現在、拓也達一行はハジメの運転する魔力駆動四輪で『北の山脈地帯』の麓にある、湖畔の町『ウル』に向かっていた。
「このペースならウルまで2、3時間ぐらいかな? 北の山脈地帯まで行くと捜索には微妙な時間だから、予定通りウルで一泊して早朝から捜索を始めよう」
ハジメは太陽の高さを見ながらそう言うと、
「ハジメ、結構積極的だね~」
ネーモンが疑問に思ったのかそう言う。
「まあ、生きてるに越したことは無いからね。それに、折角ギルドが後ろ盾になってくれるなら、生きてた方が感じる恩も大きいだろうし」
「なるほどな~」
ボコモンが納得した様にウンウンと頷く。
「それに、聞いた話だとその町じゃ稲作が盛んらしいんだよ!」
香織が期待するような声で言った。
「………稲作?」
ユエが首を傾げる。
「つまり『米』だな。俺達の故郷の主食だよ」
拓也が続く。
「ハジメさん達の故郷の食べ物………」
「まあ、同じ物かは分からないけどね」
シアの言葉にハジメはそう言うが、期待しているのが見て取れる。
それを証明する様に、ハジメは車のアクセルを踏み込んだ。
その頃、『ウル』では、農地改革の為に召喚された者達の中で唯一の大人で教師の畑山 愛子が訪れており、愛子の護衛には、4人の神殿騎士が派遣されていた。
それがデビット、チェイス、クリス、ジェイドの4人だ。
この4人は護衛であると同時に愛子を篭絡する為のハニートラップ要員で、4人とも漏れなく整った容姿をしていた。
だが、愛子を篭絡するはずが、愛子の見た目と頑張る姿に逆に絆され、愛子本人の意志は無いものの、篭絡された状況となっている。
そして同時に、愛子の護衛を買って出た生徒達もこの町に居る。
護衛を買って出た生徒達とは、菅原 妙子、宮崎 奈々、相川 昇、仁村 明人、玉井 淳史、そして、輝二、幸利、優花だった。
しかし、手伝う生徒達の中に幸利の姿は無い。
更に優花は、
「……………………」
無言で田んぼを耕すために鍬を振るう。
優花は、妙子や奈々達から誘われれば付き合うし、愛子の仕事も手伝っている。
しかし、その目は何処か虚空を見つめており、心ここにあらずと言った様子だ。
「優花っち…………」
隣で鍬を振っていた奈々は、横目で優花の様子を伺いながら呟く。
今の優花は、目を離せば何処かに行ってしまいそうな危うさがあり、片時も目を離すことは無い。
夜は必ず奈々と妙子が同じ部屋で付き添い、外に行くときも必ず誰かしら行動を共にしている。
そして優花は、拓也が橋から落ちて以来一度も笑みを浮かべていない。
楽しい話題や面白い話を振っても、無表情で「………そう」としか答えないのだ。
すると、
「さあ皆さん! お昼ご飯の時間ですよ!」
愛子が生徒達に呼びかけた。
「「「「「「は~い!」」」」」」
優花以外の生徒達が返事を返す。
「優花っち、お昼ご飯だよ!」
無表情で鍬を振っていた優花に奈々は肩を叩きながら呼びかける。
「………………ええ」
そこで初めて気付いたのか、鍬を振るのを止めた。
奈々と妙子に連れられて愛子達の所までやって来る優花。
用意してあったおにぎりの包みが渡される。
「いや~、何度も思うけど、異世界に来て米が食べれるとは思わなかったわ~!」
昇が明るい声で皆に聞こえる様にそう言う。
「それな! パン食も悪くねえけど、やっぱり日本人と言ったら米だぜ!」
淳史も同意する。
彼らはわざと明るい話題を持ち上げようとしている。
「………………」
そんな彼らとは裏腹に、俯きながらおにぎりを口に運ぶ優花。
美味しいとも不味いとも何も言わない。
ただ食べ物を口に運び、咀嚼し、飲み込む。
ただそれだけの行動をしているだけに思えた。
「園部さん…………」
そんな優花を見て、愛子が心配そうな表情で呟く。
一緒に行動したこの数ヶ月で、何とか元気付けようとあの手この手で頑張ってはいるが、一向に改善する気配が無い。
唯一の救いは、自殺だけは思い止まってくれている事ぐらいだろうか。
更に、愛子にはもう1つ懸念事項があった。
「はぁ………それにしても清水君は何処に行ってしまったんでしょうか? もう1週間になるというのに………」
そう、愛子の護衛として一番に声を上げた幸利が、一週間前から行方不明なのだ。
「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ愛ちゃん先生! その内ふらっと戻ってくるって!」
