ありふれたフロンティアへ   作:友(ユウ)

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第1話 新たなる冒険の始まり! 異世界への召喚!

 

 

月曜日。

それは一週間の内で最も憂鬱な始まりの日。

きっと大多数の人が、これからの一週間に溜息を吐き、前日までの天国を想ってしまう。

高校2年生の男子、南雲 ハジメにとってもそれは変わらない。

しかし、普段なら登校時間ギリギリに登校するはずの彼は、まだ十分に余裕のある時間に登校していた。

それは、最近になって1つの楽しみが出来たからだ。

 

「ふぁ~あ………」

 

欠伸を噛み殺しながら、教室のドアを開けて入室する。

 

「よぉ、キモオタ! また、徹夜でゲームか? どうせエロゲでもしてたんだろ?」

 

「うわっ、キモ~。エロゲで徹夜とかマジキモイじゃん~」

 

ハジメに向かってそんな言葉を投げかけるのは檜山 大輔という男子生徒を始めとした4人の男子の集まりだ。

確かにハジメはオタクという部類の人間だ。

しかし、オタクとは言ってもキモオタと罵られるほど身だしなみや言動が見苦しいという訳ではない。

髪は短めに切り揃えているし寝癖もないし、コミュ障という訳でもないから積極性こそないものの受け答えは明瞭だ。

大人しくはあるが陰気さは感じさせない。

単純に創作物、漫画や小説、ゲームや映画というものが好きなだけの人間だ。

まあ、『趣味の合間に人生』を座右の銘とする生粋のオタクを自称する部分もあるが………

因みにそんな彼だが恋人が居る。

それは、

 

「おはようハジメ君! 今日も眠そうだね? お義父さんの仕事の手伝いだから仕方ないかもしれないけど、無理しちゃダメだよ?」

 

そう声をかけた美少女、白崎 香織だ。

香織の言う通り、ハジメの父親はゲーム会社の社長であり、ハジメは昔からちょくちょく仕事の手伝いをしていて、今では立派な戦力であり、仕事が忙しくなってきた時にちょくちょくヘルプを頼まれるのだ。

今回の寝不足もそれが原因である。

 

「おはよう香織。それと、心配してくれてありがとう」

 

ハジメは微笑んでそう返す。

ハジメが早く登校する理由として、彼女と早く会えるという事も理由の1つであることは間違いないだろう。

しかし、ハジメが早く登校する理由はもう1つある。

すると、

 

「よっ! ハジメ、おはよう。それからお疲れさん」

 

「あ、おはよう幸利」

 

そう気軽に声を掛けてきたのは、鼻の周りにそばかすがある男子生徒、清水 幸利だ。

ハジメとは親しい間柄では無かったのだが、とある理由でお互いにオタク趣味を持つ同志だという事が分かってからお互い気軽に話し合える友人となった。

 

「拓也はまだ?」

 

ハジメが聞くと、

 

「ああ。まだ朝練から戻って来てない。でもそろそろじゃないか? さっき園部が迎えに行ったみたいだし」

 

「そっか………」

 

ハジメは期待する表情を伺わせる。

すると、

 

「おはようハジメ」

 

「ハジメ、おはよう」

 

「やあやあ南雲君! おはよう!」

 

そう言って声を掛けてきたのは、黒髪にバンダナを巻き、少し長い髪を後ろで束ねた男子生徒と、その男子生徒によく似た顔立ちをしたもう1人の男子生徒、そして、その男子生徒の腕に抱き着いているメガネをかけた少し小柄な女子生徒だった。

 

「あ、おはよう輝二、輝一、恵理さん」

 

ハジメが挨拶を返したのは、バンダナを巻いた男子が(みなもと) 輝二(こうじ)

輝二に似た顔立ちをした男子生徒が木村(きむら) 輝一(こういち)

そして、輝一の腕に抱き着いている女子生徒が木村 恵理であった。

恵理は、元々の苗字は中村というらしいのだが、家庭に問題があり、ある事が切っ掛けで輝一の家で引き取ることになり、現在では木村姓を名乗っている。

そう言う訳で、輝一と恵理は、戸籍上は義理の兄妹という事になっているのだが………

 

