ありふれたフロンティアへ   作:友(ユウ)

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第22話 緊急依頼! アンカジ公国の危機!

 

 

 

拓也達が去った後の数日後の事……………

 

「畜生……! 何で俺がこんな所に閉じ込められなきゃいけねえんだ…………!」

 

悪態を吐く檜山。

現在檜山が居る場所は、薄暗い石造りの部屋に申し訳程度の窓がついた狭い部屋。

更に、部屋の四方の壁の内、正面の一面には鉄格子が掛けられ唯一ある窓にも鉄格子が掛けられ、外に出られない様になっている。

そう、ここはハイリヒ王国の王宮にある地下牢だ。

ホルアドから戻って来た直後、檜山はメルドの判断でこの牢獄に入れられた。

武器は取り上げられ、囚人服に着替えさせられた後、鋼鉄の手錠と鉄球付きの足枷を嵌められ、拘束した上での投獄だ。

仮にもチート持ちの生徒なので、この位しなければ丸腰でも逃げられる可能性があるからだ。

当然、その行為に光輝は反論の声を上げたが、

 

「これ以上南雲 ハジメや拓也達の心象を悪くするわけにはいかん!」

 

メルドはそう言って光輝と取り合おうとしなかった。

メルドは、今現在王国の存亡がかかった瀬戸際だと考えていた。

ハジメや拓也達の戦闘力は、騎士全軍でかかっても………

いや、光輝達を含めた持てる限りの戦力をつぎ込んだとしても、片手間で殲滅させられる。

そう確信していた。

現状、拓也達の王国に対する印象は、メルドの見立てでは『興味が無い』と言った所。

味方にはなってくれないが、『敵にはならない』。

ここが重要だった。

王国が『敵』に認定されてしまえば間違いなく滅ぶ。

そう確信していたメルドは、これ以上拓也達の心象を悪くしない為にはどうすればいいかを考え、まずその手始めとして、拓也達を橋から落とした犯人である檜山を投獄したのだ。

これだけで心象が良くなるとは思わないが、檜山を野放しにしておくよりは悪くならないだろうとの判断だ。

投獄されてからの数日間、檜山は暫く喚き続けていたが、やがて疲れたのか質の悪いベッドに横になって膝を抱え込んでいた。

 

「畜生………白崎はともかく、何で南雲や神原まで生きてるんだ………!? あいつらの所為で俺はこんな所に…………!」

 

他の生徒達は、クラスメイトが死んだことを思い出さないように無意識に檜山に対する追及を避けてきた。

そのお陰で、檜山は積極的に淘汰される事は無かったし、勇者パーティーと共に行動できていた。

まあ、勇者パーティーと行動していたのは、自分を庇ってくれる光輝が居る事と、王宮で何もしていない生徒達に対する優位性を保つ為だが。

漸く自分の罪を忘れられると思っていた矢先に拓也やハジメ達が生きて戻って来てしまった。

それも、思い切り檜山を非難する言葉まで残して。

その所為で再び檜山の罪が追及される事になってしまった。

 

「くそ………! くそ………! あいつらの所為で…………………! そうだ、あいつらが悪いんだ………! 俺は悪くない……………!」

 

檜山はこの数日間の牢獄生活でも、反省も後悔もしていなかった。

ただただ拓也とハジメ達への逆恨みを募らせていただけだ。

 

 

 

 

「畜生………畜生…………!」

 

夜になり、ボロキレ同然の毛布に包まりながら夜の寒さで震える檜山。

 

「畜生………あいつら…………絶対に殺してやる…………!」

 

一向に自分の罪を認めようとせず、見当違いの憎しみを募らせていく檜山。

すると、

 

「くくく…………随分と荒れているな…………?」

 

突然薄ら笑いと共にそんな声が聞こえた。

 

「ッ!?」

 

檜山は飛び起きて辺りを確認する。

しかし、窓から差し込む僅かな月明かりで僅かに見える牢屋の中にも外にも人影は見当たらない。

 

