ありふれたフロンティアへ   作:友(ユウ)

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第16話 『風』を継ぐ者!

 

 

 

 

遂に再会した拓也と優花は、お互いをしっかりと抱きしめ合っていた。

どれだけそうしていただろうか。

その空気を破ったのは、

 

『あ~、その~………ここで声を掛ける事は不作法だと分かっているのじゃが、すこし妾の話を聞いてくれんかのう?』

 

突如として聞こえた女性の声に、一同はバッと周りを警戒した。

すると、先程まで気を失っていた黒竜が首を起こしていたのだ。

 

「まだ生きてたのか!?」

 

拓也は優花を庇うように前に出る。

輝二やハジメ達も身構えるが、

 

『ちょっと待つのじゃ! 妾はもう暴れるつもりはない!』

 

「「「「「「「「「「は?」」」」」」」」」」

 

その声は黒竜から聞こえている。

つまり、黒竜が喋っているという事実に、その場の全員が素っ頓狂な声を漏らした。

すると、

 

「…………もしかしてあなた、竜人族………?」

 

ユエがそう訊ねた。

 

『うむ、確かに妾は誇り高き竜人族の1人じゃ。とりあえず、元の姿に戻ろうかの』

 

すると、黒竜を魔力が繭の様に包み込むと、その魔力の繭が縮んでいき、人より少し大きいぐらいになると、その繭が消え、黒髪で黒い和服に似た着物を着た女性に変化した。

 

「やっぱり………」

 

ユエが驚いた顔で呟く。

 

「マジか……」

 

ハジメも呆然としている。

すると、黒竜だった女性は身形を正し、その場で正座をすると深く頭を下げた。

 

「改めて面倒を掛けた………本当に………本当に申し訳ない」

 

先程の暴れっぷりが嘘のように真摯な態度でそういう女性。

そう言って顔を上げると、

 

「妾の名はティオ・クラルス。竜人族『クラルス一族』の1人じゃ」

 

ティオと名乗った女性は、続ける。

 

「この町を襲ったのは本意では無い………仮初の主である黒いフードを被った男に操られておったのじゃ…………」

 

「どういうことだ?」

 

拓也が尋ねる。

 

「うむ、順番に話す。妾は……」

 

ティオの話を要約すると、異世界からの来訪者について調べる為に竜人族の隠れ里を飛び出して来たらしい。

本来なら、山脈を越えた後は人型で市井に紛れ込み、竜人族であることを秘匿して情報収集に励むつもりだったのだが、その前に一度しっかり休息をと思い、この一つ目の山脈と二つ目の山脈の中間辺りで『竜化』状態で休んでいたらしい。

すると、睡眠状態に入った黒竜の前に一人の黒いローブを頭からすっぽりと被った男が現れた。

その男は、眠る黒竜に洗脳や暗示などの闇系魔法を多用して徐々にその思考と精神を蝕んでいった。

当然、そんな事をされれば起きて反撃するのが普通だが、竜人族は竜化して睡眠状態に入った場合まず起きないのだ。

『竜の尻を蹴り飛ばす』という諺の通り、鱗の無い尻を蹴り飛ばされでもしない限り。

それでも、竜人族は精神力においても強靭なタフネスを誇るので、そう簡単に操られたりはしない。

なら、何故完璧に操られていたのかと言えば………

 

「恐ろしい男じゃった。闇系統の魔法に関しては天才と言っていいレベルじゃろうな。そんな男に丸一日かけて間断なく魔法を行使されたのじゃ。いくら妾と言えど、流石に耐えられんかった……」

 

「闇魔法…………!」

 

奈々がハッとなる。

 

「………まだ清水君と決まった訳じゃありません」

 

愛子も神妙な顔になる。

 

「それってつまり、調査に来ておいて丸一日、魔法が掛けられているのにも気づかないくらい爆睡していたって事じゃないの?」

 

ハジメが思わずツッコんだ。

何となく皆の視線が馬鹿を見る様な目になった。

 

「し、仕方なかったのじゃ! 〝竜化〟は魔力消費が激しく一度眠ると丸1日は起きられず…………って、それはもういいのじゃ!」

 

ティオは恥ずかしそうに叫んで話を変える。

 

「それよりも、確かに妾は魔物同様操られておった訳じゃが、正確には、この町を直接襲うつもりは無かったのじゃ」

 

「襲うつもりは無かったハラ?」

 

「めっちゃ襲ってたよねぇ~?」

 

ボコモンとネーモンが突っ込む。

 

「正確には、町の中まで攻め込む気は無かったのじゃ。妾達の役目は、町の者達を脅し、避難させること。それがフードの男の目的だったのじゃ」

 

「町の人達を避難させることが目的って………どういう事ですか!?」

 

愛子が思わず聞き返す。

 

「妾と共にこの町に迫った魔物は、ほんの一部に過ぎん。妾がこの町に向かう前の時点で既に5000を超えておった。今現在もさらに増え続けている事じゃろう………」

 

「5000以上の魔物………!?」

 

「うむ、流石にそれだけの大群に一斉に襲われては逃げる暇も無かろう。その為に妾達が町の者達の危機感を煽り、避難させようという腹積もりだったのじゃ。唯一の誤算は、逃げるばかりではなく立ち向かって来た者がいた事じゃな。町に直接攻撃するなと厳命されておったが、町から出て向かってくる者には容赦できんかった………」

 

「けど、だからこそ分からないな………何で魔物の群れで攻め滅ぼすつもりの町の人達を態々逃がそうとするんだ?」

 

ハジメが疑問を口にする。

 

「すまぬ。それは妾にも分からぬ。洗脳状態の時は、命令こそ覚えておるが、それ以外は記憶に霞が掛かった様に曖昧なのじゃ」

 

ティオは俯きながら申し訳なさそうに言った。

 

「なら、直接聞きに行くしかないだろ!」

 

そんなティオに拓也が言った。

 

「北から来たって事は、その黒フードが居る所は北の山脈地帯なんだろ?」

 

「う、うむ………」

 

「だったら話は早い。元々俺達は北の山脈地帯に行方不明の冒険者の捜索に来たんだ。ついでに真相を調べてくればいいだけだろ!」

 

拓也がそう言った。

 

「そうだね。じゃあ僕達は、予定通り一泊してから北の山脈の調査に向かおう」

 

ハジメも同意する。

すると、

 

「って、ちょっと待ちなさーい! とんとん拍子に話が決まってますけど、南雲君に白崎さんに神原君! 先生はあなた達に聞きたいことがたくさんあるんですからね!」

 

愛子が大事な事をスルーするなと言わんばかりに叫んだ。

3人は苦笑すると、

 

「とりあえず、先に食事させて貰えません? 食べながらでも質問には答えられると思うので」

 