「相変わらず夫婦仲が良い事で」

 

幸利が揶揄うようにそう言うと、

 

「もちろんさ! ボクと輝一は世界一のラブラブ夫婦だよ!」

 

そう言いながら更にくっ付く恵理。

 

「ははは」

 

少し苦笑い気味ながらも、特に嫌そうにしていない輝一。

恵理は輝一と同じ苗字は夫婦だと公言している。

まあ両者とも18歳未満なので結婚できないのは誰でも分かる事だが。

 

「むぅ~、私とハジメ君だって負けないぐらいラブラブだよ!」

 

何故か香織が張り合うようにハジメにくっ付く。

 

「か、香織………人前だと流石に………!」

 

そのハジメは恥ずかしいのか少し遠慮気味だ。

因みに、複数の男子生徒から嫉妬と侮蔑の視線を向ける。

その理由は言わずもがな香織である。

香織は、少し前まで学校の『二大女神』と呼ばれる程に人気がある女子生徒だった。

そんな香織をこれと言って特徴が無い、寧ろオタクというマイナスイメージを持つハジメと恋人になった事は、まさしく青天の霹靂だった。

その結果、香織は女神とは呼ばれなくなり、ハジメは嫉妬と侮蔑の視線を受けるようになった。

まあ、ハジメはともかく、香織はそんな事全く気にしてない、というか気付いて無いのだが。

そんな時、再び教室のドアが開いて新たに2人の生徒が入って来た。

その2人は男子と女子のペアだったのだが、腕を組んでいて、明らかに恋人同士だと分かる雰囲気を醸し出している。

男子生徒は神原 拓也。

この物語の主人公であり、かつてデジタルワールドを冒険し、輝二、輝一や他の仲間達と共にデジタルワールドどころか地球の危機すら救った、誰も知る事のない英雄の1人である。

現在高校2年生の青春真っ盛りで、入学直後でサッカー部のエースの座を勝ち取り、以後、不動のエースでレギュラーの、女子生徒からの憧れの的だ。

そんな拓也を射止めたのが、現在拓也と腕を組んでいる少女、園部 優花だ。

優花は高校に入学して少しした頃、ナンパ目的の男達から強姦されそうになった。

そこに現れたのが拓也であり、男達をあっという間に戦意喪失させ、優花を助けたのだ。

優花はそんな拓也に一目惚れし、立ち去ろうとする拓也を半ば強引に引き留め、お礼という名目で自分の家の洋食店に招待し、そこで自分の手料理を食べさせたのだ。

その結果、拓也自身が料理がズタボロな事も相まって、優花の料理に胃袋を掴まれ、優花の料理の練習という口実の元、度々手作り弁当を貰うようになった。

更に優花は、拓也が出場するサッカーの試合には必ず応援に駆け付け、練習の無い休日はデートに誘うという猛アタックを続けた。

夏休みは海やプールに誘い、学校のイベントでも拓也と行動できる班になり、冬にはクリスマスや初詣を経て、バレンタインデーに本命チョコを手渡す際に、正式に告白したのだ。

そして拓也はその告白を受け入れた。

まあ拓也も結構早いうちから優花に好意を持っていたらしく、優花から告白されなくとも、近いうちに拓也から告白していたという。

そんな2人が教室に入ってくると、ハジメ達の方に歩み寄っていき、

 

「おはよう皆!」

 

元気よく挨拶する拓也。

 

「おはよう拓也!」

 

「待ってたぜ!」

 

ハジメと幸利が待ちかねた様に拓也に挨拶を返す。

その理由は、

 

「早くあの物語の続きを聞かせてよ!」

 

ハジメが急かす様に言う。

 

「落ち着けって………! え~っと、先週は何処まで話したっけ?」

 

拓也は記憶を探ろうとするが、

 

「ベルグモンって奴を拓也と輝二で倒して、そのベルグモンが輝一だったって所からだよ!」

 