「だ、誰だ!?」

 

檜山は叫ぶ。

すると、檜山が入れられている牢屋の中央辺りから、ぬうっ、と床を通り抜けて、以前見たファントモンが現れた。

 

「ヒッ!? お、お前は……………!?」

 

檜山の脳裏には、魔人族の女を一突きにした時の光景がありありと蘇っていた。

腰を抜かしながら後退り、壁にドンッと背中を打ち付ける。

 

「だ、誰かっ!?」

 

檜山はいるであろう見張りに気付いてもらう為、声を張り上げる。

 

「悪いが見張りには少々眠って貰った。邪魔をされると面倒なのでな………」

 

そう語るファントモンの言う通り、見張りの兵士は全員座り込んだり床に倒れたりして意識を失っていた。

 

「ヒィッ!? お、俺を殺しに来たのか!?」

 

檜山は壁沿いに後退りつつ、部屋の角まで追いつめられる。

すると、ファントモンはフードの奥の闇で見えない顔を檜山に近付け、

 

「安心しろ。私はお前の味方だ」

 

そう囁いた。

 

「ヒ……………?」

 

その言葉に檜山は素っ頓狂な声を漏らす。

 

「お前に悪くない取引がある。私達に協力しろ。そうすればお前の欲しいものが手に入る」

 

「欲しい………モノ…………?」

 

ファントモンの囁きに、檜山が反応する。

 

「ああそうだ。人間の男は、人間の女を欲するのだろう? 私達に協力すれば、いくらでも女が手に入るぞ………?」

 

「…………………」

 

檜山は一瞬黙り込む。

檜山の脳裏に一番に浮かび上がってきたのは香織。

そして学校の女神とも称えられている雫や、拓也の恋人の優花の姿も浮かび上がる。

 

「……………ほ、本当か……………?」

 

そう聞き返した檜山の反応に、ファントモンは目を細めてニヤリと笑う。

 

「ああ本当だ。どの様な者も、お前に従うようになる。そのような手駒をお前に与えよう………ついでに戦力としても一級品だ。お前を見下してきた奴らを見返す事も可能だぞ?」

 

その言葉に、ハジメや拓也、更には光輝の姿まで思い浮かぶ。

ここ数日の牢獄生活で精神が疲弊していた檜山に、その悪魔の誘惑を跳ねのける事など出来はしなかった。

 

「わ、分かった………! 協力する!」

 

檜山がそう返事をすると、ファントモンは満足そうに頷き、

 

「ならばもう少し辛抱しろ。時が来たら迎えに来る」

 

ファントモンがそう言うと、現れた時の様に床を通り抜けてその場から居なくなった。

檜山はファントモンが居なくなったことを確認すると、よろよろと起き上がってベッドに倒れると、

 

「ヒ………ヒヒッ………!」

 

歪んだ笑みを浮かべた笑い声が、牢獄の闇に響くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

延々と砂地と灼熱の日光が降り注ぐトータス有数の大砂漠、『グリューエン大砂漠』。

その砂漠を魔力駆動四輪が砂煙を上げながら爆走していた。

輝一、恵理、雫を仲間に加え、更に大所帯となった一行に対応するため、魔力駆動四輪は大型化されていた。

そんな時、

 

「…………改めて南雲君の事を凄いと思うわ」

 

雫が窓の外を眺めながら唐突に呟いた。

 

「えっ? いきなりどうしたの八重樫さん?」

 

運転するハジメは不思議そうに聞き返すと、

 

「最初は〝無能〟と言われていた南雲君が、ここまで強くなった事も、こんな自動車や銃まで作り出せるようになったことに感心してるのよ」

 

「まあ、半分位成り行きだけど…………」

 

ハジメはそう答える。

 

「このプリーゼにしてもそう。この窓の外は灼熱地獄の筈なのに、この中は快適に保たれてるし」

 

「エアコン完備は最近の車じゃ基本だよ」

 