そのハジメの言葉で、一同は一先ず愛子達が泊っている、『水妖精の宿』に向かう事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『水妖精の宿』の食堂の一角を借り、テーブルに座って向かい合う拓也達と愛子達。

 

「では改めて、南雲君、白崎さん、神原君…………無事で本当に………本当に良かったです!」

 

愛子が力の籠った声でそう言う。

 

「いえ……こちらこそ報告が遅くなって申し訳ありません」

 

ハジメが代表して頭を下げた。

 

「ですが、この4ヶ月近く、一体何をしていたのですか? 3人は、橋から落ちたと聞きましたが……それと、そちらの女性達と、不思議な生き物は一体………? それに! 先程神原君や源君が変身したあの姿は一体!?」

 

愛子の口からは次々と疑問が出て来る。

 

「え~っと………まずは彼女達の紹介から入りましょう。彼女達は………」

 

「ユエ」

 

「シアですぅ!」

 

ハジメの言葉を遮る様にユエとシアが名乗り、

 

「「ハジメ(さん)の女(ですぅ)!」」

 

初っ端から言葉の爆弾を投下した。

 

「お、女………!?」

 

愛子先生は衝撃を受けた様に震えた。

 

「ふ、2人ともっ!? いきなり何をっ……!?」

 

こう来るとは予想して無かったハジメが狼狽える。

しかし、否定はしていない。

 

「嘘じゃない」

 

「事実ですよ」

 

更にユエとシアの追撃。

 

「南雲君…………?」

 

愛子がゆらりと頭を揺らしながらハジメを見た。

 

「な、何でしょうか先生………?」

 

ハジメはその雰囲気に轢き気味になりつつ尋ねると、

 

「あなたには白崎さんという人が居ながら、さ、三股なんて!? 直ぐに帰ってこなかったのは、遊び歩いていたからなんですか!?」

 

「せ、先生落ち着いて………!」

 

ハジメは何とか宥めようとする。

すると、愛子が香織の方を向いて、

 

「白崎さん! あなたは何も言わないんですか!? 恋人が浮気を………!」

 

そう捲し立てた。

それに対し、

 

「………浮気じゃありません」

 

香織はそれを否定した。

 

「むしろ、ハジメ君に2人との関係を半ば強制したのは私の方ですから」

 

「えっ!?」

 

その言葉に驚愕し、我に返る。

 

「私は私の自分勝手な理由でハジメ君に2人を押し付けました。だから、ハジメ君は悪くありません。責めるなら、2人を焚きつけた私を責めてください」

 

そう言い切る香織。

 

「し、白崎さん……?」

 

学校で見た事のない覚悟の決まった表情を見て、愛子は狼狽える。

 

「香織………確かに切っ掛けはそうかもしれないけど、最終的に彼女達を受け入れたのは僕なんだ………君が責められる事じゃない。先生。僕のやっている事が現代日本で受け入れられない事ぐらいは理解しているつもりです。それでも、彼女達を受け入れた以上、生半可な覚悟では無い事は分かってください」

 

ハジメはそう言い切った。

 

「南雲君……………んっ、ゴホン!」

 

愛子は一度咳払いすると気を取り直す。

 

「話を折ってしまいましたね。南雲君と彼女達の話はおいおい聞くとして、そちらの2人?の生き物は………?」

 

「さっきも名乗ったが、ワシはボコモン」

 

「ネーモンだよ~」

 

「ワシらは『デジモン』じゃマキ」

 

ボコモンとネーモンが名乗る。

 

「デジモン………ですか?」

 

「うむ、この世界ともお主らの世界とも違う、『デジタルワールド』と呼ばれる世界に住んで居る生き物じゃマキ」

 

「デジタルワールド………それって………」

 

優花が聞き覚えのある単語に声を漏らす。

すると、

 

「そう言えば、さっきは言いそびれてしまったんじゃが、久し振りやな輝二はん」

 

「久し振りだね輝二~」

 

2人が輝二に声を掛けた。

 

「ああ。久しぶりだな、ボコモン、ネーモン」

 

輝二も僅かに微笑んでそう返す。

 

「み、源君はこの2人の事を知っているんですか!?」

 

愛子が驚きながら訪ねると、

 

「知ってるも何も、輝二はんは拓也はんと同じく、かつてデジタルワールドを冒険した仲間じゃマキ!」

 

答えたのはボコモンだった。

 

「ぼ、冒険………?」

 

愛子が普通は使わない単語に唖然とした声を漏らす。

 

「俺と輝二は小学生の頃に、このトータスとも違う異世界に行って、冒険したことがあるんですよ。ボコモンとネーモンは、その時に一緒に冒険した仲間です」

 

拓也がそう言うと、

 

「ね、ねえ拓也………もしかしてだけど、デジタルワールドの冒険とか、ボコモンとネーモンって、拓也達がいつも話してた………?」

 

優花がまさかと言わんばかりの表情で問いかける。

 

「ああ、その通りだ。作り話だと思ってたと思うけど、あれは俺達が実際に体験した事だぞ?」

 

拓也が頷くと、

 

「あ、あれが本当にあった事………!?」

 

優花は信じられないと言った表情をする。

 

「それにしても、どうしてボコモンとネーモンがこの世界に………いや、何でお前はまたスピリットを持ってたんだ?」

 

輝二がそう訊ねた。

 

「ああ。それも俺達が橋から落ちた後の事なんだが………」

 

拓也は橋から落ちた直後から語り出した。

ハジメと香織を偶然見つけた横穴に押し込み、拓也はそのまま奈落の底に落下した事。

即死は免れたが瀕死の状態で死ぬ寸前だった事。

そこを話した時、優花は酷く心配そうな表情をしていた。

しかし、死ぬ直前でデジタルワールドのオファニモンに助けてもらい、デジタルワールドに送られて一命は取り留めた物の、1ヶ月ほど意識が無かったこと。

その間、ハジメ達は真のオルクス大迷宮に辿り着き、魔物に襲われハジメは左腕を失った事。

命辛々逃げ出し、錬成で穴を掘って何とか逃げ延びた事。

その先で偶然にも神結晶を見つけ、そこから溢れ出す神水によって命を繋いでいた事。

流石に香織をレイプした所は省いたが。

現状を打破する為に、神水を用いて魔物を食べる事にした事。

身体中を激痛が襲ったが何とか生き残った事。

ハジメと香織の容姿の変化は、その時の副産物で、同時にステータスが大幅に上昇した事。

その為、倒した魔物を食べながら強くなっていき、迷宮を攻略していった事。

50階層で封印されていたユエと出会い、仲間にした事。

3人で迷宮を攻略し、100階層のラスボスと戦闘。

何とか追い詰めるものの、あと一歩及ばずピンチに陥った事。

その時、デジタルワールドから拓也がスピリットと、ボコモン、ネーモン共にトレイルモンに乗って現れ、アグニモンに進化してヒュドラを圧倒した事。

最下層で生成魔法を手に入れ、残されていた鉱石や資源を使い、数か月間準備に費やした事。

世界の真実については神殿騎士達が居たのでこの場では省く。

地上に出た後シアと出会い、ハウリア族を助ける事になった事。

その後、シアを仲間にしてライセン大迷宮を攻略し、フューレンでギルド支部長に捜索依頼を出され、北の山脈地帯に向かう途中にウルに立ち寄った事を話した。

 