その前にハジメが答える。

そう、ハジメの最近の楽しみとは、拓也、輝二、輝一が語る物語である。

『スタートしますか? しませんか?』というメールが届くとこから始まり、Yesを押した拓也や輝二が指示されるままに渋谷駅の地下ホームに集まり、そこにあった謎の電車に乗り込むと、デジモン達が済むデジタルワールドという謎の世界に辿り着き、そこで手に入れた『スピリット』というもので拓也たち自身がデジモンに進化して敵と戦う、特撮ヒーローと異世界ファンタジーをミックスさせたような物語である。

実際の所、拓也達が体験した実際の過去話なのだが、ハジメや幸利、優花達は、3人が協力して作っている創作物語だと判断している。

それでも決してバカにしたりはせず、ハジメにとって内容も中々面白い上、拓也達が真剣に語るためについつい聞き入ってしまうのだ。

因みに幸利は、拓也がハジメに語っていた話に聞き耳を立てており、ついつい面白くなって話を聞くメンバーに入って来たのだ。

そうしてハジメと語るうちに、幸利もアニメや漫画が好きなオタクだと知り、今まで隠し続けて抑圧されていた幸利が吹っ切れた様にハジメとオタクトークを語り出し、最初根暗なイメージがあった頃と比べれば、随分と明るい表情をするようになっている。

そして今回語るのは輝一が輝二の双子の兄であり、輝二が死んだと聞かされていた実の母親が、離婚しただけで実際には生きていた事。

輝一は祖母の遺言で双子の弟がいると知り、暫く遠目に様子を窺っていて、母子家庭で苦労している母親と自分とは違い、父親と義理の母親、ペットまで居て一見幸せそうに見えた輝二に嫉妬と憎しみを募らせていた事。

そして、渋谷駅に向かう輝二を追い、エレベーターに乗った所で引き離され、階段で地下へ向かって駆け出していた時に足を滑らせて転倒。

意識を失った後にいつの間にかデジタルワールドに来ていた事が語られる。

輝二は輝一とどう接していいかわからず、輝一もまた闇に堕ちた自分に苦悩していた。

そこに突如現れる大ボスのケルビモン。

拓也達が立ち向かうも、強大な力の前に成す術が無い。

その時、輝一がケルビモンの前に立ちはだかる。

そこでケルビモンの口から語られる闇のスピリットの真実。

闇のスピリットに適合する為には、その心に深い闇を抱えていなければならないという。

そして、輝一はその深い闇を持っていたと告げられる。

輝二は認めてはいけないと叫ぶが、輝一はそれを認めた。

確かに自分の中には輝二を憎む気持ち、心の闇を持っていたと。

だが、闇に負けないと決意して叫び、輝二が輝一を兄さんと叫んだ時、奇跡が起きた。

闇のスピリットが真の姿を取り戻し、輝一のデジヴァイスが現れた。

輝一は真の闇のスピリットで新たなる闇の闘士、レーベモンとカイザーレオモンとなり、ケルビモンを倒す事に成功する。

しかし、そのケルビモンは唯の分身であり、本体は未だバラの明星に居る事を知る。

輝一は1人で向かおうとするが、拓也達も放っておくことはできず、共にバラの明星へ向かう事になる。

ここまで話して予鈴が近くなったので、切りが良い所で話を止める。

 

「やっと輝一が本格的に活躍してくれたね。今まで夫が活躍してないから、妻として不満だったんだよ」

 

そんな事を言う恵理。

その時、

 

「まったく…………そんな作り話を真面目に聞いてあげるなんて、本当に香織達は優しいな………」

 

そんな男子生徒の声が聞こえてきた。

その声に一同が振り向けば、そこに居たのはイケメンの男子生徒。

その少し後ろにはガタイの良い男子生徒と、申し訳なさそうにした黒髪ポニーテールの女子生徒が居た。

イケメン男子生徒は天之河 光輝。

成績優秀、スポーツ万能、更にイケメンという完璧超人高校生だ。

香織の幼馴染で、何かと付けてハジメに文句を行ってくる。

 

「おはよう、皆。いきなりごめんなさいね」

 

