでは君達の実力は『金』に匹敵するかそれ以上と見ている」
やはり先程の騒ぎは耳に入っていた。
「今は君達しかいないんだ。引き受けては貰えないだろうか?」
「そう言われましても…………ハッキリ言って、僕達にメリットがありません。僕達にも旅の目的というものがありますし………」
正直乗り気ではないハジメ。
「…………では君達のランクを一気に『黒』まで引き上げよう。普通なら滅多にあり得ない事だがどうだ?」
「いや、ランク無理してあげる必要も無いんですが………」
ハジメは何とか断ろうとするが、それでもイルワは食い下がってくる。
「なら今後、ギルド関係の揉め事には私が後ろ盾となろう。ギルド全体でも相当の影響力があると自負してるよ」
「…………随分と気前が良いですね。そこまでして依頼を受けさせようとする理由は何ですか?」
ハジメが怪訝そうに尋ねると、
「………伯爵とは個人的に仲が良くてね。同行パーティーに話を通したのは私なんだ。確かな実力のあるパーティーだから問題無いと思った。同行させてウィルに厳しさを教えようとしたんだが………それがこんなことになるなんて…………」
イルワは歯を食いしばりながら悔しそうな表情を浮かべる。
許可を出してしまった自分が許せないのだろう。
すると、
「………そこまで言うなら2つ条件を呑んでくれるなら引き受けましょう」
ハジメが口を開いた。
「1つ、ユエとシアのステータスプレートの作成。その表記について他言無用を確約する事。2つ、あなたの力の及ぶ範囲で構いません。僕達の後ろ盾になって欲しいんです」
「1つ目は問題無いが………2つ目の意味は何かな………?」
「おそらくですが、僕達は将来的に教会から指名手配を受ける可能性が高いです。その時に可能な限り便宜を図って欲しいだけですよ」
その言葉にイルワとドットが沈黙する。
「教会からの指名手配………?」
「ええ。その可能性が高いと踏んでいます」
イルワの言葉にハジメがそう答えると、
「ば………馬鹿な、教会に敵対するなんて無謀な………!」
ドットが叫ぼうとしたが、
「……わかった」
イルワは頷いた。
「キャサリン先生が認めた人間が言う事だ。きっと何か理由があるのだろう」
「ありがとうございます。依頼の方は承りました」
ハジメは依頼を承諾する。
「分かってると思うが犯罪に加担する要望には応えられない」
「もちろんです。それと依頼は本人か遺品を持って帰ればいいんですよね?」
「あぁ………どんな形であれ痕跡を見つけて欲しい………どうか………よろしく頼む」
こうして一行は、グリューエン大火山に向かう前に捜索依頼を請け負う事となった。
しかし、この出来事が待ち望む再会に繋がるなど、この時に彼らは思いもしなかった。
次回予告
フューレンのギルド支部長の依頼により『北の山脈地帯』に行く事になり、麓にある湖畔の町『ウル』へと向かう拓也達。
その頃、『ウル』では農地改良の為に愛子が訪れており、護衛と手伝いの為に、輝二や優花達の姿もあった。
奇しくも再開の時が近付くなか、『ウル』に不穏な影が近付いていた!
次回、ありふれたフロンティアへ
第15話 再会の時! 光の闘士再び!
今、ありふれた伝説が進化する。
はい、第14話です。
スタートダッシュ11です。
まあ、今回は誰が何と言おうと手抜きです。
ほぼ前作のコピペです。
多少は変えてますが手抜きです。
いやもう、次を書くのが楽しみ過ぎて、ちゃっちゃと進ませたかったが為にこんな暴挙に出ました。
すみません。
次回は今回の分も挽回したいと思います。
それではお楽しみに。