「……………大変………だけで済ませられないのは分かっていますが、本当に大変だったんですね…………」

 

愛子は神妙な顔で呟く。

因みに拓也達は話の途中で頼んでいたニルシッシルと呼ばれる異世界風カレーが来たので、モグモグと食べており、緊張感は無かったりする。

すると、

 

「おい! お前達! 愛子の言葉だぞ! 真面目に聞け!!」

 

デビットがテーブルを叩きながら怒鳴った。

 

「別に話しながら食べるぐらい良いじゃないですか。それに、これを食べられるのは今日までなんですよね? 故郷に近い料理ですから楽しみにしてたんですよ? だったら食べられるうちに食べておかないと損じゃないですか。明日は朝一で北の山脈地帯に向かうつもりなので、食べる暇ないですし」

 

ハジメはそう言う。

 

「貴様! 愛子の教え子だからと言って図に乗るなよ!」

 

再び叫びながらテーブルを叩く。

その拍子にテーブルが揺れ、料理が零れそうになる。

 

「食事中ですよ。もう少し行儀よくしたらどうですか?」

 

ハジメは動じずにそう言う。

 

「ふん、行儀だと? その言葉、そっくりそのまま返してやる。薄汚い獣風情を人間と同じテーブルに着かせるとはな。しかもなんだそのふしだらな格好は、汚らわしい!! お前達の方がよっぽど礼儀がなってないでは無いか!!」

 

その言葉を聞いて、ハジメと拓也がピクッと反応した。

 

「デビットさん! なんてことを………!」

 

デビットの物言いに愛子先生も思わず叫ぶ。

 

「愛子も教会から教わっただろう。魔法は神より授かりし力。それを使えない亜人共は神から見放された下等な種族だ」

 

「私達と殆ど同じ姿じゃないですか! どうしてそこまで……!?」

 

「ならばその醜い耳を斬り落としたらどうだ。それなら少しは人間らし………ぶぼっ!?」

 

デビットが更に侮蔑の言葉を吐こうとした時、その頬に拳が突き刺さった。

 

「いい加減に………しやがれっ!!」

 

そう叫びながら拳を振り抜いたのは拓也だ。

デビットは後ろに吹き飛んで壁に激突する。

 

「あ……あが………!?」

 

整っていた顔の頬が腫れ上がり、歯も2、3本折れているだろう。

 

「俺は『仲間』を侮辱されて黙っていられるほどおとなしくは無いからな………!」

 

拓也はデビットを見下す様に睨むと、

 

「シアは『対等な仲間』だ! テメェ如きが見下していい奴じゃないんだよ!」

 

拓也はそう叫ぶ。

他の騎士達がハッとなって剣を抜こうと柄を握るが、

 

「それを抜いたら、僕達と敵対するという事で宜しいですか?」

 

ハジメが威圧を掛けながらそう告げた。

いつの間にかハジメもドンナーを抜いている。

もし拓也が殴らなければ、ハジメが撃っていただろう。

その威圧の前に、騎士達は冷や汗を流す。

ハジメは800もの魔物をあっという間に一掃できる武器を持っている。

そんなハジメと敵対する勇気は無かった。

 

「少なくとも、僕の『大切』を侮辱したのはそちらが先です。僕は今こう思っています。『お前達なんか助けなければよかった』、とね」

 

「「「ッ!?」」」

 

「あなた達が教会の教えを妄信する事は構いません。ですが、そんな理由で僕の『大切』を傷つけるような事があれば、僕も容赦しないことをお忘れなく」

 

ハジメは席を立つ。

 

「今はもう話ができる雰囲気ではないでしょう。予定通り、僕達は明日朝一で北の山脈に向かい、行方不明者の捜索とティオの話に合った黒フードの男の調査に入ります。皆は念の為、避難の準備を進めておいた方が良いと思います」

 

ハジメはそう言って宛がわれた部屋に向かった。

 

「そんじゃ、俺も今日は早めに休むとするか」

 

拓也もそう言って席を立った。

すると、

 

「拓也」

 

輝二が声を掛けてきた。

 

「ん?」

 

「明日の捜索だが、俺も同行したい。構わないか?」

 

「まあ、お前なら大丈夫だと思うが……何でだ?」

 

「少し、気になる事がある」

 

輝二は黒フードの闇魔法使いが幸利である可能性を考えていた。

 

「妾も同行しよう。多少の道案内程度なら出来よう」

 

ティオがそう言い出した。

そう言いながら拓也の顔を見るティオの表情は、左頬に手を触れながら、何処かうっとりとしていた。

因みにティオの左頬は、黒竜の時にアグニモンがサラマンダーブレイクを叩き込んだ場所である。

すると、それを見た優花は、何か危機感を感じるのだった。

 

 

 

 

 

 

その夜。

拓也は自分の宛がわれた部屋に居た。

因みに珍しく今回は1人部屋である。

ただ、隣が大部屋でハジメ達4人が泊っているのが悩みの種だが。

拓也がそろそろ寝るかと準備を始めていた時だった。

部屋の扉がコンコンとノックされた。

 

「ん? 誰だ?」

 

拓也が扉越しに訊ねると、

 

「あ………私だけど………」

 

優花の声でそう帰って来た。

 

「優花?」

 

拓也は扉を開ける。

優花はやや不安そうに廊下に立っていた。

 

「如何した?」

 

拓也が尋ねると、

 

「………………ッ!」

 

優花は我慢できなくなったように拓也の胸に縋り付いてきた。

 

「ゆ、優花……?」

 

突然の事に拓也が驚いていると、

 

「ここにいる………拓也はここに居るのよね………?」

 

まるで確かめる様にそう口にする優花。

そんな様子を見て、拓也は微笑み、

 

「ああ………俺はここに居る………安心しろ」

 

背中に手を回して軽く抱きしめる。

 

「拓也…………」

 

その温もりを感じる様に、優花はもっとピッタリとくっ付こうとする。

すると、

 

「…………あっ…………!」

 

拓也は何かを思い出したように焦り出した。

 

「ゆ、優花………話したいことは沢山あると思うけど、また今度な………! 心配しなくてもこれからいくらでも時間はあるから………!」

 

拓也はそう言いながらそれとなく優花を部屋から出そうとしていた。

 