挨拶と共にいきなり謝った黒髪ポニーテールの女子生徒は八重樫 雫。

現在唯一の『学校の女神』と呼ばれる美少女であり、光輝の幼馴染で香織の親友。

尚、実家が八重樫道場という道場を開いており、光輝もそこの門下生だ。

そして、実は輝二もそこの門下生であり、昔から雫と交流があったりする。

 

「おっす! また例の話をしてたのか、お前達?」

 

気軽に声を掛けた大柄の男子生徒は坂上 龍太郎。

脳筋だが情に厚い男だ。

 

「おはよう。文句言う位なら声かけてくんなよ、光輝」

 

拓也挨拶を返すが、やや不満げにそう返す。

他のメンバーも挨拶を返すが、

 

「おはよう雫、龍太郎」

 

輝二がそう口を開く。

 

「おい輝二………! 何故2人にだけ挨拶をする……!?」

 

忌々し気に顔を顰めながら、光輝が輝二に問いかけた。

 

「俺は挨拶をしてくれた相手に挨拶を返しただけだ。お前からは挨拶をされていないから返さなかった。それだけだ」

 

淡々とそう返す輝二。

 

「お前………!」

 

光輝が輝二を睨み付けるが輝二は何処吹く風だ。

光輝と輝二。

2人は同じ八重樫道場の門下生である。

同じ頃に入門した同期であったが、光輝は積極的に周りと交流を持ち、すぐに門下生たちの中心となったが、当時の輝二は一匹狼で他の門下生と積極的に交流せず、1人で黙々と鍛錬に励む姿が印象的だった。

そんな道場の足並みを乱す輝二の事を光輝はよく思っておらず、度々衝突していた。

雫も同い年で何とか2人の仲を取り持とうと、輝二に話しかけていたが、当時の輝二は冷たくあしらうだけだった。

しかし、その輝二がある時を境に急に変わったのだ。

基本的にクールな性格は変わっていないものの、以前よりも明らかに口数が多くなり、他者を無下にあしらわなくなった。

それどころか、後輩の面倒も見る様になっている。

男子三日遭わざれば刮目して見よとは言うが、雫からしてみれば1日で急に人が変わった輝二を不思議に思ったりもした。

残念ながら、光輝とは元々反りが合わないようで、未だに衝突する事もあるが、それでも輝二の変化は喜ばしい変化だと言えた。

光輝はギリッと歯を食いしばると、落ち着くように息を吐き、

 

「香織、そろそろいいんじゃないか?」

 

香織にそう話しかけた。

 

「え? 何が?」

 

香織は光輝の言葉の意味が分からなかったのか、首を傾げる。

 

「ッ……だから、無理に彼らの話に付き合わなくてもいいんじゃないかって言ってるんだ」

 

言葉の意味が伝わらなかった事に、一瞬詰まりそうになるが、言葉の意味を正確に伝える。

 

「何言ってるの? 無理なんてしてないよ。拓也君達のお話も面白いし」

 

香織は不思議そうな表情を浮かべながらそう返す。

 

「えっ? ああ………全く、本当に香織は優しいな」

 

光輝の中では、本人達の前で話がつまらないというのは申し訳ないという理由で、話を面白いと言っているのだと解釈した。

 

「南雲………いい加減香織を振り回すのは止めてくれないか?」

 

視線を香織の隣にいるハジメに移し、そう言葉を投げた。

 

「………どういう意味かな? 天之河君」

 

ハジメは言葉の意味を何となく察しながらも、そう問い返す。

 

「ハッキリ言わなければ分からないか? 香織を恋人ごっこに付き合わせるのはもう止めろと言っているんだ………!」

 

「ちょっと光輝……!」

 

その言葉に、雫が口を挟もうとするが、

 

「雫は黙っててくれ! 君の事だ! どうせ香織の優しさに付け込んで、駄々を捏ねて仕方なく香織を付き合わせたんだろう……!? そんな関係は、香織に迷惑だ!」

 

そう言い切る光輝。

 

「「ッ………!」」

 

ハジメと香織が同時に顔を顰める。

特に香織は衝動的に光輝を引っ叩こうと、手に力が籠る。

 