「この異世界でそれを再現しちゃうところが凄いんだけどね」

 

雫は苦笑する。

その雫は、黒塗りの鞘に収まった刀を抱えていた。

これはハジメが試作として作った武器の1つで銘は無く、雫が単純に『黒刀』と名付けた刀だ。

本来は魔力操作が出来るハジメが作った物の為、魔法陣は刻まれていなかったが、魔力操作を持たない雫の為に、ハジメは新たに魔法陣を刻み込んだ。

その時、窓の外に影が過る。

それは、砂地を疾走するガルムモンと、魔力駆動四輪の上空を飛ぶヴリトラモンだ。

この2体は周辺の警戒の為に外に出ている。

 

「にしても、彼らはこんな環境で良く平気だねぇ………」

 

雫の後ろの席で窓からヴリトラモン達を眺める恵理がぼやいた。

 

「心配する必要は無いハラ。この砂漠は『火』と『光』の力に溢れておる。『火』の属性を持つヴリトラモンや『光』の属性のガルムモンなら、この環境はむしろパワーが増すんじゃマキ!」

 

ボコモンがそう説明する。

 

「へぇ? 興味深いね。どういうことだい?」

 

恵理がそう聞くと、

 

「デジモン………その中でも特に十闘士は、フィールドの属性に強く影響されるんじゃマキ」

 

「フィールドの属性?」

 

優花が不思議そうに呟く。

 

「うむ。例えばアグニモンやヴリトラモンは『火』の属性………即ち、こういった灼熱の大地や火山などの『火』の力に溢れた場所………後は『火』と相性の良い『風』のフィールドでも力を増すんじゃハラ。しかし、逆に『水』や『氷』のフィールドでは相性が悪く、力が半減してしまうんじゃマキ」

 

「ってことは、この砂漠の大地じゃ水や影が殆ど無いから、僕の受け継いだ『水』のスピリットや、輝一の『闇』のスピリットじゃ、相性が悪いって事だね」

 

「そういうことじゃマキ」

 

恵理の言葉にボコモンが頷く。

すると、

 

「あれ? あそこに何か居るよ~?」

 

ネーモンが何かに気付いた様に指を指した。

その方向には巨大な細長い蠢くものが10本ほど、何かを取り囲む様に並んでいた。

 

「あれはサンドワームじゃ。このグリューエン大砂漠に居てもおかしくない魔物じゃが………はて? 様子が何やらおかしいの。まるで獲物を前に食うか食わざるべきか迷って居る様に見える………」

 

ティオがやや怪訝そうな表情でそう呟いた。

 

「それが何かおかしいのか?」

 

幸利が問いかけると、

 

「奴らは基本悪食じゃ。獲物を前に戸惑ったりはせぬ筈じゃが…………」

 

ティオがそう呟いた瞬間、

 

「ッ!? 掴まって!!」

 

ハジメが突如叫んでハンドルを切った。

その瞬間、先程まで車が走っていた場所の真下からサンドワームが飛び出してきた。

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 

その事に全員が驚く。

 

「あそこの奴らとは別の奴か!?」

 

輝一が叫ぶ。

更に2匹が追加で現れた。

合計3匹のサンドワームが口をぐぱぁっと広げながらハジメ達の車に襲い掛かろうとする。

だが、

 

「コロナブラスター!!」

 

ヴリトラモンが放った無数の熱線により、2匹が撃ち砕かれ、

 

「ソーラーレーザー!!」

 

ガルムモンが口から放ったビームが残り1匹を消し飛ばした。

 

「おぉ………あのサンドワームを瞬殺とは………流石はご主人様達じゃのう………」

 

ティオが感心した声を漏らす。

だが、

 

「あの~、あそこの奴ら、こっち見てますけど………ヤバくありません?」

 

シアが不安そうにそう言った。

シアの言う通り、先程固まって何かを取り囲んでいた10匹ほどのサンドワームの頭がこちらを向いていた。

 