「っていうか、知ってるか? 最近あいつと仲良かった宿の娘の女の子? なんかその子も行方知れずらしいぞ」
「おい。それってまさか…………」
「ああ、間違いないだろう…………」
「「「駆け落ちだ……!」」」
昇、淳史、明人が声を揃えて言う。
「くっそ! まさか清水の奴に先を越されるとは……!」
「これは戻ってきたら根掘り葉掘り聞かねば………!」
男3人が好き勝手言っているが、
「…………幸利はそんな奴じゃないだろう?」
輝二が静かにそう言った。
「少なくとも、あいつは俺達に心配かけてまで駆け落ちする奴じゃないだろう。むしろ、そういう関係なら堂々と紹介してくるはずだ」
輝二は昇たちが考えている様な理由では無いと思っていた。
「けどよ。あいつも結構強えんだぜ? 見ただろ? あいつが魔物を操った所を。そんな清水を如何こう出来る奴なんてその辺には居ないだろ?」
「…………それには同意するがな」
幸利も召喚者でチートなステータスの持ち主だ。
その辺のチンピラには丸腰だろうと負けないだろう。
それでも安心する事は、輝二には出来なかった。
休憩も終わり、午後の仕事が始まった。
水路を引き、新しく耕した田んぼに水が張られていく。
その光景に作業した者達は、達成感を感じていた。
そんな時だった。
―――カンカンカン!
物見櫓から警鐘が鳴り響いた。
「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」
その音に全員が振り向いた。
すると、
「魔物だぁーーーっ! 北から魔物の大群が来るぞーーーーっ!!」
物見櫓の見張りがそう叫んだ。
「魔物か………フッ、多少の魔物の群れなどこの神殿騎士である我々が蹴散らしてくれる」
愛子の護衛隊長であり、神殿騎士のデビットが自信満々にそう言った。
デビットは田舎の村に襲い掛かる群れなど、精々十数体だと高を括っていたのだが、
「1000体はいる大軍隊だぁーーーっ!!」
「な、何ッ!?」
続けて叫んだ見張りの報告に思わず狼狽えた。
「戦える者は武器を取れ! 女子供を避難させるんだ!!」
自警団らしき者達が声を掛け合う。
「せ、先生………」
妙子が心配そうに愛子に声を掛ける。
「皆さん! ここは言う通り避難しましょう!」
愛子はそういう。
だが、輝二は北を見つめると、大群が巻き上げていると思われる砂煙が見えた。
「ッ………! このままじゃ間に合わない……!」
輝二は悔しそうに歯を食いしばる。
そして、
「おい、デビット! お前達は畑山先生の為に命を懸けると言っていたが、それは本当か?」
狼狽えていたデビットに輝二は問いかけた。
「む、無論だ!」
少しどもったが、そう言い切る。
「よし! ならばお前達4人は俺と一緒に魔物の足止めをしろ!」
「源君!? 何を言ってるんですか!?」
輝二の言葉に愛子が叫ぶ。
「このままでは避難が間に合わない。少しでも足止めをして、避難の時間を稼ぐ!」
「だ、駄目です! 生徒を危険に晒す訳には………!」
愛子は慌てて止めようとしたが、
「このままでは全滅の可能性が高い! 俺達が足止めしている間に先生達は逃げるんだ!」
「ですが………!」
「心配しなくても死ぬ気は無い! ある程度足止めしたら脱出する!」
輝二はそう言うと、双剣を掴んで魔物の群れに駆け出す。
「み、源君っ!?」
愛子が叫ぶが輝二はそのまま行ってしまう。
「…………愛子、心配しなくていい。君の生徒は我々が助ける!」
デビットが気を取り直しながら言った。
「デビットさん!?」
「チェイス! クリス! ジェイド! 愛子の護衛として黙ってみているわけには行くまい!」
「はっ!」
「元より!」
「覚悟の上!」
「ならば行くぞ!」
デビットは3人を伴って輝二の後を追った。
輝二は魔物の群れまで辿り着くと、
「〝狼の本能〟!!」
白いオーラに包まれる。
「スピードスター!!」
双剣を両手に構えると、一気に突進。
魔物の間を駆け抜けると、通り過ぎた魔物が横真っ二つになる。
「はぁああああああああっ!!」
輝二は剣に光を纏い、魔物を片っ端から切り捨てていく。
すると、
「チェイス! クリス! ジェイド! 愛子の教え子に後れを取るな!」
神殿騎士の4人が到着し、魔物と戦い始める。