「あっはっは! 滑稽滑稽!」

 

その直前に、大きな笑い声が響いた。

恵理の声だ。

思わず光輝がそちらを向く。

 

「何がおかしいんだい? 恵理………」

 

いきなり笑われた事に、光輝は眉を顰めながら恵理に問いかける。

 

「これが笑わずに居られるものかい。男の嫉妬は見苦しいとは言うけど、君のは見苦しいを超えて滑稽だよ!」

 

「な、何を言ってるんだ!? 俺は嫉妬なんて………!」

 

「香織が自分のヒロインだと勘違いしていて、何もせずに知らない内に別の男とくっ付いた。それを認められなくて必死に引き離そうとしている今の君の感情が、嫉妬でなくて何だというんだい?」

 

大袈裟に身振り手振りで表現しながら言葉にする。

 

「ち、違う! 俺は純粋に香織の事が心配で………!」

 

「本当にそう思っているのなら、君は滑稽を超えた、ただの道化だね。少なくとも、ボクの知る限り告白したのは香織の方だ。ハジメはその告白を受け入れただけ。君の言い分は通らない」

 

「そ、そんな筈はない……! 香織が南雲なんかに………!」

 

香織は、ハジメを『なんか』呼ばわりされた事にカチンと来たが、

 

「お前は、ハジメの何を知っているんだ?」

 

拓也が光輝を睨み付けながら言った。

 

「知っているさ! 南雲は授業中いつも眠そうにしていて居眠りする事だって珍しくない不真面目な生徒だ。それに、趣味だってゲームやアニメと言ったオタクと言われる人種だ。そんな南雲に香織が告白するなんてありえない!」

 

光輝はそう言い切るが、

 

「そんなの、ただの学校での一面じゃねえか」

 

幸利が呆れた様に言う。

 

「そんなハジメの一部を見ただけで全部を知った気になって、俺のダチを馬鹿にするんじゃねえよ!」

 

キッと光輝を睨み付ける幸利。

 

「幸利………」

 

ハジメは感動した様に呟く。

光輝は更に口を開こうとしたが、そこで予鈴が鳴る。

 

「そこまでよ光輝。時間だわ」

 

雫が割って入った。

 

「くっ………!」

 

光輝は悔しそうに引き下がる。

そのまま自分の席に向かう。

すると、

 

「ごめんなさい。香織、南雲君」

 

雫が頭を下げ、

 

「わりぃな2人とも。あいつ、未だに白崎と南雲が付き合ってることを受け入れられないみたいでな………」

 

龍太郎は謝罪の言葉を口にすると、仕方なさげに腕を胸の前で組みながら光輝の方に視線を移す。

 

「あ、うん………気にしないで」

 

「雫ちゃんや龍太郎君が悪い訳じゃないから」

 

ハジメと香織はそう言う。

2人はもう一度謝ると、自分達の席へ戻っていった。

 

 

 

 

始業のチャイムが鳴ると同時に、ハジメは仕事での寝不足も相まって夢の世界へ旅立つ。

運動はともかく、勉強があまり得意ではない拓也は四苦八苦しつつ、輝二と輝一はそつなく勉強を熟す。

やがて午前中の授業が終わり、昼休みになる。

起きるタイミングを身体が覚えているハジメは、タイミング良く目を覚ました。

そこへ、

 

「二度目のおはようだね、ハジメ君。今日もグッスリだったね」

 

ニコニコと笑みを浮かべた香織が声を掛けながら歩み寄る。

 

「ハジメ君の分のノートは取っておいたから、後で渡すね。はい、今日のお弁当!」

 

香織はそう言って自分が持っていた2つの弁当箱の内の1つを差し出す。

 

「あ、うん。いつもありがとう、香織」

 

「いいの! 私が好きでやってる事なんだから。ハジメ君もお仕事お疲れ様」

 

まるで新婚夫婦のような会話とも言えなくもない内容に、周りの男子からは嫉妬の視線が向けられる。

そこに、

 