「さっきよりかなり数が多いね………」

 

香織もそう言うが、

 

「そういえば、何気に使うのは初めてだね」

 

ハジメがそう言ってプリーゼに魔力を流すとボンネット部分が変形し、何かがせり上がって来た。

それが更に形を変え、細長く伸長する。

その形は、シュラーゲンに似ていた。

 

「おおっ! 隠し武装か! カッコいいじゃねえかハジメ!」

 

幸利が興奮した様に叫んだ。

 

「こんな事もあろうかと! ってね!」

 

ハジメがそう叫ぶと同時に弾丸が無数に発射され、瞬く間にサンドワーム全てを撃ち砕いた。

 

「さすがハジメ………」

 

ユエが褒め称える。

 

「………やっぱり南雲君ってすごいと思うわ」

 

自分だったらもっと苦戦するか、下手すれば負けると判断できる相手を瞬く間に殲滅したことに、雫は感心半分、呆れ半分の声を漏らした。

 

 

 

 

 

サンドワームが襲うかどうか迷っていたのは人だった。

エジプトの民族衣装に似た白い服を身に纏った20代半ばぐらいの男だ。

苦しそうに歪められた顔には大量の汗が浮かび、呼吸は荒く、脈も早い。

服越しでもわかるほど全身から高熱を発している。

しかも、まるで内部から強烈な圧力でもかかっているかのように血管が浮き出ており、目や鼻といった粘膜から出血もしている。

治癒師である香織が慌てて状態を診察する魔法を行使する。

すると、

 

「……魔力暴走? 摂取した毒物で体内の魔力が暴走しているの?」

 

「香織? 何がわかったの?」

 

「う、うん。これなんだけど……」

 

香織が少し困惑しながらステータスプレートに表示された結果を見せる。

 

 

 

 

状態:魔力の過剰活性 体外への排出不可

 

症状:発熱 意識混濁 全身の疼痛 毛細血管の破裂とそれに伴う出血

 

原因:体内の水分に異常あり 

 

 

 

 

「おそらくだけど、何かよくない飲み物を摂取して、それが原因で魔力暴走状態になっているみたい……」

 

それでサンドワームが食うか食わざるべきか迷っていたようだ。

一行が通り掛かったことも含めて、この男の運が良かったと言えよう。

 

「しかも、外に排出できないから、内側から強制的に活性化・圧迫させられて、肉体が付いてこれてない……このままじゃ、内蔵や血管が破裂しちゃう。出血多量や衰弱死の可能性も……。〝万天〟」

 

香織は状態異常を解除する魔法を唱える。

 

「……効果が薄い……どうして? 浄化しきれないなんて……それほど溶け込んでいるということ?」

 

「治せないの?」

 

ハジメがそう聞くと、

 

「治せないことは無いと思う。魔力をほぼ全て使い切れば………だけど」

 

「今の白崎さんがそこまでしないと治せないって………この世界の治癒師じゃどうにもならないって事じゃ………」

 

幸利が戦慄を感じる。

 

「……………今は応急処置だけしておくね。〝廻聖〟」

 

光系の上級回復魔法〝廻聖〟。

一定範囲内の魔力を他者へ譲渡する魔法だ。

主に自分の魔力を他者へ分け与えることが多いが、逆に他者の魔力を自分や第三者に与えることも可能。

しかし、その場合は効率がかなり悪くなる。

とは言え、香織のレベルにもなれば、一般人の魔力など余裕で吸い尽くせるが。

香織はその魔法を利用して過剰魔力分を吸いだし、自分の指にある神結晶の指輪に魔力を溜めておく。

それは効果があったようで、男の呼吸も安定した。

 

「とりあえず今は大丈夫。だけど、根本的な治療は出来てないからまたその内症状が出てくると思う」

 

「この世界の病気にはあまり詳しくないけど、ユエやティオは何か知らないかな?」

 