とは言え、たった5人で1000体の魔物を食い止めるには手が足りない。
戦っている場所とは別の所から魔物が町へ向かっていく。
「くっ! 行かせるか!」
輝二がそちらに向かおうとしたが、次から次へと魔物が襲ってくる。
そのまま魔物が町へ向かおうとした。
その時、複数の魔法が飛んできてその魔物達を焼き払った。
それは、
「へへっ! お前達ばっかに良いカッコはさせねえぜ!」
「俺達だって愛ちゃん護衛隊なんだ!」
「俺達だって、やる時はやるんだよぉ!」
「私達だって、戦えるから!」
「ここで頑張らなきゃ、あの時と一緒だよ!」
昇、明人、淳史、奈々、妙子の5人。
「お前達……!」
輝二は彼らが戦いの場に現れた事に驚く。
「くっ、愛子の教え子を戦いの場に引っ張り出すのは気が進まんが、今はそんな事を言っている場合ではない! 君達は後方から魔法で援護してくれ! 我々が前で魔物を食い止める!」
デビットの指示に、
「分かりました!」
昇が答えて魔法を撃ち放つ。
他の4人も可能な限りの魔法を唱えた。
一方、愛子は魔物の群れの方に行ってしまった生徒達の方を見ながら、心配そうな表情をしていた。
「皆さん…………」
こんな時、戦う力を持たない自分が歯がゆい。
愛子の近くには、奈々や妙子から任せられた優花の姿。
「…………避難しましょう、園部さん………」
愛子は優花の手を引いて避難しようとした。
しかし、その優花は戦っている皆の方を向いたまま固まっていた。
「園部さん………?」
動かない優花に愛子が声を掛ける。
「…………奈々………妙子……………」
魔物と戦う友人の名を呟く。
「わ………たし…………私は……………」
優花はずっと死んだ拓也の事を引き摺っていた。
輝二は死んで無いと言い張っているが、4ヶ月近くたった今でも音沙汰が無いとなれば、その生存は絶望的だろう。
優花にとって、拓也の存在はとても大きく、己の半分、いや、それ以上を占めるファクターだったと言って良い。
それを失った為に、自分自身を見失った。
ふさぎ込む自分に奈々や妙子は必死に寄り添ってくれた。
そんな友達が、今、命を懸けて戦っている。
それなのに、自分はこのままでいいのか?
と優花は感じた。
「……………………ッ!」
そう思った瞬間、
「ごめん愛ちゃん!」
優花は愛子の手を振りほどき、駆け出していった。
「ぜぇ……ぜぇ………へへっ………半分ぐらいは減ったかな………?」
昇はそんな事を言うが、
「現実逃避しないで! どう見たってまだ100匹前後しか倒してないでしょ!?」
近付いてきた魔物に鞭を振るいながら妙子が言った。
「やっぱりかぁ………畜生、アニメみたいにはいかねぇな………」
チートを持つとはいえ、あの時以来碌に訓練していない5人では、多少腕の立つ冒険者程度の力しか持っていない。
輝二は護衛の中でも時間のある限り自主訓練に励んでいたので、オルクスでの訓練の時よりも倍程度のレベルになっている。
その時、
「ッ!? 奈々っ! 危ない!」
奈々が仕留めた魔物の影から、ゴブリンのような魔物が現れ、魔法を放った直後の奈々に襲い掛かった。
「きゃぁあっ!?」
悲鳴を上げる奈々。
その爪が奈々に振り下ろされようとした時、炎を纏ったナイフが飛んできてゴブリンの頭に突き刺さった。
「ギャブッ!?」
頭を貫かれたゴブリンはそのまま地面に落ちる。
「これは………」
頭に刺さったナイフを見て、奈々は思わず振り返った。
「はぁ………はぁ…………」
そこには、優花がナイフを投げ放った体勢でそこに居た。
「優花っち!?」
「大丈夫!? 奈々!」
「う、うん……うん……!」
自分を心配する優花の声に、奈々は思わず涙ぐむ。
優花は投げナイフを握りしめると、
「私はもう…………失いたくないから!!」
その言葉と共に複数の投げナイフを投げ放ち、6体ほどの魔物を一気に仕留める。
「優花………!」
完全とはいかないがある程度立ち直った優花に、輝二はホッとする。
まだまだこれからだと全員が気合を入れ直した時、
「グォォォォォォォォォォォォォォッ!!」
耳を劈く咆哮と共に、彼らを影が覆った。
「何だ!?」
輝二は思わず空を見上げる。
するとそこには、巨大な黒竜が空を飛んでいた。
「ド、ドラゴン………?」
「まさか………これほどの魔物が…………」
その姿に神殿騎士達も戦慄する。
「ッ………! やぁあああああああっ!!」