「拓也………? どうしたの?」

 

様子の皮った拓也に優花は訝しむ表情になる。

 

「いや、その、決してやましい理由じゃ………いや、ある意味そうかもしれないけど、このままここにいると拙……………」

 

拓也がそう言いかけた時、

 

「んぁっ………あっ…………ハジメ君っ…………!」

 

「はぁっ………ああんっ…………ハジメぇ………!」

 

「ひゃんっ………ふわぁぁぁぁっ……! ハジメさぁん!」

 

隣の部屋から艶めかしい声が聞こえてきた。

拓也はガクッと項垂れて顔に手を当てる。

 

「あ・い・つ・らぁ~………! こんな状況でもお構いなしか………! って言うかはえーよ……!」

 

拓也は思わず恨みがましい声を漏らした。

そして顔を上げると、優花を見る。

優花の顔は、その声を聞いて真っ赤になっていた。

 

「あ~………だから、その……な? これ以上一緒に居ると、絶対我慢出来そうに無いから………」

 

拓也は優花を部屋から出そうとした理由を正直に口にする。

 

「……………もしかして、こういう事が今までにも?」

 

「町の宿に泊まった時は毎夜のように」

 

「ああ…………」

 

優花は拓也を思わず可哀想な目で見てしまった。

すると、優花は首を振って気を取り直すと、部屋の扉を閉めて鍵を掛けた。

 

「ッ!?」

 

その行動に目を見開く拓也。

そして優花は拓也に向き直ると、服に手を掛け、一瞬躊躇した後一気に脱ぎ捨てた。

下着まで脱ぎ去り、形の良い胸が拓也の目の前に晒される。

 

「ゆ、優花!?」

 

拓也は思わず顔を真っ赤にして固まる。

すると、優花はそのまま拓也に抱き着いた。

拓也の手が宙を彷徨う形で停止する。

すると、

 

「……………我慢なんて………しなくていいじゃない………!」

 

抱き着いた状態から上目遣いで拓也を見つめる。

 

「優花…………」

 

「いいわよ…………覚悟は出来てるから…………」

 

「……………本当にいいのか………? 多分、止まれないぞ…………?」

 

拓也は今にも切れそうな理性で問いかけた。

すると、

 

「言ったわよ。我慢なんてしなくていいって………!」

 

その言葉が止めだった。

 

―――プツン

 

拓也の中で理性の糸が切れた。

 

「優花!」

 

拓也が優花を抱きしめ、ベッドに押し倒す。

 

「きゃっ!? い、いきなり………………ああぁん!」

 

その夜、優花が拓也の部屋から出て来ることは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

早朝に同じ部屋の4人で起きたハジメ達は、身形を整えていた。

すると、

 

「そう言えば、今日も拓也さんは人を殺せそうな目で睨んでくるんですかね?」

 

シアがそう言う。

 

「そうだね。いつも目元に凄いクマ作ってるから、ホント怖いよ」

 

「野宿の時はそうでも無いんだけど………」

 

「ん、不思議。宿のベッドの方が気持ちよく寝れる筈」

 

というように、今までの拓也の心労は、本人達はあずかり知らぬところであった。

ハジメ達が部屋を出ると、

 

―――ガチャ

 

丁度隣の拓也の部屋の扉が開き、拓也が顔を出した。

ハジメ達は、また凄まじい目付きで睨まれると予想していた。

そして、

 

「…………おはよう皆! 今日もいい朝だな!」

 

これまでに無い清々しい笑顔で拓也は挨拶した。

 

「ど、どういうことですか!? 拓也さんが今までにない清々しい笑顔ですぅ!?」

 

「逆に怖い………」

 

シアとユエが中々に失礼な事を言う。

ふと見ると、部屋から出てきた拓也の背には、優花が背負われていた。

 

「あれ? 優花ちゃん?」

 

香織が優花に気付く。

優花は疲れ果てた様にぐったりしている。

 

「大丈夫か優花? 無理してついてこなくても、部屋で休んでれば………」

 

「ううん………絶対ついてく………一緒に居たいから………」

 

ぐったりして身体を拓也の背中に預けつつも、そうはっきりという

 

「優花ちゃんが拓也君と同じ部屋から………それで動けない………って事は!」

 

香織は昨夜何があったか察したらしい。

 

「動けなくなる位激しかったって事ですね!」

 

シアがニヤニヤと笑う。

 

「……………半分はあんた達の所為だからね」

 

優花がジト目で睨んだ。

 

「「「「?」」」」

 

4人はその言葉に首を傾げるのだった。

 

 

 

 

 

 

優花を香織の回復魔法で自力で歩けるようにして、朝霧の漂う町の門の前まで来ると、

 

「待っていましたよ。南雲君達!」

 

そこには輝二やティオだけでなく、愛子や他の生徒達も居た。

 

「え~っと………大方予想出来るんですけど一応聞きます。何やってるんですか?」

 

ハジメはそう尋ねる。

 

「もちろん、南雲君達からもっと話を詳しく聞く為です。昨日はあんなことになってしまったので、話が途中で終わってしまいましたから」

 

すると愛子は、シアに歩み寄ると、

 

「昨日はデビットさんが失礼な事を言ってしまい、申し訳ありませんでした。昨日のような事にならない様に、デビットさん達には黙って来ています。手紙は置いておきましたが………」

 

シアに向かって頭を下げた。

 

「えっと………あの……お気になさらないでください」

 

シアは少々驚きながらそう言う。

 

「如何するハジメ?」

 

拓也がハジメに訊ねると、

 

「まあ、先生の『教師』としての行動力はよくわかってるから………ここで置いて行くと、何するか分からないからね………わかりました。同行を許可します」

 

ハジメはそう言いながら宝物庫から魔力駆動四輪を出すと、

 

「けど、流石に全員は乗れないからね………拓也は悪いけど『シュタイフ』に乗ってくれる?」

 

「わかった」

 

ハジメの言葉に拓也が頷くと、宝物庫の指輪が光って魔力駆動二輪が現れると、拓也はそれに跨った。

 

「今度はバイクかよ………」

 

昇が驚いた顔になる。

 

「流石に車内には全員は乗せられないから悪いけど荷台に………」

 

そう言いかけた所でハジメはピキーンと何かを閃いた。

そして含み笑いをしつつ、

 

「あっ、園部さんは拓也と一緒にシュタイフに乗ればいっか!」

 

「えっ?」

 

ハジメの言葉に拓也は驚いた表情になり、

 

「ッ………そうね。その方が奈々達にも余裕が出来るでしょうし」

 

優花も一瞬驚くが、すぐに了承した。

そして拓也の後ろに跨って密着する。

 

「ッ~~~~~~」

 

拓也は顔を赤くする。

 

「何?」

 

優花はニヤニヤと笑みを浮かべる。

 