香織がこの世界の年長者であるユエとティオに問いかける。

だが、2人とも覚えが無いのか首を傾げたり、首を横に振るだけだ。

 

「香織、念のため僕達も診察して。未知の病なら空気感染の可能性もあるし。魔力暴走ならミュウの心配は無用だと思うけど」

 

「うん、そうだね」

 

ハジメの言葉で香織は全員を診察したが、異常は見当たらなかった。

その事に一先ずホッとしていると、先程の男が目を覚ました。

 

「………う」

 

「あっ、大丈夫ですか?」

 

香織が心配そうに声を掛けると、その男は香織をボーっと見つめた後、

 

「………女神? そうか、ここはあの世か……」

 

香織に見惚れた様にそう言った。

そのまま香織に熱っぽい視線を向け、香織に触れようと手を伸ばし始めたので、ハジメは咄嗟にその手を掴んで止めた。

 

「起き抜けに見ず知らずの女性の顔に触れようとするのは如何かと思いますよ?」

 

ハジメにそう言われ、その男は自分の手を確認する様に見つめ、

 

「………ッ!? い、生きてる……? もはやこれまでかと思ったが………! まだ神は、私を見放していなかったらしい………!」

 

ハッとなって自分が生きている事に気付いた。

それから、脱水症状の危険もあるのでその人物を車内へ招き入れる。

 

「まず、助けてくれた事に礼を言う。本当にありがとう。あのまま死んでいたらと思うと……アンカジまで終わってしまうところだった。私の名は、ビィズ・フォウワード・ゼンゲン。アンカジ公国の領主ランズィ・フォウワード・ゼンゲン公の息子だ」

 

ビィズ曰く、四日前、アンカジにおいて原因不明の高熱を発し倒れる人が続出した。

それは本当に突然のことで、初日だけで人口二十七万人のうち三千人近くが意識不明に陥り、症状を訴える人が二万人に上ったという。

直ぐに医療院は飽和状態となり、公共施設を全開放して医療関係者も総出で治療と原因究明に当たったが、進行を遅らせることは何とか出来ても完治させる事は出来なかった。

処置を受けられなかった人々の中から死者が出始め、発症してから僅か二日で死亡するという事実に絶望が立ち込める。

そんな中、一人の薬師が飲み水に〝液体鑑定〟をかけた結果、その水には魔力の暴走を促す毒素が含まれていることがわかった。

直ぐにアンカジのオアシスが調べられたのだが、やはりオアシスそのものが汚染されていたらしい。

砂漠地帯においてオアシスはまさしく生命線であり、それが汚染されたとなればあっという間に人々は干からびてしまうだろう。

故にどうしようもなくなって汚染された水を飲み、感染してしまうという悪循環が発生する。

ただ、唯一患者を救える方法も見つかっており、〝静因石〟と呼ばれる鉱石を必要とする方法で、この鉱石はその名の通り魔力の活性を鎮める効果を持っており、それを粉末状にして飲めば体内の魔力を鎮めることが出来るだろうという事だ。

ただ、その〝静因石〟は希少な鉱石で、砂漠のずっと北方にある岩石地帯か【グリューエン大火山】で少量採取しか採取できないらしい。

しかし、北方の岩石地帯は遠すぎて往復に少なくとも一ヶ月以上はかかってしまい、アンカジの冒険者、特に【グリューエン大火山】の迷宮に入って〝静因石〟を採取し戻ってこられる程の者は既に病に倒れてしまっている。

仮にそれだけの実力者がいても、どちらにしろ安全な水のストックが圧倒的に足りない以上、王国への救援要請は必要だった。

本来、アンカジの現状を調査するための調査員が派遣されたり、面倒な手続きがあったりするのだが、そんな事を悠長に待っていられない為、強権を発動できるゼンゲン公か、その代理たるビィズが直接救援要請をする必要があった。