優花がナイフの能力で投げたナイフを手元に集め、黒竜に向かって投げ放った。
6本のナイフが黒竜に向かう。
だが、
「グォオオオオオオオオオオオオオッ!!」
黒竜の一鳴きでナイフは黒竜に触れる事無く弾かれた。
「きゃぁあああああっ!?」
咆哮の時に発した衝撃波で優花はよろめき、地面に倒れる。
「優花っち!」
奈々が叫んだ。
「くっ! ソーラーレーザー!!」
輝二が両手を獣の口の様に構えると、そこから光の砲撃が放たれた。
現在輝二が使える攻撃の中で、遠距離攻撃では最大威力の攻撃だ。
その光の砲撃が黒竜に直撃する。
黒竜は爆発に呑まれるが、
「グォオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
咆哮と共に煙が吹き飛ばされ、無傷の姿を見せつけた。
「こいつ、普通の魔物とは違う……!」
黒竜の力に戦慄を感じる輝二。
すると、その口から炎が漏れる。
その眼が映すのは、眼下で倒れる優花。
「ッ! リヒト・クーゲル!!」
嫌な予感がした輝二は咄嗟に光線を放った。
黒竜の横顔に当たり、僅かに顔を逸らした直後、その口から灼熱のブレスが放たれる。
「ッ!?」
その光景に優花は動くこともできず、
―――ドゴォォォン!
優花の側面5m程の所にブレスが着弾。
爆発により優花を吹き飛ばした。
「きゃぁあああああああああああああっ!?」
木の葉の如く吹き飛ばされ、地面に数回バウンドした後ゴロゴロと転がって止まる。
「優花!」
「優花っち!」
「園部!」
それぞれが叫ぶ。
「ううっ………!」
優花は身動ぎする。
派手に吹き飛ばされたが、直撃では無かったため、酷い怪我は追わずに済んだ。
直前の輝二の攻撃が、黒竜の狙いを逸らしたのだ。
しかし、黒竜は次のブレスを放とうと再び口から炎が漏れ出す。
「優花っ……くっ!」
輝二は優花の援護に行こうとしたが、他の魔物に邪魔されてしまう。
「っ………う………」
優花は何とか身を起こすが、すぐには立ち上がれそうにない。
黒竜の眼が優花の眼と合う。
絶対的な強者の眼力は、それだけで優花に恐怖を植え付けた。
「あ………あ……………」
恐怖に震える優花。
しかしその時、優花の前に誰かが立ち塞がった。
それは、
「愛ちゃん先生!?」
小さい体で手を横に目一杯広げた愛子が、優花の前に立ち塞がっていた。
「先生!?」
「愛ちゃん!?」
「愛子!? 何をやっているんだ!?」
それぞれが驚愕の声を上げる。
「私はもう! 生徒が死ぬところなんて見たくは無いんです!」
愛子は声を張り上げる。
黒竜の前でも、愛子は堂々と立っていた。
「生徒は、私が護ります!」
愛子は手を広げたまま、その場を動こうとしない。
「グォォ…………!」
黒竜は、そんな事知った事かと言わんばかりに唸ると、目の前の2人を焼き尽くすためにブレスを放とうと首を仰け反らせた。
「ッ!?」
愛子は目を瞑るが、変わらず手を広げたまま動こうとはしない。
例え愛子が居てもいなくても結果は変わらない。
優花より一瞬早く愛子を焼き尽くし、そのまま優花も焼き尽くされるだろう。
「ッ…………………!」
この4カ月、優花は死を望んだこともあった。
生きている意味すらないと何度も思った。
しかし今、『死』を目前に思う事は………………
「助けて!! 拓也っ!!!」
その願いを、空に向かって叫んだ。
その声が空に響き渡る。
そして黒竜がブレスを放つために首を擡げ…………
「コロナブラスター!!」
黒竜に空から無数の熱線が降り注いだ。
「グォッ!? グァッ!? グォァアアアアアアアアアアアッ!?!?」
予想外の攻撃と威力に黒竜は怯み、ブレスを吐くことを中断する。
「えっ…………?」
その光景に優花は一瞬呆け、自然と上を向いた。
「今のは………まさかっ!?」
輝二が驚愕と、そして僅かな期待が籠った声を上げながらその熱線の出所と思われる空に振り返った。
その視線の先には太陽。
しかし、その太陽の中に一つの影があった。
その影は徐々に大きくなる。
いや、徐々に近付いてきているのだ。
太陽を背にしているのでよく見えないが、大きな翼を持っており、その形から鳥などでは無い事は分かる。
すると、その影は一直線に黒竜に向かっていき、
「ぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