「香織、南雲。よかったら一緒に如何かしら? それとも、2人きりの方が良かった?」

 

優花が2人に声を掛ける。

優花の後ろには拓也、輝二、輝一、恵理の姿があった。

因みに拓也の弁当は優花のお手製である。

 

「フフッ、良いよ一緒で。ね? ハジメ君」

 

「うん。話の続きも聞きたいしね」

 

和やかな友人同士の会話。

しかし、

 

「香織。こっちで一緒に食べよう。南雲はまだ寝足りないみたいだしさ。せっかくの香織の美味しい手料理を寝ぼけたまま食べるなんて俺が許さないよ?」

 

その間に割り込んでくる光輝。

ハジメはまた来たと言わんばかりに顔に手を当て、朝の会話から不機嫌な香織は顔を顰めた。

 

「…………何で光輝君の許しがいるの? このお弁当は私が()()()()()()()作って来たお弁当だよ。ハジメ君が食べるのは当然だし、ハジメ君以外に食べて欲しくない」

 

キッパリとそう言う香織。

元々突撃思考な香織だが、ハジメへの好意を自覚し、恋人同士になってからは自分の気持ちをハッキリと口に出す事に躊躇いは無い。

因みに光輝の後ろでは、光輝を止められなかった雫が申し訳なさそうにしている。

 

「もういっそ異世界召喚とかされてくれないかな? 天之河君」

 

ハジメが後ろで小さく愚痴る。

その直後、その光輝の足元に、輝く円環と幾何学模様が現れた。

俗にいう魔法陣らしきその模様は、徐々に大きさを増し、教室全体を満たす程に広がる。

 

「これはっ……!?」

 

「何だっ!?」

 

拓也や輝二も異変に声を上げる。

 

「皆! 教室から出て!」

 

まだ教室に残っていた社会科の担当教師である畑山 愛子が叫ぶが、その直後に爆発する様に輝きが教室を埋め尽くす。

 

「優花っ!」

 

「恵理っ!」

 

「香織っ!」

 

拓也、輝一、ハジメの3人は、自分の恋人を庇うように抱きしめた。

光に呑まれる生徒達。

やがて光が収まるが、教室の中に居た生徒の姿は1人も居なかった。

蹴倒された椅子に、食べかけのまま開かれた弁当、散乱する箸やペットボトル、教室の備品はそのままにそこにいた人間だけが姿を消していた。

翌日、現代の神隠し事件として、世間を騒がせることになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を開けられないほどに埋め尽くされた光が徐々に収まっていき、拓也ははゆっくりと目を開いた。

 

「……………無事か……? 優花」

 

「ッ………! 拓也………うん………」

 

拓也は抱きしめていた優花から身体を離すと、辺りを見渡す。

クラスメイト達は、光に包まれた時と同じ位置関係でそこに居た。

しかし、拓也達が居た場所は明らかに教室では無かった。

巨大な壁画が描かれた、広大な広間だ。

 

「ね、ねぇ拓也……………一体ここって…………?」

 

優花が不安そうに口を開く。

 

「分からない………」

 

拓也は警戒しながら辺りを見渡す。

すると、

 

「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」

 

煌びやかな衣装を纏った老人が進み出てきた。

異常事態に如何する事も出来ない一同は、イシュタルと名乗る老人に案内されるままに移動し、別の大広間に用意された長大なテーブルの席に座らせられる。

全員が着席すると、絶妙なタイミングでカートを押しながらメイド達が入ってきた。

不自然なほど美女、美少女が揃っている。

拓也は警戒する様にメイド達を観察していると、

 

「………あだっ!?」

 

「何見惚れてんの………!?」

 

優花から脇腹を抓られた。

どうやらメイド達に興味があると勘違いされた様だ。

 

「誤解だって………」

 

拓也は弁明する。

因みに輝二達数名を除いた他の男子達は、素で見惚れており、女子達から冷たい視線を投げかけられている。

 

全員に飲み物が行き渡るのを確認するとイシュタルが話し始めた。

 

「さて、あなた方においてはさぞ混乱していることでしょう。一から説明させて頂きますのでな、まずは私の話を最後までお聞き下され」

 