ビィズの家族も全員が感染していて、〝静因石〟を飲んで命の危機は脱したものの、衰弱が激しくとても王国に赴く事など出来そうになかった。

それでビィズが救援を呼ぶためアンカジを出たのだが、ビィズもすでに感染しており、アンカジを出て一日経ったつい先ほど症状が現れて倒れてしまったそうだ。

その際に護衛も居たそうだが皆サンドワームにやられてしまい、残ったビィズは逆に感染していた事でサンドワームを躊躇させ命が助かった。

説明を一通り終えると、ビィズは衰弱した身体を必死に動かし、

 

「……君達に、いや、貴殿達にアンカジ公国領主代理として正式に依頼したい。どうか、私に力を貸して欲しい」

 

そう言って深く頭を下げた。

 

「そうですね。もともとグリューエン大火山が目的ですし、大勢の人間の命の危機を見て見ぬ振りをするわけにもいきません」

 

「おおっ! それでは…………!」

 

「その依頼を受けましょう」

 

「感謝する………!!」

 

ビィズは感極まった様に涙を流すと、

 

「流石パパなの!」

 

ミュウが嬉しそうにそう言った。

その後、すぐに気を取り直すと、

 

「ハジメ殿が〝金〟クラスなら、このまま大火山から〝静因石〟を採取してきてもらいたいのだが、水の確保のために王都へ行く必要もある。この移動型のアーティファクトは、ハジメ殿以外にも扱えるのだろうか?」

 

「ボコモン、ネーモンとミュウ以外は扱えるけど……わざわざ王都まで行かなくても水の確保はどうにか出来るだろうから、一先ずアンカジに向かおうと思ってる」

 

「どうにか出来る? それはどういうことだ?」

 

怪訝そうに聞くビィズに内容を説明しながら、俺達はアンカジへと向かった。

 

 

 

 

 

 

アンカジの入場門は高台にあり、そこから街が見渡せるようになっている。

アンカジの建物は乳白色で彩られており、美しい都だ。

しかし、都は美しくても人々の活気は全く無く、建物の扉は固く閉じられており、人通りは殆どない。

ビィズは活気ある街を見せたかったと残念そうにそう言っていたが、今は一先ず問題の解決が先だという事で宮殿へ向かうことになった。

アンカジを出て一日で戻ってきたビィズに領主であるランズィは大層驚いていたが、そのランズィも衰弱している筈なのに執務室で気合いと根性で仕事に励んでいたので、よほどの人格者らしい。

ビィズがランズィに事のあらましを説明し、トントン拍子で話が進んだ後、問題の解決に乗り出すことになった。

 

「じゃあ、動こうか。香織は何人か連れて医療院と患者が収容されている施設へ。魔晶石も持っていくといいよ。僕達は、水の確保とオアシスの調査だ。領主、最低でも200m四方の開けた場所はありますか?」

 

「む? うむ、農業地帯に行けばいくらでもあるが……」

 

「なら、そこだね」

 

 

 

 

 

領主であるランズィに案内され、農業地帯に来ると、まずユエが前に出る。

 

「〝壊劫〟」

 

重力魔法を唱え、200m四方の大地を一気に深さ10m程まで陥没させた。

その光景にランズィ達は顎が外れるほどに口をあんぐりと開けていた。

 

「凄いな………ユエも。こんな事が出来るのはデジモンの中でも完全体以上だぞ………!」

 

輝一が巻き起こった砂煙から顔を庇いながら、目の前で起こった光景にそう漏らす。

しかし、ユエは魔力を使い果たしてその場でふら付き、倒れようとした所をハジメに支えられた。

するとユエはハジメの首筋に噛みつき、吸血を始める。

消耗した魔力を回復させるためだ。

すると、ユエは立ち上がって今度は水魔法を唱えようとした。

しかし、魔力が回復したとしてもまだ息は荒い。

 

「ユエ、そんなに無理しなくても、もう少し休んでからでも………」

 

ハジメは心配そうにそう声を掛ける。

 

「大丈夫………」

 

ユエはそう言うが、明らかに消耗が見える事にハジメは気が気でない。

その時、

 