その胴体に突っ込んだ。
「グォァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?!?」
黒竜は叫び声を上げて叩き落され、地面に激突する。
大きな砂煙を上げてその姿を覆い隠した。
「え………? えっ………?」
その出来事に漸く目を開いた愛子が困惑すると、目の前にオレンジ色の翼を持った赤き竜が二足歩行で着地した。
「あ、新しい魔物………!?」
愛子は2、3歩後退りする。
「……………………………」
その赤い竜が背中越しに愛子を…………
そして優花を見つめる。
「………………ッ!」
その視線が優花と合った時、優花は言いようのない安心感に包まれた。
そして、その安心感とは優花がいつも感じていたもの。
(…………………………拓也?)
まるで目の前に拓也が立っている。
そんな感覚を優花は覚えた。
その時、
「グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」
黒竜が咆哮と共に砂煙を吹き飛ばし、間髪入れずにブレスを放って来る。
「あっ!?」
「ッ…………!?」
愛子と優花は目を見開き、
「ッ!」
赤い竜がその2人に覆いかぶさった。
次の瞬間、黒竜のブレスの炎に飲み込まれる。
「ゆ、優花っち!?」
「愛ちゃん先生!?」
奈々や妙子が叫ぶ。
「ッ…………」
輝二はその光景をジッと見ていた。
黒竜のブレスが途切れる。
「あ………ああっ…………」
「愛子……………」
神殿騎士達が、愛子を護り切れなかった絶望感から膝を着く。
しかし、
「……………………!」
輝二は変わらず、信じた瞳で目の前を見続ける。
煙が晴れていくと、黒竜に背を向け、蹲るような体勢になった赤い竜。
すると、その赤い竜が起き上がり始める。
その赤い竜の下には、愛子と優花が地面に伏せた状態でそこに居た。
その2人は、恐る恐る目を開き、自分達が無事な事を確認すると、赤い竜を見上げた。
「………守ってくれた?」
愛子は信じられないと言わんばかりの表情だ。
「………………」
一方優花は、呆然とその赤い竜を見上げている。
すると、
「…………無事か?」
その赤い竜が声を発した。
「しゃ、喋った!?」
「ッ………!?」
愛子は盛大に驚き、優花は目を見開く。
しかし、優花が驚いたのは、竜が喋った事ではない。
(…………今の声は………)
その声が非常に聞き覚えのある声によく似ていたからだ。
その赤い竜は起き上がると、黒竜に勢いよく振り向き、
「よくもやってくれたな…………! これはお返しだっ!!」
そう叫ぶと赤い竜は身体中から炎を発する。
「フレイムッ…………!」
体を捻りながら回転し、勢い良く尾を振る。
「………ストームッ!!」
竜巻の如き炎が放たれ、黒竜を包む。
「グォオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!?!?」
炎に包まれた黒竜は倒れ伏した。
それを確認すると、赤い竜は再び優花達に向き直る。
その時、
「愛子! 危険だ! 下がれ!」
魔物の群れから一旦退いたデビット達が、愛子を護るように立ちはだかり、赤い竜に剣を向ける。
「デビットさん………! でも、この竜は今、私達を護って………」
「そんなのは偶然だ! 魔物が我々を護る筈が無い!」
そう言い切って警戒を緩めない。
しかし、
「ヴリトラモン!!」
輝二が叫んで駆け寄って来た。
「輝二!」
その声に赤い竜も応える。
それぞれの反応に、愛子やデビット達は、「え?」という反応をした。
「み、源君? この竜の事を知っているんですか!?」
愛子がそう問いかけた。
すると、赤い竜――ヴリトラモン――が青い光の帯に包まれた。
「ヴリトラモン! スライドエボリューション!!」
そう叫んだあと、青い帯が消え、
「アグニモン!」
赤い鎧を着た2m程の身長を持った人型となった。
「ひ、人に変身した!?」
再び驚く愛子。
すると、アグニモンが輝二に向き直ると、
「輝二、お前もここに居たのか」
「お前こそ、やはり無事だったようだな。アグニモン」
言葉ではそう言うが、輝二の表情には明らかな安堵が見て取れた。
そんな2人のやり取りを見ていた優花は、
(ヴリトラモンに………アグニモン…………その名前って、確か………!)