イシュタルは話し始める。

色々話していたが、要約すると、

➀この世界はトータスと呼ばれている。

➁トータスには大きく分けて人間族、魔人族、亜人族の3つの種族があり、人間族は北一帯、魔人族は南一帯を支配しており、亜人族は東の巨大な樹海の中でひっそりと生きている。

➂人間族と魔人族が何百年も戦争を続けている。

魔人族は、数は人間に及ばないものの個人の持つ力が大きいらしく、その力の差に人間族は数で対抗していた。

➃戦力は拮抗し大規模な戦争はここ数十年起きていなかったが、最近、魔人族が魔物を使役し始め、その拮抗が崩れ始めた

魔物とは、通常の野生動物が魔力を取り入れ変質した怪物の事。

今まで魔物を使役できる者はほとんど居らず、使役できてもせいぜい1、2匹程度だったが、魔人族は何らかの方法で大量の魔物を従える事に成功したらしい。

そして、

 

「あなた方を召喚したのは〝エヒト様〟です。我々人間族が崇める守護神、聖教教会の唯一神にして、この世界を創られた至上の神。おそらく、エヒト様は悟られたのでしょう。このままでは人間族は滅ぶと。それを回避するためにあなた方を喚ばれた。あなた方の世界はこの世界より上位にあり、例外なく強力な力を持っています。召喚が実行される少し前に、エヒト様から神託があったのですよ。あなた方という〝救い〟を送ると。あなた方には是非その力を発揮し、〝エヒト様〟の御意志の下、魔人族を打倒し我ら人間族を救って頂きたい」

 

そう語るイシュタルの顔は恍惚としていた。

拓也はその顔を見て、気持ちワリィと思っていたりする。

すると、

 

「ふざけないで下さい! 結局、この子達に戦争させようってことでしょ! そんなの許しません! ええ、先生は絶対に許しませんよ! 私達を早く帰して下さい! きっと、ご家族も心配しているはずです! あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」

 

そう叫んだのは、生徒達と共に召喚された社会科の担当教師の愛子。

本人は威厳ある教師を目指しているのだが、小学生と見間違わんばかりの背丈と、やる気はあっても空回る事が多く、周りをほっこりさせるため、『愛ちゃん』のあだ名で生徒達に親しまれている。

しかし、

 

「お気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です」

 

イシュタルのその言葉に愛子先生だけではなく周りの生徒達も凍り付いた。

 

「ふ、不可能って……ど、どういうことですか!? 喚べたのなら帰せるでしょう!?」

 

愛子はそう反論するが、

 

「先ほど言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意思次第ということですな」

 

「そ、そんな……」

 

愛子が脱力してストンと椅子に腰を落とす。

周りの生徒達も騒ぎ出した。

 

「うそだろ? 帰れないってなんだよ!」

 

「いやよ! なんでもいいから帰してよ!」

 

「戦争なんて冗談じゃねぇ! ふざけんなよ!」

 

「なんで、なんで、なんで……」

 

正にパニック状態だ。

 

「た、拓也………私達………帰れないの…………?」

 

不安で一杯の優花は、震えた声で拓也に縋る。

拓也はデジタルワールドの経験もあり、ある程度落ち着いていたが、初めて超常現象に巻き込まれた者達の不安は、並大抵では無いだろう。

その時だった。

バンッとテーブルを叩く音が響く。

その音にビクッとなり注目する生徒達。

テーブルを叩いた張本人、光輝は全員の注目が集まったのを確認するとおもむろに話し始めた。

 

「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放っておくなんて俺にはできない。それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。……イシュタルさん? どうですか?」

 

「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい」

 

「俺達には大きな力があるんですよね? ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」

 

「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」

 

「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!」

 

握り拳を作って宣言する光輝。

しかし、その言葉は不安になっていた生徒達には希望と捉えられたらしい。

 

「へっ、お前ならそう言うと思ったぜ。お前一人じゃ心配だからな……俺もやるぜ?」

 

「龍太郎……」

 