「………何でもない。しっかり掴まってろよ」

 

「うん!」

 

優花は拓也の腰に手を回してギュッと抱き着いた。

 

「「「神原の奴見せつけやがって~………!」」」

 

それを見た昇、明人、淳史の3人が悔しそうな顔をしていた。

 

 

 

魔力駆動四輪と魔力駆動二輪が並んで走る。

その間、ハジメは愛子にこの世界の真実について話をしていた。

この世界が神の遊戯盤だと知った愛子は絶句したが。

魔力駆動四輪で行ける所まで進んだ後、一行はティオの案内で山を登り始めた。

ティオは、僅かながら冒険者を襲った記憶があり、それが山頂近くだったという事だ。

ただ、覚えている限りは止めは刺さず、わざと逃がしたという。

それならば、今も生きて何処かに隠れている可能性はある。

ハジメはもう1つの目的であるフードの男を探す為に、オルニスと名付けた、ライセン大迷宮で手に入れた重力魔法と感応石を応用した魔法式ドローンとも呼べるゴーレムを飛ばし、周辺の捜索に当たらせた。

山頂近くまで上がってくると、

 

「ここじゃ。ここが妾が冒険者達を襲った場所なのじゃ」

 

ティオがそう言う。

川の近くには、ブレスが着弾したとみられるクレーターがある。

 

「なるほど。大体の位置が分かってるなら捜索もしやすいね」

 

ハジメがそう言って気配感知を最大にすると、下流に向かって捜索を始める。

ティオの情報から、冒険者達は川に飛び込んだというのだ。

それならほぼ間違いなく下流に流されたという事だ。

暫く川沿いに下っていくと、大きな滝が現れた。

ハジメや香織、シアはひょいひょいと崖を降りていき、ユエは風魔法で浮遊しながら降下。

拓也は炎の翼で降下。

序に優花を横抱きにし、ボコモンとネーモンを肩に引っ付けながら。

輝二も割と危なげなく下りていたが、他のメンバーは恐る恐る崖を降りていた。

すると、

 

「………ッ! 気配感知に反応があった! 大きさからして人間! 数は5! あの滝の裏からだ!」

 

ハジメが叫んだ。

 

「ユエ!」

 

「んっ!」

 

ハジメの呼びかけに応え、ユエが滝の前の岩場に降り立つと、

 

「〝波状〟〝風壁〟!」

 

水魔法と風魔法で滝を割った。

その光景にユエの愛子達は驚きで口をあんぐりと開けていた。

滝の裏側には洞窟があり、それなりの深さがあるようだった。

一行はその洞窟に入り、少し進むと、

 

「何者だ!?」

 

洞窟の奥から声がして、冒険者風の男が現れ、剣を向けてきた。

その後ろには更に3人の冒険者風の男達と、その冒険者達に護られるようにやつれた表情の金髪の青年が居た。

 

「………もしかして、ウィル・クデタと同行した冒険者の方ですか?」

 

ハジメが問いかける。

 

「ッ………! 先にこちらの質問に答えてくれ。君達は何者だ?」

 

男は警戒を緩めずにハジメを見る。

 

「そんなに警戒しなくても大丈夫です。僕は南雲 ハジメ。フューレンのギルド支部長、イルワ・チャングからウィル・クデタの捜索依頼を出された冒険者です」

 

ハジメはステータスプレートを見せながらそう言った。

 

「ッ!? イルワさんから!?」

 

金髪の青年が驚いた声を上げて前に出て来る。

 

「ウィル様! 不用意に前に出ては………!」

 

冒険者の男が諫めるが、ウィルは構わずにハジメに近寄っていく。

 

「本当に……! 本当にイルワさんから………!?」

 

「ええ。念のためにこれが依頼書です」

 

ハジメがイルワからの依頼書を見せる。

 

「これはイルワさんの字! では本当に!」

 

ウィルの反応で、冒険者達の警戒が緩む。

 

「はい、生きていてよかったです。さあ、早くここを出ましょう」

 

ハジメはそう言ったが、

 

「「「「「……………………」」」」」

 

5人は俯いて洞窟を出ようとしない。

 

「如何しましたか?」

 

「君は『奴』に会っていないのか?」

 

「『奴』?」

 

冒険者の言葉にハジメは首を傾げる。

 

「恐ろしい魔物だ! 空を飛び、強力な炎を吐き、黒い鱗は全ての攻撃を弾き返す……! 俺達は、『奴』に襲われてこの洞窟に逃げ込んだんだ!」

 

その言葉に、ハジメ達の視線がティオに向く。

 

「…………………」

 

ティオは申し訳なさそうに俯いた。

 

「ああ、安心してください。黒竜なら僕達が倒しましたので」

 

「なっ!? 君が『奴』を倒したのか!?」

 

「正確には僕の仲間が……ですけど」

 

「どちらにせよ、奴はもう居ないんだな!?」

 

「そ、そうですね……!」

 

居ないどころかすぐそこに居る事に、ハジメはやや目を晒した。

 

「やった! 生きて帰れるぞ!」

 

冒険者達が喜びを露にする。

 

「一先ずこの洞窟を出ましょう」

 

ハジメの言葉に、今度こそ冒険者達は頷いた。

 

 

 

 

洞窟から出たハジメだったが、

 

「……………ッ!」

 

何かに気付いた様に立ち止まった。

 

「如何した? ハジメ?」

 

拓也が聞くと、

 

「う、うん………例の黒フードの男を探す為に飛ばしてたオルニスの映像なんだけど………魔物の大群がいた」

 

「ティオはんが言ってたやつじゃハラ?」

 

「多分そうだと思うんだけど………」

 

ボコモンの言葉にハジメが歯切れ悪く答える。

 

「どうしたの~?」

 

ネーモンが間延びした声で尋ねると、

 

「その…………数が…………」

 

「数?」

 

輝二が更に問う。

 

「ティオの話だと5000位って話だったんだけど………」

 

「妾が別れた時はな………あれ程の使い手じゃ、数が倍ほどになっておっても驚かんぞ」

 

ティオがそう言ったが、

 

「倍どころじゃない………数万規模の大軍隊だ………!」

 

「「「「「「「「「「なっ!?」」」」」」」」」」

 

その言葉に全員が驚く。

 

「しかもこの進行方向……ウルの町に向かってる可能性が高い……!」

 

ハジメがそう言うと、

 

「は、早く町に知らせないと! 避難させて、王都から救援を呼んで……それから、それから……」

 

愛子が混乱しながら今後のすべきことを纏めようとする。

他のクラスメイト達も動揺している。

 

「まずは町へ戻ろう! 話はそれからだ!」

 

ハジメの言葉に全員が頷く。

そしてウィルたちを連れて下山を始めようとしたが、

 

「………………」

 