信じられないと思う理性と、まさかと思える感情が混ざり合い、優花の心臓を高鳴らせる。
だが、
「おい! 一体如何いう状況か知らねえけど、まだ魔物はいるんだぞ!!」
昇達が切羽詰まった声で叫ぶ。
すると、アグニモンが魔物の群れとは別方向を向き、
「大丈夫だ。あいつらが来た」
アグニモンがそう言うと、その視線の先に、砂煙を巻き上げながら猛スピードで接近してくるものに気付いた。
それは、愛子達召喚者がよく知る物。
「く、車!? 何でこの世界に車が!?」
淳史が思わず叫んだ。
その車、魔力駆動四輪『プリーゼ』がドリフトしながら愛子達の前に停車。
その扉が開くと、
「アグニモン! 大丈夫!?」
白い髪に赤い目に、右目に眼帯を付けた青年が跳び出す。
しかし、その視界に愛子や優花達が映ると、
「………って、先生!?」
その青年、ハジメが驚いた表情で声を上げた。
「え? 先生!?」
助手席から降りて来た長く白い髪に赤い目の少女も驚きの声を漏らす。
愛子はその2人を見た瞬間目を見開いた。
「………も、もしかして………南雲君!? そっちはまさか白崎さんですか!?」
驚愕の声を上げる愛子。
「え~っと………はい………こんな形ですけど南雲 ハジメです」
「同じく、こんな形ですけど白崎 香織です」
ハジメは少し言いにくそうに、香織は苦笑しつつその通りだと肯定した。
「ッ……南雲君……! 白崎さん……! 生きて………本当に生きて………良かった………! 本当に良かった………!」
涙ぐみながら2人の生存を喜ぶ愛子。
「えと、その………ご心配おかけしました」
「この通り無事なので、安心してください」
ハジメと香織は安心させるようにそう言う。
「とりあえず今は、あっちを何とかしないと………」
ハジメは魔物の群れに視線を向ける。
その時、
「グォオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
炎に包まれ倒れ伏していた黒竜が起き上がり、咆哮を上げる。
「まだ動けたか!」
アグニモンは、フレイムストームを受けてまだ動ける黒竜に若干の関心を覚えた。
すると、
「ハジメ! 黒竜は俺と輝二で相手をする! お前達は雑魚の相手を頼む!」
「わかった!」
アグニモンの言葉に間髪入れず頷くハジメ。
更にアグニモンは輝二に向き直ると、その手に持ったデジヴァイスを向けた。
「輝二! 受け取れ! 『スピリット』を!!」
アグニモンがそう言うと同時にデジヴァイスの画面が輝き、そこから光の塊が流星の様に飛び出す。
それを輝二は慌てる事無く自然と取り出した、かつて使っていた折り畳み式の携帯電話で、開くと同時にその画面で受け止めた。
光が携帯電話の画面に吸い込まれるように消えていく。
それと同時に携帯電話が光に包まれ、青と黒のデジヴァイスへと変化する。
そのデジヴァイスの中には、『光』、『闇』、『雷』、『水』、『鋼』のスピリットが入っていた。
「スピリット…………」
輝二はそれを見つめて感慨深く呟く。
そのデジヴァイスを胸に当て、目を瞑る。
「…………また、一緒に戦ってくれ…………」
目を見開くと同時に叫ぶ。
「ヴォルフモン!!」
突き出したデジヴァイスの画面には『光』の紋章が浮かび上がっていた。
次の瞬間、デジヴァイスの画面に光が走り、『光』のスピリットの形を描く。
前に突き出した輝二の左手に、デジコードの輪が発生する。
そのデジコードの輪に、右手に持ったデジヴァイスの先をなぞる様に滑らせる。
「スピリット……! エボリューション!!」
輝二がデジコードに包まれる。
デジコードの中では、輝二がスピリットを纏っていく。
顔に。
腕に。
体に。
足に。
輝二の身体にスピリットが合わさる。