「今のところ、それしかないわよね……気に食わないけど……私もやるわ」

 

「雫……」

 

その言葉を皮切りに、生徒達が次々と光輝に賛成の意を示していく。

自分の意見に従ってくれた皆に嬉しさを感じる光輝。

ただ、その視線が香織に向くが、香織は不安そうにハジメに寄り添っているだけで何も言わなかったのを不満そうにしている。

愛子が反対するも流れを止めるには至らず、結局は全員が戦争に参加する流れになった。

 

 

 

 

拓也達は、召喚された聖教教会本山のある【神山】の麓にある【ハインリヒ王国】に受け入れられる形となる。

それから王族との謁見があった。

国王の名をエリヒド・S・B・ハイリヒ。

王妃がルルアリア。

王子はランデル。

王女はリリアーナという。

最初に国王がイシュタルの手に口付けしていた。

それは、国王よりも教皇の方が立場が上だという事の証明だ。

その後に、騎士団長や宰相等、高い地位にある者の紹介がされ、謁見は終了した。

 

 

 

その夜、宛がわれた客室の一室に、拓也、輝二、輝一が集まっていた。

 

「また変な事に巻き込まれたなぁ………今度は異世界召喚か」

 

拓也はそう言葉を零す。

彼らはハジメと仲が良いため、オタク知識もそれなりにはあり、こういう創作小説がある事も知っているし、暇潰しに読むこともあった。

すると、

 

「それにしても、拓也はよく安易に賛同しなかったな? お前の性格なら、あいつと同じように進んで協力すると言っても不思議じゃなかったんだが………」

 

輝一が意外だったと言わんばかりに拓也に言った。

 

「ん~、確かに最初は協力しようかとも考えてたんだけど、なんか話を聞いてたら、不思議と協力する気が失せて来てさ…………なんでかな? デジタルワールドの時は何とかしたいって思ったのに………」

 

拓也は自分でも不思議そうに首を傾けた。

 

「おそらく、イシュタルの言葉には『選択肢』が無かったからだろう」

 

輝二がそう言った。

 

「『選択肢』?」

 

拓也が首を傾げる。

 

「………オファニモンは、俺達に必ず『選択肢』を与えた。デジタルワールドに行く切っ掛けになったメールを始めとして、旅の最中のも目的の指針を示しはしたが、『選択』は俺達の手に委ねられた…………だが、イシュタルは言葉こそ丁寧だが、実際には『選択肢』は無く、魔人族と戦えと命令しているに等しい。拓也はそれを無意識に感じ取ったんだろう」

 

輝二はそう言う。

 

「そう言われれば確かに………」

 

拓也は納得した様に頷く。

すると、

 

「それで、結局どうするんだ?」

 

拓也は2人に訊ねる。

 

「正直に言えば、俺はこの世界の為に戦うつもりはない。勝手に呼び出してこの世界の為に戦えなんてムシのいい話を押し付けてくる相手の為に、命を懸ける筋合いは無い」

 

輝二はそう答える。

 

「俺も同じ意見だ。だが、懸念もある」

 

輝一がそう言った。

 

「懸念?」

 

拓也が聞き返すと、

 

「この世界………少なくともこの国では、国王よりも教皇の方が立場が上だった………つまり、宗教の影響を諸に受けている事になる。そして俺達は、神によって召喚されたとも言っていた。だから、下手に戦う事を拒否しても、反逆者として処罰されるかもしれない」

 

「なんだそりゃ?」

 

拓也は理解不能だと顔を顰める。

 

「だからしばらくは従う振りをして戦う力とこの世界の情報を手に入れた方が良いと思う。丁度明日から戦闘訓練も始まるみたいだしな」

 

輝一がそう提案した。

 

「そうだな。確かに俺達はこの世界の事を何も知らない。まずは情報収集が先決だろう」

 

輝二もその提案に賛成の意を示す。

 

「よし! じゃあしばらくは戦闘訓練と情報収集に力を入れよう!」

 

拓也がそう締めた。

こうして、波乱の一日が幕を閉じる。

同時に、異世界での拓也達の新たなる戦いが始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

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