輝二だけは動かなかった。

 

「如何した輝二?」

 

拓也が問いかけると、

 

「お前達は町に戻っていてくれ。俺はもう少しこの周辺を調べたい」

 

輝二はそう答えた。

 

「………………」

 

「………………」

 

拓也と輝二は無言で見つめ合うと、

 

「わかった。何か考えがあるんだな?」

 

「もしかしたら……な?」

 

拓也の言葉に僅かに笑みを浮かべてそう答える輝二。

 

「そうか………ハジメ!」

 

拓也はハジメに呼びかけ、何かを話すと、ハジメが宝物庫から1つの袋を取り出した。

拓也はそれを輝二に投げ渡す。

 

「食料と水だ。数日分はあるだろ?」

 

「………助かる」

 

輝二はそう言うと、山の奥へ向かって行った。

 

「えっ? あの、源君は………?」

 

「あいつにはあいつの考えがあるんだろ? こんな時に余計な事をするような奴じゃないさ」

 

困惑する愛子に拓也は答える。

 

「さあ、俺達は早く町に戻ろう!」

 

一行は、今度こそ山を下る為に移動を開始した。

 

 

 

 

ウルの町には、昨日まで無かった高さ5m程の外壁に囲まれていた。

それはハジメの錬成により、即興で作られたものだ。

ウルの町に到着した一行は、避難を呼びかけるが全員が避難するには時間が足りない。

そのため、拓也やハジメ達が魔物の殲滅を提案したのだ。

外壁は気休め程度のものだが、その上部にはハジメが準備期間の間にノリで作っていた機銃が10基ほど設置され、如何いう物かを理解している男子生徒3人と、ウルの町の有志に使わせることにした。

因みに神殿騎士には使わせたくないとハジメが断っている。

ハジメとしては、魔物の群れには勝てると思っているが、ウルの町まで護り切れるかと言われればハッキリと頷けない。

そのため、防衛設備を充実させることにしたのだ。

準備が整い、魔物が来ると予想される夜明け前。

空が白んできた頃、外壁の上で拓也が魔物達が来るであろう方向を見つめていた。

すると、

 

「拓也」

 

優花が外壁の上に登ってきて拓也に声を掛けた。

 

「優花………」

 

「もうすぐ……来るのよね………?」

 

「ああ………」

 

「拓也も………戦うのね………」

 

「そうだな」

 

優花の言葉に一つ一つ答えていく拓也。

 

「…………悔しいわ………こんな事になるんだったら、もっと真剣に訓練しておくべきだった………そうすれば、拓也の隣で戦えたかもしれないのに………」

 

優花もオルクス大迷宮の訓練以降、真面に訓練はしていないため、あの頃とステータスに変わりはない。

 

「気にするな。お前達は元々戦いとは無縁だったんだ」

 

「それは拓也達だって一緒じゃない」

 

「俺は元々デジタルワールドで戦った経験がある。それに………どんな時も戦う時は自分の意志で戦っているんだ」

 

「自分の意志で………?」

 

「ああ。実はな、オファニモンに助けられた時、帰ろうと思えば日本に帰れたんだ………」

 

「えっ!?」

 

「オファニモンは俺に2つの選択肢を与えてくれた。日本の家族の下へ帰って平和な日常を送る道と、トータスへ戻る戦いの道…………」

 

「じゃ、じゃあ何で帰らなかったの!? 拓也だけでも帰れたなら、今頃………!」

 

「………お前達が居たからに決まってるだろ?」

 

「えっ?」

 

「お前や輝二、輝一、ハジメ達が残っているのに、俺だけのうのうと帰れるかよ。だからと言って勘違いするなよ。戦う事を決めたのは俺自身だ。オファニモンからの最後の選択肢。『戦いますか? しませんか?』。その問いかけに、俺は迷わずに戦う事を選んだんだ」

 

「……………『戦いますか? しませんか?』…………」

 

優花は、その選択肢を口にする。

 

「私は………」

 

優花が何かを口に出そうとした時、

 

「お邪魔じゃったかのう?」

 

いつの間にかティオが歩み寄ってきていた。

 

「ティオ? 何か用か?」

 

「うむ。少々お願いがあってのう」

 

「お願い?」

 

ティオの言葉に聞き返す拓也。

 

「お主達の旅に、妾も同行させてもらえんかのう?」

 

「は? 何でいきなり?」

 

思わず問い返す拓也。

 

「何、妾の目的を果たす為にも、主らと行動した方が都合がよいと思っただけじゃ。それに…………」

 

ティオはそう言うと、優花の反対側から拓也にすり寄った。

 

「な、何だ? 近いぞ………?」

 

「ご主人には、妾を傷物にした責任を取ってもらわねばならぬからのう」

 

「何の事だよ!?」

 

「何を言う? 乙女の顔を思いっきり蹴り飛ばしたであろう?」

 

「………………あ」

 

ティオが言っているのは黒竜の姿の時にサラマンダーブレイクを叩き込んだ時の事だ。

 

「竜化している妾の黒麟を砕き、身体の芯まで揺さぶられるようなあの一撃…………痺れたのじゃ………!」

 

「待てコラ! 言ってることがヤベェって自分で分かってるのか!?」

 

「竜化した妾に痛みを与えたのはお主が初めてじゃよ。それに、婿に取るならば最低でも妾より強くなくてはのう」

 

妖艶な笑みを浮かべて拓也に顔を寄せるティオ。

その時、拓也の腕がグイッと引かれ、

 

「ティオさん……!? 悪いけど拓也は私の恋人なの! 悪いけど諦めて!」

 

まるで自分の物だと主張する様に拓也の腕に抱き着く優花。

 

「む? 妾は別に側室でも構わんぞ?」

 

「そ、側しっ………って、何言ってるの!?」

 

「ご主人程の男であれば、女を2人娶る位わけ無かろう?」

 

「だから何でそうなるの!?」

 

更に優花が叫ぶ。

 

「あ~、ティオ? 俺達の故郷だと、一夫一妻が普通なんだよ」

 

「なぬ? そうなのか? その割にはハジメ殿は3人を娶っておるようじゃったが……」

 

「あ~。あいつは状況に流されてな………」

 

「そ、そうよ! 拓也は渡さないから諦めて!」

 

優花はかなり必至だ。

すると、ティオは含み笑いをして、

 

「その割には、ご主人を満足させてはおらんようじゃな?」

 

「な、何の事よ………?」

 

「それはもちろん夜伽の話じゃ。ご主人が満足する前にお主はへばっておったじゃろう?」

 

「「なっ!?」」

 

ティオの言葉に拓也と優花は顔を真っ赤にした。

 

「何で知ってるのよ!?」

 

「それはもちろん2人の情事を覗いて居ったからじゃよ」

 

「覗っ………!?」

 