そして、そのデジコードが消えたとき、このトータスの地に『光の闘士』が降臨した。
「ヴォルフモン!!」
デジコードが消えた輝二の姿は、短い金髪と深紅の瞳、全身の衣服は白く首には紫の縞模様が入ったマフラーを巻き、銀色の狼を模したヘルメットで顔の上半分を隠した青年のような姿の人型に変わっていた。
「み、源君が変身した!?」
「な、何だそりゃ!?」
それを見ていた明人が呆然と驚く。
すると、
「あれこそデジタルワールドを救った伝説の十闘士の1人、光の『ヴォルフモン』じゃ~!!」
いつの間にか車から降りていたボコモンがヴォルフモンを指しながら叫んだ。
「へっ? ど、どなたですか?」
ボコモン達の存在に気付いた愛子が驚いた声を漏らす。
「ワシはボコモンじゃハラ」
「ぼく、ネーモン」
「ご、ご丁寧にどうも………」
輝二の進化で困惑の極みに居た愛子は普通に頭を下げる事しか出来なかった。
そんな彼女達を他所に、
「行くぞ! ヴォルフモン!」
「おおっ!」
アグニモンの言葉にヴォルフモンが応え、2人は駆け出す。
黒竜が2人を見据え、ブレスを放とうとした時、アグニモンは胸の前で量の拳を合わせ、その拳に炎を宿す。
「バーニングサラマンダー!!」
両腕に宿った炎を、拳と共に放つアグニモン。
2発の火球は黒竜の顔に当たり、大きく仰け反らせる。
その隙に、
「リヒト・ズィーガー!!」
ヴォルフモンが右手を腰に回し、Zを描くように『リヒト・シュベーアト』の柄を引き抜きくと、その柄から光の刃が発生する。
「ライトセ〇バー!?」
それを見ていたハジメが思わず叫んだ。
ヴォルフモンは光の剣を逆手に持って黒竜の懐に駆け込むと、
「はあっ!」
その腹に一閃を食らわせる。
「グァアアアアアアアアアアッ!?」
その強靭な鱗を易々と傷付け、苦しむ声を漏らす黒竜。
「はぁああああああああっ!!」
更にアグニモンが飛び込んでその拳で殴りつける。
「グガッ!?」
そこにヴォルフモンが左腕を伸ばすと、
「リヒト・クーゲル!!」
左腕に装備されているレーザー砲を発射。
黒竜の側頭部に着弾し、大きくよろめいた。
更に続けてヴォルフモンはもう1本の『リヒト・シュベーアト』を抜くと、
「ツヴァイ・ズィーガー!!」
黒竜の首の付け根辺りをX字に切り裂く。
「グガァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?!?」
大きく傷つけられ、悲鳴のような咆哮を上げる。
そして、
「これで止めだ!」
アグニモンは身体を大きく捻ると、炎を纏いながら回転を始め、炎の竜巻となる。
「サラマンダァァァァァァッ…………!」
黒竜を飲み込むが如く、炎の竜巻が黒竜に接近する。
そして、炎の竜巻の黒竜の顔がある高さからアグニモンが姿を現し、
「……………ブレイクッ!!!」
その頬辺りに強烈な旋風脚を叩き込んだ。
「グォアッ…………!?」
黒竜は叫び声を上げる暇もなくその意識を刈り取られ、その場に倒れ伏したのだった。
一方、アグニモン達が黒竜を戦っている時、
「くそっ! また来るぞ!」
デビットが向かってくる魔物の群れに向かって悪態をつく。
先程より数は減っているとは言え、その数はまだ900匹は堅いだろう。
すると、ハジメは宝物庫を起動し、その場に回転式六砲身ガトリングレールガン『メツェライ』を取り出す。
その形を見たデビット達は見た事無い形に首を傾げたが、奈々達召喚者は映画などで見た事があるその形に、顔を引きつらせた。
「あ、危ないので前に出ないでくださいね?」
ハジメは軽い声でそういうと、その引き金を引く。
その砲身が回転を始め、
―――ズガガガガガガガガガガガガッ!!!