「ちょーーーっと待ったぁ!」

 

突然待ったが掛かった。

そう叫んだのは恵理だ。

 

「恵理?」

 

輝一が怪訝な声を漏らすと、

 

「ここは『水』のスピリットを受け継いだ僕に任せて貰おうか!」

 

ドンと言わんばかりに胸に手を当て、堂々とした態度でそう言う恵理。

恵理は前に出ると、

 

「僕は臆病だからね。緊急時以外でぶっつけ本番で新しい力を試すなんて真似はしたくないのさ。今回の事は丁度いいから僕に譲ってもらうよ!」

 

恵理はそう言う。

輝一が苦笑し、

 

「口ではああ言ってるけど、本当は恵理もユエの事を心配してるんだよ」

 

ユエにコソッと耳打ちする。

 

「ん…………じゃあ任せる」

 

ユエはそう言ってハジメに身体を預けた。

すると、恵理はデジヴァイスを取り出すと、前に突き出した。

デジヴァイスの画面に光が走り、それぞれに『水』のスピリットの形が描かれる。

前に突き出した恵理の左手に、デジコードの輪が発生した。

そのデジコードの輪に、右手に持ったデジヴァイスの先をなぞる様に滑らせる。

 

「スピリット……! エボリューション!!」

 

恵理がデジコードに包まれる。

デジコードの中では、恵理がスピリットを纏っていく。

顔に。

腕に。

体に。

足に。

恵理の身体にスピリットが合わさる。

そして、そのデジコードが消えたとき、『水』の闘士が誕生した。

 

「ラーナモン!!」

 

所々にヒレのある、水色の少女の姿をしたラーナモンとなってその場に現れた恵理。

 

「あれこそ、伝説の十闘士の1人、『水』のラーナモンじゃマキ!」

 

ボコモンが叫ぶ。

 

「これが『進化』か…………悪くないね…………」

 

進化した自分の身体を見つめて、更に手を握ったり開いたりして感触を確かめるラーナモン。

 

「不思議な感じだね………どうすればいいのか最初から分かっていた気がする………」

 

そう言いながらラーナモンは右手を頭上へ掲げると、10m程上空に暗雲が生み出される。

その手を前に突き出すと、その雲がユエが作った陥没した大地の中央辺りに移動し、

 

「レインストリーム!」

 

その雲から大量の水が滝の様に溢れ出し、窪んだ大地を水で満たしていく。

瞬く間に窪みは水で満たされ、立派な貯水池となった。

 

「こんな所かな」

 

ラーナモンは得意げにそう言うと貯水池に背を向けた。

ランズィ達は、相も変わらずしばらく唖然としていた。

 

 

 

 

 

 

次に向かったのはオアシスだ。

オアシスは、キラキラと光を反射して美しく輝いており、とても毒素を含んでいるようには見えなかった。

ハジメは魔眼石を使ってオアシスの様子を眺めていたが、

 

「ん?」

 

何かに気付いた様に声を漏らした。

 

「領主様、一つお尋ねしますが、オアシスの底には何かアーティファクトでも沈めているんですか?」

 

ハジメがランズィにそう問いかける。

 

「いや? オアシスの警備と管理に、とあるアーティファクトが使われているが、それは地上に設置してある……結界系のアーティファクトでな、オアシス全体を汚染されるなどありえん事だ。事実、今までオアシスが汚染されたことなど一度もなかったのだ」

 

「何か見つけたのか?」

 

輝一が聞くと、

 

「うん………このオアシスの底に妙な魔力反応がね………」

 

ハジメがそう言う。

 

「領主様。もう1つお尋ねしますが、爆弾………爆発するアーティファクトを投げ込むって言うのはアリですか?」

 

「爆はっ………!? い、いや………こちらから解決をお願いしている身で恐縮なのだが、可能な限り周辺施設や生態系を破壊するような事は避けて貰いたいというのが本音なのだが…………」

 