「あ、あれは数ヶ月分の溜まりに溜まったモノが一気に出ただけで…………」

 

拓也は言い訳を言い出す。

 

「フフフ、1人では受け止め切れんと思ったらいつでも呼んでおくれ。妾は何時でもバッチ来いじゃ」

 

ティオはそう言いながら立ち去り、

 

「絶対に呼ばないからね!」

 

優花がその背中に叫ぶのだった。

 

 

 

それから少しして、

 

「……………来たか」

 

北の山の方から砂煙が巻き上がるのが見える。

ハジメは数万と言っていたが、5万ほどの魔物の群れが接近していた。

 

「拓也………」

 

優花が不安そうに拓也に声を掛ける。

 

「安心しろ。あんな奴らどれだけ集まったって平気だ。俺にはスピリットがついてるからな!」

 

拓也は魔物の群れを見据える。

すると、ハジメ達が駆け寄って来る。

 

「拓也、準備は良い?」

 

「ああ、いつでも行ける!」

 

「なら、戦闘開始だ!」

 

ハジメがそう言うと、メツェライを構え、引き金を引いた。

ガトリングレールガンが魔物を片っ端から粉砕していく。

 

「〝雷龍〟」

 

ユエの放った雷の龍が魔物達を蹂躙していく。

 

「これでもくらえですぅ!」

 

シアが六連装ロケットランチャーを発射し、

 

「竜のブレス! 受けるがいい!」

 

ティオが灼熱の炎を放った。

 

「う~ん。私は出番ないかなぁ?」

 

香織が手持ち無沙汰になっていた。

そして、

 

「なら、俺も行くとするか!」

 

デジヴァイスの画面に獣の顔のシルエットが現れ、咆えると、ビーストスピリットの形が浮かび上がる。

突き出した左手に長い帯が集まり球状となったデジコードが発生する。

そのデジコードに、デジヴァイスの先をなぞる様に滑らせる。

 

「スピリット………! エボリューション!!」

 

拓也の身体をデジコードが包む。

だが、それは今までとは違っていた。

溢れるエネルギー、力の奔流。

 

「うああああああああああっ!!」

 

拓也は叫び声を上げる。

激しい力の奔流の中、拓也はスピリットを纏っていく。

顔に、腕に、身体に、足に。

拓也の身体にスピリットが合わさる。

アグニモンへの進化を柔の進化とすれば、これは正に剛の進化。

その名も、

 

「ヴリトラモン!!」

 

ヴリトラモンとなった拓也は空へ飛び立つ。

そのまま魔物の群れに向かうと、

 

「コロナブラスター!!」

 

ルードリー・タルパナが反転し銃口が前を向いてそこから熱線が連射される。

空中からの掃射に魔物達は成す術なく焼き尽くされていく。

とは言え、必殺技を放ち続けていればすぐに体力が尽きてしまう。

その為、ヴリトラモンは地上に降りて肉弾戦を開始した。

振るわれる腕が魔物を粉砕し、尻尾で近付く魔物を薙ぎ払う。

 

「うぉおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

ヴリトラモンは次々と殴り、燃やし、時には踏みつぶす。

ある程度の数の魔物を倒したところで、

 

「ヴリトラモン! スライドエボリューション!」

 

ヴリトラモンはデジコードに包まれ、アグニモンになる。

 

「アグニモン!」

 

ヴリトラモンは体力の消費が激しいため、体力を温存する為にアグニモンになったのだ。

 

「サラマンダァァァァァァッ………! ブレイクッ!!」

 

炎を纏いつつ回転し、連続で旋風脚を魔物に叩き込んでいき、粉砕する。

 

「拓也………」

 

そんな様子を、優花は心配そうに見つめていた。

 

「〝嵐焔風塵〟!」

 

ティオが放つ炎の竜巻の魔法が百匹単位で魔物を灰と化していく。

優花はそれを見て羨ましさを感じていた。

先程はティオの前では強がったが、ティオは今、拓也と一緒に戦えている。

それは自分には出来ない事だった。

 

「力が………欲しい…………拓也の隣で戦える力が…………」

 

優花はそう呟く。

その時、

 

「ん………?」

 

アグニモンのデジヴァイスが光を放っている事に気付いた。

 

「何だ?」

 

デジヴァイスを手に取って確認すると、デジヴァイスの画面には『風』の紋章が浮かび上がっていた。

 

「これは………!?」

 

次の瞬間、デジヴァイスの画面から光が流星の様に飛び出す。

その光は尾を引きながらウルの町の方に………

いや、優花に向かって飛んできた。

 

「ッ!?」

 

優花が目を見開く。

その瞬間、その光は優花の前に落ちた。

すると、

 

『…………力が欲しい?』

 

優花の目の前に、仄かな光を纏い、蝶のような羽を持った女性型のデジモンが居た。

 

「あ、あなたは………?」

 

『私は『風』の闘士フェアリモン。もう一度聞くわ。力が欲しい?』

 

「………………欲しい…………拓也の隣で戦える力が欲しい!」

 

フェアリモンの問いかけに、優花はそう答えた。

 

『でもそれは、辛く苦しい戦いの日々の始まりでもあるわ。その『覚悟』があなたにある?』

 

「…………私1人じゃ多分無理だと思う………でも、拓也と一緒ならきっと大丈夫!」

 

優花はそう言い切る。

 

『そう……それがあなたの選択なのね………なら、最後に聞くわ。『戦いますか? しませんか?』』

 

「ッ………!?」

 

先程の拓也との話でもあった選択肢。

優花の答えは………

 

「戦うわ!」

 

戦う事を選んだ。

その言葉に、フェアリモンが笑みを浮かべる。

 

『それなら一緒に戦いましょう! 私の………『風』の闘士の力をあなたに………!』

 

フェアリモンが光を放つと、スピリットの形を取った。

ヒューマンスピリットとビーストスピリットの2つがそこに浮いている。

すると、優花の目の前にピンクと紫のデジヴァイスが浮かび上がった。

2つのスピリットはそのデジヴァイスに吸い込まれ、優花の目の前に浮いている。

 

「………ッ!」

 

優花は一瞬呆けていたが、迷わずにそのデジヴァイスを手に取った。

そのデジヴァイスの画面には『風』の紋章が映し出されていた。

そして同時に、優花はどうすればいいのかを理解する。

そして、そのデジヴァイスの画面に光が走り、『風』のスピリットの形が描かれた。

前に突き出した優花の左手に、デジコードの輪が発生する。

そのデジコードの輪に、右手に持ったデジヴァイスの先をなぞる様に滑らせる。

 

「スピリット……! エボリューション!!」

 

優花がデジコードに包まれる。

デジコードの中では、優花がスピリットを纏っていく。

顔に。

腕に。

体に。

足に。

優花の身体にスピリットが合わさる。

そして、そのデジコードが消えたとき、このトータスの地に『風』の闘士が舞い降りた。

 