無数の炸裂音と共に、電磁加速された銃弾が毎分12000発の勢いで吐き出された。
ハジメのアーティファクトは大迷宮の魔物に通じる様に設計されている。
地上の魔物には、その威力はオーバーキルと言って良い。
ハジメは扇状に魔物の群れを薙ぎ払っていく。
ハジメが一通り撃ち終えると、900匹はいた魔物の群れは、100匹以下となっていた。
「「「「あがっ………!?」」」」
神殿騎士達は、揃って顎が外れるかと思うくらい口をあんぐりと開けて固まっている。
更に、
「〝雷龍〟」
ユエが放った雷龍が天から降り注ぎ、残った魔物を全滅させた。
すると、
「あ~! ハジメさん、ユエさん! 私の出番が無かったじゃないですか!」
自分の出番が無かったシアが文句を言った。
あれ程苦戦していた魔物の群れが、あっという間に殲滅されてしまった事に、愛子や生徒達はポカーンとなっていた。
その時、黒竜を倒したアグニモンとヴォルフモンが戻って来る。
すると、ヴォルフモンがデジコードに包まれ、輝二の姿に戻った。
その直後、
「…………くっ!」
輝二がその場で片膝を着いた。
「大丈夫か? 輝二」
「あ、ああ………久しぶりの進化だからな。少し疲れただけだ。それよりも………」
輝二はアグニモンを見上げると、
「早く、あいつの所に行ってやれ」
そう告げた。
「…………ああ」
アグニモンは頷くと、顔を上げ、1人の少女を見つめた。
その視線の先に居るのは優花だ。
アグニモンは歩き出すと、優花に向かって歩みを進める。
愛子や奈々、昇達は、アグニモンの姿に僅かな警戒を見せている。
しかし、アグニモンは構わず優花の前に辿り着いた。
「……………………ッ………ぁ……………」
優花は何とも言えない表情だ。
困惑と不安…………そして僅かな期待…………
それらが入り混じった表情だった。
アグニモンは、一度優花を見下ろすと、目を伏せて息を吐く。
そしてデジコードに包まれた。
「ッ…………!?」
その現象に優花は目を見開く。
そして、そのデジコードが消えた時、その場に立っていた姿は…………
「……………その………何て言うか…………遅くなって悪かったけど…………」
少し申し訳なさそうな表情をしつつ目を開けて優し気な眼差しで優花を見つめ、
「……………ただいま…………優花………」
その言葉と共に笑みを浮かべた拓也だった。
「………ッ!」
その瞬間、優花は感極まって表情を崩した。
表情をクシャクシャにして涙を浮かべ、ボロボロと零し始める。
「…………拓也っ…………!」
次の瞬間、その胸に飛び込む。
拓也は驚くことなく優花を受け止めた。
拓也の背中に手を回し、しっかりと抱きしめる優花を、拓也は優しく背中と頭に手を回す。
「悪い………心配かけたな………」
そう謝る拓也に対し、
「…………ううん」
優花は首を振って顔を上げると、
「……………おかえり、拓也」
涙を浮かべたまま笑みを浮かべた。
その笑みは拓也達が橋から落ちて以来、4ヶ月ぶりに見る優花の笑顔だった。
再び抱きしめ合う2人。
その様子を奈々や妙子、愛子は嬉しそうに貰い泣きしながら。
昇や明人、淳史は嬉しさと悔しさがごちゃ混ぜになった複雑な表情で見つめるのだった。
次回予告
遂に再会した拓也と優花。
しかしその時、目覚めた黒竜が竜人族の生き残りだという事を知る。
その口から語られる驚愕の事実とは!?
次回、ありふれたフロンティアへ
第16話 『風』を継ぐ者!
今、ありふれた伝説が進化する。
はい、第15話の完成です。
スタートダッシュ12です。
やっとここまで書けました!
長かったけど割と早かったですね。
原作通り素直に再会すると思いましたか?
拓也と優花の再会はこんな感じにしようと前々から思っていました。
その為に何故かこのタイミングでティオが襲来。
序に魔物の群れも1000体ぐらい。
そしてやはり清水は原作通りになってしまうのか!?
そんで遂におそらく賛否両論真っ二つになるだろう事を次回やってしまいます。
続きをお楽しみに。
あと、序に御相談。
ミュウのパパはどうしたい?
ハジメ?
拓也?
あえて輝二?
伝家の宝刀アンケートです。
宜しくお願い致します。
因みにミュウのパパになるという事は、自動的にレミアがサブヒロインとなります。
ミュウのパパは?
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ストレートにハジメ
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ここはカーブで拓也
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あえてフォーク、輝二
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消える魔球! 誰もパパにならない