「そうですか………じゃあ、それは最終手段ですね」

 

ハジメが考えていた案の1つは後回しにする事にして、ハジメは次の案を考え始めた。

すると、

 

「要はこのオアシスの底に居る奴を引っ張り出せばいいんだろう?」

 

ラーナモンに進化したままの恵理がそう言うと、

 

「そんなの簡単じゃないか」

 

そう言ってラーナモンは水辺に向かって歩き出し、水の上に逆立つ波と共に立った。

 

「やっぱり、このオアシスも『水』のフィールドだね。さっきよりもずっと力が感じられるよ」

 

ラーナモンはそう言うと、フィンガースナップを打ち鳴らした。

その瞬間、オアシスの水面が波打ち、凄まじい水柱と共に何かが打ち上がった。

空中に打ち上げられたものは、巨大なスライムのような魔物だ。

 

「な、何だあれは………? バチェラム……なのか?」

 

スライムのような魔物を見て、そう漏らすランズィ。

しかし、

 

「気持ち悪い魔物だね。悪いけど、早々に消えて貰うよ! ジェラシーレイン!!」

 

打ち上げられた魔物の周囲に黒い霧のようなものが発生する。

本来は酸性の雨を降らせて広範囲を溶かす技だが、雲の状態で相手を溶かす事も可能な技だ。

酸性の雲に覆われた魔物は、見る見るうちに溶かされ、形を保てなくなり、露になった魔石を溶かし尽くした。

残った体液がオアシスに降り注ごうとしたが、

 

「この体液は身体に悪そうだからね……!」

 

ラーナモンは水を操って魔物の体液を水で包むと、

 

「飛んでけーーーーー!」

 

それを砂漠の方へ飛ばした。

 

「これで良しっと!」

 

ラーナモンは満足そうに頷いた。

それを見て一番驚いたのは、

 

「な、何か前のラーナモンより強くない?」

 

目を丸くして唖然としていたネーモンだ。

デジタルワールドの冒険の時に敵として出会ったラーナモンも強敵ではあったが、ここまで圧倒的では無かった筈、とネーモンは驚いていた。

 

「それはおそらく、恵理はんの影響じゃハラ……!」

 

ボコモンがそう判断する。

 

「如何いう事?」

 

ネーモンが聞き返すと、

 

「以前のラーナモンは確かに強敵じゃったマキ。しかし、その性格から調子に乗り易く、こちらを見下し、それが油断となって詰めが甘い部分があったんじゃハラ。そのお陰でこっちが助かった時もあったマキ。じゃが、今のラーナモンは恵理はんの影響を強く受けておる。恵理はんには、油断も傲りも慢心も無い。言い方は悪いかもしれんが容赦がないんじゃハラ。圧倒的な水の力で全てを押し流す……! もしも今のラーナモンが以前の冒険で敵として立ちはだかっとったとしたら、もしかしたら拓也はん達でも負けとったかもしれんじゃマキ………!」

 

頼もしさと同時に戦慄も感じる。

水柱の上に悠々と立つラーナモンも見て、ボコモンはそう思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

次回予告

 

 

 

静因石を得る為グリューエン大火山に向かった拓也達。

アグニモン達の力もあり順調に迷宮を攻略していく。

しかし、その迷宮の奥で待ち構える者がいた!

 

 

次回、ありふれたフロンティアへ

 

 

第23話 魔人族の神の使徒! フリード現る!

 

 

今、ありふれた伝説が進化する。

 

 

 

 

 







はい、第22話です。
冒頭から何か怪し気な雰囲気ですがはたして………?
打って変わってアンカジですが、思ったよりもラーナモンが大活躍。
副題ミスったな。
次回はグリューエン大火山の迷宮攻略です。
アグニモン無双になりそうな………?
お楽しみに。

『鋼』のスピリットの形態はどうする?

  • メルキューレモン、セフィロトモンのまま
  • 既存の別デジモンを引っ張って来る
  • オリジナルデジモンで!
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