「フェアリモン!!」

 

フェアリモンに進化した優花は顔を上げ、

 

「ッ!」

 

迷わずにアグニモンの下へと飛び立つ。

 

「ゆ、優花っちも変身した………!?」

 

見ていた奈々が驚きの声を漏らす。

 

「あ、あれは伝説の十闘士の1人、『風』のフェアリモンじゃ!」

 

ボコモンが叫ぶ。

 

「泉じゃなくても良かったんだね~」

 

ネーモンがそう言う。

 

「バカモン! 優花はんの、拓也はんと一緒に戦いたいという純粋な思いにスピリットが応えたんじゃマキ!」

 

ボコモンはそう言う。

すると、フェアリモンがアグニモンの下へとたどり着き、

 

「アグニモン!」

 

「ッ!? フェアリモン!? 一体誰が!?」

 

現れたフェアリモンに、アグニモンは驚愕の声を漏らす。

 

「私よ、拓也」

 

「なっ!? まさか優花!?」

 

その正体に気付き、アグニモンは更に驚いた。

 

「私の拓也と一緒に戦いたいって思いに、スピリットが応えてくれたの」

 

「優花………」

 

アグニモン……拓也は、優花を戦いに巻き込んでしまう事に、申し訳ないような気持になった。

しかし、

 

「拓也、これは私が選んだ『選択』よ!」

 

「ッ! そうか………」

 

拓也にとって、その答えだけで十分だった。

 

「なら行くぞ! フェアリモン!」

 

「ええ!」

 

アグニモンが両拳を合わせ、その腕に炎を纏う。

 

「バーニングサラマンダー!!」

 

その拳の炎を放ち、フェアリモンが両手の5本の指それぞれから竜巻を生み出す。

 

「ブレッザ・ペタロ!!」

 

それらを魔物に向け放った。

アグニモンの炎がフェアリモンの風によって扇がれ、更に激しく燃え上がる。

その炎が魔物達を呑み込んでいく。

それでも怯まずに向かってくる魔物。

 

「はっ! せいっ!」

 

アグニモンは近付いてくる魔物を拳や蹴りで迎撃する。

すると、フェアリモンが逆立ちの状態から足を水平に横に広げ、回転を始めた。

 

「トルナード・ガンバ!!」

 

その勢いは、自身を空中に浮かす程。

そしてその勢いのまま横に移動し、魔物を次々と蹴りで吹き飛ばしていく。

やはり地上の魔物は大迷宮の魔物よりかなり劣る為、個の力でアグニモンやフェアリモンに敵う相手はいない。

しかし、その圧倒的物量は次から次へと襲ってくる。

 

「……負ける気はしないけど、キリが無いわね」

 

「確かにな………」

 

フェアリモンとアグニモンがそう言葉を交わした時、

 

「スピードスター!!」

 

突如として閃光が走り、アグニモンとフェアリモン周辺の魔物が一瞬にして切り裂かれた。

 

「ッ!? 何!?」

 

フェアリモンが驚くが、その閃光の正体は白い狼型のデジモンだった。

 

「ガルムモン!」

 

アグニモンが声を上げる。

 

「アグニモン………! それに、フェアリモンだと!?」

 

「優花だ」

 

「優花……そうか」

 

「アグニモン……そのデジモンは……?」

 

フェアリモンが問いかける。

すると、

 

「ガルムモン! スライドエボリューション!」

 

ガルムモンがデジコードに包まれ、

 

「ヴォルフモン!」

 

ヴォルフモンとなって姿を現した。

 

「あっ、輝二が進化した………」

 

「さっきの姿はガルムモン。光の闘士のビースト形態だ」

 

アグニモンがそう説明する。

そしてヴォルフモンに向き直ると、

 

「要は済んだのか?」

 

アグニモンが問いかける。

 

「ああ。だが、まずはこの戦闘を終わらせる!」

 

ヴォルフモンはそう言うと、

 

「リヒト・ズィーガー!!」

 

光の剣を抜く。

すると、目の前の何匹かの魔物は無視し、

 

「はぁあああああっ!!」

 

その奥に居た一匹の魔物を切り裂いた。

すると、その周辺の魔物が狼狽えた様に散り散りになって逃げていく。

 

「これは………」

 

「如何いう事?」

 

アグニモンとフェアリモンが疑問の声を漏らす。

 

「こいつらは全ての魔物が洗脳されているわけじゃない。洗脳されているのは魔物達を纏めるリーダー格だけだ」

 

「リーダー格? そうか! そいつさえ仕留めれば操られていない魔物は!」

 

アグニモンはヴォルフモンの言葉で気付く。

 

「そういうことね!」

 

フェアリモンも納得する。

 

「狙うのはリーダー格! そいつさえ倒せば後は烏合の衆だ!」

 

ヴォルフモンの言葉で、一斉にリーダー格の魔物を狙い始める。

そして、日が昇る頃には戦闘は終了するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次回予告

 

 

 

魔物を操ってウルの町を襲わせたのは、友人の幸利。

しかし、幸利にはそうしなければならない理由があった。

それに対する拓也達の判断は!?

 

 

 

次回、ありふれたフロンティアへ

 

 

第17話 『土』に選ばれし者!

 

 

今、ありふれた伝説が進化する。

 

 

 





はい、第16話です。
書きたい所まで書いたせいか、じゃっかんペースが落ちました。
あと、タイトル回収する為に少し、省略し過ぎた気も………
はい、そう言う訳で優花がフェアリモンに進化する事となりました。
まあ、フェアリモンって弱いイメージが拭えないんですけど………
それでもフェアリモンはトレイルモンを崖下から持ち上げるぐらいの腕力は持つようなので、蹴りの力はそれ以上。
即ち100t位は軽い?
つーかジャスティモンのジャスティスキックが45tなのが未だに納得いかない。
そう言えば余談なんですけど、デジモンフロンティアでちょっと思い出した事が。
デジモンフロンティアの最終話で、5人でスサノオモンに進化する直前に、皆がデジヴァイスを掲げるシーンがあるんですけど、そこに居るのは5人(輝一はルーチェモンにやられてしまったので)なのに、掲げられたデジヴァイスの数は、1、2、3、4、5、6………?
何故か輝一のデジヴァイスまで掲げられているんですね。
これは作成側のミスなのか、それもとも輝一も心だけは皆と一緒にという作成側の配慮なのか………皆さんどう思います?(U-NEXTの配信動画では修正されていませんでした)
ともかく次も頑張ります。



P.S 本日の返信はお休みします。

ミュウのパパは?

  • ストレートにハジメ
  • ここはカーブで拓也
  • あえてフォーク、輝二
  • 消える魔球! 誰もパパにならない
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